女剣士と女勇者が出会うまでのお話   作:____―--

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VII

地下世界の深く、私達は悪臭を放つ腐敗した巨大な四本足の獣、『ロッテンデシメーター』と戦っていた。獣の白い瞳は濁りきり、肉体からは腐った肉が垂れ下がっている。地下世界は光る植物が無い限り真っ暗だけど、私が放った魔法玉が天井に張り付き辺りを照らしてくれる。

 

「酷い臭いだな……。お嬢さん、どうにか浄化できるか?」

「うん、やってみるよ」

 

剣を握りしめながら浄化を発動すると、私の手から放たれた光が広い空間を包み込んだ。デシメーターは眩しかったのか、悲鳴をあげて暴れ出す。

 

「臭いはちょっと良くなったけど、あの獣を仕留めない限り安心できないね……」

「じゃあ、力仕事はわしらの仕事じゃ!」

 

エリオットとドランがデシメーターの前に立ちふさがり、武器を構えた。

 

「僕達が引き付け、その隙にシンシアは魔力を溜めてください!」

「わかった!」

 

二人はデシメーターに向かって走り出し、エリオットは盾を構えながら突進する。ドランも大きな斧を振り回しながらデシメーターの顔目掛けて攻撃を始めた。

私は二人の戦いを見ながら瞑想し剣を握る手に力がこもっていく。三秒で十分溜まるはず。

 

デシメーターは咆哮を上げた後、大きな口を開けて噛みつこうとした時にセリーナが飛び上がって、光の矢を獣の目に向けて放つ。

 

「邪魔はさせないよ!」

 

デシメーターが怯んだ瞬間、エリオットが剣で斬りつけ、ドランが斧を叩きつける。二人の攻撃を受けてもまだ倒せないみたいだ。

 

「もう、しぶといわね!スペルキュー行くから、後でたすけてよね!」

 

マーナが魔法を詠唱し始めた。最初に光の魔法玉がデシメーターの方に飛んでいくとちょっと間をおいて、今度は一気に大量の魔法が降り注いだ。銀粉が飛び散って、次にファイアボールやアイスニードルなどが次々と命中していく。最後に、幻術の糸が絡みつき動きを止めてくれた。

 

「今よ、シンシア!ここで仕留めないと、あたしが危ないんだからね!」

「ありがとう!終わらせる!」

 

剣先を腐敗した獣の方に構え、溜めた魔力を一気に放出させた。

 

「いけええぇっ!!」

 

私の声と同時に剣先が白く輝き始め、大きな光線となってデシメーターに向かっていった。天を貫く柱のように伸びていき、やがて獣を飲み込んでいく。跡形もなく消え去ると思っていたけれど、まだ生きていた。

 

「……うそ!?」

 

さっきの攻撃でも倒れなかったなんて信じられない。このままだとまた襲いかかってくるかもしれない。

 

「おーい!そこから離れろ!一発派手のをかますぞ!」

 

上の足場に乗っていたカルケーが私達に向かって叫んでいた。

 

「えっ、何するの!?」

 

彼は樽をデシメーターに向かって投げた。すると中に入っていた黒い液体が降り注ぎ、獣は悶え苦しみ始める。

 

「おい!誰か火をつけてやってくれ!」

 

カルケーが叫ぶと、セリーナが火の矢をデシメーターに向かって放った。

 

「シンシア!こちらに!」

 

エリオットが咄嗟にの前に立ち、盾をかざす。火がデシメーターに燃え移った瞬間、大爆発が地下世界の空間を包み込んでいく。

 

「きゃあああ!!」

 

爆風に吹き飛ばされそうになり、私はエリオットの腰にしがみついた。しばらくして収まり、デシメーターがいた場所には小さなクレーターができていた。中心には黒い灰が積もっている。

 

「そういう作戦なら、事前に言ってよね!」

 

いつの間にか、カルケーが居た足場にテレポートしていたマーナが彼の足を軽く蹴って怒っていた。

 

「悪いな、でも咄嗟に思い付いた作戦だからさ」

「シンシアがあの爆発に巻き込まれていたらどうするつもりだったの!?」

「その程度でお嬢さんが倒れるもんじゃないだろ?」

 

立ち上がってクレーターの方を見ると、腐敗した獣のは跡形もなく消えていた。

 

「これで依頼達成かな……?」

「そうですね、あとは帰るだけです」

エリオットが剣を鞘に収めると、ドランも斧を背中に担ぎながら歩いてきた。

「しかし、マーナお嬢ちゃんはなかなかやるのう。彼女の魔法が無かったら、わしも危なかったかもしれん」

「そうかしら?まあ、私より凄い魔術師なんていくらでもいるし、私なんてまだまだよ。セリーナ、ポーション貰えないかしら?さっきの魔法で力使い過ぎちゃって……」

「お疲れ様。どうぞ」

 

セリーナから貰ったポーションを彼女は一気に飲み干した。

 

「ん……はぁ。もうこれ以上戦うのはごめんよ」

 

帰路につきながら私はマーナに聞いてみた。

 

「スペルキューってどういう魔法なの?」

「そうね。頭の中で沢山の魔法を整列させながらイメージして、それを一つづつ発動させていくの。あの時、最初はライトオーブを出して、次に沢山の魔法を間髪入れずに発動させたのよ。あの時は体力を魔力に変換して無理にやったから、いつもより消耗が激しかったの」

「じゃあ、あんまり使わせないようにしないとね」

 

彼女の様子から見て何となく分かっていた。スペルキューは身体に負担がかかるし、下手したら命に関わるかもしれない。

 

「そうね。キューを使うより、高度な魔法を一回ずつ使った方が逆に負担が少ないわ」

 

マーナは苦笑いしながら言う。入る時に使った縄の梯子を順番に登って、地下世界から脱出した私達。外は橙色の空が渡り、眩しい大星は沈みかけていた。

 

「入り始めたのが朝よね。結構潜ってたんじゃない?」

「全く、あんな暗い場所にずっと居続けたら時間の感覚なんて狂ってしまうわい……」

「帰ろっか」

 

私が皆に話しかけると、頷いてくれた。

 

――

 

オラニエ大陸にて、大きな都市と言えるのは王国の首都であるクリスタリア、貿易都市であるケネブレス、そして文明最先端のスチームタウンの三つである。他にも町はあるけど、大きくはない。今の私達は勇者の使命を一時的に中断して、冒険者活動をしている。時々、依頼から依頼で大きな冒険になる事もしばしば。

 

道を歩いていると、小さな壁に囲まれ、内に建物が数個程度しかない場所が見えてきた。冒険者の中継地点となっていて、別にその道の人でなくても利用できる。壁の中には、雑貨屋と宿、依頼を扱う酒場しか無い。最低限の施設しかないけど、それでも商売は成り立っている様子。

私達は小さな門をくぐり抜けて中に入っていった。夕方なので、色んな冒険者がそろそろ帰ろうとしているらしく、様々な人の行き交いが絶えない。

 

「報告は僕たちの方で。シンシアとマーナは先に宿へ帰ってください」

 

エリオットはカルケーとドランと一緒にギルドの受付に向かっていった。セリーナは雑貨の方へ。私とマーナは先に宿に帰ることにした。

 

「ここの宿、浴場が無いのが不満だけど、ベッドはどのグレードでもふかふかだからいいわね」

 

部屋を取ってくれたマーナがベッドに座って、伸びをしながら言った。

 

「そうだね……」

 

答えながらベッドに座る。

 

「どうしたの?そんな浮かない顔して」

 

マーナは首を傾げながら私の顔を覗く。私は胸にある金と白金のメダルを手で触りながら話した。

 

「今、こんなことをしていていいのかなって。私達は勇者として魔王を倒さなきゃいけないのに……」

 

金髪の魔法使いは私の話を聞いて少し考えた後、口を開いた。

 

「いいんじゃない?手掛かりが何にも見つからないんでしょ?なら、どうしようもないわよ」

 

マーナも金と白金のメダルを触りながら、話を続ける。

 

「それに、せっかく冒険者としての格も上がったんだから、いずれ手掛かりに繋がる重要な依頼も来るかもしれないわ」

「……そうだね。ありがとう、マーナ」

 

私は少し心が軽くなった気がした。すると、セリーナが部屋に入ってきた。

 

「お二人さん、悪いけどちょっと来てくれない?名指しの依頼が来たみたい」

 

私達はセリーナに呼ばれて、依頼の受付に向かった。

 

――

 

冒険者ギルド内の個室に私達が呼ばれる。空間の中には依頼主の男性が居て、私達に一礼。男性はスチームタウンっぽい格のある格好をしていた。

 

「初めまして、私はフルドゥールの軍司令官である、オーエンで御座います。本日は高名な冒険者である、シンシア様に依頼を頼みたく参りました」

「えっと……どのような依頼でしょうか?」

 

国の重鎮からの依頼なんて想像が付かなかった。セリーナとカルケーが面倒なことに巻き込まれたと、少し嫌な顔をしているのが横目で見えた。

 

「はい、実は近頃クリスタリアで不穏な動きがありまして……。重要なポストに就いている方々が次々と何者かによって暗殺されているのです。私もこれからスチームタウンに戻らなければいけませんが、恐らく私も狙われているでしょう。そこでシンシア様には北東部のアイアンゲート駅から、スチームタウンに着くまでの護衛をお願いしたいのです」

「時間から見て、大体5時間ぐらいかしら?」

 

セリーナは窓を覗き、広場の影時計を見ながら言った。私はオーエン司令官に尋ねる。

 

「でも、どうして私達なのでしょうか?もっと腕の立つ冒険者は他にもいると思うのですが……」

「はい、確かにシンシア様以外にも優れた冒険者の方々がいますが、あなたには勇者という肩書きがあります。今はシーラー女王によって剥奪されてしまいましたが、民衆からは未だに崇められているほどのお方でしょう。私としてもあなたを支援すれば、民衆の信頼も取り戻せると思い今回依頼をさせて頂きました。報酬は支払いますが、その他にもスチームタウンの議会の方から、勇者の名誉回復を働きかけるよう手配します」

「名誉回復って、どういう事ですか?」

 

私はオーエン司令官に聞き返す。

 

「はい、あなたは勇者の名を失った状態でしょう?しかし、民衆の中には未だに彼女を勇者と称える者も多い。そこで、名を取り戻すよう議会に働きかけます。もちろん、シーラー女王の説得も行います」

 

オーエン司令官は自信に満ちた表情で答えた。少し考えていると、カルケーとセリーナが私の肩を叩いた。

 

「お嬢、ちょっと話するぞ。外してくれ」

 

二人は私を部屋の外に連れ出した。オーエン司令官はどうぞと一言言って、私達の話が終わるのを待っている。

 

「悪い事は言わねえから、これはキャンセルするべきだと思うぜ」

 

カルケーが私に依頼を断るよう勧めてきた。

 

「どうして?」

「勘なんだが、どうも胡散臭い。あのおっさん、何か隠してるぜ」

「そうだね。そもそもあんな高名な人物が勇者の名前を借りようとした時点で怪しいし、私達を名指しで護衛に指名するのも変な感じだし」

「セリーナはスチームタウンに行きたくないだけだったりするんじゃない?」

「それもそうだけど、何か裏があると思う」

「お嬢さんが将来、クリスタリアの貴族や王座を乗っ取るつもりなら、いいと思うぜ。しかし、あんたはそんな道に進むようには見えねえし、何より今は冒険者として名を上げるのが先決だろう?」

「うん……」

 

カルケーの言う通りだ。私は勇者の名を取り戻すために戦っているわけじゃない。あくまで魔王を倒すための旅をしているんだ。オーエン司令官には悪いけど、依頼は断ろうと思った時、マーナ、ドラン、エリオットも私達がいる部屋に入ってきた。

 

「ねえ、何話してたの?」

 

マーナはカルケーに尋ねた。

 

「ああ、依頼は断った方がいいかもしれないとお嬢に話しててな」

「そう?あたしは賛成だったんだけど。この依頼は高額だし、あんたとの繋がりはこの依頼だけにすると断り入れてから受ければいいじゃない?名誉回復なんていらないとあたしは思うけど」

「わしも賛成派じゃな。単純じゃがわしも一度、スチームタウンや鉄道を一目見ておきたいのう」

 

ドランも賛成派だった。何も考えずに言ったと感じたセリーナが呆れ顔になっている。

 

「いい?悪い連中がシンシアを操り人形にしようと企んでるかもしれないの。失ったけど、彼女の勇者という称号は民衆に未だに人気が高い。それを利用すれば、この子を思い通りに動かせると考えているかもしれない」

「もしそうだったら、悪い連中をぶっ飛ばせば済む話じゃない」

「まあ、確かにそうかもしれないけど……」

 

セリーナは納得いかない様子だったけど、何も言わなかった。

 

「エリオットは?」

 

聞いてみると、彼は少し考えてから答えた。

 

「僕はシンシアの選択に全て任せます。ですが僕の意見を言うと、オーエン司令官の依頼は受けるべきだと思います」

 

彼は少し間を置いて答えた。

 

「……僕は命に危険が迫るのであれば、誰であれ助けるべきだと僕は思います。また、オーエン司令官はある意味僕達の上官だった人です。もし僕達が断った結果、彼が死ぬとなれば彼女の名に傷が付くかもしれません。そうなると、そういう点で考えても、僕達が受けた方がいいと思います」

 

エリオットの言葉には説得力があったと感じた。

 

「そういう点もあったね……」

 

セリーナは彼に納得した。

 

「おいおい、汚名被せられても別にいいじゃないか。信念を曲げるわけには行かないだろう?」

「今のわしらに信念なんてあるのか?わしにはそうは思えないがのう」

「……どんな結果になっても僕達はシンシアを支えましょう。それだけは絶対です」

 

話し合いはまとまり、私は決断した。

 

――

 

翌日、夕方のアイアンゲート駅にて、私達はスチームタウン行きの列車を待っていた。

「報酬に関して話し合ったとはいえ、不安な要素は残るね……」

「やると決めたんだ。後戻りなんてしないさ。あっち見てみろよ、初めての機関車に心が躍ってるぜ」

 

カルケーは腕を組みながらマーナとドランの方を見ており、セリーナは今日ずっと不機嫌な感じで、フードを被って口元を布で隠している。

 

「そんなにスチームタウン行くの嫌なの?」

「そうだね。機関車が吐く大地を汚す煙が嫌い。そんなものが都市全域を覆っているあの都市が嫌。人間の行いには色々許してきたけど、あれだけはどれだけ経っても許せる気がしない。一応、我慢はするけど、なるべくなら行きたくない」

「まあ、今回は観光みたいなもんだと思えばいいさ」

 

機関車がやってきた。とても長い胴体に、大きな車輪が付いていて、黒い煙を吐きながら走っている。オーエン司令官に指定された車両に乗り込むと、客室の個室が私達に用意されていた。

 

「これが個室なの?とても広いわね」

 

マーナは個室のベッドに座って、くつろぎ始めた。セリーナは布に潜り込むと、掛け布団を深く被って煙を吸わないように眠り始めた。

 

「ここから五時間、司令官に何の異常も無ければ完了だ。気合い入れなよ、お嬢さん」

 

個室の窓から外の景色を見ていた。すると一回大きく縦に揺れて、驚くほどの音が鳴る。列車は動き出し、アイアンゲート駅を去っていく。離れていくのを見ながら、私は胸に手をあてる。胸騒ぎがして、何か不安が押し寄せてくる。ずっと前から感じていた不吉な予感がした。

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