女剣士と女勇者が出会うまでのお話   作:____―--

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第三階層。大きな屋敷などが立ち並ぶ、スチームタウンの社会構造において最上層に位置する階層。プレステージ層とも呼ばれる。列車内の格好で怪しまれた事を受け、ファイは裏路地などを通って目的地へ向かっていた。

 

「まずは高い場所を目指そう。この階段なら建物の屋上へ繋がっている」

 

彼女が指したのは裏路地にある階段で、金属で出来ている。見上げると確かに繋がっており、途中には脱出口の扉があった。恐らく建物に住む人用の非常口なのだろう。ファイは片足を金属の板に乗せ、登り始めた。

 

「アイラ殿、手を」

「え?」

突然、指示され戸惑いを見せてしまった。

「もう手枷はいいでしょう。これから大仕事ですし、している暇などないです」

 

彼の言葉に同意し、両手を差しだすと自由にしてもらう。彼女に続いて登り、足を乗せる度に金属の音が鳴り響き不安を少し煽った。登り終えると屋根の上に出た。

 

「第三階層に来ても、空は灰色なのね」

「住む連中にとっての当たり前だ」

 

ファイがポケットの中から何か手で持てる程度の大きさの望遠鏡を取り出し、遠くにある建物に向けて覗く。

 

「居場所は教わったらしいけど、本当にここから見えるの?」

 

ファイに尋ねても集中しているのか、何も話さない。彼女は望遠鏡から目を離して、手にある紙を見て、また覗き込む。

 

「……そこか」

 

ファイが指差した建物は、他よりも一回り大きく、周りに塀がある。

 

「では、強襲の前にプランを建てましょう」

 

アスターの声にファイは頷いて望遠鏡をしまった。

 

「詳細は見えなかったが、彼の事だ。屋敷の中に30人くらいは平気でいる。騒ぎを聞きつければ更に増える」

「別に問題ない、正面から行こう」

 

ファイが呆れるため息をついた。

 

「お前ひとりならいいだろうが、普通の人間二人が一緒に居るんだ。もっと賢くいこう」

「では、アイラ殿を陽動に。わたくし達は裏手から入りましょう。彼の屋敷から証拠があれば盗っておきたいです」

「で、アイラのマスケットの調子は?万全でないといざという時に困る」

 

私は銃を手に出し、近くへ捨てる。

 

「こんなもの、役に立たない。普通の人間殺す程度なら威力はあるけど、獣化した連中や魔物相手だと弾かれる。それに次の弾を込めて撃つまでに大体六秒くらいかかるし、剣で近づいた方が早い」

「お前辺りになるとそういうに意見になるのだな」

「昼に侵入するのはあまり良くないですね。夜まで待ちますか?」

「そうだな。下手に怪しまれるより、ここで待った方がいいだろう」

 

全員、フードを被って座り込み、時間を過ごす。太陽は少しずつ沈んでいき、もう橙が見えるようになる頃合いだった。

 

「ファイ、聞きたいことがあるけどいい?」

 

私は隣に座っている彼女に話しかけた。

 

「どうした?」

「噂でもいいから、数週間前辺りに勇者やシンシアの事で何か聞いたことある?」

「二週間前辺りか?正確な日にちは分からないが、勇者一行がスチームタウンに入ったという話を聞いている。しかし、すぐに引き返したようだ。表情もあまり良くなかったとか」

「そう。ここに居ないならいい」

「会いたかったのか?」

「いえ、むしろ逆に会いたくない」

「ふーん……」

 

しばらくするとファイは金貨を一枚取り出し、弾いて遊び始めた。

 

「依頼の時に携帯型の銃を使ってみただろう?どうだった?」

「すぐに撃てるのはいいね。ただ、弾を入れるのがかなり時間かかるし、相手が剣を振り回してくる中じゃ近づけない。接近戦になったら使えないと思う」

「まぁ、そういうものだ」

 

ファイは筒を大きくしたスチームマスケットを取り出し、ポーチを傍に置いて何か手入れをし始めた。

 

「銃はただ人に向かって撃つだけのものではない」

 

ファイはマスケットを撫でながら話す。

 

「榴弾を使えば壁などに穴をあけられる。延焼する弾、帯電する弾、酸の弾などもあるから、ひらめき次第では色々な使い方がある」

「でも装填するのに時間がかかる」

「なるべく斬られない場所で距離を取って撃つのが一番だ。あとは周りの状況を見て、臨機応変に対処すれば良い」

「簡単に言うじゃん。臨機応変なんて、便利すぎる言葉よ」

「アイラ、今の私達に指揮できる人間なんて居ない。個々の判断に任せるしか無い」

「そうだけど……」

 

ずっと空を眺めて光が届かなくなるのを待っていた。完全に暗くなってから、アスターは立ち上がり、私も起こす。

 

「では、行きましょう」

「スチームタウンは夜でも光がある町だ。街灯がある通りはなるべく避けよう」

 

ファイの言葉に全員が首を縦に振った。裏路地を抜けて大通りを横切るように歩き、また裏へ入る。ファイが言った通り、スチームタウンは夜でも灯りが消えず、賑やかな声が聞こえてくる。

 

「こんな暗い中普通に歩くなんて、よその地域だったら命知らずと罵られるかも」

「世界で最も発達した都市の特権だ」

 

やがて、目標の建物に近づいてきた。ファイは携帯型の銃を右手に、アスターもモーニングスターを手に持つ。

 

「ここで別れましょう。アイラ殿は派手に動いてください」

「わかった」

 

裏側組が他の道から向かう。二人と別れた後、フードを深く被って屋敷の門へ。見張りが二人立っている。正面突破の通り、まずは一人に近づいた。

 

「止まれ」

 

目の前に立ち塞がる。片方は注意深く私を見ている。

 

「何者だ」

「オーエンに用がある」

「……誰だ?」

「アイラって女が来たって彼に伝えて」

「っ!撃て!奴が来たぞ!」

 

見張りは目を開いて、手に持っていたマスケットを構える。そして発砲してきた。しかし、弾は当たらず、空を切る。左手に剣を握り、見張り二人を斬り捨てた。血が吹き出して、地面に倒れた。当然、大通りの前で殺戮が始まったから辺りの市民は悲鳴を上げ、逃げ惑う。閉ざされていた門を力づくで開けると、敷地内に踏み入れる。やはり権力者だけあって、庭園は広く、噴水があった。そろそろアスターもファイも裏側から侵入している頃だ。

建物の前に立ち扉に手を掛けると、直感を感じた。恐らく先のホールで大人数が私を待ち構えている。黒い鎧を纏ったら、扉に力を込める。勢いよく開いた瞬間、銃弾の雨が降り注いだ。

 

「……やっぱり」

 

全て鎧が弾き、私はホールへ足を踏み入れる。そこには武装した男達が大勢いた。

 

「速く弾を込めろ!」

 

ホールの構造は円形で、中央に階段がある。上から銃を持った者達がマスケットを構えて射撃していた。人数はざっと10人以上はいる。どう斬るか思考を終えると、瞬間移動を使って、一気に階段近くまで移動する。

 

「なに!?」

 

突然現れた私に驚く護衛達だったが、すぐにマスケットを向けて撃ってきた。近くにいた護衛から切り刻んでいき、全員を無力化する。聞こえた悲鳴も秒で記憶から消し去り、次の廊下へ。

 

通路で奇襲をかけてマスケットを撃ってきた護衛も投げナイフ一本で片付ける。歩いていると、突然横から拘束しようと飛びついて来た者がいた。一瞬驚いたものの、肩を軽く押して突き飛ばし、姿勢を崩したところで剣を突き刺す。

 

二階を片っ端から調べていき、ようやく大きな部屋を見つけた。中に入ると、椅子に座っているオーエンが居る。男は伝統の軍服を身に着けており、胸には多くのメダルを付けている。

 

「やはりまだ生きていたか。勇者め、仕留め損ねたか」

「あなたがオーエン?」

「そうだ。クリスタリア軍部指揮官、オーエンだ。そして、貴様を作った存在でもある」

「どういう意味?」

「私はクリスタリアの司令官でありながら、帝国と手を組み、穢れに関する技術を共有してきた。素晴らしい人間を作り上げるために」

「クリスタリア内に帝国が平気で施設を構えられたのはあなたのおかげって事ね」

「計画は思う様に行かず、多くの子供、実験体が犠牲になった。だが一人、例外が居た」

 

オーエンは引き出しから四つの首飾りを取り出す。飾りに金属の名前が刻まれたプレートが付いている。

 

「エリス、イアン、レジーナ、アレクシア、聞き覚えがあるはずだ」

「幼い頃、一緒に居た子達の……」

「お前と同じ、帝国の人体実験を受けた子供達。皆優秀な兵士として育てたが、残念ながら死んだ。だが、貴様だけは違う。過酷な環境でも生き抜き、獣化を自身の力で支配しさらに身体能力の向上、治癒能力の促進など、様々な効果を得た」

「どうしたというの?」

「貴様は、私の最高傑作だ」

 

オーエンは笑みを浮かべながら話す。

 

「解剖すれば、研究はより進む。貴様の体には謎が多いからな」

「……そろそろあなたを殺していい?私も暇じゃない」

「いいだろう。やれ!」

 

オーエンが命令すると、天井の隠し通路から人影が現れた。全身黒ずくめの服を着た男が私に向かって剣を振り下ろす。身体を横にして避けると、首を切り裂いた。

 

「ちっ!」

 

舌打ちをしたオーエンは机に置いてあった銃を手に取り、発砲する。弾丸は鎧に当たり弾いた。

 

「その程度なの?」

「早く来てくれ!"フォー"、"ファイブ"!契約じゃないのか!」

「さようなら」

 

私はオーエンに近づき、剣を振るう。斬り捨てられ、血が噴き出す。私は吹き返る赤を浴びないように後ろに下がった。

 

「いいか、アイラ。貴様に名前など、無い……」

「……終わりね」

 

私が呟いた瞬間、後ろから気配を感じ、振り返る。仮面を付けた道化師と、蛇の女が立っていた。

 

「あら、遅かったようね。彼、もう死んでるみたい」

「くくく……。可哀想に、まあいい。感動の再会だ」

「そうね。目にした時から、ずっと復讐の機会を狙っていた」

「あなたは……。ああ、身体もろくに動かせず、仲間が殺されるのをただ見ていた臆病者ね」

「……言葉に気を付けないと、誤って私が殺してしまうかもしれないかもね」

「今のあなたに何ができるというの?」

「ファイブ、彼女は"トゥー"を呆気なくやったようだ。やはりいっぱい遊んであげないといけないね」

 

道化師の男が剣を抜いて構える。蛇の女の方は相変わらず表情を変えない。

 

「トゥー?オーバークロックを使わずに死んだ奴の事かしら。随分と弱いのね」

「じゃあ折角だし、彼女に僕らのオーバークロックを体験させてあげるよ。きっと楽しめるよ」

 

道化師はダガーをくるりと回した。

 

「……何のつもり?」

「知らなくてもいいわ。どうせ死ぬのだし」

 

二人は一斉に何かを唱え始めた。すると身体が一瞬だけ蒸発したような煙を発する。

 

「……遊んであげるわ」

 

ファイブが言った瞬間、二人の姿は一瞬にして消えた。

私は咄嵯の判断で右へ飛ぶ。すると、先程までいた場所に麻痺毒が塗られたナイフが複数本投げられていた。

 

「避けたね、やっぱりだ」

「この子、搦め手に弱いから、こういうものに反応できないと思ったのに」

 

いつの間にか、二人が目の前に立っている。そして、また姿を消した。いやそうではない。彼らは錯覚するほどの速さで動いている。目を凝らし何しようとしているか見定めた。道化師の男は距離を取ってから、ナイフを刺しに近づく。蛇女の方は私の死角に入り込み、魔法で拘束しようとしている。まずは詠唱を止める事が優先だ。

蛇女が到着しようとしている位置に移動して、剣で突き刺す。しかし、剣先は空気だけだった。

 

「残念だったわね」

 

背後から声が聞こえた。

 

「……あなたは話すべきでは無かった」

「え?」

 

素早く剣を振り、蛇女の尻尾を抉る。悲鳴を上げ、倒れ込んだ。再び鎧を身に纏い、背後から来る投げナイフを弾き飛ばす。そして、倒れた蛇女に近づいた。

 

「今から私と遊びましょう」

「な、何を……」

 

剣を消して、素手でファイブの尻尾を掴んだ。黒くなった腕で、人の肉体と蛇の部位を力込めて引きちぎる。

 

「ぎゃぁああ!!」

 

ファイブは激痛に耐えきれず、叫び散らかす。一瞬過ぎて、背後に仮面の道化の男が居た事に気づいた。

 

「楽しんでるねぇ、ゼニスちゃん」

「私はゼニスじゃない」

 

ダガーが飛んでくる。掴んで投げ返す。

 

「おっと、危ない」

 

男は簡単に避ける。

 

「ゼニスって何?教えてよ」

 

聞いても無駄だと分かっていたが、つい口に出してしまった。

 

「いずれ知る事になる。ククク……僕達と君は同じだからね」

「勿体ぶる奴なんて、嫌いよ!」

 

左手に剣を出現させ、一気に距離を詰める。道化師は私の攻撃を難なく受け止めた。

 

「怒るなよ、もっと遊ぼうぜ。オーバークロックと君の時間を楽しもうじゃないか」

 

道化師は剣を弾いて、蹴りを入れる。空いてた右手で蹴りを受け止め、刃を振り下ろす。男は指二本で掴んだ。

 

「これもオーバークロック?」

「正解。君の動きなんて止まって見えちゃうんだよ」

 

道化師は私に足払いをして、転ばせると、剣を喉元に突き付ける。

 

「さあ、次はどうしようかな?このまま首を斬り落としてもいいけど、なんなら、手足からやって、ゆっくり殺してあげる」

「本当に追い詰めたつもり?」

 

瞬間移動をして、剣先から外れた場所へ移動する。立ち上がり、構え直した。

 

「あと十秒ぐらいで終わらせる」

「やれるもんなら、やってみろよ!」

 

仮面の男が再び姿を消すほどの速度で動く。目で追っていき、彼は煙玉を地面に叩きつけ、視界を奪う。辺りは完全に視界不良になった。全方位から麻痺毒が塗られたナイフが何度も襲ってくるが、全て弾き、煙の中から仮面を被った道化の男が斬りつけようとしてくるのが見えた。右腕を伸ばして彼の頭を掴み、地面に叩きつける。衝撃で仮面が割れ、顔が露わになったが、不気味で今までに見た事のない構成をしていた。三つの人の顔面の一部が肉に貼りついたような顔。

 

「なぜだ!なぜ俺がゼニスに勝てない!俺は新型だ!」

 

口調が何度も変わる辺り、精神性は喪失している。

 

「じっくり死にたい?すぐに殺して欲しい?」

「ふざけるな!お前みたいな出来損ないが、この俺を侮辱するなど……」

「そう、じゃあお望み通りに」

 

剣で心臓を突き刺す。すると、道化師は絶命した。と思いきや、手が分離して、手に四本の足が生えて逃げようとする。

 

「逃がさない」

 

潰すと胴体が溶けるように消えていく。蛇女を見てみると、絶叫でのたうち回った末に死んでいた。死体を眺めると奇妙なことになっている。確かファイブの人間の身体と蛇の身体を引き千切って殺したが、蛇の方にに人間の肉体が埋め込んでいる。つまり、奴に人としての両足があったのだ。改造された可能性が脳裏に浮かぶ。

死体を見下していると、ファイとアスターが部屋に入ってきた。

 

「オーエンを殺したか?」

「……ええ」

「では、脱出しましょう。騒ぎを聞きつけて、屋敷の周りに衛兵が集まってきています」

「分かった」

 

三人で部屋を出ると、ファイが先導して、一階へ来た。

 

「ガラスを突き破ろう。音は鳴るが、急いで駆ければ問題ない」

「アイラ殿、フードを深く」

 

言われた通り被り、そして窓ガラスを割った。外には誰もいない。

 

「音がしたぞ!」

 

声の方向とは逆の茂みに急いで飛び込んだ。

 

「よし、ここの庭園は迷路のようだ。上手く撒いて、敷地を出よう」

「透明になれないの?」

「その魔法は秘術の方なので、わたくしは使えません」

「私は魔法自体無理だ。薬などは?」

「爆弾と薬は捨てた」

「……なら、足しかないだろう」

 

ファイが小声で呟いて先導を続けていく。そして、出口までもう少しという所で、後ろから複数の人影が現れた。

 

「怪しい奴らを見つけたぞ!」

「走れ!塀は飛び越えろ!」

 

言われるまま飛び、高い壁の上に。続いて、ファイも軽々と跳び越していく。アスターは身体能力が低いので、上に立って、彼に手を伸ばした。

 

「掴んで!」

「ありがとうございます」

 

引っ張り上げて無事に着地できた。しかし、安心する暇はない。

 

「裏路地へ!」

 

私達は走り続けた。私が一番最後を行き、壁に立てかけていた板などを倒して後続を妨害させる。そして、曲がり角を利用して、追跡者を巻く。しばらく走ると、人の気配が消えた。

 

「……一応か」

「この階層全域が警戒されているようです」

「線路はもうすぐだ。貨物列車が通った時、飛び乗ればいい」

 

ファイが言うと、遠くから汽笛の音が聞こえてきた。

 

「違法乗車と行こう」

「ええ」

 

線路に近づくと、煙を上げる蒸気機関車が通過しようとしていた。

 

「合図で行こう。……今だ!」

 

三人は同時に列車の荷台の方に飛び移る。

 

「よし、このまま乗っていれば下の階層まで行くはずだ。それまで休もう」

「荷台を確認する駅員は殆どいない感じですね。休めそうです」

 

壁に背を預ける。息を吐くと、考え込むように腕を組んだ。ゼニスとは何か。私に名前が無いと言っていたけど、ちゃんとあるはず。あと、私と同じ存在という言葉。何の意味なのか分からない。深い夜の暗闇、列車に乗っている私達。夜空の月明かりが、真実を霧の中に隠していた。

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