女剣士と女勇者が出会うまでのお話   作:____―--

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「アスター!」

 

 駆け寄って抱きかかえるが、彼の顔は青ざめていた。身体を抱えて走ろうとしたとき、足に衝撃が走った。

「あっ……」

 

 姿勢を崩し、彼の身体が地面に転げ落ちる。と同時に足を支える力を無くして視界が回る。撃たれたのだ、右足を。苦痛に耐えながらも、何とか立ち上がろうとしている。だが、力が入らないのか、なかなか起き上がる事が出来ない。

 

「どうか、あなただけでも……」

「ばか。この状況で助かる方法なんて……」

 周囲にジャガーノートが集まっていた。今の状態では逃げる事すら不可能に近い。

「申し訳ございません……」

 

 彼の謝罪が最後に聞く言葉になってしまうのか。銃口を向けられ、最後の時を待とうとした瞬間だった。突然、黒い重力の球体がジャガーノート達を吸い寄せ、押し潰していく。鉄塊の輪郭は不可思議な形で歪んでおり、突然訪れたシュルレアな現象に恐れを抱いていた。

 

「間に合ったかな~?」

 

 そう口ずさむ遠くに金髪の魔法使いが立っていた。赤い瞳、黒衣を身に纏い、不敵な笑みを浮かべている。

 

「おい、大丈夫か。怪我は?」

 銀髪を結ぶ東の大陸らしい顔つきをした男の剣士がそばに駆け寄る。

「私は大丈夫。彼が――」

「いえ、彼女を優先して……」

 アスターは私の方を見て、自分の事は後回しにしてと言い出した。

 

「両方応急処置だ。俺は治療の専門家じゃないが、無いよりは……」

 そう言って薬をそれぞれに渡してきた。私達は黙ったまま受け取り、すぐに飲みこむ。

「ちょっと~、早くしないとまた来ちゃうよ?」

「悪い、あと男の止血だけやらせてくれ」

 

 剣士は包帯や止血に使える植物をアスターの患部に巻いていった。

「まだ安心できないな。教会も使えないし、安全な場所は……」

 焦る彼を呼び止めた。

「知り合いで信頼出来る人が居るの」

 心当たりがあった。最近は定期的にみてくれるから居場所は知っているし、誰よりも信用できる。

「誰なんだ?」

「道は教える」

 

 立ち上がろうとして右足の激痛に襲われる。崩れ落ちそうになったが、咄嗟の彼の手が右側を支えてもらった。

「無理するな。さて、どうやってこの街を抜け出そうか」

「馬が二頭あるといいかも。あの鉄の大きい奴に出くわしてもボクが魔法でどうにかするから」

「俺の馬があるとして、もう一頭は……」

「私持っているから」

 

 銀髪の男は頷くと、口笛を吹いて馬を呼び寄せた。私も吹いて久しぶりに、どこからともなくルゥを呼ぶ。「俺はこの男を。魔法使いのお前は彼女を支えてやってくれ」

「はーい」

 金髪の魔法使いに身体を支えてもらい、ルゥに跨ると彼女も私のうしろに乗った。右足が痛むものの、乗ってしまえば痛みは軽くなる。

「私が先導するから!」

 

 手綱を引きながら、街を駆け抜けていく。後ろからは馬の蹄の音が聞こえる。

「ひゅ~、凄い風」

 後ろの声が風に流れながら私は走り続ける。やがて街の出口が見えてくると、門の前に奴らが待ち伏せしていた。数は五体程度であり、全員が連射砲を向けている。あと一、二秒で発射されるという段階で、冷や汗が止まらない。

 

「どうするんだ!?」剣士の声に魔法使いが声を上げた。

「ボクに任せて!」

 

 彼女は魔力をため、すぐさま右手の人差し指をジャガーノートに突きつけた。次の瞬間、景色が変わっていた。

 

 一瞬の出来事だったが、確かに私達の身体は別の場所に移動していた。後ろを振り返ると見失った標的を探し出すジャガーノート達の姿が見える。

 

「今のは……」

「ちょっとポータルを開いただけだよ。遠い距離は無理だけど門を通り抜ける程度なら問題ないね」

「助かったぜ……」

 

 剣士の肌にも冷や汗が流れていた。

「で、君はどこに行くの~?」

「近くの森の方へ。小屋を探せばきっと……」

 

 道を辿りながら森の中へと入っていき、小さな湖を見つけるとそこには木造の小さな家があった。音を聞いたのか、扉から一人、白衣の男性が姿を現す。

「アイラにアスターかい。――ふむ、負傷してるようだね。中に入ってくれ。手当しよう」

 

 降りる時、魔法使いに手を貸してもらいながら降り立った。

「彼を優先して。応急処置したけど、これ以上は危ないと思うの」

「分かった。任せてくれ」

 

 ドクターの家に入り、彼だけは治療用の部屋に送られた。残った私たち三人は部屋で待機する事に。ベッドの上で仰向けになるが、傷口を見て奇妙な点に気がついた。今までなら自然に治癒していったが、銃弾で受けた傷だけ自然回復が極端に遅くなっているのだ。穢れの鎧を貫かれた事もあり、ジャガーノートの銃弾は大きな脅威だと認識する。金髪の少女と髪結んだ男を見る。二人は手を組んでいる印象を持っていたが、意外によそよそしい雰囲気もあった。金髪の少女は持ってきた木の枝を指先で回しながら窓の外を眺め、髪を結んだ男は床の上で足を組んで、思案を渡っていた。

 

「……助けてくれてありがとう。あなた達の名前は?」

 聞いていなかった事を思い出し、二人に問う。男は目を開けてこちらを見る。

「俺はシドだ。見ての通り東の大陸から来た」

 東の大陸と聞いて、私は過去にあった出来事を思い出す。

「ガラビニエリね。そう言えば世界会議の時、兄を探しにやってきた剣士が居たと思う」

 

 心当たりあるのか男は少し肩を上げた。「エイジか?」

「確かそんな名前の剣士だったはず」

「あいつ、そこまでして俺を引き戻したいのか」

「何かあったの?」

 兄弟であるが、因縁があるよう。だが今は聞き出せそうになかった。視線を少女の方に戻す。

 

「あなたは?」

「ボクはマティン。まあ、魔法使いかな。永遠の夜の会で働いているよ~」

「確か、北の大陸の方にあった魔法の組織だったかな?」

「そうそう。まあ、ろくでもない所だけどね」

 彼女は低い声で呟く。永遠の夜の会は秘密主義で、正確な情報を聞くことはあまり無い。

「兵器を吸い込んだ球体、テレポートなどを使役するあたり、エキスパートのウィザードのようね」

「テレポートじゃない。『ディメンション・ドア』だよ、中級秘術の区分だし。あの球体は『ブラック・ホール』と言って、シャドウの区分に入る魔法なんだ」

 

「えっ」

 私と男は同時に声を上げた。シャドウは禁止されている魔術であり、使うだけで極刑に値すると聞いた事がある。

「まあ、ボクは許可証貰っているから自由に使っても問題は無いんだけどさ。ルールさえ守れば」マティンは得意げに言った。

 

 それから沈黙が続いていく。しばらくして、マティンが口を開いた。

「暇だし、魔法の話でもする? ほら、これから一緒に行動するわけだからお互いの事を知っとかないとさ」

「えっ、私に付いてくるの?」

 

 彼女の瞳は私をとらえて離さなかった。

「そ~そ~。キミについていったらなんか面白そうな予感がするし。ね、シドくん?」

「俺を巻き込むな。だが今はあてがないし、同行させてもらおう」

「いいの?」

「ああ。剣の腕も磨かないとな」

 

  男が腰に携えている異国のつるぎにようやく気づいた。彼が東の方出身だからと勝手に納得していた。

「じゃ、決まり! では、マティン先生による講義をしましょう~」

「俺はやめとく。そこまで賢くないんでね」と彼は足を組み始めた。

 

 少女は私の方を向いて、顔を近づけてくる。

「じゃあ、アイラはこれからリーダーになると思うし、勉強しておいた方がいいんじゃない?」

「リーダーって、私はまだ……」

「でもキミって、いかにもリーダーになりそうな雰囲気あるじゃん」

 二人に見つめられて戸惑っていたが仕方ないと諦める。ため息をついて頷いた。「魔力を通じて見せてあげる。掴んで」

 彼女が手を差し出し、言われた通りにすると、意識がマティンと共有されていく感覚に襲われる。やがて視界が変わり、私達は草原の上に立っていた。

 

 

「草原……」

「ボクの作った空間だよ。ここなら何をしても元の世界に何の影響も無いから安心して」

「ええ」

 

 マティンは眼鏡を着け、なにも記されてない本を片手に持ちながら説明を始めた。

「魔法の原理は知ってもどうしようもないから、かんたんにね」

「お願い」

「秘術魔法と神聖魔法の違いは理解してる?」

「もちろん」

 

 頷くとマティンは指で鳴らした。今度は街の風景に変わる。

「じゃあ、シャドウについてお勉強。キミはシャドウについてどんな知識を?」

「存在自体が許されない魔術。使った瞬間、その人は死罪になると聞いたことがある」

「どうして使ったらいけないと思う?」

「使うと精神が蝕まれ、最終的には心に悪魔が宿る」

 

 そう答えると腕を交差させて不正解と伝えてきた。

「全部間違い。これは永遠の夜の会が仕込んだカバーストーリー。本当の理由はね、ルールに抵触しやすい魔術だから」

「ルール?」

「そう。ルールは絶対に破ってはダメ。守らないとこの宇宙が凄く大変になる。ボク達の世界はルールを守る事で成り立っているんだ」

「大きな話に……」

 

「シャドウはルールを破りやすい魔法を集めただけで、秘術や神聖などの区分とは一切関係ない。永遠の夜の会はこういうシャドウマジックを収集して、歴史から秘匿させるのを仕事としているの」

 

 新しく知った真実に、興味深くうなずいた。私とマティンの周りに一般市民を装うオブジェクトが増え始め、私達のそばを歩き過ぎてゆく。

「シャドウにも色んな流派があるけど、ボクは"クロノマンサー"という流派に属している。この流派は時間を操ることに長けているんだ」

「時間……」

「そう。例えば~」

 

 マティンが気だるげに指先を回すと、通りすがる市民が後退しはじめた。足の動きからして、世界が逆の方向に進んでるように見える。増大していたエントロピーが減少をはじめたのだ。

「少しの間だけど、逆行が使えるんだ。でもこれはあまり機会がなくてね。ルールに触れやすいし」

「確かにこれは凄い力……」

「一番便利なのは誰かを加速させたり、遅くさせれることかな。使い勝手は良いよ。んじゃ、ボクを好きなだけこき使ってみてね、リーダー」

 

 

 彼女が指を鳴らすと、元いた場所に戻ってきていた。シドは瞑想しており、安らかな鼻息が聞こえてくる。意識が戻ってきた途端にドクターが扉を開けてこちらを向いた。

「アスターは大丈夫。数日で完治するよ」

「ありがとう」

「次はきみの番だね。ここで見る?」

 

 頷くと一室の中に入り椅子に座る。ドクターが傷を見せるようにサインを見せてきたので鎖帷子のシャツや胸当てを外し、肩が見えるシャツ姿になる。肩の傷を彼が見てくれた。

「自然回復が効かないか……。ちょっと待って」

 彼は先端に針が付いた、液体を注入するための器具を取り出した。針を私の右肩に刺すと液体が少しずつ中に入っていき、空にすると引き抜いた。

「どうかな、機能してきた?」

 

 傷口を見てみると、自然治癒を取り戻しているようだった。

「うん。治り始めてる」

「良かった。次は右足だね」

 

 ブーツを脱いで足を露出させる。

「ふむ……。弾には何か特殊なものが混ざっていたんだろうね……」

 ドクターは足に触れた後、注射器で薬液を体内に入れていく。砕けていたものや傷が少しずつ修復されていった。

「これでよし。後はしばらく待つだけ。きみも数日は安静にね」

「ありがとう」

 

 礼を言うと服を着直して、シドとマティンの所に戻った。

「終わった~?」マティンが気だるげでゆとりをもった声色で聞いてくる。私は縦にうなずいて返した。シドは眠りから覚めて声をかける。

「アスターは大丈夫なのか?」

「数日は必要と聞いてる」その言葉を聞いたシドは安心したという意味を込めて息を大きく吐いた。

 

「ねえねえ、アイラはあの変なでかいものに追われているんだよね。これからどうする?」マティンが私に聞いてきた。

「どうしようか、まだ考えている」ゴーレムを重装備にしたような巨大な鉄塊。あれに追われながらオラニエ大陸を旅するのは厳しい。しかし奴らがどこから来たのかは容易に想像できる。スチームタウンだ。兵器や装甲の特徴して、あの街以外あり得ない。元を断つか、他大陸へ逃げるか。私は二つの提案を出してみて、反応を知りたく、口を開いた。

 

「あの兵器が作られた場所は、大まかには分かる。スチームタウンだと思うから、そこへ行って元を断つか、他の大陸へ逃げようかと考えている」

 二人の顔を見てみる。シドはすぐに答えを出してきた。

 

「スチームタウンに行こう。他の大陸に行くのはその後だ」

 金髪の魔法使いは顎に指を当てて、少し考え込んでから口を開いた。「ん~、じゃあスチームタウンに行こうか」

「案外意見がすぐにまとまるんだね」私は眉を少し上げた。時間かかる話し合いだと予想していたからだ。

 

「何か斬りたかったからな」

「ほー、何でもいいから斬らないとすまない病気持ち?」

「病気持ちって言い方はやめろ」

 マティンがシドに対してふざけた事を言い、シドは呆れた様子で返している。出会ってそこまで経っていないのに、もう打ち解けているようだ。私は話し合いがまとまったことで安堵し、口を開いた。

 

「アスターの回復を待って、その後にスチームタウンへ乗り込もう」私の言葉に二人は頷いた。

「じゃあ、ここである程度過ごすための物資を揃えよう」

 やる事を決めた二人が立ち上がり、扉に手をかけた。

「アイラも連中に追われて下手にうごけないだろう。俺たちが揃えるから、お前は休んでろ」

「分かった。お願いする」シドとマティンは部屋を出ていくとき、お互いにくだけたやり取りをしていた。

 

 安心したからなのか、一気に全身が重りに引っ張られたように重くなった。どうも最近の私は一度寝てしまうと長い間起きない。今までは一日中活動できていたのに、なぜだろうか。病が進行してしまって、体が弱っているからなのか。

 窓の外はまだ太陽の光が緑を輝かせている。そんな時間帯の中、長椅子で私は眠りについてしまった。

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