女剣士と女勇者が出会うまでのお話   作:____―--

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 小屋の中で数日程度過ごした。アスターは治療に専念し、シドとマティンは物資の調達に出かけることもあれば、小屋の周辺を探索していた。私は外に行くわけにもいかない以上、小屋の中でアスターの看病をしていた。しかし、小屋で過ごす時間は寝ているときがほとんど。発つ二日前辺り、ドクターが置き手紙を残してまたいずこへ消えていた。内容は大まかに、「アスターの治療はもう大丈夫。僕はちょっと野暮用で出かけるよ」と。置き手紙とともに治療用の道具や薬が残されていた。そしてアスターが完治した頃にはすぐ旅立つ準備を整い、小屋を後にした。

 

 スチームタウンに行くためには当然駅に向かわなければならない。しかしジャガーノートとの交戦は避けたいため、道は通らず、森の中を突っ切ることにした。道を大きく外れるということは魔物と遭遇する危険性が高まる。しかし戦いに手慣れな四人が揃えば、魔物は恐れるに足らず。無事に森を抜けた。回り道をして一週間ほどで、駅にたどり着いた。中は身分、種族様々な人が行き交っており、活気に溢れている。同時に香水と泥の臭いも混ざり合って混沌としていた。

 

 シドとマティンが切符を買いに行き、私とアスターはプラットフォームで待つ。少しの沈黙の後に彼の方から話しかけてきた。

「アイラ殿、体調の方はいかがでしょうか」事務的で定型的な挨拶のように彼は言う。

「今は。むしろ心配するべきなのは死にかけたあなたの方でしょ」ドクターが言うには、止血が遅れていれば死んでいてもおかしくなかったという。彼もまた二人に助けられた一人だ。

「わたくしは大丈夫です。彼の治療する技術と知識は素晴らしく、魔法を超えていました。感謝の言葉もありません」

 

「でも彼、うさんくさいでしょ」ドクターは私の都合いい時に偶然的に現れる。そして治療を施したらまたふっといなくなってしまう。

「確かに」アスターはドクターとの遭遇に驚かなかった。もう慣れたのだろう。「しかし彼の目的に利己的な考えは感じませんでした。むしろ誰かのために動いている気がします。――彼の纏う雰囲気はこの世界とは少し違う……いえ気のせいでしょうが」ドクターがまとう白衣は異質で、同時に世界に馴染んでいないことを象徴しているかのようだった。

 

 目線をそらして、小さな罪をのせるように口を開いた。

「これからも危険な橋を渡ると思う、私が死ぬまでは。いつでも降りてもらって構わないから」一人なら死んでもいいが、他は巻き込めない。

「まだ降りませんよ」長い髪の陰気な男性はまた色のない声を発した。「降りても、行くあてはあまりありませんので」

「そう」あいまいに答えて、会話は途切れた。少しの沈黙の後、シドとマティンが切符を持って戻ってきた。

 

「買ってきたぞ。これで行けるな?」シドが切符を見せるとアスターは縦に頷いた。

「ワクワクするね~」マティンが軽い口調で言いながら一枚受け取った。シドは切符を私に手渡すと、アスターに話しかける。

「俺は初めてなんだ。あんたらが先導してくれないか?」シドの言葉にアスターは手で進路を示す。

「こちらに」マティンはアスターが示した列車のホームへ歩いていく。シドもその後に続き、私は最後尾から付いてきていた。

 

 指定され場所に立って待っていると巨大な黒の鉄が煙をまき散らしながら線路を走ってきた。

「おお、すごいな」シドが感嘆の声を上げた。

 

 列車は止まり、ドアが開かれる。アスターが列車に乗り込むと、マティンとシドも続いて乗る。私は最後に乗車した。座ったのは一室のようであり、向かい合うように席が配置されている。幕を閉じて私とマティン、アスターとシドという配置で座った。マティンは若干私から距離を離すように座っているのに気付いたが、何も言わなかった。

 

 列車が走りだし、窓から外を見ると森や山が流れていく。景色を楽しんでいるとマティンが話しかけてきた。

 

「さて、作戦会議といきましょうか~」彼女の言葉とともに、場が引き締まる。

「まずは目的を確認しましょう」アスターがイニシアテイブをとり、口を開いた。「わたくしたちはスチームタウンへ行き、ジャガーノートを製造している工場を潰すことです」彼の言葉に全員が頷く。「ですが、情報が少なすぎます。工場はどこにあるのか、脅威の規模はどの程度か。わたくしたちには何一つ分かっていません」

「着いたら、情報集めをするって感じ?」

「ええ」アスターはマティンに同意した。

「この街は初めてなんだ。土地勘がない」シドが発言する。

「わかってます。二人はわたくしに同行してもらって、手伝いをしてください。アイラ殿は一人で構いせんか?」アスターは聞いてきた。

「問題ない」自信をもって答える。

「では、降りたら別れましょう。夜にブラッシュウッドで落ちあいます」

「分かった」アスターにそう返した。

 

 話し合いが終わり、またしばらく列車に揺られているうちに再び睡魔が襲ってきた。

「寝ておくから、何かあったらたたき起こして」そう言葉を投げて、目を閉じた。

 

 

 恐らく一日が過ぎた昼辺りだろうか。意識はアスターに起こされた。

「アイラ殿、そろそろ着きますよ」彼はそう言って揺すった。一回の揺すりではっきり目が覚める。周りを見てみると、隣のマティンは起きており、向かいのシドも微動だにせず目を閉じていた。アスターは揺すった後、窓から外を眺めていた。太陽が真上から少しずれて、日光が窓から降り注いでいる。景色はもう自然がなく、建物が多くなっていた。

 

 もうすぐ着くという感覚を感じたのか、シドも目を開けた。

「そろそろか」と彼が呟やく。

 

 やがて機関車は減速し、完全に停止した。

「降りましょう。事前に言った通り、お願いします」アスターが立ち上がり、私たちに指示を出した。マティンは伸びをしながら立ち上がり、シドも重い腰を上げる。

 

「長い間座るものじゃないな、身体が思うように動かん」シドがぼやく。

「あっ、じゃあ元気注入してあげよっか」マティンはそう言うと、バチっと指先から音を鳴らし、剣士の背中に人差し指と中指を突いた。

「ぐおっ!?」シドがびくりと体を跳ねさせて、マティンに振り向く。「電撃はやめろ、電撃は!」

「でも効いたでしょ?」

「痛すぎるぞ!」マティンとシドは軽口を叩きながら列車を降り、それに続く。駅のホームにはいつものよう無数の人々や種族が行き交っており、新しい世界が顔をのぞかせていた。

「お二人は私に、アイラ殿は単独でお願いします」アスターの指示に全員頷き、三人と別れた。

 

 一人、駅を出て大通りへ。この街でしか見られない大勢の人々による川のような流れに紛れ、細い路地へ入っていく。路地から見上げると壁面が迫りくる中、僅か見え隠れする空が遠くに。空色は白と青が混ざり合い、雲は高く伸びている。この街に来て気づいたことがあり、それは太陽の光が他の地域と比べて弱く、空の彩度が若干うすいことだ。だからか街並みも色あせて見え、どことなく陰鬱とした雰囲気が漂っていた。

 

 影が覆う湿った路地を歩いていると、突然前方の死角から音が鳴った。川に石を投げて水しぶきが立てた音、その一瞬後によく響く小さな金属が地面にぶつかった音。靴音からして複数人。高級な靴なのか、靴音は大きい。彼らの話声に耳を傾けると、すでに何かを始末した後のようだった。

 

「このアノマリーは?」

「他世界線から漂流してきたようだ。抵抗される前に無力化できたのは幸いだ」

「回収して、本部に運ぶ」

「ああ、テレポーターを起動させろ」聞こえた声は全員落ち着いた重みのある男性の声。だが、言葉遣いや流れる空気がこの世界の住人とは明らかに違う。

 

 次に彼らから発せられた言葉で私の感覚は一気に凍え、鳥肌が立った。

「待て、何者かが我々の存在を知覚している」

「センサーを起動しろ、モードはスリーだ。記憶改変キットも用意しておけ」取り出す音、何かを擦る音。彼らは私に気づき、何かを仕掛けようとしている。

 

 ナイフを抜き、足音を殺しながら近くの箱へ身を隠す。複数の足音は私の方へ近づき、そして箱の前で止まった。

「そこにいるのは分かっているぞ。抵抗はせず、大人しく出てこい」

 箱の外から声がする。ナイフを逆手に持ち、いつでも飛び出せるように準備をする。

「抵抗はせず、大人しく出てこい」先ほどと同じ言葉を繰り返す声と共に、入っていた箱に小さな穴が開いた。穴は円形に空いたことから、銃弾を撃ったことが分かる。しかし銃声は響かなかった。聞こえたのはさっき聞いた小さな金属が地面に落ちる音。

「何もしなければ、殺しも捕らえもしない。今起こったことを忘れてもらうだけだ」

 

 箱からゆっくりと身を乗り出すと目の前には銃を構えた男性が二人立っていた。他にも何人かいる様子。全員の格好が黒ずくめであり、これもまた世界から浮いた印象を与える。持っている銃は携帯型のスチームマスケットと似ているが、先端に謎の筒が取り付けられている。彼らの目元は黒い眼鏡のようなゴーグルで隠されており、表情は読み取れない。

 

 男達が私を認識すると、眼鏡越しに驚く反応を見せた。

「彼女はもしや――」

「ああ、私にもそう見える」

 

 彼らの反応に警戒を強める。目の前の彼らは私のことを知っているようだ。すると男性の一人が耳元に着けてあった道具に喋りかける。

「私の目を見てくれ、彼女だ。どうする? 記憶改変を施すか」傍から見ればひとり言を呟いている、もしくは見えない誰かとの会話をした後、仲間らに目を配り、指示を仰いでいる。

 

「記憶改変は不要だ」その言葉に他は全員うなずく。

「何の目的でこの街に来た?」

「答えられない」聞かれても答えず、ナイフをしっかりと握り、いつでも飛び出せるように構える。他の男が口を開こうとするが、リーダーらしき男が手で制し、言葉を続ける。

「彼女はジャガーノートを製造する工場を破壊するのが目的のようだ」男達が私の狙いを知っていることから、さらに警戒を引き上げる。

「繋がっているの?」リーダーらしき男に聞く。

「いや、だが我々はお前の全てを知っている」

「神様を名乗っているの?」

「お前が知る必要はない。工場を潰したいのなら、再びアンダーグラウンドへ行け。違法ポーカーが行われているから、金貨十枚レートのテーブルに入り一ゲームだけ参加しろ。いいカードは回ってこないから勝負には乗らないことだ」

 

「は?」情報を教えてくれるにしても、あまりに漠然とした内容に困惑した。直接教えてくれるわけではないのかと。「回りくどい」そう言うと、リーダーらしき男は首を横に振って答える。

「因果律の問題だ。過程を踏まなければ後々問題が生じる。お前がアンダーグラウンドに再び来れば、自ずと工場は見つかるだろう。では、我々はこれで失礼する」男は腕に着けられた謎の道具に指先を突きつけると、魔法のような光が発し始めた。

 

 死角から男達が死体を持って、リーダーの男に近寄る。死体は私と同じくらいの少年で、額から血が垂れていた。頭に銃弾を撃ち込まれたのか。肌や髪色を見てみるが、彼もまたこの世界のとは少し違う。少年からは凄まじい何かの力を感じた。

 

「これがアノマリーというものなの?」

「ああ、彼は他の世界から漂流してきたものだ。この世界に放置した場合、お前の因果律に干渉するリスクがある。故に我々で処理をした」

「私に関わると何が起こるの?」

「それはお前が知るべきことではない」男はそう言うと、全員がテレポートする体勢に入った。

 

「待って、あなたたちは何者なの?」最後に聞いたが、彼らは答えずに口を開いた。

「幸運を。全世界の運命はお前にかかっている」言葉を最後に彼らはテレポートし、その場から消えさった。真意は分からず、ただ困惑するだけであった。彼らが消えた場所を一瞥した後、アンダーグラウンドへ続く路地へと足を進め始める。

 

 スライド式の鉄格子の前に立っていた。扉の先は地下へ下る階段で、向こうは暗すぎて見えない。見上げると廃工場跡のさびと黒煙で汚れた建物が見えていた。左手を扉の引手に添え、地下へ下る。

 

 下りた先には巨大な空間が広がっていた。無数の光と人々の喧噪で満ちあふれている。天井からぶら下がったいくつものライトと、吊るすワイヤーによって空間は照らし出されているが、それでも端までは見渡せない。やはり無数の出店が並んでおり、中には法に抵触するであろうものや、明らかに違法な品物が並べられている。以前行ったときと変わらない。最後の段を下ると、人の流れに沿って通路を進んだ。密輸品の店、危険な植物を売る店を横目に、あるテントの前に立ち止まった。受付の台の向こう側には円形のテーブルがあり、カードが並べられている。そして台の中央に金貨の山が積まれていた。彼らの言葉を信じていいのかは分からなかったが、他に当てがあるわけでもなく受付の前に立った。受付の男性は綺麗な黒の格好をしているが、隙間からのぞく肌には傷跡や縫った後が見える。荒事を生業としているのは明らかだった。彼は快く思わないような視線で一瞥した後、口を開いた。

 

「ここがどういうものか分かってないなら、帰った方がいい」男は冷たく言い放つが、懐から硬貨の音を鳴らす袋を出すと、見る目をがらりと変えた。

「入っていいぞ」

 

 テントの中に入り、複数あるテーブルを一つずつ見ていく。手前の席は銅貨や銀貨など、比較的安い賭け金が設定されている。奥に行くにつれてレートは上がっていくようだった。そして彼が言っていた金貨十枚のテーブルは一番奥にあった。座っている人々をざっと見渡してみると、カードを配る役割の者、遊んでいる者が五人ほど。そして彼らの背後には男達が立っており、時折テーブルを注視していた。遊んでいる者たちは、上品な恰好をした老人、労働者らしい肌の焼けた男、目が血走っている若い男など。特に目を引く者はおらず、普通の客に見えた。

 

「参加したいですか?」カードを配る役割の男が話しかけてきた。

「ええ」金貨十枚を渡しながら答える。

「では、あちらへ」男は手で空いた席を指し示した。椅子を引き、席に着くと目の前にチップの山が積まれた。

「ブラインドだ、お嬢さん五枚払ってくれ」老人の男性が言う。山から左手でブラインド分を中央に置いた。

「珍しいな、若い女がこんな席に来るとは」別の男性客が私を見て言った。

「待ち合わせがてら、ね」適当に答えるが目が血走った男は私の方を無言でじっと見ていた。

「では、始めます」男はそう言うと、カードを配り始めた。二枚のカードが目の前に配られ、カードを伏せた状態で親指と人差し指でつまみ、他人に見えないようにカードを見た。

 

 ハートの5とクローバーの10、この時点では勝負したくない。他の人も見られないよう伏せたままカードを見ている。配り終えると他の人達はチップをじゃらじゃらと手癖で遊ばせていた。

 

 順にコールとレイズの掛け声が鳴る中、談話を始めた。老人が話しかけてくる。

「お嬢さん、経験は?」

「多少。それにしても良い服ね」装いに目を配せながら言った。街の上位階級の詳細はあまり知らず、雰囲気で推測して発言した。

「若い頃は稼いでいたからな」老人はにやりと笑う。

「何の仕事を?」

「鉄の筒をひたすらに作っておった。需要がずっと減らず、食うには困らんかったよ」老人は懐かしむように言った。

 

「今は?」続けて聞く。

「子に工場を譲って退いた。ときどき議会で口出しするくらいさ。まあ、議員の連中が発言してくれと金と一緒にせっついてくるから、仕方なくな」

 

 老人が話す間にもゲームは進み、配り役が私の方をちらと見た。レイズ宣言はなかったので手でパスと合図を出すと、配り役は場に三枚のカードを公開する。

 

 ハートのクイーン、スペードの5、スペードの4、今成立できるのはワンペアのみだ。勝てる見込みはあまりない。三人は勝負から降りて、他はパス。しかしチップを七枚置いてベットした。

「お嬢さん、強気だな」老人はにやりと笑いながら持っていた二枚を配り役に戻した。

 

 血走った目の男がさっきからじっと私を睨んでいた。強気な姿勢に出たことを訝しんでいる様子。彼はチップを置いてベットした。

 

 配り役が一枚公開する。クローバーのクイーン、これでツーペアとなるが、まだ勝負したくない手だった。血走った男は大量のチップをベットし、威嚇するように見た。

 

「あの工場を知らない?」老人に尋ねる。

「ふむ」関心を引いたので、押してみる。

「兵器を生産している工場よ」

「大砲や銃を製造しているのは聞いたことがあるが、そういうものは知らんな。大型の兵器を作るなら、大体王国から許可をもらわなならん。許可なく作れば、すぐに軍が飛んで来る」

「許可なく作っているという噂を聞いたことがある?」

「いや、知らんな。しかし、王国とこの街の議会は水面下で対立している。旧帝国派閥も議会内にいるから、兵器を作っているという噂が流れてもおかしくはないだろう。工場は旧帝国派閥の資金源になっていると聞いたことがある」

 

「そう。ありがとう」老人に礼を言った後、血走った男を見た。彼は相変わらず私を睨んでいた。大量のチップをベットし、男の誘いに乗っかる。

 

 配り役がカードを公開した。クローバーの2、結局ツーペアで終わった。

「オールイン」血走った男は気味悪い笑い声を響かせながら、チップの山を差し出した。

「私も」そう言うとチップを全て置いた。

「では、ショーダウンです」

 

 配り役が宣言すると、まず先に男がカードを公開する。スペードのクイーン、ダイヤの4、つまりフルハウスだ。全員が私を注目していたが、肩をすぼめてカードを捨てた。

「おめでとう、あなたの勝ち。楽しかったよ」

 

 血走った男はまた気味悪い笑い声を響かせてチップを総取りする中、席を立ち上がる。

「一切顔色を変えない演技は良かったが、あの男には見破られていたようだな」老人が口角を上げながら言った。

「そろそろこれで」

 

 結局、工場の情報は何も見つからなかったことに心の中で腹を立てつつ、出口へ向かおうとしたときだった。ある女性と目があった。赤い髪に特徴的な長めのコート、そして鷹のような鋭い目。間違えるはずが無かった。

「どうしてあんたがここに……」

 

 思わず声が上ずる。女は私の顔を見て、笑みをこぼした。

「あんだけ派手にやったのに、またこの街に来たのか」

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