女剣士と女勇者が出会うまでのお話   作:____―--

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「これは私がやる。二人は下がって」

 そう言うと剣を抜いて男の方へ歩き出した。男は灰色の髪を伸ばしており、目は布で隠されている。両腕は包帯が巻かれ、肌が見えるのは顔だけだ。

 

 一歩踏み出したところで、突然緊迫感ある音と共に天井から赤い光とサイレンが響いた。

 

「なんだ?」シドが呟く。

 灰髪の敵から目を離さずに、口を開いた。

「コード入力は完了したのね」

 

 男は何も答えず、ただ佇んでいるだけ。目は布で覆われているが、私のことが見えているような雰囲気があった。

「あなたのナンバーを教えなさい、チルドレン」敵意一色の声で告げると、男はゆっくり口を開いた。

「サード、ナンバーは三。ゼニス、お前は見えるのか?」彼もまた私をゼニスと呼ぶ。

「いい加減、ゼニスとは何なのか教えて」

 

 ふっと鼻で笑うと、突然走り出し飛び掛かってきた。黒いローブで今まで見えなかったが、足は刃物のような、黒く気色悪いてかりを放つ爪が飛び出していて、跳躍も人間離れしている。襲いかかる刃を剣で受け止めはじき返す。

「答えなさい」

 

 そう告げると、男は喉を舐めるような声をだした。

「ゼニスとは、プロジェクトの最後に作られた"みなしご"だ。名前も持たず、番号と血を流す力しか持たない。それがお前だ」

 

 そんなはずは無い。両親は居たが捨てられた。いや、売られた。名前もアイラという、くれたものがある。

「嘘だ」

 

 再び飛び掛かってきた。剣を振り下ろし、爪で受け止められる。そのまま鍔迫り合いになるが、滑らせて流すと、男は壁に足をクモのようにつけた。

「愛なきお前に、激情と死を。背けるな」再び向かってくる。剣を突き出すが、するりとかわされ、男の爪が私の心臓を狙った。刃が胸をえぐる前に、鎧を形成して防ぐ。間髪入れずに蹴りを繰り出すが、男も素早く蹴って対抗し互いに後ろに吹き飛んだ。

 

「お前も俺と同種だ。"オーバークロック"ぐらいは使えるだろう。だがお前は使えていない」

 言葉に何も答えず、ただ剣を構えて相手を見据える。

「だから、教えてやる」

 男の姿は消え、目の前にいた。咄嗟に剣で防ごうとするが、爪は剣を通らず、黒鎧を簡単に引き裂いて黒いかけらが宙を舞う。さらにあった胸当てが刃を防いでくれたが、防具は使い物にならないほどの跡をつけられた。

 

「更にいいことを教えてやる。殺しの調べ(キラーチューン)を知ってるか?」

 答えずに剣で男を攻撃するが、身軽にかわしていく。

「魔法も超能力をも超える、殺しに特化した力だ。言葉が、音が、リズムが、空気の震えが、一瞬で莫大な力へ変わる。だが、お前は使えない」

 

 男は再び消えると背後を取られ、爪がわき腹に、血が飛散した。

「汝のかたきを愛せないお前に授けよう。溶けゆく酸性雨を」

 蹴りがわき腹に突き刺さり、壁に身体を叩きつけられる。すぐさま立ち上がって走り、男に向かって剣を振り下した。斬ることなく、奴は正面、距離を取って私を睨む。

「見せてやろう、殺しの調べを。闇より深く、『ディー・ティー・ディー』」

 

 その言葉を聞いた瞬間、感覚が一瞬で消え去った。何も見えない、聞こえない、感じない。舌の上をなめる血の味すらない。世界が映ろになり、全てが無に変わっていく。心の中に波が何度も押し寄せ、黒く染めていく。

 

 そういえばと。ある実験を聞いたことがある。目を隠し、耳栓をさせ、触覚を遮断させるものをはめさせ、なるべく外界からの情報を与えないようにする。すると感覚が狂いだし、精神にも異常をきたした。今がそうだ。五感全てが奪われ、ただ暗闇と無音の世界が目の前に広がっている。戦いがどうなっているのか、二人はどうしたのか。何も分からないまま、ただ暗闇の中に浮かんでいた。

 

 彼の放った謎の言葉、『ディー・ティー・ディー』とは何なのか。本来魔法は手を動かすことで、行使できるものだ。では、両手を失った魔法使いはどうなるのか? 答えは簡単、アンキャスト。だが、男は確かに魔法のようなものを使った。これが魔法かと言われれば、あまりにも強く異質。

 

 そもそも口で行使できるのなら、北の大陸にいる魔法使い集団がとっくに使っている。男は同種と言っていたが、なら私も殺しの調べというものが操れるのか。『ディー・ティー・ディー』と唱えれば、あの化け物じみた力を手に出来るのか。

「ああ、"プロテクトプログラム"はやく作られないかな」

 

 心の中、無意識に呟く。「プロテクトプログラム?」そんなものは初めて聞く。言葉の響き自体が、まるでこの世界ではない別のユニヴァアスのもののように感じる。だとしたら私はなんだ、奴の言っていたことがもしかして本当に正しいというのか。

 

 途端、急に感覚が戻った。これまでの間は一瞬しか経っていない。サードという男が包帯をほどいており、ケロイドだらけの両腕から黒い霧が吹き出たり、無数の槍のよう貫くエネルギーが襲いかかろうとしているのが、今までより遅く見えて感じた。

 

 身体は思うように動き、私だけが世界から切り離されたような感覚はもうない。左手の剣を逆手に持ち、サードに向かって走り出す。奴から放出される力が貫こうとするが、ブリンク使いながら前に飛ぶ。

 

「なに?」サードが驚きの声をあげる。エネルギーは私の体を通り抜けていきそのまま走ると、奴に三回の斬撃を繰り出した。一撃は右腕を、二撃は左腕、最後は上半身と下半身を。これで目を覆った男の全てを斬り伏せた。

 

 胴体と頭のみが吹き飛び、床に転がる。サードは私を見つめると、ふっと鼻で笑った。

「見事だ」

 

 剣に付いた血を払うと鞘に収める。

「だが、心というものがない。記憶を肉に詰め込んだだけ。それがお前だ」

 

 サードは言葉を最後に動かなくなった。何も答えず、ただ死体を見つめる。確かめるように左手を目の前に持ってくるが指は五本ある。

「心が、ない」

 

 振り返れば、砦から自由になるまで心というものがなかった。いや、知らなかったのだ。世界を飛び回って放浪するうちに、心を少しずつ作り上げていった。しかし、それも偽りだったというのか。

「おい、黒のおじさん。目開けられるか?」

 

 シドの声で二人の方に顔を向ける。彼らは横になっていた状態から身体を起こしている最中だった。

「ええ。良い悪夢を見せてもらいました」

 

 口を叩くアスターの表情は忌々しさの嫌悪感をにじませていた。

「二人ともどうしたの」

「アイラはかからなかったのか? あの変な男が謎の言葉を言った瞬間、俺達は感覚がなくなった。目が覚めたらあんたが奴を斬り倒し、立っていた」

「私もかかっていた。すぐに解けたが」

 

 この空間に居た奴以外の人間全員がかかっていたが、抜け出せたのは私だけだった。もし彼を仕留めなければ、私たちは永遠に闇の中で発狂し続けることになっただろう。

 

「守りの魔法は可能な限り皆さんに授けていましたが、それをもってしても防ぐことができなかった。まさかそれほどまで抵抗を貫く力があったとは」

 アスターは悔しそうにつぶやく。

「あれは一体なんだったんだ?」シドがたずねる。

 

 サードという男の詠唱、『ディー・ティー・ディー』というものに何か秘密があるに違いない。

「三文字を言っただけであれほどまでの効力をもたらすとは。魔法ではないでしょう」

 

 アスターも言葉がなんなのか、全く分からないようだ。異常ないか確かめあっていると、シドが気づいたようにハッと顔を上げる。

「おい、どれくらいの時間が経った!? 俺達はプラットフォームへの経路を確保しなければ!」

「ああ、それなら安心してください。時計で計っていましたが、まだ十分程度しか経っていませんよ」

 

 彼の言葉にシドは呆然とし、口をあんぐり開けた。

「十分? 俺は三時間近くあの暗闇にいたぞ」

「あやつに体感時間を狂わせられたのでしょう」

 

 暗い男は呟きながら立ち上がり、黒い服についた汚れを払った。

「さあ、階段を下りて行きましょう」アスターが歩き出すと、シドは私に顔を向けた。

「やっぱりあんたは強かったんだな。正直、いなかったら俺らは死んでいた。一分でかたをつけるなんて、流石だ」

 剣士は称えながらアスターの後を追った。

 

 わき腹を見てみたが、自然治癒によって傷口は塞がっていた。胸当ては三つの平行線に切り裂かれた傷が残り、使い物になりそうもない。

「アイラ殿」アスターが階段の前で立ち止まっていた。

「考えごと、気にしないで」

 

 階段を降りていく。サードの言った言葉が頭の中で何度も繰り返される。殺しの調べ、心のない人間、そしてゼニスとプロジェクトとは一体何なのか。今考えても解決しないとはいえ、疑問が次々に湧き出ていた。

 

 

 地下九階、獣を斬っていきながら、プラットフォームへの経路を進んでいく。アスターの言葉によれば残り十五分ほどで、この施設は爆破される。

「地図を見る限り、あともう少しだな。ただ、嫌な予感がする場所が一つだけある」

 

 シドの言葉にアスターも頷いた。

「ええ、私も同じです。プラットフォーム前の大きな空間、戦力を投入するにはうってつけの場所です」

 

 彼の言葉のとおり、施設内の最後の戦闘区域が近づいてきていた。ここさえ抜ければ、私たちの役割は完遂できる。獣たちを切り刻みながら目的地に駆ける。

「そろそろ、危険区域に足を踏み込む。警戒を怠るなよ」

 

 あと一歩というところで、シドは二人に警告した。

 そして空間に足を踏み入れた瞬間、アスターが叫んだ。

「遮蔽物に! 上から来ます!」

 

 獣は全て消し去ったはずだ。シドとアスターは左、私は急いで右の突起したコンクリートに身を隠す。すると天井を突き破り、上から何かが降りてきた。それは獣ではなく、超重量。鉄の塊で、六本の足を持ち、そして大量の兵器をぶら下げている。二つの砲台から銃弾が降り注いだ。

「なんだよあれ!」隠れたシドが叫ぶと、アスターは冷静に答えた。

「ジャガーノートではありません。さっき見て来た資料によれば、ドレッドノートでしょう」

 

 牽制として斬撃を二回飛ばしてみるものの、弾かれてしまった。

「刃物も効かないんじゃ、どうしろってんだ!」

 

 シドはぼやくと、アスターが召喚し、囮の魔物を複数放つも一瞬で砕けてしまう。

「連射砲が二門もあります。サモンは使えないでしょう」

 

 彼は冷静に分析する。

「ブリンクを短い間隔でできたら……」考えていることを否定するようにアスターは首を横に振った。

「すぐに疲れるでしょう。それにあの兵器の弾速と威力では、ブリンクを使っても被弾します」

 

 暗い男の指先から魔法を放たれる。電撃放つボルトが兵器に直撃すると、一瞬だけ動きが止まった。だがまたすぐに動き出す。ドレッドノートは大きな大砲を二人が隠れるコンクリートに向けた。爆発で突起を破壊されるのは予想に難くなかった。

 

「危ない!」

 ブリンクを使い、遮蔽物から飛び出して二人を抱え、柱へ。隠れていた突起のようなコンクリートは爆風によって砕け散る。

「運が良かった。弾をもらってない」シドは冷や汗をかきながら言う。

「ええ、ですが次が来ます」

 

 ドレッドノートを止める方法を考えていた。以前、ジャガーノートは中心部分に当たる部位に剣を突き刺し、破壊した。今回も同じことをしてみようかと六脚の兵器を見てみると、奴の上部に薄い金属板がある。そこを引きちぎり、内部を刺せば、破壊できるかもしれない。問題はジャガーノートよりも砲撃の手を休めないドレッドノートが相手ということだ。彼我との距離を詰められるだけの時間があるだろうか。アスターの囮を召喚する程度では稼げない。

「残り十分です!」

 

 アスターが叫ぶ。時間はなく、どうしたものかと頭を悩ませた。そのとき、六脚の兵器に爆発が起こった。次に魔法の電撃が巨大な鉄塊に直撃する。

 別の方向からファイとマティンが走ってきて合流する。

「あれれ~? 三人ならもう倒していると思っていたんだけどな~」

 

 彼女がへらへらと笑いながら魔法を放つ。

「ジャガーノートよりも厄介よ」ファイは頷く。

「このまま脱出してもいいが、追いかけられて列車を破壊されるのはごめんだ。ここで仕留めるぞ」

 

 コートの女は雷の弾薬をマスケットの中に込めていく。

「時間を稼いでほしい。二秒あれば、あいつの上に乗って一気に内部ごと破壊できる」

 そう言ってファイに頼むと、彼女は難しそうな表情をしながらも、頷いた。

「機があれば、だ。できる限りは」

 

 マスケットを撃ち、なるべくドレッドノートに弾が当たるようにするが、やはり防がれてしまう。

「うーん、立ち位置が悪いな~。よし」

 

 マティンは魔法をずっと溜め続け、そして放つ。その瞬間、世界は一気に止まった。ファイも、他の皆も動きを制止し、銃弾も兵器も停止している。ただマティンだけは堂々と中央を通って、対の柱に隠れようと移動していた。

 

「今のうちに~っと」

「これはどういう?」声をかけると魔法使いは目を丸くして私を見た。

「なんであんたが動けている!?」マティンは口調を崩し、驚きの声を上げた。

「いけなかったの?」

「いや、そうじゃない。でも……あっ、早く登って倒すんだ!」

 

 言われるがまま、ドレッドノートによじ登る。止まっていればなんてことはない。だがのぼりきった瞬間、世界が動き出した。

「アイラ降りろ! 狙われている!」

 ファイの声と同時に銃が向けられ、発砲。ブリンクを使って抜け出し、弾を避けながら柱に隠れる。

 

「マティン、さっきのもう一度できる!?」

「ごめん無理! 使ったのは"タイムストップ"で、世界を止めるもの。最上級魔法だから、一度使うとすごい疲れるんだよ、本当にごめん! 動けるとは思わなくて!」

 

 マティンは申し訳なさそうに手を合わせて謝った。ファイが柱の陰から、六脚の兵器に爆発する弾を撃つが、やはり効果がない。

「残り五分です! 脱出するか、早急に倒さなければ!」

 

 アスターが叫ぶ。その声は焦りを含んでいた。

「ああ、分かっている!」ファイは柱に隠れながらドレッドノートを狙い続けるが、銃弾は全て弾かれてしまう。

 

「誰か、何かいい手段はないの!」そう叫ぶと、マティンが歯切れ悪く答えた。

「あるには、あるんだけど……」

「早く言って!」

「でも、危険だよ」

「いいから!」

 

 怒鳴るように言うとマティンはため息をつきながら、口を開いた。

「一時的にだけど、透明になれる外套がある。でも欠陥がひどくて……」

「なに!」

 マティンはたじろいだ。

 

「ふ、服を着ていると効果がない! 裸じゃないと! しかも、時間短いし!」

「寄越して!」

 胸当てを外し、靴や外套を脱ぎながら、彼女に言う。

「えええ!? 本当にやるの!?」驚きの声があがるものの、叫んで返した。

「やらなきゃ死ぬ、それだけよ!」

 

 魔法使いから外套をひったくると、ズボン、シャツを脱ぐ。下着を外したら、裸になって羽織ると、マティンが叫ぶ。

「あーもう、どうなっても知らないからね!」

「全員、なるべく足止めをして! あいつに乗り込む!」

 

 声を合図にファイが柱から飛び出し、銃弾を連射した。

「野郎ども、アイラを見ないように足止めしろ! 見た奴は蹴っ飛ばす!」

「……ええ」

 

 アスターが困惑しながら魔法を放つ。全員が電撃をドレッドノートに浴びせ、足止めをしたら、外套の能力を使い、物陰から飛び出した。兵器の足元の隙間を姿勢を低くして、走り抜ける。砲台の注意は他に向いており、透明になる外套は問題なく機能している。

 

 よじ登って上部にある板に両手をかけ、一気に体重をかけて引きちぎった。そこで透明化が切れてしまい、二つの銃が向けられていた。

「アイラ、早く!」マティンが叫ぶ。

 

 板を引きちぎった勢いのまま剣を抜き、内部で操縦する獣化した人間に突き刺した。

「間に合って!」

 

 叫んで、最後に爆弾を投げ入れブリンクで脱出した。隠れ終えると、兵器は何度も爆発を起こし、鉄くずへかえていく。

「ようやく、倒せた」そう呟くと、力が抜けてきた。しかし終わりではない。

「まだだ、列車に乗り越むぞ!」

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