女剣士と女勇者が出会うまでのお話   作:____―--

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傷ついた大地

 王国と帝国の間には国境があった。今となってその国境は、かつての名残として存在するに過ぎない。残されたのは悲惨な戦争の傷痕だった。少女とハーフリングの女性は、元々あった国境線付近を歩いていた。二人は放浪の旅をしていた。

 しばらく歩くと、リンズィーは鼻をひくつかせた。強烈な臭いが漂ってくるのだ。

 

「死体の臭い……」

 

 アイラはそう呟いて顔をしかめた。見上げるとそこには首を吊られた男の死体がある。首吊り死体は道に沿うように多く吊るされていた。この辺りで戦争があったことを知っている者ならば、誰もが知っている光景だ。

 

「……っ!?んぐっ……」

 

 リンズィーは慌てて口を押さえた。しかし遅かった。嘔吐感に苛まれた彼女はその場にしゃがみ込む。そして胃の中のものを吐き出した。鼻に入る死体の臭い、残酷な光景、平和慣れしている彼女にとってそれは耐え難いものだった。

 

「大丈夫?」

 

 アイラは心配そうな表情を浮かべて彼女の背中をさする。

 

「ごめん……もう平気」

 

 リンズィーは青い顔をしながら立ち上がった。

 

「こんな場所早く抜けましょう」

 

 ハーフリングの女性は頷いた。

 国境付近は極限状態にある。前に大規模な衝突がここであったからだ。麦が実る景色は一瞬で泥沼となり、多くの兵士が命を落とした。道を外れれば放置されたままの兵士の死体が無数にある。そこに死体を喰らう魔物もいるため、誰も近寄ろうとしない。そんな場所に好んで足を踏み入れる者はいないだろう。アイラは首吊り死体の列を見ながら歩いていく。地位が高いと思われる帝国の兵、肌が紫色になっている帝国兵の死体が多い気がした。

 

「見せしめね」

「そうなの?」

「将校を見せしめにしたり、捕虜に憎しみ、恨みなどをぶつけて殺したんでしょうね」

「やめてくださいよ、そんな話……気分が悪くなります」

 

 リンズィーは嫌悪感を示した。

 

「でも私達には関係無いこと。さあ行きましょ」

 

 アイラはそう言って歩き出した。リンズィーもそれに続く。道外れを見れば戦場跡が広がっている。焼け焦げた大地、血肉がこびり付いた剣、折れた槍などが散らばっている。死体の中には帝国軍のものもあれば、王国のものもある。どちらにせよ酷い有様であることに変わりは無い。そこに死体を喰らう魔物、グールがいた。彼らは兵士の死体を喰らうことで生き延びているようだ。

 

「ねぇ、魔物が居るよ?」

 

 リンズィーがグールの方に指をさして言った。

 

「無視しよう。気づいてないし」

「アイラさんは魔物なら全部倒すと思ってた」

「臨機応変にだよ。今ここで戦ったって他のグールに殺されるだけだし」

「それもそうですね」

 

 リンズィーは納得すると再び歩き出す。それからしばらく歩いていると、二人の耳に悲鳴が届いた。声は男の声だった。どうやらまだ生きているらしい。二人は急いでその場に向かった。そこは森の中で、木に隠れながら様子を確認することが出来た。そこは男が腕と足を縛られた状態で倒れていた。その周りでは三体のトロールがいる。

 

「助けないと!」

 

 リンズィーは飛び出しそうになるがアイラはそれを止めた。

 

「よく見て!下手に突っ込んだら同じ目に合うよ」

 

 男は恐怖で涙を流しながらも必死に叫んでいる。

 

「誰かぁ!!頼むぅ!!」

 

 アイラは木に登り始めた。彼女はリンズィーに目配せをする。リンズィーはクロスボウを構えて合図を待った。そして、アイラは手を上げ下げする。それを確認してからリンズィーはボルトを放った。放たれた矢はトロールの目に命中し、彼は絶叫を上げた。同時にアイラは剣を持って木の上から飛び降りた。着地と同時にトロールの首を切り落とすと、もう一体は腕を振り回しながらこちらに向かってきた。アイラはその攻撃をひらりとかわすと、そのまま腹部を一突きにした。トロールは倒れ目にボルトが刺さった一体は逃げ出そうとするが、リンズィーが放ったもう一発のボルトによって頭を貫かれた。安全を確保したアイラはすぐに男の縄を切る。

 

「ありがとうございます……」

 

 男は震える声で感謝の言葉を口にした。

 

「怪我はないですか?」

 

 リンズィーが男に手を差し伸べるが、男は大丈夫だと首を横に振った。

 

「何があったの?」

 

 アイラは男から事情を聞くことにした。

 

「俺は……帝国軍の敗残兵だ。戦争が終わってからはずっとこの森で隠れて暮らしていたんだ」

「どうして捕まったの?」

「食料が欲しくて……村からこっそり盗もうとしたんだよ。それで見つかって……」

「しかもそれが憎しみ深い帝国軍の兵だった。村の人々は縛り上げて魔物の餌にするつもりだったのでしょう」

 

 アイラは男の話を聞いて推測した。しかし、それは当たっていた。

 

「ああ……そうだ。だから俺も覚悟していた。だがあんたらは違った」

 

 アイラはポーチから干し肉の束を男に渡した。

 

「これしかあげられないけど。帝国軍だって分かるもの全部捨てて西へ逃げた方がいい。西側は多分安全だから」

「ありがとう、そうするよ。少ししたら逃げる」

「ええ、さようなら」

 

――

 

 二人は村に到着した。村の様子は寂れていて、畑は土はけが悪かった。村人達は疲れきった表情でそれぞれ作業を行っている。近くの柱に貼られた紙には、王国からの命令が書かれていた。内容は作物の収穫量を増やすことと、指定された作業をすることだ。命令に従わなかったものは鞭打ちの刑に処されるようだ。

 

「ここは、元帝国領の村だったのね」

 

 アイラは村の様子を見て呟いた。

 

「元国境付近は荒れているって言ってたけど、こんなに酷くなっているなんて」

「敗戦国の村よ。こんな状況になるのは当然」

「これが戦争なんだ……」

 

 リンズィーは俯きながら言った。

 

「歓迎してくれそうな雰囲気では無いね。物資を調達したら直ぐに立ち去ろう」

 

 少女は村の人達の様子を見つめながら言った。

 

「ごめんください、旅をしている者ですが」

 

 アイラがそう言うと一人の女性がやってきた。

 

「すいません。ここは泊まれる場所が無いんです。それに今は配給制なのでお渡しできる物もほとんどありません。申し訳ないのですが他所に行って頂けるとありがたいのですが……」

 

 女性は頭を下げた。

 

「分かりました。ではこれで」

 

 アイラは建物の外に出ると、リンズィーに向かって首を横に振った。

 

「えー……。夕食抜き?」

「仕方ない。東の町についてからいっぱい食べよう」

「人間は知らないと思うけど、ハーフリングは一日に沢山食べるのよ?朝食二回、昼食二回、紅茶の時間に夕食一回。合計六回の食事が必要なの」

「太るよ?」

「全然!私なんて痩せ過ぎているくらいだし!」

「ええ……。それだとハーフリングは人間と比べると太っているということか」

「人間はもっと食事を楽しむべきよ!三回なんて少ないと思う!」

「……とりあえず、この辺は危険よ。ろくに野営も出来ないし……。強行突破、覚悟しておいて」

「ひいぃ……」

 

 空は曇り空、太陽の位置が分からない。周囲は薄暗かった。そんな中、リンズィーの怯える声だけが響いていた。

 曇り空はまだ続いていた。雨こそ降っていないものの、いつ降り出してもおかしくはない天気だ。二人は道に沿って歩き続けていた。

 

「私、思うんだよね。さっきの村もだけど、どうにかしてあげられないかなって」

 

 リンズィーは先程立ち寄った村のことを話し始めた。

 

「敗残兵は盗賊になって暴れまわったり、死体に誘われてグールはやってくるし……」

 

 するとアイラは遠い目をしながら答えた。

 

「私も、あなたも、世界を救う事は出来ない。剣を振るうだけで世界を救う事が出来るのはおとぎ話の主人公だけ」

「そんなおとぎ話、本当にあったらいいのに」

 

 リンズィーは雲の向こう側から見えてくる橙色の光を見ながら続けた。

 

「凄い邪悪なものがあって、それを聖騎士様が倒す。そして世界に平和が訪れる……」

 

 アイラはふと、リンズィーの言葉を聞いて思った。

 

(幼い頃に会ったあの子、今はどうしてるのだろうか)

 

 アイラは昔出会ったある女の子の事を思い出していた。

 

――

 

 ふと、金髪の少女は空を見上げた。彼女は魔法で守られた鎧に身を包み、背には聖剣を背負っている。

 

「どうしたの?」

 

 美しいエルフの弓使いが話しかけてきた。

 

「ううん、何でもない」

 

 そう言いながらも、少女の視線は遠くを見ていた。

 

「何か見えた?」

「……幼い頃、一緒に遊んでた友達がいたの。元気にしてるかなって思って」

「そう……」

 

 二人の会話を聞いて、騎士の男が言った。

 

「時々、想いに馳せることがありますよね。僕もそうです」

 

 リーダーの少女は仲間達の方へ振り返った。そこには年老いた、立派な髭をした魔法使いの男、斧を背に背負ったドワーフの戦士、柄の悪そうな盗賊の男性が居た。

 

「みんな、行こう。今日もまた、世界を救いに」

 

少女が歩き出すと、五人の従者達は彼女に続いて歩いて行った。

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