「第49回、織斑一夏会議を開催します」
薄暗い部屋の中、そう告げたのは濡羽色の長く美しい髪を持った女性だった。綺麗に切り揃えられた髪、和服をモチーフにした改造制服、柔らかい雰囲気の大和撫子と呼ぶにふさわしい姿である。
そこに集まっているのは、彼女と同じく美しい黒髪でありながら、逆に凛とした雰囲気の少女、篠ノ之箒。
金髪縦ロールのザ・お嬢様セシリア・オルコット。
茶色がかったツインテールの活発そうな少女、凰鈴音。
金色の長い髪を後ろで結った、中性的な少女、シャルロット・デュノア。
長い銀髪に眼帯、巌のような雰囲気を醸し出す少女、ラウラ・ボーデヴィッヒ
水色のミディアムヘアーで四角い眼鏡型ディスプレイを付けた、儚げな少女、更識簪。
同じく水色のミディアムヘアーで猫のような雰囲気の先の少女の姉でもある、更識楯無。
そして、先ほどの宣言をした議長、月宮
「最初にこれだけは言わせてもらいます。いい加減、一夏が絡むとすぐに暴走するのをやめなさい」
追い回すだけならまだいいが、木刀を振り回したり、ISを展開したり、いきなりキスしたり、一夏にセクハラまがいのことをしたり、こいつら基本的にやりたい放題なのだ。顔を背ける一部の面々、何故か誇らしげな一名。
「だがな、こう、そんな意図がないのはわかっているんだが、所かまわず、女性を口説くさまを見ているとな……」
箒が申し訳なさそうに言うが、声に力が入っていない。木刀を振り上げて追いかけまわすのはやりすぎだと思ってはいるらしい。
「いやね、おねーさんとしては一夏君の反応がいいからつい」
楯無は扇子で口元を隠しながら、バツの悪そうな表情を見せる。
「でもさー、一夏だって、私達の言ってること変に曲解してさ、ちょっと、こうさ……」
鈴の言うことも確かに一理あるのだろう。織斑一夏という男は兎ににも角にも、女性陣の好意に対して曖昧な反応や、曲解した反応しか示さない。さすがに味噌汁を酢豚に置き換えた告白は気付かなくても無理はないかもしれないが。なぜアレンジしたのか。
「そうですわ。一夏さんったら、こんなにも私がお慕いしているというのに……」
セシリアはその前に毒料理をどうにかした方がいい気がするが、それは今は関係ないだろう。
「ベッドに潜り込んでも、すぐに追い出される。嫁はなぜああもシャイなのか」
「いや、さすがにそれは仕方ないんじゃないかなぁ」
ラウラとシャルがそんな会話をするが、明らかにラウラは副官殿に騙されています。てか、無知な少女に変なことを吹き込みすぎです。ドイツ軍のモラルはどこにいった!
「私なんて、好きって言っても、アニメのことだと思われてたし」
簪ちゃんは泣いていい。
「まぁ、言いたいことはわかります。わかりますけど、これだけは言わせてください」
「織斑一夏は私の『彼氏』なんですが?」
ラウラ以外の全員が一斉に顔を背ける。そう、この時空の織斑一夏には彼女がいる。それが目の前の華音である。
「いやさ、皆さんが知り合う前や鈴が離れてる間に射止めたのは悪いと思ってますけど、暴力とセクハラはやめなさい。あと、ISの無許可での展開はいい加減、山田先生の胃に悪いので絶対やめなさい」
ちなみに鈴とは中学時代からの友人兼ライバルでもある。尚、一夏の姉である千冬の胃の心配はしていないらしい。
「まあ、私も、あんたが一夏を射止めた方法聞けば、納得はできるのよ。でも、それでもさ……」
鈴が申し訳なさそうに言うが、射止めた方法とやらを知っていれば誰でもこういう反応になるだろう。
「あの千冬さんに勝利して、真正面から『愛してます』発言だからな。というか、あの人に勝てる人類がいること自体驚きだ」
「教官を下したと聞いた時は、何かの冗談かとも思ったが、あの教官の様子を見れば納得もできる」
箒は話を聞いた時を思い出しながら顔を引きつらせて、ラウラは何が楽しいのか不敵な笑みを浮かべていた。
そう、この華音という少女、鈴がまだこちらにいた頃は普通だったはずなのだが、一夏に告白すると決めて最初に行った行動が山籠もりだったのだ。中学最後の夏休み利用して行った山籠もり、才能があったのか何なのかわからないが、新学期になってみれば千冬に勝てるレベルにまでなっていた。今現在に至っては千冬に無傷で勝利できる有様だ。
中学の二学期に、偶然家に戻ってきていた千冬に勝負を挑み、満身創痍ながらも勝利した。
『織斑一夏さん、あなたを一人の異性として愛しています。あなたの傍で、あなただけを愛することを許してはもらえないでしょうか。そして、できることならば、あなたからの愛を頂きたいです』
と、これ以上ないほど直球で攻めた。千冬に挑む必要? その言葉を倒れながら聞いた彼女の反応を見ればわかります。
『ふっ、お前ならば一夏を任せられるかもしれないな。このバカの愛を得るためにここまでできるのだ。並大抵の困難、いや、天災級の困難すら乗り越えられるだろう』
と、お許しを頂きました。最難関突破である。ちなみに、ラウラのいう千冬の様子というのは、これ以降事あるごとに華音に戦いを挑んでくるようになったことだ。曰く、最強の座には興味がないが、負けっぱなしは性に合わないとのことらしい。
一夏にしても、ボロボロになりながらも千冬に勝利し、傷だらけの身体で凛とした様子で立ち、真っ直ぐに想いを告げられたことが胸にきたらしく、そのままお付き合いという流れになった。
意外と内面で拗らせている彼がそのままただお付き合いを続けるわけもない。普通の少女だった華音がここまで強くなったことに触発されて、彼女を守れるくらいに強くならなければという想いがあったりする。一緒に山に行ったりするくらいにはガチだった。ちなみに、山に行ったときに童貞は捨ててます。
「学園最強って何なのかしらねー」
学園で三番目くらいに強い学園最強の生徒会長さんが遠い目をしていた。尚、最強は諸事情でISを使えず、二番目は教師なので、IS学園最強の生徒というくくりなら、楯無が最強で間違っていない。
「修行パートはだれ気味であまり好きじゃないけど、やっぱり、効果はあるんだ……」
簪ちゃんちょっとアニメ脳。
「それもありますが、華音さんと言えば臨海学校のあれですわ! どういうことですの!?」
この時空では臨海学校は無事終わっている。というか、それ以降の某兎が関わる事件が一切起きていない。兎は某組織に協力もしないし、考えていた計画は全て白紙に戻したし、いまは某国でのんびり余生を過ごしながら、新たな挑戦に勤しんでいる。
「まさか、篠ノ之博士が開幕土下座からの命乞いだからねぇ」
シャルがその時の光景を思い出して、やるせない表情を浮かべる。世間一般には天災とまで呼ばれる女性が土下座して必死に命乞いをする姿は、千冬以外の全員に衝撃を与えた。
『無理無理かたつむり! 四メートル近い熊が頭を垂れて鮭を差し出し、ちーちゃんを無傷で圧倒して、それでも肉体が普通の人間ってナニソレ? 才能とかの次元の話じゃないって、束さんの理解の範疇超えちゃってるんだけど? こんなん土下座以外の選択肢ないでしょ?』
生まれながらのオーバースペックを自称する彼女が、山籠もりだけでそれを超える能力を手にした人物に出会えばこうなるのも仕方ないだろう。それくらい山籠もり前の華音は普通だったのだ。IS? 今なら素手でぶち抜けますが何か?
そんな彼女に束はお手製のISをプレゼントしたことがあったが、ISが彼女の動きに耐えられずにすぐに大破している。束の行っている挑戦というのは、彼女の動きに耐えうるISの作成だったりする。完全に余談だが、この事実を知った某組織のMさんは絶賛山籠もりしていたりする。
「姉さんのあんな姿を見ることになるとは思わなかった……」
今度は箒さんが遠い目をしておられる。
「とにかく、一夏にアタックするのはいいですけど、暴力とかセクハラだけはやめてください。たまに、本気で自分が悪いことしたんじゃないかって悩んでるんですよ」
全員の顔が沈んだ。さすがにラウラも少し凹んでいる。尚、この時空の一夏の態度は鈍感だけが理由ではなく、彼女持ちに粉かける人はいないだろうという思い込みも理由だったりする。
「ていうか、アタックするのは構わないのね」
いち早く、立ち直った楯無がそう告げる。
「だって、誰が来ても負けないように、武もそれ以外も、何より彼との関係を努力してますから」
勝者故の余裕ではない。これは今も尚、彼を離すまいと努力する、一人の女としての余裕だった。
この少女、努力を怠るということを知らない。一夏とレシピを持ち寄って一緒に料理をするとか、千冬の部屋の掃除に協力するとか、必要な場面で手助けをすることを忘れない。それでいて、プライベートは尊重するし、傍にいてほしい場面では傍にいる。
半ばストーカー染みた努力かもしれないが、本人に知られなければ問題ないのである。知られない努力も当然惜しまない。尚、プライベートの千冬のいる場面では名酒を用意し、さりげなくお酌をすることも忘れない。情報源は大切にしないといけない。
「さてと、そろそろ一夏が日課の鍛錬から戻る頃合いですが、皆さんはどうなさるおつもりですか?」
その言葉を聞いて、全員が席を立つ。理由は当然、鍛錬から戻って来た一夏へ自身のアピールを行うためだ。スポーツドリンクやタオルなど、用意するものは多い。我先にと部屋を飛び出していく面々である。
「49回目も特に進展はなし。まぁ、そういう会議でもないですしね」
閉め切って薄暗くなった部屋のカーテンを開け、外を眺める。そこにはまだランニングを続ける一夏の姿があった。鍛錬が終わるのにはまだしばらく時間がかかりそうだ。
「まったく、いつもこうして騙されてるのに、いい加減気付かないものかしらね」
華音以外全員出ていったかと思ったが、『いつも通り』楯無だけは部屋に残っていた。口元には『狡知』と書かれた扇子が開かれている。
「こういう強かさも、彼の寵愛を受けるために必要な努力というものです」
「この会議自体もでしょ?」
楯無の口元は見えないが、互いに小さな笑みを浮かべているのだけはわかった。この意味のあるとは思えない会議も、結局のところ放課後まで一夏にベッタリな面々を集めるための口実にすぎない。
「それに、男の子が一人でがんばってる姿って、興奮しません?」
「そこには同意するけど、まったく、ほんと酔狂よね」
楯無が書類の入っていると思われる封筒を差し出して机に置く。それに目を向けることなく、華音は窓の外を眺め続ける。
「亡国機業は今日も平穏無事に、何も起こしてないそうよ」
「勝手なことをする子達がいないようで何よりです」
「そうね、あなたがあの組織の最高幹部になったおかげかしら?」
「はて、何のことやら」
白々しいと内面で重いながらもそれを口にすることはない。この華音という少女は、武以外の努力も惜しまない。それは裏についても言えることだった。どうやって掴んだのか、どうやって接触し、どうやって組織を乗っ取ったのか、何もかもが不明だが現在、亡国機業という組織において最も高い発言権を持つ幹部となっている。
それも、一夏がISを起動したと知った途端にその行動を起こしたのだ。愛する人の万難を排するために、ただ愛する人が目標に邁進できるように、陰からも支える。
「まぁ、こっちもあなたが味方でいてくれる内は安心していられるんだけどね」
「大丈夫ですよ。あなた方が一夏の敵に回らない限り、私は味方のままですよ」
一夏が絡むと暴走するのは何もここにいない面々だけの話ではない。この少女もまた彼が絡むことにおいては自重という言葉を投げ捨てるのだ。
「えぇ、そうですとも。彼が望む世界を護るためなら、えぇ……。出会ったあの時から、私はすでに彼のためだけの存在なのだから」
(一夏君もほんと、厄介な子に好かれたものね。これじゃ一生逃がしてもらえないでしょうに……)
そう、本人も気付かないまま、彼は彼女に囚われ続けるのだろう。彼女の愛という名の檻の中で、彼は夢を見続ける。彼が望むままに檻は大きくも小さくもなり、必要なものは用意され、不要なものは排除され、どちらでもないものはスパイスの一つとして、残される。
知らなければ幸せで、彼がそれを知ることはない。だからこそ成り立つ愛の関係。だからこそ満たされる少女の愛。少年は今日も何も知らぬまま、進み続ける。訪れるはずだった数多の試練が失われたこの世界で、彼はただ願いだけを胸に歩き続ける。
愛する少女の檻の中で。
はい、タグ通りのヤンデレ最強オリ主です
せっかく最強にするならってことで、あらゆる面で最強にしたててみました
ヤンデレ版メアリー・スーってやつです