そうやってゆっくりと人類は進化してきた
そしてこれからも
一歩、また一歩と進化していくはずだった
なのに、人類は見てはいけないものを見てしまった、知ってしまった
同じ存在でありながら、一足飛ばしに、未来へと駆け上がっていく彼女を
その生き様を
ーーー茅場晶彦
アインクラッド第九十層
そこは、茅場晶彦が告げた離別の階層
そこに現在、キリトこと桐ケ谷和人率いる攻略隊はやって来た
「いやぁ、やっぱこの位の階層になるとボスも洒落になんねいな」
「仕方ないですよ、クラインさん
なんてったって此処は既に、アインクラッド攻略時よりも上の階層なんですから」
クラインのついついこぼれてしまった愚痴に対し律儀に返答するユイ
それでも、パーティーの中ではよくある光景らしく、ほかの人々も和やかに見ている
「でも、もうそんなに来たんだ
私は、SAOを実際にプレイしてないから、変な先入観も持ってないしね」
「あぁ、わかりますよシノンさん
お兄ちゃん達は、「やっぱり、ソードスキルがないのはきついな」とか偶に言ってますから」
ALO出身であるリーファと、GGO出身であるシノンはそれがなくて当たり前のものという感じではあるものの、そもそもこの世界で生死の境で戦ってきたほかのメンバーにとっては、違和感しか持たないのだろう
実際今の会話に対し、リーファ、シノン、ユイ意外の全員は苦笑いを浮かべているのみであった
「そろそろ、九十層につきますよ」
先頭をリズベットと一緒に歩いていたシリカが後続の集団に対して声をかける
この先は、本来、茅場晶彦がいないことを前提に作られているはずなので何が起きしかし、別の言い方をするのであれば今のアインクラッドにおいて過去とは決定的に違う物がある
それは、飛行と魔法である
さすがはというべきか、茅場晶彦の製作したSAOはあまりの完成度の高さ故に調整をすることが不可能であった
そのため未だに、敵のモンスターは物理攻撃しか撃ってこない上に、空中を飛び続けることも無い
回復には結晶を使わなくてはいけなく、結晶無効化フィールドも今や大した脅威ではなくなってしまった
それによりダンジョンとしての難易度は低くなってしまい、此処までの道筋でキリトやアスナ、クラインといった元SAO最前線プレイヤーは一度も死ぬことは無く、シリカやリーファといった最前線では無かった者や初めて参加する者たちも死亡回数は僅か一桁であった
しかし、何度も言うようだがこのSAOを作った茅場晶彦は天才という異名に相応しい実力を持つ人物であった
彼がその程度も予測することが出来ないはずも無い
そんなことは露とも知らず、キリト達はようやく九十階層の大地を踏みしめた
「うわぁ」
「きれい」
「すごいな」
「マジかよ」
「・・・」
口々に感嘆の言葉が出てしまう一行
しかし、それも無理は無いことだった
アインクラッド第九十階層・古代図書館
その名が示すとおり設定上は、滅亡した太古の文明の遺産という位置づけになっている
概観は正に深緑と図書の融合というのに相応しい
森の木漏れ日が当たる場所や、うろの中、果ては流れている川の中心にある浮島のうえにまで本棚が存在し、鳥の鳴き声や魚の跳ねる音、鎧が軋む音など様々な音が静かに、だけれども確かに調和した空間を形成していた
「さっすが、アインクラッド
惚れ惚れしちまうようなグラフィックだな」
「このスクショだけで、相当な話題になるぞ」
「そういう無粋な考えは余計だと思いますよ」
「悪い悪い
どうも昔の癖が抜けなくてな
赦してくれよ、リズベット」
「それよりも敵の反応はある?」
「いや、無いみたいだ
八十五階からいきなりダンジョンということもあったけど、この階層はそうじゃないみたいだ」
景色に見ほれる者
敵を警戒する者
話題を供給しようとする者
そして、優雅にお茶を飲む者
「いや、ふたつだけ反応がある」
「!!
何処!!」
キリトの言葉に、シノンが反応し剣を抜く
しかし、もしも相手が敵だった場合その反応は遅すぎ、もし相手が味方だったのならば
「茶会の席に物騒な物を持ち込まないで欲しい、な」
「まぁ、いいんじゃないかな~」
それは、あまりにも滑稽に映ることだろう
会話をするように発せられた二人の男女の声
その内の男の声は、キリト、アスナ、クライン、エギル、リズベット、シリカ、そしてユイにとっては聞きなれた声であり、同時に忘れることが出来ない物であった
「茅場・・・晶彦・・・」
振り返ったキリトの顔が驚愕に染まる
彼は確かに、茅場晶彦がしんだことを知っている
それと同時に目の前の人物が茅場晶彦本人だと直感が認めてしまっている
その矛盾により、他の全員も動くことが出来なかった
しかし、そんな事を当の茅場晶彦は気にもしなかったようで、何時もどおりの白衣姿でティーカップを持ち、優雅に紅茶を飲んでいる
緊迫した空気がその場を取り巻く
得体の知れない物との遭遇
人類としての本能が危険信号を発し続けているの
そんな一触即発の状態に一石を投じる人がいた
それは、茅場晶彦の対面に座っている着物姿の女性であった
「とりあえず、皆座ったら?」
その言葉の通り人数分の椅子が何処からとも無く出現する
だが、そんな事を言う女性の姿もまともではない事が、その意見に素直に従うことを出来なくさせていた
両手は胸の前で拘束され、鎖で何重にも巻かれた末、直径五十センチメートル程の鉄球らしき物を四個ほど錘として付けられ地面に転がっている
目は包帯のような物でぐるぐる巻きにされ、まともに見えているとは到底思えない
異様
その一言に尽きる姿だった
しかし、彼女の纏っている雰囲気は楽天的そのもの
悪意などあるわけもないかのような雰囲気をにじませている
そして、彼等の良くわからない、目に見えない攻防がおおよそ二十分ほど続けられ
キリト達は席に着くことになった