但しびっくりするほど短い。
数分後にはマテリアルも出します。
薄れて行く意識の中で、イアソンは思考の渦に呑まれていた。
果たしてこの結末は正しかったのだろうか。
成る程、自分が定めた勝利条件には合致しているだろう。
結果的に誰も死ななかった。…自分を除いてだが。
それにしても不謹慎ではあるが楽しかった。
幼年からの目標だったものに手が届いたのだ。それはもう心躍るのは仕方無いと言っても良い。
この、
そんな
何れ程の耐久力を持っていても、仮に別の場所に逃げる手段があろうとも、ソレが仮に概念的存在でも、神秘的な繋がりさえあれば、この星に準ずるものであれば、確実に討ち滅ぼすことができる。
正に権能らしく、「相手が如何なる存在でも、理不尽に叩きのめす」という出鱈目な力。
意図したものでは無いが星の
上も下も解らず、果たして今の自分が人の形を保っているのかさえも解らない。
辺りは光の見えない暗闇で、自分が何処にいるのかだって勿論知らない。
そして再び思考に耽る。
―――悔いは…有るだろうか。
結局約束は守れずに終わり、後の世ではトロイア戦争が発生する。平和なんて数年で消え去るだろう。
でも、言いたいことは伝え終えたし、どうせ
そう、だから悔いは――――――
――――――いや阿呆か。
もう会うことは無いだと?否、否である。
この世界が何たるかを思い出せ。
型月だ。英雄の座があるのだぞ。
黒歴史確定ではないか。
終わった。もしこれから自分が召喚されて皆と出会う事が有り、その時に微妙な顔をされよう物ならショックでその場どころか座の本体毎消滅してしまうまである。
そう、例えるならアレだ。
「格好いい詠唱を考えて叫んでいたのを親に見られてしまった」的なやつとか、「自作小説を連絡帳と間違えて学校の先生に提出してしまった」的な奴だ。
それからもう三日は布団の中に包まって出てこれない的な経験をした同士は沢山いるのではなかろうか。
自分はどうか?……厨二とは恐ろしい病気だ。察しろ。
そして先程から暗闇が続き過ぎではなかろうか。
故に問う、何時此処から変わるのかと。
その問いかけに応じる様に、周囲はうねり、とある風景が映し出されて行く。
尤も、最初からこの場は存在しており、彼自身がソレを認識していなかっただけかもしれないが。
◆
「うん……?」
まず最初にイアソンの目に映ったのは……木だった。
否、正確には木材だ。スポーン地点を間違えたらしい。
何歩か下がって、その全貌を確認する。
その正体は―――
「アルゴー……?」
男の眼の前にあったのは、全長五十メートルをゆうに超える巨船の姿があった。
辺りを見回すと、此処は何処かの、
どうやら男の英雄の座の心象は、「統治した国イオルコスと自身の栄光の象徴アルゴー船」を元とした物らしい。
梯子を登って、アルゴー船の上に登ると、その中心付近で男は見慣れない物を見つける。
「
其処には自身には然程縁の無い筈の、アルゴノーツの皆が使用していた
何故か半透明だったが。
軽く見渡すだけでも錚々たる業物の数々が揃っている。
ヘラクレスが使っていた『
アタランテがアルテミスより授かった『
カイネウスが持っていた『海神の
ケイローンが愛用していた名称不明の弓矢。
ディオスクロイの二人が使用していた円盤と光剣、『
メディアが使っていた短剣型の魔術具、『
そしてこれは……見覚えが無いが、巨大なクロスボウ……だろうか。何故かどことなく
他にもこれ等の武具には及ばないが、いずれもアルゴノーツの誰かが使用していた武具が一人につき一つ、という途中で発見した条件の下存在していた。
が、途中で再び見慣れない武器を発見する。
否、これは果たして武器なのだろうか。短剣ではあるが、刀身は捻れており、虹色に輝いている。
――――――いや
何故だ。というかそもそもこの時空に存在していたのか。
まさかメディアが自力で生み出したのだろうか?……だとしたら恐るべき実力。その辺の魔法使い、例えば某蒼崎よりヤバいのではなかろうか。
まあ流石にそれはないだろう。
さしあたり並行世界の自分の存在と照らし合わせて、僅かに存在する『裏切り』の逸話を無理矢理増幅させたのだろう。と自身の中で結論づける。
それにしても何故此等が自分の座に存在し、何故半透明なのだろうか。
気になってその中の一つを適当に手にとって見ると、突如ソレが輝き出して、その直後にはずっしりとした重みを感じさせる実体となっていた。
自分が使おうとした時のみ具現化するのだろうか。
………まあ、恐らくはそういう宝具がこうして英霊となったことで生えたのだろう。
まあそれは構わない。メリットしかないし。ただまあコレだけは言わせてくれないだろうか。
―――まだ強くするんですか?
そんな訴えをするが当然返答は返ってこない。
仕方が無いので別の場所へと移る。
自身の心象、しかも自分の国で探検をすることになるとはこれ如何に。
そうして時間の概念がない以上急ぐ必要もないので、ゆっくりと歩みを進めていたイアソンの視界が………突如灰色に覆われた。
「うおっ!?」
正確には、その瞬間は灰色としか形容できないソレによって吹き飛ばされたのだ。
一体何だ!?新手の当たり屋か!?と考えたが当然そんな筈もなく、ソレの全貌を見た。
「────」
灰。ゴツゴツとした灰色の鱗に覆われた、十メートル以上はある巨躯。あらゆる英雄達を殺してきた鋭い爪と牙に、人間とは違う縦に割れた瞳孔を持つ金色の瞳。
舞い上がり、空を支配する証たる大翼。
幻想種の頂点に座する神秘の頂点、更にその中で神獣に継ぐ二番目に位置する竜種が一匹。
「ウゥ……」
又の名を英雄殺し、コルキスの竜。
あの時の最後の戦いでは国の守護を自分が命じたが為に出番のなかった奴。
嘗てイアソンが手懐けた竜が、不満気に唸りを上げてイアソンを見据えていた。
それを見て、イアソンは漸く気付く。
――――――コイツのこと忘れてた。
そしてもう一度体当たりを食らう。完全な自業自得である。
吹き飛ばされて転がりながらも、元気だなあと呑気な思考を続けるイアソン。
ただ、何故この竜はこの場所に……イアソンの英霊の座に居るのだろうか。
もしや不法侵入だろうか。せめてノックはしてほしい。
そう思って観察を続けていると、背中にアルゴンコイン……金羊の皮があった。
それを背中に飛び乗ってすかさず回収すると、次第に半透明になって竜は消えてゆく。
やはりかの竜も自らの宝具の一つとなってしまったらしい。
「……成る程、つまりペット枠か」
最早何も聴こえて来ない。どうやらツッコミを早々に放棄したご様子で。
これではカストロに遠く及ばないなと思いながら、彼は自分の心象の探索を続ける。
―――――彼が召喚される時は近い。
其処は果たして――――――
▷原典とは異なる外典にして一つの可能性。ルーマニア・トゥリファスを舞台とする空前絶後の規模の戦争――「聖杯大戦」。
▶それは、未来を取り戻す物語。それは術者を過去に送り込み、過去の事象に介入することで時空の特異点を探し出し、解明・破壊する禁断の儀式。禁断の儀式の名は、聖杯探索――――――グランドオーダー。
▶それは、あり得ざる可能性の番外の物語。グランドオーダーでありながら、彼の知る世界のグランドオーダーではない。
―――それは、原典にイアソンという名の劇物がブチ込まれる物語だ。
英霊となったことによる変更点。
・『
・『
・『求めし
どっちを先にやるか(なおどちらでも修羅場る模様)
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Apocrypha
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GrandOrder