オケアノスからやってくよ〜。……別に最初からが面倒だったからじゃない。うん。
第一幕/船乗りは大抵チート
────────王の話をするとしよう。
とある船にて英雄達を纏め上げ、数々の冒険を繰り広げて王となった者。
最終的には世界の危機をも救った、『勇者』であり『王』であった男の話を。
男が現在いる所が、海流さえも曖昧な海の真っ只中だと気がついたのは果たしていつ頃だったのか。
船内を見渡して見ても、嘗ての仲間たちどころか己を召喚したはずのマスターの姿さえも無い。
挙げ句の果てには周囲には島さえも存在しない。此処が太平洋のど真ん中だとでも言うのか。
近未来感のある鎧に身を包んだ青年は、そんな異常な召喚と、周囲の状況について行けず……はて、と首を傾げるのみであった。
「―――どこ此処。海の海流とか色々おかしいし、……え何、もしかして俺の座滅んだ?」
そう見当違いの感想を述べながらも、男は辺りの情報収集を続ける。
しかし当然、男の疑問に答える者は居なかった。
当然である。
その場所は七つの特異点が一つ、第三特異点。
幾多の海賊が財宝を求めた時代、西暦1573年の大海原。
―――魔■王:
又の名を、逆行運河 / 創世光年。
ソレの息の掛かった聖杯により発生した特異点であるこの海は四方を閉ざされ、更に様々な時代、地域の海が封じ込まれているため、正確な地理情報が不明となる。
彼が此処、オケアノスの海流を異常だと感じたのはそのためであった。
『……成る程、遂にFGOか。てか何で俺はボッチなんだよ、誰か来いよ。』
脳内の奥底に薄っすらと残っていた記憶を引っ張り出す。
……が、其処の記憶とは些か状況が異なっている気がした。
「確か最後に俺がアゾられたんだよな……うん。」
正確には違うのだが、正しい情報を思い出す必要は無い。
知らぬが仏、というヤツである。
……まあ、この海における本来の『彼』の経歴は見ている側としても、本人からしても碌な物じゃ無いので仕方無い。
取り敢えず原状の詳しい把握の為に、
―――そして、本来ならばこの海に存在しない筈であろうモノを発見する。
「巨大な渦、か…。あんなの有ったか……?」
そうして彼が眺める先―――この海の中心部には、直径数百メートルはあるだろう渦が出来ていた。
あれ程の大きさであれば、海の下の地面が見えるのでは無いだろうか。
今、彼は
それにはきっと何か意味がある筈。
だが船に必要不可欠とも言っても良いアルゴノーツの皆を呼ぼうにも、魔力が足りない。
ならば何処かで調達する必要が出てくる。
そしてイアソンは考えた。
『
────さらば、嘗ての俺の諭吉。
そんな重度の
本来の目的から逸れて探し求めるのは只一つ。
「いざ、
そう宣言する男の前には複数の海賊ゾンビが乗る海賊船。
ソレが総勢六船もの編隊を組んでアルゴー号の前に立ちはだかっていた。
『あぁあぁぁぁぁぁぁぁあ!』
雄叫びを上げながらも彼らは拙い連携で、大砲を放つ。
が、当然ソレがアルゴーに着弾することはなく、イアソンが無造作に放った雷霆により消し飛ばされる。
「―――はあ、面倒な。……取り敢えず石よこせ。」
そんな893ばりの発言をしながらも、彼は虚空から一振りの鎌を取り出した。
まるで芸術品のような美しさを持つ金剛の鎌、ソレを右手に持ち、イアソンは海賊船の一つに向けて横薙ぎに振り払う。
―――瞬間、眼の前の船の一つが横一線真っ二つに斬り裂かれ、搭乗していた海賊ごと沈んで行った。
「―――魔力を使い果して消えましたじゃあ格好つかないからな。一瞬で終わらせて貰う。」
『―――』
もしもこの海賊達に理性があったのならば、間違いなくこう考えているだろう。
―――喧嘩売る相手間違えた、と。
当然、その後の決着がつくまでに一分も掛からなかった。
―――此処に、敵エネミーを殺戮して回る
◆
「……このくらい有れば良いだろ」
『(案外集まるな。結構そこら辺に生成されてる。)』
そういう男の足元にはおよそ二十程の魔力が籠った虹色に輝く石が転がっていた。勿論全て聖晶石である。
この男、取り敢えず海賊達を蹂躙しながら周辺をひたすら探索した後にとある群島に辿り着き、そこを歩き回ってコレを集めたのだ。
その時の光景はまさに一流のごみ清掃員の様。
そして石の内の一つを手に取り、砕く。
パリン、と音を立てて割れた石からはおよそ令呪三角分にも匹敵する内包されていた魔力を余すことなく自身の霊基に宿し、宝具を起動する。
「宝具起動―――」
それは彼の人生の具現。
数多くの英雄達を纏めた証にして、絆の結晶。
「―――集え!!我らアルゴノーツ!
―――『
そのクラスのイアソンが使用した場合の能力は只一つ、「アルゴー号の救援」にして、嘗ての乗組員たちの搭乗。
アルゴノーツは英霊となって尚、旗頭である船長の呼び声に呼応して馳せ参じる。
そして空間に波紋が広がり、其処から現れたのは――
◆◆◆
AD.1573/封鎖終局
◆◆
―――人理継続保障機関『フィニス・カルデア』。
今や神代は終わり、西暦を経て人類は地上でもっとも栄えた種となった。
我らは星の行く末を定め、星に碑文を刻むもの。
人類をより長く、より確かに、より強く繁栄させる為の理―――即ち、人類の航海図。
これを魔術世界では『人理』と呼ぶ。
そして2015年の現代。
輝かしい成果は続き、人理継続保障機関「カルデア」により人類史は最低でも100年先までの安全を保証されていたはずだった。
しかし、近未来観測レンズ「シバ」によって人類は2017年で滅び行く事が証明されてしまった。
何の前触れもなく、何が原因かも分からず。
カルデアの研究者が困惑する中、「シバ」によって西暦2004年日本のとある地方都市に今まではなかった、「観測できない領域」が観測された。
これを『特異点F』と呼称。
人類絶滅の原因と仮定したカルデアは人類絶滅を防ぐため、実験の最中だった過去への時間旅行の決行に踏み切る。
それは術者を過去に送り込み、過去の事象に介入することで時空の特異点を探し出し、解明・破壊する禁断の儀式。
その儀式の名は『
未来を取り戻すための冒険は、様々な偶然が絡み合い、数合わせとして一般枠で呼ばれた魔術経験すらない素人である彼女、『
これまで、彼らは崩壊した歴史の数々を修整してきた。
冬木を始め、フランスのオルレアン、ローマのセプテムと、既に三つの特異点の人理定礎を修復してきた。
今回の舞台はオケアノス。
そして捜し求める聖杯は―――眼の前にあった。
持ち主の名はフランシス・ドレイク。
世界一周を生きたまま成し遂げた人類最初の偉人。嵐の航海者であり星の開拓者。
マシュは探していたものが想定の数倍早く目の前に現れたことに驚愕するも、何故ドレイクが聖杯を持っているのかが分からなかった。
ドレイク本人はたまたま拾った程度の認識だったようだが、海賊の一人が興奮気味にそのことを語る。
「何言ってんですか姐さん、たまたまじゃねぇ、とんでもない大冒険だったッスよ!」
其処からの話は最早おとぎ話だとか、そういう次元の話であった。
曰く、何時までも明けない七つの夜。
海という海に現れた破滅の大渦。
そしてメイルシュトロムの中より現れし幻の沈没都市、その名を―――
其処より出でしデカブツこと
『"時はきた。オリュンポス十二神の名のもとに、今一度大洪水を起こし文明を一掃する也―――!!"』
とか言っていたのに対して大立ち回りをかまして、多大な損傷を与えるついでに聖杯を奪い取って来たのだそう。
「いやーホント、あの時の姐さんは、なんかの間違いにちげえねぇんですけど、サクッと世界を救った英雄だったんじゃないんですかね!!」
「―――」
絶句。それ以外の表現が見つから無かった。
つまり、自分達が来る前からこの時代の人理定礎は崩壊しかけていて、ソレをこのドレイクが
しかもマシュには彼女らが嘘を言っているようにも見えなかったので、余計に脳内は混乱していた。
「だってあのデカブツ、
そう何てことないように酒を飲みながらドレイクはいう。
内容はギリシャ組が聞けば発狂するレベルの大偉業なのだが、本人は本気で分かっていないらしい。
星の開拓者とは出鱈目の化身なのではなかろうか。
「つまり、ドレイク船長はこの時代の聖杯の持ち主―――いえ、この時代を救ったコトで聖杯に選ばれた、本当の意味での聖杯の所有者です……ッッッ!」
「そんなことってある……!?」
立香とマシュは壮大過ぎるエピソードとドレイクの凄さに感服して畏敬の籠った視線を向ける。
「ドクター!ドクター!」
『あ、ああハイハイ何だい?すまないが後にしてくれないか。』
虚空より男の声が響く。それはカルデアの医療部門のトップを務める青年、ロマニ・アーキマン。周囲からは愛称として「Dr.ロマン」と呼ばれている。
『ちょっと探査プログラムの調子が悪いみたいなんだ。何故か君たちの前に聖杯があることになっててね……』
「いや合ってるよ!聖杯、ある、目の前に!」
『何だとぅ!?』
立香からの報告を聞き、ロマンからも驚愕の声が漏れる。本人の顔は見えないが、間違いなく目を見開いて驚いてるのは確かだろう。
「これってつまり事件解決なのでは!?」
「いえ、先輩。もしかしたらなのですが……」
『聖杯から計測される数値が今までより低い。もしかするとそれは……この時代に元々あった聖杯なのかもしれないね。』
しかし聖杯の発見自体はぬか喜びに終わる。
この聖杯は人理を乱している要因ではないようだ。
立香とマシュはその事実に僅かに肩を落とすが、先程の話に気になる点があったのを思い出してドレイクに問いかける。
「ドレイクさん、先程のことで一つ聞きたいことが……」
「ん、何だい?」
「その
「ああ、そうさね……」
そう言ってドレイクははあ、と溜め息をつきながら空を見上げて言う。
「"分からない"」
「分からない―――ですか?」
「ああ、あのデカブツから
全く、と愚痴をこぼすドレイクの話を聞いて、立香とマシュの顔が強張る。
二人はその人物に心当たりがあった。
でも有り得ない。その人物は先の特異点にてフンヌの化身に両断された筈だ。
「……ドクター。」
『ああ、シルクハットを被った男という情報に合致するのは間違いなくレフ・ライノール……フラウロスだ。でも彼は死んだ筈……まさか、不死身の力でも持っているのか?』
ロマンも真剣に考察をするが、真偽は分からない。
探索初日から不穏な空気を感じて二人は空を見上げるのだった。
さーて、勘のいい人なら……というか殆どの人がイアソンの代わりの敵役が分かったのではないでしょうか。
まあ名前出てるんですけどね。
次は……
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