「…集え!!我らアルゴノーツ!!
―――――――――『
イアソンの周囲に白金の波紋が発生し、其処から四つの人影が現れる。現状の魔力ではこの人数が限界らしい。
そして、突如その人影の内の二つがイアソンの視界から消え―――視界一面を『紫』と『金』の二つが覆った。
「―――」
「え、ちょ―――あ"ぁぁぁぁ痛い痛いッッ!!」
具体的に言うと、召喚されるやいなや物凄い速さでイアソンに抱きつき、明らかに表記されている筋力ステータスよりも強い力で抱きしめられている、といった所か。
自身の肋骨がミシミシと音を立て、認識外より訪れた苦痛にイアソンは悲鳴を上げる。
別に大丈夫だろう、とアイギスを非展開状態にしていたのが運の尽きだったようだ。
「待って、折れる…ッ!肋骨折れるから、折れちゃうからッ!ちょっと緩めて……!」
「―――…」
その懇願に対する返答はさらなる圧力という形で返された。
何でや、心当たりなんか全く無いぞと当人達が聞けば更に締め付けられそうなことを考えながらも、その後方に立っている人物たちを見て助けを求める。
「アタランテとカストロ……、助けて…!」
「断る……そもそも悪いのは汝なのだから、少しくらい我慢したらどうだ」
「―――まあ、そういうことだ。俺にはどうすることも出来ん」
―――それに止めた後が怖いしな。
と言ったカストロの声は海風に掻き消されてイアソンには聴こえなかった。
見るとアタランテは何処か拗ねたようにそっぽを向き、カストロは何とも言えない顔で肩をすくめているのを見て、助けがないことを察したのかイアソンは顔を青くする。
「あー…ポルクス、取り敢えず一旦落ち着いてくれ……!」
「―――はっ、すみません。少し感極まってしまいまして……」
「いやいや……」
―――絶対に少しどころの騒ぎじゃない、と言いかけたが慌てて口を噤む。態々ここで地雷を踏む必要はないのだ。
ポルクスは手を放していそいそと数歩下がる。お陰で幾分どころかかなり楽になった。
そして視線を下に向けると、自身の記憶とは背丈も服装も違う女性の姿。
それでも彼女が誰かは記憶に薄っすらと残っていたのもあってか、自然と解った。
「……メディア、だよな。」
「―――」
そう言って彼女の顔を上げさせて、その淡紫の瞳を見た。
生前最後に見た背丈からは十センチ以上背が伸び、髪型もポニーテールから変わって髪を下ろしている。
そして彼女の瞳からは―――涙が溢れていた。
―――ファ!?何故泣く!?やっぱ俺なんかした!?心当たりなんか無いような有ったような無いような気がしたけどやっぱり有ったかもしれん(早口)。
ポーカーフェイスのお陰で外面では分からなかったが、脳内で行われていたのは一人漫才のソレ。
かなり困惑気味ながらも、自身の直感を信じて掛けるべき言葉を選ぶ。
「―――『ありがとう』。……何となくだが、これだけは言わないといけない気がしてな」
「――――――あ」
それは何に対しての感謝だったのか。
自身の死という形での離別を経ても自身のことを覚えていてくれたことに対する感謝か。
若しくは生前の総てに対する、自身の死ぬ直前に言いそびれてしまった感謝か。
「―――――ああぁ…いあそん、さま。」
目頭が熱くなる。胸を突き上げてくる気持ちで闇雲に涙が溢れてくる。
その顔をイアソンの胸下に埋め、
「うっ――あぁッ、あああァあああぁああああッ!あぁあああああああァあああああああッッ!!!!」
やがて嗚咽が迸り出る。死別後から今まで溜まっていた気持ちがまるで決壊したダムの様にあふれるままに表出する。
そんな彼女の様子に少々困惑しながらも、イアソンはただ只管に黙って彼女の肩に腕を回す。
彼女の内心なぞ当然知らないから口にする言葉が見つからない。だから彼女の肩をじっと抱くことにした。
そんな二人を他の面々は彼女の様子に対して安堵している様な、一部は想い人と抱き合っていることを僅かながら羨ましく感じる様な嫉妬心を同時に感じながらも、少し離れた所からその様子を見守っていた。
◆◆◆
◆◆◆◆
「……少し取り乱してしまったわね。忘れて」
暫くした後、漸く周囲の状況を把握したのかメディアは言い知れぬ羞恥の情に駆られるも、何とか持ち直して決まりが悪い表情で先程の出来事を無かったことにしようとする。
「いやいやだから……」
―――絶対に少しじゃ無かったよね。
形容のできない妙な表情になりながら思わずそう言葉を漏らしそうになるが、そんな地雷にダイブするような所業がしたいわけではないので、口を噤む。
「ふふっ、でも良かったです。メディアったら、貴方が居なくなった後一度も泣かなかったのですよ?―――だから安心しました。流石イアソンですね」
「ちょっとッ!?何で言うのよ!」
こちらの心を何もかも見透して、優しく理解するような目をしてポルクスが柔和な笑みを浮かべながら言う。
その菩薩のような慈愛に満ちた表情は正に神霊と言った所か。
まさかソレを言うとは思っていなかったメディアはポルクスに対してムッとした様な抗議の視線を向けているが。
仲が良い様で何より。
と微笑ましい物を見る目でその光景を眺めていたイアソンだったが、ここであることに気付く。
「―――そういえば、ヘラクレスのヤツは来なかったな」
「ああ、確かに言われてみれば意外だな。奴なら真っ先に来るものだと思ったのだが」
イアソンの発言に、アタランテが同意する。
あの大英雄ならば友の呼びかけに真っ先に応じるものだと思っていたが。
―――大方、彼女達の心情を汲み取って先を譲ったのだろう。とカストロは内心で結論づけるが、他の四人はその考えが頭から抜け落ちているようで、ヘラクレスが来ないことを不思議がっていた。
「―――もう一度貴方の宝具を使えば来るんじゃないかしら。ほら、あの魔力結晶が有れば可能でしょう?」
そう言ってメディアは隅の方に寄せられた聖晶石を指差す。
それを聞き、ううん、とイアソンの思考の滑車が回り、次から次へとさまざまな考えが現れる。
そして現状を顧みて結論を出す。
「―――まあ今は大丈夫だろ。必要になったら喚べば良いわけだし、
イアソンがそう結論付け、そうか。と皆が答える。
と言っても八割程イアソンの私情が混じっていたがそれで良いのだろうか。
「さて、我らの当面の目的は?」
「取り敢えず周囲の探索。そして
「ソレは―――一体?」
ポルクスがイアソンに問い掛け、それに対してニヤリと笑みを浮かべながらイアソンは言う。
「人類に残された最後の希望―――カルデアだ」
◆◆
翌日。
朝の明るみが果てしない遠方からにじむように広がってくる、見渡す限りの大海原、其処を征く船が一隻。
そこの船首の壁にもたれかかりながらイアソンは、ぼんやりとした顔で何処までも続いているかのように感じる水平線の彼方を眺めていた。
「―――暇だなあ」
「早いな……まだ出航して一日も経ってないぞ」
「あの時とは違って特に目的地も無ければ、近くに立ち寄る島も無い。メディアが此処を軽く工房化したから
気のぬけた欠伸をしながら愚痴をこぼすイアソンに対して、確かにそうだが。とアタランテは思うも、それを口には出さずにそのままイアソンの隣に移動する。
「―――懐かしく感じるな、あの頃が」
「――…ああ」
「こうしてこの船で海を眺めたことも、この潮の匂いがした海風も、あの時とよく似ている」
「―――そう、か?……まあそうなのか」
「少なくとも私にとってはの話だ。あの頃によく似た船旅―――もしかしたら、同郷の者にも会えるかもしれないな」
苦難に苛まれながらも確かに美しい日々であったあの船旅を思い返して、無意識に微笑が口角に浮かびながらアタランテは太陽が昇り始めた空を眺める。
「―――ん、邪魔したか?」
「!ああいや、全然問題ないぞ!?」
そして甲板にカストロが現れ、何となく空気を読もうとするが、アタランテがその微妙に余計な気遣いを否定する。
と言っても、彼女はあくまで平静を装ったが、声は自分でも分かるほど上ずっていたのだが。
幸いなのはここに居た面子がそれに乗じて弄ってくる人じゃ無かった所か。例えば某カイニスとか。
「――で、何か用があるんだろ。本題は?」
「ああ、近くに島を発見した。メディアが言うにはサーヴァントが一騎いる可能性があるそうだ」
「ふむ―――って何でサーヴァントが居るって分かるんだよ。まだ島の面影殆ど見えないんだが」
「彼女が高い魔力を感知する魔法陣を設置したらしい。後で労ってやれ」
全然何てことのないように言っているが、島がかなり離れているという点から、少なくとも現在地から数キロ以上は離れている筈なのにサーヴァントの存在を把握するとはかなりの事をやってのけている。
絶大な感知能力を備えたルーラーの知覚能力の有効範囲がおおよそ十キロ四方メートルなので、片手間でソレの半分近くの知覚が出来るとは流石神代の魔術師か。
「―――そうするさ。船底だろう?行ってくるからお前らは上陸準備しておけよ」
「特に準備することなぞ無いがな」
「確かに」
◆◆◆
「おーい、メディア居るかー?」
壁の色と同じ分厚い木製の扉を叩き、返事が返ってくる前にさっさと開ける。果たしてノックをした意味はあったのか。
「せめてノックをしたのなら返事を待ちなさいよ……」
当然彼女にも若干呆れの籠った視線を向けられる始末。
それを意にも介さず、イアソンは船底に造られた工房を物珍しそうに眺め、あることに気付く。
「―――お前、もしかしてこの船の動力源になってたのか?道理でさっきからやけに速いと思ったら……」
「……私としてはこのままなのは歓迎だけど、出来ることがあるのならするのは当然のことでしょう?」
「まあ―――そうだが。それでもやり過ぎは良くないからな、身体には気をつけろよ」
「勿論よ」
其処から二言三言と会話をしていると、遂に船が目的地の島に近づいた事を察する。
「―――あら、もう着いたのね」
「みたいだな。―――俺は錨を下ろして来るから、先にあいつ等と上陸しててくれ」
「分かったわ」
そうしてイアソンは錨を下ろす為に甲板へと移動し、メディアは序に作っておいた魔術具をいくつか持ってからいそいそと外へと移動する。
『―――そういえば、アタランテが同郷と出会うかもとか言ってたけど、此処に居る同郷って―――あ(察し)』
そして、一人の狩人の後に待ち受ける悲惨な現実を察して、錨を下ろしながら内心で合掌する男が一人。
◆◆◆
「これは―――」
そう言いながら上を見上げる。そこには断崖絶壁の登る方法も無さそうな山がそびえ立っていた。
正面にはそこそこ広い森が広がっており、この浜辺含めた周辺は、こわいくらい静かだった。
「見た目だけなら何処にでもある島、だが―――」
「ここは全てがおかしい。この島も例外なく何かあるだろう」
「はい、兄様。きっと周囲に何か―――ッ!?」
あらゆるアンテナを張り巡らすかの様に周囲の警戒を怠らなかった一同だが、森の方から何かの群体が飛んでくるのを察知して、直ぐ様戦闘態勢に入る。
そしてソレは大量の砂埃を巻き上げながら彼らの元へと殺到する。それは―――
「何だ、話の途中に襲ってくる事で有名なワイバーンか」
「イアソン、恐らくソレが有名なのは貴様の中だけだと思うぞ……!」
ワイバーンの大群だった。その数は二十数頭。
通常ならば多少は苦戦してもおかしくない数だが、如何せん相手が悪かった。
「取り敢えずさっさと仕留めよう。汝ら、一人につき大体四匹でいいな?」
「構いません。すぐに終わらせましょう」
「なら私は援護に回るわね」
何故ならば彼らは神代に生きたアルゴノーツ。
ワイバーンどころか竜種がそこらにいた時代の彼らにとっては、ワイバーンなんて最早害獣程度の認識だった。
―――勿論、その狩りは数十秒もせずに終わりを告げた。
「あれ?どうしたのダーリン、そっちばっかり見て。」
「いや、分かるだろ。サーヴァントが大勢来てる。……何かその一人とはスゲェ気が合いそうな気がするな。――他はかわいい娘だったらいいなぁ……。」
「ダーリン?」
「ヒィッッ!?」
次は……
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