半径五十メートル程度はあるだろう巨大な一部屋。
アステリオスが作り替えた迷宮の一室。
そこでイアソンは唸り声をあげるメガロスを鋭い目付きで見上げている。
「―――ッ!?よっと……!」
「―――■■■■」
そして合図もなく再び戦いは始まった。
再び拾った戦斧をメガロスはイアソンに振りかざし、それをイアソンは真横に飛び退く事で避ける。
そのまま戦斧は床に当たり、周囲に衝撃波を放ちながら地面が大きく抉られる。
迷宮内へ囚われた影響でメガロスはその能力を大きく弱体化されて尚、その規格外の膂力には衰えが見えない。
メガロスの斧とイアソンの大鎌が甲高い音を立てながら二合、三合と打ち合い、メガロスに幾つか傷を負わせるものの、先程とは打って変わって殆どダメージが入らない。
それは一重に、十二の試練の『一度殺された攻撃に耐性を得る』という能力の影響であり、既に同じ方法で二回殺したアダマントでは不死殺しの力を加味しても分が悪かった。
攻撃が殆ど通らないことを何となく察したメガロスは、一時的に防御を捨てて、再びイアソン目掛け両腕で斧を振り上げ、力強く振り下ろす。
「―――『
それに対しイアソンはアダマントを霊体化させ、代わりに『
が、膨大な質量と膂力の合わさった一撃を真名解放無しで長時間凌ぐのは厳しく、メガロスに押し込まれそうになった瞬間、鎧の背部に備わったバーニアを吹かせて、オリンピックの体操選手ばりに身体を捻りながら無理矢理メガロスの懐に潜り込む。
「ふん――ッ!!」
「―――■■■■■!!」
両方の拳を合わせ、ソレをメガロスの霊核目掛けて打ち込む瞬間、高出力で掌に圧縮された魔力を放ち、メガロスの胸部を穿つ。
これで三回殺した。
しかし、このように正面から正攻法で後十回も殺すのは流石に厳しい。
なので、蘇生中を狙って何度も殺す必要がある。
穿ったメガロスの胸部が宝具の力により、どんどん埋まっていく中、其処に拳を入れたまま雷霆を隆起させる。
「―――焼き尽くせ、
神の雷霆がメガロスの全身、その髪の一本や足先に至るまで全てを焼き尽くし、メガロスはのたうち回る様な苦しみの声を上げる。
―――世界レベルで見ても最高峰の破壊力を持つ
「―――■■■■■!!!」
そのまま蒼き雷霆がメガロスを焼き、二つ、三つ、と続けて多くの命を奪ってゆく。
万物を破壊する最高峰の
合計で六つの命を早々に奪われたメガロスは、その身に残る生物としての本能が危機感を感じ、力まかせにイアソンを振り払う。
「……う、あああぁぁぁ――ッッッ!!」
「―――■■■■!?」
だが、敵はイアソンのみでは無い。
迷宮の主、アステリオスが跳躍し、その剛腕で二つの剣斧をメガロス目掛けて振り下ろす。
迷宮の力でその能力を弱体化させられているメガロスは、アステリオスの膂力と、上からの落下の勢いが合わさった強力な一撃によって蘇生直後の胸部を抉られ、また一つ命を落とした。
―――しかし、これで手元にある武装、火力源を粗方使い果たしてしまった。
成る程、一応アダマントや雷霆ならば耐性をつけられてもあと六回程度ならば何とか殺せるだろう。
しかしそれでは駄目だ、時間が掛かりすぎる。
今もこの迷宮の外では皆が戦っている。
あの戦力差で万が一にも負けることは無いだろうが、先程から自身の直感が最大級の警鐘を鳴らしている。
―――アレは不味い。
―――故に、少しでも早く
それがせめてもの慈悲になると信じて。
身体中の魔力を隆起させ、宝具の真名を解放する。
しかし常時アルゴノーツの召喚という宝具の展開をしながら、真名解放するのは今の通常霊基では負担が凄いので、アイギスの装備を外して
「―――我が船は海原を征き、天をも引き裂く英雄船。
その船員アルゴノーツよ、その力、その誇り、その輝きを、今一度我が下に―――!!」
それは宝具『
通常の効果はアルゴー号を介した乗組員達の搭乗であるが、それは対軍宝具としての側面。
しかしこの宝具にはもう一つ、
「―――『
―――即ち、担い手である英雄達の認証をトリガーとする宝具の具現化。
瞬間、地面に小さな円形の白金の波紋が生まれ、其処から一つの剣が浮かび上がる。
その剣は、かの星の聖剣をも上回る威力を有する、鍛冶神が生み出し、ギリシャ一番の戦士が振るった至高の宝剣。
こと『剣』というカテゴリの中では、まず間違いなく最強の一角に数えられる程の神造兵装。
「……『
「■■■■」
狂った友を嘗ての友自身の使った武器で倒す羽目になるとは何たる皮肉か。
内心で自身を嗤いながら、両腕で剣を持ち、力強く振り上げる。
自身の本能が本気の危機を感じたのか、それを何とか防ごうと斧を振り上げて駆けようとするメガロスだったが、横合いから飛び出したアステリオスの突撃によりソレを抑えられる。
「―――真名、擬似展開。
その熱は、数多の宝剣、聖剣を超える剣の頂―――!!」
そして剣は熱を帯び、極光が剣を包む。
六つの拘束を解除された星の聖剣を上回る熱量を誇る光の奔流が氾濫し、光の断層、光の斬撃が発生する。
あくまで本来の担い手では無いのでその威力、力は本来のソレよりもワンランク下である『擬似』の範囲に留まるが、それでも並の英雄の宝具とは比べようもない。
アステリオスはその場から離脱し、メガロスはマルミアドワーズの攻撃範囲の中に取り残される。
そして逃げられないことを察したメガロスは、その一騎当千、天下無双の究極の肉体で真っ向勝負を挑むことを選ぶ。
「
剣から放たれる光の奔流は限界を超え、その先端は少しずつ迷宮にヒビを入れていた。
―――そして、大英雄を屠る神器の力が解放される。
「―――
剣の先端から放たれた白金の極光が、輝く光帯となって辺り一面を焼き払い、その光はメガロスの巨体を包み、残存する命を無秩序に奪う。
その威力は伊達ではなく、本来アステリオスにしか解除出来ない筈の結界……迷宮をあっという間に崩壊させていく。
「■■■■■―――」
嗚呼―――
どうしようもないくらいに狂っているが故、その死に際さえもまともな思考は出来ず。
何処かの世界と同じ様に、その
度重なる衝突の影響か、同時に極光の余波を受けた迷宮も、まず天井が割れて、そこから迷宮全体が割れたガラスのように崩れ、ガラガラと音を立てて崩壊して行く。
「よし……追い詰めたよ、レフ・ライノール!」
『レフはまだ聖杯を持っている……。前の特異点の様に魔神柱になるのを警戒していてくれ!』
シャドウサーヴァントを撃破した立香達は、船の隅にサーヴァントを失ってじりじりと下がるレフを少しずつ、少しずつ追い詰めていた。
気づけばメディアとヘクトールも追い詰められ、三人は船の端に背中合わせで囲まれてしまう。
「これは……潮時かねぇ。マスターや、流石にコレは少々マズイと思うんだけど、其処ん所はどうするつもりだい?」
そう芝居がかった笑みを浮かべるヘクトールだったが、その笑みの裏では智将としての自身の頭をフル回転させて思案に明け暮れていた。
一つ、また一つと様々な案が浮かんでは、その策は不可能だとして消えて行く。
「いや……もう終わりだよ」
そう言ってレフが視線を向けた先に、マシュ達が釣られて視線を向けると、丁度崩壊した迷宮からイアソンとアステリオス、そして合計十三もの命を一つだけ残して瀕死ながらも生きながらえて、肩で息をしているメガロスの姿があった。
「―――すまない、一回分殺し損ねた」
『……凄い。そこにいるヘラクレスの霊基はもう崩壊寸前だ。あの短時間で十二回、いや最初に二回殺したから十回か……』
ロマニの口から感嘆の息が漏れる。
出来て当然と言うかの様に、彼は英霊の格で言えば互角であろうあの大英雄を十二回……正確には一度アステリオスが殺しているので十一回だが、ソレを殺してきているのだ。
とてもじゃないが並の英雄には出来たものじゃない。
しかし今そのことは関係ない。
早々にレフにとどめを刺すべきだと迷宮の中で既に見切りをつけていたイアソンは、マルミアドワーズを甲板に突き刺し、アダマントを取り出して一気にレフに接近する。
しかし、レフ目掛けて振るった大鎌はあと一歩の所で割り込んだヘクトールの槍に防がれる。
受け止めた武具が半端な物だったならそのまま切り裂けたのだろうが、その武具は後の絶世剣デュランダルの原型。
互いの膂力が基本的には
「……しつこいぞヘクトール。其処までする価値がそのロン毛にあるのかよ。絶対にあの帽子の下禿げてるぞ」
「んー、正直生前から見ても今回は最悪な部類だと思いますがねぇ、何度も言うけど、主を選べない戦争屋の人殺しにとって、契約中はそういう仕事なのよ」
「へぇ……。契約が無ければ何もしないみたいな言い草だな。―――まあ、生きてるかはもう知らんが」
直後、ヘクトールの背後……レフとメディアが立っていた場所にアタランテが放った弓矢と、メディアが空から放った数発の魔力砲が降り注ぐ。
メディアリリィが周囲に結界を張ってはいたものの、集中砲火に耐えきれずに結界はひび割れ、辺り一面に魔力砲の直撃による爆発音が鳴り響く。
それと同時に発生した煙が無くなると、衝撃で所々服が破けているレフがその場から一歩も動かずに立っていた。
横に立つメディア共々、この状況に至って尚顔色一つ変えない様は、不気味としか言い様が無い。
「ああ、もう終わりだとも―――貴様等がなァ!」
そう言って顔を上げるレフの顔には、あまりにも歪んだ笑みが浮かんでいた。
その大凡普通の人が浮かべるような物では無い狂気に等しい表情を見て、マシュ達は何かが背中をなぞるような形容し難い悪寒を覚えた。
「令呪を以て命ず。『
右腕の令呪が光り、ディオスクロイ、アステリオスとドレイクにとどめを刺されそうになっていたメガロスがレフ達の近くに転移する。
それだけではなく、目に見えて分かる変化はまた直ぐに訪れた。
「重ねて令呪を以て命ず。『
掲げた右腕から更に一角の令呪が消費され、メガロスの身にレフの身体から滲み出た、レフ
―――即ち、彼等七十二の魔神柱の存在。
時間神殿に居るソレらの存在を、令呪の力で霊基に刻まれたメガロスは頭を抑え、声にならない悲鳴を上げる。
レフの手にあるのはカルデア式では無く、本来の冬木式に近い強制力のある令呪だからこそ行えた荒業だ。
「さあ仕上げと行こう!魔女よ、聖杯とヘラクレスを触媒として、我が同胞の一柱を呼び寄せるのだ!」
「分かりました。……ではヘラクレス、失礼しますね?」
そう言ってメディアリリィは、魔術で編んだ魔力の刃でヘラクレスの背中を切ると、そのまま笑顔で聖杯を突っ込んだ。
その一連の光景の容赦の無さに、立香達カルデアはおろか、イアソンや大人メディア含むアルゴノーツでさえ、ドン引きして全身から血の気が引く様な感覚を感じた。
「聖杯よ、我が願望を叶える究極の器よ。顕現せよ、牢記せよ、これに至るは七十二の魔神なり―――」
「■、■■■■―――!!」
「―――私の願いを聞き遂げよ。
そして次の瞬間、メガロスの肉体から目が生え、瞬く間に■■■■の七十二の魔神、その一柱フォルネウスに変貌する。
それを見たロマニが有り得ない物を見るかの様な目で、モニター越しから声を上げる。
『魔神……!これで二体、いや二柱目か……!本当にいるのか、そんなものが……!』
「然り!!ロマニ・アーキマンよ、今貴様の目に見えている物こそが真実である!……第三の令呪を以て命ず。『その身を、
最後の一角の令呪が発動し、フォルネウスが船底を突き抜けて海へと潜り、北西の方角へと進んで行く。
それと同時に、カルデアの管制室では一つの異常とも言える反応を察知する。
『これは……嘘だろ、こんなことが有り得るのか!?』
「急にどうしたの、ドクター!?」
『いや……計測器が壊れていなければの話だが、さっき言っていた大渦がそちらにおよそ
「100ノット……!?」
そんなレベルの速度で移動する渦とは何事か。
ロマニが提示した方角によると、丁度それは
迫りくる巨大な渦を見て、ドレイクとイアソンは咄嗟に逃げることを選択した。
空を見上げると、渦が迫る方向から暗雲が立ち込めてきている。
「はあ!?あのデカブツ帰ってきたのかい………。アレに呑まれたら終わりだ!―――野郎ども、全速前進でアレから退避!しっかり掴まっておきな!」
「……嵐が来るぞ!俺達はもう一回ハインドを引っ張る!……テオスエンジン、起動!」
再びワイヤーでハインドを繋いだアルゴー号は、その状態で出せる最大船速で大渦に引き込まれない程度の距離をとる。
次第に海は荒れて行き、迫りくる大波が一同を襲う。
「……うわ、冷たっ!それにしょっぱい!」
「だ、大丈夫ですか、先輩!……でも海水ですからしょっぱいのは仕方ないかと!」
そうして波が一時的に去り、一同は前に向き直る。
―――其処に居たのは、『船』だった。
……しかし、船と言っても普通のソレとは全く似ても似つかない物であったが。
弓にクジラや巨大魚類の要素をかけ合わせたような形状で、先端には三つの巨大な砲身が搭載されている。
『アレは……一体何なんだ!?それに魔神柱が巻き付いているだと!?』
そして何より目を引くのは、その中心部に魔神柱フォルネウスが巻き付いていたこと。
その様子はさながら何かを覆い隠しているようにも見えるが、その答えはドレイクの発言によって判明した。
「あの化け物……アタシたちが開けてやった風穴を隠してやがる。折角苦労してぶち抜いたってのに……」
「クククッ……どうやったのかは知らんが貴様らの命運も此処までだ。アレは正真正銘の神であり、ギリシャ神話におけるオリュンポス十二神が一柱、
「ポセイドン……!?アレが……!?」
『何て魔力数値なんだ………これはもうサーヴァントどころか、最上級の神霊クラスだぞ!?特異点とはいえ、何で……』
勿論今の立香達には知る由もないが、コレは正真正銘本物のポセイドンである。
その正体は別宇宙に存在していた超科学が生み出した宇宙戦艦であり、正式名称:惑星改造用プラント船。
『 全生命/
「あん?アタシが何だって?」
『 フランシス・ドレイク―――殺す 』
次の瞬間、ポセイドンから何かが込められた魔力の弾丸がドレイクに向かって射出されたが、咄嗟にイアソンが放った雷霆によって掻き消される。
『 フランシス・ドレイクの呪殺に失敗。原因解明……機体名ゼウスの権能と99.96%の一致を確認。
並びに機体名ゼウス、ヘラ、アテナ、アフロディーテの神性を確認。
以上/推測……個体名イアソンと情報の一致を確認。
対話状態に移行―――、―――何故邪魔をする。ヒトは我ら神に統治されるべき存在である 』
「いきなり呪殺しようとしてきてソレか。……やっぱり神ってクソだわ。カイネウスの件もあるし……」
そう言って海上に現れたポセイドンを睨むイアソンだったが、横でオリオンがとあることに気付く。
「―――え、てかアルテミスサン?俺の親父アレなの?マジでアレなの!?俺アレから生まれて来たの!?」
「うん、そうだよ。てか何でポセイドンは神体残ってるのよ!ズルくない!?」
そう、オリオンの父親はポセイドンであると言われており、つまるところ
まあ恐らく真体機神が持つナノマシンであり、元素組成金属である、「テオス・クリロノミア」を使用したのだろうが、今の彼等には知る由もない。
海神ポセイドンと魔神柱フォルネウスに、未だ顕現していない魔神柱フラウロス。それに加えてヘクトールにメディアという圧倒的戦力。
突如急増した相手戦力に対し、カルデア一行は途端に劣勢に追い込まれた。
余談だが、メディアリリィには誰も気づいていないが低ランクの精神汚染が召喚時に付与されている。
テオスエンジン:イアソン達の時代まで僅かに現存していたテオス・クリロノミアを元にした擬似的な第二種永久機関でありアルゴー号の動力源。
一言で端的に言うと、ほぼGSライド。
ポセイドン:神核の代わりに聖杯をドレイクにパクられて発狂はしていないもののブチギレ状態。
『海に出ると死ぬ呪い』を付与しようとしたもののイアソンに妨害された。
随時加筆&修整しまする(~‾▿‾)~
次は……
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