「ば、馬鹿な…」
そう言葉を零したのはアイエテスという男。彼は先日来訪した英雄達の長にして自らの国の国宝である金羊の皮を求めたイアソンに対して、自分でも絶対に不可能だと言い切れる程の難題を出した。
ああ、確かに普通ならば不可能だろう。だが現実は非情である。
アイエテスが見つめる先には、‘‘手に握っていた大鎌を巨大化させ、一振りで竜牙兵の大部分を狩り尽くした’’金髪の男が居た。そう、彼が例の男イアソン。アルゴー号の英雄達を束ねる船長でありながら、最強と名高いヘラクレスと互角以上に渡り合う実力を持つ超一流の武人。ちなみにこの竜牙兵との戦いは試練の最後の過程なのだが、まだ開始から三時間しか経ってない。完全に難易度設定を間違えたね。
今回、アイエテスには二つの落ち度があった。
一つは、本来の歴史において、神の
では、彼の何がいけなかったのだろうか?それはもう一つの理由。それはきっと―――
――――――彼が、『英雄』と呼ばれる存在をあまりにも舐めていたからであろう。
そう、アイエテスは決して優秀な王では無いが、愚かな王でも無かった。だからアルゴー号の面々が来訪したときも国を上げて歓迎した。だが、それだけである。彼はイアソンの
だが、今となってはもう遅い。そしてすっかり竜牙兵を正攻法で圧倒し、倒しつくしてしまったイアソンを見て、呆然とするしかなかったアイエテスなのであった。
◆
「なんだもう終わりか。案外呆気なかったな。」
そうイアソンは言葉を零す。彼の周囲には粉々にされた竜牙兵の残骸が大量に転がっていた。これだと素材もドロップしそうにない。別に要らないが。
「……いや、それは汝がおかしいだけだぞ。」
アタランテがイアソンに言う。実際イアソン自体がおかしいので事実である。
実際自分でもおかしいとは多少自覚しているのか、イアソンは少し苦い顔をするが、直ぐに表情を戻してアイエテス王の下に向かう。
そしてアイエテスの下まで来たイアソンは、いっそ清々しい程の満面の笑みを浮かべて話しだす。
「―――王よ、貴方の課した試練は達成しました。これで私に金羊の皮を賜る資格があると証明出来たかと。あ、三日ほどと言いましたが一日もかかりませんでしたね。」
最後はちょっと煽り気味になって話す。アイエテスも癪に触るのか額に青筋を立てている。
「よ、よくぞやってくれたイアソンよ。しかし、いま儂の手元には無くてな。近いうちにそなたに授けるが故、暫し待たれよ。」
しかしアイエテスも此処まできたら引き下がれない。こんなやつに我が国の国宝を渡してなるものか、と。だから一先ず保留という形を取り、時間稼ぎをすることにしたのだ。その考えの裏では、どうやってイアソン達を諦めさせるか、いっそのこと殺してしまおうかなどと考えていた。イアソンの力を見たこの状況でこんなことを考えられる辺り、案外アホなのかもしれない。
そして此処までの会話を近くで見ていたメディアの存在に気づいたイアソンは、去り際に彼女に対してニヒルに笑いながら言う。
「―――ほら、あの時言った通り何とかなっただろ?」
「―――!」
そうしてイアソンはこの場から去って行ったが、メディアはイアソンの事を自分でも無意識に、どこか熱の籠もった瞳で見つめていた。
それは運命の悪戯か、それとも元からこうなるのが決まっていたのか―――
―――コルキスの王女は、本当の意味で
◆
◆月●日 晴れ
今日は例の王様からの試練があった。昨日言われたことなんだが、昨日は色々あったから今日書き記しておく。
まず俺が、王様にアルゴンコインちょーだい!って言ったんだよ。そうしたら王様が腹立つニヤニヤ顔で要約するとこんなことを言ってきた。
・わが国には火を吐く牛がいて、畑を焼き尽くしてくる。この牛を飼いならして畑を耕せ。
・その後は我が国に住んでる竜を退治してこの竜の歯を畑にまいてね。
・そーしたらその竜の歯が兵士になるから、その兵士を全部退治しろ。
・合格!羊の皮をプレゼントするよ。
舐めてんのか。まず火を吐く牛はもう牛じゃなくてUSIだよ。あと竜の牙を畑にまけってそんなことする余裕があるなら畑が焼かれた所でそんな困らんだろ。そもそも(以下ry
……愚痴をとんでもない行数書いてしまった。取り敢えず近いうちに消しておこう。
まあそして今日は、その試練を速攻で終わらせてあのおっさんにドヤ顔するためだけに頑張った。まずはアイエテスに立会人という名の助っ人をもらう許可を貰う。…まあ案外あっさり許可を貰えたんだが。次にその人員決めをする。これは出生の都合から他の皆より五感が優れていて索敵に長けたアタランテが適任だった。こんなしょうもないことに付き合わせてすまん。
まあそんな感じで万全を期して挑んだんだが、正直楽勝過ぎてびっくりした。まずUSIは炎を防いで優しくお願いしたら直ぐに従ってくれたし、竜は純粋にそこまで強い個体じゃ無かった。そして最後、骨の兵士…竜牙兵との戦いだが、結局雑魚敵がいくら集まっても大したことはなくて、適当に魔力を込めた斬撃一発で殆ど方がついてしまった。おいおい楽勝すぎんよ。やはりYAMA育ち……YAMA育ち以外は恐るるに足らず。
まあそして目的のおっさんにドヤることは出来たからいいんだけど、近くにメディア嬢が居るのは気づかなかった。もうこうして外に出ているってことは俺の雷は特に影響がなかったようで何よりです。宣言もしっかり守れたしね。
○月▽日 曇り
と、まあ此処までは良かったのだが、やっぱりあのおっさんはこちらに金羊の皮を意地でも渡したくないらしい。なんでや、あんなの只の手触りが良い毛皮だろ。
何となくだが、あのおっさんは俺達を殺そうとしている――気がする。流石にそんな自殺一直線みたいなことはしないと思うが、おっさんだしなあ………ほんとに毛皮の為だけに必死になりすぎやろお前……
このままここに居るとまた碌な目に合わない気がしてきたから、もういっそのこと盗んでトンズラするか。それでいいや、うん。
ということで皆を集めて先にアルゴー号の近くで待機して貰うことにしよう。置き去り、ダメ、絶対。
◆
そうしてイアソンはいつまで経っても金羊の皮を渡す素振りを見せず、あろうことか自分達を殺そうと画策し始めているアイエテス王に痺れを切らし、金羊の皮を盗むことを決意した。
そのことをイアソンはアルゴナウタイの皆に話したが、返ってきたのは批判ではなく後押しの声だった。彼らもイアソンが課せられた試練を突破したのは知っていたので、それでも未だ煮え切らずに先延ばしにしているアイエテス王に対して少なからず不満を持っていたようだ。
その後早速、金羊の皮が森の奥にあって近くで竜が守っているという情報を得たイアソンはその森に向かう。しかし、そこには予想外の人物が居たのだった。
「―――あ、イアソン様!」
「――――――why?」
そう、メディアである。彼女は史実において、イアソンを導きコルキスの竜を眠らせたとされるが、この時空においてはすべての元凶ともいえるアフロディーテの加護を先に破壊しているので、メディアが自分達について行くことは有り得ないと考えていたイアソンにとっては、これは想定外の邂逅だ。まあまさか、意図せずに殆ど同じような状況になっているとは夢にも思わないだろう。
先日の一件の後に、彼女は自身の父アイエテス王がアルゴノーツの面々をどうにか排除しようと躍起になっているのに気づいた。そうして、どうにかそのことをイアソンに伝えようとして魔術でイアソンの位置を探したが、その時にイアソンが金羊の皮の場所を探り、盗もうとしていることを知った。王女という立場からすれば本来は王に密告しなくてはならないのだろうが、なんだかんだイアソンに惚れてしまった彼女にその選択肢は存在しなかった。そして今に至る。
彼女は自分が竜を眠らせると伝えるが、イアソンは額を手で抑えながら溜め息を吐き、こう言った。
「―――つまり、此処に居るのは俺達が王様に命の狙われているから、竜から金羊の皮を盗む手伝いをする為だと。……単刀直入に言うが、そんなもの不要だ。帰れとは言わんが、大人しく後ろで見てろ。」
「――!?何故ですか、私もイアソン様の力に――」
「阿呆か、もしここでお前が俺を助けたら名実ともに国の裏切者だ。俺等と来れば逃げることは出来るが、きっと一生後悔するぞ。だから何もするな。それなら後で俺に無力化されてただのいくらでも言い訳が出来るだろ。」
メディアは最初、自身が必要とされていないという事実にショックを受けそうになったが、実際は違った。彼は彼女の身を案じているのだ。それを感じたメディアの雰囲気は一転し、終始ご機嫌だったという。
その後二人は森の奥まで進んで行き、遂に目的の場所へ辿り着いた。そこには、木に引っ掛けられた金羊の皮。―――そして、目の前で唸り声を上げている竜の顔があった。まさに顔面宝具。
咄嗟に竜を眠らせようとメディアが詠唱をしようとするが、イアソンはそれを手で制する。いいから黙って見てろと。そして二人……一人と一匹の睨み合いが始まる。
数秒後、先に動いたのは竜の方だった。鋭い牙で相手を噛み千切らんとイアソンに迫る。対して、イアソンはいつもの武器すら構えておらず拳を握りしめている。流石に不味いと思ったメディアが防御魔術の詠唱をするが、
次の瞬間―――竜の腹に目にも止まらぬ速度でイアソンは掌底を打ち込んでいた。イアソンは先程までとはうって変わり無機質な眼を竜に対して向けており、それに対して竜の方は苦悶の表情を浮かべているように見える。
確かに数々の英雄を噛み殺し、アルゴンコインを今迄守って来たのは紛れもなくこの竜であるのだが、この竜の種としての格はせいぜい中の上程度。その辺の竜よりは強いが、紛れもなく最上級の竜種であろうヒュドラを単騎で葬る存在に敵うはずが無かった。
だが竜も負けじとその戦闘経験から、小規模のブレスを吹きながら爪を振りかざすが、それも簡単に躱され顎を殴られ、首に強烈な蹴りを入れられる。しかもこの時点でイアソンは自身の十八番である大鎌アダマントと雷を
ただ、此処でメディアには一つの疑問が浮かんだ。何故直ぐに殺さないのか、何故執拗に竜の顔面や首周りを狙っているのかと。
「―――クソ、諦めの悪い奴だな!―」
『―――!?――!』
距離があるので彼女には聞こえなかったが、今もイアソンは竜に対して何か言いながら攻撃を加え続けている。あくまで拳なので竜も絶命出来ず、痛みに苦しみ続けている。いや拷問かよ。
そうして続けるうちに、竜の方にある変化が起きた。それは『諦め』。もう無理だ、勝てないと本能で理解してしまった竜は、もうその瞳に戦意を宿しては居なかった。それを察したイアソンも攻撃を止めて、竜を見つめる。そして―――
「―――…お座り」
『――!』
命令に従う竜。何と
余談だが、自分の素の実力だけで竜を屈服させたのを見ていた神々は、感動を通り越して「こいつ本当に人間だっけ?」とドン引きしていたとか。
◆
「す、凄い……」
メディアは改めて自身の想い人の偉大さを思い知った。それと同時に、ある思いが彼女の内に芽生える。自分もこの人と一緒に行きたいと。だが同時にイアソンに先程の会話で言われたことが脳をよぎり、そして彼女は考える。これから自分はどうしたいのかと。
このまま国に残るのか?成る程、確かに自分が世間知らずという自覚はあるが元々これで十分満ち足りた生活だった。きっと死ぬまで穏やかに過ごせるだろう。…でもそれで良いのだろうか?
――先程脳裏に浮かんだもう一つの道。国を、父を、今ある全てを捨てて
でも何故だろうか。―――彼が、イアソンが居るのならと考えると不思議と不安感が薄れて行くのを感じた。
―――そうして意を決したメディアは、自らその道へと一歩踏み出す。史実において自身を苦しめた、裏切者の道へと。
「あ、あの―――どうか私も、連れて行ってくれませんか?」
「えぇ……おい、話聴いてたか?」
「はい。それを踏まえた上でこうしてお願いしているのです。」
「―――もう一度言う。俺達と来るならもう二度と故郷には帰れないと思え。……それでも来るのか?」
「もう覚悟は出来ています。行かせて下さい」
真剣な顔付きで再度問いかけるイアソンだったが、もう彼女の意志が揺るがないことを察したイアソンは、はぁ、とため息を吐きながら、半ば諦めにも近い感じで了承の旨を伝えたのだった。その時のことを後に彼はこう語る。
「目に光があったから多分大丈夫だと思った。後悔はしてる。」
◆
そして明け方、アルゴー号へと二人は辿り着いた。燦然と輝く金羊の皮を見て興味を持つものや、やっぱり誑かしてるじゃないかとイアソンの脇腹を思いっきり抓るものも居たが、イアソンは持ち前のカリスマで皆を纏め、さっさとコルキスから離れるために出発するのだった。
しれっと竜を連れてきていたのに関しては、もう今まで散々イアソンがやらかしてきたせいで耐性がついたのか「あぁ、今度は竜か」程度で皆済ませていた。それでいいのかアルゴノーツ。但しイアソンが竜に適当にポチと名付けようとしたときは総出で止めたが。
そしてその日の夜、アイエテスはイアソン一行が帰ったという知らせを聞いて終始ご機嫌だったが、少しするとメディアが居ないことに気付き王宮の状況は一変。金羊の皮の保管場所に兵を向かわせた所まさかの竜ごと盗まれてたことが判明。急いでアイエテスは自ら軍隊を率いておびただしい数の船と共にアルゴー号を追いかけるのだった。
◆
(・∀・)月( ╹▽╹ )日 曇り
俺達はメディアを連れて出発した。案外直ぐに馴染んだのか、今はもう魔術を使った医療班としてアスクレピオスに指導を請けてたりする。
……ほんとに何でこうなった?あれか?クソ神の呪いが再発でもしたか?それとも惚れた?……無いな。大したことはしてないし仮にそうだとしても俺からしたら事案だよ。知ってるか?ギリシャの結婚適齢期って14,5歳なんだぜ?―――どう考えてもアウトですありがとうございます。
あとヘラクレスと最初に会ったときは凄い怯えてて、ヘラクレスがショックを受けてた。ドンマイ。
それとポチ(仮名)は最初は空を飛ばしていたんだけど疲れるからどうしようと考えてたら、何かいきなり船の船首につけてた女神像がペラペラ喋りだして小型化の魔術(魔法)を授けてくれた。やったぜ。今知ったけどこの船はアルゴス曰く、ドドナの木って言う神木から作ったものらしい。
―――もう突っ込まんぞ。まあ此処神代だから、うん。色々おかしくても仕方ないなんて分かってたから(震え声)。
まあ取り敢えず人語を教えつつ同胞の肉でも喰って貰おうか。神秘を蓄えれば強くなる。ここテストに出るから覚えておいてねー。
( ;∀;)月ლ(^o^ლ)日 雨
―――あ、ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
「メディアが眼の前の少年に対して
杖を向けて魔術の詠唱をしてる」
――な、何を言っているのか わからねーと思うが
俺もよく分からんかった……
サイコだとか無慈悲だとか
そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ………
まあ別にその子死んでないけど。だからこうしてネタに走ってるけどその瞬間の空気は本当にやばかった。
経緯はこう。
まず突然沢山の船が来たな〜って思ったら瞬く間に包囲される。そして次に、アイエ………何だっけ?まあとにかくおっさんが俺達に金羊の皮とメディアを引き渡すように伝えて来た。
この宣告に俺達は困る。当然だ、何故なら―――
―――このままだと(向こうに)死人が出る。俺達は一応光側の人間なので、こんなしょうもないことで何人も殺したくは無い。
それでどうにか上手く突破する方法はないかと、ちょっと重い雰囲気になったんだが、そうしたら突然向こうの船からまだ十歳くらいの男の子が来て、帰ろうとメディアに言う。後から知ったのだがこの子の名前はアプシュルトス。メディアの弟なんだと。
そしたら次の瞬間、メディアが魔術の詠唱を始めだすからあら大変。幸いその子を狙った物じゃなくて船に向かってブッパしただけだったけど、その時の相手側の空気はやばかった。うん。
そうしてメディアは弟に帰るように促した後、大声で俺達と行くと宣言。おっさんが激昂してたけど、それ以上は許すわけ無いよなあ?
―――いつから俺が天候の操作が出来ないと錯覚していた?
まあ出来るかって言われたら微妙なラインだが。雷を少しの範囲に降らせるくらいしかまだ出来んよ。俺の使う雷と同質のものだから破壊力パないけど。
それでハッタリを掛けて、相手が怯んだ所をもう全力で逃げた。向こうも警戒して追って来なかったしもうこれで諦めてくれるやろ。
でもメディア、そんな躊躇なく魔術使ったりしちゃいかんよ。しばらくは常識を教えるOHANASHIをしなくちゃいけませんねぇ……
多分また次話までしばらく時間が開く。
イアソン:まさかメディアが付いてくるとは夢にも思わなかった。でも想像よりは遥かにマシなので安心。ちなみに原作知識は描写こそしていないが殆ど忘れつつある。
メディア:そこまで切羽詰まる状況じゃなかったので、弟殺害フラグが無事に折れた。よかったね。
どっちを先にやるか(なおどちらでも修羅場る模様)
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Apocrypha
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GrandOrder