武装神姫 battle Master's 輪舞極戦譚 作:鳴神 青審
三年目の高校生活最初の授業日は、五時間目までと早めに終了した。部活動に所属している生徒を除いて一斉に下校を始める中、槇斗は晴義と今日の別れの一言を交わして独り帰路を歩んでいた。
道中道筋が同じ生徒の群れに紛れ込んでいたのだが、寝所としている道場への距離を縮めていくにつれて、他生徒は右へ左へと矢継ぎ早に分かれて行き、下校ルートの半分にまで来ると槇斗は独りとなる。
槇斗の家が山中深くにあるが故だ。年月が経つにつれて人は新たな知識と技術を身に付け、人間と言う種のより良く繁栄させようと粉骨砕身してきた。
それは今も変わらない。何故なら利便性の向上という成果を出し続けているからだ。
人は度重なる人間生活の向上に依存し、全ての生命の母たる緑黄世界を身勝手にも犯し続け、美麗かつ長閑であった森林や草原は人類の血と涙の結晶である合成物質で固められた建造物へと成り変わった。
人は自分達だけに適応された便利な人工世界に魅了され、自然と共に生きる共存意識を捨て始め、開発による環境問題なんて言っておきながらも更に更にと人間社会の為に自然を削って進む。
その一部の結果がまさに今の槇斗の環境だ。槇斗以外の生徒は皆何処へ行く?槇斗と同じく自然の中に帰る場所があるのか?答えは否である。少なくとも槇斗の住んでいる地域では。
幼い頃から親族に自然の美しさを語られた槇斗からすれば、人間は一時の繁栄を喜ぶ間に星の滅びを加速させている愚かな生物筆頭と言えてしまう。
ただしそんな自分も人間、適度に人の叡知にすがらなければ社会を生きていけない貧弱な人の一匹だと思うと、自尊心なんて全く生まれる兆しすら感じない程には自虐的な心境になる。
まだ長い道のりをどうにか退屈せずにと今更どうしようもない煩悩に思考を巡らしていると、先に見える十字路で一人の女性が民家を囲う石塀に背を預けて佇んでいるに気付く。
槇斗はこの辺りを独りで行き来しているからに物珍しく感じ、つい女性の顔に視線を向けてしまう。
偶然にも目が合う。女性もまた槇斗を見ていたらしい。
待ち人来るまでの退屈しのぎとして人間観察でもしてるのだろうと予想する。だが槇斗は妹や道場に通う生徒、つまりは付き合いの長い人間以外から目を向けられるのは嫌悪感を抱く。
プライドが無く、人付き合いもあまりなかった事から生じた若干な人間不信故に。
女性は絶えず槇斗を見つめている。その表情は何故か微笑を浮かべており、目つきも鋭利だった。
近付くと殴ってきそうな剣幕にも思えたので、槇斗はガードレールで女性とを隔てて車道端を進む。
目が合った場合の最低限の礼節として、すれ違う直前に一礼をする。後は一刻でも早く女性の視界から外れて道場に帰宅するだけ。
「ちょっと、待ちなさいよ。」
しかし何故か呼び止められる。通り過ぎる寸前まで槇斗と女性しか人気がなかったので、槇斗に声を掛けているのはすぐに分かる。
不審者と見なし、無視して逃走しても良いのだろうけど、高校男子生徒の図体でありながら自分と背丈が大差ない女性相手に一方的に尻尾を巻いて逃げるのも屈辱。
幸い逃げ足の速さと多少の体術の心得はある。もし厄介事になりそうになってもいなして逃げられそうなので取り敢えず振り向いて応じる事にする。
背後に目を配ると未だ女性は視線を槇斗に向けており、いつの間にか頬を膨らませて腕を組んでいた。
「……なんで無視しようとするのよ。」
落ち着いてはいるが意図的に落としてそうな低音、間違いなく怒っていると予想。
だがそもそも見ず知らずの人に気前よく接触しろと要求する方が無理ある。特に人見知りな槇斗にとっては。
女性の顔色を伺いながら自分に指を指して人違いでないかどうかを再度確認。
女性は首を上下に一往復、槇斗に用があると認めた。
これ以上面倒くさい事になって欲しくなかったが、訊ねておいて去るわけにもいかないので女性に向けて踵を返す。
「……何の用ですか?」
相手の目的を探りながら女性の容姿に着目する。黄色にしては少し濃いライムイエローを基調としたセーラー服に首から掛かって胸元に垂れ下がる藍色のネクタイ、この特徴的な制服は槇斗の住んでいる町の一つ隣の町にある女学校に通う生徒の物であり、女性は女生徒と呼ぶのが適切な年頃な人だと再認識する。
「何の用?じゃないわよ、貴方、まさか今朝の事忘れたの?」
女生徒は更に眉を細める。これ以上相手を苛立たせたくはないからと槇斗は今日の今朝まで振り返ってみる。案外、すぐに思い出したのだが。
「あぁ、あの衝突事故か。」
女生徒は次に嘆息する。
「呆れた……少し聡明そうに見えたのに、女に痛い思いをさせた事を何とも思っていない挙げ句忘れていたなんて。どうしようもない屑で馬鹿な男なのね。」
女生徒のこれでもかと言う程の悪口雑言が槇斗の堪忍袋の緒をじわじわと引き裂く。槇斗は友人が少なくコミュニケーションも必要最低限、今まで喧嘩や苛めとは無縁の慎み深き陰キャとして平和な日常を送ってきた。
二者が面向かって対立する場面に遭遇した事がなかったからに、女生徒の放つ罵倒は槇斗に容易く怒気を生ませるのだ。
「此方の不注意で起きた事だから悪いとも思っているが、あの時俺はその場で謝罪はした。あんたは怪我もしてなければ破損物もなかったのだからそんなにムキになってわざわざこんなところで待ち伏せする必要なんてなかった筈だが?」
朝の事故の非は己にありと重々承知している槇斗は、逆上する立場でないとわきまえて紳士的に接する。しかし女生徒は一ミリも和やかになる気配が無く、更には鼻をならして槇斗の指摘を受け流した。
「相手に無礼を働いたならそれ相応の誠意と謝意を以てきちんとした形で謝罪の言葉を伝えるもの、あんた程の強者であるなら常識中の常識の心得である筈なんだけど、今時の男ってこんな美徳すら知らない馬鹿ばかりなのかしら?」
言葉のキャッチボールはまだ二往復、よくもこれだけの誹謗を募らせられると怒りを通り越して感心してしまう。
だが、槇斗は女生徒の台詞に不審点があるのにやや遅く気付く。
「強者?何の事を言っているんだあんたは?」
女生徒は槇斗が問い掛けて来ると堅牢だった強面を緩ませ、得意気な笑みへと切り替えつつ槇斗に指差した。
「惚けても無駄よ、去年私に立ちはだかった唯一のライバルの顔を私が見紛ものですか。秋守 槇斗、去年の剣道全国大会の決勝戦では世話になったわ。私にあれだけの接戦をさせてくれたのはあんたが初めて、今年も心踊る決闘をさせてくれると期待しているわ。今回は漸く会えたから、堂々と宣戦布告しに来たの。」
女生徒は鮮やかにカーテシーを槇斗に送る。態度はでかく、口汚くあったが、この時の女生徒はそこにあるだけで美麗な花と言える程厳かであった。
美しい花には棘があるという諺にまさしく当てはまっている。
「……そうか、あんたはあの時の……。」
やんわりと嘗ての決戦が脳裏に浮かび上がる。日の本最強を決める剣道の大会、女生徒の言う決戦で、槇斗は破れた。槇斗は、己が頂点に足を掛けられなかった結果を悔やみ、次第に込み上げて来る敗北感に浸った挙げ句、自身にはやはり何の価値も無かったと竹刀を手放して剣道の進む歩を止めたが、女生徒は槇斗を敗者と嗤わずに好敵手として認めていたのだ。
女生徒は再び槇斗としのぎを削る事を希求している。
誰かに評価され、求められる。それは大抵の人間とっては喜ばしい事であり、槇斗も例外ではない。
「それこそ悪いな、あんたと竹刀を交差させる事はもう無い。」
だが槇斗は女生徒の期待には添えられない。槇斗が既に剣道での意義を無くしてしまっているからだ。今の槇斗には控え目に言って忌み嫌う戦場に立つ理由がない。
女生徒の口角が下がり、面食らっていると察せられる唖然とした表情が新たに顕れる。
「え?なんでよ?」
女生徒は無垢に訊ねる。それもそうだ、一般的に考えれば今年で高校三年生の槇斗にはまだ後一度頂点に君臨するチャンスが残されている。
そうでなくても、高校を卒業した後にも剣道の全国大会は催されているし、寧ろ成人となってからが剣道の本質に触れられると言っても過言ではない。
剣道の道はまだ未来へ続いてる。幾年も精進して全く成果を残せなかった者が途中で挫折するのなら、周りからも感情面なんかで理解できる。だが槇斗には数ある選抜大会を勝ち抜き、選ばれた各地の代表を下して賞を授与された戦果がある。
充分に極点に到達できる可能性があるのだ。だと言うのに槇斗はこの栄華に欲求がない。磨き上げられた手腕、猛者を打ち払いて得た力の証明がありながら、今更無意味と手放した。それが自身を越えられなかった者達に対しての侮辱になるのは修練の場に足を踏み入れなくなった時から分かっている。
それでも剣道には戻りたくない。好きでもない事を自分ではない誰かの為に我武者羅に鍛練していくのにウンザリしたのだ。
「剣道をやりたくないからだ。」
一言を以て結論とする。理由を話した所で、理解されるものではないからと。
女生徒が只槇斗に宣戦布告をしに来ただけなら、これで社交辞令は終わり。
この先女生徒と道を交える事は無く、これからは自身の思うがままに生を謳歌するだけなのだ。
槇斗は踵を返して帰路に足を戻す。重苦しくて仕方がなかった宿命から早くも解放された体は想像以上に軽く、一歩一歩で自由が感じ取れる。
だが女生徒は槇斗に駆け寄り、腕を引いて歩を強引に止める。
まだ何かあるのかと問い詰めるべく、槇斗は振り返る。歩を止めたにも関わらず未だ槇斗の手を取って放さない女生徒の表情は、またも厳格なしかめっ面であり、まるでまた槇斗に非があると言いたげであった。
「……ちょっと付き合いなさい。」
「は?おい、ちょっと待て。」
もうすぐ日が暮れる時間帯になる。だが槇斗は女生徒の唐突な奇行に振り回され、されるがままに手を引かれて走り始めた。
訪れたのは町に唯一存在する大型のゲームセンターであり、着いた頃には夕刻、多くの社会人が職務から解放される頃合いでもあるからだろう。店内はまさに外と比べ物にならない盛況であった。
ゲーム機と大衆により敷地面積にそぐわぬ過密状態と成り果ててるにも関わらず、女生徒は槇斗の手を放さず人混みを掻き分けて進む。
入店してからほぼ直進、案内板等に目も暮れず前しか見ない辺り、女生徒は恐らくよく通っているのだろう。
漸く狭い通路を出て多少開放的になると、女生徒は槇斗の手をやっと放す。
「やっとか……こんな所に拉致してどうしようと──」
槇斗は女生徒のペースに飲まれるばかりで安定しなかった呼吸を整えながら顔を上げる。
目に映ったのは一際壮観な筐体と天井に吊るされてるスクリーン。だが槇斗の言葉を抑止したのはスクリーンに映っているものだった。
珍妙な格好の女の子が凄烈にせめぎ合っており、砂漠で鈍器と利器が交錯し、鼓膜が痛みを味わう程の金属音が断続的に響き渡っている。
筐体を囲む人々はスクリーンの映像に凄絶な歓声を上げ、立ち合っている女の子達にエールを送っていた。
「……これってまさか。」
「そ、神姫バトルよ。」
神姫バトル、それは近年特に盛り上がりを魅せている対戦ゲームである。
内容は文字通り神姫に思い思いの装甲と武器を装備させて戦わせると言ったシンプルなものであるが、多種多様の神姫と無限の武装構成を好きに組み合わせる事ができる奥深さが特に高い評価を得ており、絶賛大人気と謳われている今最も流行りの娯楽なのである。
「なんだってこんな所に連れきたんだ?」
此処まで連れて来られても、未だ女生徒の目論見が分からない故に槇斗は問い掛ける。
「んー……なんか急にあんたと神姫バトルしたくなってきてね~。」
「……は?」
槇斗はかなりの時間と労力を削がされながらこの場にまで引っ張られたというのに女生徒は理屈で槇斗に返さなかった。
「俺はお前のそんなくだらない動機で引っ掻き回されたのか?だとしたらふざけるのも大概にして貰いたい。」
「くだらないって何よ、そもそもあんたのせいじゃない、あんたが剣道をやらないって宣うから。」
「だからと言って赤の他人をこんな所にまで引き摺って良い理由にはならな過ぎる。それにそもそも、俺は神姫を持っていないんだぞ?」
「え?あんた神姫持ってないの?」
女生徒の驚愕っぷりに、槇斗は呆れ果てる。幾ら世間でトップレベルの注目を集めているコンテンツとは言え、全人類が一人一体神姫を持っている訳ではない。
神姫は生活のサポートもできる玩具でしかなく、生活必需品ではないのだから。
「……少し考えれば想定できるだろこれくらい……。」
槇斗はため息をつく事しかできなかった。一方女生徒は急に大人しくなり、独り唸りながら考え耽っている。
槇斗は女生徒の次の言葉を粛々と待つ。しかしスクリーンに付属されていたメガホーンから突発的にメロディーが流れ始め、女生徒はそれと同時に神姫バトルに使う筐体に向かい始めた。
「おい、何処へ行く!」
「ごめん、次私の番なの!ちょっと待ってて!」
女生徒はまたも身勝手に突き進む。槇斗も嘆息が止まらなかった。
女生徒の目論見が為されぬと分かったので帰っても良いのではとも熟考したが、女生徒のこれまでの横暴を振り返るに勝手に帰った後でまた変に絡んでくるのではないかとも予想できたので仕方無く待つ事にした。
自販機から缶ジュースを一本買って暇を潰して約5分、ギャラリーの歓声と筐体のシステムアナウンスの同調直後に神姫バトルは開始された。
女生徒がバトル用の仮想空間に送り出した神姫はアーンヴァル Mk.2、槇斗もテレビや町に点在する広告等で見知っている神姫だ。
だが女生徒の神姫は少々違っていた。アーンヴァル Mk.2と言えば武装、ボディ共に白を基調としており、金色の長髪を靡かせているまさに天使と称すに相応しい精白な形姿をしているのだが、女生徒のは真逆、ほぼ青紫に包まれていてまるで悪魔を連想させられる。
「色違いもあるのか。」
カラーリングは此方の方が好みなんて感想を抱いている間に、神姫達は動き始めた。
10分くらい経った後に、試合は終了した。最初に勃発した銃撃戦とかなんて見ていて何も分からなかったが、終盤に展開された近接戦闘は思わず見とれてしまった。
空手とも、剣道とも違う、映画やアニメでしか見た事のない自由な戦闘が、只のと侮っていた遊戯に存在する。自分の求めていた隔てるもの無しの闘争が此処にありと判明した途端、興味が湧いてきた。
話の続きをと、女生徒は勝利に酔った得意気な笑みを見せびらかしながら槇斗を連れて外に出る。
語りに選んだ場所はゲームセンターから徒歩400mくらい離れた先にある駅前の公園、女生徒はブランコに座り、槇斗はブランコの支柱に背を預けて佇む。
「どうだった?私の鮮やかで豪気に満ちた剣舞は。」
「何が剣舞だ、一方的に斬り伏せただけで舞も糞もない。」
単なる戦闘として見るならば、女生徒の神姫の繰り広げた剣術は確かに秀抜だった。しかし、相手が女生徒の神姫になす統べなく打ち倒されただけであるので舞と語るには度しがたい。
「だが、見事だったし、同時に面白そうとも思ったな。」
面白そう、何かに興味を持ったのは槇斗からすれば随分久し振りだった。
今まで唯一心の底から熱中できた剣術の他にも、まだ自身を潤わせるものがありそうだと一顧していく。
こんながさつな女生徒に教えられたと思うと癪ではあるが、それ以上に高揚感を覚えずにはいられなかった。
「でしょ?やっぱり連れて来て正解だったわ。」
「……で?それはそれとして何故俺をこのように引っ掻き回した?」
何時まで経っても明かされない女生徒の目的、もう大分日が落ちて来て帰宅せねばならない。いい加減教えて貰いたかった。
「まぁ、息抜きと交流ね。」
「息抜きと交流?」
「そ、あんた、他人相手に張り詰め過ぎなのよ。佇まいと言い目付きと言い、舞台に立つ時と同じだったわよ?だから、肩の力を抜いてあげようって神姫バトルに誘ったの。そこから今が交流ね。あんたはそうじゃなかったんでしょうけど、私はあんたと話してみたかったから、朝の非礼の詫びを権力にさせて貰ったわ。」
失礼極まりないが意外だったと改心する。何も考えてない行動かと早とちりしていたが、女生徒にはなりの考えがあったのだ。
「なるほどな。」
「ねぇ、あんたも神姫バトルしましょうよ。」
「俺が?」
「そ、辺鄙な田舎町って対戦者ほぼ固定で倒し尽くしちゃったから飽きつつあるのよ。あんたが始めてくれれば、対戦する度に激戦させてくれそうだし。」
女生徒はブランコから飛び降りて体を伸ばす。
「俺一人増えたところでお前の退屈を解消できるとは思えないがな。てか、何故俺なんだ?」
「あんたは去年の大会で私を滾らせてくれた唯一のライバルだからよ。でもそのあんたが剣道をやらないって宣うから、代わりに武装神姫やらせようって思ったの。」
言い様が既に恐ろしくあった。無理矢理にでも何らかの分野で槇斗と競い合いたいらしい。
「そうか……まぁ、さっきも言った通り少なからず興味は湧いたから、検討はしてみる。」
剣道を辞めてからはバイトと学校生活に従事していただけであり、長期間手持ち無沙汰に感じる事はあった。故に当面の暇潰しには打ってつけかもしれぬと一考する。
「ほんと?じゃあ連絡先交換しましょ。」
女生徒は徐に鞄から携帯端末を取り出す。
「いや、なんで?」
「なんでって、いずれ対戦するのに互いの都合が不明瞭ってわけにはいかないでしょ。」
一理ありと頷く。
「それに武装神姫は右も左も分からないんでしょ?誘った手前のレクチャーもちゃんとしてあげるから。何なら神姫選びから手取り足取り教えてあげる。」
「別にいい、妹も神姫齧ってるし、お前にそこまでして貰わなくても──」
槇斗が言い切る前に、女生徒は背中に平手打ちを馳走してきた。
「った!?なんだというんだ?!」
「ごちゃごちゃ遠慮しながら五月蝿いのよ!親切心は受け止めてその人の顔を立てるものよ!断るのは双方得しない最悪の切り上げ方、恩を受けて同じく返す、これがお互い得する最も賢明な相互関係よ!」
女生徒の折檻に押し切られ、二つ返事で了解する。互いに連絡先を教え合って、今後の予定を話している内に、空は黒天へと刺し変わってしまっていた。
「もう18時半か、そろそろ帰らないとな。」
「そうね、ん~~!今日は久々に楽しかったわ。」
凝りやすいのか、又も体を伸ばす。
「それは良かった。引き摺り回された甲斐もあるってもんだな。」
「まーたそういう意地汚い事言って。」
「悪いな、割りと昔からこんなひねくれた性格なもんで。」
槇斗もベンチから腰を上げて歩き始める。
「また会いましょ、剣道での一回だけの出会いだけなんて、私は嫌だからね。」
「はいはい、ちゃんと神姫バトルをやるだけの支度ができたらな。」
槇斗はさよならを言わずに公園を出て、一時間を優に超えて漸く帰宅した。
簡単に晩御飯を済ませて湯浴で汗と汚れを落とす。寝巻きに着替えてから、すぐに自室の布団に身を投げる。
後は明日の朝を迎えるまで眠りにつくだけ、しかし槇斗は枕元に置いておいた携帯端末を手に取り、交換した連絡先を表示する。
〖春坂 実奈〗調べてみたが、去年槇斗が出場した剣道の全国大会の優勝者と名前が同じであった。であるならば、実奈と槇斗は確かにその時、決勝の舞台で剣を交えた。
そして、槇斗は実奈に負けた。負けた時、心は空虚に成り果ててしまっていたが故に槇斗は実奈の名前と顔を覚えてはいなかったが、実奈の方は敗者である槇斗を脳裏に焼き付け、好敵手だなんて過大評価しながら探していたらしい。
自分を見てくれていた者が予想外にも身近に居たのだが、もう捨てた道での事なので生憎そこまで喜べなかった。
携帯端末を手放して寝返りを打つ。宣言してしまったので、取り敢えず日を改めて武装神姫には触れるが、実奈が思っている様な神姫マスターにはどうせなれぬし、そんな気もない。
実奈には悪いが、自身のやりたいようにやって飽きたら辞める。今後訪れる神姫マスターライフの抱負を大雑把に定めて胸に刻んだ所で照明を落として就寝。
始業早々、波乱万丈な日常になりそうだと不安に駆られながら目を閉じていくのだった。