この能力には欠点が少ない。
テレビで流れる行方不明者や未解決事件特集、それらに能力を発動させれば遺体か現在の被害者の姿が映し出される。それも住所や埋葬場所まで鮮明に、向かうルートまで教えてくれる。
でも、この能力はもっと奥深いところまで侵入することができる。
それは写真や依頼者の記憶、それらから探しモノを手繰り寄せれば無くしたモノの歩みまで見えてしまう。
失踪した人間、機械の運ばれた場所、ペットの自由気ままなお散歩まで。
観察では歩みを見ることは出来ないが、依頼では歩みを見ることができる。
だからこそ、この能力に欠点が少ない。
ただ、一番大きい欠点は……死者の辿る悲しい道を見ることが多いことかな……?
1
今日も退屈な事務所の掃除を小一時間、叔父さんとの約束で閉める時にはピッカピカというのが条件だ。
だから暇な時間があれば掃除もしてるし、大きい依頼で少し多めの依頼料を貰えた時に外国製の高級空気清浄機まで完備している。
喫煙者が居ても空気はクリーンだ。澄み切ってる。
事務所の扉にノックの音が響いた。
「いらっしゃいませ、どうぞソファーに」
「は、はい……」
オドオドとした二十代後半くらいの男性が静かに腰掛けた。
煙草の香りがしたので灰皿を棚から取り出して、静かにお茶の種類を聞いてみる。
依頼者は静かにコーヒーと返事を返してくれたのでインスタントだがドリップのコーヒーと麦茶をトレイに乗せて依頼者の前に届ける。
「ここは禁煙じゃないので、気分を落ち着かせたいならお煙草大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
懐からセブンスターを取り出し、使い込んだジッポライターで紫煙をくぐらせる。
自分もいいですかと尋ねてみると頷いて貰えたのでアメリカンスピリットを取り出しマッチで火を灯した。
こういう共通点があったら気楽に会話ができる。
「ふぅー……ご依頼の内容はどんなものですか? ペットなどなら格安で請け負いますよ」
「……ふぅ、いえ、ペットではなく、愛馬の場所を探してもらいたくて」
「愛馬? バイクですか。自分も通勤にはバイクを使用していますので、盗難されたのであれば全力で力になります」
「ありがとうございます」
最近は国産車、バイクの人気が海外で異様に高まっている。
車の場合は専門的な知識が無ければ盗難なんて滅多にできることではないのだが、ことバイクに至っては車の十分の一の重さ、旧車と呼ばれる類のバイクなら警報なんかも備わっていない。
ローリスク・ハイリターンな盗難商材と表現できる。
依頼者が愛馬の写真を鞄の中から取り出したので、煙草をもみ消して静かに能力を発動させる。
これはまた……嫌な依頼だな……。
「……お父様の愛車だったんですね」
「っ!? はい……昨年、元妻の有責で離婚して、心の空白を埋める為に父から譲り受けました」
「そうですか、ですが……このバイクは二度と乗れない代物になっています。心の傷を増やすことを躊躇うなら――諦めた方がいいですよ?」
依頼者に諦めた方が今後の生活に悪影響が無いと力説するが、父親の愛車を盗難されたのなら犯人に罵声を浴びせたいと提示した選択肢を拒絶した。
確かに父から受け継いだ愛馬、それを誰かも知らない相手に盗難され、そして数ヶ月も警察の手付かずとなれば憤慨するのは当たり前だ。
でも、離婚のショック、そして愛馬の末路を目の当たりにした時……この人はもう一度バイクに乗るという選択肢を取ることが出来るのだろうか?
2
今回は自分が通勤に使っているCB1300SFで依頼者の愛馬が存在する場所に向かった。
流石にリターンとは言えどライダー、二人乗りでも非常に運転しやすくて感動を覚える。
ツーリングと呼べる風を楽しんでいたら、もう依頼者の愛馬が眠る場所に来てしまった。
「ここに自分の愛馬が?」
「ええ、ですが……この下に……」
峠道のカーブ、底を見れば崖と表現できる程の高低差がある。
依頼者に背負わせていたバックパックを受け取り縄はしごをガードレールに縛り付けて真実が存在する場所へ案内する。
――ガソリンが発生される鼻を刺激する香り、そして腐乱の香り……。
「……CB」
落差でグチャグチャになった愛馬を抱きしめてすすり泣く依頼者。
そして、誰がこんなことを……そう考えた時には遅かった……。
壊れたバイクの数メートル先、そこには腐敗が進んだ推定二十代くらいの男が息絶えている。
男性に尋ねる。
「説明が必要ですか?」
「……お願いします」
自分は静かに事の顛末を語った。
依頼者のバイクを盗んだのは、最初のオーナーの子供。
小さい頃に両親が離婚し、幼い頃に乗せて貰った父の大切なバイクを慰謝料と養育費の為に売った。本当なら、奥さんの有責での離婚の筈なのに……最初のオーナーは昔の人間で、女性がどんなに悪かろうと離婚になれば絶対に夫側が悪いと思い込んでいた人なのだ。
眼前で亡骸になっている男性は……父との思い出を取り戻す為にこのバイクを盗んだ……。
「……そう、なんですね」
「はい。今の時代なら女性の有責離婚なんてありふれています。ですが、ほんの二十年くらい前までは、離婚とは夫の責任であると世間から言われていました」
「……私は「違います」……はい」
依頼者に亡くなった彼の人生を奪ったのではないかと言わせなかった。
確かに一台のバイクで人生が狂う、そんなのは珍しい。
この仏様がどんな気持ちで依頼者のバイクを盗んだのか……それは男を何度も入れ替える母の行動、そして優しい父の思い出、それがグチャグチャになって、どうしても父との思い出を取り戻したくて行動に至っている。
依頼者も仏様も被害者、でも、裁判などに発展すると依頼者側が勝訴するだろう。
……人間的言い方をするなら、可哀想としか言いようがない。
「自分は探偵でしかありません、警察に連絡した方が正しい判断です」
依頼者は何も言わなかった。
依頼者もこの仏様と同じように……お父さんの背中でバイクという乗り物の素晴らしさを体験しているからだ……。
でも、仏様の方が……父という存在への憧れが強かったとしか表現できない……。
3
その後は警察に通報した。ガードレールにバイク一台分の擦り傷とガソリンの臭いがすると通報したら、即座にパトカーが一台駆けつけてくれた。
自分と依頼者は一服する為にこのカーブで休憩していたと嘘をついて下にある真実を語らなかった。
そして、依頼者のバイクと仏様が発見された。
自分は探偵でしかない。少しばかり異能を持った探偵。
異能力探偵事務所は貴方の依頼をお待ちしています。