マワルセカイ   作:夏春冬秋

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短いですが、続きです。

公式からループの終わりがお出しされたので、この小説の終わりが設定されました。
多分もう一個学年上がるまでには完結するといいな。


1-10月③

 絵本を作る時、私はまずキャラクターを描くところから始める。

 モデルはその時の気分によって色々だ。例えば散歩している時に見かけた野良猫とか、博物館に展示された土偶とか、立ち読みした本に掲載された海外の変な生き物とか。

 

 私にとって脚本は──まあ言い方はアレだけど、二の次なのだ。

 キャラクターを描けば、彼ら彼女らが過ごす日常は水彩がキャンパスに染み込むように広がっていく。

 青。オレンジ。黄色。多種多様に、複雑に絡み合うそれらの色を描きながら、私なりに色をひとつ加える。

 日常に浮かぶいつもと違う色。その色はどんな影響を与えるのだろうか────

 

 

 

「って感じで考えたら、脚本ができるよ」

「…………ぜんぜんわからん」

 

 カリカリ、とキャンパスノートにラフスケッチを描きながら説明する私の横で、天馬くんが唸りながら腕組みをした。

 

「まあ、廻の考え方は特殊だからね」

「説明下手なだけでしょ」

 

 と、向かいの席に並んで座った類と寧々が言う。

 相変わらずの寧々の毒舌、痺れる。ビリビリ。

 

「毒舌ついでにちょっと左手上げてくれる? 出来ればピースで」

「? ……こう?」

「オッケーそうそう。……うんありがと」

 

 控えめに顔の横でピースする寧々。うん、とても可愛い。やっぱり可愛い成分を補給するなら顔のいい幼なじみに限る。

 

「まあそんな難しい話じゃないんだけどさ。よく小説家や漫画家が『キャラクター達が勝手に動く』って言うじゃん?」

「ああ、雑誌なんかのインタビュー記事なんかでよく見るな」

「つまり、廻の描くキャラクター達はAIを搭載しているってことかい?」

「そんな訳ないでしょ……」

「あーそうそう、そんな感じ」

「「そんな感じなの(か)!?」」

 

 冗談めかして言った類の言葉は、まあ当たらずとも遠からずって感じだ。

 先の作家あるあるをより私なりの言葉にするなら、うーんそうだなあ。

 

「“私が描くのは、私が観測するセカイに過ぎない。セカイが勝手に生きている”……って感じかな」

「…………つ、つまり?」

「おや、司くんの頭から煙が」

 

 うわ。考えすぎて頭から煙が出る人リアルに居るんだ、初めて見た。

 ……とりあえずおしぼり乗せとくか。

 

「……ところで、ファミレスに呼び出されてそろそろ30分経つけど、すぐ来るって言ってたもう1人はまだ来れなそう?」

「う〜ん。さっき『もうすぐ着くよ!』って連絡が来たから、そろそろ来ると思うけれど……」

 

 放課後にこうしてファミレスに呼び出され、6人がけくらいのちょっぴり大きめの席に案内されて30分ほど。

 暇が講じて雑談ついでに手持ちのキャンパスノートと鉛筆で落書きをしているけれど、こうも遅いと心配になってくる。

 

 

 ピロピロピロ、ピロピロピロ

 

 

 と、その時入店の音が鳴り──その直後。

 

 

 ズダダダダダダ!!

 

 

「あ、きた」

「え」

 

 

 

「遅れてごめぇ〜ん!! 類くん! 寧々ちゃん!! 司くん!!! 脚本の人!!!」

 

 

 

 私の鼓膜は弾け飛んだ。

 

 

 

 

 

「改めて! 宮女1年! 鳳えむです! よろしくお願いします!」

「ああうん、よろしく鳳さん……」

 

 圧が。元気さからくる圧がすごい。

 杏さんとか咲さんとかも元気だけど彼女たちよりもこう、天真爛漫!! って文字が背後に出てる感じの圧がすごい。

 

 向かいに座った鳳さんが私の両手を握ってブンブン上下に振る。

 揺れる視界の端で寧々が『分かる……』って感じの目をしていた。

 

あの(・・)春夏秋冬先輩が脚本を書いてくれるなんて、すっごく嬉しい! あ、です!」

「敬語はなくて大丈夫だよ、鳳さん。……“あの”って所が気になるけど」

 

 小豆沢さんの例もあるし、私の噂はどうにも恐ろしい人物のそれに近い部類が多いらしい。全くもって不名誉な事だ。

 

「どの口が……」

 

 寧々がいつもの毒舌でぶっ刺してきたので、ポーズを要求した。

 次は横に座った類と一緒に右手と左手で作るハートポーズだ。ただし類の方はサムズアップポーズを取らせる。

 うむ、可愛い。顔のいい幼なじみ×2によるファンサは毒舌でえぐられた心に染みるぜ。

 

「そうか、考えてみればえむと廻は同じ学校だったな。廻は宮女じゃ有名なのか?」

「うーんとね、宮女のウラボス? なんだって!」

「なにそれ知らん」

 

 私が裏なら表のボスは誰なんだろうな。……桃井さんか朝比奈さんまで絞れたけど、どっちも難易度ナイトメアすぎるな。間とって日野森さんかな。よし、難易度ノーマルくらいまでは下がった。

 

「あとあと、最近アイドル活動も始めたって聞いたよ! 屋上でダンスレッスンしてるんだって!」

「え、廻がアイドル? ……プッ、プフッ……!」

「おい、笑った理由を聞こうじゃないか」

 

 正確には“させられてる”だし、アイドル活動してるのは私以外の4人だし、ていうか私完全部外者なのにダンスレッスンに巻き込まれてるのマジで解せない。今度抗議するかな。……既に1回抗議して却下されてるけど。

 

「それじゃあ、談笑はここまでにして……えむくん。今日の本題を話そうか」

 

 類に促され、鳳さんが鞄の中からいくつかの書類を取り出した。

 

「春夏秋冬先輩! これ、契約書です!」

「……あー、はい。そっか」

 

 渡された書類の束は、言葉の通り契約書であった。

 雇用主は『フェニックス・ワンダーランド』。サッと目を通した感じ、今回の脚本に関して主に権利関係を記載したもののようだ。

 もちろん報酬もきっちり記載されている。……まあ相場通りかな。特に怪しいところは無いし、私が不利になるような条件も特にない。あくまで今回の脚本に報酬を払うために用意された契約書、といった感じだ。

 

「ん〜……」

「…………(ドキドキ)」

 

 どうしようかなあ、と悩む。その姿を見ながら鳳さんはソワソワと体を揺らしている。

 

 ……正直な話、今回脚本を書くにあたって特に金銭的な報酬を貰う気はなかった。

 だって幼なじみ2人の頼みだし。2人のためならこの身も厭わず、無償の奉仕で一本書き上げるつもりだったのだけれど。

 

「えーっと、鳳さん」

「は、はいっ!!」

うお声でか……この契約書を用意したのって、鳳さんじゃないよね?」

「はい! えっと、お兄ちゃんが用意してくれました!」

 

 お兄ちゃん? ……あー、鳳。そういえばあのテーマパークって鳳グループってとこが経営元だっけ。

 なるほどなるほど。だから雇用元がフェニックスワンダーランドなのね。

 

「それじゃあこの書類、お兄さんに『貴方のために脚本を書くつもりはありません』って言っておいて」

「えっ……」

 

 書類をまとめて鳳さんに返すと、鳳が目に見えて静かになった。

 おや? と不思議に思っていると、鳳さんの目から涙が────ってなんでぇ!?

 

「え、なんっ、泣い、えっ!?」

「──えむくん、落ち着いて。廻は僕たちの脚本を書かないと言った訳じゃないよ」

「で、でも類くんっ、書くつもりはないって……」

 

 オロオロする私を見かねたのか、類がえむの背中を撫でながら優しく声をかけた。

 

「今のはえむくんのお兄さん達への伝言だよ。察するに……雇用元が僕達ではなく、えむくんのお兄さん──ひいてはフェニックスワンダーランドそのものになっていた、という所かな?」

「え、うん────あ、そっか! ごめん鳳さん、今のは私の言い方が悪かった!」

 

 慌ててキャンパスを手に取り、大きな円を1つと、その中に小さめの円を書く。

 

「えっと、こっちの大きい円全体がフェニックスワンダーランドとすると、鳳さん達がショウをしてるワンダーステージはこっちの小さいほうね」

 

 カリカリ、とペンでそれぞれの名前を書き足す。本当はこの外側に鳳グループがあるのだけれど、そこは割愛だ。

 

「さっきの契約書だと、私の書いた脚本を使う権利はフェニックスワンダーランドそのものに付与されちゃうの」

 

 横に人型を描き、矢印を大きな円の中へと繋げる。

 これじゃあダメなのだ。この状態だと、フェニックスワンダーランド全体にこの脚本を使用する権利が生まれるから、他のステージが脚本を使うことも出来てしまう。

 

「でも私が本当に望むのは、こう」

 

 伸ばした矢印にバツを書き足して、赤に色を変えた矢印を小さい円の中に伸ばす。

 

「私としては、フェニックスワンダーランドそのものじゃなくて──ワンダーステージのみんなに、この脚本を使って欲しいんだ」

「…………!」

 

 くるくる、と赤い円で小さい丸を囲む。

 泣き顔になり、あからさまにしょんぼりしていた鳳さんは、私が説明を進めていくうちにみるみると元気を取り戻し。

 

「──せんぱーい! ありがとう〜!」

「おわっ!」

「ごふっ」

 

 席を立ち、私の横からダイレクトアタックをしかけてきた!

 あまりの勢いに突き飛ばされるようになった私は、横に座っていた天馬くんを端に置いていた荷物の山に押し付けるように倒れ込んだ。

 

「ちょっとえむ、あんまり暴れないで……ふふっ」

「やれやれ、廻も意地悪だね。一度落としてから上げるとは」

「いやちょ、そんなつもりわひゃぁ! お、おおとりさ、脇はあんまり触んないでぇ!」

「せんぱ〜い! ありがと〜! だいすき〜!」

「ぐっ、こ、コラァ! 俺を押しつぶッ、重ッ」

「お、重いって言った今!? 乙女に向かって!?」

「乙女……ぷふっ」

「ああ、すみません店員さん。すぐ静かにさせますので、もう少し待ってください」

 

 

 その後、騒いだことを店員さんに平謝りしてから、鳳さんに新しい契約書が用意できたら受け取ることを指切りげんまんで約束して、お別れとなった。

 

 

 

「そういえば、何回かポーズ要求されたけど、アレなんだったの?」

「ああ、アレ? 特に意味は無いよ? 寧々の可愛いポーズが見たいなあって痛あ! ちょ、脇つねらひぃん!」

 

 

 

 

 

 

 後日。

 鳳さんから再度受け取った契約書の雇用元は変わらず『フェニックスワンダーランド』であったが、契約内容にワンダーステージのみで使用されることがしっかりと追記されていた。

 金銭的な契約に関してはそのままだったが、まあくれるというのだから貰っておこう。労働には正当な対価を。正当な対価には相応の責任を、だ。

 

「マネージャーのチェックもよし、と」

 

 いくらそこそこ売れてる作家とはいえ、私はまだ学生の身。こういったことは信頼出来る大人の確認が必須だ。

 

「それで、こっちは……」

 

 契約書とは別に、同封されていた封筒。

 まだ封も切っていなかったそれを開けてみると、中には手書きの手紙が入っていた。

 

 季節が云々の堅苦しい挨拶から始まり、今回の契約書を交わす上で、初版でワンダーステージ以外でも脚本が使用可能な契約書になってしまったことへのお詫びと、元々ワンダーステージ以外で使うつもりはなかったこと、改めて契約内容を更新したことが書いてあった。

 そして──

 

「…………外部企業キャラクターのイラスト依頼」

 

 便箋三枚にわたって書かれた謝罪文とは別に、簡潔に、しかし必要な情報は全ては記載された依頼書──より正確に言えば提案書が同封されていた。

 

「これは……」

『やっぱり一筋縄じゃいかないね』

「──っくりしたぁ」

 

 いきなりスマホからミクが生えてくるものだから、ビックリしすぎて書類をぶちまけた。

 散らばった書類を纏める私を見ながら、また衣装の変わったミクがコロコロと笑う。

 

「その服は……もしかしてレーシングミク?」

 

 白を基調としながらも、全体的にスポーティかつスタイリッシュなデザイン。そして目を引く、いくつかのベルトで強調された、ブーツとスカートに挟まれ輝く白い太もも。

 この間SNSですごく話題になっていたやつだ。

 

『当たり。マワルって結構詳しい?』

「いや、その衣装はSNSでエッチだって騒がれてたから」

『……やっぱりこの服やめる』

 

 ほんのり耳の赤くなったミクがくるりと回ると、前に見た雪ミク衣装に戻る。

 せっかくだから軽くスケッチさせてもらってからにすればよかったかな……。

 

『ところで、マワル。それ、受けるの?』

「……いや、うーん」

 

 依頼書を見る限り、依頼内容自体は何の変哲もないイラストの依頼だ。

 用途は外部企業とのコラボに用いられる、看板やグッズのポップなど。なんらおかしな点はない。

 

『今まで自社キャラクターだけでやってきたのに、急にコラボだなんて。……おかしいねえ?』

「…………」

 

 ミクが笑う。コイツ、分かってて言ってるな。

 

「はぁ……頭が痛い……」

『頑張ってね、マワル?』

「頭痛の原因第1位がそれを言いますかね……」

 

 ふらふらと立ち上がった私は、力なくベッドに倒れ込んだ。

 




途中の席並び

 えむ 類 寧々
 ────────
 テーブル
 ────────
 廻 司 皆の荷物

ファミレスの学生、1箇所に荷物山積みにしがち
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