5話構成にしちゃうとハーメルン的に短編扱いにならなくなるんだっけな。
青い星の一番の強みは、どんな状況からでも何かしらの成果を得ながら生還して来る事だ。
レイギエナやオドガロンに対してのみならず、ヴァルハザクやマム・タロトという未知の古龍に対しても、最初はクエストを失敗こそしたものの、後に残るような傷を受ける事もなかった。また、その知見は生態の解明への大きな、とても大きな一歩となった。
いつ如何なる時でも常に冷静沈着であるその精神。加えて、戦場に在りながらも編纂者にも劣らない観察眼。そして、リスクを度外視した場合にのみ見せるその戦闘力。
特に最後は、ゼノ・ジーヴァを討伐した事で誰しもが知っているところだ。
そんな優れた能力の数々を、ネルギガンテの為にアステラを去った狩人は持ち合わせている訳ではなかった。
この狩人にあるのは、得られた情報を咀嚼し、十全に活かせる事。既知の相手に対してならば、自分にとって面するのが初見であろうとも、古龍であろうとも対応出来る事。
英雄として名を馳せる為には、それだけでは不十分だろう。
だが、狩人として優れた個人であると示すには十分過ぎるものだった。
ナナ・テスカトリ。またの名を炎妃龍。
テオ・テスカトルの雌個体であり、リオレウスに対するリオレイアのように、雌雄で姿形を強く変える種である。
そしてそれは現在、龍結晶の地に唯一座している古龍であった。
番であるのかどうかは、不明である。テオ・テスカトルは新大陸の他の場所で確認されておらず、しかし龍結晶の地で最もテスカト種が好むフィールドへの、人が唯一通れる道は現在、溶岩によって閉ざされていた。
……テオ・テスカトルは居たとしても、そう恐れる強さではないだろう。
古龍渡りの要因の一つであったゼノ・ジーヴァという存在が討伐された以上、この新大陸に来た理由ははっきりとしないが、姿を見せていないという事は、死期を察してやってきたのか、それとも単純に療養にでも来たのか、そんなところだろう。
そして、そんな姿を見せない番を守る為にか、ナナ・テスカトリは気性を荒くしていた。
そんなナナ・テスカトリがこの地に座した影響によって、他の竜種は龍結晶の地から遠ざかってはいるものの、ガジャブー達は過去のネルギガンテの件もあってかなり図太くなったようで、こんな時でもワイワイ騒いでいる。
とは言え、助けを借りられはしないだろう。狩人はガジャブーの言葉も分からないし、通訳になれるアイルーも連れていない。
加えて、この狩人はナナ・テスカトリに直接対面した事はない。以前この地に現れた個体の討伐に参加した訳でもなく、現大陸で戦った経験もない。
知識として、それぞれで戦った事のある狩人や、その周りに居た人々や編纂者からの経験や話を聞いた事があるのみ。
それでいて、完全に、一対一で挑む必要がある。
それでも、狩人は実力を満足に発揮出来ないような精神状態ではなかった。
確かに、そんな古龍と他の仲間無しで戦う事は初めてだ。
青い星のように、突出した力を持っている訳でもない。
けれど、それ以上に緊張してしまうような状況など、もう既に幾度と経験してきていた。
自分が倒れてしまえば、パーティが壊滅してしまうだろう。自分がここで退いたら、村に目の前の竜が踊り込むだろう。
現大陸ではそんな責任を持って狩猟に臨んだ事も多々あった。
それに比べれば、相手が多少強大になってはいるものの、今回背負うものは自らのエゴばかり。
負けられないのには変わらなくとも、気は楽にも程があるものだった。
*
龍結晶の地の、夜遅く。
ベースキャンプの一つで、唯一この地に残っていた調査団の二人を手早く気絶させ、ネムリ草から作った睡眠薬を口に流し込む。これで半日は起きないだろう。
それから不足していた薬などを補充し、ついでにこんがり肉も一つ頂戴してから外へと出た。
「……さて」
こんがり肉を食い終え、骨を投げ捨てる。
ベースキャンプから外に出れば、すぐそこでナナ・テスカトリは何かを憂いているかのように虚空を眺めていた。
気性が荒いとは言え、この前の傷ついたキリン程に、周囲に当たり散らす存在ではなかった。
だから、調査団達もこの個体に関しては、より詳しく物事を知る為にも、討伐ではなく観察をする事にしていたのだろう。
だが、それをネルギガンテの為に倒す。
一から十まで、完全に自分のエゴである。
調査団の理念からは、とてもかけ離れた行為。もし見つかったら、何にせよ現大陸へと送り返される事は間違いない。
かちゃり。
わざと音を立てて片手剣を抜刀した狩人に対し、ナナ・テスカトリが気付く。
古龍のような、不意を突いても急所を貫けないような頑強な表皮を持っていたりする相手に対しては、正面から戦った方が楽だ。
その超常的な力に対しても、無闇矢鱈に撒き散らされるよりも、しっかりと狙いを定められた方が逆に避けやすいものだった。
そんな、お前を倒す、と言うようにいきなり姿を現した狩人に対してナナ・テスカトリは。
ガヂィッ!!
「うおっ!」
咆哮する事もなく、いきなり噛み砕こうと飛び掛かってきた。
避けて、カウンターに剣を目玉に突き刺そうとするが、流石に届かない。
「グゥッ!?」
いきなりそんな急所を狙ってきた狩人に対し、ナナ・テスカトリは驚いて距離を取った。
「ふーっ……」
焦るな。調査団が新しくここに来る事はないはずだ。時間はたっぷりある。
だから、堅実に削っていけ。
唐突に現れた狩人に対し、それが命知らずではなく、自らを屠るに値する牙を持つ存在だと察知してからは、ナナ・テスカトリは最初の数分を様子見に徹していた。
テオ・テスカトルが炎と爆破の二通りを操ってくるのに対し、ナナ・テスカトリは炎のみで攻防を仕掛けて来る。
それは動きが単純になったとかではなく、テオ・テスカトルよりもより苛烈な炎で敵を容赦なく焼き焦がしていくという事だ。
延焼し続ける塵粉は、その肢体を飛ばす翼も使って、至る所に炎を侍らせる。
だが、そんな事を常日頃から行っていては、古龍と言えど、必要なエネルギーは幾らあっても足りやしない。
その数分の様子見は、狩人の情報を得る為。そして、その塵粉を扱えるよう、体を十分に温める時間として。
「……」
しかし、様子見に移ったと理解されれば、狩人も簡単には手の内を晒さず、無理に距離を詰めて来る事もなかった。
円を描くように、静かに動き続け。
そして、ナナ・テスカトリの全身から蒼く光る塵粉がさらさらと漏れ出すようになった頃。
ナナ・テスカトリは上空から一気に狩人へと突っ込んできた。
回り込むと同時に脚や胴を切り付ける。噛みつきを躱しながら盾で顎を打ちつけ、角を削る。
浅い切り傷が、打撲痕が、ナナ・テスカトリの全身に刻まれていく。
全身をうねらせ、塵粉を周囲に撒き散らす。翼をはためかせて、狩人へと一直線に熱波を放つ。
しかし、狩人の受けたダメージも無視出来ないものだった。
鎧の下ももう既に、どこもかしこも真っ赤に腫れているだろう。体を動かす度に鎧とぶつかる部分がぢりぢりと痛んでいた。きっと、どこかの皮も剥げている。
けれども、これはまだ序の口だった。ナナ・テスカトリの炎には更に上がある。テオ・テスカトルの大技をスーパーノヴァと名付けられたように、新大陸で確認されたナナ・テスカトリの大技はヘルフレアと名付けられた。
言ってしまえば、暴風すら引き起こす苛烈な炎を辺り一帯に撒き散らし続けるという単純な技なのだが、暴風に足を取られてしまえば回復すらままならず、全身をじわじわと灰にされていくえげつなさを持っている。
正直に言ってしまえば、その範囲の広さ故に、スーパーノヴァよりも遥かに危険な技だった。
それだけは絶対に避けなくてはいけない。その為ならば、この程度の火傷はどうでも良いものだ。だからこそ、耐熱の装衣もまだポーチに収められたままだった。
体を動かす度にどこかが鋭く痛む。どこもかしこも強い傷ではないとは言え、無視できない量の血を流してしまった気がしていた。
狩人という相手と戦うのは、実際にはこれが初めてだった。
親や番からは、戦った事があると聞いていた。一撃でもきちんと攻撃を当ててしまえば、動けなくなる矮小な存在だと。
だが、その一撃をとにかく当てられないのだと。一撃で仕留めなければ何度でも立ち上がってきて、諦めてくれないのだと。
そして立ち上がってくる限り、執拗に、小刻みに傷を与えてきて、そうしてこちらの体力をじわじわと削ってくるのだと。
正にその通りだった。
竜と戦う時のように、戦いが一合二合と、牙や爪を交わしただけでは終わってくれない。体を抑えつけて首を引き千切ったり、動けなくなったところを焼き尽くしたりだとか、そんな止めを刺せる展開になる気配が一向にない。
そもそも、これ程に長い時間戦い続けた事もなかった。こんな戦い方を強いられる事もなかった。
……だから、今抱いているこの感情は、苛立ちと、そして戸惑いなのだろう。
それを解消出来なければ、自分は負けるのだろう。
故に、ナナ・テスカトリは早めにと、一度目の勝負を仕掛ける事にした。
自慢の一撃を放っても確実に死んでくれるとは思えないが、それでも、この敵を倒すには、あらゆる事を試さなければいけない。そうして、自分が弱るよりも早く弱らせてなければいけない。
そう感じていた。
……来る。
狩人は直感したと同時に、耐熱の装衣を身に纏った。
片手剣だからこその、その着脱の素早さ、ギリギリ間に合う。
直後、ナナ・テスカトリはふわりと跳躍し、着地、と共に塵粉を激しい熱風と共に思い切り撒き散らした。
その蒼炎の熱をまともに受ける事だけは防いだが、そのクシャルダオラの暴風にも匹敵するような風に煽られ、ごろごろと転がる。
「……!!」
思わず声を出そうとした口はもうカラカラで、声は微塵も出なかった。回復薬をもう既に数本飲み干してはいるが、きっと数日はもう声も出ないままだろう。
だが、立ち上がれる。四肢は満足に動く。
けれど、しかし、次にナナ・テスカトリが翼をはためかせれば、熱風と共に押し退けられた空気が戻って来るかのように、先程とは逆向きに、ナナ・テスカトリの方に吹き飛ばされ、引き戻される。
くそっ。
再び起き上がった時、眼前ではナナ・テスカトリが人の胴体程にある前脚を掲げていて。
ギリギリ避けたものの、鋭い爪が、耐熱の装衣が一気に引き裂いた。
ボロ布と化した耐熱の装衣、隙間というには余りにも大きな穴から灼熱が突き刺して来る。思わずスリンガーで閃光を放ち、距離を取った。
そして、僅かながらもナナ・テスカトリが視界を失ったその隙に、回復薬を一気に三本も飲み干した。
……生き返った。
相変わらず声は出ないし、喉はカラッカラのまま。でも、全身の激痛は瞬く間に癒されていき、唾も少しばかり出た。きっと、このままだったら秘薬を噛み砕けても飲み込む事も出来なかっただろうから。
だが、それよりも何よりの問題は。
次のヘルフレアは耐えられないという事だ。
そして目の前に居るのは、塵粉を一気に使い切り、輝きを失った、今一番脅威のないナナ・テスカトリ。
……今が勝負だ。
最初で最後の。
*
体が、どこか落ち着かなかった。
親が今、自分の為に古龍と戦っているのだ。落ち着かないのは当たり前だ。
けれど、それだけではなかった。
自然と口から舌が出ていた。垂れ落ちた涎の量は、地面に水溜まりを作っている程だった。
これは……自分の、親を案ずる不安や心配といったものじゃない。
これは、食欲だ。いや、飢えだ。古龍を喰らいたいという、自分の思考よりもっと奥底から、もっと根底から来る、剥き出しの欲望だ。
やや離れた龍結晶の地で戦っているナナ・テスカトリの塵粉がここまで届いている訳じゃない。その臭いや熱が届いている訳でもない。
ネルギガンテが感じているのは、もっと根本的な、古龍としての超常的な、摩訶不思議な現象を引き起こすだけの特徴的な、莫大なエネルギーそのもの。
好物とするそれ。
欲望が、段々と肥大化していく。食らったのは鬣の数本ばかり。姿形など見た事もない。それでも、鮮烈に肉を食い千切った時の旨味が、血を飲んだ時の満足感が、脳裏に鮮烈に浮かんでくる。
親がくれた古龍の素材の中に、あの鬣を持つ古龍のものもあったのだろうか? それとも、この肉体が生まれた時から知っているのだろうか?
だが、そんな事はどうでもよかった。
どうでもよかった。
勝てやしない、助けになる事すら出来ないという理性が、抑え込まれていく。喰らいたい、一刻も早く喰らいたいという欲望が膨れ上がっていく。
そんな涎すら抑えられない衝動の前には、疑問など、理性など、とても些細なものだった。
じゅるり。
溢れ出す涎は、もう首までを濡らしている。
そして気付けば、体が立って座ってを何度も繰り返していた。
何度も、何度も。
また繰り返す度に、座っている時間が短くなっていた。
全身から急速に伸びる棘が、ずっと折り畳まれたまま、それを善しとしない翼が、その時を待ち侘びていた。
時系列としてはMHWとMHW:IBの間って感じかなーって思ってたけど、思い返してみればこの小説の一番最初の単語はラージャンでしたとさ。
因みに、まだどういう形で終わるのか決まってない。
書いてる流れで決まります。
……元々、ネルギガンテをアステラに連れて帰る予定だったし。
それで夜中に程よく成長したネルギガンテとマイハウスのベッドの上で健全に抱き合っておやすみなさい、で終わる予定だったし。
1話時点で主人公が勝手に思いっきり狂っちゃったのでこうなってる。
まあ、その方が面白いだろうなって思ったんだけど。
(健全に)抱き抱えられて眠りたい
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テオ・テスカトル
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クシャルダオラ
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オオナズチ
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ナナ・テスカトリ
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ネルギガンテ
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マム・タロト
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イヴェルカーナ
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ネロミェール
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バルファルク
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メル・ゼナ
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他古龍