ミツハニーが来てから三日。この三日間、雨は降り続いている。
そんな雨を窓から憂鬱気味にルチアが見つめている。
「はあ、大丈夫かな。ミツハニー」
「歌姫、心配するな。しっかりと指導したのだろう?」
そう、つい先ほど雨に紛れてミツハニーは、ビークインに挑みに行った。雨がビークインのスペックを落とし、こちらは雨の中でも動ける修業を積んできた。
少しでも勝率を上げるためである。
「もうボク達にできることはないさ。後は祈ることぐらいだね」
「これ以上野生のポケモンに肩入れすれば、その後の群れの世話もする義務が生まれるだろう。ルチア君、自分の力で勝ち取ることにも意味はあるんだよ」
「むう!分かっているけどさ」
コンコン。
唐突に起こるノック。しかし、ミツハニーが戻ってくるには早すぎる。それ以前に彼女は、勝ったとしても負けたとしても、今後自分の群れを率いて生きていくだろう。ここに戻ってくることはない。
ならばこのノックは誰なのか。ノックはドアの下の方で起こった。つまり人間の可能性は少ない。ポケモンだろう。
私たちの間に緊張が生まれる。私はダイゴさんに目配せをすると、向こうもうなずいてくれた。ウインディとメタグロスを伴って、ドアに向かう。他のみんなも窓や、裏口にポケモンを伴って監視する。これが襲撃の可能性もあるのだ。
準備が出来たら、意を決してドアを開ける。
そこには傷だらけのスボミーがいた。
スボミーはほとんど瀕死であったが、事情を聴くことはできた。
スピアーの襲撃だ。
「!!すぐに助けに行かなくちゃ!」
「ルチア!!」
慌てて飛び出そうとするルチアを私が呼び止める。
ルチアは私を責める目で見つめる。ここで助けないかと。しかし、冷静になるべきだ。
助ける判断はもう遅すぎる。
「あのロズレイドが伝令として非力なスボミーを送る。そんなことはあり得ない。群れの長として伝令ならロゼリアの方がいいはず。それでもスボミーが来たということは」
「…すでにロズレイドたちは壊滅している」
「見る限り外にスピアーの姿はない。なのにスボミーたちは一匹しかこちらに来ていない。森ですべて止められている戦力を持っている。楽観できる状況ではない、か」
「じゃあ、見捨てろっていうの!」
「ユウ君もアイ君もそうは言ってないよ。ただ落ち着いて行動するべきなのは変わらない」
ダイゴさんの言葉にようやくルチアも落ち着きだす。ただ、何かあれば動くのは変わらない。
私は黙っているリラに視線を向ける。彼女の頭の中では様々な策とリスクがめぐっているはず。リラから頷き返される。
「アイ。ミツハニーが勝利したとき用に花火作っていたよね。防水性の」
「うむ。ただ、他のポケモンを刺激しすぎるからと却下を食らったがな」
「うん。いつでも打てる?」
「我を誰だと思っている」
「ユウとダイゴさんは、ドクケイルの林を燃やしてきて。林の外にスピアーが居なところを見ると、ドクケイル達はもうやられている可能性の方が高い。ならば補給線をぶった切る。ルチアはチルルと共にロズレイドの林に暴風を。地面は狙わないように。木々を倒していいから。アイは林を攻撃したタイミングで花火を打ち上げて。ここまで隠密に徹底しているんだ。私たち人間の何かを警戒しているはず」
リラから指示が飛ぶ。ここで意見を言う余裕はない。失敗すれば一蓮托生。全員仏になるが、そんなこと前からである。
作戦開始だ。
「「「はい!!」」」
「ウインディ!だいもんじ」
「ガウ!」
「メタグロス、サイコキネシスで雨をはじいて」
「メッタ!」
ドクケイル達がいたはずの林は、すでに生物の気配はない。たった三日である。私たちが別のことに集中していたとはいえ、この行動力は脅威しかない。
林は火に包まれる。ポケモンの火力は強力だ。雨の日でも火をつけることが出来るのだから。
突然、あたりをプレッシャーが襲う。あのサザンドラを経験していなけば動けないほどの殺気だ。
炎の中から一匹のスピアーが現れる。
「あれはスピアーなのかい?」
ダイゴさんが困惑するのは無理もない。スピアーの持つ両手と下腹部にあった毒針は大きく成長し、両足が毒針に変化している。
「いえ、あれはメガスピアーです」
メガシンカ。ゲームでは一時的に強力な進化を行うものである。ただ、ゲームの図鑑説明には、人間を介さないメガシンカには多大なリスクがあったはず。それが現実になったのなら、スピアーの凶暴性にも説明が付く。一番上が暴走しているのだ。従う部下も暴れるのだろう。
メガスピアーは、こちらに向けて突撃する。その速度は、進化前とは比べ物にならない。私とダイゴさんは左右に避ける。分断されるが、四の五の言っていられない。
手早く方針だけ伝える。
「ダイゴさん!メガスピアーの特性は適応力。虫タイプ毒タイプの威力が上がります。どちらも受けられるメタグロスが守備を私たちが攻撃を」
「ああ!メタグロス!バレットパンチ」
優先度の高い技が、本来の素早さを逆転し、不自然な加速でメガスピアーに当たる。
急な緩急に、メガスピアーは目を白黒させる。やはり野生は突発的な動きに弱い。ここで畳みかける。
「ウインディ!神速」
「メタグロス、アイアンヘッドからのしねんのずつき」
こちらの連続攻撃にメガスピアーに怯みが生まれる。そこにしねんのずつきが入り、大ダメージが入る。ただ、ここで正気に戻ったようだ。毒針を紫に染め上げ、連続でメタグロスに攻撃をする。しかし、ポケモンにはタイプ相性が存在する。鋼タイプに毒タイプの攻撃は無効だ。
自慢の攻撃が利かず、明らかな隙が生まれる。
「ウインディ!あなをほる、続けてかえんぐるま。離れ際におにび!!」
大ダメージを与えたメタグロスに集中していたメガスピアーは、この一連の攻撃を無防備に受ける。急所にあたった。たまらず下がるメガスピアーにメタグロスの一撃が襲う。
「サイコキネシスで地面に叩きつけるんだ」
「動きを止めたところに、もえつきる!」
「よし!ウインディごと、じしんで攻撃!」
メタグロスのじしんによりウインディもダメージを負うが、もえつきるにより炎タイプを失っているウインディは、元気にこちらに戻ってくる。
かなりの連続攻撃。しかし、土煙からは悠然とメガスピアーが現れる。
「確かに、強いけど」
「そうですね。巨大な力を振るっているだけ。力に振り回されている印象ですね。このまま畳みかければ、っ!!」
唐突に炎の壁から、5匹のスピアーが現れる。雨のせいで火の勢いも弱くなってきた。それに新しく現れた5匹も、かなりの力を持っている。幹部といったところだろう。他にも羽音がたくさん聞こえてくる。
こちらがかなり不利になった。が、ここで連続で花火が上がった。
ドーン!!
突然の騒音にメガスピアー達の動きが止まる。ここでウインディがほえる。
こちらの手札を警戒したのだろう。逡巡したのち、メガスピアー達は去っていった。
初戦の遭遇戦は、向こうの戦力の大きさを確認しつつの引き分けで終わった。
初めに主人公たちを襲うと、視界が良いため、たとえ雨であっても襲撃がばれる。
勝ったとしても、ドクケイルとロズレイドの挟み撃ちになる可能性が高い。
一方、ドクケイル側なら雨音で戦闘音が、林で姿を隠せる。奇襲に成功しそのままロズレイドの下へ。
戦争は各個撃破が理想なり。