急に暗闇に包まれる。いや、転がっているのか。角度も深さもそこまでもなく、すぐに止まった。こんなことをするのは一人しかいない。
「おい!アイ!」
「残念ながらアイは居ないようだ」
「リラか!無事で何よりだ」
「ガウ!」「ブ!」「シャ!」「シィ!」
「みんなも無事か」
「まったく、汚れ一つついてなかったのに、初めてのダメージが味方とはね」
リラはすごいな。あの数を無傷で凌いでいたのか。こっちはいくつものモモンのみを消費したのに。さすがセンスが一番の参謀だ。
「それにしても大規模な仕掛けだね」
「まったくだ。緊急回避用か?私は問題なかったけど」
「ボクも問題なっ!!!!」
急に大きな振動が起こる。あまりの振動に私たちは立つこともできず、地面に伏せる。あまりの衝撃に上からぱらぱら土が落ちてくる。このまま生き埋めになるのか。
そんなフラグが的中したのか、衝撃に耐えられず、一部に穴が開き、光がさす。
穴が開いた時に生まれた砂ぼこりは私たちをよけていく。どこまで計算しているのやら。
振動も収まり、時間をかけるわけにもいかない。すぐに確認するために、空いた穴からウインディの背に乗って脱出する。
「おいおいマジかよ」
「これはねえ」
私たちは広いクレーターの中にいた。比較的浅いが、広範囲にわたっている。防衛陣地のかけらもない。空には青空が広がっている。あれだけ居たスピアーたちが一掃されていた。
「アイのやつ隕石でも降らしたか?」
「ボクはこんな惨状で無傷のログハウスに驚いているんだけど」
確かに、ぽつんと立つログハウスは異様だな。私の畑は一掃されているみたいだけど。
すると空からルチアたちが下りてきた。
「アイのやつ!本当に許せない!!無線で空高く上がるように指示出してきたと思ったら、急に大爆発が!スピアーの壁がなかったら丸焼きだったよ!!!」
「爆発か。いろいろ組み合わせたんだろうな」
思わず目が遠くなる。地道にやっても勝てなかったのは確かだけど、やり過ぎだろ。
するとログハウスの方から、声が聞こえてきた。
『敵主力が爆心地上空通過確認後大爆発!防衛陣地に入らなければ安全だとでも思ったかバカめ!!盟友たちは私をのけ者にした罰だ!驚いたか!敵残存勢力は大幅減!次の策を待つがいい』
一方的に言って、切っていった。まるで嵐だな。
「策って言ったって、何も残ってないぞ」
「ここまで何もないと逆にすがすがしいね」
「やり過ぎでしょ!!!」
各々文句を言う。ただ、小休憩はここまでだ。大爆発に耐えれるだけの精鋭を中心に敵さんも向かってきている。依然、数は向こうの方が多い。ただ、先ほどよりも絶望感は小さくなった。目に見える希望はありがたい。
「みんな行くぞ!ウインディ、ほのおのうず」
「ブイズもまねっこでほのおのうず」
「チルル!ぼうふうで叩きつけて、制空権は取らせないで」
ここまでくれば、あとは3人で固まりながら、死角をなくしていくしかない。身を隠せる場所なんてもうないのだから。あとは、拘束技で数を減らしつつ、確実に倒していく。
一手でも間違えれば、全滅の詰将棋が始まる。
阿吽の呼吸とはこういうのを言うのだろう。すでに私とウインディの間に会話はない。それでもお互いに言いたいことは伝わってくる。一体感とはこういうことを言うのだろう。私が一歩引いてスピアーをおびき寄せれば、ウインディが仕留め、ウインディが下がれば、迫ってきたスピアーの姿勢を私が崩す。
視野も広がった。クレーターにより柔らかくなった土を蹴り上げれば、シャワーズが水をかけてどろかけのようにスピアーの邪魔をする。サンダースのスピードスターをチルタリスのぼうふうが後押しし、高速広範囲に攻撃を与える。これらを言葉を交わさずにできるのである。無駄はどんどん減ってきてる。スピアーも倒せている。
そ れでも、スピアー達は削り切れない。すでに太陽は傾き始めた。日が暮れれば、勝利はもう絶望的だ。タイムリミットが近づいてきた。
乱戦の中、背中合わせになった私とリラは、久しぶりに口を開く。
「時間が迫っているけど、何かいい案はないかな参謀?」
「意外と余裕があるよね、リーダー」
「前回の経験はあるかもね。最悪みんなで川に飛び込めばいいかなって」
「可能性の低すぎる策だね。でも、運命に身を投げるのも一考かな」
すでに勝利は不可能だ。こちらの殲滅速度では、スピアーの群れを削り切ることはできない。ただ、アイのおかげで、逃走する余裕はできた。これ以上時間をかければ、水温も下がり水に飛びこむ最終逃走手段も使えなくなる。
さあ、賭けの時間だ。
「ウインディ!しんそくからの、もえつきる」
「ガウ!!」
自身のタイプを消す大技が、リーダ格に突き刺さる。すぐにしんそくを応用し、私の横につけているのはさすがだ。そのまま私は背に乗る。
突然の大技に動きを止めたスピアーたちに、こごえるかぜが4つ、突き刺さる。チルタリスとまねっこ三連発だ。大幅に速度を落としたスピアーたちに目を向けることもせず、逃走を開始する。
「リラ!」
「うん!」
ルチアはすでに空高く逃げている。私も、ウインディに乗りながらリラを回収する。人間の足では、追いつかれる。
混乱から回復したスピアーたちの羽音が背後から聞こえてくる。リラの腕に力が入る。
「ねえユウ。ボク達、生き残れるかな」
彼女自身こんな不確定な策に身をゆだねるのが初なのだ。人より頭の回転が速い彼女には、様々な不確定要素が渦巻いていることだろう。だからこそ私は笑う。
「ハハハ!すでに私は運命に一度勝っている。二度目がないと誰が言える!私にゆだねると良い」
「うん」
もう川までほとんどない。逃げ切れるかはぎりぎりか。姿勢を低くし、少しでも風の抵抗を減らす。ラストスパート、と言うところで予想外の声が響く。
「フロストロトム!!ふぶき!!」
「ロトー!」
「「え、アイ?!!」」
私たちを追ってきたスピアーたちは逃れられるはずもなく、ふぶきが直撃する。
あまりの事態に私たちは足を止める。なんで来たのか!逃げるぞと視線をアイに合わせれば、はまりの光景に言葉を失った。
逆光によりアイの顔は分からない。ただ、やり切った満足感に包まれていることだろう。
夕日を背にアイの後ろには無数のミツハニーと一体のビークインがいた。
「甘すぎるぞ盟友を!運命は委ねるものではなく、つかみ取る者!可能性が少しでもあるなら!この選択は必然である!」
「まじか!あの時のミツハニーが!」
「勝つ可能性も、その後戦える力がある可能性も低かったのに」
突然、上空から暴風が吹き荒れる。突然の援軍に対応できないスピアーたちは、もろに受ける。仕掛け人はすでに、地面に降り立ちビークインに抱き着いている。
「ハニーちゃーん!!!」
「ビイ♪」
ルチアを嬉しそうに抱きしめるビークイン。ああ、姿は違えどあの時のミツハニーだ。
「受けた恩は返すだってさ、リーダー」
「ああ、ありがとう」
「ビイ」
ビークインも格上との対決に勝ったばかりだろうに、それでも駆けつけてくれたのか。
私は後ろを振り向く。すでに数の上で、こちらが有利になった。スピアーたちが一歩下がる。
「まだやるか」
「ビイイ!!」
すると司令官らしきスピアーがわめき散らかす。逃げる気はないようだ。まあ、スピアーたちには、最強がついているのだから、わからなくもない。ただ、それは彼らの最強が最強ならば、だ。
スピアーたちの背後にはすでに彼らが歩いてきていた。
「そこまでだ!!」
覇気の満ちる声が響く。まったく、この土壇場に間に合うとか、あんたは確かに最強だよ。
ダイゴさんの後ろにいた宙に浮いたメタグロスが、何かを放り投げる。すでにこと切れているメガスピアーだ。自分たちの大将がすでにやられている事実に、スピアーたちは逃げ腰だ。そうだろう、ダイゴさんの背後にはメガスピアーと同等の気配を放つメガメタグロスが控えているのだから。
まったく、いつの間にメガシンカを物にしたのか。
完全に立場が逆転した。ここからは殲滅戦にしかならない。
「ビイイ!!」
今まで勝利しか積み上げてこなかったスピアーには、逃げる選択肢はないらしい。ミツハニーたちの戦力の低さが見破られたか。ここまで疲労した状態では、勝ったとしてもこちらに、少なくない負傷者が出るだろう。あと一手何かがほしい。そんな願いが届いたのか、戦場にいくつもの遠吠えが響く。
「「「ウオオオオオオオン!!!」」」
「え?なに!ここで漁夫の利?!」
「まずいね、これは」
「あ、あれはグラエナとポチエナ?!」
「いや、まさか」
仲間たちは、狼狽している。普通に考えれば、関係ない援軍なんて来るはずがない。
ただ、私には心当たりがあり過ぎる。
一匹のグラエナが近づいてくる。みんなが警戒する中、私は無防備に近づく。
「よかったのか?家族どころか仲間までこんな危険地帯に連れてきて」
「ガウ」
ルチアのように言葉が分からなくても、言いたいことが分かる。まったく、ポケモンたちは、義理堅すぎるだろう。わざわざ周りの群れをまとめてきてくれたのか。
「まだやるかい」
これが最終宣告である。戦力の質でも、相性でも勝っている。もうスピアーたちには一矢報いることもできない。それだけの差が出来た。
スピアーたちは忌々しそうにこちらを一瞥して、去っていく。すでに、ポケモンたちは縄張りを作っている。頼みとなる強者もいない。スピアーたちが新天地で、大勢力を築くことはできない。
ああ、万感の思いが沸いてくる。周りを見れば全員が私を見ている。リーダーとして最後に一言。
「この戦争!我々の勝利だ!!!」
「「「オオオオオ!!!!!!」」」
無数の雄たけびが空に消えていった。
裏設定 グラエナたち
派手な爆音を何度も鳴らしていれば、
好戦的な野生のポケモンは集まってくる。
実は
漁夫の利を得ようとする彼らを、
グラエナたちは全員追い返していた。