月華の本拠地まではかなりの強行軍であった。道中の安全はかなり確保されているようで、ポケモンに乗って急いで向かうことになった。ポケモンを扱えないものは、固まって帰還する。それだけ、切迫しているようだ。
私たちもウインディとチルルに分かれ乗り、他のポケモンはアイ特製モンスターボール(仮)に入る。未だ住み心地は最悪で、一日で使えなくなる試作品だが、今回は十分だろう。
そして半日程度で目的地に到着する。いずれ安全になればポケモンを使った移動は車を超えるだろう。そんな動きだった。
崩壊した町から少し離れたところに彼らの本拠地はある。すでに食料の少ない街中よりも、少し離れたほうが安全で多少の食料もあるようだ。ただし、得体のしれないきのみを危険視しているグループに保存食を、それ以外には野生に実るきのみを食料にしているようだが、これもすでに限界に近いようだ。
「ふむ。しかし、きのみが摩訶不思議なのは今更だが、安全性はもうほぼ証明されているだろう」
「アイさん。それは経験則だろ。そんなんじゃみんな納得しないんだよ」
「む?我ら博士グループの発表を知らんのか?大学教授の大木戸博士を中心に、すでに殆どのきのみの分子構造は判明している。すべてのきのみに生物の害する毒はない。むしろ、特殊な分子構造は生でビタミンや炭水化物、加熱すると脂質やたんぱく質になると、塩以外の必須栄養素を全て補えると食糧事情をひっくり返す代物だぞ」
「アイ?!いつの間にオーキド博士と面識を持っているんだよ」
「盟友よ今更か?もう数年来の付き合いだぞ」
「二人とも漫才してないの」
「そうか僕たちの活動もあまり広がっていないのかな」
「非常事態に娯楽の中心の動画なんて見る余裕なんてないのかな」
「あー。月華周辺は電波が通ってないんだよ。すまんな」
そんな会話を挟みながら、目的に到着する。乱雑なバリケードは巨大で、殺気だった人たちが防衛している。万単位で人がいるだけにかなりの大きさだ。
カゲツの姿を見れば、大きな門がゆっくりと開く。中に入れば様々な視線が突き刺さる。
「好意も敵意もある視線だね」
「正確にはポケモンに対してだねルチア」
視線に敏感な二人が保証している。この様々な視線には好意の方が多そうだが、確かに敵意もあるだろう。自分たちの生活を奪ったポケモンを連れている私たちに対する複雑な感情を感じる。だからだろう。拠点をかなり歩いたが、ポケモンを連れている人はかなり少数だ。カゲツ曰く、これでもかなりマシになったらしい。
ただ、あまり悠長にもしてられない。住民はかなりストレスをため込んでいそうだ。ここから生活基盤を整えるには、ポケモンの力は必須となる。ポケモンと一緒に行動することで、悪感情はできるだけ払拭してもらおう。
というわけで、散開して行動しよう。
「私はきのみの育成。アイは生活基盤の整備。ルチアは住民の協力者を作ってくれ。ダイゴさんとリラは頭さんと交渉を」
「「「了解」」」
「おお!すっげえな。ならこっちも人を出そう」
そういってカゲツはテキパキ人を振る。割り振られた人が適した人物であり、細かいところで能力の高さを見せつけてきた。
Side ユウ
「じゃあ今日も頑張りましょう」
「「「おお!!!」」」
私と共に働くのは農家が中心であった。気のいいおっさんたちはノリもよく、指示してストレスがない。彼らも、きのみというものに興味はあったらしい。それに益虫の有用性も理解しており、慣れればポケモンとのコミュニケーションも、スムーズになってきた。日をまたぐごとにきのみの農場は大きくなり、3日ほどで食糧事情を改善できた。むしろ、農家の技術を私が教わったぐらいだ。
さすがに敷地内だけでは不可能で外に広がった。さらにきのみにつられてやってきた野生のポケモンは、農家の人たちと絆を紡ぎ良きパートナーになっている。ここの維持も拡張も彼らなら十分できる。たった5日でモノにするとは。さすが本職である。
Side アイ
「はひゃひゃひゃ」
「おい!アイ殿がまたイカれたぞ!」
「おひょひょひょ」
「こっちもいかれているだと!!」
我に割り振られた要員は、工学部の学生から工業系の社会人など様々だ。我らの中で一番人が多いだろう。それだけ重要視されているということか。
前々から思っていたが、人の能力が前世よりも高すぎる。ちゃんとした道具や環境さえ整えてしまえば、彼らだけでも十分やって行けただろう。我が出来るのは道具の提供と時計のの針をちょっと早めるくらいだ。
すでに最低限の設備は整えられ、娯楽方面にも手を出し始めている。
博士メンツもそうだが、熱中すると徹夜は当たり前な人種が多いのはおかしい。カゲツ殿の常識人の部下が初日からツッコミ要因になっていたが、そのキレも5日経っても落ちる気配はない。
殆どが5徹目だが、まだまだイケそうだ。さあ!イってみよう!
「いい加減に寝ろ!!」
Side ルチア
「え、本当にいいんですか?」
「いいのいいの」
わたしはアイドルとして、みんなを元気づける。こんな世の中だと、下向いて生きるだけの人も多い。そんな人が元気になればわたしもうれしいし、全体としてもプラスのはず。ついでにポケモンたちと仲良くなってほしい。だからこそ、初めは一番雰囲気が悪いところと決めていたんだ。カゲツさんの付けてくれたマネージャーには悪いけどね。
到着すれば、あまりの雰囲気に逃げたくなる。それでも、わたしはアイドルだから。
アイ特製のアンプを使ってマイクからハウリングを鳴らし、注目を集める。
「さあ!とりあえず聞いてね!」
5日後
「今日もライブの時間だよ!」
「「「おおおおおおお」」」
いやあ。みんなが笑顔なのはいいよね。でもちょっと集まり過ぎじゃない。昨日アイが作ってくれた会場は満員だし、拡声器がなかったら暴動すら起きるよこれ。ポケモンパニック前でもここまでのお客さんは居なかったなあ。
でもそれがいい。さあ今日も元気にするぞ!!
Side リラ(&ダイゴ)
「カシラ、入るぜ」
交渉役に選ばれた(いつも)ボクは、カゲツさんに連れられてダイゴさんと一緒に月華のリーダーに会いに行った。
カゲツさんがノックすると若い声が許可を出す。扉を開ければ豪華な机と椅子に座る壮年のおじさんと背後にたたずむメガネのインテリお兄さんがいた。
これは想定以上かも。インテリヤクザもどきは別にいい。かなりこちらを見下していそうで、敵意も隠せていない。正直小物だろう。
ただし、ボスさんはかなりやばい。表面上はかなりにこやかだが、一切油断していない。ルチア関係で芸能界のお偉いさんと会ったことがあるが、彼ら以上の厄介さと苛烈さを兼ね備えている。そして確かに優しさも持っている。そのうえで、必要とあれば犠牲も気にしないだろう。
ボクは自分の特殊性に悩んだことは多いが、今日ほどこの力を持っていてよかったと思うことはない。ボクのような小娘ごとき、簡単に掌で転がしそうだ。
これがパンデミックで一大勢力を作る人物。自然と喉がなる。
そんな様子にボスさんは、苦笑いを浮かべると表面上は優しく声をかけてくる。裏では一切油断していないが。
「ハハハ。私のことはカシラでかまわないよ。実際苗字が頭だしね」
「リラさん緊張しているのか?カシラは優しいから問題ねえよ」
そういう問題じゃないんだけどなあ。ダイゴさんもすでに警戒を解いているし。ここはボクがしっかりしなきゃ。
するとインテリヤクザの方から声をかけてくる。
「ふん。これだから化け物を連れたバカはマナーも知らんらしい。月華内で勝手に若頭なんて言われて調子乗っているのですか?」
「ああ?てめえこそポケモンに好かれることもなかった分際で」
「あんな化け物に背を預ける気が知れません」
へえ、カゲツさん若頭なんて言われていたけど、正式なものではないんだ。これはこのインテリヤクザを揺さぶったほうが情報が貰えそうだね。
「おい」
ドスの利いた声が響く。たった一言で場が鎮まる。やっぱり甘くはないか。
「残念ながらリラ君の警戒は取れないようだ。ウチに入らないか。君みたいな人材が欲しいね」
急に勧誘するのはやめませんか。ほら、インテリヤクザの視線がやばい。
こちらも逃げ腰になるわけにはいかないんだしさ。
「ボクはユウたちの参謀だからね。お断りさせていただくよ」
「残念だ。では遊びはここまでにして、内容を詰めていこう」
こうして食事会という名の交渉が毎日始まった。ああ、ボクの胃は無事に済むのだろうか。
ピチョン
水滴がボクの顔に当たり。目を覚ます。あたりはコンクリートに包まれている。わずかな窓からは廃墟が見える。ボクは猿ぐわに椅子に縛られて身動きが取れない。ブイズも縛られ転がされている。何やらカメラが一台立っている。
ここは?確か交渉も5日目に差し掛かりかなり具体的な内容になり、やっと胃を痛める交渉から解放されると思って油断していたかな。せめてダイゴさんを連れていれば。
問題はどちらかだ。あのインテリヤクザらしい暴走の仕方だが、カシラさんが関わっていないとは言い切れない。あの人ならプラスになるなら平然と行うだろう。
「ザザザ…いい気味だな」
どこからかマイク越しの声が聞こえる。あのヤクザは確定と。
「化け物使いは奴隷のようにわれわれ人間に従えばいいのだ。実際君の化け物も君が人質になれば抵抗しなかった。所詮化け物。それにしてもカシラもちゃんと分かってくれた。私の行動に理解を示してくれた。やはり次期頭は私なのだ。クククハハハハ」
笑い声を機にプッツリ切れる。カメラで僕の様子を監視しているだろう。力も入らない。相当強力な薬でも使われたかな。
最悪もある、か。後は頼んだよリーダー。