太陽も沈み、海は街の光により薄く照らされている。そんな薄暗い海に一つまた一つと赤い光が浮かび上がる。その数はどんどん増えていつの間にか海が赤で染められていく。沖の方にはひときわ大きい光点が現れる頃に、先頭集団が姿を現してくる。
無数に等しいメノクラゲの大群であった。
Side ユウ
まずは情報通りか。異常個体ドククラゲとメノクラゲの間には大きな間が空いている。これは、巨大すぎるドククラゲの攻撃にメノクラゲが巻き込まれないようにするためだろう。
水上で高速で自由に移動できるようにとアイに作ってもらった水上ボートのエンジンをかける。すでに目の前をメノクラゲたちは通り過ぎている。もうばれてもドククラゲとの距離が近すぎるため反転はしてこないだろう。
水上テントで隠れている時はバレるか不安であったが、アイはこのテントにも細工をしていたようだ。エンジンがかかるとともにテントが割れていく。
「行くぞウインディ!」
「ガウ!」
水上に四つの影が現れる。私とダイゴさんとヒースとミクリが同時に飛び出す。4人とも水上ボートは熟練者ではないのですぐに散開する。事故防止である、空にはエアームドに乗ったナギとメガチルタリスに乗ったルチアとロズレイドが飛んでいた。。
同時に海上が明るく照らし出される。夜とは思えない明るさに視界は良好。海中に浮かぶ光源は半日は持つだろう。
今回の私たちの仕事はメイン盾且つ回避も求められる。当たれば超猛毒に犯されるだろう。ヘイトも稼がなくてはいけない。
「成長しても難易度が上がったんじゃ変わらず苦労することになるな!ウインディ!れいとうビーム」
青く輝く光がドククラゲの足元を凍らせようとする。これで触手を使えなくさせれば簡単に事が運ぶのに。
フラグを立てたつもりはないが、さすがの巨体である。20mの巨体は相応の力も持っていた。簡単に拘束を砕いていく。
さて持久戦の始まりだ。
Side ナギ
人は嫌いだ。無駄な会話になぜあそこまで執着できるのか。世界は意味のある会話だけしていけばいいと本気で思う。そんなことを思っていたからポケモンパニックが起こったら、気の合うポケモンをパートナーにして、後は自由気ままに旅をしていた。
もう4か月分は一人旅を楽しんでいる。この旅で一番最初に思ったことは、人は一人では生きていけないということだろう。いやポケモンパニック前も恵まれていただけで、決して一人では生きてはいなかったのだろう。恵まれた環境が勘違いをさせていたのだ。
そんな勘違い娘が大ポカをするのも必然だったのだろう。
ある雨の野宿の時に、野生の縄張りに入った時だった。鋼の体により体重の重いエアームドが雨のせいで十全に飛ぶことが出来なかったため、野生の群れに殺される時だった。
雷鳴と共に三犬を連れた年下の少女に助けられたのは。絶体絶命だったからこそ、その姿は本当に輝いて見えた。
そんな彼女に今までロクに会話をしてきたことのない私ではとっさに感謝を伝えられなかった。彼女は自身の特殊性から、気にしないでと助け合いだからと気軽に言ってくれた。それから私が先日気まぐれで助けた村のお礼だとオレンのみをくれたのだった。
今でも人はあまり好きではない。会話も得意ではない。でも大切なものとして認識できたし、いずれ自分の口から感謝を伝えたい。
だからこそ人助けもするし、こんなところで死ぬ気もない。
巨大なドククラゲは巨大ゆえに隙間も大きく、私には無数の航路が見える。その一つを通ればドククラゲは簡単に翻弄できる。背後を取れば大技を仕掛ける。ブレイブバード。
ドククラゲに当たる前にエアームドの背を蹴り宙に身を晒すことで、エアームドは私を気にせず全力で攻撃を仕掛けることが出来る。技を終えたエアームドが必ず拾ってくれるから、海に落ちることは考えない。海面ぎりぎりでエアームドに乗り込む。
空は私にとって自由の象徴だ。人助けも自由だ。だから今日の空も素晴らしいものなる。
Side ルチア
え、すご。ナギちゃんの身のこなしを見たわたしの感想である。わたしがチルルの上に乗るのは見栄えがいいのもあるし、バランス感覚に優れている自信からくるものである。そのほかにポケモンはトレーナーが近くにいればいるほど力を発揮できるのだ。しかし、一方トレーナーを庇うため攻撃や防御や回避がおろそかになりやすい欠点も抱えている。
ナギちゃんの動きはエアームドを完璧に動かすためのものだ。あそこまで飛行タイプのトレーナーとしての動きをされては感嘆しか浮かばない。
今すぐあの動きに追いつくことはできない。そもそもわたしの仕事はロズレイドによるマヒや眠りでドクケイルの動きを鈍らせることだ。
でも、あの動きには感動させられた。今は出来なくても必ずものにする。
「だってわたしは世界一のアイドルだからね」
Side ミクリ
「ミロカロス、重ねてみずのはどう!」
ミロカロスから放たれた複数の水のリングは、ドククラゲに当たる瞬間に重なる。速度の違うリングが同時に当たれば衝撃は重なり、大ダメージにもつながる。たとえ効果はいまひとつだとしても、無視できるものではない。少しでもズレれば意味のない技になるが、そんなヘマはしない。年下の姪に才能で劣る自分であるが、努力は裏切ることは決してないのだから。
もっとトレーナーは技を鍛えることを優先すべきだと思う。進化は確かに強力だけど、最後に頼れるのは積み重ねなのだから。様々な問題が解決したのなら、技を鍛えることを大々的に宣伝するのもいいかもしれない。
観客が少ないのは気になるけど、さあ今日も美しい姿を見せつけるとしよう。
Side ヒース
ムカつくムカつくムカつく。
まったく配信者一行は、相変わらず出鱈目すぎる。間に合わせで作ったという水上ボートは昔乗ったものよりも性能は数段上である。これを一瞬で作るのである。こんなものをばらまいては悪い大人に利用される一方だというのに。
初めて出会ったときから非凡さは見えていた。そして彼らはその非凡さを理解しきれていない。周りがみんなすごいからこそ、気が付かないのかもしれない。
だが、それではだめなのだ。人はそんな綺麗な面だけがあるわけではない。
だからこそ少し年上な自分が危険に真っ先に進まなければいけない。
そのはずなのに、今最も危険な盾役にユウがいる。10歳になったばかりの少年である。
ああ、現実は本当に思い通りにならない。何より、その事実に少し安心している自分に最もムカついている。
才能ないと言っているミクリもこちらから見れば十分才能がある。ポケモンの技の複数連打なんて考えつかないものだ。
凡人は天才の開いた道を進むしかない。
「確かに今が劣っていることは認めるさ。それでも未来でまで劣っていることを認めるつもりはさらさらないね」
凡人にできるのは虚栄を見せながら、それを本物にする努力だけだ。天才が開いた道を切り開くのは凡人の仕事である。ミクリから発想を貰った技の連続発動。
「ラグラージ!重ねてだくりゅう」
ラグラージのだくりゅうは本来より数倍は大きくなり、巨大なドククラゲすら飲み込ことに成功する。