Side ダイゴ
くっ、もうすでに戦闘開始してから数時間は経っている。この間にかなりのダメージを与えているはずだけど、未だドククラゲが堪えた様子がない。ドククラゲの巨体はその分体力も多いのか。
この程度の連続戦闘に集中力を切らすトレーナーはここにはいないが、いい加減ドククラゲが学習してきた。初めのころは直接じしんをぶつけて大ダメージを与えていたけど、警戒されて全て触手で叩き落されている。鋼タイプが毒を無効化できるから気にせず攻撃できるけど、有効な攻撃手段も少なくなってきた。超猛毒が攻撃だけでなく防御にも有効に働いて攻撃しにくい。
それでも有利に戦闘進めていたからだろう。油断が生まれた。今まで毒を攻撃に用いなかったドククラゲが、ついに触手に毒をまとわりつかせる。そのままどくづきを放ってきた。
今まで使わなかった毒技。頭の中に警告が鳴り響く。普通のポケモンには絶対に当たらせるわけにはいかない。ウインディにめがけて放たれたどくづきをメガメタグロスが庇う。そのまま海面に水しぶきを起こす。
水しぶきはどす黒く変色し、その毒は海水で薄まっても脅威で広がっていく。これがドククラゲが毒技を使わなかった理由か。あまりに範囲が広がり過ぎて、危険すぎる。
毒を見たヒースもミクリもポケモンと共に離れている。氷により影響を受けにくいウインディのみ前線に立つ。そして攻撃を受けたメガメタグロスは毒状態に陥っていた。
本来ならタイプ相性により効かないはずの毒技は、相性を突き抜けてメガメタグロスに毒を与える。ポケモンの絶対の理、タイプ相性を異常個体の特殊能力で抜くことが出来るのか。わずかな疑問と共に治療を受けるために交代する。
Side フヨウ
「やばいのだ。タイプ相性を超えるとかポケモンの根本をひっくり返されたのだ」
異常事態にしかし、フヨウに焦りはない。もともと不思議な体質で霊に対してかなりの感受性を持っていた。これを昔はかなりからかわれていたが、今は人もポケモンも友達がいっぱいできた。その友達は全員が頼りになる。ならば私は全力で事に当たればいいんだろう。
「ヨノワール行けるよね?」
「!」
大きな手でグッドを現す相棒。頼りになる相棒が問題ないと言っているのだ。考えることが苦手ではあるが、感覚は誰よりも研ぎ澄まされているつもりだ。
短期間なら離れている自分のポケモンとも十全に指示できる特異性は、友達にいっぱい褒められた私だけの特性なのだ。
「じゃあ行こうか!」
無邪気な少女は、戦場に躍り出る。
Side リラ
スイクンもライコウもエンテイもメノクラゲたちを簡単に押し返すことに成功している。正直誰か一匹でもいれば十分押し返せるだろう。その程度の力しかない。それが逆におかしい。
ならばメノクラゲたちを束ねる異常個体ドククラゲも相応の実力でなければならない。
今までの経験上、群れの長は強くても群れの倍ほどしか強くない。
その割にドククラゲは強く、九州でも一流と言ってもいいポケモントレーナー達が複数で当たってもまだ勝利できていない。
そしてメノクラゲたちの感情も気になる。最も大きいのは人間に対しての怒り、そしてドククラゲへの申し訳なさを感じる。理由を問い掛けてもへどろばくだんが返ってきて、会話にならない。人間を許せる段階は超えているのだろう。
そして、違和感はさらに大きくなった。ダイゴさんのメガメタグロスが毒状態になったのだ。腐食に類似する特性を持っている?ドククラゲの技は全てが相手を毒にするのだから、もっと早く毒状態になっていたはず。
すぐにメガメタグロスを治療すると、違和感をアイに報告してスイクンの背に乗ってドククラゲの下に向かう。メノクラゲ達は残った二匹で十分対応可能だ。今は一刻も早く彼らの下に行かなければならない気がする。
Side アイ
リラから通信が入る前から引っかかっていたが、ここで確信に至った。もともとドククラゲ達が港を襲う理由を考えていたのだ。人が漁をすることが理由なら、ここ以外の港も襲われてもおかしくはない。しかし、そんな事例は今まで存在しない。そして梅雨により降水量が増え、何かが海に流れ込んだ可能性は考えていた。
そして鋼タイプが毒になったことで確信に至る。ポケモンはポケモンの法則にかなり忠実である。自分より何倍も重いポケモンに小型のポケモンがのしかかられても、気絶ですむのである。一方、物理法則には抵抗できても様々な影響が生まれる。
だからこそ、支援物資もそこそこに化学工場を調べていたのだ。
「これが原因かの」
「ロト!」
巧妙に隠されていたが、ついに見つけることが出来た。フルオロアンチモン酸。この世にある有機物全てを完全に溶かす最強クラスの酸である。この酸が梅雨の影響で外に流れでもしたのだろう。それが原因で本来ならあり得ない異常個体ドククラゲが生まれたとしたら、彼らの怒りも、ドククラゲが毒技を使わない理由も分かる。ボスであるドククラゲは仲間を同じようにしないために、控えていたのだろう。
おおかたポケモンの対抗策として研究しようとしたのだろうが、あまりに本末転倒な結果を生み出した。研究員は後でシバくとして、今はどうするか。酸その物は後でスイクンの浄化能力で対応するとしてドククラゲをどうするべきか。とりあえず、特殊なバックに研究室ごと取り込む。
通信機で全員に情報を共有し、フヨウにこの研究所に呼び込んでもらう。ここは素直に派手に謝るとしようか。
複雑な研究所から飛び出せば、サマヨールがふわふわとドククラゲの攻撃を避けながらすぐそこまで迫っていた。優秀なのはいいが、仕事が早すぎる。ぎりぎりだったぞ。
やはりドククラゲの目的はこの工場のようだ。巨大な触手を工場めがけて振り下ろしてくる。このまま壊させれば、ドククラゲは人間を見限るだろう。そして今後も暴れ続けるかもしれない。そんなことはさせない。この負の遺産は人間が壊してこそ意味がある。
「ギルガルド!キングシールド!!!!」
「ギル!!!!」
巨大な触手の前に飛び出たギルガルドは固有技キングシールドを展開する。巨大な盾が触手とせめぎ合う。巨体ゆえのパワーに押しつぶされそうになるが、ゲームでは接触技を受けたときに攻撃を下げるほど物理技には特に強いキングシールド。
「ギルガルド!!!!!!」
「ギル!!!!」
一時の気合がなんとか異常個体の攻撃を一般ポケモンが逸らすことに成功する。しかし、次は不可能だ。だからこそ叫ぶ。
「いまだ参謀!!」
「分かっている!!!」
海を風のようにかけてきたスイクンが、そのままドククラゲの体を駆け上がる。その間も浄化能力は全開だ。ドククラゲの触手攻撃の猛攻を掻い潜り、頭の頂上にスイクンが立つと、その身を輝かせる。その光はドククラゲを優しく包み込む。ドククラゲが全てを受け持ってくれていた毒性は今、スイクンによって浄化されていった。
突然の事態にドククラゲが止まる。此処しかない。
「ドククラゲよ!貴殿の怒り、真に正当である。しかし、この負の遺産は我々人間に処理させてほしい!!!」
そして、懐からスイッチを掲げると見えるように押した。
ドーン!!!
我が仕掛けた爆弾が一斉に爆発する。やはり派手なのはいい。唯一問題があるとすれば爆発が近すぎて、小さな我の体が宙に飛んだことぐらいか。
ああ、海が冷たくないといいな。
突然駆けてきたウインディと盟友に受け止められ、落ちてくる瓦礫も避けながら駆け抜ける。
「ったく。無茶しすぎだぞ!」
「カカカ!貴様に言われたくないぞ盟友」
盟友なら来ると信じていたしな。
こうして人間の自業自得な事件は終わりを見せた。
後日談
工場の責任者は首になり、新しい工場は環境に最大限考慮されるものに生まれ変わった。そして今回の事件の概要は瞬く間に広がっていった。インターネット上でも各国の言語で注意喚起し、ポケモンに頼らないポケモン問題の解決は不幸しか呼ばないことを伝えた。
各国でもやばい研究はされており、似たような事件も発生していたみたいだ。ポケモン問題の最先端を一応担っていた日本のミスに、責任を日本に押し付ける形で各国も追従するように研究の危険性を認めだした。まあ、ろくに成果を上げれられていない東北に住を構える日本政府は苦労するといい。我々を見捨てた罰だ。
いろいろ問題が残っているが、一応解決となった。
そして、私たちにも小さな問題が発生した。
異常個体ドククラゲが私たちの拠点にいるのだ。
「アイ!なんで連れてきた!」
「うむ!ボスと群れの強さに差があり過ぎると、頼り切ってしまいあまりよくはない。ゆえに誘ったら来てくれたのだ!!」
なぜか無い胸を張るアイ。なぜ自信満々なのか。言いたいことはあるが、ドククラゲも自分専用に調整された人工湖にかなりご機嫌である。
不幸になるものが居ないのであれば、この結果もまたいいのかもしれない。
「巨体ゆえに食費は倍になるな!」
たぶん。