黎明のポケットモンスター   作:チリラーメン

32 / 38
あと7話で完結します。
これから毎日投稿です


31話 死龍

 人は慣れる生き物だ。その期間が半年を超えれば、十分環境に適応できる。

ただし、無謀を行えばその限りではない。

 ポケモンパニックにて、唐突に力を手に入れた人物は魔がさすこともあるだろう。

 そんな人間の無謀な冒険は、開いてはいけない扉を開いてしまった。

 いや、もともとその扉の鍵は開いていた。

 たった一人の小さな子供と相棒の子犬の無謀な挑戦によって。

 だからこそ、その責任は鍵を開けた子供たちが取るべきなのだろう。

 

 

 

 ポケモンパニックが始まってから早半年が過ぎようとしていた。日本では人とポケモンは住み分けも出来て、ポケモンの楽園もあれば、人とポケモンの共存する街もすでに多くある。日本人の国民性なのか、こういう緊急事態時の一体感や探求性は素晴らしい。

 日本ではポケモンの力を使った発電を大きい街では実用化されている。そしてなぜかその街の名前が原作の町の名前になっているのは、我々転生者たちの影響が大きい。九州はアイが町のほとんどの復興に関わっているので、命名も行っている。別の地方も他の転生者が頑張って復興している影がよくチラついている。

 これが転生者たちの我儘なのか、あの私たちを転生させた人外の影響なのか、世界の修正力なのかは不明である。

 なんにしても、日本が安定してきたのは事実である。余裕が出てきたともいう。その余裕が良かったかどうかはこれから判明するだろう。

 

 

「はあ?!進入禁止エリア【流星の滝】に入って行っただって!!」

 

 ポケモンパニックが始まって初めての夏も終わりかけのころ、そんな凶報がカゲツから届いた。

 進入制限エリアとはそのまま、人と安易に仲良くならないポケモンなどが、ポケモンだけで生活している場所である。そういう場所は環境が厳しく、人に攻撃してくるポケモンも多いので、基本的に侵入は自己責任となる。

 侵入制限エリアの中に超危険なポケモンや毒などの危険な環境(ポケモン)がある場合、それらを外部に出さないために決められたエリアが進入禁止エリア。九州ではいまだ三つしか定められていない場所である。そのうちの一つが【流星の滝】を含めた山と洞窟である。ゲームよりも大きな山で深く入り組んだ洞窟が特徴である。理由は気性の荒いドラゴンタイプのポケモンが多く住み、頂点に立つのがあの異常個体サザンドラである。

 私たちの情報から、早々に危険地域と化し、入ることを禁止していた。その甲斐あってか今まであの山からポケモンが下りてくることはなかった。

 

『ああ。自分は選ばれたとか言って、元からかなり問題のあるトレーナーではあったが、知識の豊富さやポケモンの扱いなど先進的な部分が多く、要監視対象のトレーナーが進入した。最近できた弟子を連れて意気揚々と向かったようだ』

 

 発言的にも、もしかしなくても同業者か?ゲームにおけるサザンドラは、強くはあるが最強に名を連ねるポケモンではない。その油断が判断を誤らせたのか。

 

「………拠点からすぐそこだしな。確認はしてみよう」

『いいのか?』

「この半年。【流星の滝】は周りにきのみを多く植えて、食料不足から人里に下りてくることを防いだくらいで、内部には誰も一切かかわっていない。現状どうなっているのか、人の侵入がどう影響を与えるのか、そろそろ調べなければならないのは事実だ」

『九州で確認できた異常個体は現状20体。すべての異常個体が戦闘に特化しているわけではない。その中で数少ない戦闘特化個体がサザンドラだぞ』

 

 九州の地図はほぼほぼ完成している。人間が把握できていないのは、進入制限エリアや進入禁止エリアの詳細な地形ぐらいだろう。そこに住むポケモンも大体判明している。ここ二か月で一気に判明し始めた。

過程で、異常個体も多く見つかった。異常個体はどんな個体でも強い。戦闘に向かない異常個体トロピウスですら、自身の特殊能力によって周りの植物を急成長させ、各種状態異常込みでハードプラントを無反動で無限に同時に連続で放ってくる。このトロピウスは気性が穏やかで、とある進入制限エリアの主として君臨している。トロピウスの作るきのみは美味しく、それを狙ってグルメなポケモンがしのぎを削っているエリアになっている。

 

「アイ特製装備で、逃走ルートも選定する。幸いサザンドラは速くはない」

『何かあればすぐ応援を寄こすんだぞ』

「どうだろうな。だってあいつは私たちの」

 

 初めての挫折の象徴なんだから。

 

 

 

 

 他のメンバーも今回は快く?承諾してくれた。全員あのサザンドラに思うところはあるだろう。

 今回の目的は人的救助。そのため速度が求められる。カゲツからの連絡から5時間ですべての準備を終えた。

どうでもいいが、アイの技量がさらに上がっている気がする。アイのチートも激戦を経て、成長しているのか。どう考えても5時間の成果とは言えないものが私のバックの中に入っている。

 そびえたつは流星の滝を含めた洞窟を持つ山。入り口は複数存在するが、その中で一番大きい入り口から侵入する。ウインディはあなをほるで新しい道を作りながら追従してくれている。たとえ逃げ道が直線でも足の速さで距離を作り、撒く。苦し紛れの一撃は同じ異常個体であるのウインディなら一撃は必ず耐えられる。

 私とウインディをつなぐのは特別製の無線で、音量の大小で距離までわかる優れものだ。つかず離れずを保ち、探索を開始する。

 

 洞窟内は意外と静かであった。小さめの横穴が複数あり、その中にタツベイやダンバル、モノズなどのポケモンの気配はするが、出てくる気配は一切ない。むしろ怯えている。

 正直、戦闘狂のポケモンが逐一攻撃を仕掛けてくる可能性も考慮していただけに、拍子抜け感すらある。もしその場合は、シュールストレミング並みの兵器がさく裂しただろう。

 予想に反して最終進化ポケモンは一切いない。第二進化ポケモンすらほとんどいない。

 これはかなりやばい。過去に見た好戦的な他の異常個体のポケモンの縄張りですら、フライゴンクラスの能力なら群れを率いて生き残っていた。

 

「やばいなこれは」

 

 思わず、独り言をつぶやいてしまう。視線の先には首元を食いちぎられ息絶えたグリムガンの姿であった。

 ポケモン同士で攻撃した場合、肉体に物理的な傷が生まれるのはゲームで言うHPが0になってからだ。

 摩訶不思議なポケモンの法則であり、どれだけ力量が離れていたとしても一撃で殺されることがないのがポケモンであることが判明している。そのポケモンが死んでいる。つまり行ったのはかなり残虐性を兼ね備えたポケモンである。しかし、首元以外は目立った傷はない。私の知っているサザンドラなら嬲り殺すくらいはするだろう。

 サザンドラに何かあったか、それともサザンドラ以上の危険が何か生まれたのか。

 

 

 

 ある程度歩くと広く開けた空間にたどり着いた。一つ分の村ぐらいならすっぽり入るだろう。そして、海外でしか見れないような巨大な滝が轟音を鳴らしている。あれが、流星の滝。ポケモンパニック初期に迷い込んだ人が撮った写真で、存在は知っていたが、実物は圧巻である。そして、滝から流れる水の中にもポケモンは居るようだが、全員息をひそめている。

 原因も遠目であるが見えていた。相変わらず、いや記憶以上の覇気を纏った怪物だ。

 変わらず長い尻尾で体を支えており、もはや飾りにしか見えない8つの翼が開かれている。後ろ姿なため顔は見えないが、黒い炎が漏れている。そして、胴体には私がぶち抜いた鉄骨の後だろう大きな傷が残っている。

 異常個体サザンドラ。様々な経験をしてきた私であるが、今まであったどのポケモンよりも格上の存在である。一対一ならジンダイさんのレジギガスにすら勝てるだろう。私のチートが力の差を感じ取らせてくる。

 そしてそんな化け物に相対している小太りな同年代が一人。

 

「ふざけるなふざけるな。僕は転生して選ばれた存在なんだぞ!さっさと助けろよマリルリ!!!」

 

 無理だろう。地面には巨大な破壊痕がある。そのそばに青い耳が二つだけ残っていた。あれで生きていたら携帯獣学が根本からひっくり返る。

 ただ、トレーナーとしては優秀だっただろう。なつき進化のポケモンは、仲良くならないとバトルもしてくれない。そして条件が同じであれば、ちからもち+はらだいこならじゃれつくでサザンドラなら6体は落とせる。ただし、生物としての格が違い過ぎた。多少のレベル差なら相性で倒せるなら、とっくに私たちが倒している。

 

「くそ弟子!!てめえも助けやがれ!拾ってやった恩を忘れたか!」

 

 自業自得である。サザンドラに近すぎる少年はもう助けられない。完全にロックオンされている。

 そして彼の言う弟子もすぐ見つかった。倒されているボーマンダは気絶ではあるが死んではいない。そのトレーナーも生きているが恐怖で動けないようだ。ゴニョニョが必死に引っ張って逃がそうとしているがそもそも対格差もあり、ほとんど動けていない。

 私は素早く状況をウインディに説明する。

 

「やめろー-!!!」

「ガアアアア!」

 

 小太りな少年はサザンドラの三つの黒い波動に飲み込まれる。どんなポケモンでも技を出した瞬間は隙が生まれる。

 ウインディは素早くボーマンダと弟子トレーナーとゴニョニョを回収すると、別の道から駆けていった。

 サザンドラが振り返ればそこにはもう誰も居ない。もう追いかけても無駄である。後は私か。

アイの特製隠遁道具によって普通なら気が付くはずはない。が、あの狩人なら気が付くだろう。そして逃げられた怒りを私にぶつけるだろう。バカみたいな量の妨害道具を構え、未だ距離のあるサザンドラを観察する。

奴は普通に私に気が付いたと思う。私の隠れる方を一瞥すると、不満そうな気配を隠すことなく洞窟の奥へ消えていった。

緊張から解放された私は、壁から崩れ落ちる。安堵と共に湧き上がるのは疑問だ。私の知っているサザンドラなら攻撃するだろうし、そもそもこの流星の滝の環境があいつの性格に合っていない。弱者がいれば蹂躙するのがサザンドラだ。その割には未進化ポケモンが多く生きていた。そして玩ばれていない死体。私は一つの結論に至った。

 

「やつは戦いの楽しさを知ったのか?」

 

 サザンドラのセンスならモノズの時から苦戦はしなかっただろう。そしてバトルの楽しさを知らずに本能のままに戦った。その中で楽しさを得ることが出来たのが痛めつける事だったのだろう。

 ポケモンは遺伝子レベルで戦いを欲している。今までサザンドラにとって戦いは蹂躙しかなかった。だが、そんな戦いを変えた存在がいた。それもかなりの格下だ。

 

「私のせいか」

 

 格下であっても知恵を使って渡り合った。渡り合ってしまった。やつはそこで戦いに熱を持ってしまったのだろう。だからこそ力を持つものに戦い、弱いものも向かってくるなら戦う。。

 最後に殺すのは奴が私を殺したと思っているからか。だから逃げるものは追わない。

 

「責任は取らないといけないか」

 

 このまま流星の滝にいても奴の戦いが満たされることはない。道中のポケモンたちは心が折られていた。外から来たトレーナーは弱くあっても戦ってはくれた。ならばいずれ奴が人里に下りることは明白である。

 私は握りこぶしを作り、覚悟を決めた。

 

 

 

奴を止めるべきなのは、原因を作った私たちだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。