黎明のポケットモンスター   作:チリラーメン

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これにて完結


37話 止龍

 ウインディが異常個体になった時は、怒りに呑まれ、黒い感情に支配されていた。それが姿にも反映されていた。しかし、ウインディはそもそも正義感の強いポケモンである。

 援軍により絆を再認識したウインディの姿のメガシンカに影響を与えるのも必然である。

 

 異常個体メガウインディ。

 たてがみが太陽を模したように広がり、背筋を伝うように尻尾まで生えている。毛先だけは炎になっている。尻尾も長くしなやかになった。四肢の第一関節にもたてがみと同じモノが生えている。足には靴を履いたかのように炎が現れている。一番変わったのは配色であり、たてがみは真っ白に、胴体は鮮やかなオレンジ色になっている。一目見て神獣を思い浮かべることが出来る姿になった。

 

「ウインディ!!」

「ガウ!」

 

 ウインディがサザンドラに向けて駆ける。今までの速度とは比にならない。サザンドラの時から分かっていたが、異常個体がメガシンカした時のステータスの総上昇値は200に迫る。さらに特殊な特性も複数手に入れている。

 サザンドラは馬鹿正直に距離を詰めるウインディにあくのはどうを放つ。しかし、意味がない。当たった瞬間分解されウインディの力になる。

 ウインディの新しい力の一つ目は特殊攻撃を受けたときに、体力を回復させ全能力を上昇させる。昔はあさのひざし、異常個体になってからは氷の操作とエネルギー操作を極めようとしてきた。その集大成の能力である。

 

 能力が上がり加速するウインディは飛び掛かる。仕組みはわからずとも特殊技が利かないことを理解したサザンドラは、尻尾を地面に突き刺し無理やり体制を変え、ウインディの攻撃を回避した。常に尻尾で動いていた異常個体時代の名残かサザンドラの尻尾の扱いはうまいようだ。

 宙に浮いたウインディを四つの首で攻撃しようとする。これをウインディは空を駆けることで回避する。

 ウインディの新しい能力二つ目は足の炎を使って、空を駆けることが出来るようになった。

 四つのかみくだくを回避したウインディは、じゃれつくを打ち込む。サザンドラはメガシンカしたとしても想定以上の攻撃にバランスを崩す。

 ウインディの最後の能力は攻撃時にタイプを追加する。これは使う技すべてに適用される。へんげんじさいやリベロの亜種のような能力である。

 体内に余剰のエネルギーが無くなったからか、オートリジェネーションが無くなったり失った力もあるが、ウインディはさらに上の領域に至った。

 

 バランスを崩したサザンドラは自分の翼を大きく振り、砂埃を舞いあげる。

 ウインディは吠えることで土煙を吹き飛ばすが、土煙を破ってサザンドラの顔の一つがかみくだくを放とうとしている。

 サザンドラの攻撃に関する嗅覚はどうなっているんだ。普通体勢を立て直す場面だろう。

 噛みつかれ拘束されれば後はなぶり殺しになる。ウインディは後方に逃げるが、残りの顔が時間差を置いて攻撃を仕掛けてくる。一気に攻めてくれれば隙を見つけてしんそくで攻められるが、連撃では攻撃に移せない。苦し紛れにかえんほうしゃを放つがサザンドラの鱗の前にあまりダメージは与えられない。やはり、衝撃の強い直接攻撃しかなさそうだ。

 避ける避ける避ける。

 が、じり貧には違いない。はめるなら今しかない。

 

「ウインディ、だいもんじ!!」

 

 サザンドラにだいもんじがぶつかる。距離が近かったため直撃するが、炎の壁を破り、サザンドラが攻撃を続行しようとする。しかし、目の前にはウインディは居ない。

 サザンドラの意識に一瞬の空白が生まれる。そして真下から衝撃が来る。

 

 種は何でもない。後ろに回避を続けることで、サザンドラの作り出したクレーターを越え、山の斜面まで誘導したのだ。そしてわざと斜面に落ちることで、目の前から消えたのだ。

 チッ、無意識に尻尾で防御していやがる。ただ、これが最後のチャンスだろう。

長い尻尾も長い首も四つの顔も懐に潜り込んだら、脅威は半減する。

 じゃれつく連打。空中でも地上と同じように駆けられるウインディは、四肢や尻尾を使ってじゃれつくを連撃で放つ。対してサザンドラも自傷覚悟で反撃を行う。

そうして二匹は空高くどんどん高度を上げていった。こうなるとトレーナーにできることはない。ただ、見つめることしかできない。

 たった数分間だっただろう。落ちてきたのは黒い龍であった。

 地面に亀裂を放ち落ちたサザンドラは、もう立ち上がる様子はない。私のそばに下りるウインディも消耗していた。

 

「なんだよ。最後は毒でやられたのか?」

 

 そう、同格との戦いで抑えていた超猛毒が体に巡り、力尽きたのだった。本来なら気絶しているはずがまだ意識を残している時点で、やっぱり怪物だ。

 

「楽しかったか?」

「ガアア」

「また戦おうか」

「ガアア!」

 

 私もウインディもサザンドラも無理をしてメガシンカに至った。その反動だろう。

 後で駆け付けた皆の話では、なかよく団子状で寝ていたらしい。

 

 

 

 

 その後は人側にあまり変化はなかった。せいぜい【流星の滝】が進入禁止エリアから進入制限エリアに変わったくらいだろう。

 異常個体メガシンカは完全に安定し、戦闘後も姿が戻ることはなかった。

 流星の滝を含めた洞窟もドラゴンタイプのポケモンが多く生息するようになり、ドラゴンタイプ特有のプライドから鎬を削る危険地帯となっている。しかし、殺しは頂点に立つ四首のサザンドラが禁止しており、まれに洞窟の入り口に自分の力を見誤ったバカトレーナーが倒れている。

 流星の滝を越えた先に座すサザンドラは、数多の竜と滝を越えることのできる強者を待つ。私を含め、トレーナーが時々挑みに行っているが、未だ一対一では誰も勝てていない。

それでもサザンドラは満足そうだった。

 




実はこの後、伝説編と全国大会編もありますが、
主人公たちが強くなりすぎて
かなりつまらない展開になってしまったので
ここで完結させてもらいます。
いままでお付き合いしていただき、ありがとうございました。

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