黎明のポケットモンスター   作:チリラーメン

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このあたりまでを描きたくて、この小説を書いたまである。


6話 逃げるが勝ち2

 時刻は14時30分。仕込みは十分。ルートも問題なし。他の野生ポケモンはサザンドラに恐れをなして逃げている。つまり

 

「大丈夫だ。問題ない」

「あるわ!バカ!!」

 

 振り返れば全員目元を赤くしている。

 少し会えないだけの別れなのに、みんな大げさである。まあ、その少しが本当に少しか、これから続くポケモンの長い歴史の中の少しかは、私の頑張りにかかっているが。

 まあ、ここにいるメンバーは一角の人物になるやつしかいない。

 私が心配するだけ無駄だろう。

 ルチアのツッコミをスルーして、一人一人に声をかける。

 

「ルチア、君が最高のアイドルになるまでこの目で見るからさ」

「絶対よ。まだチルルと一緒の舞台は見せてないんだから」

「チルル」

 

「リラ、この先にある林も未知という危険度はそう変わらない。頼むよ」

「ボクにリーダーは押し付けないでね。必ず帰ってくるんだよ」

「君の作戦だから、生きてまた会えるさ」

「「「…ぶい」」」

「はは、今回はダメだったけど、君たちだって前を向いて歩いて行けるさ」

「「「ぶい!」」」

 

「ダイゴさん、すいません。こんなことになってしまって。みんなの事お願いします」

「年長者として恥ずかしいね。誰も欠けることなくキャンプ地につくことをここに誓うよ」

「バルバル」

 

「アイ」

「行ってらっしゃい。…だから、必ずお帰りなさいを言わすがいい!」

「ロトー」

「ああ、行ってきます」

 

 全員に声をかけ、前を向けば相棒が座っている。ガーディの頭をなでながら、サザンドラが来るのを待つ。

 すでにみんなは所定の場所に隠れに行っていることだろう。

 

 

 

 

 10分ほどでやつが来た。向こうもこちらを認識したようだ。まっすぐ向かってくる。

 

「さてやるか」

 

 サザンドラとの距離が近くなってくる。すでにガーディは所定の場所に向かったので、足元には居くなった。

 サザンドラの巨体がもうすでに目前である

 対面で向かい合えばその恐ろしさが肌にしみる。それでも逃げるつもりはない。

 

すうううう

 

 

 

「来いよ!ド三流!!格の違いを見せてやる!!!」

「ガアアアアアア!!!!」

 

 

 私は手元の防犯ブザーを思いっきり引っ張った。

 

 

 

 

 

 私は走る。腰に下げた防犯ブザーがうるさいが、これが目印になり、合図となる。道中やショッピングモールでいろいろ盗ん…拝借しておいてよかった。

 

 広い路地から狭い路地に曲がる。異常個体であるサザンドラはかなりの巨体だ。狭い路地はその行動をかなり制限できる。さらに事前に用意した周りの物を倒して道をふさぐ。

 9歳のこの体は相応に小さいため、障害物の隙間を縫うように走る。

残念ながら妨害道具を、サザンドラは意にも介さない。にやつきながら私を追い詰めてくる。

 右左右と複雑な路地を進んでいくが、私は行き止まりにたどり着いてしまった。

サザンドラの口が大きくゆがむ。楽しそうで何よりだ。ここで遠距離技である特殊技を使わず、迫ってくるところにこいつの性格の悪さを示している。

 まあ、その油断もリラの作戦のうち。うちの参謀をなめんな!!

 

 私が垂れている紐を引っ張れば小麦粉の袋が落ちてきた。舞った小麦粉は両者の視界をつぶす。そのまま防犯ブザーを投げ捨て、開けてあったマンホールに飛び込んだ。

 

 

 ここも作戦通り。迷わず進んでいく。目的の梯子にたどり着けばそのまま上がっていく。

 もちろん出口のマンホールも開けてある。スムーズに抜け出す。

これで見失ってくれれば

 

ドゴーン!!

 轟音とともにサザンドラが壁を壊しながら現れる。

 

「ですよねえ!てか早すぎない!!!もう少し時間を稼げると思ったのに」

 

 小麦粉で白くなったサザンドラの目は汚された怒りが浮かんでいた。

 私は新しい防犯ブザーを鳴らして、すぐさま路地に走った。この路地は狭くサザンドラの体格では通るこすらできない。

 

「ガアアアア!!」

 

 咆哮とともに黄色い光線が頭上を走る。はかいこうせんか!!

 反動ですぐには動けないようだが、空いた空間を悠々進んでくる。

 まったく削れた建物が、崩壊したらどうすんだ。

 ことごとく時間稼ぎが失敗していく。それでもかなり時間は稼げた。みんなはすでに林に突入していることだろう。最低限の仕事はした。あとは逃げるだけ、それが難しいのだが。

 

 

 次は先ほどとよりも広いがそれでも狭い路地に入る。ここにもサザンドラにぶつける障害物はあるが、サザンドラには効果はない。その事実に焦ってしまい、私は足元でつまずき、こけてしまう。倒した障害物がこちらの足元まで転がってきたようだ。

 最悪だ。後ろからサザンドラが迫ってくるのを感じる。立ち上がろうとするが、すぐ後ろに尻尾をたたきつけられ、その余波で吹き飛ばされてしまった。

 

「ガッ!!!…たく。この期に及んでもいたぶるのが楽しいかよ」

 

 サザンドラが近づいてきた。その差は1メートルほど。私が立ち上がったとしても、やつが何をしても躱すことはできない。それを理解してか、さらに凶悪な雰囲気をにじませる。

 それでも私は立ち上がる。諦めるつもりはないし、何よりも

 

「てめえの余裕くさった表情が気に食わないんだよ!!」

 

 確かに私はサザンドラに何をされても躱せない距離だろう。つまり、サザンドラも私の攻撃をかわせない。

 

 私は、とっておきのボールを投げつける。

 サザンドラは冷静にこのボールを尻尾ではたく。するとボールが割れて中身の赤い粉末が出てくる。

 

唐辛子爆弾

 

 サザンドラはどうやって相手を知覚しているのか。洞窟に生息しているなら知覚手段は限られてくるだろう。

 一度マンホールに逃げ込んだ時に、防犯ブザーと小麦粉で、聴覚と視覚は試した。これでは、サザンドラをまくことはできなかった。で、あるならば嗅覚か更なる器官か。サザンドラが洞窟で生息していることからも更なる器官が一番怪しい。そしてサザンドラは爬虫類の姿も持っている。つまり、超高性能なピット器官が最有力候補。

 ダイゴさん曰く、ピット器官は高性能な触覚に似ているらしい。優等生の学生はそんなことも勉強するのかと戦慄したが、そんな神経の集まった部分に刺激物なんて当たったら、どうなるか。

 

「ガアアアアアア!!!」

 

 今まで感じたことのない痛みだろう。きつい匂いの唐辛子により嗅覚もつぶせた。視界も唐辛子が目に入っては使い物にならない。さらに先ほどから鳴っていた2つ目の防犯ブザーも止める。

 これでやつは完全な暗闇に取り残される。ただし、やつもバカじゃない。先ほどの位置関係から、攻撃を仕掛けてくるのは目に見ている。

ほら、サザンドラの口に憤怒の炎が集まってくる。

 逃げても一本道の路地では逃げ場はない。私が防犯ブザーを止めたのは、やつの聴覚をつぶすだけではない。最高の相棒への合図でもある。

 

「ガーディ!!じゃれつく!!!」

「?!」

「ガウ!!」

 

 圧倒的なレベル差。本来ガーディの攻撃なんて効きもしないのだろう。ただ、やつには明確な弱点が存在する。4倍弱点フェアリー技。そして私のチートにより本来なら覚えない低レベルでも使えるじゃれつく。さらに狭い路地に躱す余裕はない。知覚能力は潰れている。

 ガーディのじゃれつくは、連続で急所に入った。

 

 

 

 

「逃げるぞ!!」

「ガウ!」

「最後にくらえ!!」

 

 私は腰に付けていた残りの防犯ブザーを投げつけ、ガーディを伴って、路地を逃げ出した。

 これで足音でも追いかけられない。

 一人と一匹は路地を出て逃げる。後ろには様々な光線と暴れる轟音が。周りのビルが崩れていった。擬似いわなだれ。

これでも倒せはしないだろうが、時間は稼げるはず。急いで離れようとする。が。

 

「ガウ!」

「!!」

 

 正確無比に怒りの炎が飛んできた。

 

恐るべき狩人の本能。人間の知恵に野生の本能が勝るか。幸い特性もらいびにより、事なきを得たが、ガレキを壊してサザンドラが現れる。その目にすでに遊びはない。

 ここから先は賭けしかない。すでに日が落ち暗くなった中を走っていった。

 

 

 

 はあはあはあ

 私たちは縦に大きな穴の開いたビルに逃げ込んだ。もともと廃ビルだったのか、ポケモンの影響でそうなったのかはわからないが、屋上から一階まで穴が開き、月明かりが差し込んでいる。

 ピット器官をもつ生物は視覚が弱い。ポケモンにそんな道理が通じるかわからないが、視力が優れているとは思えない。ピット器官をつぶした今、サザンドラも例には漏れずろくに見えないだろう。

 

 まあ、そんなもの最悪の狩人には関係ないだろう。

 

 暗闇からサザンドラが現れ、月明かりによりその姿を現す。

 目にはすざまじい怒りが宿っているが、容易に距離も詰めず、特殊技も使おうとしない。先ほどの特性もらいびも知らなければ、特殊技すべてが効かないと考えても不思議ではない。

 本当に嫌になる。なんでこんな格下に本気になっているんだよ。

これが最後の仕掛けになる。タイミングがずれたら一瞬でお陀仏である。ただまあ、ここまでくればやつの攻撃する瞬間くらいは、感じるさ。

 

 サザンドラがこちらに突撃してきた。

 

 同時に私は半分無意識で最後の仕掛け作動する。

 上から降ってくるのは蓋の開いたドラム缶。中身のガソリンがサザンドラに降りかかる。同時にガーディのひのこによりサザンドラの全身が燃え上がる。

それでも気にせず突撃するサザンドラ。ダメージ覚悟で殺しに来るのはダメでしょ。

 

 今回の一連の流れで私は徹頭徹尾、サザンドラの五感を奪うことに注視してきた。

 ゆえに最後の仕掛けもこれに尽きる。

 私が少し後ろに下がれば私が乗っていた鉄骨がテコの原理により持ち上がる。全身を燃え上がる炎により、視覚とピット器官が完全に塞がれたサザンドラに躱すすべはない。

 

「お前は自衛隊と戦っているとき、銃弾をリフレクターで勢いを減衰させていたよな。銃は勢いがあるから物を貫く。勢いがなくなれば脅威じゃない。逆に言えば、お前クラスでもポケモンの技以外でもダメージは与えられるってことだ。それが自分の全力の勢いならなおさらな」

「ガアアアアアア!!!」

 

 全力で距離を詰めてきたサザンドラの体を鉄骨が貫いた。赤い血しぶきが上がる。それでも暴れるサザンドラ。驚異的な生命力の前に鉄骨では即死に届かなかったか。

 暴れるサザンドラに廃ビルが耐えられるはずもなく、ビルは崩れていく。

 

 

 

 

「ガウ?」

「ああ、大丈夫。かすっただけだから。やばかったらひのこで焼いて止血してもらうからさ」

「ガウ!」

 

 例の廃ビルから命からがら逃げだした私たち。ただ、飛んできた破片で左わき腹から血があふれる。

 現在大きな橋の上まで来た。かなり深く、冷たい水が月明かりを反射する。この川を下ればキャンプ場につく。

そう、やっとここまで来た。生きてここまで来た。あと少し。

だから、

 

「いいかげん諦めろや!!サザンドラ!!!!」

「ガアアアア!!!」

 

 お互い満身創痍。サザンドラに至っては、鉄骨が刺さったままで瀕死であろう。それでもまだ諦めないというのか、この怪物は。

 

 こちらにはもう反撃の手段は残っていない。サザンドラが瀕死であっても、正面から戦えばガーディでは勝つことはできない。それだけのレベル差、種族差がある。

 だからどうした。それが諦める理由にはならない。

 

「行くぞガーディ!」

「ガウ!」

 

 私たちは無謀な戦いに挑む。

 それに対して絶対的な覇者は、この小さな勇者たちに切り札を持って迎えるようだ。

 

「くそが。そんなものまであるのかよ」

 

りゅうせいぐん。

 ドラゴンタイプ最強の技はあまりにも残酷で美しかった。

 

「ガーディ頼む!」

 

 私はガーディを抱え込む。こんなバカに最後まで付き合ってくれた礼だ。私の体が少しでも盾になればいい。

 私たちの視界はすでに光に染まった。

 

 

 

 

 巨大な橋は完全に崩れ去った。

 圧倒的な破壊痕を前にしても、サザンドラは気を抜かない。

 死体は見つからない。それが残るような威力ではなかったが。たとえ水に落ちたとしても、あの出血ではすぐに死ぬ。

 またこの冷たい水では、体温を保てない。

 あの犬の炎であっても体温を保つには弱すぎる。冷えるだけだろう。

 自分の知覚は、生き物の気配を感じず、第六感も反応しない。

 サザンドラは空に雄たけびを上げると、自身の住処の山に帰っていった。

 その背中には一抹の寂しさがあった。

 

 

 

 もしサザンドラが、もう少しとどまれば。もし川を下っていれば、少し下流の川の底でわずかに輝いた白い光は、見逃さなかっただろう。

 




裏設定
サザンドラ LV70
個体値6Vの天才。天才過ぎて、蹂躙しか経験してこなかったため、ポケモンバトルの楽しさを知らない。
この戦いで変化があるかも?
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