元旦の団子屋さん
元旦、それは最も神への信仰が集まる日である。
普通の日なら、こんな寒い日に外に出歩く事なんてせず、布団かこたつにスライディングし、親という名の審判に指図されても無視するという光景が、どこの家庭でも見られるのだが、今日はのっそのっそと部屋を動き回り、せっせと防寒着を着込んで、曇りがかった冬空の下を歩んでいく....
人里を草履や下駄を履いて、寒さに背中を丸めながら向かう人たちは、心なしか気が晴れているように表情豊かだ。人に会うたびに頭を下げ合う光景は、どこか形式的で滑稽ながらも、ここにあるべき文化を噛み締めているようだ。
そんな街中にある一軒の団子屋は、いつものように暖簾をおろして寒さに震えていた人たちを、暖かく迎えていた。
「へいらっしゃい!!外は寒かったでしょう。ま、この囲炉裏にでも当たって暖まっておくんせい。注文がありんしたら私の方まで、あ、そのお茶と甘酒は勝手についで飲んでくだせぇ。」
ここは団子屋『
とまぁ、そんな店の店主の親父さんが暖かくお客さんを迎えていた。いつも団子の生地を作っているせいか、非常に筋肉質な腕をしていて、とても男気のある人である。
だが、ここに少し違和感がある。いつもこのお店でお客さんを迎えているのは親父さんではなかったはずだが....
「お?いつものあんちゃんを探してんのか?トオルなら今、外売りしてるよ。俺ァ年だからな。若ぇもんがこういう体力勝負はやんねぇとな。はっはっは!!」
そう言って高笑いする親父さんに対し背を向け、外へ歩みを進めようとする。
「ん?お客さんもう帰っちまうのかい?....ほーぉ。お目当ては寒さしのぎでも団子でもねぇってかい?残念だねぇ....」
見事に図星を突かれて赤くなった顔を見て、親父さんはイタズラな笑みを見せてなだめる。
「ははっ!!まぁそう顔を赤くなさんな。恥ずかしがる事はねぇさ。さぁさ、愛しのトオルに会いにでも行ってきな。」
まったく....調子狂うなぁ....。
◼️◼️◼️
こんにちは。トオルです。
今日は元旦ということで、普通なら店閉めて神社詣りするのですが、とある朝の親父との会話で、それは形を変えて実現した....嫌な形になって....
『物売るってのはな、人が居なきゃいけねぇんだ。』
『ふんふん。それは当然だよね。』
(朝食にいきなり何を言い出すかと思ったら、商売のノウハウかよ....正月の朝くらいのんびりいこうぜ....)
と、朝の豆腐の味噌汁を啜りながら適当に応えておく。
『だからな、元旦に人が集まるところといったらどこを考える?』
『んー?まぁ神社とかかな?初詣とかいうし....』
そう、ここで気付いていれば、何とかこの先の運命から逃れられたのかもしれないが、自分の迂闊さに今は後悔の念しかないのである。
『でな、今日は店休みなんだが、(ガシッ)初夢に商売の神様からよぉ....』
(ん?なんで肩掴まれてんの?)
『"人が入れ食いのところに行って売りもしない奴は商売人じゃねぇ"って言われてよぉ....』
『え?あ、うん。それで?』
『それでトオルが寝ている間に団子を山ほどこしらえ....』グッ
『いやだぁ!!こんな冬に外売りにいく奴があるかぁ!!』
『駄目だねぇトオルぅ~もっと早く気付くべきだったなぁ』
『くそっ!逃げられねぇっ!!☆HA☆NA☆SE☆』
『トオルは神社に初詣に行かない不届き者なのかぁ?えぇ?それとも、作っちまった団子を無下にするっていうのかぁ?』
『いや親父が勝手に作ったやつだろうが!!』
『いや~今年のお年玉奮発したのになぁ~あげれねぇなんて残念だなぁ~』
『ぐっ....わぁったよ!行けばいいんだろ!行けばっ!!』
『んじゃよろしくなぁ~。』
....と、言うわけで、今神社にて団子を売っております。
「おっ?団子屋のあんちゃんじゃねぇか!?なんでまたこんなところに....?」
「いやぁ、親父が外で売ってこいってうるさいもんで....」
「うっは!『梅枝』の明かりが夜までついてたのはこれが原因かよ。まったく精の出るこって。」ケラケラ
「まったくですよ....。んで?何か買っていきます?」
「そうさなぁ....お?『団子しるこ』か!暖まりそうだねぇ!これおくれよ!」
「へいへい。」
「いや~ここまで来るのに体冷えまくっててさ、助かるね~」
うん。こんな寒い中、参拝客は歩いてここまで来るからな。そりゃ暖かい物食べたくなるだろう。でもさ、親父ちょっと張り切りすぎだろう?餡掛け団子用の餡これに使ってよかったのか?明日餡掛け団子出せんのかね~?
「おっ!やってるねぇ。って、炭火で暖めながらって手間かかりすぎじゃないのお兄さん?」
「仕方ないでしょ。冷たい団子を渡すわけにもいかないし?」
「まったくだね!よくお客の心掴んでるよ。あ、オススメセット頂戴!」
「へいへい。熱いから気を付けてくださいね~。」
まぁ、これは自前で用意したんだけどな。まったく親父のやつ。作るもんだけ作って売る準備なんもしてねぇんだもん。神社から借りる羽目になったわ....
と、そんな人混みの中から、しめ縄をいつもより豪華にして背負った神様がやって来た。
「お、いい感じじゃないか。うちの炭貸した甲斐があるってもんだよ。」
「あ、神奈子様。炭ありがとうございます。」
「いやいや、別に気にしなくていいよ。うちも参拝客が笑顔になってくれるんだしね。いいことだ。いつも寒い顔して来る参拝客を見てげんなりしなくてすむ。」
「そう言ってもらえると助かります。」
あ、皆に言うの忘れてた。ここ守矢神社です。
....え?博麗神社行かないのかって?いや、だって今頃....
「ねぇ?今日元旦よね?魔理沙。」
「あぁ~そうだな~。」
「じゃあなんで....なんで参拝客が一人も来ないのよっ!!」
「いや~?客ならきてるぜ?ほら」
「うーん....頭痛いわぁ....」
「紫様....相変わらず加減を知らないんですから....」
「うぐぐ....て、天人が飲み勝つのはあたりまぇ~....」
「まったく天子様。意地張って飲みすぎるからですよ....。」
「お互い苦労人ですね....」
「まぁ、ここまでが定石なので....」
「....ほらな?」
「『ほらな?』じゃないわよ!?妖怪と式神と天人しかいないじゃないの!!しかも昨日の年越しの宴に来て酔い潰れた奴だけじゃない!!もうっ!!なんで誰も来ないのよっ!!」
「こんな状態じゃあなぁ....。妖怪が集まる神社に安心しては来れねぇよなぁ....。」
「んもぅ!!皆帰ってよ!!」
....とまあ、こんな具合に閑古鳥が鳴いてそうだったからね。悪気はない。冷静に考えた結果がこれである。現実って非情だね。
「あ、そうだ神奈子さん。これどうぞ。」
「おっ!貰っていいのかい?」
「えぇ。炭いただいたお礼に。」
「そう。なら、ありがたくいただこう。もうすぐ私達は仕事を臨時のバイトに任せて昼休憩に入るから、そのときにいただくよ。」
そういって神奈子様はニカッと笑って団子を受けとる。
(....疲れを感じさせない笑顔だなぁ....神様にはやっぱり敵わねぇや。)
「神奈子ぉ!早く部屋に戻ってご飯食べるぞぉ!早苗が作って待って....ん?」
「おやおや、諏訪子。すまないな。今戻るよ。」
と、談笑している時に割り込んできたのは、綺麗な衣装を見に纏った諏訪子様だった。先程まで神事を行っていたのだろう。
「おお、トオルと話してたのか。悪かったな。だが、私達もまだ仕事があるし、休みは限られてるからな。失礼させてもらうぞ。」
「あっはい....にしても、お二方とも神の名に相応しい美しさですね。流石です。」
....。
「はっはっは!!そうだろう!!そうだろう!!皆思っていることだが、口に出したのはお前くらいだな!!お前には神の加護を与えてやろう!!」
「まったく、神奈子は世辞に弱いなぁ....」
「とか何とか言いながら顔赤くしてる奴には言われたかないねぇ♪」
「くっ!!神奈子お前っ!!」
「はっはっは!!さぁ、早苗が待ってるんだろ?いくぞ―。」
「....ふん。ま、トオルの言う通り、私が美しいのは当然だ。だけど、簡単にそんな言葉言うなよ。重みがなくなる。言うなら早苗に言ってやれ。」
「東風谷さんに、ですか?」
「あぁそうだよ。んじゃ、私戻るわ。」
そう言って諏訪子様は帰っていった。
....んー東風谷さんに?なんでだろ....
「あんちゃん!その団子くれよ。昼飯にすっからさ。」
「あっ!はいはいただいまぁ!!」
....まずは昼飯を客の腹に届けるとしますかねぇ....。
◼️◼️◼️
「今戻ったよ~早苗~。」
「戻ったぞ~。」
「あっ!神奈子様どこに行ってたんですか!?ご飯はみんな揃って食べるって決めてたじゃないですか。」
「悪い悪い。トオルと話してたら遅くなっちゃったよ。」
「え"先に話してきたんですか!?ずるいです!!私も....」
「あーあー待った待った。ご飯はみんなで食べるんだろ?早苗?さ、早く食べようよ。食べてから行ってきな。ね?」
「....もしかして諏訪子様も先に?」
「まぁね。いや~久々に心が潤ったね~神奈子?」
「そうだな。思われるのと口にされるのは全然違うな!」
「な、何を言われたんですか!?聞かせてくださいっ!!」
....そんなこんなで昼飯を食べるのが遅くなった守矢家一同だった。
◼️◼️◼️
夕焼けの勢いが収まり、夜が降りてきた頃。参拝客は時間と共に減っていき、家で食べると買っていく客も流石にいなくなっていた。
「ふぅー。ようやくあがれるかなっと。」
(さてさて、後かたずけして帰りますかね。あと、守矢さん家に一言お礼を....)
....タッタッタッ
そう思っていた時、神社の方から一人の少女が走ってきた。
「と、トオルさん!遅れました....待ってました?」
「いや?全然?」
緑の髪をブンブン揺らして息あげてきたのは現人神であらせられる東風谷早苗さんだ。そんな彼女は俺の言葉を聞いてげんなりした表情で返す。
「あの....少しは合わせてくださいよぉ....。『ずっと待ってた』とか…。」
「いやー、現人神様に合わせる気はないですね~。」
「もうっ!その呼び方はやめてって言ったじゃないですかぁ!!」
俺の呼び方に不服だったのか、顔をぷくーっと膨らませて睨んでくる。せっかく神事のためにした化粧が、顔の面白さに加勢している。
「プククッ....そ、そんな変な顔すんなよ。せっかくの綺麗な顔が台無しだぜ?」
「....えっ!?今なんて!?」
「は?いや顔が台無しって....」
「その前っ!!」
「....あのな東風谷さん?」
「なんですか?」
「そんなテンプレに俺が乗ると思ったかっ!!」ビシィッ
俺のその言葉を皮切りに、東風谷さんは困惑した表情を捨てて、妖艶な笑みを浮かべた。
「ちぇ~、外の世界じゃお決まりじゃないですかぁ~」
「ま、迂闊にも使ってしまった俺も悪いけどな。あーあ。諏訪子様に言われた通り、重みが無くなってくな~」
「軽いならもう一回言ってくれます?」
「....遠慮しておこう。」
「ふふっ♪」
....今回は東風谷さんの方が強かでしたね。
「なぁ、早苗。」
「ブフォッ!!今まで"東風谷さん"って呼んでおいていきなり名前呼びって....」
....とりあえずしんみりした雰囲気に持ち込んでサヨナラしようと思ったのに笑わないでよ....。
「....こんな風に、元旦に初詣に行くとさ、他の参拝客と一緒に並んでお賽銭入れたり、お守り買ったりおみくじ引いたりしたよな....」
「....そうですね。神を祭る場所の筈なのに、出店がたくさん並んでいて、それ買って食べたりと....」
「そういうのってさ、元々俺らがすることだったのに、今は提供する側になってるって、なんか不思議な感じしないか?」
「う~ん。私はもう何年もこれやってますからね。その感覚は無いです。」
「そ。まあいいけどな。ただ俺がそう感じたってだけだし~」
「同意を得たかったんじゃないんですか?」
「なぁ~んでそう図星を射抜くんですかねぇ?」
「私もかつてそうだったからです♪」
「思ってんじゃん!!」
そう言って俺をからかって楽しむ東風谷さんだったが、なぜか次はちょっと怒ったような顔をして言う。
「でも、貴方はいいですよね~外から来た人とお話ができて~。」
「ま、そういう意味で東風谷さんに会えたのは幸運だったなぁ~。」
その俺の言葉を最後に、なぜか東風谷さんは黙り込んでしまった。あれ?俺なんか不味い事した?
「....あの。その呼び方やめてくれません?」
「え?」
「早苗って....呼んでくれませんか?」
「え....」
そんなことを言い出した東風谷さんの顔は、どこか赤くて目が潤んでいるようだった。神事の化粧が余計に色っぽさをあげていて、その上でのその言葉はまるで....
「いや、なんか『東風谷さん』って呼ばれると気持ち悪いんで....」オエエ
「ちくしょう!!思ってたのと全然違うじゃねぇか!!」
「えぇ~♪ナニを考えてたんですかぁ♪」
ゆらゆらと体を揺らして俺にニヤケ顔を見せつけてくる。う、うっぜぇ!!
「も、もう帰るなっ!!神奈子様と諏訪子様にもありがとうって伝えといてくれ
「あっ!!ちょっ!!」
早苗の制止を置き去りにするように、俺は守矢神社を後にするのであった....。
◼️◼️◼️
「はぁー。」
「はぁ~あ。ま~たやっちゃったね早苗ぇ~。」
「す、諏訪子様!!」
「まったく、いくら真面目な雰囲気が苦手だからって、あの場面のトオルをいじるのはよくないと思うよ?」
「か、神奈子様までっ!!聞いてたんですか!?」
「「もちろんさぁ!!」」グッ
「くっそぉ....」
こっそり陰で聞いていた二柱の神にぐっと握りこぶしを見せるが、神様はまったく動揺してない様子で....
「もう、早苗の恋路を応援する気はあるけどさぁ....」
「恋路じゃありません!!」
「早くしないと私が取ってしまうぞ?」
「....ええっ!!?(;゚Д゚)神奈子様がっ!?」
「私だって狙ってるんだぞぉ?」
「....うええっ!!?((((;゜Д゜)))諏訪子様までっ!!?」
「あっはっは!!私達はともかく、そろそろ身を固めた方がいいんじゃないか?」
「い、いやいやいやいや!!ありませんから!!トオルさんとはなぁんにもありませんからぁっ!!」
早苗の必死の言い分けは、寒空の奥までつんざくのであった....
◼️◼️◼️
「親父ぃ....今帰ったぞぉ....」
「おう!!お疲れ!!いやぁ、今日は人多かったろ?大変だったなぁ....」
「大変だと思うなら一人で仕事させんじゃねぇよ....まったく....。」
「ちょっとまった。」
「え?」
そういいながら座ろうとする俺に向かって、親父が制止をかけてくる。
「まだお前は座っちゃいけねぇ。何故ならまだ仕事が残ってるからだ。」
「え?何が?もう終わって....」
その時、俺は気付くべきだった。そして逃げるべきだった。だが、それは叶わなかった。
「ほれ、お年玉だ。受けとれ。」
「え?あ、ありがと....」
「博麗神社の....だけどな!!」
「....は?」
「さぁ、行って来いっ!!今日の賽銭は色付けてっからな!ちゃあんと入れてこいよ!!」
「ふざけんな親父いいいいいいいい!!!」
◼️◼️◼️
「う~ん。ヒック....なぁんで参拝客来ないのよお~....」
「あーあー。すっかり出来上がってやがんぜ。」
「まったく、いくら説教しても聞かないんだから....」グビー
「華仙。酒飲みながらだと説得力0だぜ?」
「ま、今更言っても遅いしね。私は私なりに楽しむわよ。」
「ほどほどにしとけよ~。鬼は鬼でも、説教の鬼だからな。」
「ぐっ....そ、そうね。そうしとくわ。」
カバッ!!
「ん?どうした霊夢?」
「お賽銭の匂いがするぅ~。見てこよぉ~。」フラフラ
「おいおい。そんな千鳥足じゃムリだろうが。ほれ、私に捕まれ。っていうか、入ってないと思うぞ?誰も来てないし、音もしなかったし。」
「でもぉ~匂うのよ~確かにお金の匂いがぁ~。」
「はいはい。わぁったよ....ほれ、ついたぞ、さっそく開け....」
シュバババババッ!!
....あ。
「あ?」
....ああああ。
「なんだよ霊....」
あったどおおおおおおおお!!!
「えええええ!!?嘘だろ!?」
しかも千円札じゃあ!!これが....これがお金の中の松茸と呼ばれる貨幣!!う~ん♪グッドスメルッ!!!
「まじか!!ということは....犯人が近くにいるはず....今すぐ追って....のわっ!?」ガシッ
「さぁ魔理沙ぁ!!宴会開きましょそうしましょ!!今夜は帰さないわぁ!!」
「ちょっ霊夢!?離せって!今すぐ入れた奴を捕まえに....」
「今日はこの松茸の香りをたぁっぷりと味わうわよ!!皆!おっきろーーー!!」
「....こりゃ聞いちゃいねぇな....。はぁ、やな異変だぜ....」
こうして博麗神社は、宴会による元旦の夜を迎えたのだった....