霊夢の賽銭箱に、お金を入れ続けてみた   作:sayutan

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火車が運ぶは心なり『甲』

「ふぅ。お茶、いつもありがとうございます。」

 

「はいはい。あんたが寒さで凍え死なない為だからね。仕方ないわ。」

 

 賽銭異変が終わったものの、賽銭を入れる日々は続いている。今日も今日とて、博麗神社にお賽銭を入れ、霊夢さんとお茶を啜る。最近のお昼休みはこんな感じだ。

 

「そういえば、霊夢さんはこの時間帯って何やってるんですか?」

 

「見てわからない?コタツで寒さを凌いでるの。」

 

「え?一日中?」

 

「まぁ、大体は。新しくお茶つくる時くらいかしらね。ここから出るのは。」

 

「修行とかってないんです?」

 

「ないわ。だから、妖怪退治の依頼が無けりゃ、ここでじっとしてるわよ。」

 

「へぇ、そんなもんなんですね…。」

 

(早苗は結構修行してるって聞いたけど、神社によって違うのか…。)

 

「そんなもんよ…。」

 

「はぁ…。」

 

「…。」

 

 そして、その会話を皮切りに、しばし静寂が訪れる。聞こえるのはお茶を啜る音と、湯呑を置く音のみ。

 

 お茶に誘われた当初は色々話していたが、回を重ねる毎に会話のネタも尽き始め、段々と静かな時間を過ごすことが多くなった。

 

(うーむ。この時間が窮屈なんだよなぁ…。)

 

 相手が霊夢さんと言うこともあり、気を使う場面が多い。賽銭異変の時、霊夢さんに結構な失礼をしてしまい、それ以来、敬意を払うような話し方になっているのだ。

 

(まぁ、霊夢さんが気にしていなければいいけど…。)

 

 と、そんなことを思っていると…。

 

「…あー、そうそう。あんたさ。」

 

「は、はい?なんでしょう?」

 

「それ。その言葉づかいやめて。気ぃ使ってるでしょ。あたしに。」

 

「え?そりゃあまぁ、霊夢さんだし?」

 

「なに?私が『博麗の巫女』だからってことかしら?」

 

「え、えっと…。」

 

(やばっ!!気を使ってることが霊夢さんの気を悪くしたか!?)

 

 どうやら霊夢さんは、俺のこの態度が気に入ってなかったらしい。

 

「…はぁ、まぁ、そんな風に扱われるのはもう慣れたから構わないけど…その…なに?気を使われるとこっちが気を使わなきゃいけない空気になるのよね。私って嫌いなのよ。そんなの。」

 

「あー、やっぱり気づかれてました?」

 

「そうね。会話が止んだ途端、私の方をジロジロ、ジロジロと。本当嫌。」

 

「…あー、えっと、霊夢さん?」

 

「それも、嫌。あんた魔理沙に『さん』付けして呼んでるの?」

 

「…。」

 

 o...oh...。な、なるほど。気を使うのも使われるのも霊夢さんは嫌いらしい。

 

(…だからこそ、いろんな妖怪に好かれてるのかもな…。)

 

 人里でよく聞く噂の中に、『博麗神社は妖怪の溜まり場』なんて言われているが、実際、多くの妖怪が霊夢さんを訪れにやって来ている。

 

(人間社会に疎い妖怪達は、あまり気を使わない。だからこそ、霊夢さんと話に来るのかもしれないなぁ…。)

 

「なによ?今度はだんまり?はぁー、面倒くさいったらありゃしない…。」

 

「あー、じゃ、霊夢?」

 

「…あー、はいはい。なによ?」

 

「こんな感じでいいか?」

 

「…まぁ、あんたの好きにすれば?それがあんたの気を使わない話し方、てならね。」

 

「あー、うん。今は魔理沙との距離感で話してるから、違和感あるかもしれないけど、いずれは霊夢との距離感で話せるようにするわ。」

 

「ふーん。ま、お互いベストな距離感を目指して頂戴ね?」

 

「へいへい。」

 

「…あ、湯呑こっちに寄越しなさい。」

 

「どうも…って、もしかして今まで気を使ってお茶を?」

 

「あー、そうね。じゃ、次からは自分で注ぎなさい。」 

 

「りょーかい。」

 

「それと、お湯なくなったら取りに行ってね。」

 

「はいはい。」

 

「ん、お茶菓子なくなっちゃったわ。団子持ってきてるでしょ?出しなさい。」

 

「今日はよもぎだ。」

 

「いただくわ…って、言ってるそばからお湯なくなったわ。持ってきて。」

 

「…急に遠慮なくなったな。もしかして、霊夢も相当気を使ってたのか?」

 

「うっさいわね。さっさと行きなさいよ。」

 

「はいよっと。」

 

…その後、また静かな時間が訪れたが、その静けさは意外と心地よかった気がした。

 

 

 

■■■

 

 

 

「さってと、急いで戻るとするかねぇ…。」

 

 冬の寒さは、お茶で溜めた温かさでカバーしつつ、早歩きで帰路をたどる。

 

「ま、少しは霊夢さんと仲良くなれたかねぇ?…っとと、『さん』付けしないように気をつけないと…ん?」

 

 ぼんやり考えながら歩いていると、何か黒い物体が視界に入った。

 

「あれは…猫?」

 

 寒空の中、一匹の黒猫が道を横切って行く。

 

「猫かぁ…しっかしこんな寒いのに歩き回るたぁ、元気のいいこって…おっと?」

 

 黒猫が通り過ぎるのを見ていると、ある事に気づく。

 

「あいつ、尻尾が分かれてんな…。猫又…妖怪か?」

 

 猫は年を取り、老いが進むと尻尾が割れ、二股になると聞いたことがあるが、黒猫はまだ若く見える。

 

「…。」

 

 妖怪だと決まった訳ではないが、警戒するに越したことはない。

 

(ここは黙ってやり過ごすか…っ!?)

 

 歩を止め、警戒心を高めた…が、それがかえって猫の勘を刺激したのか、黒猫はおもむろにこちらを振り返った。

 

(ヤバいっ!!殺されるっ!?)

 

 幸い博麗神社からそう離れていない。すぐ引き返そうとしたその時。

 

「やぁお兄さん。どこへ行くんだい?あたいが乗せてってやろうか♪」

 

「うおっ!?」

 

 突然後ろから声をかけられ、飛び上がって距離を取り、その声の主を見る。

 

 猫の耳がピンと立ち、赤い髪を黒いリボンで結った2つのおさげ、赤い瞳に黒い服、揺れる2つの尻尾に手が添えられた猫車。どこからどう見ても妖怪そのもの。そうじゃ無かったらよっぽどの猫愛好家だ。

 

(でも、猫車の中は空だし、後者はないよな…とすると…。)

 

「…ね、猫の妖怪か?」

 

「ま、そんなとこさね。って、そんなに警戒しなくていいよ。あたいは人間を食べやしないから。」

 

「そ、そうなのかー?」

 

「そうだよ。生きてる人間なんて食えたもんじゃない。」

 

「食べたことあるのか…。」

 

「いやいや。あたいの妖怪としての(さが)さ。あたいは死体にしか興味無いからね。」

 

「ソッカー、ナラアンシンダワー。」

 

「すっごい棒読みだね。殺してまで食べる気は無いからさ、安心しとくれよ。」

 

「どこに安心できる要素があると言うんだ?」

 

「あー、それを言われちゃ参るねぇ…じゃあ…。」

 

 

 

ボンッ!!

 

 

 

「ん?さっきの黒猫か?」

 

「ニャーニャー♪」

 

トコトコトコ

 

「ニャーニャー♪」

 

スリスリ

 

「うん。安全だな!」

 

 黒猫が足に頭を擦り付けてくるだけだが、『猫が人懐っこい行為を取った』ということで、難なく気を緩めてしまった。

 

 

 

ボンッ!!

 

 

 

「よし、話を聞こ…」

 

「シャーッ!!」

 

「…。」

 

 人型に戻った化け猫は、明らかな猫目と、ギラギラと赤く煌めく長い爪を立て、口角を思いっきり上げた笑顔を浮かべていた。

 

 

「ぎゃあああああああ!!?食われるうううううう!!?」

 

「あっ!?ちょっ、お兄さん待って!!ごめん!!やり過ぎた!!ごめん、ごめんてば!!」

 

 

 

青年逃走中…

 

 

 

「はぁ…はぁ…。」

 

「お、落ち着いたかい?お兄さん?」

 

「あ、あぁ…なんとかな…。」

 

(無我夢中で逃げたけど、コイツずっと横に張り付いて『ごめんなさい』と手を合わせてくるからな、2つの意味で観念したよ。)

 

「ぶえっくしっ!!…うう、汗が冷えて来たな…。」

 

「おやおや、それは不味い。よっと。」ポッ

 

「これは…火の玉か?」

 

「そうとも言うけど、これは単なる炎だよ。人魂なんかじゃないから安心しとくれ。」

 

「そんなこと言わなきゃ安心できたけどな…ま、ありがとよ。」

 

「元はあたいが脅かしたせいだからね。これくらいはさせておくれよ。」

 

 

 

青年暖取中…

 

 

 

「それで?"あたい"さんは散歩でもしてたのか?」

 

「いやぁ…散歩じゃないんだよ。」

 

「それじゃあ死体探し?」

 

「それは別件だね。それと、あたいの名前は火焔猫(かえんびょう)(りん)。"お(りん)"と呼んどくれよ。」

 

「お燐な。俺は串田(くしだ)(とおる)だ。」

 

「トオルね。覚えとくよ。あんたが死んだら、あたいが地獄まで死体旅行と洒落込むから、楽しみにしておく事だね♪」

 

「…あのさ、お燐。」

 

「なんだいトオル?」

 

「なんだか最近、死後の逝き場の選択肢がどんどん増えてるんだけど、そういうのが幻想郷の死に対する観念なのか?」

 

「おや?トオルは外の世界の人間かい?そうだよ。人間にゃ生きる道と同じ位、死ぬ道も用意されてるのさ。外の世界はそうじゃないのかい?」

 

「死に方は多様だけど、死後までは俺の知る限り、精々2通りしか知らないな。」

 

「ふぅん…トオル。人間は死んだ後も道があるってことを、忘れちゃ駄目だよ。」

 

「肝に銘じとくよ…って、そんな話じゃないだろ。」

 

「あれ?なんの話だったかい?」

 

「なんでここをぶらついてたのかって話だ。」

 

「あーあー!それだよ!…それがね?あたいがご主人の機嫌を損ねちゃってさ…。今はご機嫌取りの為に頑張ってるって訳さ。」

 

「なんだ?『御主人が死んだらあたいが運ぶよ』って食事中に言ったのか?」

 

「そんな事で怒りゃしないさ。むしろ好感度アップだね。」

 

「心の広い奴なんだな。で、そんな主人に何したんだ?」

 

「いやね?ご主人は趣味で小説を書いてるんだけど、『人の気持ちを美しく表現できない』って言うのさ。」 

 

「はぁ、難儀だな。」

 

「それであたいがこう言ったのさ、『人の心を読めるご主人には、人の本性しか見てないんだから、難しいに決まってる』って。」

 

「…主人がものすごい能力の持ち主って事はわかった。そして、お燐が地雷を踏み抜いたってのもわかったわ。」

 

「いやー、もう少しあたいの歯に衣を着せるべきだったね。ついストレートに言っちゃったよ。」

 

「元からそんなつもり無かっただろ。心読める主人が相手ならなおさらだ。」

 

「あっはは。まあね。で、あたいはどうしたらいいと思う?トオル。」

 

「え?ご機嫌取りの為に何か探してたんじゃないのか?」

 

「それなんだけど、ご主人から『今私に必要そうなものを持ってきて』って言われちゃってさ…参ったねこりゃ。」

 

「そりゃ難題だなぁ…。で、当ては?」

 

「無いから困ってるんだよ。物書きなんてしたこと無いしさ…。」

 

「俺も少しは読むが、書くことはしたこと無いしなぁ…。どうしたもんか…。」

 

 

 

「「うーん…。」」

 

 

 

「はっ!!」

 

「おっ!思いついたのかい!?」

 

「やっべ!?俺まだ仕事があるんだった!!急いで戻らねぇとっ!!んじゃなお燐!!頑張れよ!!」

 

「えっ!?ちょ、ちょっと待ちなよ!!」

 

「あ、これ団子な。腹減ったら食え。んじゃ、あーばよーっと!!」

 

「あ、ありがと…。」

 

ダッダッダッ!!

 

「…。」ポカーン

 

「って、ボーッとしてる場合じゃないよ!!せっかく見つけた"渡り船"、逃さないよっ!!」

 

 

 

青年奮走中…

 

 

 

「うーん。何が正解なんだろうなぁ…。」

 

 人里までの道を駆けながら、お燐に与えられた問題を考える。ご主人にとって必要なものらしいが…。

 

「それがわかってたら、お燐に頼んだりしないだろうし、主人本人も分かってないんだろうなぁ…。」

 

 お燐にはお仕置きと称して、協力させているような物だ。

 

「まぁ、このまま主人のところに戻っても、特にお咎めは無さそうだし、大丈夫だろ…。」

 

 一応、答えを探すくらいはしておくか…と、頭の片隅で考えていると…。

 

「へーい、お兄さ〜ん、乗ってかないかーい?今なら人里まで運んでやるよー?」

 

「うおっ!?ついてきたのかお燐!?」

 

「当たり前さね!あたいに目を付けられたが運の尽き、トオルの死体を地獄に運ぶか、ご主人に解決策を運ぶか、どっちかを運ぶまで帰らないよっ!!」

 

 ピッタリ横に張り付いて並走してくる。どうやら本気でついてくる気だ。

 

「あー、わかったわかった。降参だ。で、人里まで運んでくれるのかいお燐さんや?」

 

「ああそうさ。火車の素早さ、目にもの見せてあげるよ!」

 

「はぁ…んじゃ、お言葉に甘えて…。」

 

 

 

ガシャン!!

 

 

 

「よーし。それじゃ、人里までの地獄道、とくと味わいなよ♪」

 

「おー。」

 

「あ、生者を乗せた事は無いから、加減わからないけど、楽しんでおくれよ?」

 

「えっ?それは聞いてな…」

 

「じゃ、出発ーーーっ!!」ギッ!!

 

 

 

ギュウウウウウウウン!!!

 

 

 

 

(は、速っ!速すぎて風が冷たいっ!!そして痛いっ!!ちょっ、止まっ!!)

 

「にゃっははははははははー♪」

 

(う、うおおおおおおっ!!?)

 

 

 

 

少女爆走中…

 

 

 

 

ガララッ!!

 

「おっ!トオル、ようやく戻ってき…んぁ?」

 

「今日はやけに遅かったで…って、どなたですか?」

 

 親父とクシナが揃って玄関をみると、そこにはお燐が立っていて、

 

「いやー、久々に思いっきり猫車押せて、興奮しちゃってさ…トオルを解凍するの、手伝ってくれないかい?」

 

 猫車の上には氷漬けになった俺が乗っていたという。

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