霊夢の賽銭箱に、お金を入れ続けてみた   作:sayutan

23 / 31
火車が運ぶは心なり『乙』

「へっくしっ!!いぃっぷしっ!!」

 

「いやー、ごめんね。あたいのせいで。」

 

 お燐の猫車に乗せてもらい、人里までの地獄道と洒落こんだはいいが、生者を死者に変えてしまわんばかりの速度で走るもんだから、地獄までの冷却道となってしまった。

 

 ものの見事に凍った俺は、親父たちからお湯をかけられて解凍され、今はお燐の炎で暖を取っている。

 

 お燐はというと、はしゃぎ過ぎて俺を凍らせた事を申し訳なく思っているのか、明るく振る舞っているものの、表情はぎこちなく、暗い。

 

(まったく…。こっちは寒さで顔を青くして、あっちは自責の念でしょんぼり丸か。)

 

 お燐の炎で俺の顔色は徐々に良くなっている。なら、お燐の表情を明るくするのは誰の役目だ?

 

(…はぁ。)

 

「ま、案外楽しかったよ、地獄道。」

 

「あはは、慰めのつもりかい?いいよ。今回はあたいが悪いんだから。」

 

「うーん。もちろんその意味もあるんだが、なんだろな?お燐の生き生きとした表情が見れて良かったなーと。」

 

「あたいのかい?」

 

「そーそ。」

 

 例えば、人間を驚かすことに成功した時の、小傘の表情のような、妖怪としての本命を全うした時の、達成感に満ちている時の表情だ。

 

「あの時のお燐はいい表情してたよ。心の底から楽しんでるような感じだった。」

 

「まぁね!あたいは猫車で死体を運んでいる時が一番幸せさ!」

 

「なんと!俺が死の縁に追いやられる事も想定内だったのか!」

 

「あっ!いや、それはたまたま偶然だよ!あの時はそんな事考えきれてなくて、ただ猫車を押したくてだね…。」

 

「ま、そんなこったろうと思ったよ。んじゃ、次は春にでも頼むわ。」

 

「へ?」

 

 俺の言葉が意外だったのか、キョトンとした表情になるお燐。

 

「今は冬だからな。あんな速度じゃまた凍っちまう。夏だと発火しそうだかんな。なら、春にでも運ばれようと思った訳だ。」

 

「…ほほう♪それは、トオルの死体を春になら好きに運び回していいということかい?」

 

「勝手に殺すな!」ポカッ

 

「あだっ!」

 

「あくまで俺は生きたままでだ!なんだ?あの猫車は生者を死者に変えるのか!?」

 

「いや?そんな事はないよ?でも、死体を運ぶ為のもので、生者を運ぶ為のものじゃ無いからね。本来の使い方じゃ無いのは確かさ。」

 

「うーん。となると、乗るのは危険か…?」

 

「いやいや!遠慮せずに乗っとくれよ!お詫びとしちゃ何だけど、春の旧地獄の桜道は、冥界に勝るとも劣らない美しささ!是非、そこにトオルを運ばせておくれよ!」

 

「そりゃ楽しみだ。是非、運び回してくれや。」

 

「ふふん♪あたいに任せておくれ♪旧地獄の桜街道、楽しんでおくれよ?」

 

 そう、自信満々に言うお燐の表情には、さっきまであった暗さなど、もうどこにも無かった。

 

「…って、ちょっと待て。もしかして今日みたいな速度で運ぶのか?」

 

「もちろんさ!旧地獄の桜並木道は物凄く長いんだ。ゆったり行ってたら、それこそ日が2度暮れちまうよ。それに、あの速さで見るからこその趣があるんだよ!」

 

「…ま、そういうことなら、運転手は任せるよ。お燐さん。」

 

 若干、地獄ドライブに不安があったが、お燐の顔を見ていたら、そんな事どうでも良くなるのだった。

 

 

 

■■■

 

 

 

「俺、復活!!」

 

「おっ!ようやく冬眠から覚めたか!」

 

「親父、まだ冬は続いてるぞ?冬の間寝てていいか?」

 

「んなことしたら、山の土に穴ほってそこで寝てもらうから覚悟しやがれ。」

 

「俺は熊じゃねぇよ!!凍死するわ!!」

 

「もしそうなったら、必ず見つけ出して回収しに来るから、安心しとくれよ♪」

 

「できるかっ!!」

 

「あっ、トオルさん、無事生き返ったんですね!」

 

「死んでないよ!?」

 

「いやー、いい感じに凍ってて、氷嘗めたら美味しそうだなーって思ってたんですけど、死体まで嘗める趣味は無かったので…。」

 

「一生その感性を大事にしてくれクシナ…というか、んなことされたら涎まみれになるわっ!!」

 

「あっ、想像したら涎が…。」

 

「出すなっ!!…って、そういや、接客クシナに任せっきりだったな。悪かった。」

 

「あぁ、それならご心配なく!私一人でも全然やれましたから!」

 

「そ、そうか…ちなみに親父、今日クシナが湯呑を落とした回数は?」

 

「7回だな。」

 

「くっ!!湯呑が勝手に落ちるんですよ!!これは湯呑に魂が入ってるに違いありません!!」

 

「そんなわけあるかっ!!精々お茶が入ってるくらいだよっ!!」

 

「くうっ!!せめてお茶さえ入って無ければ…っ!!」

 

「親父、ちなみに空の湯呑を落とした回数は?」

 

「2回だな。」

 

「クシナ、アウト。」

 

「ぐはぁっ!!」

 

「お燐、クシナを冷却地獄道へ案内して差し上げて。」

 

「へえ?お客さん、今日は冷やしますぜ?ささ、猫車へお乗りなよ♪」

 

「ではお言葉に甘えて…って、死んじゃいますよぉ!!誰が乗るんですかこんなの!!」

 

「クシナ。」

 

「いやぁっ!!」

 

 

 

□□□

 

 

 

「で、何があったんですか?トオルさん。」

 

 冷却地獄道への切符を放り投げたクシナが、お燐についての話を切り出す。

 

「えっと、俺が神社から戻ってるときに、ばったりお燐と会って…」

 

「そして二人は恋に落ちたのさ…///」

 

「ついに二人は愛の逃避行を…ってちげぇよ!」

 

「それを知らずに、毎日団子を作りながらトオルを待つ俺と…」

 

「叶わなくなった恋という苦渋を嘗める私…っ!!」

 

「話をあらぬ方向に広げるな!!で、お燐が主人の機嫌を損ねちゃったから、その解決策を一緒に考えてたってわけ。」

 

「で、結局思いつかなくて仕事に戻ろうとしたら、お燐さんがついて来ちゃったと。」

 

「その通りだ。親父、お燐をしばらくここに居させていいか?」

 

「俺ァ構わねぇぜ。ゆっくりしていきな、嬢ちゃん。」

 

「恩に着るよ…でもねぇ、あんまりゆっくりもしてられないんだよ。」

 

「ん?お燐も仕事があるのか?」

 

「そうさ、あたいは旧地獄で怨霊の管理とか死体運びとかやってるのさ。少しの間なら部下達がやってくれるけど、あんまり長く離れると統率が無くなりそうでね。」

 

「思ったより重要な仕事じゃねぇか!?」

 

「おぅ、てか嬢ちゃん、あの大穴の住人だったのか。」

 

「そうさ。あんまり地上には来ないからね。ましてや人里なんて、そうそう来やしないさ。」

 

「そうなのかー。んで、お燐はこれからどうするんだ?」

 

「どうするも何も、解決策を思いつかないとねぇ…って、トオルも考えておくれよ。一蓮托生の仲じゃないか。」

 

「そんな仲だったっけ!?」

 

「大穴…旧地獄…。」

 

「んあ?どうしたんだ親父?」

 

「決めたぜ!トオル、嬢ちゃんと解決策とやらを探してこい!」

 

「えっ!いいのか!」

 

「おうよ!ただ、ちと嬢ちゃんに頼みがある。」

 

「あたいにかい?」

 

「あぁ、しばらくトオルを貸すから、その代わりに俺の団子を旧地獄とやらに持ってってくんねぇかい?」

 

「親父…どこまでお客を増やすつもりだよ…。」

 

「俺の団子がどこまで通用するか、試してぇんだよ。それで、どうだい?」

 

「それくらいお安い御用さ!地獄の隅々まで運んであげるよ!」

 

「交渉成立だな。トオル、嬢ちゃんの事は任せたぜ。団子屋は俺とクシナに任せて行きな。」

 

「ありがとよ親父。正直、ここでウンウン模索するよか、外に出たほうがいいと思ってたんだよ。お言葉に甘えてそうさせてもらうわ。」

 

「おう、行ってこい!」

 

「ここは私に任せてくださいっ!!やりきってトオルさんをギャフンと言わせます!!」

 

「…不安だ。」

 

「ふふ、そう思うのも今のうちですよ?」

 

「杞憂だったと思いたいね。」

 

「そうと決まれば、行くよトオル!」

 

「んじゃ、解決策模索の旅に出ますかねっと…!」

 

 

 

□□□

 

 

 

「おや?団子屋の兄ちゃんじゃないか!」

 

「ご無沙汰してます。八百屋のおっちゃん。」

 

「なんだいなんだい?また違う女の子連れてるのかい?若いっていいねぇ!」

 

「女をとっかえひっかえしてるような男のように言うな!!」

 

「そうなのかい親父さん?」

 

「おうそうさ!合う度見かける度に、隣にいる女が変わってるんだぜ?どんな浮気者だってんだ!」

 

「ふぅん…。」

 

「あのなぁ、皆と仲良くさせてもらってるってだけだかんな?おっちゃん。」

 

「カーッ!!ペッ!!」

 

「ツバ吐くんじゃねぇ!!納得しろや!!」

 

「へいへい。でも、いざとなったらちゃんと一途でいろよ?でねぇと背中刺されちまうぜ?」

 

「経験がおありで?」

 

「ああ、大アリだね!100箇所ぐらい刺されてらぁ!!」

 

「早く成仏してくれよな、おっちゃん。」

 

「はいよー。またなー兄ちゃん。お嬢ちゃんも兄ちゃんには気をつけなよー!」

 

「大丈夫さ。いつでも刺す準備はできてるよ♪」

 

「こえぇよ!?」

 

「兄ちゃん、骨と女は拾ってやるぜ?」

 

「早くくたばれ!!」

 

 

 

□□□

 

 

 

「悪かったなお燐。」

 

「へ?何かあったかい?」

 

「いや、おっちゃんに絡ませちゃってさ。気を悪くしたか?」

 

「いやいや、あんなの、旧地獄街道の骸骨共に比べたら、大したことないよ。」

 

「そうなのか?」

 

「あぁ、そうだね。あいつらの下世話さは地獄級だよ。」

 

「底辺なんだか頂点なんだか…。」

 

「それはそうと、トオルはそんなに女の子を連れ回してるのかい?」

 

「お燐まで…たまたまだよ、たまたま。今日お燐と会ったのも偶然だったろ?そんな日が何回かあっただけだ。」

 

「へぇー。そうなのかーい。」

 

「…絶対からかってるよな?」

 

「そんなことないさ♪それで?これからどこに行くか当てはあるのかい?」

 

「まあな。団子の事は団子屋、小説の事は小説家にだ。」

 

「ほう!知り合いに物書きがいるのかい?」

 

「いや、いないから小説に聞く。」

 

「小説に?」

 

「そ。と言う訳で、『鈴奈庵(すずなあん)』に到着っと。」

 

 

 

青年&少女入店中…

 

 

 

「こんにちはー。」

 

「おや?その声は…トオルさんですね!!」

 

「正解。新しい本は入荷したか?小鈴さん。」

 

「うーん。最近はイマイチですねぇ…って、今日はお連れ様がいるので?」

 

「あぁ。」

 

「…なんだいここは?本屋にしてはやけに妖気が漂ってるじゃないか。」

 

「ここは普通の本と少数の妖魔本や外来本を取り扱ってる貸本屋だ。で、こちらが店番やってる小鈴さん。」

 

「どうもこんにちは。本居(もとおり)小鈴(こすず)です…って!猫又の妖怪っ!?」

 

「そうだよ。"火車"で伝わるかい?」

 

「えぇえぇ、伝わりますとも!!それでそれで!?今日は何の御用ですか!?入荷ですか!?新しい妖魔本の入荷ですか!?」

 

「いや、違うねぇ。小説をちょっと嗜みに来たのさ。トオルの提案でね。」

 

「なぁんだぁ…妖魔本じゃ無いのかぁ…。」

 

「明らかにやる気なくしたね…。大丈夫なのかい?」

 

「小鈴さんはいつもこんなだから。」

 

「こんなとはなんですかこんなとはっ!!…まあいいです。自他ともに認める妖魔本コレクターですからね。貸本屋はついでですから。」

 

「あっさりしてるねぇ。」

 

「まぁ、本に対する情熱は確かだから。それで、今日はいくつか小説を見繕って欲しいんだが。」

 

「いいですよ。どんな本をお探しで?」

 

「『人の気持ちが美しく表現されてる』本…か?」

 

「…ついにトオルさんに青い春が…っ!!」

 

「俺のはまだ冬眠してるからそっとしといてくれ。」

 

「…そうですか。まぁいいです。心当たりならありますので、是非ご一読を…。」

 

「いや、できれば解説付きで教えてくれたらなーと。あんまり時間がなくてな。」

 

「ふぅむ。そこまでご所望なら、ちょっと理由をお聞かせ願えますか?」

 

「それはかくかくしかじか…。」

 

「はあはあなるほど。猫又さんのご主人様が、執筆活動でお悩みと…。」

 

「そうなんだ。あと、お燐と呼んでくれていいよ。」

 

「はい!ではお二人を愛情のもつれと血みどろの世界へ案内しましょう!!」

 

「できれば純愛でお願いします。」

 

 そんな訳で、小鈴と小説の世界を旅することにした俺たちだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。