霊夢の賽銭箱に、お金を入れ続けてみた   作:sayutan

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何も思いつかなかった時に書いた設定話


団子屋『梅枝』の日常 ~早朝~

 夜の(かげ)りがまだ残る冬の早朝、幻想郷各地で響き渡る宴会の(こえ)も聞こえなくなった頃に、闇に紛れていた人里から、チラホラと光が灯り始めた。

 

『商売人の朝は早い。』人の動きが無い時間にこそ、商売の準備を入念にすべし....。

 

 そして、その語句の体を表す人達の中に、とある団子屋の主人と居候がいるそうな....。

 

 これは、そんな二人の1日の様子を記録したものである。

 

 

 

■■■

 

 

 

「ふわぁ....ねみぃ....。」

 

 冬の朝、温かい布団に渋々別れを告げ、眠気(ねむけ)(なまこ)を擦りながら台所へと向かう。

 

「おはようトオル!今日もいっちょ頼むぜぇ!」

 

「朝から元気過ぎなんだよ親父....ふぁ〜ぁ。」

 

 足音に気づいた親父が、こっちを向いて挨拶を飛ばす。威勢の良い声だが、聞き慣れちまったせいで俺の眠気は飛んでいかない。

 

 そんな粘着質な奴を追い出す為に、顔面に着いた汚れと共に水で流す。

 

「あ"あ"〜!!冷てぇ〜っ!!」バッシャバッシャ

 

 冬の夜風に吹かれ、冷え切った水瓶から掬い取った水で顔を洗う。眠気覚ましには最適の刺激になるが、やり過ぎると肌が霜焼けしてしまうのが玉に(きず)である。

 

「ふぃーっ、冬はこれで起きられるから有り難いぜ。」

 

「やりすぎてまた鬼の面になるんじゃねぇぞ?」

 

「わーってるよ。あの時はお客さんに笑われるわ、チルノ達に豆投げられるわと、散々だったからな。」

 

「ま、それはそれで楽しそうだったがな!!」

 

「でも、調子に乗って鬼の形相をしたら、チルノ達泣き出しちゃって、駆けつけた慧音先生に頭突きもらったけどな。ありゃもう二度と味わいたくない痛みだね。霜焼けに頭突きたぁ芯まで染みたよ。」

 

「ハッハッハ!!次はおたふくの真似でもしとくか?」

 

「風邪と間違えられるっつーの。んじゃ、朝飯作るわー。」

 

「おう、頼んだぜ。」

 

 顔にぱちぱちと平手打ちし、今日も気合を入れて作業に取り掛かる。ちなみに親父は売り場に団子専用の台所を作っていて、そこで団子の下ごしらえ中だ。

 

(なんでそんなところに台所を?)と、思って聞くと、

 

『ここで食べるお客さんの顔を見ながら作る団子は、また格別なんだよ....。』

 

 と、どうやら団子の質に関わるそうだ。俺にはまだその感覚が分からない為、親父からは半人前扱いされている。まだ修行が足りないようだ。

 

「さって、まずは朝飯からだ。」

 

 と言う訳で朝飯を作る....が、作るのはご飯と味噌汁と、焼き魚、八百屋のおっちゃん自家製トマトぐらいだ。

 

 炊く、焼く、温める、溶かす、切る....以上である。

 

「我ながら簡素だなぁ....。」

 

 味噌汁に至っては具は豆腐とネギ、少々の生姜である。切る、擦る、温める。終わり。

 

「あー、これでもいいんだけど、幻想郷に来てから、若布(ワカメ)の味噌汁飲んでねぇなぁ....。あぁ、若布が恋しい....。」

 

 若布....というよりは、海産物全般が恋しい。その理由は、幻想郷に海がないからだ。

 

 幻想郷全域を散歩して回ったわけではないから、ハッキリとは言えないが、恐らく幻想郷を包む結界の中の土地は内陸状態である。そもそも、人里から外へ出ることは稀だから、水と触れ合うのは川か雨の時ぐらいだ。

 

 ちなみに今焼いている魚も、川で取れた淡水魚である。

 

「んー、こんなもんかな?」

 

 焼き上げた魚を皿に移し、居間にある机に並べる。

 

 簡素な出来と二人分というのも手伝って、朝食は早々に完成する。火の勢いの凄さを改めて感じる瞬間だ。

 

「よーし、準備オッケーっと。」

 

 配膳を済ませ、親父を呼ぼうとした時、

 

 

 

コンコン!

 

 

 

「ん?あぁ、今回は早いんだな....はいはーいっと。」

 

 勝手口の扉がノックされる音を聞いて、あの人が来たと察し、扉を開ける。

 

「おはようございます、(ブン)屋さん。今回は早かったですね。」

 

「おはようございますトオルさん!」

 

 月に何回か訪れて、自作の新聞を届けてくれる聞屋さんが待っていた。新聞は有料ではあるが、人里の事をよく調べて書いてあるので、読んでいて為になる。内容も面白くまとめてあるから、初めて読んだ時から購読を続けさせてもらっている。

 

 そんな新聞記事を書いている聞屋さんだが、冬でも活動の勢いは止まらない。それ自体はいいことなんだが、若干心配である。まぁ、顔を見る限り大丈夫そうではあるが。

 

「寒い中、お疲れ様です。」

 

「いやー、寒いのは堪えますが、私の新聞が閑古鳥で寂れるのはいたたまれますからねぇ....。では、最新の『文々。新聞』をどぞ!」

 

 勢いよく差し出してきた新聞を受け取る。流し目に、新聞(いち)の見所である(いち)面を見てみると....

 

「ふむふむ....ん?おい聞屋さん、なんだこの一面は?」

 

「おや?何か問題ありましたかねぇ?」

 

「問題ありまくりだよ!?なんで一面に月を背景に俺とお燐の背中ツーショットがデカデカと飾ってんだよ!?」

 

「あやや!!トオルさん、よくわかりましたね!!個人名は伏せてあるというのに!!」

 

「『猫の妖怪』はともかく、『団子屋のTさん』って俺しかいねぇだろうが!!」

 

「あやや、随分自意識過剰ですね?誰も『人里の』とは書いていませんが....。」

 

「人里の出来事中心に記事書いてるの聞屋さんでしょうが!!」

 

「あやややや!!それはそうですが、個人名が割れたところで何も問題はないでしょう?記事も『妖怪には気をつけましょう』ってまとめてるだけで....。」

 

「『熱愛報道!』って大々的かつ達筆に書かれてるんだけど!?」

 

「いやー、我ながら上手く書けたと思いますねぇ....。」

 

「そっちに関心寄せてんじゃねぇよ!内容だ内容!!」

 

「え?我ながら『いいスクープを』上手く書けたと言ったんですが....。」

 

「ややこしいわ!!」

 

「それにしても、お燐さんが『月が綺麗だねぇ』と発言した時は、カメラ震えましたよ....。」

 

「聞いてたのかよ!?つーか、『その言葉に、男は何と答えたかは残念ながら聞き取れず....』って書いてあるけど、俺答えてないからね!?」

 

「答えてないから聞き取れない。そして、そこは読者様に想像の余地を持たせるための表現方法でして....。」

 

「誤解生む表現、ダメ、絶対!....って、もしかして文屋さん、これもう人里中に?」

 

「いえいえ、ここが始発ですよ?」

 

「....今から人里中に配る?」

 

「えぇ♪」

 

「この一面を?」

 

「はいぃ♪」

 

「....。」

 

「....♪」ニマニマ

 

「今までご購読させて頂き、誠にありがとうございました。」

 

「あやっ!?」

 

「それでは串田通の最後、『三途の川で愛を叫ぶ』をお楽しみくださ....」

 

「あやややや!!?待ってくださいっ!!本当に出て行こうとしないで下さいぃっ!!」

 

「だってこんなん配られたらもう人里歩けねぇよ....。」

 

「わ、わかりました!わかりましたから!」

 

「ついでに幻想郷中に広められたらどこにも行けねぇよ....。」

 

「もう、わかりましたから....。はぁ、残念ですが、今回の特装版はナシですね....。」

 

「そうしてもらえると助かる。」キリッ

 

「まぁ、でもこれトオルさんに渡した一枚しか無いんですけどね♪」テヘッ♪

 

「え"っ!?嘘だろ!?」

 

「嘘じゃないですよ?その面以外刷ってすらいませんから。」

 

「うわマジだよ。この面以外白紙だよ....しかもビッシリ手書きじゃんか....。」

 

「インスピレーションとは罪なものです♪」

 

「本当にな....。っと、長話し過ぎたな....聞屋さん大丈夫か?配達遅れそうか?」

 

「いえいえ、そんなことはありません。幻想郷中に配る位なら、そう時間はかかりませんので。」

 

「そうか。」

 

「あー、でも、ちょっと体が冷えましたねぇ....(チラッ)誰かさんが私を引き止めたばっかりに....(チラチラッ)。....ねぇ?」チララッ

 

「....なら朝飯食ってくか?そんなに量は無いけど、暖くらいなら取れるぞ。」

 

「ではではお言葉に甘えまして、止まり木で羽休めとしましょうか♪」

 

 

 

青年朝食準備中....

 

 

 

「おっ!今日は聞屋の嬢ちゃんもいるのか!賑やかだねぇ!」

 

「お邪魔しております!」

 

「全くだ。賑やかすぎて困る。ほれ、とっとと食べて配達行ってこい。」

 

「邪険ですねぇ。邪魔を誘ったのはトオルさんでしょうに。」

 

「そんな事言ってもなぁ....(カラス)は追い払うもんだろ?」

 

「天狗でもありますからね?あんまり邪険だと吹き飛ばしますよ?」

 

「この店ごと?」

 

「おいトオル、俺を巻き込むんじゃねぇ!」

 

「いえいえ、親父様の作る団子は美味でありますから、そのような事はしませんよ。精々トオルさんに都合の悪い真実を人里中に吹き飛ばすまでです♪」

 

「余計にたちが悪いわっ!!」

 

「それではお手を拝借....いただきますっ!」

 

「いただきます。」

 

「あっ!俺の大事な役目をぉぅいただきます!」

 

 

 

青年少女中年朝食中....

 

 

 

「あや〜♪ホカホカですねぇ〜♪」

 

「生姜が効いてるみたいだな。」

 

「えぇ、今日は寒さの心配は無さそうです。」

 

「そりゃ良かった。んじゃ、配達頑張れよ。」

 

「あやや、別に頑張る程の物でもありませんよ。好きでやってる面が大きいですから。」

 

「そうかよ。あー、ほれ、握り飯持ってけ。朝の余りもんだ。」

 

「あやー、助かりますねぇ。」

 

「お、もう行くのかい嬢ちゃん?」

 

「えぇ、早朝の内に済ませないと、スクープを撮り逃がすやもしれませんから。」

 

「そうか!んじゃ、購読料とサービスの団子だ。腹が減っては気力も湧かねぇからな!頑張れよ嬢ちゃん!」

 

「お気遣い痛み入ります。それでは、次の『文々。新聞』をお楽しみにっ!!ではっ!!」バササッ!!

 

「....ふぅー、なんだか朝から嵐に吹かれた気分だ。」

 

「眠気も吹っ飛んだろ?」

 

「眠気なんて空の彼方さ。それに、元気を貰いすぎた位だよ。さっさと仕事に使わないと勿体ねぇわ。」

 

「全くだ。んじゃ、客席の準備は任せたぜ。暖簾はいつ掛けてもいいからよ。」

 

「あいよー。」

 

 

 

 こうして、二人の商う団子屋、『梅枝』の朝が始まるのであった....。

 

 

 

 

 

■■■

 

 

 

「ふふ、いい収穫を得ました。幸先はいい模様です♪」

 

 冬の空を切り裂きながら、幻想郷を飛翔してまわる。実のところ、能力で寒さなど大した問題では無いのだが、体中に巡る温かさは、なにやら感傷に触れるものがあった。

 

 その幸福感に当てられた為か、ふと思いつく。

 

「しかし、あの味噌汁はいいですねぇ。冬にピッタリです。団子屋のサイドメニューとして売り出せば、なかなかの収益になるのでは?」

 

 新聞という、強力な宣伝の力を使えば、あれを商品として売り出すのは容易だ。しかも、私のお墨付きである。人気こそ客次第だが、盛況にはなるだろう。

 

 『これもまたスクープになる。』そう思い至り、メモにペンを走らせようとするが....

 

「いや、やめておきましょう。せっかくのスクープてすが、このネタは独り占めしておきたいですからね♪」

 

 他利益より自己利益を優先させ、公開を止めておく。だが、ペンを止めることはなく、きっちり詳細を書き留め、最後に『秘匿情報』とまとめた。

 

「さてさて、早く終わらせてまたスクープを集めねば。」

 

 そう言って飛ぶ速度を早めた。もはや人の目では視認すらできない程の速さで移動し、あっという間に配り終える。

 

「さって、集金は後日にして、トオルさんを陰から密着取材と参りましょうか♪」

 

 パンパンと手を打ち鳴らし、取材の姿勢へ切り替える。その眼の向く先は人里の方角。

 

「トオルさんは人間ながら、賽銭異変や妖怪と、多岐に関係を持ちますからねぇ....あれ程のスクープの源は、新聞報道者として見過ごせませんよ。」

 

 そして、カメラを構え、人里全体をフォーカス....そして、

 

「今日はどのような出来事が起こるか、楽しみですねぇ♪」カシャッ

 

....最終的に団子屋『梅枝』を画面に収め、シャッターを切るのであった。

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