「あ、ありがとうございます。助けて頂いて…。」
俺の脇に腕を通して落ちないよう支えてくれているはたてさんに、きちんと礼を言っておく。今生きているのははたてさんが助けてくれたお陰だからな。言っておかないと後悔しそうだし。
「いいのいいの!気にしないで?困った時はお互い様でしょ?」
「まぁ、今回は一方的に助けられた気がしますけど…。」
「あはは、そりゃーまぁ、そうなるわね…。というか、今アンタに死なれると困るし…。」
「え?何か言いましたか?」
「いっ…いやいや、何でもないよ〜何でも〜…あははー…。あ、そうそう!!ここで合ったのも何かの縁。近くに私の仕事場があるからさ、ちょっと休んでかない?」
「仕事場…ですか?」
「そ。私達天狗がそれぞれ個人で新聞作って発行してるのって知ってる?」
「え、えぇまぁ。聞屋さんが持ってくるのは読んでますけど。」
「そうなんだ!…って、え?ブ、聞屋?それってもしかして…?」
「ええ。射命丸さんのを購読してますけど…。」
「よ、よりにもよってあいつの読んでるの!?目が腐るわよ!?」
「えっ!?いや確かに変な誇張があったり、主観バリバリの記事だったりしますけど、腐る程ではないと思いますよ!?」
「ぐっ、見るやつはきちんと見てるって訳か…。」
「ど、どうしたんですかはたてさん…?」
「フフフ、でも今に見てなさい。今私は妖怪の山で話題の新聞記者よ。アイツの記事なんかすぐにブチ抜いてやるんだから…。」
「も、もしもーし?」
「まぁいいわ!!とにかく、私の発刊する新聞『花菓子念報』の方が、あんな新聞なんかより購読したくなるって事、分からせてやるから!!」
「えっ!!ちょっ、待…っ!!雛さんにお礼を…っ!!」
「まずはその手始めに、アンタからネタを根こそぎ奪って、記者の頂点に立ってやるんだからぁぁぁ!!!」
「は、はやっ!?い、息が…ぎ、ぎゃあああァァァァァァ!?」
ギュウウウウウウウウウウン!!!
■■■
「さ!着いたわよ!…って、どうしたの?げっそりして?」
「し、死ぬかと思った…。」
もう本日3度目の絶体絶命な体験をして、心も体も疲れ切っているのか、今の顔色はかなり悪いようだ。
「まったく、あんなんじゃ死なないわよ。それなりにスピード落としてたんだから…。」
「つ、次からはもう少しゆっくりお願いします。」
「わかったわ〜。」
「…はぁ。」
(うーむ、雛さんにちゃんとお別れの言葉言えてなかったな…次合うときもお酒持っていくか…。)
唐突な救出劇により、損なった礼儀を埋める方法を思案する。
そして、体を回る気持ち悪い感覚を抑えながら顔を上げ、"仕事場"とやらを見てみると…。
「あれ?ここが仕事場なんですか?」
「うん。そうよ?なにか変?」
「変…っていうか…家?」
目の前に建てられていたのは1軒の掘っ立て小屋。仕事場というには粗末すぎるし、何より生活感が漂いすぎている。
(表札に『姫海棠之家』なんて書いてあるし、確実に家だよなコレ…。)
と、明らかに怪しんでいると、
「ん?そうよ?ここは『私の家』兼『仕事場』なのよ?」
「は、はぁ、仕事場っていうから、もっと大きな施設かと思ったんですけど…。」
河童の技術がぎっしり詰まった機械がデーンと置かれていて、吐出口から新聞がポンポン出てくるような光景が見れるのかと思ったんだが…。
「あー、それは別の場所。私はここで全てこなしてるからさ。」
「え?ここで?」
「そ。私はこの携帯で新聞の一から十まで作れるからね。」
「が、ガラケー?」
はたてさんの持ってたそれは、スマホが流行る前に流通していた携帯電話、『ガラパゴス携帯』だった。
「え?何そのガラケーって?」
「いや、何でもないです…。」
(河童の技術ってもうここまで来てたのか!?外の世界に追いつくの時間の問題だな…。)
聞屋さんのカメラもかなりの技術で出来ていたが、携帯となると必要とされる技術力は飛躍度を増す。
(すこし…いや、スマホの解析をされたのはかなり不味いのでは?)
技術というのは停滞はあっても後退はしない。前進するための目標を河童に与えてしまったことを、ちょっと後悔していると、はたてさんが話しかけてきた。
「そう?まぁいいけど、立ち話もなんだし入ろうよ?聞きたいこともあるし。」
「え、ええ。まぁ…。」
生返事になりながらも、はたてさんの家へお邪魔させてもらう。
「…あれ?意外と普通…?」
玄関を抜けると、一枚のドアを挟んで個室があり、その内装は外観からは想像できないほど綺麗で、きちんしと女性の部屋らしい様相を呈していた。
「それ、どういう意味?」
「いや、外の見た目とのギャップが凄くてビックリしただけです。」
「まぁ、内装だけは河童に無理言って作ってもらったしね。」
「はぁ…。」
「ま、これも技術の賜物って奴かな?あ、そこらへんに座って待ってて。お茶でも出すから。」
「ど、どうも。」
そうして、はたてさんは窓側にある河童印の入ったコンロを使って、お湯を沸かし始めた。
(…む、むう、なんだか落ち着かない…。)
女の子の部屋に居る…というのもあるが、初対面かつ助けてもらった上に休ませてもらうという、この待遇を受けていることを受け入れられずにいるというべきか。
(なんというか…お互いの距離感が違うというか…。)
はたてさんとは初対面であるにも関わらず、何故かはたてさんはやたら好意的に接してきている気がする。
(うーん…俺が警戒しすぎているのか…?)
はたてさんが元々こういう性格なのかもしれない。そんなことを考えていると、
「あ、そういやアンタ、名前なんていうの?」
「え、
「ふーん…。」
ピッピッピピピ…
それを聞いたはたてさんは何やら携帯に文字を打ち込んで、
「うわ。ビンゴだわ…。」
「え?」
「いやいや、何でもないわ〜!もう少し待っててね〜?」
「は、はぁ…。」
「…っし!!これで画像の精度も跳ね上がる!!更新速度上昇で売上爆上がりだわ!!」
「な、なんだか独り言が多いなぁ…。」
ガッツポーズを取りながらボソボソと何か意気込んでるはたてさん。何か怪しい…とは思うものの、助けてもらったのは事実だし、今は好意に甘えておこうと思い、ふと暇潰しに部屋を見回すと…。
「ん?これは新聞…?」
机の端に置かれていた新聞に目が留まる。
「『花菓子念報』…確か、はたてさんが書いてる新聞だったよな…。」
特にやることもないので新聞の一面を読もうと目を通す。
と、
『外来人、春告精に春を囁く!!一体この男はどれだけ手を出せば気が済むのか!?』
「な、なんじゃこりゃあああ!!?」
紙面にデカデカと、ゴシック体で題された文面に驚愕する。そしてこれが証拠だと言わんばかりに撮影された俺とリリーの写真が載せられていた。(なぜか俺の方は目線が入っている。)
「どうしたの!?いきなり叫んで…!!」
「どうしたもこうしたもあるかぁっ!!これは何だよ
「あっ、やばっ!!?」
机を威勢良く叩き、例の一面をはたての前に突きつける。その剣幕を目にしたはたては動揺の色を見せた。
「と、トオル…もしかしてそれ…見た?」
「おう。バッチリと大嘘と誇大表現で塗りたくられた紙面をなぁ!!」
「…ふっ、そう…。見てしまったのね…。そうよ!いま妖怪の山で天狗の目を掻っ攫い、いずれ幻想郷に新たな風を呼ぶ新聞とは『花菓子念報』がお送りするシリーズ新聞!『外来人の恋想記』の事なのだぁ!!」
ビシィィッ…!!とカメラと新聞を手に決めポーズを見せつけてくるはたて。どうやら開き直っているらしく、渾身のドヤ顔を見せつけてくる。
「お、おい、もしかしてこういう記事をもう既にたくさん書いてきたっていうのか!?」
「えぇ!!もう次で記念すべき70刊目よ!!」
「大人気シリーズじゃないか!?」
「もう発刊し始めてかれこれ一年が経とうとしてるからね!!夏になれば私の新聞修行が実を結び、幻想郷中で『花菓子念報』が売り込み可能になって、万人に読まれる時代が来るわ!!」
「えっ!?人里にも!?」
「もちろん!!むしろ人里には集中的に購読してもらって、『文々。新聞』よりも『花菓子念報』が良いってことを知ってもらわなきゃいけないからね!!」
「うおおおおおお!!肖・像・権!!」ポカッ
「いだぁっ!!な、何すんのよ!?」
「そんなことしたら俺が人里に住めなくなるでしょうがっ!!」
「と、トオルの犠牲は無駄にしないわ!!というか、そうなってくれた方が色々ハプニング起こしてくれそうでネタに困らな…」
「
「っーーーたぁっ!!もう、その拳骨けっこう痛いからやめなさいっ!!」
「ってか、この写真どこで撮ったんだ!?あの場にはたていたのか!?」
「ふん!聴いて驚きなさい!!私の能力は『念写』!!どんな場所の光景だろうと、この携帯に収めることができちゃうの!!」
「プライバシーの侵害っ!!」
「ぷらい橋が何か知らないけど、この能力のお陰でトオルの行動は全て筒抜けなのよ!そしてこの写真は紛れもない真実を映し出した写真!!誰にも文句はつけられないわ!!」
「書いてあることは全く違うんだけどな!?」
「『文章は写真に劣る。』写真さえ事実なら、多少の虚飾も通ってしまうのが新聞の恐ろしい所なのよ!!」
「…うん。まぁ確かに文章はすごく読みやすいし、俺じゃなかったらバレないくらいだけど…。」
一面にデカデカと飾られた写真に気を取られて読んでいなかったが、よくよく記事を読んでみると、嘘しか書いていないが中々読ませてくれる文章になっていた。
「でしょでしょ!?取材とかは面倒だしやらないけど、こういう想像を元にした文章を書くのは得意なんだから!!」
「記者失格案件勃発!?」
「何よ!!確かに新聞としちゃ、ちょっと方向性がずれてるってのは認めるけど、こう、『個人の秘密を覗き見ている感覚がたまらない!』って好評なんだから!!」
「もうそれパパラッチじゃねぇか!!」
「な、なんとでも言うがいいわ!!とにかく人気があるのは事実!!恋愛という浮世話が流行らない道理はない!!いざ、70刊目の新聞へ!!『外来人、厄神様に愛を叫ぶ!!』…。」
「うおおおおおお!?や、やめろぉぉぉ!!!」
「そこまでです!!はたてっ!!」
「あ、文っ!?」
「ぶ、聞屋さん!?」
「はーい二人とも笑って笑って〜…ハイッ、ピーチュン!!」カシャッ
「「えっ!?」」
ピピチューーーン!!
□□□
青年&少女復帰中…
□□□
「さてと、お二方とも、落ち着きましたか?」
「「はい。」」
「はぁ、なにやら騒がしいと思って来てみれば…はたて、トオルさんに多大な迷惑をかけているそうじゃないですか。」
「うっ、で、でもほら、目線入れてるしバレはしないって…。」
「春告精の後ろに団子屋の暖簾が見えてますよ?」
「あっ…。」
「特定されてるじゃん…。」
「はたて、あなたの文章は確かに惹かれるものがあります。そこは認めましょう。しかし、我々天狗は幻想郷の歴史を見つめ、記録する者でもあるのです。妖怪の山という社会に身を置いている以上、それは守っていただかなければならないんですよ。」
「うう…、わかってるん…だけどさぁ…。」
「あ、あの、聞屋さん?」
「あや?なんでしょうトオルさん?」
「いや、天狗って新聞以外の仕事ってないのかなぁ〜って、思ったんだけど…。」
「ふむ…まぁ、あるにはありますが、烏天狗として生まれた以上、身体的性能として分類された役割は先程のようなものになります。…が、どうしてそんな事を?」
「はたてってさ、多分古来から続く新聞のあり方や理念とは離れた能力が秀でてるんじゃないかって思うんだよ。現場主義には向かない能力だし、文章の内容は事実に基づかない自由な表現が得意だし…なんかもう、生まれがはたてを縛っちゃってる気がするんだよなぁ…って思ってさ…。」
「…まぁ、その点で見たら、そうかもしれませんねぇ…。」
その意見は一つの参考として取っておきましょうか、と一息入れて、『ですが』と、続ける聞屋さん。
「生まれに身を任せるのも時として大事なものです。それに、トオルさんの見方はある一面で見たときの意見に過ぎません。」
「はたての能力なら、多角的に写真を撮ることができます。しかも到底不可能な視点からでもです。私にとっては、その能力がとても羨ましく思えます。それを楽するためだけに使ってる貴方が情けなく映ります。」
「だから、その…なんでしょう…。う、うだうだ言ってないで、私と同じ土俵に立って勝負なさい!!ライバルなのでしょう?私達は!!」
「…わかったわよ。外に出ればいいんでしょ。出れば!」
「あやや!!?これは大事件です!?明日は嵐ですよきっと!?」
「なんで説得したほうが驚いてるんだよ!?」
「いえ、いつもはこんなこと言っても『いやよ。私は私のやり方でやるわ。』とか言って全然重い腰を上げないんですよ!!それが普通に立ったんですよ!?大天狗様も鼻が折れますよコレ!?」
「う、うるさいわねぇ…。気が変わったのよ。」
髪をくるくると指先でいじりながら、気まずそうに話し始めるはたて。
「念写で記事を書くのも良いけど、それじゃあ私は変わらない。何もわからないまま。実際に会ってみなくちゃ、分からないことが沢山あるってわかったからね。」
そしてはたてはこちらを見て言う。
「今まで『外来人』って呼んでた人は、会ってみたら『トオル』だって知ったように、ね?」
「…そりゃどうも。」
ニカッと笑うはたてに呆れつつ、素っ気無く返事をした。
「あーあ。でも流石にここまでバレたら、このネタで人里には出せなさそうだし、トオルの記事は妖怪の山だけの特別発刊にとどめておくことになるわね〜。」
「そこは撤廃してくださいはたてさん。」
これ以上根も葉もない記事を書かれるのはゴメンだよ!!
「何よ!烏天狗の中で一番にトオルに目をつけたのはこのアタシよ?本当は私がトオルのネタ独り占めしてもいいくらいなんだから!」
「ほう…それは聞き捨てなりませんね。私を差し置いて『最速』を名乗るとは…。」
「じゃあ文はどのくらいから目をつけてたって言うのよ?」
「去年の夏の初めでしょうか。永遠亭の居候が増えたと聞いて取材したので…。」
「あー、永琳さんの手伝いしていた時に一度来てたよな。何刊か新聞押し付けられて、その新聞を読んで初めて人里の存在を知ったんだけども。」
「ふっ、それならこの勝負、私の勝ちね!!」
「なっ、なんですって!?」
「ほら、去年の春の終わりに撮れた、トオルが無縁塚で毒人形と遊んでるこの写真が証拠よ!!」
「うわっ!?これ幻想郷に来た時のだ!?」
写真には確かにおままごとをして遊んでいるように見えるが、実際は幻想郷の事を事細かに聴いているうちに色々取り出して問答を繰り返していただけである。
(まぁ、その途中で毒で倒れたけどな…。)
去年の事を思い出していると、文さんが驚愕の声を上げていた。
「な、なんと…私の情報発見速度を上回るなんて…。」
「ま、これは偶々だけど、この写真から『この人間。怪しいっ!!』って目星をつけた私は、きっとネタを見つける才能があるってことよ!!さぁ文!私が外に出て情報収集するからには、アンタの新聞潰す勢いで書いてやるんだから!!」
「くっ、これは…寝た子を起こしてしまったようですね…。しかし、これは私も競い甲斐があるというもの!受けて立ちましょう!!」
「す、すごい熱気だ…!!」
「あ、そういえば文、さっき念写してて気づいたんだけど…。」
「はい?何でしょうか?」
「なんでメモ帳にトオルの写真挟んで…」
「スペカ照射アアアアアアア!!!!」*1
「えええええええええええ!!?!?」
ピピチューーーン!!
■■■
「あっててて…。腰が痛いぃ〜。」
気が付いたら体が木の枝に引っかかっていた。どうやら文のスペルカードの力でここまで飛ばされていたらしい。
「いくらスペルカードの効果じゃ死なないからってやりすぎは良くないだろ…。」
スペルカードを使用した決闘の勝利条件は、力の強さではなく美しさが判定基準である為、スペルカードに殺傷能力は無い。二次被害も出ないようにルール付されているらしいが…。
「気絶してた間の姿勢による腰痛は保証されないのか…。」
使用が終われば効力も消えるらしいので、その後の3次被害は関係ないのだそう。
「というかもう日が暮れそうだな…。」
石階段を登りながら、地平線の方へ目を向けると、夕陽が空を橙色に染め上げていた。
「夜になるともう命は無いらしいしなぁ…。」
妖怪の山はその名の通り妖怪の巣窟。夜は確実に妖怪が蔓延る危険地帯へ変貌する。今でこそ日が照らす内は襲われないが、親父が子供の頃はどんな時だろうと立ち入りを禁止する程だったという。
「うーむ、これだと日帰りは無理っと…。」
さすがに今から賽銭入れて帰るってのは無謀すぎるので、このまま神社に厄介になろうと考えていると、
「お、やってるやってる。」
石階段を登り終えた先に見えるのは、箒を手に境内を掃いている巫女が一人いた。
「よっ、早苗。正月以来だな。」
と、そんなふうに声をかけると、緑色の長髪がくるりと翻り、これまた緑色の双眸がこちらを捉えて見開いた。
「うえぇっ!!?トトトット…トオルさん!!?」
突然の来訪によほど驚いたのか、なぜか後ずさりする早苗。なにやら警戒されているようだが、こちらはもう帰るという選択肢は無い為、早苗に向かって頭を下げ、言う。
「今日、守矢神社に泊まらせてくださいっ!!」