夕陽がステンドグラスに差し込み、洋館の広間を赤く妖艶に染め上げている。それに呼応するかのように、レミリアの瞳が爛々と光る。対峙する俺に向かって足を組み、手を顎に当てて、まるで見透かすかのように覗き込んで、言った。
「ふふふ、ようやく対面できるとはね、いくつもの宵闇を越えて、惰眠を貪ることに飽きた頃に、偶然にも運命の針はこの時を定めて私達を導いた....さぁ、始めましょうか?運命に逆らうのも反逆的で悪くないけど、疲れてしまっては意味が無いから....」
「うん。唐突に面倒臭い台詞をいちいち咬ますのは止めようか。」パシッ
だがこんなシリアスな雰囲気は、俺には合わないからな。最初に会ったときにも同じような目に遭ったときに見つけた弱点、それを使えば....
「ああっ!?帽子取らないでっ!?私が悪かったから返してっ!!」
「相変わらず帽子取られると、弱気になるのな。」
そう、レミリアは自分の帽子を取られると、異様に弱気になって涙ぐんでしまうのだっ!!
「そ、そんなことはいいから返しなさいっ!!」
口調も弱々しくなるのでお耳なおしにはちょうどいいのである。まぁ、このままだと話が進まないので、返すことにするけどな。
「はいはい。」ポスッ
そうして帽子を返すと同時に、先ほどの弱気なレミリアはどこへやら、口を三日月の様に歪ませ、ニタニタと笑みをこぼし、両手と羽を大きく広げて叫んできた。
「....フフフ、私の陰謀に哀れにも掛かったな....」
ステンドグラスを背に乗せて、逆光の中を漂う赤い双眸は、まさに狂気と恐怖を体現するかのような光景であったが....うん。やっぱりうざいのでジャンプして帽子を取ることにしよう。
「ふん!」パシッ
それと同時にレミリアから覇気が消えていった。
「ああっ!?ごめんなさい!!それがないと落ち着かないのお願いだから許してっ!!」
「じゃあ、さっきまでの話し方止める?」
「やめるっ!!止めるから返してっ!!」
「全く....」ポスッ
「ククク....」
さすがに泣きが入りそうだったので返したらこの様である。レミリアの目はスウゥ....っと閉じられ、額に片手を押し当て、まるで神の宣告が目の前でありありと起こって、自分でも受け入れられないような現実を見てしまったことを後悔するように....疑った自分を嘲笑するように、高らかに笑い始めた。
「....クハハッ!!二度も同じ運命の悪戯に乗せられてしまうとは、予定調和と言えど実に嘆かわし....」
「....」スッ
「ごめんなさい。勘弁してください。お願いだから許ししてぇ....」←(レミリアガード)
「はいはい、わかったから顔あげろ。」
....いやぁ、吸血鬼の弱点ひとつでここまで変わるんだなぁ....
「むぅ....久々の客人なのだから、丁重にもてなそうとしただけなのだけど....気に入らなかったかしら?」
「当然。」
流石にあのよくわからん中二病チックな台詞を脳内で現代語に訳すのは骨が折れるから勘弁願いたい。
「そう....残念ね。」
そういって肩を落とすレミリアに対し、俺はやっと話がまともに進むと、安堵の溜め息を打って、
「ところで、何か用があるんですか?」
今回の自分に対する用件を聞いた。
「いえ、ちょっとね....フムフムなるほどね....やっぱりあなただったの....」
と、俺の質問には返事をせずに、チラチラと眺めていたレミリアは、どこか納得の言ったような顔をしてうなずきそう言った。
「な、何か分かったんですか?」
「えぇ。ハッキリと。会えて確信を得れたわ。あなた、最近新しい事し始めたでしょ?」
「え?あぁ、はい。」
まるで占い師のように事実を言い当てるレミリアに、少なからずの気持ち悪さを感じた俺は....
「それが貴方の運命を....いえ、幻想郷の運命すら揺るがす....何かしらその手は?」
「いや、そろそろストップをかけた方がいいかなと....」
帽子を取って、取り敢えずリセットを試行しようとした。
「今は真面目に話してるわ、その手を引きなさい」シッシッ
「えぇ~。」
どうやらレミリア本人は至極真面目だったようで、俺の手を余裕の表情であしらっていた。
「では改めて、その行為は、貴方の運命どころか、幻想郷の運命をも変えるようなことよ。一人の行動がここまでの影響力を持つのはかなり危険な状態だわ。気を付けることね。」
「ど、どうしてそんなことが言えるんですか?」
「私は"運命を操る程度の能力"を持っているからよ。」
「そ、そうだったんですか....」
「あら?納得してないかしら?」
「まぁ....俺には運命とか見えすらしないし....」
「馬鹿ね。運命なんて見るものじゃないわ。その人の周りの歪みや直感で感じるものなのよ。」
「余計にわからない....」
「ま、わからなくて当然だし、自分の意思で決めたことが、常にレールの上だなんて、考えもしないでしょうしね。」
「そうなんだ....」
色々説明されたが、似たような能力を持っているわけでもないので、能力の壁という事にして理解を一時放棄した。いやだって全然わかんねぇし。臭いものには蓋をしとけって言うだろ?あれだよ。
「そうよ。ま、今のところ貴方の運命は面白い事になっているわね。私の妹の運命にまで影響を与えてくれたんだから。」
「妹....ああフランちゃんか。でも俺は団子あげたこと以外特に何もしてないぞ?」
そんな俺をみて、レミリアはニヤニヤした顔で返す。
「フフッ、貴方にとってはそうかもしれないけどフランにとってはそうでもなかったみたいよ?」
「....そうなのか?」
「....はぁ....本当に分かってないのね?貴方にとっては当然の事かもしれないけど、少なくともフランにとっては大きな出来事だったみたいよ?さっき咲夜に先回りしてつれてきてもらったけど、フランの運命は今までのとは違ったものに変わっていたもの。」
そういって、妹を思い浮かべているのだろうか、レミリアは顔を少し下げて目を閉じてしまった。
「ふーん。ま、よくなっているといいな。俺にはわからんが。」
「そうね。私も運命の詳細までは知れないけれど、大体の傾向なら経験則でわかるわ。フランの運命は少なくとも良好に変化したわ。」
「ま、ならいいんだけどな。で?俺はそんな風に大きく運命を変えてしまうようだけど、なにも対策しなくていいのか?」
そう、問題はフランではなく、先ほどの発言にもあった俺の運命による幻想郷の運命の変化のことが、俺には重要に思えたんだが....
「馬鹿ね。私が安定を望むとでも?むしろ妖怪は常に幻想郷の運命に影響を与えて、変化させているわ。あなた一人の影響なんて一時的。」
「なら....」
問題ないじゃないかと続けようとした俺の口を、指を唇に限界まで近づけて止める。
同時に、レミリアの赤い瞳を凝視する形になってしまい、眩暈が起きるような赤い瘴気に晒された。
「でもね?人間でここまでの影響を与えるのは、例が少ないの。それが、私が貴方を呼んだ理由。貴方の運命を私に刻んで、その先をしっかりと見つめるためよ。」
まるで、愛の告白をされているような、吸血鬼らしい優美な笑みをふくんだレミリアに、しっとりとした雰囲気の中で言われた理由を聞いて、思わず息を呑んだ俺は....
「....っえいっ!!」パシッ
「きゃぁっ!!?返してぇ!!返してよぉっ!!うーっ!うーっ!!!」
....耐えきれなくなってレミリアの弱みに逃げたのであった。
◼️◼️◼️
「まったく、俺の何が運命を変えるんだか....」
あまりの出来事に現実を受け止めきれなくなって逃亡しちゃって、廊下を肩を落としながらふらふら歩いていた。
しかし、その足はとある方向に意識を向けているようで迷いがない。自分でもなぜこっちにいきたがっているのかは分からなかったが....久々に会うからと、大図書館の方へもう向かっていった
「さて、久々に図書館によって目新しいものでも探すかねぇ....」
~青年移動中~
....コンコン
小刻みになるノックの音に、小悪魔は今まで集中していた作業に横槍を入れられたような不快感と同時に、悠久の時を過ごしたような怠惰感に刺激を指すような好奇心に駆られて、扉を開ける。そこには....
「よっ。小悪魔。久しぶりだな。」
一人の青年がたっていた。
「....えぇ♪久しぶり~....じゃねぇよぉお!!!」
....さっきの不快感と好奇心は怒気に変わって、小悪魔は目の前の男を吹き飛ばしていた。
「こ、小悪魔さん。なぜにいきなり全力ラリアットかましてくれるんですか!?」
「あ"あ"!?おめぇ何ヵ月ここに来てないと思ってんだよ!?言えやコラァ!!」
「ちょちょちょっ!?ちょっと待って!!最初にあったときは....」
「あっ....初めまして。私、ここの図書館の司書的役割を持っております。」
「と、軽くお辞儀していて接しやすくて数日後....」
「へぇ~トオルさんこんな本読むんですか?ならこの本とかどうです?」
「....っていってたのに今では....」
「んな事どうでもいいんだよ!!さっさと行くぞっ!!」ガシッ
「どうしてこんな悪魔的な物言いに....って襟首掴むなっ!!ちょっ!何処へ連れてくの!?痛いっ!!尻とかが主に痛いからっ!!」ズルズルズル~
悪魔の力に到底敵わない俺は、引きずられるのには適していない床を仕方無く進むことになるのであった。
~小悪魔&青年移動中~
読書は....冒険だ。
本の中には幾つもの道や家、人がいて、技術があって、何もかもが経験できる世界。ある世界では魔法が主流の世界で、ある世界では科学技術が発展した世界。中には自分の世界の技術を細かく検証し、高性能さを誇示するものだったり、思想を伝えるために言葉巧みに心に訴えかけるものだったり....
様々な本が現れ納められるこの大図書館....そこには、大きすぎる本の幻想世界と、小さすぎる小悪魔との現実を歩んでいた。
....そう、あのときまでは....
どおおおおおおおおん!!!
「パッチュリィーーー様ァ!!!あの男がノコノコと愛の巣に帰って来やがりましたよぉ!!」
「....。」
「待ったァア!!いつここが愛の巣になったんだよ!?」
「あ"あ"!?オメェラここでずっとイチャイチャヌチャヌチャしやがってぇ!!それ聞いてるこっちの身にもなれよ!!」
「....む」
「だから待てやぁ!!誰がそんなことしたよ!?感想言い合ったりしただけじゃねぇか!!」
「それがパッチュリィー様の
「....む、むきゅ」
「お、おまっ....そんなこと言ったら今俺たちの口論もそれになっちゃうだろうが!!」
「私たちにとっての
「むきゅーーーっ!!日符『ロイヤルフレア』!!!」
「あああああああああああっ!!?パ、パチュリー様ァ!!?」ピチューン!!!
「....あ、ありがとう。パチュリー。」
「....えぇ、うちの馬鹿が迷惑かけたわね。」
そういって、パチュリーは本に視線を落とす。
「....。」
「....。」
そうして静かな時間が少したって、俺が会話のタネを出す。
「じゃ、じゃあちょっと本見てくるな?」
「....お好きにどうぞ。」
「....。」
「....。」
そしてまた静寂が訪れる....。
「あ、あの~。パチュリー?新しい本流れ着いてたりしてないか?」
「さぁ?」
「....。」
「....。」
「あの....パチュリー?まさか怒ってるか?」
さすがの静寂に耐えきれなくなって俺は切り出した
「....怒ってなんかないわ。」
「そ、そうなのか。ま、まぁ、それならいいんだけど....。」
「....。」
「....あ、あのさ、来れなかったのは悪かったけど、こっちにも団子屋とか色々あってだな....」
「....そう。」
「あ、あのさ....」
そういって、パチュリーと目を合わせようとすると....
「....!!」バッ
「....え?」
本をかざして、パチュリーが俺の視線を遮る。
「ちょっ....パチュリー?お前そんなんだったっけ?」
「....!!」バッ
「ちょっ....」バッ
「ーーーっ!!」バッ
ようしわかったチキンレースといこうじゃねぇか!どっちが先におれるかなぁ!?
バッバッ....バババッ!!....バババババッ!!
「はぁ....はぁ....」
「ふぅ....ふぅ....」
視線を遮ろうとするパチュリーと、パチュリーと目を合わせようと動く俺の攻防は互角に終わり、双方息も絶え絶えになっていた。
「な、なぁパチュリー....こ、このぐらいにして....」
そうしてパチュリーの方を見ると....
「....ぅぅ....ゴホッゴホッ....フゥ....」
「だ、大丈夫か!?」
急にむせ出したパチュリーに駆け寄り、肩を抱いてさする。
「あっ....」
「ぜ、喘息の発作か!?ゆ、ゆっくり息して....」
「....。」
「え、あ、治まったか?」
「....だ、大丈夫だから....」
顔をそっぽ向けて俺の手を払い除けようとするが、力が入っていないのか、パチュリーはその手に触れるだけで....
「パ、パチュリー....」
「....と、トオ....」
(い、意識してしま....)
「てめぇらやっぱりイチャイチャしてんじゃ....」(←復活)
「「日符『ロイヤルフレア』!!!」」
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あっ!!?」
◼️◼️◼️
「じゃ、じゃあまた寄るわ。できるだけ来れるときに来るようにするからさ....」
「そ、そうね。小悪魔がこれ以上おかしくならないように....」
「次来るときは小悪魔どうにかしといてくれよ?あのテンションだとゆっくり話もできねぇ。」
「わかったわ。次はちゃんとした小悪魔連れてくるから....」
「小悪魔ってたくさんいたの!?」
「ふふっ。いるわけないじゃない。」
「だ、だよな。じゃ俺はこの辺で帰るわ....」
「そう....あ、ちょっと待って。」
そう言うとパチュリーは引き出しから何かを取り出してトオルに投げ渡す。
「....これは?」
「ま、ちょっとした香料よ。今日の貴方、ちょっと獣臭かったし。」
「え"っ!?マジか!!」
「えぇ。襲われないか心配だったわ....」
「んな事しねぇよ!?」
「....そう....ま、とにかく使ってみたら?あなたに合うと良いけど。」
「....そこまで言うなら使ってみるわ。ありがとな。」
「....じゃあね。」
帰っていくトオルの背中を見ながら手を振るパチュリーに小悪魔が囁く。
「パチュリー様他の女の匂いがしたからって、自分の好きな香水渡すなんて、ちゃっかりしてますね♪」(←黒焦げ)
「....からかうのもほどほどにしないと、本当に契約破棄するわよ?」
「そ、それだけは勘弁してくださいよぉ!!」
◼️◼️◼️
「はぁ....すっかり夜も近くなったぜ....」
「お疲れ。まさかひとつも残らないとはな。こりゃ縁起がいいぜ。」
「まったくだな。商売人冥利につきるぜ....」
「んじゃ、明日のために掃除と下ごしらえだ。今日は手伝えるよな?」
「おうよ!」
そうして団子屋の夜は更けていくのであった....