ハイカラナワバリ禄   作:ナナシのG愛好家

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久々にさらっと投稿。覚えてる人いるのかな?もうUAの確認とかもしていない。


精密狙撃を駆け抜けて

「それが作戦って……オマエ正気か!?」

 

 僕が話したことに、ランク12の人がそう言う。けど僕はいたって正気だ。それに

 

「これくらいやらないと、あの人には届きません!!」

「まぁそうだろうね。これだけやって勝てるかどうか、というのは少々虚しい話ではあるが。」

 

 やれやれだよ。とランク17の人が肩をすくめる。

 

「まぁ、やってやろーじゃん!!」

 

 僕と同じランク1の人も、やる気みたいだ。よし、行ける!!

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《同時刻 ハイカラシティ ロビー 観戦エリア》

VIPラウンジ。ハイカラシティのロビーには観戦エリアがあり、そこから好きなフィールドの試合を眺めることが出来るのだが、中でもエラ茨田もの太刀しか入れない場所がある。そこがVIPルームだ。例えば、シオカラーズの様な超人気アイドル、例えば、この街でトップクラスの売り上げを稼ぐ商売人たち。そして例えば、この街に10人しかいないランキングS+カンストのトップランカー達。そんな超が付くほどの有名人が集う場所で、オーロラヘッドフォンを首から下げた女性が、大型モニターに映る試合を見ていた。

 

「ほう……」

 

 興味深げに笑みを浮かべる彼女に、

 

「また恒例の光り物探しかよ? 【前線巧者(ストライカー)】」

 

 声をかける人物がいた。振り返った彼女の視線の先にいたのは、紫のゲソのガールだった。長さが左右非対称なツインテ、イカライダーBLACKのポケットに手を突っ込んだガールは、鋭い目つきをそちらに向けてそう言った。

 

「フン、そう言う貴様がここに来るとは珍しいじゃないか。【隠れ潜んだ殺人鬼(ハイド・ザ・リッパ—)】」

「まーな。ここの『アタシら特別です~』って感じが気に入らねぇ。でも結構いるぜ。お菓子食べ放題だしな。」

「それが目的か。貴様は相変わらずだな。サヨリ」

「ま~な~」

 

 正直なのか思ったことはずばずばいう性格なのか、ハイカラシティランキング3位、【隠れ潜んだ殺人鬼(ハイド・ザ・リッパー)】の名を持つ彼女、サヨリはどかりと彼女の隣の椅子に座って答える。

 

「しかし【前線巧者(ストライカー)】とは、懐かしい呼び名で呼んでくる。」

「最近はA.Aコンビだとか【双星(デュアリス)】だとかアオヤギのヤローとニコイチにされてるけどよ、アタシはオメーをアタシのライバル以外の目で見る気はねーぞ。アイナメ。」

 

 と、プラスチックのコップに入れた柿ピー(備え付け。VIPラウンジでは食べ放題)をざらざらと流し込む。ランク9位【前線巧者(ストライカー)】【双星(デュアリス)】の片割れである彼女、アイナメのもう一つの2つ名だ。

 

「今アオヤギと戦っているランク1、面白いやつだ。少しの話し合いで負けムードのチームを纏めて見せた」

「へ~、アオヤギ相手にかよ、根性ある初心者(ニュービー)だな。」

 

 と言って試合を見ると、先ほどまで話し合いの後、アオヤギのリッター3Kの射程外からインクをバラまいていた四人が集結し、一斉に駆けだした。

 

「おっ、仕掛けるか。」

「ふむ、妙だな……」

 

 興味深げにモニターを眺めるサヨリとは対照的に、アイナメは顎に手を当て、そう言って考え込んだ。

 

「何がだよ、シンプルに突撃だろ?普通にいいじゃねぇか。」

「いや、相手にはスプラローラーがいる。それに貫通性持ちの3K相手に集団突撃なんて非合理的だ。」

「まぁそうだけどよ、これが一番」

 

 アイナメの云う通り、スプラローラーを使っていたボーイのゲソが輝き、スペシャルウェポン【メガホンレーザー】を展開した。そこから爆音波が放たれようとした時、コウのゲソが光る。

 

「【バリア】を有効活用しやすいやり方だぜ。」

 

 一定時間使用者を完全無敵にするスペシャルウェポン、【バリア】。使用者が他の使用者にタッチすることでバリアを仲間におすそ分け出来るのだ。それにより、一気に攻める作戦。慌ててスプラローラー使いのボーイは逃げようとするが、そこを件のルーキー、コウのわかばシューターが正確に撃ち抜く。

 

「なるほど確かに合理的だ。だが、」

 

 プロモデラーを装備していたガールがスペシャルウェポン【トルネード】を起動する。一定範囲に上空からの大規模な一撃を放つことの出来る強力なスペシャルウェポンなのだが、着弾点を決定しようとモニターを見る彼女を、一本のレーザーポインターが捉える。

 

「ッ!!」

 

 その瞬間、【トルネード】を使おうとしていたガールの顔が驚愕にそまる。そして、金属パーツにより極限まで圧縮されたインクが放たれてて、【メガホンレーザー】をバリアで受けた衝撃でステージの端に立っていた彼女は、バリアにインクが直撃した衝撃でステージから足を踏み外して落下してしまう。踏みとどまろうとしたものの、背負っていた【トルネード】が逆に重しとなってバランスを保てなかったようだ。

 

「バリアも無敵ではない。インクによるダメージは凌げても、衝撃を受けたことによるノックバックは、よほど慣れている奴でもないと凌げない物だ。アオヤギを狙ったトルネードで援護を一時的に立つつもりだったらしいが、そう上手くはいかない。」

「アオヤギのヤロ―、手加減しろよな……」

 

 プロモデラー使いのガールが驚いたのはバリアに守られているというのに狙われたからじゃない。メガホンレーザーの勢いに押されたのは予定外とはいえ、ステージ際の位置ならば狙撃が届かない。そう考えたからこそ、【トルネード】を発動したのだ。

 そう、アオヤギが前に出てきたのだ。とはいえ、タチウオパーキングの階段構造の一段下に降りただけだが、それでギリギリ届かないと思われていた射程を埋めた。モニターを見れば、そこには愉しそうな笑みを浮かべたアオヤギの姿が映っている。

 

「相手が全力で策を講じているのさ。それに対して全力で迎え撃つのが、アイツの流儀だ。」

「つまり、ここからが本当のお手並み拝見って訳か……」

 

 やっぱ格が違うな。とサヨリはそれを見てコメントする。

 

「当然だ。私達TOP10から見ても、お前達上位4人は別格だ【隠れ潜んだ殺人鬼(ハイド・ザ・リッパー)】、【儚き閃光(トランジェント・フラッシュ)】、【インクの暴風雨(スプラッシュ・ストーム)】、そして、【完全精密狙撃(パーフェクト・スナイプ)】ランク5位以下の我々との実力は、その間に大きな壁が存在している。」

「流石に買いかぶりすぎだってぇの。」

 

 ランク上位四人の二つ名を言うアイナメに、サヨリはそうため息をついて、

 

「それに、見たところあの初心者(ニュービー)のシューター捌きは大したものだぜ?」

「あぁ。彼、いずれ私を超えるかもしれん。」

「どーだか。」

 

 ボムラッシュで前線を荒らしていたスクリュースロッシャーの持ち主が、狙撃で吹っ飛ばされる。しかし、その間にコウは、上手いこと前線をすり抜け、アオヤギの下へと迫っていた。その動きを称賛し、アイナメはそう口にするが、今度はサヨリがその言葉を否定する。

 

「あの動き、シューターを相当やりこんでんだろうが……」

 

 動きを見て、恐らそうとう練習を積んだのだろうという風に当たりをつける。モニターの中、地面を塗り、シューターの射程圏へと近づいていくコウ。ジグザグのパーキングの道を進み、アオヤギと同じラインまでたどり着いた彼はなおも前進する。アオヤギは、バリアが切れたとたんに素早くガールが追いバリアを発動し、なおも押し込もうとする彼女たちに対するけん制の為か、スコープを覗きっぱなしだ。

 

「まだトップランカー(アタシら)の領域には程遠いぜ。」

 

 取った。そんな表情がコウの顔に現れた時だった。3Kスコープカスタムの銃口が、90°左を向く。レーザーポインターが、一瞬でコウの方に向いたのだ。そして、引き金が引かれる。

 アオヤギは気づいていた。そしてあえて放置していたのだ。相手の間合いへと入り、その間合いにあえて入り、相手が油断するその瞬間まで。

 

「フリック撃ち、久しぶりに見たな……」

「本来初心者に使う技じゃねぇな、大人気ねぇ……」

 

 トリックは簡単。アオヤギが相手をとらえていたのは、リッター3Kの金属パーツ。それが鏡の様に反射して、コウの顔を映していたのだ。それにより相手の位置を見抜き、素早くリッターを構えて撃つ。何を隠そうサヨリも、何度もあの技を喰らっている。だからこそ、アオヤギならやるだろうなと予想はしていた。

 アレを出すという事はアオヤギが本気という事だ。それだけにさせる実力は、彼にはある。サイトに捕らえた敵を絶対に仕留めるイカ界の狩人。それが【完全精密狙撃(パーフェクトスナイプ)】アオヤギという男だ

 だが、この技一発で、

 

「驚いてるようじゃ話にならねぇな。中にはもっとぶったまげた技を使ってくる奴だっているぜ。」

 

 この技に驚いているようではまだまだと、サヨリは言う。

 

「終わったな。お菓子補充してくる。」

「いや、見てみろサヨリ。」

「あん?」

 

 空になったプラスチック製のコップを振り、その場を去ろうとしたサヨリだったが、そこにアイナメが待ったをかけた。

 

「彼はまだ、闘志を失ってはいないぞ。」

「……へぇ、」

 

 画面を見れば、そこに映っているコウは、この絶望的な状況で、それでもなお、その目をランランと輝かせていた。それに、サヨリがまるで、獲物を見つけた捕食者のような獰猛な笑みを浮かべる。

 

「マジだ。まだ見せてくれるってのかよ、初心者(ニュービー)

 

 つまらなかったら承知しねぇぞと笑みを浮かべて、サヨリは画面の中にいるコウに向けて声をかけた。

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《Side Kou》

「ッ!!」

 

 やられた!! 完全に掌の上で踊らされてた!! あの人は最初から分かっていたんだ。

 

『いい動きだ。魂がイカしている証拠だな。だが……腕の方はまだ未熟!!』

 

 僕が近づいた時あの人は……アオヤギさんはあぁ言った!! 僕の事を見ていたんだ、最初から。最初の詰めで僕がバリア(鬼札)を切ったのがミスだった!! 

 タコスナイパー(固定砲台)とは全然違う!! 何度も対人戦を経験してきた……徒党を組んだタコとは違う、一人で近接戦にも対処する孤高の戦い方!!

 

「おい、どうするんだよ!? また押し返されてきたぞ!?」

「すまない私のミスだ。トルネードを発動し損ねた。」

 

 ランク12の人が悲鳴を上げて、ランク17の人が誤る。

 あの後、戻ってきた相手チームの人たちにもスペシャルを切られて、僕たちはまた真ん中から追い出された。

 

「どうする!? もう打つ手が……」

 

 僕と同じランク1の子の顔も青い……でも、まだあきらめるわけにはいかない!!

 

「とにかく、攻めて攻めて攻めまくろう。」

「ハァ!? 自棄(ヤケ)になったのかよ!?」

 

 僕の言葉に、ランク12の人はそう言う。まぁ、当たり前だよね。こんな状況で、僕だって、おんなじ事を言われても、おんなじような言葉で返すと思う。でも、

 

「なるほどね。」

 

 ランク17の人は、この考えに同意してくれた。

 

「今はとにかく、スペシャルを溜めまくる気だね?もう一度仕掛けようという訳か。」

 

 この中で一番ランクが高いだけある。わかってくれたみたいだ。

 

「はい。僕らにとってやるべきなのは……チャンスを作ること。出来るだけ死なないで、とにかく地面を塗りまくるんです!!」

「おまっ、おんなじ手が通じる訳ねぇだろ!! 相手だって対応を変えてくる。」

「その時のことも……僕にも考えがあります!!」

「またそれかよ!! さっきそれで結局アオヤギに負けてたじゃねぇか!!」

「ッ!!」

 

 そう言われては何も言い返せることが……そう思った時だった。

 

「いい加減にしなさいよッ!!」

「「!?」」

 

 叫んだのだ。ランク1の子が。

 

「さっきからウジウジウジウジ、文句ばっかりで!! そう言うアンタはどうなのよ!?」

「ど、どうって……」

 

 その子がそうやって詰め寄るのに、ランク12の人はたじたじだ。

 

「文句あんなら代案くらい考えときなさいよ!! それとも何、そんなことも思いつかない癖にいっちょ前に文句だけは言うってぇの!?」

「い、いやそれは……」

 

 そんな風にボコスカに言われて、二歩三歩と下がっていく。

 

「意気地なしね。アタシそう言うのが一番嫌い。」

 

 ランク12の人は、ガーン!?という音が聞こえてきそうなほどショックな顔をした。うん……イカしたボーイを目指してる僕達からすれば、ガールから嫌いって言われるのは……うん、堪えるよね。

 

「ビビってるんだったら、大人しくその安全エリア(バリア)の中に縮こまってなさい。私は行くから!!」

「あっ、ちょっ!?」

 

 そう言うや否や、ランク1の子はイカになって突っ込んでいった。

 

「ハハハ!! 度胸があってイカした子じゃないか!! そう言うの大好きだよ!!」

 

 そんな様子に、笑みを浮かべて、ランク17の人もあの子の後を追いかける。

 

「…………」

 

 悔しそうな顔をするランク12の人は、拳を握って、それを見つめていた。この際だから僕は、思ってたことを言う事にした。

 

「僕は……貴方の事を、臆病だとか意気地なしだとか、思ってません。」

「は? お前、何言って……」

「だって、貴方は頑張ってるから。」

「いや、俺は……」

「僕だって、何かが違ったら、このリスポーンエリア(バリア)の中から出られなかったと思います。」

 

 そう、もしあの時、あのマンホールに入らなかったら、あの、タコツボバレーでの、かけがえのない(とても大切な)戦いが無かったら、怯えて、踏み出せなかったかもしれない。(現実)と、あの人(理想)の間に聳え立つ高い壁に絶望してたかもしれない。だけど、この人は、

 

「貴方は僕についてきてくれた。こんなランク1(格下)の初心者の言う事に、賭けてくれた。だから、お願いします!!」

 

 この人がいる。この人のボムラッシュとスクリュースロッシャーの火力が、僕達には必要だ。あの人(理想)に、その足元に、指先だけでも届けるためにも!!

 

「貴方の力を、もう一度貸してくれませんか!?」

 

 僕は、この人に頭を下げて、お願いした。

 

「そんなこと、言うんじゃねぇよ。」

 

 そんな僕の頭を、その人はポンと叩いた。

 

「ったく、情けねぇ。」

 

 そのちょっと乾いたような声を出していた彼の顔を、僕は見れなかった。頭を下げていたから、でも、見なくても良かったかもしれない。

 

「こんな風に頭まで下げさせてよ。これで動かなかったらオレ、最高にカッコ悪いじゃねぇか。」

 

 そう言うその人の、スクリュースロッシャーを構えなおす音が聞こえた。

 

「俺だってナワバリやりこんでるんだ。今更……今更ランク50が相手だからって、止まれねぇぜ。ここまで御膳立て、されたんだからなぁ!!」

 

 そう言ってあの人も、中央目指して走って行った。頭を上げて、僕もシューターを持ち直す。

 

「ありがとうございます!!」

 

 立ち上がってくれたことに、あの人にお礼を言ってから、僕も走り出す。

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《No Side》

 

「(指揮が上がったか……)」

 

 スコープを覗き、時にそこから目を離し、アオヤギはタチウオパーキングの高所から戦場を俯瞰しながら、そう考える。

 一撃一殺。絶大な射程と絶対の威力を誇るこの3Kスコープは、その分チャージに時間がかかるし、チャージャータイプのリッター3Kと違いスコープを除く分、周囲に気を配ること(クリアリング)が出来ないのだ。一発外せば、一発当てそこなえば、敵の接近に気づけなければ、その時点で味方はどんどん不利になっていく。だからこそ一撃に付き一殺を心掛けねば、負けは必須。当てられぬチャージャーに存在価値は無い。

 ここはイカしたイカの集うハイカラシティ。ナワバリバトルの腕はこの街での人気に、地位に直結する。勿論それだけが全てではないが……使い手な時点で実力を測られるチャージャー界隈の頂点に立つのが、アオヤギだ。

 

「(やはりあの初心者か……まぁ初心者だから当たり前だがフクは全くイカしていない(初期装備)だが……)」

 

 最初、真っ先にチャージャーを警戒して、その第一射を完璧に見切って見せたその動き、

 揺れ動くレーザーポインター(狙いを付ける動き)を見定め、それが狙いをつけ反動を安定させるために、一瞬止まる(銃身を抑え込む)のを正確に見切り、躱して見せた。

 

「(チャージャー対策が手慣れて(イカして)いた。何度もチャージャーを見切ってきたような動きだ。だが……少々読みが直線的過ぎだ。対応は容易かった。)」

 

 アレくらいの読みならS+と言わずとも、A⁻位になったころには多くの人物が出来るようになっている。が、注目すべきはそこではない。

 

「(人を、仲間を纏め上げ、攻略法を発想する『統率力』。あぁ言う魂がイカした人間は、人を引き付ける物だ。)」

 

 良い。とんでもない逸材に出会えた。そう笑みを浮かべるアオヤギは、それでも油断なく、3Kスコープを構えた。

 

「さぁ来い、どう来る? そろそろ残り時間が、45秒を切るぞ……!!」

 

 4人のうち、ランク17と12の二人はもう既にゲソが光っている。来るなら、そろそろだ。

 と、コウに向けて彼が狙いを付けた時、ランク12のボーイが動いた。

 

「来るか……!!」

 

 コウに向けた狙撃が避けられた。それを確認した彼が4Kのチャージを行う。しかし、その時だった。チャージが途中でスコープを覗く前だった彼は気が付いた。己の足元に、警戒ラインが発生していることに。

 

「これは……まずいッ!!」

 

 今度はしっかりと下がったランク17のガールのスペシャルウェポン、【トルネード】だ。とっさにイカになったアオヤギはジャンプ。中央に、降りてくる。

 

「チャンスだ!! 貰った、ランク50!!」

 

 その間にアオヤギ側のわかばシューターを一人撃破したランク12のボーイが、スペシャルウェポン【ボムラッシュ】を起動する。アオヤギは空中でヒトに戻るや否や、そのまま3Kスコープのチャージを開始するが、

 

「3Kのチャージじゃ間に合わねぇだろ!!」

 

 勝ち誇った笑みを浮かべ、アオヤギを守ろうと前に出てきたアオヤギのチームの仲間にボムを投げながら突っ込んでくる。しかし、それを見たコウは気が付いた。アオヤギが、笑みを浮かべ(勝利を確信し)ていることに。

 

「マズイ、下がって!!」

「あ?」

 

 コウがそう叫び声をあげたがもう遅い。

 

「確かに、フルチャージには(・・・・・・・・)間に合わないな。」

 

 守りに前に出てくれた味方がボムにより弾け飛ぶ中アオヤギは、彼らに心の中で感謝の言葉を述べながら、ランク12のボーイに向けてそう答える。レーザーポインターが彼の胸元をとらえる中、彼は訳が分からないとも言いたげに首をかしげる状況で、音が響いた。そして次の瞬間、

 

「な……が……!?」

 

 彼は、弾け飛んでいた。

 

「リッター3K系列の武器の超射程は金属パーツによる、スプラチャージャーでは不可能な高圧圧縮だ。つまり、最大まで圧縮(フルチャージ)しなくても、一撃でインクリングを消し飛ばせるだけ(スプラチャージャー並み)の威力は出せるということだ。油断して突っ込むとは……魂がイカしていない!!」

「それは……貴方の方よ!!」

 

 そんなアオヤギに、ダッシュで突っ込む存在が居た。もう一人の、ランク1のガールだ。わかばシューターのインクをアオヤギに放ちながら、接近してくる。

 

「あの人は倒したみたいだけど、調子に乗って前に出過ぎたわね。もうそのチャージにも間に合わないわ!!」

 

 私達は倒せない!! そう言う彼女と共にコウも前に出るが、

 

「倒せるとも。スペシャルを使える状況にあるのは……」

 

 そう、今まで一度も死ぬことなく、戦っていたアオヤギのゲソは、とっくに光っていた。

 

「君たちだけではない!!」

 

 そう言った瞬間、アオヤギの姿が変化する。陣営側のインク色の巨大なイカ。無敵状態で全てを蹂躙するスペシャルウェポン、【ダイオウイカ】へと。インクを纏うローリングで相手を薙ぎ倒すその大技が彼女に迫るが、

 

「させない!!」

 

 スペシャルウェポン【バリア】コウが再びの発動で、彼女を守護して見せた。

 

「ッ!!」

「決めてました……僕のバリアは、今度は貴方の前で切るって!!」

「ジャストタイミング……やはりセンスのいい。ならば……!!」

 

 そうして防がれたアオヤギはダイオウイカ状態のまま……コウたちの自陣に向けて突っ込んでいった。

 

「なッ!?」

「ならば君たちの陣地を塗りつぶさせてもらおう!! …………この場所は君たちに任せるぞ?」

「「「はい!!」」」

 

 追いかけようとしたコウたちの下に、スーパージャンプで飛んでくる影があった。さっきやられたアオヤギチームの面々だ。しかも、あっちもスペシャルウェポン『バリア』を切る。お互い無敵状態でのにらめっこ。しかし、自陣をアオヤギに塗らせてしまう分こっちの方が分が悪い。だったら……

 

「ここは任せても、構わないね?」

「はい、お願いします!!」

 

 同様にスーパージャンプでこっちに来てくれた、ランク17のガール。彼女に、アオヤギチーム側の自陣を塗らせることだ。中央でお互いにラストバトルが発生するのと同時に、お互いの自陣を、敵が塗りに行くという希少な状態。だがしかし、アオヤギだけは察していた。状況が相手有利という事を。

 

「(プロモデラーRGか……塗り性能に特化した武器だ。こうして俺がちまちま塗るよりも格段に効率がいいだろうな。ならば!!)」

 

 塗りながらその場を昇って行くアオヤギは、一つ目の区画まで塗ると、そこで中央に向けて、3Kを構えなおした。

 

「(中央に一撃加え、君の命をもらおう!!)」

 

 彼の狙いはコウ。戦いに忙しい彼を、背後から不意打ちするつもりだ。残り10秒……中央の塗は同程度に見えるが、恐らくこちらの自陣は大きく塗られている。ならば、

 

「撃ち抜く……そうすれば……」

 

 残り2秒、コウはこちらに気が付いていない。ここで撃ち抜けば……

 

「俺の勝ちだ!!」

 

 轟音。そしてそれと共に放たれるインクがコウの下に突き進み、試合終了のホイッスルが鳴る。

 中央には、アオヤギチームの三人、唖然とするランク12のボーイ、そして、笑みを浮かべているランク1のガールと、彼女が展開したバリアの内側で(・・・・・・・・・・・・・・)、驚いた表情をしているコウだった。

 

「警戒してて……よかったわ。」

「俺の……」

 

 その様子に、アオヤギはフッ、と笑みを浮かべて3Kスコープを下した。

 

「負けか。」

 

 塗りポイントの集計結果は、アオヤギチーム48% コウチーム……50%。

 

「……勝った……のか?」

 

 ランク12のボーイは、信じられないというように唖然としている。

 

「あぁ……間違いない!! 夢じゃ……ない!!」

 

 クールだったランク17のガールも、喜びの表情を浮かべていた。

 

「やった!! やったよぉ!!」

 

 ランク1のガールは喜びのあまりコウに抱き着いてしまい、

 

「うわぇ!?」

 

 ガールに抱き着かれるなどという初めての事態にコウは驚いて倒れこんでしまっていた。

 

「……あっ、ご、ゴメン!!」

「いや、いいよ。その……うれしかったし……

 

 最後の部分を小声かつ早口で言ったコウは、そのまま彼女の名前を呼ぼうとして、名前を知らなかったことに気が付く。

 

「あ、私、ムツっていうの。」

「あ、えっと……僕は、コウ。」

「コウ……コウっていうのね、よろしく!!」

 

 お互いにちょっとぐたっとしながらも、自己紹介を済ませたあと、倒れこんだコウに、ランク1のガール改めムツは、笑顔で手を差し伸べた。

 

「うん。よろしく、ムツさん。ってうわ!?」

 

 手を取った瞬間、ぐっ、と勢いよく引っ張り上げられる。

 

「もう、他人行儀ね。私達はチームメイト、仲間!! せっかくだからちゃん付けでもいいのよ?」

「え、ちょ、ちょっとそれは……」

 

 女の子(ガール)からそんなことを言われたのは初めてなコウは、大慌てでしどろもどろになり首を振るのに、ムツはおかしそうに笑う。そして、その様子は……初心者が手加減込みとはいえ、倒してはいないとはいえ、最強(ランク1)から一本取ったという事実。そのニュースは、

 

「アオヤギが……負けるか。」

「手加減してたとはいえ、な。最後の最後であのガール、動きやがった。面白れぇ。」

「……どこへ行くつもりだ?」

「ガチマッチ。ちょっと暴れたくなってきた。」

「フッ、ならば私も同行しよう。」

「ハッ、オメーも高ぶってんじゃねぇかよ。」

 

 試合を文字通りの特等席で眺めていたVIPルームの二人を

 

「なに、アオヤギガ?」

「はい……本気は出していなかったようですが。」

「当たり前だロウ。それで勝てるなラ、ランカーなんテお飾りノ、まったくいかシテいない数字ニなり下がル。」

「はっ、その通りですね。」

「でもマァ、」

「は?」

「面白いコが入ってきたジャン?」

 

 ビルの中、ゴージャスな雰囲気の部屋のデスクに向かい合う二人にも、

 

「負けちゃったか~、ヤギちゃん。」

「驚きでござる。よもや、初心者がこれほどの実力とは……マグレ、とは言い難いでござるな。」

「当たり前じゃ~ん。マグレで初心者が勝てるわけないじゃ~ん。」

「その通り……彼奴(きゃつ)めは、初心者という枠組みにおいておくには少々規格外に候。」

「ホントだねガイちゃん。初心者(ニュービー)じゃなくて、新星《ノヴァ》って表現するべきかも☆ ノヴァちゃん……ん~! 良い響き!! 気に入った!!」

「この街に来て早々、キア殿に目を付けられるとは、この男も中々に運がないでござるな。」

 

 ハイカラシティのカフェで茶をすする鎧姿のギア、サムライジャケット一式を着こなすボーイと、スクールブレザーを着て、イカホでバトルの配信を見るガールにも、

 

「凄いな……一本取っちゃったよ……これは僕も……そろそろ危ないかもしれない……」

「陰徳陽報。お前の努力は俺が見ている。貴様の強さ、そうそう落とせるものではない。」

「でも……撃ち合いに向かないわかばシューターであれだ……僕なんかじゃ……」

「病は気からと言うだろう。お前のその弱気な事こそ原因だ。」

「でも……うぅ……」

「ローマは一日にしてならず。あの実力でも一朝一夕の後に我らの元まで来れるわけではない。何より、お前の実力は、他ならぬ俺が評価する。自信を持て。」

 

 近くのビルから、不安げに屈んで小さくなっている女性と、腕を組んでそれをなだめる男にも、

 

「ヒューッ♪ 最高じゃねぇかあの初心者!!」

「だからって、今にもブキ以ってマッチに参加しに行こうとするんじゃないぞ?」

「ア”ー、わーってるよ。流石に俺もそこまでクレイジーサイコバトルジャンキーじゃねぇって。」

「とか言いながら、イカホ片手に思わず立ち上がろうとしたのはどこのどいつだ。」

「うぐっ……わ、悪かったよ……」

「当然だ。初心者相手にランカー2連戦とか、考えてみろ。相手にする側を。」

 

 呆れながらため息を吐くメガネのボーイと、それに頭をかくイカスカルマスクを付けたボーイにも、伝わった。

 

 これは人知れず世界を救った英雄が、ハイカラシティのバトルに嵐を巻き起こす物語。そして、

 

「「「「「ようこそ、ハイカラシティへ」」」」」

 

 そんな英雄(ヒーロー)を、猛者(ランカー)達が迎え撃つ物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、

 

「ほら、コイツがお望みの品だろ。」

 

 その日の夜。もう人もいない、ホッケ埠頭のはずれで、木箱一杯に詰められたブキを渡す、緑色のゲソのボーイが居た。いや……そのゲソの生え方が、インクリングのそれとは違っている。

 

「あぁ。助かる。」

 

 それに、裾の長いコート姿のインクリングが一言言って、控えていた者たちにその箱を回収させる。

 

「しっかし、俺が言うのもなんだがお前達も好き者だねぇ。バケモノ揃いのランカーのいるこの街でやらかそうなんざ。何するつもりなんだよ?」

 

 棒付きキャンディーを咥えてのんきにそんなことを言う緑色のゲソのボーイに、コートのボーイが、

 

「お前の知る必要はない。」

 

 と、一言回答する。

 

「ケッ、そうかよ。……ま、注意するんだな。何もランカーだけがバケモノって訳じゃねぇ。」

「……どういうことだ?」

 

 緑ゲソの言葉に、振り返って問いかけるコートのボーイ。なんだ?知らねぇのか?と馬鹿にしたような表情でイカホを操作した彼は、一つの動画を見せる。コウ達と、アオヤギ達の戦いの映像を

 

「今日は行って来たナワバト始めたばっかの初心者が、ランク1から一本取りやがった。まだ粗があるがこの動き、相当 手慣れてる(・・・・・)ぜ?……どうした、興味津々か?」

 

 笑みを浮かべる緑ゲソの言葉だがその映像を見た瞬間、コートのボーイは食い入るように映像を見つめ、彼の言葉で我に返ったのか、画面から目を離した。

 

「いや、何でもない。商売は異常だ。金は所定の口座に振り込んでおいた。」

「おっ、サンキュー。ルールを守る奴は好きだぜ。」

「フン、法から外れた行為をする者(アウトロー)が何を言う。」

 

 笑みを浮かべ、おどけて言う緑ゲソにそう毒を吐いたコートのボーイは、その場を後にする。

 

「夢を叶えたようだな……」

 

 そう言う彼の脳裏には、先ほどのバトルの映像が脳裏をよぎっていた。必死に戦うコウ。その隣でシューターを使っていた。ムツの姿が。




 見事アオヤギから勝利をもぎ取ったコウとムツ。しかし、そんな彼らに再びの試練が降りかかる。

「グローリー・スターに力を示してもらう。一対一のガチバトル。栄光の星は、お前達の力で勝ち取るものだ。」

 次回『グローリー・スター入隊試験』
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