魔法科高校の五条悟   作:YUTO1247

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入学式編(前)
五条悟の入学式


 四月上旬。

 春が空から降ってきて、ついこの間までそこにあった枯れ木の寂しい風景は姿を消した。

 入学式の朝、今日から通う学校の制服に身を包む。それだけでも、今までとは違った新しい自分になったような気がして、気が引き締まる思いがした。

 真新しい服が放つ独特の若い匂いに鼻腔を擽られる。

 これから三年間の青い春が始まる。

 未だ実感のない事実だがずっと待ち望んでいたことがもう目の前にある。

 そのことを考えると心臓から押し出される血液がまるで電気を帯びているかのように暴れた。

 左手に身に着けた腕時計の時間は自分が昨日遅刻しないようにこの時間に行こうと決めた時間を指していた。

 昨日の夜に仕度は済ませていた。

 準備は万端だ。

 扉を開けた。

 今日の天気も気温も昨日とほぼ変わらない。

 にも関わらず今日は昨日と全く違った。

 空の広さ、風の匂い、日差しの音、普段は感じないようなことまで五感全てで感じ取っていた。

 息を深く吸い込んだ。

 

 ◇◇◇

 

 「わるぃねぇ、荷物持ってもらって……でもいいのかい?」

 「あー、気にしなくていいよ。まだ時間あるから。それより、次どこの角で曲がんの?」

 「次は突き当りを右に」

 「ん~、了解」

 

 白髪、長身、白い包帯で目元を巻いている不審者スタイルの少年が足腰の弱そうなおばあちゃんを背に抱えながら歩いていた。

 事の発端は単純だった。

 段差に躓き足を痛めてしまったおばあちゃん。

 それを偶然少年が見つけてしまった。

 少年はこの後入学式を控えていてそんなに時間の余裕はなかったが無視していくのも忍びなかったのでおばあちゃんを助けることにした。

 

 「でもいいのかよ。病院じゃなくて。足診てもらったほうがいいんじゃない?」

 「ありがとうね。でも大丈夫よ。家に湿布があるから」

 「いや、おばあちゃん湿布のこと信用しすぎでしょ。万能薬じゃないからね?」

 

 怪我をあまりに本人が心配しなさ過ぎて逆に心配になったが大した怪我ではないので本人の意思を尊重した。

 ちなみに怪我が酷かった場合は強制病院連行である。

 

 「で、次は?」

 「あぁ、もうここで大丈夫だよ。ありがとう」

 

 おばあちゃんがそういうと少年はゆっくりと降ろした。

 

 「ここまでありがとうね」

 「だ~か~ら~気にしないの!入学式までまだ時間あるし」

 

 これはヘラヘラと笑いながら嘘をついた。

 実は入学式開始までもう五分もない。

 遅刻は確定だ。

 

 「――あ」

 

 おばあちゃんは家に入ろうとしたが途中で自分の足に蹴躓いた。

 少年が咄嗟に支えたことで大事には至らなかったが一歩間違えれば大けがは免れなっただろう。

 

 「おっと、あぶな。気を付けなよ」

 「ごめんね。これ、お礼と言っちゃなんだけど」

 

 そういうとおばあちゃんはポッケからリンゴ味の飴を取り出した。

 しわくちゃな手の中にあるそれを少年は優しく受け取った。

 

 「飴、好きかい?」

 「――あぁ、大好きだよ。ありがとな」

 

 少年はニッと笑いながらそう答えた。

 

 「じゃあ俺行くから!」

 

 そういうと少年は走ってその場を後にした。

 とはいえ入学式まで残り三分。

 とても走って間に合う距離ではなかった。

 

 「仕方ない、か」

 

 少年は目元の包帯を外した。

 包帯の下から空を詰め込んだような瞳現れる。

 そして少年はその場から『跳んだ』

 

 

 

◇◇◇

 

 東京都八王子市に存在する国立魔法大学付属第一高等学校。

 通称“一高”。

 この学校は今日、入学式を迎えていた。

 真新しい制服に身を包んだ生徒たちが期待と緊張を孕んだ顔で校門を潜っていた。

 10分前までは。

 入学式開式まであと2分。

 全生徒はすでに着席して開式を待っていた。

 一人を除いて。

 

 「これで新入生は全員講堂へ行けたでしょうか」

 

 生徒会役員として中条あずさは生徒を講堂へと案内していた。

 開式の時間も近くなり、人の影も少なくなった。

 そろそろ自分も講堂へ行こう。

 その時だ。

 

 「よし、到着」

 「え、え、ええええええ!!!」

 

 突然目の前に現れた人に驚き、腰を抜かしてしまった。

 

 「あ、やべ…大丈夫か?」 

 「……ッ!?」

 

 するとその声に反応したのか恐る恐るとゆっくり顔を上げた。

 

 「いやーごめん。まさかピンポイントで人がいると思わなくてさ」

 

 少年は後頭部を掻きながら謝罪した。

 一方であずさは少年の美しさに心を奪われていた。

 白髪に碧眼という、日本人離れした容姿。

 しかも単に顔が整っているとかそういうレベルではない。

 まるで『美』という文字の体現。

 神秘的と言っても言いかもしれない。

 

 「ん?どうした?もしかしてどっか打ったの?」

 「え、あ、はい。えっと大丈夫です」

 

 少年の言葉でようやく正気に戻った。

 少し震えた声で応えた。

 

 「そっか。ほら」

 

 少年は手を差し出した。

 

 「??」

 

 その意味がわからず固まるあずさ。

 

 「いや、ほら」

 

 手をもう一度出すような仕草でようやく少年の意図に気が付いたあずさはゆっくりと手を伸ばし、その手を取った。

 

 「よっと」

 「わわ!!」

 

 少年の予想よりも軽かったあずさは少し勢いづいて立った。

 

 「なんだ、平気そうじゃん。もしかしてお前も一年?」

 「私は二年生ですけど……え、待って下さい、あなた新入生なんですか!?」

 

 驚いたように聞くあずさ。

 しかしなぜそんなに驚いているかわからない少年は困惑しながらも肯定する。

 

 「そうだけど……なに?もしかして先輩だった?ごめん、ちっちゃいから同い年かとーー」

 

 少年の言葉を聞いたあずさは顔からどんどん血の気が引いて行った。

 

 「もう入学式始まっちゃいますよ!えーっと……あ、あと一分もないです!急ぎましょう!!」

 

 あずさは少年の手を取るとそのまま講堂に向けて走り出した。

 

 「は、ちょ――」

 

 突然手を取り走り出したあずさに少し驚くが話の口ぶりから入学式会場まで連れて行ってくれることはわかったのでそのまま身を任せることにした。

 

◇◇◇

 

 講堂に入ったのが時間ギリギリだったせいなのか、殆どの席が埋まっていた。

 

 (あーこれどこ空いてんだ?……ん?)

 

 少年は違和感に気が付いた。

 前半分に一科生、後ろ半分に二科生という具合に席が綺麗に別れていた。

 

 (なんで一科と二科でこんな綺麗に別れて……あーなるほど)

 

 入学式の案内に講堂は自由席だと書いてあった。

 つまりこの状況は新入生たち全員が自主的の作り出したものだということだ。

 後方の席に座りたかった五条は周りなど無視して後方に座ろうとしたが既にどこも空いていなかったので仕方なく前の方へ席を探しに行った。

 

 「……どこ空いてんだよ」

 

 時間ぎりぎりに来た少年はその風貌も相まってか注目が集まっていた。

 当然といえば当然の結果だ。居心地の悪い視線を受けながら、少年は周りをキョロキョロと見まわしながらようやく空いている席を一つ見つけた。

 

 「ふぅ、あぶね」

 

 『それではこれより国立魔法大学付属第一高校入学式を取り行います』

 

 少年が座ると同時に入学式は開式した。

 真面目に聞く気など毛頭ない少年は包帯を目元に巻き、それをアイマスク替わりに寝始めた。

 少年が後方に座りたかった理由は後方のほうが寝た時にバレにくいからというくだらない理由だった。

 そんな理由で周りの空気を読まずに二科生が周りにいる席に座ろうとする辺りに少年の傍若無人さが伺える。

 

◇◇◇

 

 入学式が終わり、講堂がざわつき始めた。

 少年は式中に巻き直した包帯の感触を確かめていた。

 

 「……ハーフ?」

 

 横から声をかけられた。

 少年はそれが自分に向けられたものだとすぐに気が付いた。

 この時代において海外からの入学というのはほとんど無い。

 そのことを考慮して聞いたのだろうが、初対面の相手に第一声がそれは失礼と言われても仕方のない言い方だ。

 

 「いやいや、純日本人だよ」

 

 しかし少年はそんなこと微塵も気にした様子はなく、そう答えた。

 横を見ると大人びた顔をした、黒髪の少女。どうやらこの小柄な少女が質問の主らしい。そして今度は彼女を挟んだ、もう1つ奥の席から声がした。

 

 「ちょっと雫!初対面の人に失礼じゃない!……友人がいきなり失礼な事を聞いてごめんなさい!」

 

 茶色がかった髪の気の弱そうな顔をした女生徒は雫と呼ばれた少女を窘めつつ、少年に謝罪してきた。

 

 「あーいいよいいよ。よく言われるし、俺そういうの気にしないから」

 

 ヘラヘラと笑いながら少年は気にするなと手を振る。

 

 「本当にすみません。……私、光井ほのかって言います。この子は――」

 「北山雫」

 「よろしく。ほのか、雫!」

 「そっちは名乗らないの?」

 

 雫の言葉でようやく自分が名乗っていないことに気が付いた。

 

 「俺は五条悟」

 

 少年――五条は一高に来て初めて名乗った。

 

 「よろしくお願いします、五条さん」

 「そんな堅くなんなくてもいいって。さん付けもいらねーし」

 「じゃあ悟?」

 「……は?」

 

 まさかいきなり名前で呼ばれるとは思っていなかった五条は目を丸くした。

 

 「いやだった?」

 「いや、別に。好きに呼んでいいよ」

 「じゃあ悟って呼ぶ。よろしく悟」

 「えっと、私もよろしくお願いします、悟くん」

 

 あまり名前呼びに慣れていない五条は少しこそばゆい感覚を感じつつも悪い気分ではなかった。

 

 「あ、そうだ。折角だし、一緒にIDカードもらいに行かね?」

 

 五条の提案を断る理由のない二人は一緒に行くことにした。

 

 「悟はなんで目に包帯巻いてるの?」

 

 入学式終了直後ということで窓口前には大勢の生徒が並んでいた。

 当然その列の中には三人も含まれており、暇だった雫は先程から気になっていたことについて聞いた。

 

 「ん?これ?」

 

 五条は指で包帯を引っ張りながら聞いた。

 雫は静かに首肯する。

 

 「ちょっと雫!」

 「でもほのか、気にならない?」

 「う、それは、気になるけど……」

 

 気にならないと言えばウソになるがそう易々と聞いてもいいのだろうか。

 初対面であまり踏み込んだ質問をするのは気が引けた。

 

 「いや、別に病気とかじゃないから。単純に目が疲れやすいから視界をセーブして負担を減らしてんの」

 

 五条は割とすんなりと答えた。

 別に隠すようなことではない。

 

 「え、理由はそれだけですか?」

 「うん、そうだよ」

 

 意外と単純な答えにほのかは思わず聞き返してしまうが本当にそれだけの理由なのだ。

 

 「でもさっき取ってた」

 

 雫の言うさっきとは入学式開式直前のことだろう。

 あの時は確かに包帯をしていなかった。

 

 「あれは――ほら、俺たちの番みたいだぞ」

 

 いつの間にか窓口受付は自分たちの番になっていた。

 窓口で手続きをした後、それぞれ自分のIDカードが配布される。

 

 「悟くんは何組でしたか?」

 「うん?えーっと、A組だな」

 

 ほのかの質問に五条は答える。

 その答えに驚きつつも顔は喜色に染まっていった。

 

 「そうなの!?私達もA組だよ!!やったね雫!!」

 「うん」

 

 どうやら三人ともA組らしい。

 今日は入学式とIDカードの配布だけなのだが、このあとホームルームの見学にいくことになった。

 少なくとも今日行っておけばクラスメートとなる生徒とも顔を合わせることができるだろう。

 そして三人で教室へ向かうと途中の廊下に人だかりができていた。

 

 「なにかあったのかなぁ?」

 「さぁ?」

 

 ほのかと雫が疑問符を浮かべる。

 一方五条は人だかりができている理由がなんとなくわかっていた。

 

 (あれは確か生徒会長、それに新入生総代……なるほどな)

 

 人だかりの中心にいた見覚えのある人物たち。

 それさえ見つけてしまえば想像は容易い。

 

 (まぁ確かに二人とも綺麗だし、パンピーが周り囲むのも――)

 

 「あら?……!」

 

 (――わからなくは……)

 

 「貴方!!」

 

 真由美がなにかを見つけたのか突然大きな声を出した。

 周囲にいた人物は五条も含めて全員視線を奪われる。

 

 「貴方、五条くんでしょ!五条悟くん!!」

 「……は、俺?」

 

 五条は自分に指を指す。

 頷く真由美。

 どうやら間違っていないようだ。

 

 「……ほのか、雫。俺、行かなきゃだめ?無視していい?」

 「な、なに言ってるの!?相手は生徒会長なんだよ!?」

 

 廊下中にいる生徒の視線が五条に集中している。しかも若干、怨念染みた視線も感じるまである。

 五条としては用事があるならそっちから来いよと思わなくはなかった。

 

 「悟、早く行った方がいい」

 「そうだよ、待ってるから」

 

 二人の言葉でようやく五条は動く気になり、笑顔でこちらに声をかけてくる真由美の元へと向かった。

 

 「初めまして。私の名前は七草真由美です。『ななくさ』と書いて『さえぐさ』と読みます。よろしくね」

 

 真由美は人を魅了するような可愛らしい笑顔で自己紹介する。

 

 「よろしく」

 「な!?貴様会長に向って――」

 「えぇ。よろしくね、五条君」

 

 

 人に悪意を向けられるのはあまり気持ちのいいものではないがだからといって自分のスタンスを崩す気はない五条はいつも通りの挨拶をする。

 だが周りは五条の挨拶の仕方が気に食わなかったのかさらに殺気が強くなっていく。

 それが一番顕著なのは真由美の斜め後ろに控える副生徒会長:服部刑部だろう。

 今も真由美が遮っていなければ五条に対して文句を言っていたはずだ。

 

 「紹介するわね、深雪さん。彼は五条悟くん。筆記、実技ともに歴代一高受験者の中で最高得点を出した今年度入試の首席よ」

 

 「え……」

 

 深雪は口から漏れ出す声を抑えられなかった。

 なぜならば、生徒会長が言った内容があまりにも衝撃的過ぎたからだ。

 そしてそれは深雪だけでなく、この場にいる生徒全員がそうだった。

 

 「驚くのも無理はありませんね。彼は首席でありながら総代ではありませんから」

 

 新入生総代は入試の成績によって決められる。

 首席が総代を勤めるというのは一高における伝統なのだ。

 

 「では、なぜ私が総代に?」

 

 そう深雪だけでなくこの場にいる全員の疑問だ。

 なぜ首席ではない深雪が新入生総代なのか。

 だがこれは意外と簡単な理由だったりする。

 

 「それは彼が総代を辞退したからです」

 

 皆が信じられないものを見るかのような目で五条を見た。

 総代とは名誉ある肩書だ。

 望むことはあっても辞退することなど聞いたことがない。

 

 「え、なんでそのこと知ってんの?」

 

 その上で五条のこの発言である。もはや自分で事実であると認めているようなものだ。

 

 「教師陣の間では貴方の話題で持ちきりなんですよ?生徒会に所属していればその気がなくても耳に入ります」

 

 予想だにしていなかった事実の発覚とその情報量の多さに場が固まる。

 

 「それじゃ、今日はここで失礼するわね」

 「しかし会長、それでは予定が……」

 「予めお約束していたものではありませんから。別に予定があるなら、そちらを優先すべきでしょう?」

 

 真由美は食い下がる気配を見せる男子生徒を目で制すると意味ありげに微笑んだ。

 

 「深雪さん、詳しいお話はまた日を改めて。五条君…そして司波君もいずれまた」

 

 真由美は再度会釈して立ち去っていく。

 その後ろに続く服部は振り返ると、舌打ちの聞こえてきそうな表情で五条を睨んで去っていった。

 

 (なんだ、アイツ?)

 

 なぜ服部があそこまで自分に敵意を向けてくるのか分からなかった。

 しかし五条は特に気に障らなかった為、無視することにした。

 

 「総代蹴ったってバラすなよ……プライバシー皆無じゃん」

 

 後頭部をポリポリ掻きながらもうこの場にはいない真由美に文句を言った。

 別に隠すようなことでもないが自分が蹴ったことで回ってきた総代という肩書を背負った深雪の前でバラされたのは痛かった。

 総代とは本来名誉だが、それがお下がりであった場合は別だ。

 本命の代打であると言っているようなものだからだ。

 肝心の五条はそのことよりも自分のことを勝手にバラされたことの方が重要だったが……

 場を気まずい雰囲気が覆った。

 それを破ったのは今年度入試次席、入学総代の司波深雪だった。

  

 「初めまして五条くん。司波深雪と申します。どうぞよろしくお願いします」

 「あ~俺は五条悟。クラスはA。よろしく」

 「A組なんですか?私もなんです」

 「へぇ、すっげぇ偶然だな……あ、そうだ。お前らも挨拶しとけよ」

 

 そういうと五条は自分の後ろにいたほのかと雫を前に出した。

 

 「え、え!?私!?」

 「おんなじクラスなんだから挨拶しとけよ、恥ずかしがり屋か?ほら雫も」

 「分かった」

 

 二人は深雪の前に出て自己紹介を始めた。

 

 「初めまして!み、光井ほのかです!わ、私もA組なんです!よ…よろしくお願いします司波さん!!」

 「北山雫……雫でいい」

 「ほのかさんに雫さんね。私も深雪でいいですよ」

 「私達は同じクラスになるんだからタメ口でいい」

 「じゃあそうさせてもらうわね?」

 「うん」

 「わ、私も!!」

 

 雫のフランクな対応、ほのかの初々しい対応で深雪も敬語をやめる。やはりいつの時代も女性というのは強い。一分も経たずに仲良くなってしまった。

 

 「どうした俺の顔見て?イケメンすぎて見惚れちゃった?」

 

 一方で五条は先程から自分に対して視線を寄越してくる司波達也に話かけていた。

 達也は深雪をも超える実技点を叩き出した五条を警戒の目で見ていたのだが五条は目元を隠している状態でもわかるくらいのキメ顔を披露していた。

 

 「……いや、全くそんなことないが」

 

 若干困ったように返答すると五条は満足そうな笑みを浮かべて笑った。

  

 「へぇ…お前、名前は?」

 

 少し悪い笑みを向けながら名を聞いた。

 

 「司波達也だ」

 「達也ね。ま、俺の方は自己紹介いらねーよな…ん?オイオイ達也ちゃん。君やるじゃな~い」

 

 ニヤリと笑いながら肩を組む。

 一方の達也は五条が一体何を言っているか理解できないでいた。

 その様子に気が付いた五条はヒソヒソと喋り始めた。

 

 「後ろの二人のことだよ。お前のこれだろ」

 「いやどれだ?」

 

 ウィッシュポーズをとる五条だが達也に意味は伝わらなかったらしい。

 しかし困惑中の達也を無視して五条は話続ける。

 

 「もう手が速いんだから~……このモテ男くんめ!」

 

 手をワキワキさせながら達也をからかう。

 そのような事実はないと達也は訂正しようとするが横からの殺気に言葉を止めた。

 

 「……お兄様?」

 

 黒い笑みを浮かべた深雪を中心に周りのモノが凍り始めた。

 

 「深雪、さっきも――」

 「いや、寒いの無理だから」

 

 達也が妹に誤解を解こうとしている中、五条は突然指をパチンッと鳴らした。

 同時に冷気は消えていき、凍っていたものも元通りに戻った。

 それを観た司波兄妹の顔は信じられないといった顔だった。

 

 (深雪よりも干渉能力が高いのか……入試成績からわかってはいたが実際に目にすると……五条悟、やはりこいつは普通じゃない。何者だ?)

 

 当の五条は全くと言っていいほど意に介していない様子だ。

 今、五条が考えているのは『深雪って魔法制御甘すぎだろ』と『お腹空いた』の二つだ。

 実力故の余裕とはいえ、些かマイペース過ぎた。

 

 「あ~腹減った。俺これから飯食べに行くけどお前らも来る?」

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