魔法科高校の五条悟   作:YUTO1247

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これは在りし日の記憶
彼らの中から消えた欠けたピースの一つ


10話突破記念 間話 ありし日の記憶

 時刻は11時。

 太陽は頭上で燦燦と照り、雲一つない空は眩しかった。

 11時を示す時計台の足元。

 透き通るような白い肌と美しすぎる美貌の少女が落ち着かない様子で立っていた。

 左手に巻いてある腕時計の時間を何度も何度も確認し、確認する度に辺りを見渡す。

 

 「よ、おまたせ」

 

 少女の待ち人が現れた。

 

 「もう、遅いです」

 「え、まだ遅刻じゃなくね?」

 

 少年の言う通り。まだ約束の時間にはなっていなかった。だが少女は『遅い』と感じたのだ。

 それは少女が張り切り過ぎて早く来てしまった為に、待ち時間が生まれたことが原因だ。

 明らかに少年に非はないが、少女は少年に対してつい意地悪なことを言ってしまう。

 思春期特有の『好きな人には意地悪なことをしたくなる』というやつだ。

 

 「そんなヘソ曲げんなよ、ほら、行こうぜ」

 

 少年は手を出した。

 少年の行動が何を意味するかわかっている。もう何回もやっていることだ。

 だが、何度経験しても慣れない。

 毎回、まるで初めてかのような緊張を抱いてしまう。

 

 「深雪?」

 

 少女――深雪が固まったまま動かないことに首を傾げる少年。

 深雪は漸く少年の手に自分の手を重ねた。

 

 「行こう」

 「はい、行きましょう」

 

 繋いだ右手に意識が持っていかれてしまう。

 汗をかいていないだろうか、ベタベタしていないだろうか。

 

 「ねぇ深雪」

 「なんですか?」

 「緊張してる?」

 「!?」

 

 自慢ではないが、ポーカーフェイスには自信があった。

 だが少年にはすぐに見破られてしまったようだ。

 

 「いえ、そんなことありませんよ」

 「そっか。実は俺、ちょっと緊張してる」

 

 笑いながらそう告白した少年に内心で驚いた。

 深雪から見た少年は緊張とは程遠い存在だ。

 

 「そうなんですか?」

 「だって俺、女の子とデートとかしたことねぇし……」

 

 少し恥ずかしそうに吐露した少年のことを愛おしく思った。

 自身が知る限り最強の魔法師も年相応の幼い部分を持っていた。

 時折見せる弱い部分にどうしても心を擽られてしまう。

 

 「フフ、私も初めてです」

 

 初めての相手が自分である。

 その甘美な事実が独占欲を満たしていく。

 

 「でも大丈夫!今日のためにプランは練ってるから」

 

 どこで食事をしようか、食事をしたあとはどこに行こうか、少年は今日のことをずっと考えていた。

 全ては深雪を楽しませたいという思いからだ。

 何日もかけて練ったデートプランを成功させるべく、少年は気合を入れていた。

 

 「じゃあまずは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぅ、今日は楽しかったな」

 「私も楽しかったです」

 

 きっと人生で一番満ち溢れた時間だった。

 好きな人と一緒にいることがこんなにも心を満たされるとは思ってもいなかった。

途中でトラブルに巻き込まれ、全てが順調で完璧とは言い難いものだったがそれも含めて楽しかった。

 

 「…深雪」

 「はい?」

 「悪い、本当は送ってくつもりだったんだけど――」

 

 バツの悪そうな少年の表情ですぐに何が起こったのか、理解した。

 

 「大丈夫」

 

 言葉を遮り、両手で彼の右手を握った。

 

 「え?」

 「わかっています。深雪のことは心配しないで……倒してきて」

 

 本当は寂しい。

 家に帰る瞬間まで一緒にいたい。

 できるだけ長く隣にいて欲しい。

 だが、それは叶わない。

 自分のことを一番に考えて欲しいし、何よりも優先して欲しいがそれは自分勝手な思いだとわかっている。

 ならばせめて笑顔で送り出してあげたい。

 

 「ありがとう…行ってくるよ」

 「行ってらっしゃい、悟くん」

 

 

 

 

 

 

 

 自分の恋人が同じ朝と夜、同じ時間の流れの中に同時にいると思うだけで、いつもの夕方も甘く見える。夜が静かで長く感じられる。

 ふだん淋しいと思いたくなくて無理して麻痺させていた感覚が、ひとつひとつ開いていくのが目に見えるようだ。

 季節の陽を受けた花のように、静かに、確実に。

 私はこんな性格だっただろうか。

 彼の一挙手一投足に心を乱されるほど、幼かっただろうか。

 否、きっと変わったのだ。

 私は、私が考える以上に彼のことが好きみたいだ。

 

 「……ッ」

 

 熱い。

 暑くないにも関わらず、体が熱を帯びている。

 

 「悟くんッ」

 

 下腹部に熱が集まっていくのを感じる。

 経験したことのない炎のような衝動。

 あるいは、自ら押し込めて封印していた本性。

 

 「おかしい…こんな、私…ッ」

 

 彼に会う度に自分が壊れていくのがわかる。

 心の器を幸せの水で満たすだけでは飽き足らず、波紋を残して去っていく。

 

 「ずるい、ずるいです!」

 

 時折弱い部分を見せるくせにいつもリードしてくれるところも。

 私といる時だけ少し口調が柔らかくなるところも。

 私のことを守ってくれるところも。

 全部ズルい。

 こんなことをされたら、もっと好きになってしまう。

 私だけ悟くんのことをドンドン好きになって、バカみたいだ。

 悟のことを考えれば考えるほど、未知の感覚が総身を走り抜け、発育途中の肢体に甘い疼きを生み出す。

 熱くなった下腹部は更なる熱と疼きを帯びた。

 

 「ダメ……」

 

 ダメだとわかっているのに、手がそこへ伸びていく。

 疼きを少しでも和らげるために、熱を少しでも冷ますために。

 この行為に意味がないことはわかっている。

 だって、慰めても、慰めても、疼きはより強く、熱はより熱くなっていく。

 息も荒く、服もはだけている今の自分の姿はきっと、はしたないものだろう。

 悟に、愛欲にまみれた、こんな姿は絶対に見せられない。

 

 「悟くんッ……好き…!」

 

 でも止められない。

 

 「好き、ハァ…ハァ、好き、大好き…!」

 

 だって彼のことが好きだから。

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