「うん、いいよ」
「私も行きます!」
ほのかと雫はすぐに了解してくれた。
家族が待っている可能性もあったので断られることも視野にいれていたが要らぬ心配だったようだ。
「達也と深雪、お前らは?」
「俺たちもか?」
まさかこちらに投げかけられるとは思っていなかった達也は少し驚いた声を発していた。表情は全く動いてなかったが。
「お兄様、どういたしましょうか?」
「……」
達也は即答できなかった。五条悟という人間が自分たち兄妹の害になるかはわからないが未知の存在であることは確かだ。
迂闊に近づくことは避けたかったが逆に相手を知る機会になるかもしれない。
それに妹のクラスメートになる存在でもあるからここで友好関係を築くのはアリだ。
「いいんじゃないか。せっかく知り合いになったことだし。同じクラスの友人はいくらいても多すぎるということはないだろう」
メリット、デメリット。リスク、リターンを考えた結果了承することに天秤は傾いた。
「よう、お前らも来るか?達也のこれなんだろ」
「いやどれよ」
シュバッとウィッシュポーズを取る五条に突っ込みを入れるのは明るい栗色の髪とスレンダーな体つきが目に留まる少女だった。“美少女”と呼んで差し支えない外見はどこか日本人離れした容姿に見えることから、ひょっとしたら彼女に外国の血が混ざっているのかもしれない。
「ちょ、ちょっとエリカ、初対面の人にいきなり失礼だよ!」
それを諫めるのは肩に掛かるほどの黒髪に眼鏡を掛けた、どこかおっとりとした印象を受ける少女だった。
「いいよいいよ。俺ら同級生なんだし、敬語なんて使わなくても」
手をヒラヒラと振った。
五条はそういった礼儀作法にうるさくないのだ。
それが同い年ともなれば猶更だ。
「ん~そうね、デザートがあるなら行ってもいいかな」
「お、いいね。俺も甘いの好きだ。そっちはどうする?……えーっと」
名前がわからない五条は言葉に詰まったがそのことを察知した少女は口を開いた。
「私は柴田美月です、よろしくお願いします。五条くん」
「あ、私は千葉エリカよ、よろしくね」
「俺は……って知ってるよな。でも一応、俺は五条悟だ。よろしくな」
先程の会長とのやり取りで名前バレしていた五条は名乗る必要はないのではないかとも思ったが一応名乗っておくことにした。
◇◇◇◇
「へぇ、じゃあほのかと雫も五条君と知り合ったばかりなんだ」
「うん、入学式で席が隣になって」
食事を取りながら一行は雑談をしていた。
その中で話題は五条についてになった。
「五条君、結構ギリギリに来てましたよね。すごく目立っていたので覚えてます」
美月の言葉に皆が頷いた。
肝心の五条は惚けた顔をしていた。
「え、俺そんなにギリだった?」
「ギリどころかアウト」
「ハァ…どうせ寝坊でしょ?」
エリカが呆れたように言った。
知り合ってから時間はそれほど経っていないが辛辣なのは五条のキャラを理解したからだろう。
「おまえ、失礼すぎんだろ。まぁそうだけど」
本当はおばあちゃんを助けていた為に時間が押してしまったのだがそのことを言うのは憚られた。
「あの五条君」
「ん?」
美月が少し躊躇った後、口を開いた。
「なんで五条くんは総代を辞退したんですか?」
それはこの場にいる誰もが思っていたことだ。
美月の言葉を機に皆が一斉に五条の方へ視線を寄越した。
「あ~、それ?朝早く起きんの苦手だから。総代になったら準備で早く行かきゃなんねーじゃん」
「そんな理由で断ったの!?」
ほのかのリアクションに笑いながらそうだと肯定した。
実際、五条が総代を断ったことに深い意味も理由もない。ただやる意味を感じなかったから。それだけである。やる意味を感じたなら朝早くでもやるし、やる意義を感じたなら多少の面倒も引き受けた。
「それに俺は総代って柄じゃないだろ。深雪のほうがよっぽど適任だったでしょ」
「確かにそう。でもそれは結果論」
雫に秒で論破された。
◇◇◇◇
「五条君はいったいどういう勉強をしたんですか?」
店に入り料理の到着を待っているひと時。
深雪は五条の勉強方法について尋ねていた。
自分の実力が高いと自負している深雪はそれを上回った五条がいったいどういう勉強をしてきたのか、気になっていた。
「どうって普通に?」
「いや、普通で歴代最高成績は出せないだろう」
達也の突っ込みに全員が頷いた。
「んなこと言われたって、特別なことはなんもしてねぇよ。実技だって練習してどうこうなるもんじゃないし」
一校の実技試験は受験者に簡単な魔法を発動させ、魔法師としての能力を計るものなので努力よりも才能が重視される。
計られる能力として挙げられる発動速度や干渉能力は訓練することはできても生まれ持った力に左右されることが大きい。
「確かに一校の実技は才能に左右される傾向にありますけど……」
「大体、入試成績が一位でも入学時点では大差ないって」
五条の本音だった。
一位、二位。一科、二科。五条にとってはそんな括りどうでもいいのだ。
「てかさっきから俺のこと聴いてばっかじゃね?」
「五条くん謎だらけですから」
「え、そう?」
「まぁ深雪の言う通りね。例えば目元グルグル巻きの包帯とか」
エリカはうんうんと頷いていた。
というより内心では誰もが頷いていただろう。
「これ、そんなに気になる?」
「気にならない方が逆に不自然だろ」
呆れたような声色で達也はそう言った。
「あーまぁそれもそうか。つっても着けてるのは大した理由じゃないぞ」
「目が疲れるから?」
「そう。よく覚えてたね」
「でも講堂に入ってきたときは取ってませんでしたか?」
ほのかの指摘に五条は応えた。
「あーまぁね。ぶっちゃけ外してても問題ないんだよね」
「そうなのか?」
「うん。裸眼だと目がちょっとだけ疲れやすくなるくらいだし」
そういうと五条は包帯に手を掛けた。
「急いでもいないのに態々目的地まで走って向かう人間がいる?普通歩くよね。別に急いでないんだし、疲れない。それと一緒だよ。包帯巻いてても目は見えるし、裸眼よりも疲れないんだからそっちの方がいいでしょ」
五条が手を引っ張ると包帯は解け、五条の目元から落ちていった。
そして包帯によって上がっていた前髪は落ち、五条の姿が露になる。
「うわぁ……深雪もすごかったけど、これは……」
「二回目ですけど、やっぱり慣れないです…」
他もセリフは違えど大方同じ反応だった。
「オーバーリアクション過ぎ!ただ包帯取っただけだよ?」
「変わりすぎなのよ!」
包帯の有無で人はここまで印象が変わるモノなのだろうか。
先程までは不審者にしか見えなかった五条は今や絶世の美男子だ。
その評価は天と地ほどの差がある。
「まぁ、そうかも」
五条はエリカの反応にカラカラと笑った。
その後、一通り反応を楽しんだ五条はまた包帯を巻いてしまった。
「一つ聞いてもいいか?」
「ん?なに?」
「なぜ包帯を巻かなければならないほど目が疲れやすいんだ?」
達也の質問は皆が行きついた疑問だ。
包帯をつけた状態で目が見える理由も、そもそもつける理由も皆が知りたがっている。
「俺の目は特別なんだよ」
「特別?」
五条の言葉に達也の目が鋭くなった。
「そ、まぁ詳しくは言わないけど」
「え~!?ここまで来て秘密!?」
「そうなんでもかんでも話すわけねーだろ」
エリカを中心とした皆の抗議を受けながらも話をする気はないという姿勢を貫いた。
「てか、さっきから俺ばっかじゃん!」
自分ばかりズルいと皆から黒歴史を聞き出そうとする五条をきっかけに席は騒がしくなってしまうのだが――
「ふふ。楽しいですねお兄様」
「ああ。そうだな」
――深雪はその光景に妙な懐かしさを感じていた。