魔法科高校の五条悟   作:YUTO1247

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悟と達也

 「チッ!?」

 

 振り向きざまに放たれた拳を避ける。

 

 「大振りすぎだよ」

 

 煽りに乗せられた桧垣は五条に拳を振るうがどれも華麗に避けられてしまう。

 さらに五条は避ける動作を利用しつつ攻撃を加えていく。

 隙のできた桧垣を五条は見逃さない。

 素早く鋭いジャブの連続。

 抵抗を許さずに一方的に攻撃していく。

 桧垣はよろめいた。

 巨体の男が年端も行かぬ少年にやられていく様は傍から見ると実に滑稽であった。

 

 「もしかしてバテちゃった?別に降参したっていいんだよ」

 「ッフフ、舐めるな!」

 「――お?」

 

 速い。

 今までの動きからは考えられない速さだ。

 五条は余裕を持って躱し、距離を取った。

 

 (なるほど、運動加速度を上げる術式ね…)

 

 魔法を使われるという予想外の事態に見舞われたものの、余裕の様子だった。

 五条の見立てでは例え魔法を使われようと基礎的な体術だけで十分対処可能だと考えていた。その考えは間違いではない。

 1が10になったところで1000には敵わないのだ。

 しかし周りの人間はそう考えなかった。

 

 「魔法を使うなんて、卑怯じゃないんですか!?」

 

 深雪が風間に食って掛かる。

 深雪は桧垣が魔法を使ったことを見逃さなかったようだ。

 横からの抗議に風間は首だけで振り返った。

 答えは、風間が未だに視線の半分を向けている方向からやってきた。

 

 「大丈夫だよ、深雪」

 

 五条からだった。

 

 「だって俺、最強だから」

 

 余裕の笑みでそう答えて見せた五条を見た深雪は痺れるような、疼くような、奇妙な感触を心の裡に生じさせていた。

 五条の自信溢れる姿に深雪は自然と安心していた。

 

 「桧垣、油断するな!」

 「なっ!?」

 

 風間の怒号。そして眼前には相対する少年。

 五条は既に桧垣の前まで移動していた。

 直後に襲う鋭い痛みで自分が殴り飛ばされたと気が付いた桧垣は五条を射殺さんばかりの視線を受けるが当の本人はどこ吹く風。

 あくまでも桧垣は五条に挑戦する側。

 五条が油断することはあっても桧垣が油断することなどあってはならない。

 雪辱を注ぎたいのは桧垣なのだから。

 

 「なにか勘違いしてるみたいだから言っとくけど、そっちが挑戦者だから」

 「クソガキがッ」

 

 再び魔法を使い、加速する。

 しかし遅い。

 一瞬で最高速に到達できてもその最高速が遅いのでは意味がない。

 カウンターの容量で五条の右足が桧垣の側頭部を捉える。

 蹴り抜いた足でステップを踏む。

 直後に放たれる左の踵回し蹴り。

 軌道は桧垣の顎。

 ふらつく相手に容赦せず、鼻、脇腹、心臓、人体の弱点を的確に殴り抜いていく。

 

 「ぐぅううううう!!?」

 

 桧垣は場外まで蹴り飛ばされた。

 倒れ伏し、動かなくなったことを確認した五条は__

 

 「ま、中々強かったんじゃない?」

 

 一撃も喰らうことはなかったがそう評価した。

 その言葉の直後、審判から一言。

 

 「止め!勝者、五条悟!」

 

 その言葉を受けるまで、深雪は瞬きすらせずに五条に見入ってしまった。

 強いとは思っていた。

 ただ体術のみで魔法を使う軍人を圧倒してしまうほどとは考えてもみなかった。

 だからこそ心配になってしまう。

 次、戦うのは達也だ。

 

 「さーて、達也。次はお前の番だ」

 

 上に向けた指先や手のひらで「ちょいちょい」と、小さく手招きするような動作をする。

 達也は少し嫌そうな顔をした後、素直に舞台へとあがった。

 

 「ルールは…そうだな、魔法なしの殴り合いでいい?」

 「…構わない」

 

 魔法アリでも構わなかったが徒手空拳だけでも十分深雪に達也の強さは伝わるだろう。

 

 「さぁ達也、やろうか」

 

五条は、挑発的な笑みを浮かべながら構えをとった。その無防備にも見える姿勢は、どこか余裕すら感じさせる。だが、達也はその奥に潜む圧倒的な力を見抜いていた。

同時に、達也の空気が一変した。

達也は一瞬で警戒心を最大限に高めたが、五条はすでに距離を詰めていた。まるで瞬間移動のような速さで近づき、右の拳を達也に向けて放つ。達也は瞬時にそれを読み、紙一重でかわした。その動きに無駄は一切なく、達也も五条の圧力に対して冷静に対応していた。

 

「やっぱり…なかなかやるね」

 

五条は軽く笑いながら、一瞬も間を置かずに次の攻撃を繰り出す。拳のスピードがますます加速し、空を切る音が響く。しかし、達也はそれをすべて的確にかわし、時折反撃の拳を放ち込む。

拳と拳がぶつかり合い、激しい衝撃が周囲に響き渡る。二人の戦いは、まるで戦場での一進一退の攻防のようだ。達也は冷静さを保ち、五条の攻撃をいなしていたが、五条の余裕にはどこか不気味なものを感じていた。

 

「魔法なしでもこれかよ」

 

五条が嬉しそうに言った。

 

「それはこっちのセリフだ。五条、お前は何者なんだ?」

 

達也はずっと抱いていた疑問をぶつけた。

客観的に見ても達也の体術は優れているし、それを自覚していた。故に自分と対等以上にやり合える同い年の人間がいることがどれほど異常かを正しく理解している。

 

「さぁ?俺は俺。ただの五条悟だよ」

 

次の瞬間、五条はさらにスピードを上げた。拳の一撃一撃が重く、速く、達也の防御を次第に押し崩していく。五条の攻撃があまりに速くて捉えきれなくなったのか、達也の動きにわずかに乱れが生じた。

その一瞬の隙を見逃さず、五条の拳が達也の腹部を鋭く捉えた。衝撃が達也の体を襲い、彼は数歩後退する。しかし、咄嗟に衝撃を流していた達也は、すぐに体勢を立て直す。

 

「これで終わりじゃないだろ?」

 

五条が挑発するように言う。

達也は冷静な目で五条を睨み返す。

 

「あぁ」

 

二人の間に再び静寂が訪れる。五条は達也の反撃を待ち構えるように構えを解かず、達也も相手の隙を探りつつ次の動きを見定めていた。互いの実力を認め合った二人は、ここからが本当の勝負であることを理解していた。

 

(思った以上に強い…もうちょっと本気でいこうかな)

(まさか体術まで……五条悟…何者なんだ?)

 

達也が動いた。素早く間合いを詰め、連打を繰り出す。拳、肘、膝、あらゆる体の部分を駆使し、まるで機械のように正確かつ無駄のない攻撃を展開する。しかし、五条はすべての攻撃を軽々とかわし、いなし続ける。

 

「本当にすごいな、達也……だからこそ疑問だ…なんで力を隠してんだ?」

 

五条の突然の問いにも冷静さを失うことない。

 

「…?俺は全力で――」

「誤魔化すなよ。手抜いてるってバレないとでも?こっちはもう待つ気ないんだけど」

 

要はさっさと全力を出せと言いたいのだ。しかし達也としては妹のためとはいえ、大々的に自分の力を見せつけようなどとは思っていなかった。

 

「ったく、頑固だな」

 

その言葉と同時に五条のボルテージが上がる。五条のスピードは達也の想像を悠々と超えていった。彼の拳がまるで予測不可能な方向から飛び出し、達也の防御を一瞬で崩した。最後に、五条の一撃が達也の側頭部をとらえ、強烈な衝撃が走った。

達也はその場に膝をついたが、五条を見上げ、まだ戦意を示している。

 

「これでもまだ全力は出さないのか?後ろにいる妹にダサい兄の姿見せたくないなら…こいよ」

 

五条の指さす方向に目を向ける。

深雪の眼には困惑と興奮が写っていた。

 

 「すごい…お兄様がこんなに強いなんて……」

 

 自分が兄のことを知らないということを改めて突き付けられた気がした。そのことに寂しさのような暗い感情を覚える一方で、兄の姿に高揚感のようなものを覚えた。苦手だと思うことはあれど、身内には変わらないのだ。

 

 「……仕方ない」

 「お?」

 「深雪の前だからな」

 

 少し、ほんの少しだけ達也の口角が上がった気がした。

 

 「!?…ハハ、最高だな」

 

 ようやくその気になった達也に驚くと同時に嬉しくなった。

 

 「ッ!!」

 

 (はや…!)

 

 五条の防御が間に合った。しかし達也の蹴りは防御を貫通して五条を吹き飛ばす。

 体勢を整える暇もなく、達也の追撃が襲う。

 

 (さっきまでは舐めプだったわけね…!わかってたけど、むかつく!!)

 

 達也の動きが先程とは比べ物にならないほどよくなる。

 達也の動きに五条のボルテージもあがっていく。

 

 「魔法なしで…」

 「あの二人、バケモンだろ」

 

 そんな二人の戦いに周囲の人間は圧倒されていく。

 二人を子供だと侮っている人間などいなくなっていた。

 

 「舐めんな…!」

 

 五条が繰り出した拳を達也は右手で捉えた。だが__

 

 (コイツ、俺の右手ごとっ)

 

 五条は達也の右手ごと、顔面を殴った。

 だが達也はそれでも拳を離さなかった。

 殴られた勢いを利用して五条の腕を足で挟んだ。

 

 (殴られたら普通離すだろ!勢いを利用して三角締めきめるってイカれてんな)

 

 痛みで反射的に離すはずだ。にも関わらず、達也はそれを利用して攻撃してきた。まるで機械かのような合理的な判断だ。

 

 「ここから抜け出すのは無理だ。降参しろ、五条」

 「この…!!」

 

 五条は抜け出そうともがくが達也はそれを許さない。

 しばらくして詰みだと判断した五条は悔しそうに床を叩いた。

 

 「くそ、もう一回だ!達也!次は最初から__」

 「断る」

 「な、ふざけ__」

 「もうかなり時間が経ってる。俺も深雪もそろそろ帰らないと」

 「……わかった。だけど、次会ったときは最初からマジでいくから」

 




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