入学式翌日にあたる今日は授業についての説明、履修登録などやることが多かった。
昨日とは違い遅刻せず普通にきた五条は自分の席についてガイダンスが始まるまで待っていたのだが先ほどから自分に目線が集中していて鬱陶しく感じていた。
話す相手も特にいないので受講登録をしようと端末を立ち上げると、後ろから肩を叩かれる。
「ん?」
「悟、おはよう」
振り返ると雫、ほのか、深雪が立っていた。さっそく三人で行動しているらしい。
「ん、おはよ。ほのかと深雪も」
「おはようございます、悟くん」
「五条君、おはようございます」
軽く挨拶を交わしつつ、履修登録を進めていく。
「これから専門授業の説明会あるけど、悟も一緒にいく?」
「あ~じゃあいくわ」
履修登録が丁度終わり、断る理由もなかったので一緒に行くことにした。
五条が席を立ったところで会話が聞こえてきた。
『おい、どうする?』
『せっかく一科なんだから先生の解説付きのほうがいいよな』
『二科の補欠はかわいそうだよなあ。最初から放置だろ?』
『入れただけで喜んでるからいいんじゃね?』
『大した実力もなくて魔法師になろうって図々しいよな』
『一般人は一般人らしくしてろって』
五条だけではなく雫やほのか、深雪も聞いたようであまりいい顔をしていなかった。
「ハァ……下らねー」
思わずそう呟いてしまった。
それに驚いた顔をしたのはほのかだった。
「悟くんはああいう風に思わないんですか?」
多くの一科生が持っているであろう選民意識、そこからくる差別発言。
これは一高においては伝統と言ってもいいほど続いてきたものだ。
そういう意識を持たないほうが逆に珍しい。
「まぁ、俺はな。ほのかだってそうだろ?」
「うん。だって魔法だけが全てじゃないし、その魔法だってもしかしたら――」
「抜かれるかも?」
雫の言葉に頷くほのか。
「そういうわけだから。あんま気に病むなよ」
深雪の肩を叩きながら五条は励ました。
「え?」
「達也のことだよ。愛しのお兄様所属の二科生をバカにされたからってそんなブチ切れんなよ」
深雪が彼らの発言で気に障ったのは兄がそこにも含まれるからだ。
深雪にとって兄の存在は自身の命よりも大切なもの。それを貶めるような発言を許せるわけがなかった。
五条はそのことを察していた。
昨日初めて会ったばかりだが二人の間にある絆の大きさはすぐにわかったし、兄のことになると途端にバカになることもわかった。
あとなぜか魔法の制御が利かなくなり、周りを凍らせてしまう。
「少なくともここに3人、お前ら兄妹の味方がいるから」
『――俺は深雪の味方だから』
「え?」
一瞬頭の中に散った火花に色褪せた光景が見えた。
(なに、今の……?)
「深雪、大丈夫?」
ほのかの声で戻ってきた深雪はなんでもないと言って誤魔化した。
「そろそろ行かないと遅れちゃう」
雫の声で一同は動き出した。
◇◇◇◇
そして午前の授業が終わった後、四人は昼食を食べるため食堂へと来ていた。
そこで見知った顔を発見する。
「おーい!五条く―ん!ほのかー!雫ー!深雪ー!こっちこっちー!!」
「エリカ!それに美月と達也も……それと…なんだ、このジャンボ」
「ジャンボってなんだ!?」
見知った顔の中に知らない顔が一つ。かなり体格のいい少年が一人。
身長も五条と変わらないくらい大きい。
故にジャンボと呼んだわけだが初対面の人間にいきなりジャンボ扱いされるとは思わなかった少年は思わず突っ込んでしまった。
「俺は西城レオンハルトだ。ジャンボじゃねぇから」
「俺は五条悟、好きに呼んでいいよ。レオンハルト」
「じゃあ悟だな。それとレオンハルトじゃなくてレオでいい」
「わかったよ、ジャンボ」
「いやそこはレオって呼べよ」
閑話休題
その後、一同で軽く自己紹介をして一緒に食事を摂ることになった。
「へぇ、達也と美月って魔工技師志望なんだ」
魔工技師、魔工師は魔法工学技師の略称だ。
主に魔法を補助、増強、強化する機器を製造、開発、調整する技術者を指す。
今の時代の魔法師に必須のツールであるCADも魔工技師がいなければ埃を被った魔法書よりも役に立たないゴミと化す。
社会的な評価は魔法師よりも低いが並みの魔法師よりも需要があるため相対収入は魔工技師の方が上だったりする。
「はい、だから今日の工房見学は楽しかったです」
「中々有意義だったな」
達也と美月の期待に満ちた顔とは裏腹にレオは不安そう顔だった。
「俺にあんな細かい作業できるかな……」
「無理にきまってるでしょ」
「なにを!?」
「ま、まぁまぁ二人とも」
「喧嘩はよくない」
一科二科関係なく談笑しているときだった。
「司波さん」
横から声がかけられた。
「ん?」
見るとAクラスのクラスメートだった。
五条は『深雪に用があるみたいだし、関係ないか』と考えていた。
「もっと広いところで食べようよ」
「邪魔しちゃ悪いよ」
「え、いえ。私はこちらで――」
困惑気味に深雪は答えた。
「司波さん…ウィードと相席なんて止めるべきだ」
「一科と二科のけじめはつけたほうがいいよ」
(こいつら調子乗り過ぎだろ)
食事に手を付けていないとはいえ、席についた人間を誘うどころか本人の意志は無視して吐き散らかした身勝手で傲慢な物言いに五条や雫などその場にいたもの全員眉を顰めた。
「なんだと?」
レオやエリカは爆発寸前だ。
二人は立ち上がった。
「あ、あの……」
両者に挟まれ困った様子の深雪に五条は助け船を出すことにした。
「今日はもう先約いるから無理だよ」
「なに?」
「誘うのがちょっと遅かったな。また今度誘えよ」
五条はしっしっと向こうへ行けと手を振ると苛立ったように反論してきた。
「ウィードと相席なんて――」
「早く行けよ。それに深雪は俺たちとも相席してんだけど?」
ウィードと相席というが五条や雫、ほのかは一科生だ。故にその理論は通じない。
「ほら、深雪」
五条が小さな声で促すと深雪は一歩前に出た。
「皆さま、すみません。今日は彼らと食べますので今日のところはお引き取り下さい」
「……行くぞ」
本人にきっぱりと断られたため、諦めたようだ。
ただ去り際に五条のことを睨みつける男子生徒が数人いた。
「あー怖い怖い」
ヘラヘラと小ばかにしたように笑った。
「嘘つけ、舐め腐ってるじゃねぇか」
「あ、バレた?レオって意外と頭いいじゃん」
「どういう意味だコラ!」
一同はそこで一斉に吹き出した。
そこには既に張りつめた空気はなかった。
◇◇◇◇
「お兄様……」
深雪は達也の制服の裾を指先で掴み、困惑と不安が入り混じった眼差しを兄に向けていた。
「謝ったりするなよ、深雪。一厘一毛たりとも、お前のせいじゃないんだから」
達也はそんな妹のために敢えて強い口調で返事を返した。
「はい、しかし……止めますか?」
「……逆効果だろうなぁ」
「……そうですね。それにしても、エリカはともかく美月があんな性格とは……予想外でした」
「……同感だ」
一歩引いたところから事を眺めている兄妹の視線の先には二手に分かれて一触即発の雰囲気でにらみ合う新入生の集団がいた。片方はAクラスのクラスメート。もう片方やエリカ、レオ、ほのかといった昼を一緒に食べていたメンバーだ。
ちなみに五条悟はこの場にはいなかった。
◇◇◇◇
「あーっと?」
五条は皆と帰ることはせず、図書館に寄っていた。
(俺が想像してた図書館とは全然違うな。図書館ってかPCルームだろ、コレ)
五条の知識にあった図書館は無数の本が本棚に所狭しと並ぶ場所だった。だがここは文献へアクセスできる端末が設置された個室タイプの部屋がずらりと並んだ設計となっている。
五条は個室に入るとさっそく端末にアクセスした。
「……」
集中しながら文献を閲覧する。
だがどれも五条が既に閲覧したような資料ばかりで目的の情報は得られなかった。
(やっぱダメだな…脳や精神に関わるような魔法は一般エリアじゃ検閲できないか)
五条はある程度調べると見切りをつけた。
(特別閲覧室……あそこなら)
特別閲覧室は国立魔法大学が所蔵する一般閲覧禁止の非公開文献へアクセスできる校内唯一の端末が設置された部屋だ。だがそんなところに入学したての新入生が入れるわけがなかった。
(無駄足かよ…ハァ、もういいや。帰ろ)
校舎から出た五条が一人歩いていると前方にいがみあう集団を発見した。
「…なにしてんだアイツら」
2つの集団。
一方はA組のクラスメイトで、司波深雪に憧れや興味を抱く面々。
もう一方は兄である司波達也のクラスメイト3人と雫とほのか。
そのメンバーを見て恐らくまた深雪を巡ってのトラブルだろうと五条は予想した。
「いい加減に諦めたらどうなんですか? 深雪さんは、お兄さんと一緒に帰ると言っているんです。他人が口を挟むことじゃないでしょう」
達也の友人の一人、柴田美月がA組の一団を理路整然と正論で殴る。
一見すると丁寧で穏やかな口調ながら、眼差しや表情は痛烈に相手を非難していた。
「でも昼もあまり喋れなかったし、何より二科生には分からない話もあるんだ!」
「僕たちは彼女に相談することがあるんだ!」
「そうよ!司波さんには悪いけど、少し時間を貸してもらうだけなんだから!」
無茶苦茶な論理だが、自分たちが特別だと愉悦に浸っているからこその意見である。
「そんなの貴方達の勝手な都合じゃないですか!!なんの権利があって二人の仲を引き裂こうとするんですか!?」
あまりの暴論に美月は当然反論する。
大人しい性格ではあるが間違っていることには否を叩きつけられるのが美月なのだ。
「引き裂くってそんな……美月ったら何を勘違いしているのかしら?」
肝心の深雪はというと美月の言葉に顔を赤くさせていた。そんな深雪の変化に隣にいた達也は気付く。
「どうした深雪?」
「いえ!なんでもありません!!美月ったら何を勘違いしているのでしょうね?」
「深雪……なぜお前が焦る?」
「えっ?いえ、焦ってなどおりませんよ?」
「そして何故に疑問系?」
(あれ?なんか余裕ありげ?)
渦中にいる兄妹のやりとりに思ったよりも余裕がみられたのでそのまま帰ってしまおうかと考えたが事態は悪化していた。
「ハン!そういうのは自活中にやれよ。ちゃんと時間が取ってあるだろうが」
「相談だったら予め本人の同意をとってからにしたら? 深雪の意思を無視して相談も何もあったもんじゃないの。それがルールなの。高校生にもなって、そんなことも知らないの?」
レオとエリカは煽りを含んだ反論を返した。幼稚な理屈でしつこく噛みつかれて苛立ってきているのだろう。
正論は既に示されて、建前は尤もな意見に潰された。
一科生は決して馬鹿ではない。常識やモラルに照らし合わせたとき、自分たちが間違った側に立っているであろうことは十分にわかっているはずだ。それでも引けないのは、それを指摘しているのが、自分たちが見下している二科生だからという理由と今更引くことなどできないという理由だ。
「うるさい! 他のクラス、ましてやウィードごときが僕たちブルームに口出しするな!」
残された手段は感情論でぶつかることだけになってしまった。
故に感情的に、差別的だからと校則で禁止されている用語すら持ち出してしまった。
あからさまな暴言にまっさきに反応したのは美月だった。
「同じ新入生じゃないですか。あなたたちブルームが、今の時点で一体どれだけ優れているというんですか?」
美月のよく通る声があたりに響き渡る。
これ以上ない正論。だが一科生と二科生の確執が根付いた一高においては、現行の慣習に真っ向から喧嘩を売るような主張だった。
瞬間、放課後の喧騒が静まり返り、空気が張りつめる。
一触即発。そんな雰囲気が両陣営の間に下りていた。
「どれだけ優れているかだって? だったら、今この場で教えてやる!」
「はっ!面白ぇ!是非とも教えてもらおうじゃないか!」
森崎の持つ銃型特化型CADをレオ達に向けると同時に、その言葉に続く形で他の一科生もCADを操作して魔法を発動させようとする。
対するレオやエリカたちもCADを迎撃するために動く。
「はい、ストップ。お前らやりすぎだから」
五条はここで介入した。
森崎とエリカとの間に入り、五条は特に何もすることなく棒立ちしている。
「な!?お前__」
「え、ちょっ!?」
咄嗟のことで二人は攻撃をキャンセルできず、攻撃は五条にそのまま直撃してしまった。
しかし__
「大丈夫、大丈夫。当たってないから」
五条は全くの無傷であった。
「な、馬鹿な!?」
「え!?でも確かに手応えが…」
森崎とエリカは驚愕の声をあげるが驚いていたのは二人だけではない。
その場にいた全員が驚愕しただろう。
なぜならば彼らの目には魔法に直撃した五条の姿を捉えていたからだ。
「手応えを感じたのは俺とエリカとの間にある『無限』に当たったからだよ」
「む、無限?」
右手の親指と人差し指の間に空間を作りながらそう説明した。
五条の扱う術式。
無下限呪術は自分を中心に収束する無限を作り出すことを可能にする。
つまり五条に攻撃は迫ることはできても当てることはできない。
「全員そこを動かないで!!」
校門前に一人の女性の声が響く。
達也達が声の方をした方向を向くと、そこには二人の人物がいた。
「止めなさい!自衛目的以外の魔法による対人攻撃は、校則違反である以前に犯罪行為ですよ!」
「君たちは1-Aと1-Eの生徒たちだな?事情を聴きます。ついて来なさい」
一高三大巨頭の二人、生徒会長:七草真由美と、風紀委員長:渡辺摩利が現れた。
二人の登場でその場にいた生徒たちの顔が青くなるのがわかった。
並みの魔法師を大きく上回る規模の活性化した想子を身に纏う生徒会長と冷たい声に硬質な雰囲気を纏う、起動式の展開が完了しているCADを手に持つ風紀委員長の登場はこの場にいる全員にとって予想外だっただろう。
「すみません、悪ふざけが過ぎました」
「悪ふざけ?」
迷いのない足取りは風紀委員長の前へと達也を運んだ。
その達也が放ったセリフに風紀委員長は眉を顰める。
「はい。森崎一門のクイックドロウは有名ですから。後学のために見せてもらうだけのつもりだったのですが、あまりに真に迫っていたものだったので、思わず手が出てしまいました」
「ほぅ?だが私の目にはそこの生徒に魔法を撃った姿が観えたのだが?」
事実だった。
攻撃性の魔法を使用したわけではなかったが無限バリアがなければ五条に当たっていた。
このままでは収められるモノも収められない。
ふと、視線を感じたのでそちらの方向を見ると達也が五条のことを見ていた。
それはまるでなにかの行動を期待するかのような視線だった。
「確かに魔法の使用はありました…しかし攻撃性の魔法は使用されていなかったですし、なによりも当たってはいません」
「当たっていないだと?」
意味のわからないセリフに二人は眉を顰める。
遠目だったため、魔法を撃たれたことは見ていたが結果どうなったかまでは見えていなかったのであろう。
「本当か?」
摩利が五条へと問いかける。
まさかこんな形で話しかけられるとは思っていなかった五条だがいつも通り返した。
「そうそう。ほら、この通りピンピンしてるよ」
五条は大げさに身振り手振りをしながら答えた。
無論、自分は無傷であるというアピールだ、少々やりすぎだが。
「では他の者達がCADを構えていたことはどう説明する?」
「驚いたんでしょう。条件反射ですぐに起動プロセスを実行しようとするとは……さすが一科生です」
あくまでもこれは悪ふざけであり、本気ではなかったと達也は主張する。
「私には君の友人達が、迎撃しようとしている様に見えた訳だが……それでも悪ふざけと主張するのかね?」
「迎撃といっても誰も魔法は使用していませんし、先程も言いましたが攻撃性のある魔法は誰も使おうとはしていませんでしたから」
「ほぅ……私には君の言葉がこう聞こえるぞ?魔法の起動式が読み取ることができると」
「実技は苦手ですが、分析は得意です」
魔法式を読み取るというのは並大抵のことではない。文字数にして一万以上の情報量が詰まっているのだ。それを一瞬の刹那に読み取る達也の異常性が垣間見える。
しかしそんなことを言っても普通は信じられない。事実摩利は値踏みするような、睨みつけるような、その中間の眼差し。
疑いの眼差しを受ける兄を庇うように、妹の深雪が進み出た。
「兄が申したとおり、本当に、ちょっとした行き違いだったんです。先輩方のお手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした」
真正面から素直に頭を下げる深雪。
「摩利、もういいじゃない。怪我もなかったんだから、これからはちゃんと注意してくれればそれで構わないでしょ」
会長の七草の言葉に諦めたように「わかった」と頷く摩利。
「魔法の行使に関わる規則は、校内のものについても法解釈についても、一学期の内に授業で教わる内容です。それまで魔法の使用については控えた方がいいでしょうね」
「……会長がこう仰っていることでもあるし、今回は不問にします。以後このようなことが無いように」
居住まいを正した摩利の言葉に五条以外の全員が頭を下げる。それきり踵を返して一歩踏み出すと、思い出したかのように顔だけを振り向け、達也へ問いかけた。
「君の名前は?」
「一年E組、司波達也です」
「そうか。覚えておこう」
摩利はそういうと真由美とともに校舎へと消えていった。
「……借りだなんて思わないからな」
七草真由美、渡辺摩利の二人が立ち去った後、硬直した空気を壊したのは森崎駿だった。
森崎は達也に向って吐き捨てるようにそう言った。その表情はまるで苦虫を潰したかのよう。
徹底的に二科生を見下している森崎にとって二科生に借りがあるというのは耐え難いのだろう。
「貸しだなんて思ってないから安心しろ」
達也はあくまでも冷静にそう返す。
事実達也はそう思っていた。
森崎を庇ったわけではなく、あくまでも妹のために起こした行動だ。
結果的に森崎を救う形になっただけでそれを貸しにするほど図々しくはない。
「……僕の名前は森崎駿。お前が見抜いたとおり、森崎の本家に連なる者さ」
「見抜いたなんてそんな大層な話じゃない。単に模範実技の資料映像を見たことがあるだけだ」
あくまでも冷静でその姿勢を崩さない達也、それを睨む森崎。
やはり二人の溝は深い。
その溝は一科と二科の間にある溝でもあった。
「僕はお前を認めないぞ、司波達也。司波さんは、僕達と一緒にいるべきなんだ」
あくまでも一科は一科で行動すべきだと主張する。
そう言うと森崎は達也から五条に目線を移した。
「それと、五条悟…さっきはすまなかった」
「気にすんなよ。マジで当たってねーし」
自分の放った魔法で負傷をしているかいないかではなくクラスメイトに対して危険行為を働いたことに罪悪感を抱いている様子だった。
根っから悪いヤツというわけではないようだ。
森崎はそれだけ言うと達也たちと口論していたA組メンバーを率いながらそのまま立ち去った。
◇◇◇◇
「で、五条くん、さっきのことについて聞きたいんだけど」
「ん?さっき?」
「ほら、私の攻撃を受けても無傷だったでしょ?そのことについてよ」
「そうそう!俺も気になってたんだよ!」
「わ、私もです!」
レオ、美月も気になるのかソワソワしていた。深雪や達也、雫、ほのかも騒いではいないが、先程から五条の方へと視線を向けている。
「だから、当たったけど無傷なんじゃなくて、そもそも当たってないんだって」
「でも確かに私は手応えを感じたわ。あれで当たってないなんて信じられない」
五条は少し説明することにした。
「エリカの攻撃は俺に当たったんじゃなくて『無限』に当たったんだよ。だから手応えを感じた。わかった?」
「無限?」
「五条、その無限とはなんだ?」
達也が五条に尋ねる。
「え~、そんな詳しく言わなきゃダメ?」
詳しく説明するとなると若干時間がかかるため、少し面倒だった。
「魔法の詮索は御法度だから、悟が嫌なら説明しなくてもいい……でも気になる」
この世界において他人の魔法、術式、技術を詮索するのはマナー違反にあたる。
それは魔法師という存在が人体実験や人為的な交配の末に生み出され、強化されてきたという歴史に基づく配慮だ。非人道的な、血塗られた歴史の上に成り立つ魔法師の力は、軽々しく吹聴されるべきものではないと考えられており、マナーというよりタブーという言い方の方が適切かもしれない。
つまりこの状況において五条は説明しなくても何も問題はないのだ。
ただ雫の言葉を受けて、五条は説明してもいいかなというマインドになっていた。
「仕方ねぇな。じゃあ教えるよ。でも少し話が長くなるから喫茶店にでもいかない?」
「いいわね、丁度スイーツ食べたかったの」
エリカはすぐに賛成の意を示した。
他の皆も了承したので近くにあった喫茶店に場所を移した。