転生者から死にゆく人々へ、どうか貴方の転生がより善きものでありますように   作:アりーふ

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 死臭。腐った肉と、混ざりあった血の独特な悪臭。人の死ぬ時というのは、生を維持できなくなった事によって発生する“崩壊”を否応なく想起させる。

 俺の目の前に広がっているその光景は、正しくその崩壊そのものだと言えた。

 

 死臭の漂う村。

 

 人が死に、それを片付けるものがいないという事実は、その村の村人が全滅したという何よりの証し。かつての“俺”の故郷とくらべて、建造物が残っていることを幸運と思うか、焼けた匂いが死臭をごまかさないことを不幸と思うか。

 どちらにせよ――

 

「……クソッタレな光景だ」

 

 ポツリと言葉をこぼす。

 

 俺は、現在“依頼”を受けてとある山奥の村を訪れていた。依頼、というのは“冒険者組合”と呼ばれる場所から発せられるもので、いわゆるギルドのクエストと考えて貰えれば構わない。

 この世界は、ゲーム的なステータスやスキルは存在しないものの、概ね根底はよくある異世界ファンタジーモノの例から外れていない。こういうところはこの世界の常識がない異邦人であり、故郷が木っ端の寒村だった田舎者の俺にとっては都合が良かった。

 

 今回の依頼は、「連絡の付かなかった山奥の村の状況を確認してほしい」。この世界においては割りとポピュラーというか、大規模な任務の“先触れ”として見受けられる任務だ。

 すなわち、村の人間が全滅した可能性があるのでそれを見てきてほしいというもの。当然、その原因と戦闘になる可能性も高く要求難易度は高い。

 同時に、一人で受ける任務ではないのだが、俺の場合俺個人の理由で、知り合い以外とパーティを組むことができないため今回のように知り合いが捕まらなかった場合はソロで依頼を受けることになる。

 

 まぁ、俺はソロでの生存力が他人とは桁違いなので、あまり危険はないのだが。それでも周囲からは無茶をやめろと言われるので、個人的にはあまり危険な依頼は受けたくない。

 だが、今回は事情が事情。こういう“先触れ”系の依頼はとにかく速度が第一。出られる冒険者が近場に俺しかいなかったのだからしょうがない。

 

 “先触れ”。

 この世界では、孤立した村の全滅はそう呼ばれる事が多い。何故かと言われれば想像がつくかもしれないが、単純に「村一つが全滅する事態が起きたということは、それが周囲に波及する可能性がある」からだ。大量の魔物が山から降りてきたとか、それがより大きな街に降りてくるとなれば大惨事は避けられない。

 それを事前に察知するのが、この先触れ系依頼の本質。

 

 お察しの通り、“俺”の村が全滅したのもこの先触れ案件だ。“俺”の村は無数の魔物によって滅ぼされ、その魔物たちは山を降りて麓の街を狙った。

 事前に動いていた人類は、先触れを確認した冒険者の報告を受けて防御を固めこれを撃退、街の平和が守られた。なんてことになった。

 そこで冒険者に助けられたことが、俺の今の生き方を決定づけた……という話もあるが、今は現実に意識を戻そう。

 

 いくつか魔法を使って、死臭を遮りつつ村を進む。匂いが不快というのもあるが、現状この死臭の原因が“毒”などの可能性もあるので、それを浄化して防ぐ必要があったのだ。

 村の中を探索すると、状況が鮮明になってくる。

 

 道端には、数人の村人が倒れている。逃げ出そうとしているような気配はなく、死亡したのは連絡がつかなくなったという報告が上がった時期と一致する。

 つまり彼らは日常を送っている最中に何らかの理由によって死亡したのだ。殺された可能性もあるが、あまりにも死体に損壊した様子もないから、原因は毒かなにかが濃厚。

 死体の側に吐き出されたと思われる血反吐の痕もそれを肯定している。

 

「……何にしても、気の毒な話だ」

 

 一つ言えることは、現状この“先触れ”はすでに手遅れか、まだ時間に猶予があるかのどちらかだ。何かしらの病や呪いなら、すでに下の村にも被害が出ている可能性が高いし、そうでないなら今すぐに村の麓がどうにかなるわけではない。

 俺が取るべき行動は、こうなった原因の究明と相成ったわけだ。

 

 そうと決まれば、俺は手持ちの魔法杖を取り出して、魔法を行使していく。

 この世界の魔法は杖や触媒を併用することで効果の向上が見込める。それと同時に、学んで習得してしまえば簡単なものなら誰にでも使える学問の一種だ。

 俺は冒険者をする傍ら、熱心に魔法を勉強している。異世界特有のものだから学習に熱が入っているというのもそうだが、ソロで依頼を受けることの多い俺には、冒険のために自分で習得しておくべき魔法が多いからだ。

 

「……“浄滅魔法”」

 

 今俺が唱えた魔法「浄滅魔法」もその一つ。死した魂を天に返す魔法と言われている。実際には、死亡し魂の抜けた肉体を、土塊に返す魔法なのだが意図としてはあまり変わらない。

 死して自身が抜け落ちた後に。肉体が腐れて放置されるのを望む魂もそういないだろう。

 死者を弔う魔法として、世界中で使われる魔法だ。

 

 今回のように死体が腐敗してしまうというのは、ただでさえそれが病気の原因になるだけでなく、呪いの発生源となる可能性もあるために「浄滅魔法」の使用は不可欠だ。

 村を一通り回って、倒れている村人を“浄滅”していく。そのたびに、目を伏せて祈りを捧げる。

 

 どうか、貴方の来世が幸運なものでありますように。

 

 単なる感傷であり、そして何より必要なことだ。

 この場にいると、胸が苦しくなる。過去を思い出すからだ。あの時、俺は故郷の人々を弔うべきだった。それができなくとも、それをする努力をすべきだった。

 でも、できなかった。

 

「……次は、家屋の中だな」

 

 独り言が多くなる。

 家屋の中には、おそらく食事時だったのであろう、食べられなくなった食事と一緒に食卓で倒れる村人を多く見かけた。俺はその食事にも浄滅魔法をかけながら――“生きて”いなければその魔法は人間以外にも使用可能だ――回っていく。

 一つ一つ、生存者がいないか確かめるのも兼ねて回っていけば、日も暮れる。幸いだったのは、その作業が一日で終わる程度にその村の規模が小さいものだったことか。

 

 不幸だったのは――それをする間、生存者に出会わなかったことか。

 とはいえ、それが普通のことだ。先触れの生き残りというのは非常に貴重で、その理由は様々だが総じて()()()()()()()()()()()()()

 俺がそうだったように、俺以外の生き残りも何かしら事情を抱えていた。

 

 ともあれ、生存者を探しながら、今回の件について考える。

 今回の件の原因は、おそらく“単体の魔物”だ。村一つを滅ぼす強大な力を持った魔物が現れて一瞬にして村人を殺し尽くしてしまった。

 

 原因は呪いか毒の二択だが、正直それに関してはどちらでもかまわない。どちらにしても厄介なことに変わりはないからだ。

 そして、何故そのような魔物が現れたのかについても概ね推測ができる。

 

「……また“呪紋印”か」

 

 おそらく、その家の家長だっただろう男性の死体が、“呪紋印”と呼ばれる印が刻まれたペンダントを身に着けていた。これ事態には、名前のようなおっかない特性はないが、これを家の家長が手にしているということは、この村は“呪深村(じゅしんむら)”だったことがわかる。

 ややこしい単語を使っているが、要するにどういうことかは単純だ。

 

 この村は、かつて魔物を封印した場所に作られた村だったのだ。

 この世界には至る所に魔物がいて、中には村一つ――場合によっては国一つを滅ぼしてしまうような魔物がいる。それらはときに討伐され、ときに封印されて現在も人類は生存を保ってきた。

 逆に言えば、封印されたままそのままになっている村も存在するというわけだ。

 

 そして、大抵の場合()()()()()()()()()のいる呪深村は危機感が抜け落ちる。

 まさか、自分の代で目覚めたりはしないだろう、これまでも目覚めなかったのだから。そういう楽観視のもと呪紋印の役割を忘れて初動の対処に遅れることもある。

 呪深村の住人は、最初のウチは志願制だから使命感も高いんだがな。二代、三代と重ねると使命感とかも薄れてきてしまう。

 

「とはいえ、この“速度”じゃあ、警戒したって一瞬だったか」

 

 おそらくこの村も、そういった警戒はしていなかっただろう。

 ただ、していてもどうにかなる類ではなかった。初動の対応すら許さないあたり、特性が発揮されればかなりヤバイ魔物であることは想像に難くない。

 

 とはいえ、そこまで解ってしまえば話は早い。

 少なくとも最初に使った「防呪魔法」に反応がなかったあたり、今はその魔物の呪いも効果が発揮していないようだ。こういう呪深村には封印された魔物に関する資料が眠っているから、それを回収して魔物を再封印するか、討伐するか、資料を持ち帰るか。

 どちらにせよ、それが今回の俺の目的となる。

 

「つってももう日が暮れるんだが……」

 

 再三にあるが、死者の弔いが終わる頃にはもう夜になるかという時間だ。夕暮れに、人のいなくなった静かな村がたたずんでいる。

 黄昏の光景に俺は視線をそらして、これからについて考える。

 

 流石に、村で眠ることはできない。そりゃあ寝床は山ほどあるが、流石に悪いし何よりこの場所は俺のトラウマを刺激する。普通に起きている分には問題ないが、中で寝ると慣ればとてもじゃないが眠れないだろう。

 一端山を降りる選択肢も考えたが、もしもその間に魔物がなにか行動を起こしたら困る。俺一人ならそう簡単に死ぬことはないので、ここは見張りも兼ねて村の近くで眠ることにした。

 

 そうなった時、俺は村の奥に足を運ぶことにした。

 俺がたどり着いた村は山奥の村だが、村はそこが終点ではなくその先にさらに道が続いている。おそらく、その先に魔物が封印されているのだろう。

 何か会ったときにすぐ対応するなら、魔物に近づくのが一番。流石に迂闊と思うかもしれないが、よっぽどのことがない限り死なないという俺の自負によるものだから、そこは見逃してほしい。

 なんて、おそらく無茶だと文句を言うだろう知り合いたちに侘びながら先に進むと――待っていた光景は、俺の想像とは異なるものだった。

 

 

「――花畑?」

 

 

 一面、眼を見張るような様々な花が咲き誇る花畑がそこにあった。

 そりゃもう、創作に出てくるようなきれいな花畑だ。月明かりに照らされたそこは、俺がこの世界で見てきた中でも上位に入る幻想的な光景だった。

 

 ファンタジー世界に転生して、冒険者として世界を見て回る機会はいくらでもあったがこういった景色に出くわす機会はあまりなかった。

 そういう場所を冒険するよりも、魔物とかで死にかけてる人を助けることのほうが忙しかったとか、そういう話だ。

 もしもこの世界に転生して最初に見る光景がこれだったなら――なんて、

 

「……流石に疲れたな」

 

 朝早くに麓の集落を出て、歩き通しの上に村の方では気が滅入るくらいの弔いをして。心身ともに疲れ切っていた俺は、そこで大きく息が溢れる。

 花が咲いている部分を避けて歩いて、開けた場所まで進む。ああ、こりゃダメだな、何かいい香りもするし一気に睡魔が襲ってくる。何かしら食い物でも腹に入れたほうがいいのだが、先程のこともあって食欲も対してない。

 これは、このまま寝てしまうのが賢明だろう。

 

 最低限、色々と身を守るために魔法を使う。敵意あるモノが襲ってくればすぐに目が覚めるという便利な魔法だ。「開魔魔法」なんて呼ばれるそれは、旅をする上で必須となる魔法。

 なんて――今はそんなことどうでもいいな。

 

 この後色々と面倒は残っているが――やるべきことは山積みだが、それでも。

 今はこの睡魔に、身を委ねることとしよう。

 




本日は後一話更新します。
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