転生者から死にゆく人々へ、どうか貴方の転生がより善きものでありますように   作:アりーふ

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 ――人は死ねば転生し、次の人生へと向かう。

 そこに例外はなく、俺だってあくまで転生してから前世の記憶を取り戻したにすぎない。それは単純に“救い”であると俺は思う。

 だが、だとしたら“救われない”ということもありうるのだろうか。

 

 哲学的な話になるが、“ある”ということは“ない”ということであり、それらは常に表裏一体の関係にある。この世には無数の“不可能”があるが、同時に“可能”が存在する以上、その不可能がいつまで不可能であるかは、世界の流れによって変わってくるだろう。

 

 その中に、例えば「死なない」という不可能が存在する。不老不死というのは人類の夢だと言われるが、一度死を経験し、この世の理不尽を二重に感じてしまった俺にしてみればそんなものクソ喰らえとしか言えないものだ。

 というか、単純に無限に生きても、楽しいことだけが待っているわけじゃないんだぞ? だったら、どこか区切りの良いところで「死ねる」ほうが人としてはむしろ幸運であるとすら俺は思うが……

 

 

 ――――つん。

 

 

 何にしたって、つまるところ「救われない」とは「死ねない」ということだ。一番分かりやすいたとえをするなら、毒のせいでゆっくりと死んでいくような状況は正しく救われないという言葉にふさわしい。

 ただ辛いだけ。いっそ死んでしまいたいという思いと、死にたくないという思い。死への恐怖と、死への憎悪がないまぜになるその感触は、地獄と呼ぶほかない。

 

 その点、あの村人たちは幸運だった。すぐに死ぬことができたなら、どれだけ苦しくともあの毒は救われない結果にはつながらなかっただろう。

 とはいえ、それが同時に“善かった”なんてことはありえない。あくまで、救われないわけではなかったというだけで、不運は不運。死は死に変わりはないのだから。

 

 だからこそ、それを為した魔物は、なんとかして退治するか封印するしかないのだが――

 

 

 ――――つんつん。

 

 

 さっきから俺、何かつんつんされてない?

 

「――――誰だ!?」

 

 思わず驚愕と共に、俺は目が冷めた。

 いやいや、ちょっとまて。おかしいおかしい。おかしいことはいくつもあるが、まず開魔魔法が反応しないのがおかしい。敵意のある存在を感知した時点で術者を叩き起こすその魔法の精度は絶対だ。

 少なくとも、魔物にそれを突破できたという報告はこれまでの人類史において一度もない。そもそも敵意を感じ取る前に殺されているんじゃないかという話もあるが、それをさせないくらいの範囲と敵意の感知力を誇るのが開魔魔法なわけで。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それが、どれだけ無害な存在であろうとも、だ。

 

 ――そして、飛び起きた俺の側にいたのは、そんな無害な存在だった。

 びくっと驚いた様子で、俺から距離を取っている。そりゃそうだ、俺のことを突っついていたらいきなり叫んで起き上がるんだから。でも驚いているのはこっちもだからな?

 ああ、だからアレだ……そんな泣きそうな顔をしないでくれ――

 

「ああ、えっと……悪い」

 

 そもそも“彼女”が誰なのか、どうしてここにいるのか、()()()()()()()()()()()()()、聞くべきことは山ほどあるのに、それでも俺が最初にしたのは謝罪だった。

 そりゃそうだ。だって俺の目の前にいるのは――

 

 

「えっと……その……私も、ごめんなさい」

 

 

 齢十と少しの、幼い少女なんだから。

 

 

 可憐な少女だった。素朴な顔立ちでありながら、どこか愛嬌のある容姿にブロンドの髪はこの地方特有のものだが丁寧に手入れされている。それをポニーテールにしているものだから、どこか快活な印象を抱く。

 身につけている衣服は、確か近くの都市で話題になっている可愛らしい流行の服だった気がする。

 知り合いがそこら辺に詳しいので、よく聞かされるのだが男にそういう話をしても右から左だぞ……というのは話がそれたか。

 

 ともあれ、活発さと無邪気さを同居させた、幼い少女がそこにいた。

 

 いや、いた――という話で済ませて言い訳がないのだが。

 彼女は一体どこから現れた? そもそもどうしてここにいる? あの村の住人は、調べた限り全滅で間違いはないはずだ。生き残りがいれば、あんな地獄のような環境にはいないだろう。

 何よりも彼女は明らかにあの村の住人より身なりがいい。

 すわ貴族の令嬢かとすら思えるほど、身につけているものは高価で、そして手入れが行き届いている。

 

 気になることは山ほどあるが、その中で最も大きいのは彼女が何者であるかということだ。明らかに異質な存在である彼女が、ここにいる理由を知りたい。

 そしてそのための最も単純な方法は、目の前の彼女にそれを尋ねるという至極ストレートな方法だった。

 

「起こすつもりはなかったの……初めて見る人で……父さんや、村の人とも違うから……」

「ああ、いやいいんだ……そもそもここに断りもなく入ったのは俺なんだから。驚かせてしまったよな、こちらこそ申し訳ない」

「ううん、いいの! 私嬉しい、知らない人と会うのは()()()()()()だから」

 

 ――初めて。

 彼女はたしかにそういった。

 初めて? 知らない人間と会うのが? 「父さんや村の人」という発言から、彼女は村の人間については知っている。もしくは彼女自身も村の人間ということだろう。

 だが、それにしたって外の人間を知らないというのは明らかにおかしい。

 なにせ彼女が身につけているのは、外の都市の流行ファッション。この村が外と交流のあった証だ。

 

 一つだけ、心当たりがあった。

 彼女が外の人間を知らないということは、“知れない”ということでもあり。そして、そうなると彼女は外の人間と接触“できない”環境にあったということになる。

 そうなる原因に、俺は一つだけ心当たりがある。

 それは、すなわち――

 

「ええっと、俺はダウアード。知り合いからは“ダウア”と呼ばれている。……君は?」

「私は“リーネ”。本当の名前はリーネィンだけど、皆は私をそう呼ぶわ」

 

 そう言って、彼女はどこか誇らしげに、笑みを浮かべて語るのだ。

 

 

()()をしているの。だから、貴方みたいに外の人と会うのはこれが初めてなのよ?」

 

 

 ――――楔守。

 俺の想像していた通りの存在が、そこにいた。

 

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