転生者から死にゆく人々へ、どうか貴方の転生がより善きものでありますように 作:アりーふ
7
なんてことのない昔話。
あるところに、呪深村がありました。その村の今代の楔守の名を、
ありふれた……というほどの話ではないが、呪深村が魔物の先触れで滅びることは珍しい話ではない。
俺の村は、呪深村だったのだが、滅びた理由はどこからかやってきた魔物大群だった。つまり、封印された魔物は一切関係がなく、魔物の封印も破られなかったということ。
そりゃそうだ、呪深村は先触れで滅びやすい立地に作られるのだから。
魔物の先触れで村が滅んだとき、理由もなく生存者が出ることはないといった。そして、生き残る理由の大半は
リーネのように、魔物が意図的に楔守を攻撃対象を外したり、俺のように呪深村と関係なく村が滅んだことで生き残ったりとその経緯は様々だが。
ようは楔守のような特別な存在でもない限り、一村人が魔物から生き残ることは不可能なのだ、という話。
「――悪いな恨刺狼。俺も、お前の同類なんだよ」
俺の胸元から呪紋印が飛び出したから、というわけではないだろうが狼が飛びのいて距離をとる。どちらかといえば、俺が臨戦態勢に入ったのを感じたのだろう。
一番大きな理由は、
「俺の故郷では、俺がお前みたいな魔物を封印していた。――俺も楔守なんだ」
――
そりゃそうだ、さっきの呪いは魔法を貫通した。だったら、その呪いは解呪されるまで永続するのだ。だというのに俺を蝕む呪いは、まるで最初からなかったかのように消え失せてしまった。
それが、アイツにも理解できたのだ。
では、なぜ?
「楔守には、特別な才能がある」
リーネなら、魔術師としての才能。他には、人離れした怪力の持ち主。感覚的に相手の考えていることがわかるサイコメトリーのような能力。中には、異能染みた不可思議な力も存在する。
その中で、俺の特性は――
「俺は、呪いの制御ができるんだ」
答えはとても単純だった。俺が胸元に手を当てると。
「――起きろ、“
そこから、一振りの“刀”が取り出された。
正確にはそれは刀ではなく、刀のようにデザインされた刀剣。日本刀にみられるような“波紋”が生まれないこの世界独特の製法によって作られた刀もどき。
とはいえ、どことなく前世の親近感から“刀”と呼称するそれは、俺の胸元。
これは、俺と俺の魂をつなぐ歪みである。刀は魂の中に格納されているのだ。
人間は“身体”と“魂”で構成されている。“身体”の中に何かを仕込むことができるように、“魂”の中にも何かをしまい込むことができる。それを利用したこの世界で開発された魔法によるものだ。
ともあれ、その刀が何かと言えば――
狼が、何かを訝しむように刀を見ている。それは、本能的にこの刀、“呪断”がなんであるかを理解しているかのようだった。
「解るか? 解るよな。同じだもんな、この刀の“中”にいるやつとお前は」
そう、それはすなわち。
「そうだよ、この刀の中にいる。
これこそが、俺の村で守っていた封印された魔物の――その、成れの果てだった。
魔物の封印にはいくつかの方法があり、場所を利用するものと、道具を利用するものがある。恨刺狼は場所。そして呪断の魔物は道具だ。
前者はいわゆる霊脈――魔法を発動するのに必要な魔力の集まる場所に封じ込められる。後者の場合は、魔物の一部を封印に使われるのだ。
呪断はもともと、魔物の角を用いて作られている。封印に使う道具――呪物としてはかなりポピュラーな代物だった。
――かつて、俺が目を覚ました時手元にはこの刀があった。
俺が前世の記憶を取り戻した時、燃え盛る故郷の村で、俺はこの呪断を手にしていた。記憶をたどれば、その刀は俺の両親が俺を守るために持たせたものだ。
刀には呪物、触れれば呪われる特性があるため俺以外に触れる人間はいない。
父さんと母さんは願ったのだ。せめて助かる可能性があるのなら、俺を縛る呪いであったとしてもそれに賭けたい。どうか生きてほしい――と。
不幸があったとすれば、そんな願いがあったとしても、“俺”に現実を受け入れるだけの心がなかったことか。逃げ出した“俺”は、しかしあるところで限界を迎える。
身体ではなく、心が。
しかし、それを許さない者がいた。
封じられた魔物だ。魔物もまた、この状況は窮地だったのだ。魔物同士に仲間意識なんてものはない。襲撃した魔物が自分を刀事破壊する恐れのある状況で、それを唯一打開できる可能性のある能力をもった楔守を死なせるわけにはいかなかった。
もとより、封印の魔物と楔守の間には奇妙な同族意識がある。リーネを狼が殺さなかったように、魔物は自分を生かすために俺を生かしたのだ。
「……魔物には、ある特性があった」
恨刺狼に、恨みで相手を“刺す”力があるように。
「その魔物の名前を、“
そいつには、
「――そいつには、
因断鬼が引き出したのは、いうまでもない。
以来、俺たちは奇妙な共生関係にある。
「因断鬼は、俺が生き残ることで自分の命が繋がれればそれでよかった。そして俺は、その力を使って他の魔物を倒すことにした。不思議なことに、因断鬼は俺に快く協力してくれたよ」
それが今の俺と
「――魔物によって、“俺”の故郷は滅ぼされた」
それは、決して俺の記憶ではない。前世の俺と“俺”は違うもので、俺はそれを自分だと認識している他人に過ぎない。だとしても。
父に生きろと願われたことを、俺は知っている。
母に逃げてと願われたことを、俺は知っている。
「――因断鬼は、魔物によって死にかけた」
因断鬼にとって、呪深村の人間は最も殺意を向ける対象だった。しかし、それよりもさらに殺意を募る対象が現れた。
記憶ごと、引きずり出された前世の俺と、俺の故郷の人間を呪う存在でしかなかった因断鬼にとって、“俺”の故郷というのは、それだけの存在だ。
でも、だからこそ。
そこにあった記憶、起きた出来事は変わらない。俺はそれを原点にして、因断鬼はそこに憎悪を募らせた。
「だから、俺たちは」
――警戒している。恨刺狼は動かない。こちらの話を聞いているからではなく、こちらが仕掛けてくることが目に見えているから動かないのだ。
俺が自分と同格の魔物を封印した刀を握っていることで警戒した。しかし、俺がどうしてくるか読めない。今はまだ俺を恨めない。だから、こちらの行動に反応して即座に呪いをカウンターできるよう、待っている。
「――殺すことにした」
対して俺は、刀を構える。深く腰を落として、鞘に収まったそれを抜刀する構え。居合というのは初速という意味において剣術における最強の一撃ではないかと俺は考えている。前世で剣道なんて習ったことのない素人の独学による浅知恵だが。
この場において、最善の一手であることに変わりはない。
「俺たちは」
踏み込み、
「
加速し、
「すべての魔物を、殺すことにした――!!」
――――
狼は、切り裂かれたことを認識する暇すらなく、切り裂かれていた。
次回は明日7時頃予定。