<ポケットモンスター トライアル・パレード>   作:にじのふで

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ポケモンの二次小説です。主人公はサトシです。ご興味あれば、1話からお読み下さい。

(注意)
掲載された作品で、文章の変更や文章ミス・誤字脱字などに気付きましたら、過去のも含めて後日改めて修正する可能性もあります。


9話「落とし物は、ポケモンのタマゴ」

サトシ達は、ハルタス地方を南下して行き、次に出場するトレーナー・ベストカップ第二の試練が開催されるフィオレ地方のフォルシティへと目指していた。

 

 

「この先に、スズホウタウンという街があって、その街を南へ抜けると。そこから先はフィオレ地方になる」

彼らの先頭を歩くヒョウリが、腕輪のマップを見ながら、そう告げる。その後ろでは、サトシとマナオが並んで、彼の後を追うように歩いていた。

「そっか。もうすぐ、フィオレ地方か」

「私、フィオレ地方は前から行ってみたかったんで、楽しみです」

マナオは、ウキウキでそう答えると、ヒョウリは彼女の方を向いて聞いた。

「なんだ、行った事ないのか」

「はい。私、ハルタス地方から出たことは無いんです」

今度は、隣のサトシが聞いてきた。

「マナオは、旅行とか行ったこと無いのか。ほら、こないだカゲギシ砂丘へ行った事あるとか言っていたから、てっきり」

「あぁ、そうでしたね。一番遠くへ行ったのが、カゲギシ砂丘ぐらいでして。家、貧乏だから旅行とか、滅多に出来なくて。宿泊は1泊が限度でしたし、移動は徒歩か運賃が安いバスだけでした。だから、ハルタスから出てないです」

「そっか」

「けど、それも楽しかったですよ。お父さんとお母さんと、いっぱい遊んだり。いろんな場所で遊びましたから」

マナオは、家族旅行を思い出したのか、笑顔でそう答えた。二人は、その笑顔を見て、嘘が無いのが何となく分かった。彼女の事情を知ったサトシは、彼女へ続けて話す。

「じゃあ、これからいっぱい旅行出来るな」

「え」

「俺たちと一緒に、フィオレ地方やアハラ、シントーと、いっぱい旅行出来るじゃん」

「師匠・・・そうですね。凄く楽しみです」

そんな会話をしながら、森の中を進んで行った。

彼らは、チョウドタウンから旅立って1日が既に経過し、昨日は森の中で野営をしていた。今朝は、朝食を済ませてから、次の町があるスズホウタウンまで歩き続ける為、休憩を挟みながら問題無く進んでいた。

「よし、そろそろ。休憩するか」

「賛成」

「ピカァ」

「そうですね」

森の中で、丁度いい広さのスペースに着いた彼らは、ヒョウリの提案で休憩を取った。彼らは、木に背をもたれたり、切り株や大きな石に椅子代わりに座った。各々は、カバンを下ろして、中から水筒を取り出すと、水を飲んでいく。

「ほら、ピカチュウ」

「ピィカ」

サトシは、自分の水筒のキャップをコップ代わりにして、中の水を溜めると、それをピカチュウへ渡した。それから、サトシとピカチュウは、共に水分補給を取った。

休憩をしてから10分が過ぎてから、ヒョウリが再出発の合図を出した。

「そろそろ行こう。あと1時間も歩けば、スズホウタウンだ。着いたら昼食にしよう」

「あぁ」

「ピカ」

「はい」

カバンを背負ってから、再び歩いて行こうとしたその時だった。

「ん?」

マナオが、突然背後を振り返った。

「・・・何?」

なぜ、彼女が振り返ったのか、本人にも分かって居なかった。無意識に、振り返ってしまった彼女は、奇妙な気分になった。そんな彼女に、二人は気付いた。

「どうした?行くぞ」

「・・・マナオ?」

「は、はい。行きます」

彼女は、気の所為だろうと、思い先へ歩き出しそうとした。

【■■■■】

「!」

今度は、マナオの後ろから、何かが話しかけた様な気配がした。

「ハッ」

彼女は、再び背後を振り返る。

「・・・」

一体、何者が何と言ったのかは分からない。だが、彼女は明らかに誰かに何かを言われた気がした。

(一体、何の?)

彼女は、少しだけ恐怖を覚えた。彼女は、子供の頃から怪談話や幽霊について、同年代と同じ知識を持ち、霊感こそ無いが怖いという認識はある。今の彼女には、幽霊にでも話しかけられたのではないかと考え、警戒感が上がっている。

「おい」

ヒョウリとサトシが、また彼女を呼ぶが同時に、強い何かが彼女に届いていた。

【■■■て】

「どうしたんだよ、マナオ」

【た■■■】

「おいって!」

遂に、ヒョウリに肩を掴まれて、彼女は我に返った。

「ハッ!」

「どうした?」

真剣な顔をしたヒョウリは、彼女のこわばった表情を見て、問いかける。

「えと、その・・・」

どう説明したらいいかも分からない彼女は、言葉が詰まった。だが、このまま何も言わず、黙っているも進展しない事を理解していた彼女は、答える。

「すいません。その、何かに、話し掛けられたようなで、それで」

「え?」

「もしかして、聞こえなかったんですか?」

「・・・」

ヒョウリは、不審に思い、彼女の顔を見た。それには、冗談でなく本当の事を言っているように、見受けられた。すると、サトシの方を振り返り、彼に聞く。

「サトシ、お前何か聞こえたか?」

「え?全然、何も聞こえてないけど」

サトシが、そう否定すると、次にサトシの肩に乗るピカチュウへ質問した。

「ピカチュウは?」

「ピカピカ」

首を振って、ピカチュウも同様に否定した。

「嘘」

マナオは、全員に聞こえていない事実に、驚いた。

(私にだけ、聞こえた・・・)

心の中で、そう思っていると。ヒョウリに、呼ばれる。

「マナオ、お前」

ヒョウリは、表情を変えて、彼女へ別の質問をした。

「幻覚や幻聴の持病持ち?それとも、普通の人には見えないものが見える人か?」

マナオは、ヒョウリに変な人を見るかのような目で見られて、そう言われた。それに対して、首を振りながら、彼女は否定した。

「いえ、違います」

「きっと、昨日野宿だったから疲れたんだよ。お前、まだ旅とか慣れてないからな。スズホウタウンにポケモンセンターがあるから、今日はゆっくり休め」

ヒョウリは、彼女の言葉を真剣に受けず、そう告げて、彼女の腕を掴んで歩かせようとした。

【■すけ■】

また、言葉が聞こえた。彼女は、ヒョウリやサトシの様子を見るも、本当に聞こえていない様子が、伺えた。

【本当に、私だけ?なんで?ヒョウリさんの言う通り、幻聴なの?】

【た■け■】

「まだ、聞こえる」

彼女が、そうボソリと口ずさむと、ヒョウリは心配になった。

「お前、本当に大丈夫か。確か、スズホウに人間用の病院があったから、行った方がいいかもな」

「え?」

自分が、おかしな人間として改めて言われて困惑する彼女。徐々に、本当に自分が幻聴が聞こえる病気なのではと、自分でも疑いたくなっていた。すると、サトシが話しかけた。

「なぁ、マナオ。本当に聞こえるのか?」

「・・・はい。本当に聞こえるんです」

そう言う彼女に、ヒョウリは訪ねる。

「なら、何と言ってるんだ?」

「誰かが、助けを求めてるような」

「助けを求めてる?・・・やはり、俺らには聞こえないぞ。もし、お前の言う通りなら、それは人間の耳に聞こえない上、自然の感覚に優れているポケモンにすら聞こえない。なら、音じゃないってことだ」

ヒョウリは、そう推察する。

「どこからかは、分かるのか?」

「自信はありませんが、あっちの森の奥からだと思います」

サトシに聞かれ、声が聞こえてきたと思われる後方の森へ指を差す。

「よし。行ってみようぜ」

サトシは、迷いなくそう答えると、マナオは驚く。

「!」

「俺は、マナオを信じてる」

「師匠」

サトシが、清々しい顔で、自分を信じてくれた事に、マナオは感銘した。

「ハァー。やっぱり、そう言うか」

サトシの言葉を予想出来ていたのか、急に疲れた顔をするヒョウリ。

「まぁ、誰かが本当に助けていたら、無視するのは余り良い気分になれないし、仕方ないか。1時間だけだからな」

そう言いながらヒョウリは、彼女の腕を離して、腕輪のモニターを表示させて、何かを見始めた。

「それ以上は、無しだ。今後の予定の件もあるが、この森は余り道を外れると厄介なんだ。凶暴なポケモンは、それ程いないが。崖とかあって危険なエリアだからな。いいな、二人共。俺の指示通りに動けよ」

「あぁ」

「はい」

そうして、サトシ達はマナオだけに聞こえた謎の声がする森へと、進んでいた。

「それにしても、一体誰なんだろう」

サトシは、謎の声の主が何者なのか気になった。

「分かりません。ただ、助けてとしか」

「可能性があるとしたら、ポケモンのテレパシー。だとすれば、どの個体か。エスパータイプか?」

「テレパシーか。俺は昔、ポケモンのテレパシーで何度か会話したことあるけど。いろんなポケモンと出来たからな」

「へぇ、お前もテレパシー経験者か」

「ヒョウリも?」

「あぁ、他の地方で何度かな。正直、余り気持ちの良いもので無いがな。何しろ、頭に直接話掛けるんだ。慣れねぇよ」

そう互いに、推察しながら、森の中を進んで行くと。

【たすけて】

「また、聞こえました。今度は、さっきよりハッキリと言葉が」

「「!」」

「こっちです!」

マナオは、声が聞こえた方向へ走リ出す。

「おい!森の中を走るな」

「マナオ!」

サトシ達は、慌てて彼女を追いかけた。

森の中を走るマナオは、次第に森から抜けた。そこは、雑草や花が生えている広い原っぱだった。

(確かに、こっちからだったけど。どこ?)

彼女は、声の主が近くにいるのではと、原っぱの周りを見渡しつつ、進んでいく。丁度、真ん中位に着くと、側に生えている林の中に何かの物体がある事に、気付いた。

「・・・これって」

彼女は、その物体へ近寄り屈む。

「おい、マナオ」

「急に走るな」

彼女を追っていたサトシ達も、漸く追いついた。

「ん?どうした?」

サトシは、屈んで林を見ている彼女に問いかける。

「その、これが」

二人は、マナオが指差す方向を見て、物体の普通名詞を言葉に出す。

「「ポケモンのタマゴ?」」

そこにあったのは、長さ30cm近くもあるタマゴだった。二人が、推察するにポケモンのタマゴだと直感で分かった。

「なんで、ここに」

「マナオ。まさか、そのポケモンのタマゴが?」

「分かりません。ただ、周りを見たら、このタマゴがあって。声は、確かにこの辺だと思ったんです」

ヒョウリの質問に、そう答える。

「誰かの忘れ物かな」

「一体誰が、ここに忘れるんだよ」

「そりゃ・・・ポケモンかな」

「ところで、声はもうしないのか?」

「はい。もう、聞こえなくなりました」

「だとしたら、そいつが。けど、ポケモンのタマゴの状態でテレパシーが使えるとなると、普通じゃねぇな。それに、助けを求めているなら、危険な状態なはずだ。見た限りピンチには見えないし、声の主なら対面した俺らに、また話しかけてくれるはずだが」

「うーん。師匠、どうしましょう?」

「俺に、言われても」

「置いとけ。もし、親のポケモンがいるなら、勝手に触ると襲われるぞ」

「けど、助けを求められているのに、放置するのは」

「そうだよ」

「このタマゴが助けを求めるなら、何から助けを求めているか分からないと、対応しようがないだろと言っているんだ。時間だけ過ぎちまうぞ」

「そうだけど」

彼らが、そんな会話をしているその時だ。

「グゥゥ!」

「「「!」」」

突然、彼らが向いていた森の奥から、何かの唸り声が聞こえた。その声に、3人は身構えた。

「なんだ?」

サトシは、唸り声がした森へ目を見張ると、中から黒い3つの物体が、素早く現れた。

「グラエナだ!」

その姿を見て、ヒョウリが叫ぶ。

「「グゥ」」

「ガゥ」

飛び出したグラエナは、再度サトシ達に唸り声を上げて、身を低くした。現れたのは、かみつきポケモンと呼ばれるグラエナが3体。グラエナは、(あくタイプ)のポケモンで、大昔の野生時代に群れを作って行動し、獲物を追い詰めていた。また、その活動が野生の血に残っている為、優れたトレーナーをリーダーとして認め、命令に絶対服従すると言われている。獰猛な唸り声を上げて、姿勢を低くする時は、攻撃の前触れで、鋭く尖った牙で、かみつくのが得意。正に、サトシ達の前にいる3匹のグラエナは、彼らへ攻撃態勢を取っていた。その事に、いち早く気付いたヒョウリは、警戒した。

「不味いな、戦闘態勢を取りやがった」

「バトルするしかないか」

「あれ、このグラエナ・・・このタマゴを見てる?」

マナオは、グラエナの目線が目の前にあるタマゴへ向いている事に、気付く。

「もしかすると。このタマゴ、こいつらのかもしれないな」

「じゃあ、離れた方がいいですね」

「あぁ。一応、それが懸命だ」

そうして、サトシ達はタマゴから離れて行き、グラエナの方を向きつつ、後方の来た道へと。ゆっくり後ろ歩きをした。

「そのまま、そのまま」

森のすぐ側まで来た彼らは、立ち止まりグラエナやタマゴを見張った。グラエナ達は、サトシ達が離れて事で、ゆっくりタマゴに近づいていった。

「よし。ここまで来れば、奴らも襲ってはこないだろ」

「そうだな」

「これで、大丈夫ですよね?」

「来た時はやるしかない。ただ」

「ただ?」

「肝心なテレパシーが謎になったな。もし、お前の言うテレパシーがあのタマゴからだとして、そうなれば、あのタマゴはグラエナの進化前。ポチエナが居ることになる」

「それが、どうかしたのか?」

「ポチエナに、テレパシーの特性の類を持っていない」

「・・・あっ」

「じゃあ、あのタマゴは」

そう彼らが話していると、一匹のグラエナはがサトシ達の予想を行動で教えてくれた。

「「「!」」」

グラエナが、タマゴを蹴り飛ばしのだ。そのまま、タマゴはサトシ達から見て、右側の近く木に激突した。

「あっ」

マナオは、慌ててタマゴの元に駆け寄った。タマゴを蹴ったのを見て、サトシは怒りの顔へと変わり、グラエナ達を睨む。

「あいつら」

「やはり、奴らのタマゴじゃ、ッ。来るぞ」

グラエナ達が、一気にサトシ達へ向かって走って来た。3匹の内、2匹のグラエナはサトシとヒョウリへ、残り一匹はタマゴを手で擦っているマナオへ向かっていた。その事に、マナオは気付いていなかった。

「あっ、マナオ!」

サトシは、マナオへ警告を促しながら、向かおうとした。それを気付いたグラエナの1匹が、サトシ達へ向かって、咆哮を上げた。

「ガァァァ」

すると、咆哮を上げたグラエナの口から紫色の波が発生し、彼らへ向かって放たれた。

「うわぁ」

「ピカッ」

「くぅ、バークアウトだ」

グラエナのわざ(バークアウト)だった。サトシ達は、咆哮の衝撃を受けて動けない間に、もう一匹のグラエナが一気に、彼らへ近づいて襲いかかった。サトシ達に、接触する寸前で、(バークアウト)を放つグラエナはわざを中断し、仲間への影響を配慮する。その僅かに出来た隙を、サトシは見逃さなかった。

「ピカチュウ!」

「ピッカァ!」

ピカチュウは、向かって来たグラエナが(かみつき)の攻撃で飛び掛かってきたので、(でんこうせっか)で突き返した。

一方で、マナオの方へ向かったグラエナは、タマゴを抱き抱える彼女へ飛び掛かろうとした。

「ハッ」

それに気付いた彼女は、咄嗟に体でタマゴを包むように抱き寄せ、グラエナへ背を向けた。タマゴを守ろうとするマナオ目掛けて、グラエナは1mも無い距離で、鋭い牙で(かみつこう)と口を開いた。

(ヤバイ。けど)

マナオは、このまま無抵抗に自分は攻撃を受ける事に、恐怖しながらも、無意識とはいえ抱くタマゴを守ろうとする。

それに構うこと無く、グラエナの牙は彼女で触れようとしていた。だが、突然グラエナの右頬に何かがぶつかり、そのまま吹き飛ばされて、地面を滑っていった。

「!」

マナオは、すぐ後ろで何かがぶつかった後に、何かが地面や草を滑る音が聞こえた。それから、グラエナからの攻撃が全然来ない事に、不思議がった彼女は何があったのか、ゆっくりと後ろを振り返った。

「ハッサム」

そこには、ポケモンのハッサムが居た。それを見て、彼女は、すぐさま理解した。

「あっ」

先程、サトシ達が(バークアウト)の攻撃を受ける中、マナオの危機に気付いたヒョウリが、間一髪の所で、右腕に仕込んでいたハッサムのモンスターボールを投げていたのだ。ハッサムは、ボールから飛び出した後、攻撃を受けている自分のトレーナーであるヒョウリに即座に気付き、彼を助けようとした。だが、彼のアイコンタクトにより、止めた。長い付き合いと彼の何らかの訓練によるものなのか、それだけで彼からマナオを守れと指示が分かったのだ。その後、彼女はサトシ達の方へ向かおうとしたが、彼らもまたバトルをしていた事に気付く。

「師匠達も、なら」

タマゴを抱えたまま、立ち上がった彼女は、片手で腰にあるモンスターボールを1つ取り、前へ投げた。

「行け、カラカラ」

「カラァ」

マナオも自分のポケモンであるカラカラを出して、先程襲ってきたグラエナとバトル事にした。

「ハッサム。さっきは、ありがとう。ヒョウリさんの所に戻って」

「ハッサム」

ハッサムは、彼女にそう告げられると、ヒョウリの元へ戻った。

「さぁ、行くわよ。カラカラ」

「カラ!」

カラカラは、戦闘態勢を取っていると、吹き飛ばされたグラエナは既に起き上がっていて、カラカラ目掛けて、飛び掛かって来た。

「ガァウ」

「カラカラ、ボーンラッシュ!」

「カァラ!」

カラカラは、手に持つ骨を光らせ大きくすると、そのままグラエナ目掛けて殴りかかった。だが、グラエナは間一髪で回避する。そして、カラカラの後ろを取ったグラエナは、カラカラの背中目掛けて(ずつき)をしようとした。それに気付き、すぐさまカラカラへ警告を促す。

「後ろよ!」

カラカラは、マナオの声に反応をして、振り向いて躱そうとするが、既に目の前にまで来ていたので、カラカラは自分も(ずつき)を行った。

「カラァ!」

「ガァウ!」

互いに、渾身の(ずつき)わざがぶつかり合った。それから2匹は、ぶつかったまま互いに、動こうとしなった。

「カラカラ」

心配する彼女は、名前を呼ぶ。それでも、反応しなかったカラカラの変わりに、グラエナが動き出した。

「あっ」

動いたグラエナは、そのままマナオの方へ振り返ると歩いてきた。

「ッ」

彼女は、不味いと心の中で思いつつ、タマゴを抱きしめる。このままでは、またグラエナに襲われる。ハッサムは、ヒョウリの元へ戻ってしまった。肝心のカラカラは、返事をしない。改めてピンチだと感じた彼女は、強くタマゴを抱きしめ、逃げようとする。だが、その心配はすぐに消えた。

「グッ・・・ウ」

歩いていたグラエナが足を止め、少しだけ声を出すとそのまま横へ倒れてしまったのだ。

「へ?」

何があったのか、理解出来ない彼女は、気の抜けた声を漏らす。彼女は、倒れたグラエナの顔へ目をやると、目が回っているように見えた。

「カラカ!」

すると、反応しなかったカラカラが自分の名前を呼んで、走って来た。

「カラカラ、無事だったの?」

「カラァ!」

「・・・そっか」

彼女は、気付いた。グラエナが倒れたのは、カラカラのお陰だと。先程のカラカラとグラエナの互いによる(ずつき)同士のぶつかり合い。普通、同じわざならポケモンの練度次第で、高い方が打ち勝ってしまう。だから、体格の小さいカラカラと、倍以上大きく進化をしているグラエナでは、グラエナが勝ってしまう。だが、カラカラには特性(いしあたま)があるのだ。(いしあたま)は、ポケモンのわざによって自身に返ってくる反動のダメージを無効にする特性がある。また、言葉通りに頭部の強度を増すことがある。つまり、カラカラの頭部は特性で、通常よりも固く。その頭部で出した(ずつき)が、グラエナの(ずつき)を

上回ったのだ。

「もう!心配したんだから」

「カラァ~」

カラカラは、マナオへ駆け寄って抱きつき、彼女はカラカラの頭を撫でた。

「そうだ。師匠達は」

彼女は、サトシ達の方を見て、状況の確認を取った。マナオが、バトルをしていた間、サトシ達は残った2匹のグラエナの相手をしていた。

「ガァウゥゥゥ!」

グラエナの(バークアウト)が、ピカチュウを襲う。

「ピカチュウ、躱せ」

「ピカ」

サトシの指示でピカチュウは、グラエナの攻撃をギリギリを躱した。

「ピカチュウ、10まんボルト」

「ピィカァチューーー!」

ピカチュウの得意わざ(10まんボルト)を、1匹のグラエナに浴びせた。

「ガァァァァ」

グラエナは、電撃を食らって悲鳴を上げると、その場で目を回しながら倒れ、戦闘不能となった。

「よし」

「流石、師匠。あとは」

「ハッサム、かげぶんしん」

「ハッサム」

ハッサムは、ヒョウリの指示で、(かげぶんしん)を使う。ハッサムの左右から自身の分身体を複数作り出し、残ったグラエナの周囲を囲う。多くの分身体に囲まれたグラエナは、戸惑いながら左右を見渡す。(かげぶんしん)の中に本物のハッサムが居ると考え、どれが本物か探しているグラエナに、隙が生じた。その隙をヒョウリは、見逃さなかった。

「今だ、でんこうせっか」

(かげぶんしん)の中から本体であるハッサムが、グラエナの左横から高速で飛び出し、体をぶつけた。

「ギャッン」

ハッサムの(でんこうせっか)を受けて、吹き飛ぶグラエナは、近くの木にぶつかり、そのまま目を回した。

「さて。どうやら、片付いたな」

ヒョウリは、周りを確認しつつ、三人で集まった。

「大丈夫か、マナオ」

「はい。びっくりしましたね」

「お前らの無事だな。ところで」

互いに、無事を確認していると、ヒョウリはマナオの抱えているものを見た。

「どうするんだ?そのタマゴ」

マナオが抱える今回の発端となっただろう謎のポケモンのタマゴ。

「えーと、どうするって言われても」

「タマゴは、大丈夫か?さっき、強く蹴られたけど」

「割れてはいないみたいです。ただ」

「あれから、まだ声が聞こえないのか?」

「はい。全然、聞こえなくなりました。・・・まさか、中のポケモンが」

彼女は、頭の中で最悪の事態を想像し、真っ青な顔をする。すると、ヒョウリがマナオのタマゴを両手で取った。

「貸してみろ」

タマゴを手にしたヒョウリは、タマゴ全体を見渡してから、耳を当てた。

「・・・」

「「・・・」」」

ヒョウリの聴診に、サトシとマナオは静かに見守る。

「ピィカ」

ピカチュウも同様に、心配な顔をする。それから数秒後、ヒョウリはタマゴから耳を離す。

「一応、僅かにまだ音が聞こえるから、まだ生きているはずだ」

その言葉を聞いて、マナオ達はホッとする。

「取り敢えず、スズホウタウンに行こう。ポケモンセンターで、診て貰うんだ」

「はい」

「そうだな」

サトシ達は、ヒョウリの提案により、到着予定だった町(スズホウタウン)へ、行くこと事にした。

「それと、何故グラエナがタマゴを襲ったのか分からないが、また他のポケモンに襲われる可能性もある。俺とサトシで対応するから、マナオ。お前が、これを持て。落とすなよ」

そう言ってタマゴを彼女へ返す。

「分かった」

「しっかり、持ちます」

「よし。さっきの道へ歩いて戻るぞ。道に戻ったら、走るからな。歩けば1時間だが、走れば半分で着くはずだ」

そうして、サトシ達は来た森へ戻って行った。

そんな彼らの上空に、一匹のオニスズメが飛んでいた。そのオニスズメの首には、小さなレンズの付いた機械が着けられていた。

 

 

あれから、サトシ達は元の道へ戻り、そこから走った。スズホウタウンまで、道を知っているヒョウリが正面、次にタマゴを抱えるマナオ、そして後ろをサトシが走る。ヒョウリの提案したフォーメーションを保ちつつ、ポケモンの襲撃に備えながら、町まで走った。ヒョウリとサトシが周囲に目を配った。

走ってから30分程が経過した。予定通りスズホウタウンに到着したサトシ達は、そのままポケモンセンターへ駆け込んだ。センターに着いたら、受付に居たジョーイへ、事情を説明して、すぐさまポケモンのタマゴを診て貰った。

そのまま、廊下にある待合椅子に座ったサトシ達は、心配した面持ちでタマゴが居る診察室を、ガラス越しで見守っていた。

「大丈夫かな」

「大丈夫さ」

心配するマナオを、隣のサトシが励ます。

「プロに任せるしかないさ。それに、さっき見た時、タマゴに目立った傷は見当たらなかったから。あとは、中身次第だ」

診察が始まってから1時間程が経過した。診察室の自動ドアが開き、中で見たいジョーイが出てきた。それに気づいたサトシ達。マナオは、すぐに立ち上がると、そのままジョーイへ駆けより、問いた。

「ジョーイさん、タマゴは?」

心配するマナオに、ジョーイは笑顔で答えた。

「一応、タマゴは無事なのは分かったは」

そう聞いたマナオをはじめ、サトシ達は安心した。

「良かった」

「あぁ、良かった」

「セーフだな」

そうして、安堵していたが、ジョーイから続けて話がされた。

「ただ」

「「「!」」」

「このポケモンのタマゴは、普通のタマゴと違うみたいなの」

「・・・違う?」

「どういう意味ですか?」

ヒョウリが聞く。

「先程、タマゴの検査でポケモンのタマゴ専用の検査器を使ったんだけど。生命反応以外が分からなかったの」

「え?」

「あの機器は通常、ポケモンのタマゴの中身を透視して検査する事や、タイプによってタマゴの状態を確認出来るようになってるの。けど、そのどれもが対応出来ないの」

「なら、タマゴの安全性は」

マナオが再び心配な顔をする。

「そこは、大丈夫。生体反応はしっかり取れて、健康上に問題はないわ。ただ、ポケモンのタマゴが特殊なだけみたい」

「特殊・・・」

「一体、何のポケモンのタマゴなんです?」

「それは、分からないわ。このタマゴから何のポケモンが生まれるか。実際に産まれないと、原則は分からないわ。あとは、、タマゴを産んだ親か同類のポケモンなら分かる場合もあるけど」

「そうか」

「確かに、そうだ」

「・・・けど、タマゴが無事なら安心です」

「確かにそうね。ただ、あのポケモンが何のポケモンか。分からないと親元にも返すのは、難しいわね」

全員で、ガラスの向こうにある検査器のカプセル内に置かれたタマゴを見つめる。そこで、ヒョウリが口を開く。

「そういえば。最近、ポケモンのタマゴが孵化する前に、何のポケモンか分かる装置を開発したのを、聞いたな」

「え?」

「本当ですか?」

「あぁ」

「それは、どこなんだ?」

「作ったのは、パロント財団のポケモン研究を行うピーツー機関さ」

「パロント財団?」

「5年程前から、シントーやアハラ、ハルタス地方に展開してきた世界的大きい財団だ。今年からカントーやジョウトにも、展開するって聞いたが」

「そのピーツー機関は、どこに行けばあるんですか?」

「一番近くのピーツー機関は、確かアハラ地方にあったはずだ。えぇと」

ヒョウリは、腕輪のモニターを付けると、情報を調べてみた。そうしていると、受付側でベルが鳴り、人を呼ぶ声がした。

「あの、すいません!」

声からして大人の男性の声だと分かった。

「はい」

ジョーイは、すぐさま受付を戻っていく。

そこには、一人の男が立っていた。顔は、30代位の顔で、大柄な体格。服装は、小綺麗なジャケットとカジュアルな長ズボンをしていた。

「どうかされましたか」

ジョーイは、男性に尋ねると、男は挨拶をはじめた。

「私、ヤオノといいます。実は、ここより北側の森で、私のポケモンのタマゴを、無くしてなってしまって」

その会話は、サトシ達へも聞こえた。

「・・・タマゴ」

そう呟いたマナオ。サトシ達は、そのまま受付の方へ歩いて、近くで話を聞いた。

「ポケモンのタマゴを、ですか?」

「えぇ。それで、誰かがここへ届けていないかと。こんなタマゴなんですが」

男は、ジャケットの内ポケットから1枚の写真を取り出した。そこには、ポケモンのタマゴが1つ写っていた。

「あっ」

マナオは、ジョーイの横から写真を覗いて見た。その写真に写っているタマゴは、診察室に置かれているタマゴが、全く同じものに見えた。

「ありがとうございます」

ジョーイは、写真を確認し終えると、男へ返して続けて確認を取った。

「失礼ですが、念のため、貴方の身分証を見せて頂けますか。」

そう言われ、男はズボンのポケモンから財布と取り出すと、免許証を取り出した。

「あぁ、はいはい。これです、どうぞ」

男から身分証を受け取ったジョーイは、そのまま側にあった機械を使って、身分証を読み取った。

「私、仕事は商社マンでしてね。今、休暇でハルタス地方に来ていまして、森でキャンプをしていたら、野生のポケモンに取られてしまったんですよ。本当に困ってしまって」

そう男が口で説明していると、身分証を読み取っていた機械の画面に、クリアと表示された。それを見て、ジョーイは男に身分証を返却して、話した。

「分かりました。それでは、少々お待ち下さい」

「はい」

「貴方達、ちょっと」

ジョーイは、サトシ達を呼んでタマゴのある診察室へと入っていた。ジョーイに、続いてサトシとマナオは付いて行ったのだが、ヒョウリはなぜか行かず、その場に残った。彼は、男の顔や手と見て観察していたのだ。そして、そのまま男の足元を見て、何かに気付いた。

「・・・」

診察室に入ったジョーイは、検査器のカプセルを開けて、中のタマゴを取り出す準備に入った。

「そういう訳でだから、タマゴは持ち主に返すわね」

ジョーイは、後ろの二人にそう告げる。

「はい、分かってます」

サトシは、そう返事すると隣で黙って俯いているマナオを見た。

「・・・マナオ」

「持ち主が、見つかって・・・良かったですね」

「・・・うん」

タマゴは、安全の為にとジョーイが用意した専用ケースに収納されると、受付で待っているヤオノの元へ運ばれた。

「こちらのタマゴでお間違いないですね」

ジョーイが、ケースを持ち上げて見せた。

「は、はい。それです。それ」

「こちらに居る彼ら三人が、このタマゴを届けてくれたんですよ。それも野生のポケモンに襲われていたところを、助け出して」

ジョーイがサトシ達へ手を向けて、そう説明する。それを聞いて、男は感謝した。

「そ、そうでしたか。いやぁ、ありがとうございます」

「いいえ。俺たち、偶々通りかかっただけで」

サトシは、そう答えるが、マナオは無言のままだった。

「・・・」

「それでは、こちらを」

ジョーイは、タマゴが入ったケースを、ヤオノへ手渡した。

「それでは、ありがとうございました」

男は、再度礼を言ってから、タマゴを大事に抱えて外へ出た。そのまま男は、外に止めていたジープに乗り込み、走って去った。マナオとサトシは、出入り口のところまで、去っていくジープを、見えなくなる最後まで見届けた。

「師匠・・・これで、良かったですよね?」

マナオは、隣に居るサトシへそう聞いた。

「・・・そうだな」

サトシは、マナオが寂しい顔をしているのに気付いて、そう答えた。その二人の背後から、ヒョウリが近づいて来て、話しかける。

「よし。色々あったが、昼飯にしようか」

「そ、そうだな。飯にしようぜ、マナオ。飯を食えば、元気になるさ」

「・・・はい」

彼らは、ポケモンセンターにある食堂へ向かって行く。すると、マナオだけ立ち止まった。

「ん?」

それに気付いた二人も立ち止まり、マナオへ振り返る。彼女は、黙ったまま下を見ていた。それを見て、ヒョウリとサトシは話す。

「もしかして、あのタマゴにそこまで愛着が湧いていたのか?出会って、2時間程だって言うのに」

「マナオ、俺も気持ちは分かるよ。少しだけとはいえ、出会ったポケモンやタマゴと別れて、寂しくもなるのはさぁ。俺も、今まで何度も経験がある。けど、あのタマゴは、あの男の人の大切なタマゴなんだ。だから」

「胸騒ぎがするんです」

マナオは、右手で自分の胸を押さえて、そう答えた。

「え?」

「・・・また、声が聞こえるのか?」

ヒョウリは、そう問う。

「いえ。ただの思い過ごしかもしれないです。ただ、胸の中でざわめきみたいなのが、消えないんです。あのタマゴが、あの人の元へ行ってから、ずっと」

「「・・・」」

「それに・・・ちゃんと、お別れが言えなかった」

彼女の両目に、僅かに水の粒が溢れていた。その粒は、重みでそのまま地面へ落ち、2つの小さな水跡を作った。そうしていると、第一声にサトシが言葉を開く。

「なら、追いかけよう」

「え?」

マナオは、顔を上げてサトシを見る。

「お別れが言いたいなら、ちゃんと言おう」

「・・・」

「出会って、全然短いけど。マナオが、気付いて体を張って守ったんだ。ちゃんと、お別れをしないと」

「ピカピカ、ピカチュ」

「・・・師匠、ピカチュウ」

「さぁ、追いかけよう。まだ、間に合うはずだ」

サトシは、正面の道へ走り、周りを見た。

「えーと。あの人、どっちの道へ行ったんだっけ?」

「たく。西の方、お前から見て、左側だ」

ヒョウリも道の方へ行き、サトシに教えると、後ろに佇むマナオを呼ぶ。

「おい。追いかけたいなら、さっさと行くぞ」

「マナオ、早く来いよ」

「は、はい」

マナオも二人の元へ来た。

「よし。あのジープが、西へ向かった。普通に同じ道を追っても追いつかないから、近道するぞ」

そうして、サトシ達はスズホウタウンから出て、タマゴを持ち帰ったヤオノが乗るジープを、追いかけた。町を出てから10分が経過した頃。

「ハッ、ハッ、ハッ。おい、ヒョウリ」

「なんだ」

「本当にこっちでいいのか?」

サトシ達は、普通に人が歩く道でなく、木々で生い茂る森の中を走っていた。

「あぁ、あのジームは西へ走っていた。なら、この森の中を突き抜けるのが一番速い。この先の道は、くねくね道だからな。こっちが真っ直ぐ森の中を進んでいる間、向こうは倍以上の距離を走らないといけない」

「ハッ、ハッ、ハッ」

「マナオ、大丈夫か」

「は、はい、師匠。大丈夫、です」

マナオは、息を切らせながら、必死に走っていた。

「二人とも、俺にしっかり着いてこい。この辺、危険な崖もあるからな。ハグレたら、前の時みたいになるぞ」

「分かってる」

「は、はい」

「それと、気をつけろよ」

「何を?」

「あの男にだ」

「え?」

「多分、面倒事にはなると思う」

「「?」」

 

 

サトシ達が、向かった先の森の中、ヒョウリの言う通りくねくねと曲がった道が続いていた。その道の途中で、ヤオノが乗っていたジープが、路肩で立ち往生をしていた。

「チッ。パンクしてやがる」

ヤオノは、ジープから降りて後方右側のタイヤを見て、そう言った。

「くそ、予備と交換しないと」

男は、ジープの後部に取り付けてあるスペアタイヤの取り外し、タイヤ交換の作業を始めた。

「ヤオノさん!」

すると、後ろから自分の名前を呼ばれ、作業の手を止めた。

「ん?」

後ろを振り返ると、少し行った森の中から、3人の人間が飛び出して、こちらへ向かって来た。ヤオノは、現れた3人の顔を確認して、気付いた。

「・・・あれ。君たちは、さっきの」

「は、はい。さっきのポケモンセンターで会った」

サトシ達は、漸くヤオノの元へ辿り着くことが出来たのだ。3人は、側まで近づき、立ち止まった。マナオは、息を激しく息切れをし、サトシも軽く疲れたのか、両手を膝に付いた。ヒョウリは、額に出来た汗を拭って、落ち着いて呼吸を整える。そんな3人を見て、ヤオノは事情を聞いてきた。

「どうしたんだい?」

その質問に、マナオが答える。

「あ、あの、お願いがあるんです」

「・・・何です?」

「さっきのタマゴを・・・お別れを言わせて下さい」

「お、お別れ?」

「はい」

「実は、森の中でタマゴの事を気付いたのは、マナオなんです」

サトシが、ヤオノへ説明する。

「ほお」

「それで、タマゴを襲ってきたグラエナから、身を挺して守って、その」

「その、私、タマゴが凄く気になって、どうしてもお別れを言いたいんです。お願いします」

マナオは、ヤオノへ頭を下げてお願いをした。

「・・・悪いが、無理だ」

「え」

「そんな」

「すまんな」

ヤオノは、そう言ってタイヤの交換作業を行った。

「ちょっと、だけでいいんです」

「お願いします」

「駄目と言ったろ。帰りなさい」

「あの、お願いします。別れを言うだけ」

マナオが、近寄ってヤオノにお願いをする。

「えぇい、邪魔だ」

「きゃあ」

ヤオノは、側に来たマナオを片手で突き飛ばした。そのままマナオは、地面へ尻もちを着く。

「マナオ!」

サトシは、心配して彼女の元へ寄り添う。マナオを突き飛ばした事に、サトシは少しだけ怒った表情をして、ヤオノへ文句を言う。

「いくら何でも酷いじゃないですか」

「ふん。邪魔になったから、どかしたんだ。それともお前ら、俺からタマゴを奪う気じゃないだろうな」

「そんな事しません」

「フン、どうだか。最近のガキは、大人に平気で嘘を吐くからな」

「ッ」

次第に、ヤオノの態度や言葉遣いが、ポケモンセンターで会った時に比べて、失礼で横柄になっていった。そんなヤオノに、サトシとマナオは、怪訝に思ったが、実際自分たちがお願いをする立場である事を理解して、それ以上言い出すことが出来なかった。

「もう・・・諦めましょう」

遂に、マナオが諦めてしまった。

「マナオ」

「そうかい。なら、さっさと消えてくれ」

そう言ってヤオノは、タイヤの交換作業を再び始めた。

「なっ!」

「行きましょう、師匠」

「・・・ッ」

そうやって、悔しさを我慢するサトシと諦めたマナオはヤオノから離れて、この場を去ろうとした時だった。

「なぁ、ヤオノさん」

突然、ヒョウリがヤオノへ話しかけた。その事に、二人はヒョウリを見る。

「「!」」

「あぁ?なんだ?お前も俺に用があるのか?」

ヤオノは、話しかけたヒョウリを睨んだ。

「ヒョウリさん。もう、いいで」

マナオは、ヒョウリへ諦めた事を告げようとしたのだが。

「貴方・・・ポケモンハンターですよね?」

彼のその発言で、マナオは言葉を止め、その場の全員が沈黙した。

「「「・・・」」」

十数秒の時間沈黙が続くと、ヤオノが口を開き出した。だが、いきなり自分をポケモンハンターなのかと聞かれたヤオノは、顔色が少し青くなった上、焦りながら話し始めた。

「な、何を言ってるんだ、お前は!私は、ただの旅行者だ。し、仕事は、商社マンだ。一体、何を思って、そんな事を」

ヤオノが必死に反論するのだが、それを無視して、ヒョウリは続けて話し始めた。

「そのジャケット、実に綺麗ですね。お高いでしょう?」

ヒョウリが言っているのは、脱いでジープの座席に掛かけていたジャケットを見た。

「・・・は?」

「「?」」

唐突に、ジャケットを褒めた上、その値段を問われたヤオノ。なぜ、そんな事を言い出しのかと、先程から発言同様に全く理解出来ずに、眉を顰めていた。だが、サトシとマナオも同じくして、彼の発言が理解出来ないでいた。

「なんだ、急に。べ、別に高くは、無いさ。綺麗なのは、商社マンとして普段から身だしなみをだねぇ」

「なるほど。それで、そのズボンも、凄く綺麗にアイロン掛けしてあるんですね。丸で、新品同然だ」

今度は、ヤオノの履いたズボンの方も褒めだした。

「そ、そうだとも。新品みたいに」

「じゃあ、なぜ。ブーツは、そんなに泥だらけなんです?」

「?!」

ヤオノやサトシ達全員は、ヤオノが履いているブーツを見た。ブーツは、ヒョウリの言う通りに靴先から踵まで、泥が凄く付いていた。

「さっき、貴方がポケモンセンターで歩く際、ズボンの裾が持ち上がって、足首の上まで見えました。そこも凄く泥が着いていた」

「それが、どう」

「恐らく、森の中や泥のある川沿い、泥濘などがある場所を歩いていて、付いたんだでしょう。ただし、その場合、ズボンの裾や服のどこかにも、汚れが付いていても、不思議じゃないんですよね」

「な、何が言いたいんだ」

「・・・つまり、貴方はポケモンセンターに来る前と、来た後で服装が違っているはずだと言ってるんです。丸で、前の格好だと見られると不味いかのように。それで、わざわざ新品の服を用意したとか」

「何を馬鹿な」

「ちなみに、そのブーツって、結構山岳やサバイバルでも使われる種類のものですよね。山岳や森林で活動するポケモンハンターも使う。旅行者の貴方が、なぜそれを?」

ヒョウリから話を聞いたヤオノは、次第に顔が険しくなっていた。

「ど、泥が付いていたから、なんだって。ブーツは、たまたまこれを買って履いていただけだ。これだけじゃあ、証拠にも」

「そうそう。もう1つありました」

「?」

「貴方が、ポケモンセンターから出る際、あなたのズボンにゴミが付いていたので、取ってあげましたよ」

そう言い、ヒョウリはポケットからハンカチを取り出し、畳んでいたハンカチを1度開くと、中に毛が付いていた。それを、彼はつまみ上げて、全員に見せる。

「この毛がね」

その毛を見た瞬間、ヤオノは何かに気付いたのか顔色を悪くした。

「これ、ジョーイさんに聞いたんですけど。グラエナの毛みたいですよ」

ヤマノは、額に脂汗が湧き出ながら、落ち着かない素振りを見せる。そして、サトシとマナオは、グラエナという名前を聞いて、タマゴを見つけた時の事を思い出す。

「グラエナって」

「もしかして」

「それと、その腕。結構、傷だらけですね。丸で、ポケモンにやられた跡みたいだ」

ヤオノは、自分の両腕を指摘されて、咄嗟に腕を隠すと、言い訳をした。

「これは、違う。偶々、森の中で、枝でだな」

「俺にも、あるんですよ。幼い頃、野生のポケモンに襲われて、ほら」

ヒョウリが自分の袖を捲り上げて、自分の右腕を見せた。

「どんな枝で、そんな傷が出来るんです?」

「・・・」

答えないヤオノに、ヒョウリはドスの利いた声で、再度問いかけた。

「もう一度、聞く。お前、ポケモンハンターだろ」

「・・・」

そうしている間、黙秘するヤマノから、少しだけ離れたサトシとマナオ。

「「・・・」」

「ピカァ」

サトシとマナオ、ピカチュウは、ヒョウリの話を聞いた結果、既にヤオノを敵と認識したのか、睨んでいた。周りから敵視されたヤオノは、ずっと黙ったままだったが、ふと空を見上げた。

「・・・ククク」

ヤオノは、ただ黙って空を見ていただけだったが、途中から笑いはじめた。

「「「!」」」

男が笑い始めた事へ、奇妙に感じた三人少しだけ引いていたが、それも笑い声と共に収まった。男は、再びサトシ達へ向き直ると、ヒョウリを睨みつけて、口を開く。

「貴様みたいな」

ヤオノは、自分の両手を背中に回しながら、喋る。

「目と勘の良いガキは、大っ嫌いだ!」

男は、隠して持っていたモンスターボール6つを取り出して、投げた。

「行け、グラエナ共。こいつらを片付けろ!」

ボールからは、6匹のグラエナが出てきて、サトシ達3人にそれぞれ一体ずつが立ち塞がった。サトシ達は、出てきたグラエナ達が、タマゴを襲っていた時の奴らとその仲間だと、すぐに分かった。

「行くぞピカチュウ」

「ピカッ!」

「行って、カラカラ」

「カラァ!」

「行け、ルカリオ」

「ファル!」

三人は、すぐに自分のポケモンを出し、戦闘態勢を取った。相手は、グラエナ6匹で一人に2匹が相手になっている。

「マナオ、気をつけろ。今度は2体同時に相手だ」

サトシは、隣にいたマナオへ注意を促す。

「は、はい」

一方で、ヤオノは遂に本性を現してから、サトシ達を威嚇する。

「小賢しいガキ共がぁ。お前らを倒して、そのポケモンも売ってやる!」

悪党らしい台詞を吐き捨てるヤオノ。それに対して、ヒョウリは煽り台詞で返すと同時に、先制攻撃を行った。

「やってみろよ。ルカリオ、はどうだん」

「ファル!」

ヒョウリの後に、サトシとマナオも続いた。

「ピカチュウ、アイアンテール」

「ピカ!」

「カラカラ、ボーンラッシュ」

「カラ!」

それから3対6のバトルが始まった。サトシ達は、自分のポケモンに次々と指示を出してバトルをして、ポケモンをより効率的戦わせているのだが、ヤオノは一向に行わなかった。そのせいか、数で有利だったもののポケモン自身がバトルすることで、連携や練度が悪くなり、徐々に押されていた。元々、ヤオノはポケモンバトルが得意の出なくポケモンは、ハンターとしての仕事道具として使っていた。時に人間であるトレーナーとそのポケモンを相手にすることがあったが、この様に数で押して乗り切り、不意を突くことが殆どだった。

(くそぉ。一度、こいつらにやられている以上、勝機はないか。なら、隙を見て)

男は頭の中でそう考えていた。はじめから、まともに戦う気も勝つ気もなかったのだ。サトシ達の目を見張りながら、ゆっくりとジープへ近づくと、横目で後部座席を見る。そこには、隠してあったタマゴのケースがあり、男はバレないように手をやって、グリップをそっと握る。

(よし、あとは)

男は、自分のグラエナやサトシ達とそのポケモンへと目をやって、タイミングを探った。

「ピカチュウ、10まんボルト」

「ピィカァチューーー!」

「グァァァ」

ピカチュウの(10まんボルト)を食らい、倒れる1匹のグラエナ。

「よし、ハッ!ピカチュウ、左だ!」

「ピッ!」

先程とは、別のグラエナがピカチュウの左脇から迫っていた。だが、様々なバトル経験のあるピカチュウは、すぐさま対応をした。グラエナが(かみつく)で、迫ってきた為、ピカチュウは尻尾で思いっきり地面を叩いた。その弾みで、ピカチュウの体は一気に持ち上がり、(かみつき)をするグラエナの上へと移動して、躱すことが出来た。

「!」

それに驚く、グラエナだが既に体は、かみつきと前への移動へと動いていた事で、対応が出来ない。そして、ピカチュウは宙を飛んでいる間に、次のわざを準備として尻尾へ力を込めた。

「エレキネット!」

サトシがそう指示をするが、ピカチュウにはそれが予想出来ていた。すぐさま、尻尾に黄色い電撃の球体を作り出し、真下に居るグラエナに目掛けて、電気の網を放つ。(エレキネット)は、見事にグラエナに当たり、動きを封じた。

(マナオとヒョウリは?)

サトシは、他の二人の様子を見た。

「カラカラ、ボーンラッシュ!」

「カラァ!」

カラカラの(ボーンラッシュ)の骨が、グラエナの顔に直撃し、そのまま薙ぎ倒す。だが、もう一匹のグラエナがカラカラの背後へ回っていて、(たいあたり)を仕掛けた。直撃したカラカラは、そのまま地面を転がっていった。

「あっ」

続いて、グラエナは得意な(かみつき)で倒れているカラカラへ攻撃を繰り出そうとするのだが、カラカラはそのまま起き上がれないでいた。そんなピンチな状況で、横から助け舟が来た。

「ピカチュウ、10まんボルト!」

「ガッ!」

カラカラに襲いかかったグラエナは、横からの攻撃に気づき、すぐさま攻撃を中断して、電撃を回避した。

「師匠、すいません」

「俺が、あいつを相手にするから、そっちを頼む」

マナオは、先程(ボーンラッシュ)でダメージを与えたはずのグラエナが起き上がり、再度攻撃を行おうとしている事に気付く。

「は、はい。カラカラ、起きて」

「カ、ラッ!」

返事をした彼女は、カラカラを起こす。隣のサトシとピカチュウは、電撃を躱したグラエナへと向かい合った。その様子を見ていたヤオノは、次にこの様な状況を作り出し、自分の正体を暴いた、気に入らない男(ヒョウリ)へと目を向けた。

「あ、あれ」

だが、そこにはヒョウリのポケモンのルカリオとグラエナ2匹しか居なかった。

「あいつ、どこに」

周りを見渡して、ヒョウリを探す。だが、どこにも見当たらなかった。

「おい」

背後のジープから声がした。背後を振り返ると、そこにはジープの運転席側にヒョウリが居た。

「なっ、いつの間に」

ヤオノに気付いて貰うと、ヒョウリは運転席から離れていき、ヤオノへ近づく。

「お前の目を盗んで近づく事位、余裕だよ。まぁ、お前が隙だらけなのもあるんだがな」

すると、右手で何か光るものを持っているのに、男は気付く。ジープの鍵だ。背後に回ったついでに、ヒョウリは、ジープからキーを抜いていた。

「タイヤは使えないが、念の為さ」

「そうかい、いいさ。ところで、俺のグラエナの相手をしないでいいのか?2対1だぞ?」

「あぁ、俺のルカリオなら、大丈夫だ」

ルカリオは、ヒョウリの指示を受けていない状態で、2匹のグラエナを相手にしていた。通常、トレーナーのポケモンは野生のポケモン同様に、バトル時には自身の意思で動き、わざを出せるのだが、やはり長い時間ともに活動し、特訓を重ねることで、トレーナーの思考と周囲の状況確認、判断の元で、指示がされる事でよりポケモンの強さや練度は変わる。そのため、ルカリオは普段のヒョウリからの指示を受けていた時よりも勢いは無く、普段ならすぐに倒せる力を発揮できるのだが一度に2匹の相手をしている為、未だに決着を付けれていなかった。その状況を見たヤオノは、ヒョウリに向かって話す。

「どうやら、苦戦しているみたいだぞ」

「あいつは、トレーナーの指示もないグラエナ2匹程度なら、あいつ自身で勝てる。今まで、そういう訓練をさせてきた。それに、お前が隙を見て、逃げようとするのは分かっていたから、俺一人で近づいたんだ。お前なら、平気で自分のポケモンを囮に使い捨てるだろうからな」

「あぁ、そうさ。なんだ酷いとか文句でも言うのか?」

「いや、悪党としては、利口といえば利口なやり方だろうさ。だが」

「?」

「三流以下のやり方だがな。俺なら、ポケモンで蹴散らしてからゆっくり逃げるさ」

「・・・ハ。そうかいよ、裏の人間でもない一般人がよく吠えるわ。で?俺の側まで、近づいたのはいいが、どうするんだ?」

ヤオノは、そう言って左手に持つケースとは反対の右手で背中に手を回す。今度は、モンスターボールでなく黒色で金属製の棒状のようなものを出してきた。男は、右手を軽く振ると、その棒は伸びて、長さが2倍近くになった。次に、右手の親指でグリップ部分にあるボタンを押した。すると、棒の先から小さな火花が散った。

「やるなら、やってもいいぞ。かかって来る度胸があるならな」

ヤオノが取り出したのは、電気警棒だった。これは、男がポケモンを捕獲や大人しくさせる為に使っていたもので、人間相手にも使える代物。一般的には、護身用に使われる事が多いが、所持や使用には許可を取る必要だったりもする。ヤオノは、これをポケモン用やいざっという時の為に、常に隠し持っていた。

「さぁ、来いよ。ビビってるのか」

「いや。始める前に、確認したい事がある」

「ん?なんだ?」

「なぜ、あのタマゴを、あんな森の中に置いていたんだ?」

ヒョウリは、ずっと疑問に思っていた。なぜ、あのタマゴが、あの何もない森の中の原っぱで置かれていたか。なぜ、奴のグラエナが襲ってきたのか。そうヒョウリに問われたヤオノは、さっきまで硬い表情だったが、少しだけ緩めて答える。

「あぁ?あれか。俺が、タマゴを回収した後で、小便している間に、野生のエイパムに盗られてしまってなぁ。ジープで追いかけていたが、途中木だらけの森に入られたから、グラエナ達に追わせたのさ」

「なるほど」

「その件で、俺はお前らには感謝しているんだぜ」

「?」

「最初に、お前達がタマゴを助けた際、俺のグラエナ達を倒したろ。あいつらには、タマゴを盗んだポケモンを攻撃しろ、追跡しろとしか命じなかった。そのせいで、有ろう事か肝心なタマゴまだあいつらが攻撃しやがった。危うく、ブツがパーだったぜ。日頃、俺がポケモンを襲わせ過ぎたのが、原因なのかもな」

ヤオノは、ニヤニヤしながら、そう言う。

「・・・そうかよ」

ヒョウリは、そう答えるとヤオノを睨み、戦うためか体を構えた。それに合わせて、ヤオノを構える。

「・・・」

「・・・」

互いに黙ってから、動かない二人。だが、ヤオノの方は、我慢できずに先に動き出した。

「チッ。来ないなら、こっちから行くぞぉ!」

ヤオノは、ヒョウリに向かって走り出し、彼の上半身目掛けて、電気警棒を向けた。同時に、スイッチを入れたことで、警棒の先端部分が少し電撃で光り出し、その恐さを見せつける。

(どうだ、怖いだろ。これを当てて動けなくなった後、もっと痛い目に合わせてやるからな。そして、人質に他の二人を)

そう頭の中で、考えていたヤオノは、そのまま躊躇いなく右腕を伸ばす。電気警棒とヒョウリの間が、あと10cmもない所まで来た瞬間。ヒョウリは、一気に時計回りに体を回転させると、その回転の勢いてを使い、右足の回し蹴りを繰り出した。右足は、見事に男の右手に命中し、持っていた警棒は遠くへ蹴り飛ばされてしまう。

「ガッ」

ヤオノは、右手を蹴られた痛みで、声を漏らす。

「このガキィ!」

男は、そのまま右手を強く握りしめると、そのままヒョウリの顔へ突き出していく。だが、ヒョウリは、男の拳を綺麗に躱して、掴みかかって男を倒した。

「くそぉ、離せ!ガキ」

そして、自分のポケモンへ集中していたサトシ達は、ヒョウリとヤオノが争っているのに、気付いた。

「ヒョウリ!」

「ヒョウリさん」

心配そうに二人は、彼の名前を呼ぶと、ヒョウリは振り返らずに、答える。

「大丈夫だ。お前らは、自分のバトルに集中しろ」

そのままヒョウリは、ヤオノと互いに取っ組み合いとなった。マウントを取られたヤオノは、右手で押し退けようとするのだが、ヒョウリの右手がそれを防ぐ。その為、左手で持っていたケースで、ヒョウリを殴ろうとした。ヒョウリは、咄嗟に腕で防いだが、その弾みで男の手はケースの持ち手を離してしまって、そのままケースは宙を飛んでしまった。

「しまった」

「ッ」

その事に焦るヤオノとヒョウリだが。

「あっ」

「なっ」

マナオとサトシも、それに気付いた。

すると、二人はすぐさまケースが落下する地点を見て、そこへ走り出した。

(ま、間に合わない)

マナオは、必死に走るのだが、彼女の足よりケースが落下する方が明らかに早く、距離も少し遠かった。間もなく、地面に落下しようとした時。マナオより速く走るサトシが、地面をスライディングして、両手でギリギリのところをキャッチする。

「いてぇ」

「し、師匠」

マナオも急いで近づき、心配する。

「大丈夫ですか?」

「あぁ」

それに返事をするサトシだが、彼らにピカチュウが大声で呼んだ。

「ピカピィ」

「え?」

「カラァァァ」

「あぁ」

先程までピカチュウとカラカラで、3匹のグラエナと戦っていたのだが、タマゴに気を取られたマナオの一瞬の指示が出されなかった隙に、グラエナの攻撃を見事受けてしまい、カラカラは、突き飛ばされてしまった。

「カラカラ!」

マナオは、すぐさまカラカラの元に寄るが、傷だらけでダメージを負い過ぎたのか、立つ力がもう無かった。

「ごめんね。戻って」

マナオは、カラカラをボールに戻す。

「あいつ、さっきエレキネットで封じた奴か。こうなったら、マナオ」

「はい」

「これを持って、町へ逃げるんだ」

「え?」

サトシからタマゴの入ったケースを渡された上、逃げる様に言われる。

「俺とピカチュウで、グラエナの相手をする。お前は、さっきのポケモンセンターに行くんだ」

「ですが、師匠達を置いていくなんて」

「いいから、早く」

「・・・はい」

マナオは、ケースを持ってすぐさまスズホウタウンへ走って行った。

「小娘!それを、さっさと返しやがれ」

その事に気付いたヤオノは、ヒョウリと掴み合いをしていた。

「よし、マナオ。走れ!」

ヒョウリが、そう叫んだ。

「くそ、こうなったら」

ヤオノは、ヒョウリから力いっぱい振り払い、マナオを追いかけようとするが、ヒョウリに前を防がれる。

「行かせる訳ないだろ。おっさん」

「ふん、なら」

ヤオノは、追跡を諦めると空を見上げた。そして、自分の右手の親指と人差し指で輪っか状の形を作ると、自分の口の両端に入れた。

「ヒュ~ッ!」

空へ目掛けて口笛を吹くと、その音は空まで、鳴り響いた。

(なんだ?)

その行動に、不審がるヒョウリは、男と同じように空を見た。空は、太陽の光で眩しくて、しっかり見る事が出来ないが、僅かに小さい影が見えた。

「ッ」

何かに気付いたヒョウリは、走って行くマナオへ向いて、大声を出した。

「マナオ!上だぁ!」

「へ?」

マナオは、すぐに反応して立ち止まると、空を見上げた。空から一匹のポケモンがマナオ目掛けて急降下していたのだ。彼女の目には、僅かに何かが飛んでいる程度しか分からないでいたが、その影は次第に形がハッキリと見え始め、マナオにも分かった。

(オニドリルだ)

オニドリルは、そのままマナオの正面側から向かって急降下する。

「やばっ」

彼女は、すぐに走り出して、ヒョウリ達の方へ戻っていった。だが、オニドリルはそのまま彼女を背後から襲おうと一気に加速して、近づく。

そのまま、彼女の背後から(たいあたり)をしようと突っ込んできた。

「!」

彼女は、背後から近づくオニドリルを、間一髪でわざと体を倒して、地面へ腹這いとなった。お陰で、オニドリルの攻撃をギリギリで躱せた。

「一体、何?野生?」

彼女は、上空を飛ぶオニドリルを睨んで、そう文句を言う。

「あのオニドリルは、お前のか?」

「あぁ、俺様のポケモンだ」

ヒョウリの質問に答えるヤオノ。ヤオノは、グラエナ6匹に加えて、オニドリルも所有していた。

一般のポケモントレーナーが所持しているポケモンは6体までなのが原則。これは、ポケモン自然保護法でも6匹と決められている。公式のポケモンリーグでも同様に、トレーナー1人が所持や持ち込めるポケモンは6体までとなっている。ただし、何らかの諸事情や業務上などの特殊なケースで7匹以上が必要な場合、ポケモン協会や関連団体から正式に許可された者は、7匹以上所持出来る。ただし、それは飽く迄一般的ルールでの話。無論、黙って持っている者、ヤオノように非合法的に敢えて持つ者もいる。

「さて、そういう訳だ」

ヤオノは、対峙するヒョウリから上空のオニドリルへと顔を上げると。

「行け、あの小娘を捕まえろ!」

大声でオニドリルへそう指示をした。

「森へ逃げろ!マナオ」

ヒョウリも、すぐさまマナオへそう指示をした。

「は、はい」

マナオは、ケースを抱えて森へと走り出し、オニドリルは空から森に入った彼女を追った。

その様子をヒョウリは見ていた隙が出来てしまった。それをヤオノは見逃さなかった。男は、腰に隠していたものを地面に投げつけた。投げつけたものは、3個程のゴルフボールサイズの黒い球体で、それが地面にぶつかった瞬間、破裂して中から大量の黒い煙を放った。

「仕舞った。煙幕か」

煙幕が晴れると、その場には男は居なかった。

「くそ」

周りを見たら既に男の姿は無かった。恐らく、マナオを追ったのだろう。ヒョウリは、続いてサトシの方を見た。まだ2体のグラエナを相手に戦いを繰り広げていた。他のグラエナは、ピカチュウによって、戦闘不能に気を失っていたのだが、マナオが相手にしたいた分も引き受けた上、一度に複数のグラエナを相手にするのに、やはり手こずっていた。

「くそ、このグラエナ。さっきから前に出ては退いてまともに戦えない」

「ピカァ」

どうやら、今のグラエナ達は時間稼ぎを目的とした戦い方をしているようだ。このバトルで勝つのは難しいと判断し、ポケモンハンターであるヤオノに様々な調教されていたのだろう。上手く、強いポケモンへ挑発するが、同時に攻撃を受けないようにすぐさま下がる事を繰り返し、もう一体のグラエナがそれを交代して行う。日頃、一対一で正式なポケモンバトルを続けてきたサトシとピカチュウには、少し苦手だった。

そんな彼らを見たヒョウリは、腰からもう1つのモンスターボールを出した。

「行け、ラグラージ」

「ラージ」

ヒョウリは、ラグラージを出した。

「サトシ!」

「!」

「俺が、こいつらを食い止める。マナオを追え!あの男とオニドリルが追ってる」

ヒョウリは、サトシにそう言って、残りのグラエナ達をラグラージとルカリオでまとめて相手にする事に決めた。

「・・・分かった。行くぞ」

「ピカ!」

サトシとピカチュウは、ヤオノを追って森の中へ入って行く。それをグラエナ達は、追いかけて妨害しようとするが、ヒョウリはラグラージとルカリオを使ってグラエナ4体の道を阻んだ。

「さて。お利口な君達は、俺らが相手になるよ」

 

 

森に入ったマナオは、必死に走った。慌てて森に入った彼女は、ケースをしっかりと抱えて、今はどの方角を見ているか分からないまま、前を見て走った。

「ハァ、ハァ、ハァ」

徐々に息が上がり、そろそろ走るスタミナの限界が近かった。それでも彼女は、追ってくるオニドリルから逃げようと走った。サトシに言われたポケモンセンターへ戻ろうと考えていたが、方向が分からない以上、我武者羅にただあの場から遠ざかろうと、一直線に走る。

そんな彼女を背後から勢い良く何かが突っ込んできた。それに気付かなかった彼女は、背中を強く強打した。

「がっ」

そのまま、前へ倒れ込むが、咄嗟にケースを抱きしめて体を撚ると、背中を地面へ向けてぶつける。

「くっ、いたぁ」

体に受けた痛みを堪えようとすると、先程ぶつかって来た相手を見る。

追いかけていたオニドリルだ。上から彼女を睨みつけ、翼を動かして空中を静止する。

「見つけたぞ。小娘」

「はっ」

男の声が聞こえると、そちらの方へ顔を向ける。そこには、ヤオノが居た。

「どうして」

マナオは、男の顔を見て驚く。

「ふん。隙を見て、あのガキ共から逃げたのさ。今頃、俺のグラエナ達に阻まれているだろうな。さぁ、邪魔は入らないぞ」

そう言いながら、男は倒れているマナオへ近づく。

「さぁ、返して貰」

「いやよ」

マナオは、男の言葉を最後まで聞かずに、すぐさま拒否した。

「・・・これだから聞き分けの悪いガキは・・・オニドリル」

「ギャー」

オニドリルは、再びマナオへ襲いかかる。

「ふきとばし」

ヤオノがオニドリルへ支持を出すと、オニドリルは激しく翼を羽ばたかせ、強風を起こす。

「きゃぁぁぁ」

マナオは、吹き飛ばされそうになったが、身を丸めて、必死に地面にしがみつこうとする。だが、その風の強さにマナオは、そのまま吹き飛ばされ、抱き抱えていたケースが腕からすり抜けてしまった。

「あっ」

ケースは、そのまま飛ばされ、地面の上を転がって行ってしまう。それをヤオノは、走って行き、ケースの取手を掴み持ち上げる。

「じゃあな」

マナオへそう言って、男はその場からすぐさま立ち去って行った。

「ま、待ちなさい」

マナオも男を追おうとすぐさま立ち上がろうとするが、先程のオニドリルがマナオを再び襲いかかった。

「ハッ」

彼女は、すぐに動こうとするが、体が思うように動けなかった。先程のオニドリルから受けたダメージと走って来た疲れが、彼女の体を鈍らせる。

「くっ」

自分の手持ちのカラカラは既に戦闘不能状態で、体は動かないと自覚した彼女は、もう対処が出来ないと思い、覚悟を決めて目を瞑る。あと2m程で、オニドリルの鋭い嘴が彼女へ届く瞬間。1つの電撃がオニドリルを襲う。

「ギャァァァァ」

電撃を受けたオニドリルは、大声を上げながら、全身に強い痛みと筋肉が硬直し、そのまま黒焦げになって、地面へ落下した。

「え?」

マナオは、恐る恐る目を開けて、目の前で目を回して戦闘不能になったオニドリルに驚く。

「大丈夫か」

「ピピカ」

そこに、サトシとピカチュウがやって来た。

「し、師匠」

「大丈夫か」

「は、はい。いたっ」

マナオは、起き上がろうとすると体に強い痛みが走った。

「おい、マナオ」

「大丈夫です。それより、タマゴが」

「あいつにか」

「はい。あっちへ逃げました」

マナオは、ヤオノが逃げて行った方へ、指を差した。

「よし」

「俺が取り返すから。マナオは、ここで休むんだ」

「え、けど」

「行くぞ、ピカチュウ」

「ピカ!」

そう言って、サトシとピカチュウはマナオをその場に残して、ヤオノを追って行った。

「・・・」

マナオは、その場に残って、痛みのある身体を休めた。

(私、このまま、ここで休んでいて、良いんだろうか)

彼女は、そう心の中で考えていると、あの時の言葉を思い出した。

【助けて】

頭に過った『助けて』と言う言葉。あのポケモンのタマゴから最初に話し掛けられた言葉。自分以外のサトシやヒョウリ、ピカチュウ達には聞こえず、なぜか自分だけに聞こえた助けの声。一体、なぜ自分にしか聞こえないのか、なぜ自分が助けを求められたのか、まだ分からない。正直、その事が怖かったのもあった。全く関係もない赤の他人である自分だけがタマゴに助けを求められ、タマゴが危機的状況だった事で、助けた。あとは、自身の良心とも言うべきか、あのタマゴを助けたいという気持ちから、見捨てる事が出来なかった。

(私より、師匠とピカチュウの方が強いし。それに、カラカラはもう戦えない。だから、後は師匠達に・・・)

彼女は、そう自分に言い聞かせる。これ以上、無理をしたら本当に大怪我をするかもしれない。それに、下手に自分が助けようと動いた事で、より状況を悪くして、師匠達に迷惑が掛からないかと、卑屈になってしまった。元々、ネガティブ思考のある彼女は、サトシ達と出会い、まだ短期間といえ今日まで共に旅をすることで、その悪い面が徐々に解消されていった。だが、ここでまたぶり返しが起きた。

(トレーナーベストカップを、初参加で達成出来て、凄く嬉しかった。だから、私はやれば出来るって、駄目じゃないって自信が持てた。師匠達にも励まされ、一緒にする旅が楽しくて。だから以前みたいに、1人で嫌な事に抱え込む事が無くなったし。一緒にいると、自分もあの人達みたいに出来るんだと自信が出てくる。・・・けど、やっぱり私は1人じゃ何も出来ない。あの人達の足手まといになる。私・・・やっぱり、そうだったんだ)

心の中で、そう考え込んだ。

(ずっと私、このままなのかな・・・)

「嫌だ」

そう口ずさむと、マナオは再び立ち上がった。

「行かなくちゃ」

 

 

サトシとピカチュウは、ヤオノを追って森の中を走り、遂に男の背中が視界に入った。

「居た。待て!」

「ピカァ!」

その声が、ヤオノの耳にも届き振り返ると、そこにはサトシとピカチュウが追いかけて来た事に、漸く気付いた。

(あのガキは。あいつら、足止めに失敗したな。役立たずが)

「くそぉ」

ヤオノは、全力で走って逃げる。

(手持ちポケモンは全部出しちまったし。煙幕もねぇ)

「くそ、走り抜けるしかねぇのかよ」

そのまま追いかけっこを続けた。互いに、道が悪い森の中を必死に走る。サトシとピカチュウは、普段から走る事で体力があったが、男は年齢や車移動の影響もあり、体力が衰えていた。

「ハァ、ハァ。しつこい奴だなぁ!」

ヤオノは、徐々に疲れてきた足に、より力を込めて前へと走る。

そのまま、森の中での追いかけっこを続けていると、ヤオノが何かに気付き、素早く足を止めた。

「おっとと」

そのまま、前へ倒れそうになったが、慌てて後ろへ重心を向けて、倒れずに済んだ。そして、正面の下の方を見た。

そこは深い崖となっていた。危うく、ヤオノは崖へと落下する所だった。

「ふぅー、危ねぇ。てっ、進めねぇじゃねぇか」

これ以上先へは行けない事に悔しがっていると、背後からサトシ達が追いついた。

「そこまでだ」

「ピカピカ」

ヤオノへそう警告するサトシとピカチュウ。二人は、やっと追い詰めたと考えて、徐々に詰め寄り、距離を縮めていく。

「来るな!」

そんな二人に向かって、ヤオノは大声を上げた。

「「!」」

その声に、二人は足を止める。

「このタマゴを、ここから落とすぞ」

ヤオノは、タマゴの入ったケースを持つ腕を、目の前の崖へと伸ばした。

「なっ」

「ピカッ」

男は、ニヤリと笑い、そのタマゴを崖から落とそうとした。

「辞めろ!」

サトシは、慌てた声でヤオノの行動を止めようとする。その声に反応して、動きを止めるヤオノ。

「そんな事をしたら、タマゴが」

サトシが慌てた声でそう言うと、男は彼に向かって笑みを浮かべた。

「あぁ、分かっているさ。だから、言っているんだ。俺に、近づくなと」

男が、タマゴを人質にして逃げようとしている事に理解したサトシ。

「ッ。卑怯者」

「ふん、卑怯で結構さ。悪党に、卑怯は付き物だと親に教わなかったか?うん?」

「くっ」

「ピィカァ」

サトシとピカチュウは、悔しがりヤオノを睨む。

「どうした、お前ら。このタマゴが大事なんだろ。だったら、俺を追いかけるな。それと、タマゴを諦めな」

「・・・」

サトシは、そのまま言葉を返さずに黙った。すぐに答えを返す事が出来ないからだ。

「さぁ、選びな。俺を捕まえようとして、タマゴを落とされるのと。俺を逃して、タマゴを諦めるの。どっちか選べって言ってんだ。ガキ!」

ヤオノは、大声で怒鳴る。サトシは、悔しい気持ちを顔に出しながら、考えた。だが、答えは1つしかなかった。

「分かった。お前を、捕まえようとしない」

サトシの回答にヤオノは笑いながら言った。

「ククク。利口じゃないか」

そう言って、ヤオノは徐々に後ろをチラチラ見ながら、サトシ達の方を向きつつ、バックして行った。

「いいな、こっちへ来るなよ」

男は、右手にまだタマゴの入ったケースを持ち続け、いつでも側にある崖に落とせる体勢を維持しながら、サトシ達から距離を稼ごうと一歩一歩後ろへ足を動かす。1m、2m、3mと1mずつ距離を開けていく。

「ピカピ」

「あぁ、分かってる」

そんな状況にピカチュウは、サトシに注意を促すが、サトシもそれを理解はしている。しかし、それを打開する手段や機会が無い状況だった。

(このままじゃあ。タマゴも取られるし、こいつにも逃げられる。ちくしょう)

そう悔しい気持ちを必死に抑えながら、ヤオノに隙が出来ないかと必死に睨んでいる。

「さぁ、いい子。そのまま、じっとし」

ヤオノがサトシに注意しながら喋っていた途中で、横の森から1人の人間が男へ飛び掛かかった。

「!」

「ピカ!」

その事に、ヤオノを見ていたサトシとピカチュウがいち早く気付く。

「なっ、貴様ァ!」

ヤオノは、サトシ達よりワンテンポ遅れて、真横から来た人物に気付いた。気付いたのは、僅かに聞こえた草木の揺れる音と威圧感だった。男は、相手の顔見て、声を上げる。

「タマゴを返して!」

その正体は、マナオだった。彼女は、ヤオノに飛びつくと、すぐさまケースにも手を伸ばす。

「マナオ!」

「ピカ!」

それに合わせて、サトシ達も慌てて、ヤオノの方へ走って行く。

「えぇい、邪魔だ」

マナオを必死に振り払おうとヤオノは暴れる。それに対して、マナオは男の左手で頭を叩かれても、体を激しく揺らされて吹き飛ばされようとも、必死に抵抗して離れようとしない。

「絶対、離すもんか」

「くそぉ。こうなったら」

男は、苦渋の決断をしなかったが、最早それしかないとすぐさま決断と実行をした。

右手に持つタマゴの入ったケースを崖の方へと投げたのだ。

「あぁ」

「なっ」

「ピカッ」

マナオ、サトシ、ヒョウリは、その光景を見て声を上げる。

「・・・ッ」

一番最初に動いたのはマナオだった。男から手を離すと、すぐさま投げられたケースへと

走って行く。続けて、サトシとピカチュウも同様に、崖へ飛んでいくケースへと足を動かす。

投げられたケースは、そのまま空を舞いながら、上へ飛んでいったのだが、途中から下へ落下を始めて、放物線上に崖へと向かっていた。

ケースへ向かって走るマナオは、崖から先には足場が無いのは、百も承知だったのだが、迷わずギリギリの崖の淵から飛び跳ねて、ケースへと飛んだ。そして、見事に両手でケースを抱き込む事に成功した。

(やった・・・けど)

心の中で、ケースを無事に掴んだ事に安心したと同時に、次の問題への不安が押し寄せてきた。そのまま、マナオはケースを抱えた状態で、崖へと落下し始めたのだ。

「マナオ!」

それに対して、サトシは慌てて声を上げながら、彼女へ向かって走る。そして、彼も迷わずに崖から飛ぶと彼女の足を掴んだ。

(よし・・・けど)

サトシもマナオを掴んだのだが、次にどうすればいいか考えていなかった。

「ピカピ」

崖の所でピカチュウがサトシへ叫ぶが、何も出来ない。このまま、二人とケースは崖の下へ落下する運命でしかないのが、ここにいる全員が否定したくてもそう理解するしか無かった。二人は、予想通り崖の下へ勢いよく落下を始めた。

「ピカピ!」

「ピカチュウ!」

ピカチュウとサトシは、互いに顔を見て名前を叫ぶが、すぐさま互いの姿が視界から消えた。

崖へと落ちていく二人は、落下における真下からの強い風に煽られる。

「お、落ちるぅぅぅ!」

「し、し、ししょぉぉぉ!」

「!」

「し、死にたくありましぇぇぇ!」

「お、俺もだよぉぉぉ!」

二人は、落下まので僅かな時間にそう叫ぶのだが、状況は何も変わらなかった。ただ二人は引力によって、体が地面へ引かれて行く。このままでは、二人とも助からないだろう。過去に、様々な冒険で何度も痛い目に遭いながらも、無事だったサトシですら難しい。そんな二人が、地に直撃するまであと数秒という時だ。マナオが抱き抱えるタマゴが突然光を放ちはじめた。その光は、そのまま膨れるように側に居た二人を包み込んでいき、一瞬で彼らの姿が消えた。

「ピカピィ!」

その頃、落下したサトシ達を心配して、崖の下を覗いていたピカチュウは、必死にサトシの名を叫ぶ。それと同時に、先程まで二人が居た崖の上にあるピカチュウの側が発行を始めた。

「ピカ!」

その光に気付いたピカチュウは、慌てて振り向くと、その光が次第に弱まっていき、形がくっきり見えていき、正体を現した。

「・・・ピカ」

ピカチュウの目の前に現れたのは、二人の人間だった。その二人は、空中で静止状態で現れたが、光が完全に消えた瞬間。地面に落下した。

「いてぇ!」

「きゃっ!」

落下した事で、現れた二人はその衝撃のダメージを受けて、声を上げた。そのまま、二人は地面に倒れたが、ぶつけた所を擦りながら、ゆっくりと顔を上げた。

「いててぇ・・・あれ?」

「うぅぅぅ・・・え?」

現れたのは、崖に落ちていたはずのサトシとマナオだった。

「ここは・・・さっきの」

「・・・崖から・・・落ちたはず」

二人は、周囲を見て状況が理解出来ないでいた。

「ピ、ピカピ」

そうやって頭で混乱していたサトシにピカチュウが抱きついてきた。

「あ、ピカチュウ」

飛んできたピカチュウを抱きしめるサトシ。

「良かった。俺、無事だよ」

「ピカピカ」

「もう、お前と会えないと思ってたぁ」

「ピカァ~」

一方で、側にいたマナオは、自分が大事に抱き抱えているタマゴのケースを見た。

「タマゴは・・・無事だよね」

外観から見て、ケースに問題はなく。中を開けて見ると、タマゴにも目に見えるヒビは無かった。

「・・・良かった」

「マナオ。タマゴは大丈夫か?」

「はい。一応、大丈夫みたいです」

「良かった」

まだ、完全に安心は出来ないが、一安心をする彼女。彼らが、各々が無事である事を確認していると。側に居たヤオノが、度肝を抜かれていた。

「一体、何が」

さっき自分が崖へ投げたタマゴのケースを追いかけて落ちていった二人の子供が、何か光によって、この場に戻ってきた。彼もまた、理解出来ないでいた事で、固まっていたのだ。

「・・・て」

(そんな事考えている暇ない。今のうちだ)

ヤオノは、すぐに頭を切り替えると、サトシ達の隙を見て、その場から静かに離れていき、逃げていった。

「ピカ」

「あっ」

その事に気付いたサトシとピカチュウだが、すぐさま追うことは出来なかった。

(よし、追いかけないな。このまま森の中を)

ヤオノが、森の中へ逃げようと走っていると、その前からパッシュと何か乾いた音が響き、それと同時に前方から細い何かが素早く男に向かって飛んでいった。

「!」

ヤオノは、その音と物体に気付いたのだが、すぐさま体では反応出来ず。そのまま男の両腕と両足に、飛んできた何かがいきなりぶつかると、次の瞬間手足を動かせなくなってしまった。

「なっ」

走っている途中の体勢だった男は、バランスを崩してそのまま前へ倒れ込んでしまった。

「くぅ、一体何が」

倒れ込んだヤオノは、自分の体に何があったのか直接目で確認しようと、腕や足を見た。

「なんだ、これは。くそ、解けねぇ」

男の両腕と両足には、何かワイヤー状のものが何周にも絡まって拘束されていた。

「さて、ジ・エンドだ。おっさん」

次に、その声を耳にした男は、今の声の主であり、突然現れた奴である人物へと顔を上げる。

ヒョウリだった。

「ヒョウリ」

サトシもヒョウリの顔を見て、そう声を出した。

「やはり、貴様か。くそぉ」

ヤオノは、手足に絡み付いて拘束しているワイヤーの様なものを必死に取り払おうと動くのだが、中々外す事も切ることも出来ない。

「止めとけ止めとけ。ワイヤーで切って血が出るぞ。ワイヤーは、最新のナノ繊維で出来た代物だ。むしポケモンの糸やナノ担任の金属ワイヤーなどを練り合わせて出来てる。人間じゃあ千切るのは不可能だ」

そう言うヒョウリは、自分の左手に握られた物を男に見せる。それは、見たことも無い黒色の長い妙な形をした道具だった。

「くっ」

ヒョウリの説明を聞いて理解したのか、男は悔しい顔をしながら、諦めて大人しくなった。

「ヒョウリ。それ」

サトシが、ヒョウリの手に持つ物について質問した。

「あぁ。これか。これは、俺自家製のボーラシューターって奴だ。スイッチを押すと、この先からワイヤーが発射されて、標的に絡めて動きを封じたり、走れなくする射出式の拘束具さ。最近、警察でも使い始めみたいだが、それより」

そう説明しながら、手に持つその射出器を見せていたが、中断して二人に話かけた。

「お二人さん。無事だったか」

「あぁ」

「はい。タマゴも無事です」

「そうか」

「ヒョウリこそ、グラエナ達とのバトル。大丈夫だったのか?」

「あぁ。俺のルカリオとラグラージで全員ダウンさせた」

そうサトシへ教えると、ヒョウリはヤオノへと歩み寄る。

「さて、ここから俺の仕事だ」

「え?」

サトシは、今の仕事というヒョウリの言葉に理解が出来なかったが、この後の言動で理解する。

「おい」

「!」

ヒョウリは、拘束されて地面に倒れているヤオノに向かい、見下す目で話す。

「俺の質問全て、正直に答えろ。このタマゴは、何のポケモンのタマゴだ?」

ヒョウリは、男に睨みつけながら、尋問を始めた。ヒョウリに、質問をされるヤオノだが、目を逸らして、生返事ですぐさま答えた。

「ふん、さぁな。知らねぇ、ガァァァッ!」

ヤオノが、否定しようとした瞬間、男の足に激痛が走った。ヒョウリは、男の脛を靴の踵で、思いっきり踏みつけたのだ。

「や、辞めろ。いてぇぇぇ」

ヒョウリは、踵をグリグリと回しながら、体重をかけると、男は激しく悶絶する。

「おい。真面目に、俺の目を見て、正直に答えろ」

今度は、ドスの利いた声をしてヒョウリが再度問いただす。それに痛みに耐えようとするヤオノが慌てて、説明した。

「ほ、本当だ!本当に、知らないんだ!ただ・・・や、雇い主に頼まれたんだ。指定した場所にあるあのポケモンのタマゴを盗めって」

「誰に?」

「そ、それは・・・ガァッ!」

ヤオノが、答えるのに躊躇して、間を開けると。今度は、男の股間の部分に、ヒョウリは足を乗せた。

「もう一度、聞く。誰にだ?」

そう言いながら、彼は乗せた足へ徐々に、体重を掛けていく。

「・・・ヒョ、ヒョウリ」

サトシとマナオは、先程からヒョウリがする尋問の様子を見て、少し引いていた。すると、ヤオノは、慌てて叫びだし、ついに折れてしまった。

「わ、分かった!言う、言うから。頼む!止めてくれ!答えるから」

ヒョウリは、足へ掛ける体重を少しだけ軽くした。

「モ、モゾウという男だ」

「何者だ?」

「分からねぇ。う、嘘じゃねぇぞ。40歳位の細身の白髪の男だ。仕事は、ポケモンの売買とは言っていたが・・・恐らく違う」

「なぜ、違うと思う?」

「俺も、この道20年になる。同業者や色んな裏の人間を見てきたが、奴からは売人の臭いがしなかった。多分、裏バトルの人間だ」

「裏バトル?」

サトシは、ヤオノから耳慣れない単語を聞き、呟く。

「それ以上は知らねぇ。本当だ」

男は、質問された内容を全て話し終えると、ヒョウリは男から足を退かした。

「まぁ。・・・これ位で、いいだろう」

「そ、その人、どうするんです?」

後ろのマナオから、男についての質問をしてきた。

「勿論、ジュンサ―に引き渡すさ」

「・・・くっ」

ヤオノは、この後の自分の末路を想像し、逃げられない事も含めて観念した。

「さてと。一応、ポケモンセンター町へ戻るか。タマゴも、もう一度診て貰わねぇと」

「そうだな」

「それと、こいつはジュンサーに引き渡さねぇとな。ラグラージ、こいつを運んでくれ」

「ラージ」

こうして、突然の騒動を収まった。

 

 

その後、サトシ達はスズホウタウンへ戻った。途中、サトシとタマゴを抱えたマナオは、共にポケモンセンターへ戻り、ヒョウリは拘束したヤオノをジュンサーの所へ連れて行き、事情を説明、すぐに男は御用となった。それと、ヤマノのポケモン達は、ヒョウリが全て倒していて、トレーナーであるヤオノの捕獲後に、モンスターボールを取ってポケモンを回収し、共にジュンサーへ引き渡した。

「タマゴは、無事だったのか?」

「はい。大丈夫だったそうです」

1時間後、ヒョウリはポケモンセンターに来て、サトシ達に合流していた。

「ヒョウリ、あいつの方は?」

「あぁ、大丈夫だ。明日から、あいつは臭い飯を食うだろうさ」

「そうか」

「さて。問題は、あのタマゴだ」

「結局、あのヤオノって奴は、何のポケモンなのか知らなかったんだろ?」

サトシの質問にヒョウリは答える。

「あぁ、それは間違いないだろう。ただ、あいつが言っていた依頼人のモゾウという男が、答えを知っているのかもしれない。まぁ、本人聞くのも探すのも無理だろうけど」

「なら、やっぱり生まれてきてから、分かるのかぁ」

そう彼らが会話をしていると、女性が話しかけてきた。

「君たち、ちょっといいかしら」

その声に反応して見ると、サトシ達を呼び掛けたのはジョーイだった。

「はい、なんですか?」

サトシが返事をすると、ジョーイにタマゴの件を持ち出された。

「タマゴの件で、話があるの。タマゴの所へ行きましょう」

そのまま彼らは、例のポケモンのタマゴが保管されている部屋へと入った。タマゴは、特殊な液体で満たされたカプセル内に置かれ、全体をセンサーのついたパッドをいくつも着けられていた。

「あれから、色々と調べてみたけど。やはり、特殊なポケモンのタマゴと見て間違いないわ」

「特殊?」

特殊という言葉に反応するサトシ。すると、ジョーイは部屋にある装置へ目を移す。

「あそこにある機械は、最新のタマゴを孵す事が出来る装置なの。データの中には、過去に発見され数百種類ポケモンのタマゴの情報をインプットされていて、一体何のポケモンかどういうタイプのポケモンかを判別をするの。けど」

「該当するデータが無かった?」

ヒョウリがそう言うと、ジョーイは頷いた。

「そうよ」

それを聞いてサトシとマナオも

「それじゃあ」

「もしかして」

「えぇ。高い確率で、未発見の新種のポケモンだと思われるわ」

「新種」

「じゃあ。私たち、新発見したってことですか?」

「もしそうなら。俺たちじゃなくて、あのおっさんになるが」

「・・・ところで、特殊というのはどういう意味なんですか?」

「それについては、この機械で分析をしたんだけど。タマゴの表面が特殊な物質で出来得ることが分かったの。どんなポケモンのタマゴも、タマゴの殻にある物質を含んでいて、それで形成しているんだけど。このタマゴには、それが一切ないの。それで特殊なタマゴだと考えられるわ」

「無いと何かあるんですか?」

サトシの質問に、ジョーイは

「私の予想だけど。温めたり、時間経過で孵化する事が出来るのでないかもしれないわ」

「え?」

「それじゃあ」

「つまり、簡単に孵化が出来ないという事になるな」

「「「・・・」」」

マナオがジョーイへ話しかけた。

「あの、ジョーイさん」

「何かしら?」

マナオは、ジョーイに質問をした。

「このタマゴは、その・・・この後どうなるんですか?」

「・・・基本、野生のポケモンのタマゴであれば、親元や巣に返すのが自然としてやり方なの。けど、このタマゴが何のポケモンのものなのかも。分からない場合、原則としてうちで預かる他、大きなポケモン病院やポケモン研究所、ポケモン協会の管轄となる施設で預ける場合もあるわ」

「そう・・・ですか」

マナオは、答えを聞いて、少しだけ元気の無い顔をする。

「ただ」

「?」

「私個人として言うと。貴方達に、預けた方がいいと思うの」

「「え?」」

「・・・」

サトシとマナオは、そう反応し、ヒョウリは無言のまま目を開く。

「俺たちが、ですか?」

「えぇ。貴方達なら、タマゴを任せられると思ったの」

「理由を聞いても?」

「理由は2つ。1つは、貴方達は今日会ったばかりのポケモンのタマゴを2度も必死に守ろうとしたこと」

「「「・・・」」」

「それともう1つ。タマゴが、マナオちゃんだけに話しかけたと聞いて、私思ったの。そのタマゴは、マナオちゃんを信頼出来るから心が通じたからじゃないかって」

「・・・信頼」

「ポケモンは、自分のトレーナーや他の人間を信頼するからから仲良くなれるの」

ジョーイはそう話すとサトシと彼の肩に乗るピカチュウを見た。

「サトシ君とピカチュウのように」

そう言われて僅かに照れるサトシとピカチュウが反応をする。そして、マナオはタマゴを見て思った。

「信頼・・・私を」

彼女は、口を閉じると、暫く考えた。次に、サトシやヒョウリの目を見た。彼ら二人も彼女の目を見て、それから決断し答えた。

「分かりました。私が、責任を持って預かります」

「そう、良かったわ。それじゃあ、お願いね」

「はい」

「まぁ、仕方ないな」

「あぁ。そうだ、ヒョウリ」

サトシに、呼ばれるヒョウリ。

「ん?」

「何のポケモンのタマゴか。分かる方法があるって、言ってたよな。確か、どっかの研究の、えーと、えーと、うーーーん」

サトシは、何かを思い出そうとするが、一向に答えが出て来ない。そんな彼に、ヒョウリは肩をすくめて、答えを言う。

「ピーツー機関だろ」

「そうそう、そのピーツー機関って。近くにないのか」

ヒョウリは、腕輪のモニターを出して、何かを表示させる。

「ここから一番近いのは、確かアハラ地方のケンプクタウン。丁度、地方の北東側の山中にある町。その町から少し行った所に研究所がある」

「ここからは、遠いですか?」

「あぁ。ここから直接は行けないから、北へ戻るルートなら最短で15日。南からなら倍以上は掛かるな」

「そ、そんなに」

「結構、掛かるな」

距離を想像して、二人は少しだけ疲れる顔をする。

「あぁ。だが、別に急ぐ必要はないだろ。後にはなるが、どのみちアハラ地方へ行くんだ」

「それは、そうですけど」

「それに、向かうまでにタマゴが再び話しかけて来たり、それこそ生まれるかもしれないだろ」

「まぁ。確かに」

「そうだな。タマゴが孵ったら、それで何のポケモンか分かるし」

「では。明日は、予定通りにフィオレ地方のフォルシティへ行くからな」

「はい」

「よし。明日に備えて」

サトシが話す途中で、ぐぅ~~~と三人の腹の虫が、一斉に鳴り響いた。

「あっ」

「うっ」

「そういえば、俺たち。昼飯もまだだったな」

「そうでした。お昼にしますか」

「もう、夕暮れだから、晩飯だ。さて、飯食って風呂入って、さっさと寝るぞ」

その日、サトシ達はポケモンセンターで宿泊をして、明日に備えて就寝した。

 

 

翌日。サトシ達は、ポケモンセンターを出る準備をし、受付前に居た。

「はい。これで、タマゴを背負えるわよ」

マナオは、ジョーイと話していた。

ジョーイに用意して貰ったのは、背負うタイプのポケモンのタマゴ用収納カバンだった。タマゴは、小型のタマゴ収納ケースに納められ、ケース毎カバンへ納まるサイズになっていた。

「ありがとうございます」

マナオは、それを受け取ると背中に背負った。

「一応、強い衝撃も吸収できるし、頑丈なケースに入っているけど、気をつけてね」

「はい、気をつけます」

「タマゴの事、分かると良いわねぇ」

「はい。色々とありがとうございました」

彼らは、ジョーイへ別れの挨拶と共に、手を降った。

「それじゃあ。お世話になりました」

「俺たち、行きますね」

「さようなら」

そうして、サトシ達三人はポケモンセンターから出て、そのままスズホウタウン南へと旅立った。

森の中を進んでから暫くして。南下していった彼らは、道中一旦足を止めた。

「さぁ。ここから、フィオレ地方だぞ」

ヒョウリが、二人に対して話すと、サトシとマナオは道の側に立ててあった看板へ目を移す。その看板には、<ここより、フィオレ地方>と書かれていた。この地点は、丁度ハルタス地方とフィオレ地方との境目だという事となる。

「あと5日で、第二の試練が開催される。この森を抜けていけば、3、4日後は着くはずだ」

今後の日程予定を二人に説明するヒョウリは、次に提案をした。

「さて。ハルタス地方から足を離す前に、目標の確認をしよう」

「確認?」

「なんです?」

二人は、彼に問う。

「俺達、それぞれが何をしないといけないかの再確認だ。今後も集団行動する上で、共通の目的と各自の目的を自分で確認し、仲間に伝える大事な事だ」

「そうか」

「分かりました」

「じゃあ。まず、言い出した俺から言う。本来は、俺一人でアハラを巡ってから、シントーへ行くつもりだったが、お前たちに会ってから、一緒に旅を楽しむ事にした。だから、今後も宜しく頼むぞ」

続いて、隣りにいたサトシが話し始める。

「あぁ。次、俺だな。俺は、ソウテンリーグに出場するから、ジム戦を周る。それと、ベストカップの残りの試練へ挑戦だ」

それに合わせてマナオも話す。

「私も師匠と同じ。試練への挑戦。それと」

彼女は、言葉を止めて背中のカバンを見た。

「そのタマゴを、ピーツー機関のあるケンプクシティへ行き、調べる事だろ」

彼女が言いたい事を代わりにヒョウリが代弁した。

「はい」

「さぁ、行くか」

「なら、マナオ、ヒョウリ。一緒に行くぞ」

三人は共に、フィオレ地方へ足を一歩踏み出した。




今回は、オリジナル地方のハルタス地方最後の話となり、当物語の重要な1つの展開が加わりました。サトシ達、マナオが出会った謎のポケモンのタマゴです。これは、本作オリジナルポケモンのタマゴとなります。
そして、既に表記しておりますが、私が考えたオリジナルポケモンが今後出る予定です。まだ、先になりますが、登場に合わせてイラストが描けたらと思います。こちらで用意が出来ましたら、pixivに掲載してURLを添付でも考えています。一応、これらは予定ですので、急な変更や取り止めもありえますので、ご理解下さい。

次回は、トレーナー・ベストカップ第二の試練が開催されるフォルシティがあるフィオレ地方に入って行きましたので、フィオレ地方が舞台となります。



話としては、この先最終話まで続ける予定ですので、ご興味がある方は、最後までお読み下さい。

追記:
現在、登場人物・ポケモン一覧を掲載しました。
登場する人物やポケモンが増えたら、更新します。また、修正も入ります。
今後、オリジナル設定関連についても、別途設定まとめを掲載を考えています。

(注意)
掲載された作品で、文章の変更や文章ミス・誤字脱字などに気付きましたら、過去のも含めて後日改めて修正する可能性もあります。



<作者からのメッセージ>
諸事情で、作品の作成と投稿が長期に渡り出来ませんでした。今後も稀に出来なくなるケースがあります。毎回読まれていた方、楽しみにされていた方もいらっしゃいましたら、すいません。

それと、アニポケが遂に終わってしまいましたね。サトシ(松本梨香)さんが今後出る事はないとの事なので、あれが最後のアニポケ(サトシシリーズ)になるんですね。私がまだ子供の頃にアニポケが始まってそれから10年程見ていましたが、途中から見なくなりましたので、殆ど古いアニポケしか記憶していません。しかし、26年間続いて終わった事も考えると、凄く長くやった作品である事と、何か懐かしさと寂しさもあります。

それと、今後作品を書く上で、過去作品を調べたりしますが、機会があれば過去作を見たいと思っています。
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