<ポケットモンスター トライアル・パレード>   作:にじのふで

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ポケモンの二次小説です。主人公はサトシです。ご興味あれば、1話からお読み下さい。

(注意)
掲載された作品で、文章の変更や文章ミス・誤字脱字などに気付きましたら、過去のも含めて後日改めて修正する可能性もあります。


11話「フィオレ地方・フォルシティ 港町でライバル出現?!」

サトシ達は、サトシとマナオが出場するトレーナー・ベストカップ、第二の試練が開催される町フォルシティを目指して、旅を続けていた。

 

 

そして、いよいよ試練が開催されるフィオレ地方、最大の港町フォルシティへ到着した。

「よっしゃあ!フォルシティに着いたぜ!」

「ピッピィカ!」

噴水の前で、サトシとピカチュウは両腕を振り上げ、大声で叫ぶ。

「やっと着きましたね」

「あぁ。なんとか前日には着いたな」

マナオとヒョウリも無事に町へ到着出来てホッとしていた。

「それにしても大きい町だな」

サトシが、周囲の町の様子を見て、そう言う。

「そうですね」

「何しろ、この街はフィオレ地方でも最大と言われているからな」

このフォルシティは、フィオレ地方東部の海沿いに面した港町で、旅人達の玄関としても活用される事が多い。その事もあり、地方内で最も栄えた大きな町でもある。

「これから、どうします?早速、ポケモンセンターへ行きますか」

マナオがそう尋ねるとサトシが答えた。

「あぁ、そうだな。ついでに、町も見学していこうぜ」

「ピカ」

「はい」

「よし。ポケモンセンターは、こっちだ」

ヒョウリを先頭に、彼らはポケモンセンターへ行きながら、町を見て回った。

「あの時計台、大きいですね」

彼らが歩く中、マナオが指を向けながらそう言った。サトシ達も見ると、そこには大きな古いアナログ式の時計台が、聳えていた。

「ほんとだ、大きいな」

「ピカ」

「えぇ。それに、凄く綺麗ですね」

「あの時計台、この町のシンボルの1つらしいぞ」

「へぇー」

それから、ポケモンセンターへ歩き続けていると、サトシが何かに気付いた。

「ん?」

サトシは、少しだけ立ち止まると、二人から離れて、側に外灯へ近寄った。

「師匠?」

「どうした?」

サトシが立ち止まった事に、二人が気付く。

「これって」

サトシが、じっと見ていたものは、1つの立てられた看板だった。

マナオとヒョウリもその看板を見てみると、マナオが書かれている文章を声に出す。

「この先、500m。トレーナー・ベストカップ会場・・・」

「・・・少し寄って行くか?」

「あぁ」

こうして、行き先をポケモンセンターから第二の試練が開かれる会場へと変更した。

「一体、どんな施設でしょうね」

「前の施設は凄く大きかったからな。もっと大きかったりして」

「あの運営なら有り得なくはないが、そんだけ金を費やして一体にどれだけの利益を得ているんだか」

会話をしながら、500m程歩いたサトシ達は、会場の前に当着した。

「明日。・・・ここで、行われるのか」

「これ・・・前の施設より」

「・・・小さいな」

「ピカ」

彼らの見た施設は、第一の試練の会場となった巨大なドームに比べたら、太陽とバクガメスと言う程の小さいものだった。

「まぁ。これでもポケセン位はあるけどな」

「前回のが、大きすぎたからそう見えているのかもしれませんね」

「あぁ、確かに。けど、いいさ。ピカチュウ、マナオ。明日は、頑張るぞ!」

「ピッカ!」

「はい!」

サトシが右拳を振り上げると、ピカチュウとマナオも同じように上げた。

「よし。それじゃあ、センターへ行くぞ」

そうして、予定通りのポケモンセンターへ向かおうとした時。

「ねぇ」

「ん?」

突然、サトシ達に話しかける人物が居た。

サトシ達が、振り向くと会場を歩いている一人の少年がいた。

「君達も、明日の試練の挑戦者?」

少年は、顔と体から見て、サトシとそう変わらない年齢に見えた。

「そうだけど」

少年からの質問に答えるサトシ。

「俺は違うが・・・誰?」

ヒョウリは、少年にそう言って誰なのか問いた。

「あっ、ごめん。僕の名前は、リヒト。君達と同じ、ベストカップへの挑戦者だ」

リヒトと名乗る彼は、挨拶をして、椅子から立ち上がった。

「俺は、マサラタウンのサトシ。こっちは、相棒のピカチュウ」

「ピカピカ」

サトシも自己紹介を返して、ピカチュウもサトシの肩から挨拶する。

「私、マナオです」

「・・・ヒョウリだ」

他の二人も続いて自己紹介をした。

「宜しく。いやぁ、明日の試練の会場を事前に見たくなってね。それで、周りを回っていたんだ」

リヒトが笑いながら、そう答えるとサトシも話す。

「俺達も気になって、下見に来たんだよ」

「そうか。まぁ、当然かもね。事前に下見して、気分も落ち着かせたいし」

「そうだな」

「ねぇ、サトシ。僕とバトルしないか?」

「え?」

突然、リヒトからバトルの誘いを受けたサトシ。

「いや、明日は大事な日なのは分かっているけど。ポケモンと一緒に、ウォーミングアップしたくてさ」

「バトルか。あぁ、いいぜ。どうだ、ピカチュウ?」

「ピッカ」

「そうか。だったら早速」

そう言って、サトシとリヒトから腹の虫が共に鳴り響いた。

「「あっ」」

サトシとリヒトは、互いに両手で自身の腹を抑えて、見合った。

「ハッ、ハハ。鳴っちまったな」

「あぁ。腹減ったな」

お互い、そう言って軽く笑うと横からヒョウリが話し掛ける。

「ご両人。バトルの前に、昼飯だな」

「そうだな。あっ、良かったら一緒に食べようぜ」

「いいの?」

「あぁ。飯を食った後は、バトルしようぜ」

「・・・あぁ」

 

 

それからサトシ達は、リヒトと共にフォルシティのポケモンセンターへ向かった。

到着したサトシ達は、早速センター内にあるレストランで昼食を取った。

「そうなんだ。サトシは、去年のジョウトリーグに出ていたのか」

「あぁ。ベスト8で駄目だったけどな」

「いや、凄いよ。僕なんか予選落ちだったよ」

「それでもジムバッチ8つも取ったんだから、十分凄いと思うぜ」

「そうかい。ん?もしかして、サトシはソウテンリーグに出るのか?」

「あぁ、そっちもだよ。元々、それが狙いでこっちへ来たんだ」

「そっか。俺もだ。なら、俺たちは完全にライバルだな」

「そうだな」

そうやって食事をしながら、会話を弾ませる二人。

「サトシって、すぐ誰ともで仲良くなるタイプだな」

「それが師匠の特技なのかもしれませんね」

こうして楽しい食事と会話をしていると。

「あっ。私、少しお手洗いに」

マナオは、そう言ってレストランから出て、すぐ側にある便所へと向かった。

「ねぇ。聞いた?」

「ん?」

マナオが便所へ入る直前だった。途中で、二人の女性トレーナーの会話が聞こえた。

「あれでしょ。昨日、突然この町に現れたトレーナー。なんでも強いポケモンやトレーナーに勝負を挑みまくっているって」

「そうそう。町中の強いトレーナーに挑んでは、全員を負かした上、ポケモンもボコボコにして戦闘不能にした」

「そのトレーナー達のポケモンまだここで治療中なんでしょう。本当に、怖いね」

「もし、バトルを挑まれても絶対断らないと」

「そうね」

そんな会話の内容を聞いたマナオ。

(なんか、物騒な話だな・・・)

そう思いつつ、便所に入った。

あれからサトシ達は、昼食を終えた。

「美味かった」

「ピカァ」

「さて、腹は満たしたし」

「いくか」

いよいよサトシとリヒトによるポケモンバトルを行おうと立ち上がった時だ。

すぐ側から、何かの電子音が鳴り始めた。

「「「ん?」」」

サトシ達は、周りをキョロキョロと見て回るが、どこから鳴っているから分からなかった。

「あっ、ごめん。俺だ」

リヒトは、サトシ達へそう言うと、自分の右手で左腕の袖を捲り上げた。

「おっ、懐かしいなそれ」

「それって」

ヒョウリとサトシは、彼が左腕に着けている物を見て、そう言った。

「あぁ、ポケギアだよ。旧式のだけど」

リヒトが腕に着けているのはポケモンギア、通称ポケギアと言われる携帯型端末だった。開発製造は、カントー地方のヤマブキシティに本社を置くシルフカンパニー。ポケギアには、時計機能や通話機能、マップ機能やラジオが内蔵されている。最近では、アップグレードされた新型のポケギアも出ている。今、リヒトが着けているのは、旧型である。

今リヒトのポケギアが鳴り響いていたのは、通話機能による相手から呼び出し音だった。

リヒトは、右手の指でポケギアを触ると。

「はい」

リヒトは、通話相手に出る。

『もしもし、リヒト。ミキエだけど。今、フォルシティに到着したよ』

ポケギアを通して、通話相手の声が聞こえた。声の持ち主は、女の子のもので、本人はミキエと名乗る。

「もう着いたんだ」

『予定より早い船に乗っていったからね』

「そっか」

『今、どこ?』

「ポケモンセンターだよ」

『そっか。なら、早く来てよ。町中にある時計台の側で待っているからさ』

「分かっ・・・」

リヒトは、ミキエへの返事を途中で止めて、サトシ達の方をチラッと見た。

「いや、ごめん。ちょっと、今すぐは無理。・・・明日じゃ駄目か」

『明日は試練の日でしょう。それに、明後日にはここを出発するのよ。だから、今日一緒に買物しようって約束したじゃない』

「あぁ、確かにそうだけど。その、今、ちょっと」

約束の件でリヒトは、ミキエへの説明が上手く出来ないでいた。

「あぁ、この感じ」

「彼女さんみたいですね」

横で、二人の会話を耳に入っているヒョウリとマナオは何となく理解した。

『ん?・・・もしかして・・・今、女といる?』

突然、ミキエの声色が怖くなった。

「へ?」

リヒトのいきなり言われたその言葉に、腑抜けた声を出した。

「今、女の人の声が聞こえたよ」

「いや、その別に」

「何か隠しているよね。・・・浮気してるの?」

「ち、違うよ。してない、してない、する訳ないだろ」

浮気を疑われたリヒトは、大慌てで彼女に否定する。

「だったら、動揺しているのは、なぜなの?」

「いや、その。実は、えぇと」

リヒトはなぜか答えづらいような雰囲気と醸し出しながら、オロオロしていた。

「なんか、リヒト。困ってるな」

「あれは、駄目ですね」

「全くだ。何やってんだか」

そんな彼を見たサトシ達は、それぞれそう言葉に出す。

「ハァー。仕方ないな」

すると、急にヒョウリは立ち上がると、リヒトの隣に近寄った。

「えっと。これには、あっ」

ヒョウリは、会話中のリヒトのポケギアを腕ごと自分へ引っ張ると、通話相手に話し掛けた。

「あっ。もしもし、ミキエさんですか?俺、ヒョウリと言うんですが、はじめまして。実は、リヒトと明日の試練に備えて特訓しようとしていた所だったんですよ。すいませんね。お二人の約束を俺、知らなかったので。けど、安心して下さい。デートが終わってから、特訓するんで、今すぐ彼が向かいますから。あっ、そうそう。先程、聞こえた女の子なんですけど、俺と女友達との会話だったんで安心して下さい」

一度も噛まずに長い言葉を一気に早口で話したヒョウリに、サトシ達は唖然とした。

『はぁ・・・はい』

電話相手のミキエも急な事に、追いつけていないのかただ単に返事を返した。

「ほら」

ヒョウリは、そのままリヒトの腕を話して、電話を彼へと返す。

「あっ・・・という訳だから、今から行くから待ってて」

返された彼は、彼女にそう伝えて、通話を切った。

「ヒョウリ・・・早口だったな」

「ヒョウリさん・・・何か凄い」

サトシとマナオは、そうリヒトを見ながら話す。

「こういうダラダラオロオロしているのが嫌いでね。それに、俺がさっさとこうすれば、話が進むだろ」

ヒョウリは、訳を言いながら、席に戻った。それから、通話を終えたリヒトは、サトシの方を見て、謝った。

「サトシ、ごめん!約束したけど。そういう訳だから、その」

リヒトは、申し訳ない顔をしながら、サトシの顔を伺う。そんな彼に、サトシは笑いながら、答える。

「いいよ、いいよ。大丈夫だから、行って来なよ。ここで、待ってるからさ」

「ありがとう。ほんの1時間で終わると思うから」

そう言ってリヒトは、全速力でポケモンセンターを出た。

そんな彼の後ろ姿を黙って見送ったサトシ達。

「1時間ねぇー。それで、俺たちはどうするんだ?サトシ」

「えっ」

「あいつと1時間も待つ約束をしたんだ。責任持って、お前が考えてくれよ」

「あ、あー。うーーーん。よし、俺とヒョウリがバトル」

「却下」

「えーえ」

「なら、私と」

「さっき、あいつとのバトルする話で敢えて止めなかったが、明日は大事な試練だぞ。無闇に消耗するのは、辞めたほういいぞ。それに、万が一怪我でもしてみろ。お前ら、今は一体ずつしかポケモンいないんだぞ」

「「うっ」」

「そ、それじゃあ・・・買い物と観光とかどうです?」

「別にいいが、今日じゃなくても出来るぞ。それにたった1時間だけなら、却って行き来に時間を食われて、碌に回れないと思うぞ」

「は、はい」

「・・・ハァー。ここで遊ぶか」

結局、マナオの提案を採用して、サトシ達はポケモンセンター内にあった貸出のボードゲームやトランプで、1時間程過ごすことになった。

 

 

「リヒトの奴、遅いな」

「ピ~カ」

ポケモンセンターの受付側にある待合コーナーのソファに座るサトシ達は、待っていた。

「もう2時間以上、経過したぞ。あいつ、まさかデートで夢中で忘れてるんじゃねぇか?」

「そうじゃないと言いたいですけど、あの感じだと有り得そうですね」

ヒョウリとマナオは、そう呟く。

「あーあ。折角、新しい町でバトルが出来ると思ったのに」

「ピィカァ」

バトルを楽しみにしていたサトシとピカチュウは、少しだけ残念な気持ちで話す。

そんな退屈な状況で待っていたサトシ達のポケモンセンターへ、走り込んでいる者居た。

「ジョーイさん!」

突然、二人の若い男女のトレーナーが、センター内に走り込むと男が大声でそう叫んだ。

「「「!」」」

その声に、サトシ達はすぐさま反応して出入り口を振り向く。入ってきた1人のトレーナーは、何かを抱えながら受付へと走る。そのトレーナーの姿を見たサトシは、声に出す。

「・・・リヒト」

「どうしたの?」

受付に居たジョーイが、すぐさま応対すると、リヒトの腕にはポケモンのマグマラシが抱えられていた。その姿は、傷だらけで、マグマラシ自身も凄く苦しんでいた。

「俺の、俺のマグマラシを」

両目に涙を浮かべながら、リヒトはジョーイに助けを求めた。

「まさか・・・分かったわ。ラッキー、ストレッチャーを!」

「ラッキー!」

ジョーイはすぐに助手のポケモンであるラッキーへ指示を出すと、ラッキーはストレッチャーを用意して、リヒトのマグマラシを受け取って、台の上に乗せた。

「君は、そこで待っていてね」

そのままジョーイとラッキーは、ストレッチャーでマグマラシを運び、奥の治療室へと入っていた。

「・・・あっ、はぁぁ」

マグマラシが入っていくのを見て、リヒトは泣きながらその場で崩れた。

「リヒト・・・」

彼と一緒に入ってきた女のトレーナーは、しゃがんで彼の肩に手を置く。

「大丈夫よ」

「・・・くっ」

彼女に、そう励まされるリヒトは、泣きながら凄く悔しい顔をした。そんな彼らにサトシは近づく。

「リ、リヒト・・・」

サトシが彼の名前を呼ぶと、彼はそっと振り向いてサトシの顔を見る。

「サトシ・・・」

「大丈夫か」

サトシは、地面に座り込む彼を、立ち上がるのに手を貸す。隣にいた女も反対側から腕を支えて、起こし上げた。立ち上がったリヒトは、黙ったまま俯いてた。

「・・・」

彼の顔を見ながら、サトシは彼に聞いた。

「あのマグマラシ、お前のポケモンか?」

「・・・あぁ。俺の、はじめての・・・相棒だ」

サトシの質問に涙を流しながら、リヒトは答える。

「そうか。・・・一体、何があったんだ?」

「そ、それは・・・くっ」

リヒトは、答えづらいのか。悔しい顔をしながら、言葉が出て来なかった。すると、リヒトの側に居た女が、サトシに話し掛ける。

「すいません。マグマラシは、その・・・ポケモンバトルで」

「ポケモンバトル?」

「はい。バトルで、その・・・負けて」

「負け・・・い、いくらバトルで負けたからって、あんなに」

サトシは、先程のマグマラシの怪我の具合を傍から見て、普通の怪我でないのは何となく分かっていた。だが、その原因がバトルの敗北によるものだと知ったサトシは、おかしいと思った。トレーナーになって多くのバトルをしてきたサトシには、先程の怪我が普通のバトルで出来たものにしては、酷すぎると判断したからだ。

そうサトシと女が話していると、漸くリヒトも話し始めた。

「いや、俺だ・・・俺のせいだ」

そう話すリヒトに、サトシは目を移す。

「俺が、途中で負けを認めて、いれば・・・くそ」

それから、リヒトに何があったのかサトシ達は、詳しい事情を教えて貰うことになった。

 

 

それから20分程が過ぎた頃。フォルシティのとある広場で、トレーナー同士によるポケモンバトルが繰り広げていた。

二人のトレーナーが、互いにポケモン一体ずつ出して激しいバトルを行う様子を、周囲に居た地元民や観光客、一般トレーナーなどが見物していた。

「ゴォォォ」

すると、バトルをしていたポケモンのイワークが苦しみながら、地面に倒れていった。

「イワーク!」

イワークのトレーナーである男のトレーナーは、心配しながらすぐさまイワークの元へ駆け寄る。イワークは、体中に傷を負いながら、苦しんでいた。

「くっ。戻れ」

トレーナーは、急いでイワークをモンスターボールに戻すと、相手トレーナーを睨みつける。

「くそっ」

彼が睨みつける先には、ポケモンのマッスグマ(ガラルのすがた)とそのトレーナーである一人の少年が居た。

「すげぇ」

「強すぎだろ」

「あいつ、あのマッスグマだけで15連勝じゃねぇか」

「あのマッスグマ、色が違うのね」

「ガラル地方で生息している個体らしいぞ。それもタイプがこっちのと違うとか」

先程から15戦も行われているバトルを観戦していた人々は、連勝しているガラルのマッスグマとそのトレーナーに、驚きながら感想を述べていた。

「けど」

「ちょっと、やりすぎよね」

「そうよね。ちょっと、ポケモンが可哀想」

「あんな酷いバトル見たことねぇよ」

彼らに驚きつつも、その気持ちは喜びでも興奮でもなく、ただ嫌悪感による感情、その後味の悪さが周囲の人々に漂っていた。大抵のポケモンバトルで、盛り上がりや興奮、少しの不安を感じる事もあったが、今回のは違った。先程から繰り広げるバトルは、連勝したトレーナーによって行き過ぎたものだった。一体、どのようなバトルをすれば、そうなったのかは先程までのバトルを見た者達にしか分からない。

そんな空気の中、バトルを終えた少年は、周囲の観戦者達を見た。彼は、次の挑戦者やバトルができそうなトレーナーを探しているのだ。一方で、彼と目が合ったトレーナー達は、次々と目線をズラして無視をしようとした。その中には、腕に覚える者、普段からバトルをする者が居たが、彼とのバトルを躊躇った。

「・・・もう、いないか」

少年は、対戦相手がもう居ないと判断し、腰からモンスターボールを1つ取り出すと、それを自身のマッスグマへ向けた。

「戻れ、マッスグマ」

「マス」

ボールへ戻すと彼は、その場から離れようと歩き始めた時だった。

「おい、待て!」

「!」

突然の声に、足を止めた少年。声がした方を見ると、観戦者の間をすり抜けて、こちらへ向かって来る者達が居た。それは、サトシ達だった。

「何だい、君は?」

少年は、近づいて来た彼らにそう問いた。

「お前か?ここでバトルを続けているマッスグマのトレーナーは」

先頭に居たサトシは、少年を睨みつけるかのような目で見て、そう答える。

「・・・そうだが」

「お前に用がある」

「なんだバトル希望者か?まぁ、構わん。さっさと」

「違う。文句を言いに来たんだ」

「文句?」

予想とは違った要件に、少年は疑問に思った。

「なぜ、リヒトのマグマラシをあんなに痛め付けたんだ」

「リヒト?マグマラシ?」

少年は、一体何の事を言っているか分からないでいたが、すぐに思い出したかのように答える。

「・・・あぁ。さっきの弱かったマグマラシと駄目なトレーナーの事か」

「なっ。お前!」

少年の答えた言葉に、サトシは我慢していた何かが切れたのか。いきなり両手を伸ばして、彼の胸倉を掴んだ。

「おい、落ち着けよ。いきなり、突っ掛かっても話が進まない」

「師匠。暴力は辞めましょう」

「ピカピカ」

「うっ。あ、あぁ」

ヒョウリとマナオ、それと肩に居たピカピカに止められて、サトシはすぐに冷静さを取り戻し、掴んでいた手を離した。

「あっ・・・わ、悪い。いきなり」

「いや、いい。それで、そのマグマラシとトレーナーの事で、俺に何が聞きたいんだ。自己紹介もしない、名無しさん」

少年は、掴まれて出来た上着のシワを伸ばしながら、サトシに対して、そう指摘した。

「俺は、マサラタウンから来たサトシだ」

「そうか。なら、俺も答えよう。俺は、ベルアだ」

サトシが自己紹介を言ったのに対して、ベルアと名乗る少年も自身の名乗り返した。

「ベルア。俺が言いたいのは、なぜバトルでリヒトのマグマラシを、あんなに痛めつけたあかだ。普通のバトルだけであそこまでする必要はないだろ」

「なぜか、ねぇ・・・」

ベルアは、サトシの質問にどう答えようか一旦考えて、話し始めた。

「それは、あのリヒトという奴が悪いのさ」

「リヒトが悪い?」

「あぁ。彼のマグマラシが、俺のマッスグマより弱い癖に、諦めずに何度も立ち向かってきたから。それで、さっさと片付けようと、立ち上がれなくしただけさ。勿論、正当なポケモン同士のバトルでだ」

「・・・そんなの」

「それに、トレーナーもポケモン同様に駄目な奴だった。そもそもバトルのセンスすらない」

「!」

「そうだ。彼の知人ならアドバイスをしておいてくれ。君とマグマラシは、バトルの才能が無いから、別の道を進んだ方がいいって」

その言葉を聞いたサトシは、眉間シワを作った。

「なぁぁぁに!」

「おいおい、サトシ」

サトシが再び、ベルアに掴みかかろうとしたので、ヒョウリが抑える。

「離してくれ」

「ここで、トラブルを起こしてジュンサーに厄介なってみろ。明日は出れねぇぞ」

「・・・ッ」

ヒョウリの警告を聞いてサトシは、怒りを堪えて力を緩めた。そんな二人のやり取りを聞いていたベルアは、質問をしてきた。

「明日?サトシ、君はもしかしてトレーナー・ベストカップへ挑戦中か?」

「そうだけど。もしかして、お前も?」

「あぁ、そうだ。今、この町に来た殆どのトレーナーは、第二の試練への挑戦者だ。なら、俺も君も同じ挑戦者である可能性は、十分あり得る話だろ」

ベルアはサトシと同じ挑戦者だと知り、少しだけ態度を変えた。

「そうだ。1つ提案をしていいか?」

「提案?」

「僕のやり方を、どうしても否定して反論したいなら・・・トレーナーとしてやれる事は1つ」

そういって彼は、腰からボールと手に取って、それをサトシへ向けた。

「ポケモンバトルしかないだろ。どうだ、俺とバトルするか?」

「・・・」

ベルアからバトルの誘いを出されたサトシに、ヒョウリが横から話す。

「おい、サトシ。挑発に乗るな」

「あぁ、分かってるよ」

「なんだ、しないのか?」

「あぁ。ポケモンは喧嘩の道具じゃないって、昔学んだからな」

サトシは、そう彼に対して、言い返してバトルの挑発を無視した。

「ふん。なら、俺は行くぞ。今は、明日の試練のウォーミングアップついでにバトルをしていたのさ」

「なっ、まだ話は」

「一体、何を話すと言うんだ?俺とのバトルでボコボコにされた敗者に謝れというのか?お前、そんなのでバトルをしてきたのか?」

「・・・」

サトシは、彼に言いたかった文句が次第に言えなくなってしまった。

「もう行くぞ。ここに、相手が出来る奴が一人も居ない」

そう言い残して、彼はその場から離れて行った。

 

 

その後、サトシ達は先程のポケモンセンターへと戻って行った。

受付のジョーイにリヒトとマグマラシの居る場所を聞いて、そこへ向かった。

行った先は、センターでの治療を終えたポケモン達が収容された病室のあるエリアだった。その内の1つに入ったサトシ達。その部屋には、10匹のポケモンがベッドの上で休んでいて、隣にはそのトレーナーと思われる人々が付き添っていた。

その中の1つに、リヒトの姿が見えた。

「リヒト」

サトシ達は、彼に声を掛けながら側に寄った。

「サトシ・・・」

「どうだ、マグマラシの容態は」

「ああ。何とか、無事に治療を終わった。このまま安静にしていれば、3日後には元気になるだろうって」

「そっか。良かっ」

サトシは、途中で言葉を止めた。リヒトの説明の中にあった言葉に、引っ掛かったからだ。明日は、大事なトレーナー・ベストカップの第二の試練。リヒトは、サトシ同様にその試練に挑戦する。しかし、彼から今説明された内容では、マグマラシでの明日は不可能だと気付いた。

「リ、リヒト。明日は」

サトシは、何を言えばいいか分からなかったが、それでも彼の意思を確かめたかった。

「明日は出ない」

「・・・他にポケモンは?」

「・・・あと5匹いる。けど、俺達はもう約束しているんだ」

「?」

「一緒に、最後の試練まで一緒に達成しようって。だから、俺はマグマラシじゃないと挑戦しない。・・・すまない、サトシ」

「・・・分かった」

サトシは、彼の気持ちを理科して、これ以上の事は言わない事にした。

「悪いな。約束、2度も破っちまって」

「い、いいよ。そんな事、それより今はマグマラシの事を考えてくれ」

「・・・そうだな。ありがとう」

サトシとリヒトが話していると、彼らの元に一人の女の子が近づいて来た。

「あっ」

「ん?」

「・・・さっきの」

サトシ達が見ると、それはこのポケモンセンターでリヒトと共に居た女の子のトレーナーだった。彼女の両手には、飲み物が入ったペットボトルを2つ持っていない。

「ど、どうも」

彼女は、サトシ達に軽くお辞儀をすると、手に持っていたペットボトルの1つをリヒトに渡した。

「リヒト、飲み物持ってきたよ」

「ああ、ありがとう」

彼は、彼女に礼を言って、それを受け取った。

「サトシ達が、心配してお見舞いに来てくれたんだ」

「そ、そうなの。ありがとうございます」

彼女は、リヒトからそう説明を受けて、サトシ達に礼を言う。

「いや、別に」

「そういえば、まだ自己紹介していませんでしたね。私は、ミキエです。リヒトの・・・友達です」

ミキエは、サトシ達へ自己紹介をしてきたので、彼らの方も自己紹介を始めた。

「俺は、サトシです」

「ピッカチュウ」

「マナオです」

「通話で話しましたヒョウリです」

それから、サトシ達は一度病室から出て、側の休憩ルームで共に話をした。サトシ達がベルアに会ってからの事、もう一度リヒトがサトシ達から別れてベルアとバトルした事。

「ほんと、許せないわ。私のリヒトとマグマラシを」

「そうですよね。全く許せないトレーナーです」

「まぁ、確かに。余り良いやり方とは言えないな」

そうやって、ベルアに対して不満や文句を言っていた。

それから、リヒト達と別れたサトシ達は、各々が個別で行動することにした。

「では、師匠。一緒に、センターの裏のフィールドで軽いトレーニングしましょう。カラカラ、明日に備えて頑張ろう」

「カラカラ」

「俺は、ちょっと連絡したい所があるから、また夕飯の時に合流しよう」

ヒョウリと分かれたサトシとマナオは、1時間程トレーニングを行った。しかし、途中でサトシとピカチュウは抜ける事にした。理由は、どうしてもサトシは気が入らなかった。

そのままサトシとピカチュウはセンター内の廊下を歩いていた。彼は、今日あった事で、心に感じた事や考え事が多かったせいか、少しだけ疲れているようだった。

「・・・」

まさに、サトシは上の空の状態になっていた。

「うっ、うぅ」

「!」

サトシは、廊下の端にある長椅子に座りながら、泣いている人物を視界に入れた。小さな両手を両目に当てながら泣いていて、顔は見えないが体型と大きさから見て、明らかにサトシより年下の男の子が泣いていた。

「君、大丈夫?どこか悪いのか?」

「ピカピカ」

サトシとピカチュウは、心配になってしまい、話し掛けた。

「うっ、う。ぼ、僕は、だいひょうふ」

「なら、どうしたんだ?」

サトシは、ほっとけない気がして、そのまま事情を伺う。

「うっ・・・ヒック。うぅ、うぇーーーん」

男の子は、そのまま大声で泣き出した。

男の子が、泣き叫んでから徐々に落ち着き始め、次第に事情を話し始めた。

「ぼ、僕がニドランと公園で遊んでいたら、ヒック。すぐ近くでバトルをしていた人たちが居て」

サトシは、彼の隣に座り、男の子が泣きながら話す会話を真面目な顔をして聞いた。

「ポケモンのわざが、僕達に当たりそうになったんだ。ヒック。それで文句言ったんだ。けど、僕達の事を無視して、バトルを続けると。その人勝って。急に、僕らに対して、バトルで勝ったら謝ってやるって」

「・・・」

「けど、僕もニドランもバトルとか碌にした事ないし。それで、断ったら。うっ、僕とニドランを雑魚呼ばわりして、どっか行けって。それで、僕もニドランもも怒って、ついバトルをしたんだ。そしたら、・・・・・・うぇーん」

男の子は、最後の所を説明しようとしたが、言い辛いのか中々言葉が出ず、再び泣き出してしまった。

「・・・分かった。ありがとう」

事情を理解したサトシは、そこから離れていった。

それから暫し、考え事をしたサトシは、後ろから付いて来るピカチュウを振り返る。

「ピカチュウ」

「ピカ」

サトシに呼ばれたピカチュウは、彼の目を見た。

「・・・」

「・・・」

それから互いに、黙ったまま見つめ合っていると、ピカチュウは何かを決意したような顔をして、返事をした。

「・・・ピカッ」

そして、サトシも決意した。

 

 

時刻は、既に夕暮れに差し掛かっていた。フォルシティ一帯は、徐々に暗くなり、外に居た人々やポケモンの数も減っていく。街中に設置された街灯が次々と点灯し、家屋の明かりも窓越しに光っていく。

そんな中、森の側にある広場で、ポケモンバトルをしていた者達が居た。辺りが暗くなる為、広場にあった街灯が、彼らを明るく照らしていた。

「マッスグマ、アイアンテール」

「マスッ!」

トレーナーの指示を聞いたマッスグマは、光った尻尾を相手に振り落とした。

「グラァァァ」

見事に、(アイアンテール)を受けたポケモンは、フェアリータイプの(ようせいポケモン)グランブルだった。グランブルは、相性の悪いはがねタイプの(アイアンテール)を受け、そのダメージの効果は抜群だった。

「グランブル!」

グランブルのトレーナーの男は、ポケモンを案じた。グランブルの体は、傷だらけだった。それは、今受けた(アイアンテール)によるものだけではなかった。バトルを行ってから、マッスグマを相手に、幾度もわざを受けてしまった結果だった。グランブルの方も躱したり反撃を行ったが、マッスグマとベルアの戦い方や強さには及ばなかった。

「さて、もう一度だ」

「マスッ」

ベルアは、マッスグマに再度(アイアンテール)を出して、攻撃するように指示を出す。

「ま、待ってくれ!」

それを聞いた相手のトレーナーは、大声叫びながらグランブルの側に駆け寄る。

「俺の負けでいい。だ、だから」

男は、泣きそうな顔で、ベルアに懇願した。

それを見てベルアは、フンっと鼻を鳴らし、それに合わせてマッスグマもわざを中断した。

「大丈夫か、グランブル。すぐ、ポケモンセンターに連れて行くからな」

男は、グランブルをモンスターボールに戻した。

「勝負を挑んできた癖に、その程度か」

「うっ・・・くそぉー!」

男は、ベルアからそのような言葉を吐かれたが、言い返す事が出来ずに、そのまま急いで退散した。

相手が逃げてから、ベルアは広場に設置された置時計を見て、時刻を確認した。

「戻れ、マッスグマ」

ベルアは、マッスグマをモンスターボールに戻すと、近くのベンチへと歩いて行く。そこに、彼のカバンが置かれていた為、ベルアはその隣に座った。

「ハァー」

少しだけ休憩をしようと、空を見上げた。既に、夕暮れの為、星空へと変わった空を見て思った。

(今回の試練で、腕のあるトレーナーや強いポケモンが集まると思っていたが・・・殆ど期待外れだったな)

数分してから立ち上がると、その場から去ろうとした瞬間。

「ベルア!」

彼の名前を、叫ぶ者が現れた。

「?!」

ベルアは、相手が何者誰なのかを確認しようとしたが、相手の顔がハッキリと見えなかった。

だが、相手はベルアに向かって歩いていき、その顔が薄暗い闇から街灯の光へと移り、漸く誰かが判明した。

「・・・サトシだったな。何のようだ?」

突然と現れたサトシに、そう尋ねる。

「俺とバトルしろ」

サトシの肩に乗っていたピカチュウは、前方へと飛び降りて、ベルアに向かって威嚇する。

「ピカッ」

「バトル?昼間は、喧嘩の道具じゃないと言って拒否した癖に」

ベルアは、そうサトシに文句を言った。

「ああ。確かに言ったよ。けど・・・これは、喧嘩じゃない。お前を倒さないといけないと思ったからするんだ」

「ピカ」

サトシの発言に、ピカチュウも呼応するかの様に鳴いた。

「そうか」

そんな彼らの意思を確認して、ベルアは笑みを浮かべた。

「よし。やろうじゃないか」

早速、バトルをはじめようとベルアは腰からモンスターボールを取り出そうとする。

「ピカチュウ」

「ピッカ」

サトシとピカチュウもバトルの態勢を取り、これからポケモンバトルが始まろうとした時だ。

「なら。私が審判を務めるわ」

「「!」」

暗闇から急に現れた人影が二人に向かって近づく。現れたのは、一人の女性だった。見た目から判断して、年齢はサトシ達よりも年上の若い女性だった。

「サトシ」

ベルアは、サトシの関係者なのかと彼に顔を向けて、確認しようとした。それに対して、サトシはすぐさま首を横に振り、否定した。

「誰だ?」

ベルアは、女性に対して何者かを質問をした。

「私は、ただの地元の人間よ。この町で、やんちゃをしている子が居ると聞いたから、少しお仕置きをした方がいいと思って来たの」

彼女は、右手に持っていたモンスターボールを上に軽く投げると、右手の指先で受け止めて、

クルクルと回した。

「けど、私より先約がいるなら、彼に譲りましょう。それに、審判が居た方が、安全なバトルが出来るでしょう。ね?」

女性は、ベルアに対して、軽く睨みを効かせた。

「・・・フン。構わんが」

ベルアは、そんな彼女へ鼻を鳴らして、審判の件を承諾した。

「ああ。俺も」

サトシも、ベルアと同じく同意した。

「OK。まずは、ルール確認よ。互いに使用ポケモンは、一体のみ。これでいいわね?」

「あぁ」

「それで構わない」

「OK。そうだ、君たちの名前は?」

女性は、サトシへ名前を聞いた。

「サトシ」

「ベルアだ」

「それじゃあ。サトシ対ベルアによるポケモンバトルを始めるわよ」

「よし。ピカチュウ、頼むぞ」

「ピカ!」

「そのピカチュウで来るか。なら」

ベルアは、腰にある6つのモンスターボールの内、1つを選んで手に取る。

「行け」

ベルアが投げられたボールから、ポケモンが姿を現われて、ピカチュウの目の前に降り立つ。サトシとピカチュウは、そのポケモンを見て、表情を変えた。

「ピカッ」

「あれは」

 

 

サトシが、ベルアと再会していた頃。

暗い町中を走る二人組が居た。ヒョウリとマナオだ。

ポケモンセンターから飛び出して、二人は全力で走っていた。理由は、サトシとピカチュウが突然と姿を消したから探しているのだ。

「たく。面倒を起こす天才かよ」

「し、師匠!」

最初、二人がサトシの姿が見えなくなって、すぐにセンター中に探したが見つからなかった。

すると、ヒョウリが勘でベルアのところへ向かったと考え、すぐさま外へと出た。

「さっき、すれ違ったトレーナーの言う通りなら」

サトシを探す途中で、センターへ向かっていたトレーナーを見かけたヒョウリが、念の為に聞いた。結果は、大当たり。トレーナーは、ベルアとバトルをしていて、彼がまだこの先にある広場にいるとの事だった。

二人が全力で走ってから数分後、漸く広場に到着した。

「ハー、ハー、ハー」

マナオは、息を切らせながら、両手を両膝に置いて休んだ。その隣では、ヒョウリは暗い広場を見渡していく。

「さて。あいつらは・・・おっと、居たぞ」

街灯に照らされている中で、ポケモンバトルをしている姿を見つけ、すぐさま向かった。

「ピカチュウ、10まんボルト」

「ピィカァーチューーー!」

「マッドショット」

ピカチュウの得意わざ(10まんボルト)とマッドショットが空中でぶつかり爆発する。

「くそ」

「ピカ」

サトシとピカチュウは、わざを繰り出すも相手のわざで相殺されてしまった。

「もう、押っ始めてやがった」

「し、師匠」

そんなサトシの所まで、ヒョウリとマナオがやって来た。

「ん?あれ、ヒョウリ、マナオ」

二人が来たことに気付いたサトシ。

「あれ、じゃねぇよ。お前、何して。いや、なんでバトルなんか」

「師匠。一言相談してから行って下さいよ」

「ご、ごめん」

サトシは、二人に謝罪をしてから、バトルに向き直った。

「で、結構。苦戦してるのか?」

「・・・ああ。こいつら、やはり強い」

ヒョウリに問われて、そう答えるサトシ。

「あれは、一体・・・」

一方で、マナオはベルアが出しているポケモンを始めて見る為、分からないでいた。

「インテレオンだ」

彼女の隣で、ヒョウリがそのポケモンの名前を言う。

「主にカロス地方で、生息しているみずタイプのポケモンだ」

「インテレオン・・・」

マナオは、図鑑を取り出して、インテレオンを向ける。

『インテレオン。エージェントポケモン。ジメレオンの進化形。多彩な機能を隠し持ち、指から水を噴射する。その水の速さは、マッハ3で撃つ事が出来る。瞬膜で、相手の急所を見抜いて狙う。また、背中の皮膜で風に乗る事が出来る。』

「それにしても、まさかピカチュウ相手にみずタイプを出すとは・・・あいつ」

(サトシ・・・お前、本気を出さないと)

ヒョウリは、インテレオンとベルアを見て何かを察したのか、サトシの方を見て心配をした。

その事は、サトシも先程から気になっていた。

「俺のピカチュウがでんきタイプだと知って選んだんだろ。なぜだ?」

早速、ベルアに問い掛ける。そう質問されたベルアは、にこやかな表情をして答えた。

「あぁ。確かに、理解して出した。理由が聞きたいのか?・・・お前とそのピカチュウなら、これでも十分と判断したまでだ」

「そうかよ。けど、俺とピカチュウを舐めちゃ困るぜ。だろ、ピカチュウ!」

「ピッカ!」

ベルアの挑発めいた説明をされて、サトシとピカチュウの闘志がより燃えてしまった。

「ピカチュウ、でんこうせっか!」

「ピッカ!」

ピカチュウは、素早くインテレオンへ向かって、前進を始めた。

「インテレオン、ねらいうち!」

「インテ!」

一方で、ベルアはインテレオンに(ねらいうち)を指示した。インテレオンは、自分の右手の指をピカチュウへ向けると、そこから急激に水が発射された。その水の速さは、人の目では追いきれない程の速く。ピカチュウ目掛けて飛んでいった。

「ピカッ」

だが、ピカチュウはスレスレでそれを上手く躱して、一気に間合いを詰めた。

「ピィカー」

そのまま、(でんこうせっか)のスピードに乗って、ピカチュウはインテレオン目掛けて体当たりをしようとした。

「インテレオン、かげぶんしん」

「テッ」

インテレオンは、(かげぶんしん)を左右に作り出し、周りに次々と分身体が出来上がっていく。

ピカチュウがぶつかりにいったインテレオンは分身で、触れた瞬間に消えてしまった。

「ピィカ」

そのまま、ピカチュウは分身体に囲まれてしまった。ピカチュウは、すぐさま周囲を見張った。大量に分身が出来たインテレオンに、惑わされながらも、必死に本体を見つけようと見ていく。

「インテレオン、マッドショット!」

「レオン」

すると、ピカチュウの背後の分身体の中から、(マッドショット)が放たれた。

「ピカチュウ、アイアンテール」

「ピィカァ!」

ピカチュウは、咄嗟に尻尾を光らせて(アイアンテール)を発動し、飛んできた(マッドショット)にぶつけて、受け止めた。

「あのインテレオン、やはり強いな」

外野から観戦しているヒョウリがそう評価する。

「嘘。師匠のピカチュウに、それにみずタイプなのに」

その隣で見ているマナオは、驚いてバトルを見ていた。

インテレオンが(マッドショット)を撃った後で、インテレオンのかげぶんしんは一気に消滅した。

「インテレオン、ねらいうち」

「レオン」

「ピカチュウ。躱して、エレキネット」

「ピカ」

再び互いのわざが衝突し、爆発と煙が起きた。

「よし、ピカチュウ。一気に行くぞ」

「ピッカ」

「10まんボルト!」

「ピィカァァァヂゥゥゥ!」

ピカチュウの全力の(10まんボルト)が煙の中を突き抜けて、インテレオンへ飛んでいく。

「インテレオン!・・・」

「テッ」

ベルアは、インテレオンに何かの指示を出した。だが、ピカチュウの10まんボルトはそのまま向かって行き、命中した。

「ヨシ」

「ピカァ」

サトシは、ガッツポーズをして、ピカチュウも少しだけ喜んだ。だが、予想は大きく裏切った。(10まんボルト)が命中したインテレオンは、倒れる事もなくそのまま消滅したのだ。

「なっ」

「ピッカ」

一体、なんで消えたのか理解が一瞬出来なかったサトシとピカチュウ。

「・・・(みがわり)だよ。インテレオン!」

ベルアに対して、サトシはすぐに気がついた。

「あっ。ピカチュウ、気をつけろ!」

「ピカッ!」

「マッドショット!」

「インテ」

いつの間には、ピカチュウの真後ろにインテレオンが現れたのだ。

(しまった。インテレオンは透明にもなれるんだった)

サトシは、思い出した。かつての旅で出会った時、インテレオンは透明になれるという事を。

「躱せ!」

すぐに気付いたサトシは、ピカチュウにそう言った。しかし、その言葉より先に、(マッドショット)が届いてしまった。

これは、先程のインテレオンが(みがわり)と同時に、本体であるインテレオンは透明になったのだ。そして、そのままピカチュウが(みがわり)を相手にしている間、彼の背後に近づいて距離を詰めたのだ。

「ピッカァァァ」

ピカチュウに(マッドショット)が見事に命中した。でんきタイプであるピカチュウには、じめんタイプわざの(マッドショット)は、効果抜群のダメージとなる。

命中したピカチュウは、そのまま吹き飛ばされる宙を舞う。

「あっ」

サトシは、ピカチュウを吹き飛ばされる姿を見た。

「!」

「あぁ」

観戦しているヒョウリ達も、同様だった。

このままだと、ピカチュウは地面へ落下して転がっていくと、誰も考える同じ事をサトシも予想した。しかし、ベルアはそれを許さなかった。

「インテレオン、マッドショット」

「インテ」

「え?」

ベルアは、再び(マッドショット)を撃たせた。

「なっ」

そして、吹き飛ばされて宙を舞うピカチュウに目掛けて、再びマッドショットが命中した。

「ピッカッ」

ピカチュウは、悲鳴を上げた。

「ああ」

その様子を見たサトシは、悲痛な顔をした。攻撃を再び受けたピカチュウは、勢いが増した事でより遠くまで飛び、強く地面にぶつかった。

「ピィカァァァ」

そのダメージもピカチュウを襲い、彼に苦しい顔をさせた。

「ピカチュウゥ!」

サトシは、心配して大声で叫ぶと共に、彼の元へと走ろうとした。

「今のは不味いな。これは、もう」

ピカチュウのダメージを見て、ヒョウリは分析した。

「ひ、酷い」

マナオは、ピカチュウのやられた姿を見て、少しだけ涙を出す。急いで、飛ばされたピカチュウの元へ走っていくと。

「サトシ」

ベルアがサトシを呼び止めた

「どうだい?分かっただろ。君たちの負けだ。君たちでは、相手にならない。降参しろ」

「くっ」

サトシは、顔は曇った。ベルアには負けなくない。けど、今のピカチュウは、相当のダメージを負ってしまい、非常にピンチだ。そして、何よりベルアのやり方を知った以上。今のピカチュウでバトルするのは、危険だとサトシ自身理解していた。

「くっ」

サトシは、溢れ出る悔しい気持ちを抑えた。それから、彼に向かって何かを言おうとした。

「お、俺の」

その時だ。

「ピカァ!」

ピカチュウが大声で叫んだ。

「ピカチュウ・・・」

振り向くと、ピカチュウが必死に立ち上がろうとしていた。その姿を見たサトシ。ピカチュウは、まだ諦めていなかった。痛々しい体を必死に立ち上がらせるその顔は、負けたくないという顔をしていた。それは、トレーナーであるサトシには分かった。

途中まで言おうとした言葉を止めて、一度唾を飲み込んだ。

「そうだな。・・・諦めない。まだ、勝負は終わってない」

サトシもピカチュウと同様の気持ちだった。それで、ベルアに挑戦を続けると決めて、彼への降参を行わなかった。そんなサトシとピカチュウの様子を見たベルアは、軽いため息をした。

「そうか。なら・・・潰そう」

ベルアはそう言うと、すぐにインテレオンへまた指示を出した。

「マッドショット!」

サトシとピカチュウには、一瞬の間も与えずにわざを繰り出した。

「しまっ」

サトシは、すぐにピカチュウへだが、今のピカチュウは立ち上がっているのが、やっとだった。躱せという指示を出しても躱せない。わざを出そうにも、その時間も体力も残り少ない。

このままでは、確実にピカチュウは。

「止めろ!」

サトシの悲痛な声が、大きく叫ぶ。しかし、再び(マッドショット)が放たれて、そのままピカチュウは、再び受けてしまった。

今度は、地面を滑るように転がって行き、近くの街灯の根本にぶつかった。

「ピッ・・・カッ」

ピカチュウは、起き上がろうとしたが、既に体は限界だった。もはや、自力で立ち上がる事が出来ない様子で、それは誰もが分かっていた。

「トドメだ」

ベルアは、ズボンのポケットから何かを取り出して、それをインテレオンへ向けようとした瞬間だった。

「勝負、そこまで」

審判の女が、そう宣言した。

「!」

途中で、審判が止めに入った事に、ベルアは彼女を睨んだ。

「勝者、ベルア!」

そのまま、彼女は勝者としてベルアの名前を上げた。ベルアに睨まれている彼女は、彼の方を見て、一喝した。

「貴方の勝ちよ。審判の指示には従いなさい」

「・・・」

彼女に対して、不満な顔をするベルア。だが、彼女に一切非がない事を理解している彼は、言う通りにした。

「下がれ、インテレオン」

「インテ」

ベルアは、インテレオンを自分の元へと呼び戻す。それから、サトシの方を見て声を掛けた。

「サトシ」

「!」

「俺の事が気に入らない、やっている事が嫌いなら、それで結構だよ」

「・・・」

「ただし、敗者が勝者に口出し出来ない」

「くっ」

ベルアに言われた事に、言い返せないサトシ。

「師匠。あんな奴の言うこと、気にしたら駄目です」

そんなサトシに、マナオは気にかけて、ベルアを睨みつける。

「師匠?」

ベルアは、マナオの師匠という言葉を聞いて、気になったのか彼女へ問う。

「君。さっきからサトシを師匠と言っているが、彼の弟子なのか?」

「一応、弟子・・・希望ですが何か?」

マナオは、嫌な顔をしながら、そう答える。

「いや、何でもない。ただ、彼の弟子というなら、次の試練を達成するのは難しいと思っただけだよ」

「ハッ。挑発なら結構です」

マナオは、ベルアの挑発染みた言葉を無視しようとした。

「おっと、失礼。単に、今日戦った連中の中で、君が一番弱く見えただけだよ」

「・・・」

その言葉が聞こえたマナオは、急に黙るとそっと立ち上がった。

「なんですってぇぇぇ!」

今度は、彼女がベルアへ掴みかかろうとした。

「おっと」

それを寸前で察したヒョウリが、彼女の腕を掴んで止める。

「ちょっと、あんた!今何って言った!」

「今日戦った連中の中で、君が一番弱く見えただけだよ」

「二度も言うんじゃないわよ!」

「君が言って欲しいと言ったのだろう」

「くぅぅぅ」

「落ち着けよ」

ヒョウリは、マナオの腕を掴んで止めようとする。

「全く、年下二人の面倒見るのは疲れるぜ」

ヒョウリが、そう文句を言うとサトシに話し掛けた。

「おい、サトシ。急いでセンターへ行くぞ」

「あ、ああ」

ヒョウリに言われて、すぐさまサトシはピカチュウを抱えて走り出した。

「おい、行くぞ」

「べーーーだ」

マナオは、ヒョウリに引っ張られながら、ベルアに舌を出した。

「ピカチュウ・・・」

サトシは、ピカチュウを抱えたまま、心配な顔をして見つめる。

そのまま、サトシ達は全速力でポケモンセンターへと走った。

「おい、あんた」

「?!」

ベルアが、審判をした女に話し掛ける。

「次は、あんたが相手をしれくれよ」

「そうね。元々、そのつもりだったし・・・始めようか」

彼女は、一度しまったモンスターボールを再び、取り出そうとする。

「そうえいば、自己紹介がまだだったわね。私は、アマネ。さっきも言った通り、この町の住人よ。この町で暴れた貴方を、お仕置きしようと思ったの」

自分の名前を名乗り、取り出したボールと共に彼へと敵意を向けた。

「・・・まさか、クィーン自ら御出座しとは」

「あら、私の事を知っていたの?」

「勿論さ。この町で一番強いのは、誰か調べたよ。1人は、既にこの町にいない元ジムリーダーのトレーナー。そして、もう一人があんただ」

ベルアは、アマネへ指を向けた。

「さて、始めるか。いけ、インテレオン」

「インテ」

ベルアは、先程までバトルをしていたインテレオンを再び、バトルに出してきた。

「その子でいくの・・・手加減はしないわよ。行きなさい、ジュカイン」

「ジュゥ!」

アマネが出したポケモンは、(みつりんポケモン)と呼ばれるくさタイプのポケモンだった。水タイプのインテレオンとは、相性が良い為、ベルアには不利な相手となる。それを互いに理解は無論しているだろう。すると、アマネがベルアに説明を始めた。

「一応、言うわ。この子が、私の相棒なの。貴方にとって、相性が悪くても・・・問答無用で勝たせて貰うから」

トレーナーとしてのプライドとして、相性で選んだのではないと教えるアマネ。それに対して、ベルアは全く気にもせずに、答えた。

「そんな事、どうでもいい。早く始めましょうよ。今日、はじめて本気が出せる事に、俺は嬉しいんだよ」

彼は、その日で一番喜んでいる顔を見せた。

 

 

あれから、サトシはピカチュウを抱えてポケモンセンターに走った。すぐさま、ジョーイの治療の元で、ピカチュウの怪我の手当てしていった。治療を終えたピカチュウは、小さな個室の病室に移った。大きな病室が、いっぱいになってしまったとのことだった。

「一応、貴方のピカチュウに出来る治療は一通り終わったわ」

「そうですか。ありがとうございます」

サトシは、ホッとして安心した。

「良かったですね」

側には、サトシと一緒に心配しているマナオが隣に付き添っていた。

「ただ」

「?」

「明日は、余り無理をさせないことを勧めるわ。出るんでしょう?試練に」

「・・・はい」

「ジョーイとして言うけど、ベストカップの試練は過酷なのは私も知っているは、だからあの状態のピカチュウでは・・・難しいわ」

「・・・分かりました」

それからジョーイは、部屋を出てサトシとマナオ、眠るピカチュウだけとなった。

「俺の・・・せいだ」

「!」

「俺が、」

「師匠は悪くありません。悪いのは」

「あぁ、分かってる。けど、俺のせいでもあるだろ」

「そ・・・」

「・・・」

「・・・私、何か飲み物持ってきます」

そう言って、マナオは部屋を出て行った。

「・・・」

サトシとピカチュウだけになった部屋で、サトシはただピカチュウを見つめていた。

(俺が・・・俺のせいで)

サトシは、心の中で後悔と悔しさが出して、顔を歪めた。

サトシは、覚悟を持ってベルアにバトルを挑んだ。彼のやり方が嫌いだった。彼が自分のポケモンでやった事が許せなかった。そして、ピカチュウと自分は、ベルアなんかに負けたくない、いや負けないと考えていた。それは、決して驕っていた訳ではない。今まで、幾度もピカチュウと共にバトルをしてきて勝利と敗北を経験してきた。長年、共に旅をした最高のパートナーである一番のポケモンだと思い、挑んだ。そして、何より挑む前にピカチュウと互いに意思を確認し合い、共にここを飛び出した。

だが、結果はこのような酷いものとなってしまった。その結果を受け止めたが、それでも後悔と悔しさは彼の心から溢れ出てしまう。それと共に、自分自身の罪悪感が生まれていた。

(俺が、・・・ピカチュウはこんな目に)

そう考え込んでいると。

「ピッ」

「!」

「ピ、カ」

「あっ、ピカチュウ」

ピカチュウが目を覚ました。それに気付いたサトシは、すぐに彼の名前を呼んだ。すると、ピカチュウもサトシの声に反応して、彼の方を振り向いた。

「・・・ピカピ」

「ピカチュウ」

「ピカ、ピー」

「ピカチュウ・・・ごめんな」

サトシの飲み物を買いに行ったマナオは、手にペットボトルを持って、病室へ戻ろうと廊下を歩いていた。

「マナオ」

すると、誰かに話し掛けられて足を止めるマナオ。

「ヒョウリさん」

振り向いた所にヒョウリが居た。彼は、横の廊下から歩いて来た。

「少し話がある」

「え?」

マナオは、ヒョウリに呼ばれ付いて行き、近くの休憩コーナーの椅子に座った。

「何ですか?話って」

「結論から言う。サトシは、ピカチュウは明日の試練の達成は・・・無理だ」

ヒョウリは、最後の言葉を少し詰まらせながらそう伝えて来た。

「そんな、まだ決まった訳じゃあ」

マナオは、すぐに彼の言葉を否定した。しかし、彼女の顔は理解をしているのか自信の無い面立ちになっていた。続けて、ヒョウリは説明をしてきた。

「出たとしても、試練の内容次第でほぼ脱落は免れない。前回の試練の後、お前らのから教えて貰った内容からして、今回のそれ以上の難易度があるはずだ。それに今度は、厄介な競争者が大勢いる」

「?」

「今回、お前とサトシのように第一の試練を達成して、次の試練へ挑む者達。そして、歴代の第一の試練を達成し、未だ第二の試練を達成出来なかった者達も含まれる。それも、何度も試練に挑んできた経験値がある連中がな」

「あっ」

マナオは漸く理解した。ヒョウリが言うサトシとピカチュウが達成出来ない理由は、怪我だけではない。同じ試練へ挑戦するライバル達が、脅威となるということ。そのライバル達の中には、大勢の経験豊富で何度も試練へ挑戦した者達も混ざっている事。それを考えたマナオは、ゴクリと喉を鳴らした。

「とにかく。は自分の事を、明日の試練の心配をしろ」

「・・・けど」

「せめて、師匠であるあいつの分も頑張ろうと考えればいいだろ」

「・・・」

「それに、お前には・・・お前の達成しないといけない理由があるだろ」

「ッ」

マナオは、ヒョウリに指摘されて改めて自覚した。自分自身が、なぜトレーナー・ベストカップへの挑戦を始めたのか。その理由を、何を今目指しているのかを。それを彼女は、忘れていた訳ではないが、心で決めたと誓いが、彼女の意思に食い込んできた。

「・・・悪いな。変なプレッシャー掛けること言って」

「いえ・・・」

二人の空気が、しんみりとなり、それから互いに沈黙してしまった中。

「ヒョウリの言う通りだ」

「「!」」

一人の声が上がった。

「師匠」

「サトシ」

彼らの元に現れたサトシは、そのまま近づいて来た。

「二人とも、ごめん」

「え?」

「まだ謝っていなかった。黙って、勝手にセンター飛び出して、バトルして。挙げ句に、負けてピカチュウの怪我まで心配かけて」

サトシは、二人に謝罪をした。

「いえ、謝らないで下さい」

マナオは、立ち上がると手を振って、サトシに気を遣う。

「そうだな。勝手に出た上、試練前に怪我を負わせて。あれ程、忠告したのに」

一方で、ヒョウリはサトシの言う通りだと、文句を付け加える。

「ちょっと、ヒョウリさん」

「それと、二人とも」

「「?」」

「俺とピカチュウは、明日・・・挑戦する」

サトシは、二人に対して、そう告げた。

「・・・」

「・・・で、ですが、師匠。ピカチュウは」

その言葉を聞いて、ヒョウリは黙って見つめ、マナオは大慌てでサトシに話す。

「ピカチュウ、さっき目を覚ました。謝ったよ・・・そしたら、怒られた。なんで、僕に謝るんだって」

「「・・・」」

「その後、ピカチュウに明日の試練の事を話した。俺は、お前の出たい。けど、お前には、これ以上傷つけて欲しくないって」

「「・・・」」

「そしたら、出るぞって。・・・だから、俺は出る。例え、どんな結果になっても。俺は、ピカチュウが諦めないなら、俺も諦めない。俺も諦めたくない」

「師匠」

サトシの言葉を聞いた二人は、彼の顔を見て思った。覚悟を決めた顔。もう何を言っても、諦めないと。

「そうか。なら、俺はもう言わない。だから、俺は部屋で休むわ」

ヒョウリは、そう言って立ち上がると、宿泊フロアへと向かった。

「じゃあ、明日飯の時」

最後にそう言って、彼はその場から去って行った。

「マナオ」

「はい」

「お前も、明日の事に集中して、休んでくれ」

「・・・」

「大丈夫だ。俺も、ピカチュウも」

「・・・分かりました。それじゃあ、私も休みますね」

「あぁ」

「あっ、これ買ったんで飲んで下さいね」

マナオは、買ったドリンクをサトシに渡した。

「サンキュー」

「それじゃあ。明日の朝」

「あぁ」

そう言って彼女もその場を去って行った。

それから、サトシはまたピカチュウの病室へと戻った。

「ピカチュウ」

「ピッ」

「二人に伝えてきたよ。もう大丈夫。明日はピカチュウと一緒に出るって」

「ピカ」

「・・・なぁ、ピカチュウ」

「?」

「今日のあいつ。凄く腹が立ったし、嫌な感じだったけど。最初は、何だか懐かしかったんだ」

「ピカ?」

「覚えているか。シンオンで会ったシンジの事」

「ピカ」

サトシは、かつてシンオウ地方で旅をして、リーグ戦に出た時の事を思い出した。そこで、出会った一人のライバル。

「あいつ。最初は、冷たくて自分のポケモンにも厳しくて、嫌な奴だったよな」

「ピカ」

「けど、あいつにも優しさやポケモンの事を考えている良い所はあった」

「ピカピカ」

「ベルア・・・あいつはそれとは違う気がする」

「・・・」

「ポケモンの事を、平気で傷つけて、相手をトコトン痛めつけるあんなやり方・・・俺は大嫌いだ」

「ピカピカ」

「そうだな。許せないな。けど」

「ピ?」

「もし、明日の試練。また、あいつとバトルする事になったら・・・」

サトシは、不安があった。明日の試練の内容が何になるか分からない。だが、もしそれでベルアと再びバトルことになったら、そう考えるとサトシは一気に不安になった。そんなサトシを見て、ピカチュウは喝を入れた。

「ピカァ!」

「!」

「ピカピカ、ピカ。ピカチュウゥ!ピカァ!」

「あっ、ごめん。そうだな。また、そうなったら今度こそ勝とうな」

「ピカァ」

「よっし。なら、今夜はいっぱい休もう」

「ピカァ」

サトシは、ピカチュウへ右手の握り拳を近づける。

「明日、絶対達成しよう」

「ピカァ」

サトシとピカチュウは、互いに拳を当てた。

サトシ達が広場から出ていった後、ベルアとアマネによるバトルが執り行われたが、完全な真っ暗となった今の広場に、二人の影は無かった。二人のバトルは、サトシのピカチュウが治療を受けていた頃に、終了していたのだ。

今、ベルアは町の中にある繁華街を歩いていた。彼は、夕飯がてら露店で買ったものを持ち、食べ歩きをしていた。

「折角、遠くの地方まで来たというのに、大したトレーナーが少ないな」

ベルアは、そう声から漏らすと、そのままどこかへと歩いて行った。

 

 

翌日の朝。

ポケモンセンターで支度を整えたサトシ達は、朝食を済ませた後、すぐに出発しようと外へ出た。

「いよいよだな」

「はい」

サトシとマナオがそう会話をすると、サトシは後ろを振り返った。

「ピカチュウ!」

「ピカピィ!」

サトシに呼ばれたピカチュウが元気いっぱいに走り、サトシの肩へと一気に登って行った。

「気をつけてね」

彼らの後ろには、ジョーイが居た。

「ジョーイさん、ありがとうございます」

サトシは、ジョーイに礼を言った。

「一応、痛み止めを飲んだから、痛みは引いたはずよ。けど、怪我自体は完治していないから、決して無茶はさせないように」

「はい」

彼が、ジョーイからの忠告を素直に聞いて返事をすると、ジョーイの隣に誰かが現れた。

「サトシ」

「リヒト」

現れたのはリヒトだった。

「サトシ、俺の分も頑張ってくれ」

リヒトは、これから第二の試練を受けるサトシへエールを送ると共に、自分とマグマラシの挑戦する気持ちを、サトシへ託したのだ。

「ああ、必ず達成してくる!」

「ピカ!」

サトシとピカチュウは、迷いなく彼に答えた。

こうして、サトシ達は会場へ向かった。

 

 

サトシたちが、第二の試練が開催される会場へ町の中を歩いて行く途中、彼らの進む道に人混みが増えていった。

「ん?」

サトシが、周囲の人間に気付いていると。

「こいつらも、他の挑戦者みたいだな」

ヒョウリも気付いて、そう告げる。サトシ達が居たポケモンセンターから朝の内に、何名かが会場へ向かったのを既に目撃していた。今、現れているのはセンター以外の宿泊施設や地元に居たトレーナー達の挑戦者だった。彼らも、サトシ達と同じ方角へと歩いていた。

「今回も多いですね」

マナオは、周りの人間を見て、不安そうに言うと、サトシもマナオへ伝えた。

「ああ。全員、俺たちのライバルだ。頑張るぞ」

「は、はい。頑張ります」

サトシ達は、そのまま会場へと進み。あと5、6分という地点まで近づいていると。

「ん?!」

ヒョウリが、何かに気付いた。町中にいる人々の中に奇妙な視線を感じたからだ。

(妙な奴が、チラホラいるな)

そう思いながら歩いてき、周囲を一瞥していった。

(無線機や双眼鏡を持った奴が複数人・・・)

続いて、町中の建造物や空に注目した。

(屋上には、カメラ付きの飛行・浮遊ポケモンに、屋上から街を見ている者も・・・まさか)

次々と変な発見をした彼は、何かに気付いたようだった。

「どうした?ヒョウリ」

「・・・いや、何でも無い」

(今回は、大規模そうだな)

彼は、サトシ達へ特に何も言わなかった。




今回は、原作(ゲーム)に存在する地方フィオレ地方にある町「フォルシティ」が舞台となる話でした。
この町で出会った新しいライバル達。
様々なトレーナーと出会う事になったサトシは。

次回は、いよいよトレーナー・ベストカップ第二の試練が始まります。

話としては、この先最終話まで続ける予定ですので、ご興味がある方は、最後までお読み下さい。
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