<ポケットモンスター トライアル・パレード>   作:にじのふで

7 / 13
ポケモンの二次小説です。主人公はサトシです。ご興味あれば、1話からお読み下さい。

(注意)
掲載された作品で、文章の変更や文章ミス・誤字脱字などに気付きましたら、過去のも含めて後日改めて修正する可能性もあります。


5話「新しい仲間 弟子志望 マナオ」

サトシと相棒のピカチュウは、ミョウコシティで共に旅をする仲間になったヒョウリと途中、小さい村(ノウトミタウン)に立ち寄った。そこで、新人トレーナーの少女マナオに出会った。はじめは、サトシが彼女に襲われてバッチ狩りにあったが、その理由とロケット団から彼女を助けた事で、サトシは彼女を許し、彼女もサトシに感謝した。そして、サトシ達が村を出る際、マナオから一緒に旅をしたいとお願いをされて、共にアハラ地方へ向かう事になった。しかし、彼らに、いやサトシに、ある重大な問題が起きていた。

「師匠、お荷物お持ちします」

新しく仲間に加わったマナオは、サトシの横から和やかに話かける。

「いや、いいよ」

それに対して、サトシは気まずい顔に頬に汗を垂らして、そう答える。それから1分も経たずに。

「師匠、肩揉みましょうか」

今度は、自分の両手で肩を揉む仕草をしながら、サトシにそう聞いてきた。

「いや、いい」

サトシは、先程同様に気まずい顔で断る。それから暫く歩き、丁度いい休憩場所の空き地があったので、少しだけ休憩を取ることにした。サトシは、休憩する為に、偶々あった切り株に腰を駆けると、再びマナオが話かけてきた。

「師匠、お茶をどうぞ」

そういって、両手で紙コップに入ったお茶を差し出して来たのだ。

「あ、ありがとう」

サトシは、気まずい顔をしつつも、今度は拒むこと無く受け取り、飲む。

「美味しいですか?」

「あ、あぁ、お、美味しいよ」

「良かったです」

彼女は、満面な笑みで喜んだ。そして、彼女が、引き下がると、サトシはガクと俯き、ため息を付く。

それから、一息しようとしていると、また彼女が現れて、今度はタオルを持って来た。

「師匠、汗拭きますか?私が、拭きましょうか?」

「え、いや、いいよ。」

「なら、師匠のかっこいい靴を磨きましょうか?」

今度は、靴みながら、サトシの前に出て靴磨きを申し込んできた。

「いや、だから」

サトシは、その後も1時間近く、マナオからそのような態度と接し方をされた。

「師匠」「師匠」「師匠」

サトシの頭の中では、常にマナオの声で師匠と言う言葉が飛び交っていた。そして、遂に我慢の限界が来てしまった。

「ッ、あぁぁぁ!いいって、言ってるだろぉ!」

思いっきり両腕を伸ばし、大声を上げるサトシ。それに、驚いて尻餅をつくマナオ。

「ひぃ、ご、ごめんなさい」

「ピカァ!」

「カラァ!」

「あぁ~、・・・緒が切れたか」

周囲では、突然のサトシの大声で驚くポケモン達と、察していた男が反応を見せた。

「あ、悪りぃ」

サトシは、周りを見てヤバいと思い、軽く謝った。

「ごめんなさい。師匠、私、何か失礼なことをしました?」

「あ、いや、そうじゃないくて」

「・・・」

「なぁ、マナオ」

「はい・・・あ、もしかして」

「ん?」

「お腹、空いてます?はい、どうぞ」

「は?・・・何これ」

「おにぎりです。さっき、私が旅に出るって行ったら、すぐ作ってくれました。あ、皆さんの分もありますので」

「ど、どうも、ありが・・・そうでもなあぁぁぁい!!!」

「ひぃぃぃ!!!」

「ピッカァカァカァ!!!」

突然のサトシの轟きに、マナオとピカチュウは驚いて声を出す。大声を叫んだサトシは、叫び終わると、息継ぎをして肩を落としていた。

「ハァー、ハァー」

「そ、それじゃあ。何があったのですか?」

サトシの突然の大声に、理由が分からないマナオは、彼に問いかける。

「そ、それは」

マナオは、ノウトミタウンを出たサトシ達の後を追いかけて来て、共に旅をしたいと申し込んだ。そして、サトシが了承した結果、同行することになったが、更にもう1つの願いをされた。それが、サトシに弟子入りしたいというマナオのお願いだった。サトシは、最初は理解が追いつかず、マナオに訳を聞いた。その訳は、ただサトシを褒める言葉ばかりだった。

貴方というポケモントレーナーに惚れた(恋愛という意味でない)とか、ピカチュウとのコンビネーションに痺れて自分とカラカラもああなりたい、流石各地方でバッチを50個以上も獲得してリーグ戦にも出場したベテラントレーナーなどなどと、とにかく褒め称えた。

そのせいで、サトシは照れた上に、嬉しくなって鼻がダーテング状態に、更に調子に乗ってしまった結果、軽い気持ちで弟子入りを了承してしまったのだ。

それから、数時間が経過した今、サトシは彼女からの話し方や接し方、態度に歯痒い思いをしていた。弟子入りした彼女は、師匠となるサトシへの接し方が、ドンドンエスカレートしていき、遂にサトシの我慢が出来なくなってしまった。

「ッ。本当は、俺、お前の師匠になりたくないんだ」

「えぇ!ど、どうしてですか?」

「どうしてって。それは」

「私が、嫌いなんですか?」

「いや、そうじゃ」

「もしかして、カラカラで師匠の頭をボコボコにした事を、まだ怒って」

「それも違う」

「では、どうして」

「俺は、ただ・・・一緒に仲間として旅をしたいと思っただけなんだ」

「ですが、私を弟子にしてもいいって」

「あの時は、その、調子に乗って、OKしちゃったんだ。だから」

「そんな・・・」

「ごめん」

「それでも、私は、どうしても弟子にして欲しいんです。それで、私。勇気を持って、また旅に出よう。強くなろうって、・・・思えたんです」

「マナオ・・・」

「ピィーカ」

それからサトシとマナオは、黙ったままになってしまった。暫くして、その状況を横から黙ってみていたヒョウリは、遂に見かねたのか、サトシだけを話そうと呼び出し、林の方へと行った。

「なぁ、ヒョウリ。どうしたらいい?」

「弟子入りの件か?そんなに嫌なら断ればいいだろう」

「いや、それは分かってるけどさ。あんな事言われたら・・・」

「ここは、心を鬼にして、やっぱ一緒に旅をすることが出来ないから、帰れと言えばいいじゃないか」

「いや。流石に、そんな事、言えないよ」

「なら、弟子には出来ないけど、一緒に旅はしていいぞって、正直に言えばいいじゃねぇか」

「それは、さっき言っただろ。そしたら、あぁなって、それで」

「ハァー。まぁ、あの女がどうしてお前にそこまで弟子入りしたいか。普通なら分からないだろうけど。俺には、何となく理解出来るよ」

「え?」

「だって、サトシ。お前は、馬鹿で正直で真っ直ぐなんだよ。そして、お前の前向きで、ポケモンを信頼している。相棒のピカチュウとのコンビネーションをもとい、お互い信頼しているのも分かる。その他、諸共含めて、馬鹿だけで良い人ってのも分かる」

「・・・それって、褒めてるのか?」

「フッ、半分な」

「お前と会って、まだ数日にしかならないが、お前という人間は、何となく理解出来てきたよ」

ヒョウリは、そう言ってから、暫く考え事をした。そして、新しい提案をしてきた。

「ポケモンバトルしたらどうだ?」

「ポケモンバトル?」

「あぁ。いいか。ゴニョニョにゴニョニョ」

ヒョウリは、サトシにある打開策を提案した。

 

 

サトシ達が離れてから、10分近くが経過した。

(師匠達、遅いなぁ)

あれから、マナオは座り込んだまま、サトシ達の帰りを待っていた。まだ、帰ってこないのかと徐々に不安がっていると、林の方から二人が戻って来たのに気付いた。

「あっ、師匠」

「悪いな、マナオ。待たせて」

ヒョウリは、そう謝ると、マナオに話が問いかける。

「いいえ、大丈夫ですけど、お二人は何を?」

その回答を、サトシがする。

「なぁ、・・・マナオ」

「は、はい」

「その・・・ゴホン。お前に、試練を言い渡す」

「し、試練?・・・はい、なんでしょうか?」

マナオは、慌てて立ち上がり、そう聞き返した。

「あぁ。今から、俺のピカチュウとお前のカラカラでバトルする」

「バトル、ですか」

「それで、勝利するか良いバトルが出来たら、お前を正式に弟子として認める」

「ほ、本当ですか」

「あぁ。ただし、それで見込みが無かったら」

(ゴクリ)

「お前を、破門とする」

「は、破門!!!」

サトシが言う破門という言葉を聞いて、驚くマナオ。すると、サトシに続いてヒョウリも説明をはじめた。

「ちなみに。どうしても、この試練が、バトルが嫌だというなら、それでも破門だ」

「そ、そんな」

「サトシが、折角のチャンスをくれたんだ。これに乗らないと、永遠に弟子入り出来ないよ」

ヒョウリが、彼女へそう促していると、サトシが小声で彼に耳打ちをした。

「おい、ヒョウリ。プレッシャー与えすぎだぞ」

「そうでもしないと。あの女、悩んで悩んで時間かかるだろうし、プレッシャー与えていた方が、弟子入りしなくても済むだろ。一応、お前の方が、勝つとは思うけど」

「・・・だけど」

「わ、分かりました」

「「ん」」

「見込みがあれば、いいですね?」

「あ、あぁ」

サトシが、そう頷くと、マナオは答えた。

「なら。その試練、受けます」

「それじゃあ、さっさとやるか。俺が審判をする」

 

 

彼らは、ポケモンバトルが行いやすい広々とした場所へ移動した。そして、審判を務めるヒョウリがルールの確認を始めた。

「ルールだが、互いにポケモン1匹ずつ。どちらかが戦闘不能になるか降参した方が、負けということでいいな」

「あぁ」

「はい」

「では、お互いにポケモンを出せ」

「頼むぞ。ピカチュウ!」

「ピカァ!」

ピカチュウは、サトシの前に出て、戦闘態勢を取った。

「行け、カラカラ!」

「カラァ!」

マナオは、モンスターボールを投げてカラカラを出した。

「それでは、・・・はじめ!」

ヒョウリの合図でバトルが開始した。

「行くぞ!ピカチュウ、でんこうせっか」

「ピカァ!」

サトシのピカチュウが、先攻を取った。ピカチュウは、(でんこうせっか)でカラカラへ突っ込んでいく。

(さて、マナオのバトルは、はじめて見るが、どう出る?)

サトシは、マナオとカラカラを見てそう考えた。

「よし!カラカラ、ホネブーメラン」

「カラァ!」

マナオは、カラカラに指示を出した。カラカラは手に持った骨をブーメランの如く、突っ込んでくるピカチュウへ投擲した。(ホネブーメラン)、カラカラの必殺技の1つで、手に持つ骨をブーメランとして扱う遠距離技。

「躱せ」

「ピカッ」

ピカチュウは、向かってきた(ホネブーメラン)を難無く躱した。だが、(ホネブーメラン)は、言葉通りブーメランの様な技、つまり投げた攻撃(骨)が返ってくるのだ。ピカチュウは、回避した後も、カラカラ目掛けて突っ込んで行く。そのピカチュウの後方から骨が飛んで近づいて来ている。

(お、気が付いていない感じ?よし、このままピカチュウに当たれば)

マナオは、舌で軽く自分の唇を舐めて、ピカチュウを睨む。

そして、次第に骨は勢いよくピカチュウへ近づく。

(よし、いいぞ)

接触まで、あと少しの所でサトシが叫んだ。

「今だ、躱せ!」

「ピカァ!」

ピカチュウは、サトシの言葉通り、回避行動を取り、見事に後方から飛んできた攻撃を躱した。それも、後方を見ないでやって退けた。

「な、後ろも見ないで」

「カラッ!」

その芸当に、マナオとカラカラは驚いた。そして、カラカラは投げたホネブーメランを受け取る体勢を行った。

「よし、でんこうせっかのまま突っ込め」

「ピッカ!」

ピカチュウが、一気に(でんこうせっか)のまま、突っ込んでいく。そして、ホネブーメランを取ろうとした瞬間。

「な、カラカラ」

「カラッ?!」

「今だ、アイアンテール!」

「ピィカァーーー!」

(でんこうせっか)から(アイアンテール)へとスムーズに切り替えたピカチュウ。ホネブーメランを受け取ったカラカラの目前には、ピカチュウの光る尻尾が向かってきていた。そして、バトルの結果は、すぐについた。

「カラカラ、戦闘不能!よって、勝者サトシ!」

ヒョウリが、勝敗の結果を出し、サトシへと腕を向ける。

「やったぜ!って、あ」

サトシは、いつも通り大声を上げて喜ぶが、すぐさま辞めた。なぜ、今バトルをしているかを忘れてしまったサトシは、対戦相手であるマナオに、気不味い顔を向ける。

「そ、そんな、一撃で」

マナオの前に、目を回したらカラカラが倒れていた。ピカチュウの(アイアンテール)で吹き飛ばされ、一撃でノックアウトされたのだ。マナオは、そのまま膝から崩れ落ちて、地面に尻もちをつき、俯いた。

「あ・・・」

「ピィ・・・」

サトシとピカチュウは、気不味いがそのままマナオへと近寄っていく。審判を務めたヒョウリも肩をすくめて、サトシに釣られて寄っていく。

「マ、マナオ」

「ピィピカ」

サトシとピカチュウは、俯くマナオに話しかける。すると、彼女の膝に水滴がポツン、ポツンと滴っていた。

「!」

サトシは、それを見て、足を止めた。マナオの両目から涙が溢れていたからだ。

「あぁ、泣いちゃったよ」

それを見たヒョウリは、サトシの横でそう呟く。

「マナオ、ご、ごめん。やりすぎた」

「おいおい、やりすぎたって。やらないといけない話だったろ」

「いや、そうだけど」

サトシとヒョウリがそう話していると、マナオから話かけてきた。

「私、・・・破門ですか」

マナオから聞かれた言葉に、サトシは答える。

「え?あ、いや、その、・・・うん」

「そう、ですか」

「いや。あれは、飽く迄弟子を辞めるという話だけで、それで」

サトシは、マナオへ

「私は、サトシ師匠に弟子入りする為に、一緒に旅をすることにしたんです」

「「!」」

「より強くなるためには、もっといいトレーナーとなり、カラカラを鍛えることが必要だって。けど、私達だけじゃあ駄目だった。だから、弟子入りしようって。強くて、ポケモンと強い信頼が持てて、諦めない気持ちがある貴方に、弟子入りしたいって。それで私」

「「・・・」」

「ですが、もう弟子でない以上。私が、ご一緒にする必要はないでしょ」

マナオは、目を回しているカラカラをボールへ戻し、立ち上がった。すると、そのまま自分の荷物であるカバンの元へ歩いていき、その場で背負った。そして、サトシ達に振り向いた。

「まだ1日も経っていませんが、・・・お、お世話になりました」

「え?マナ」

サトシが、彼女の名をいう瞬間。

「ッ」

彼女は、走り出した。

「あ、マナオ!」

「ピピカ!」

「・・・」

走る彼女の両目からは、雫が流れ出ていき、地面に点々と跡を残していく。そして、そのまま西の森へと走っていった。

「あぁ、行っちゃたな」

「行っちゃったじゃないだろ。どうするんだよ」

「どうするも何も仕方ないだろ。本人が出ていっちゃたんだから。たく、人の話を最後まで聞かない奴だな」

元々、ヒョウリが提案した計画予定では、弟子としてクビにはするが、その変わり一緒に旅をしていく中で、彼女の成長を見ていき、そのうち再度試験をした上で、弟子復帰を考えるという内容だった。あとは、サトシ次第で弟子に取るか取らないかを考えながら、一緒に旅を続ければいい。最悪、弟子が嫌なら旅が終えるまで、試練を与えない上、最後にさようならと言えばいいと。それにサトシも納得して実行した。だが、結果はこうなってしまった。

「まぁ、計画と違ったが、良かったんじゃないか」

ヒョウリは、そう言ってサトシの肩に手を当てる。

「だけど」

「じゃあ、お前はあのまま弟子にしておきたいのか?師匠、師匠、師匠って」

「それは、嫌だけど。・・・俺は、ただ一緒に旅をしたかっただけなんだ。お互い、弟子でも師匠でもなく。対等な立場で」

「だが、あいつが言っただろ。一緒に旅をするのは、弟子入りする為だって」

「・・・あぁ」

「てか、お前。なんで、そんなに弟子が嫌なんだよ」

「え?」

「それに、たっぷり扱き使えるし、雑用として楽出来るのにな。それと、あの女、結構可愛い方だぞ。俺の好みの娘ではないけど」

「え?付き合う?どういう意味?」

「・・・そうか、まだ子供ってか」

「ん?」

「まぁ、いいよ。この話は。結局、お前にも非があるのは事実だからな」

「非?」

「お前が、簡単に弟子入りを了承しなかったら良かったんだよ」

「ご、ごめん。つい、嬉しくて」

「あぁ、そうだろうな。最初、あの女に褒められまくった時、結構ニヤついていたぞ」

「え?そ、そうかな」

「あぁ、ちょっと気持ち悪かった」

「うっ」

サトシは、図星を突かれたが、気持ちを変えて、話す。

「確かに、嬉しかったよ。自分の実力を認められたことになるし、トレーナーの先輩として後輩に敬わられるのは、気持ちよかったよ。それで、俺、調子乗っちゃったけどな。・・・ただ、実際に弟子として接されると、段々嫌になってきた。別に、俺は偉くなりたい訳でもない、誰かに上目遣いして欲しくもない。ただ、普通に、一緒に旅をしたい。そして、一緒に強くなりたいと・・・そう思ったんだ」

マナオが走っていた森へ目を向けるサトシ。

「俺、ちゃんと、あいつに気持ちを伝えられなかったかな?」

「どうだろうか。伝わったようにも思えるが、心から理解したとも言えないかもな。けど、もう過ぎたことは仕方ないさ。本人が行っちゃたし。仮に、また会って何て言うのさ」

「・・・」

「ピカピ」

サトシは、

「ハァー」

ヒョウリは、ため息をついて、荷物の元へと歩く。

「ほら、次の街へ向かうぞ。あと、1時間で昼だが、もう少し歩いて行こう」

「・・・あぁ」

荷持を背負うヒョウリにそう言われて、サトシも自分の荷物へ向かった。

「マナオ、大丈夫かな。また、村で一人塞ぎ込んで、バッチ狩りとか馬鹿なことしないよな」

「さぁ、ただ、それは無いんじゃねぇか」

「どうして、そう言えるんだ?」

「だって、あいつ」

ヒョウリは、マナオの走っていた方へ指を示す。

「村と逆方向、西へ行ったぞ」

「え?」

「村とは逆方向に行って走ったぞって」

「嘘だろ。だって、あいつ」

「恐らく、破門の件がショックで、思考が停止していたんだろうな」

「なんで、もっと早く言わないんだよ」

「いや、すぐあいつ走っていったし。それに、もしかして一人で旅をするのかなと思ってな。何しろ、俺らも次の街までは、あの森へ入らないといけないからし」

「・・・」

「とにかく、早く次へ行こう。どうせ、次の街まで2日掛かる」

そう言って、ヒョウリは左腕の腕輪でマップを表示させる。

「あの森に入ってから、3時間程歩くと、トレーナーご利用のコテージがあるみたいだ。そこで、一泊しよう。じゃないと、ここか森で野宿になるぞ」

「・・・」

「もしかすると、そこでマナオに会えるかもしれないぞ。どうしても気になるのなら、ちゃんと話せばいいだろ」

「あ」

「ピカピ」

「そうだな」

少しだけ元気になったサトシは、ピカチュウとヒョウリと一緒に西の森へと向かった。

 

 

サトシ達と別れて、一人で走って行ったマナオは、森の中を歩いていた。

「・・・」

彼女は、サトシからの破門のショックで暗い表情を浮かべながら、前でなく地面を見て歩いていた。

(私、やっぱり全然駄目なトレーナーなのかな)

先程から、心の中でそうネガティブに考え、自分を責めていた。3ヶ月前、ポケモントレーナーとしてカラカラと村を出てから街へ行き、そこのポケモンジムで戦った。結果は、連敗。何度も彼女は、挑んだ。負ける度に、カラカラと特訓して、時には他のトレーナーともバトルをした。だが、ジムリーダーや他のトレーナーにも負け続けた彼女は、次第に自身と自分の力を疑い、バトルから逃げるようになった。普通なら何度も負けるとポケモンを疑うだろうが、決してカラカラを責めなかった。彼女にとってカラカラが家族同然の存在だからだ。ただ、自分自身を情けないトレーナーだと、自分に才能が無いからと、何度も自分を責めていくようになり、結果的に故郷の村へ戻って、引き籠もった。唯一の家族である祖母や村の人々に、嘘をついて。ただ、自分とポケモンバトルから逃げ出していた。しかし、かつて生きていた両親との約束を守りたいという気持ちがまだ残っていた。その約束と現実に挟まれた彼女は、苦渋の決断をした結果、バッチ狩りという愚かな行いへ進んでいってしまった。それもサトシ達との出会いで変わり、再びトレーナーとして修行の旅に出ようと考えた。サトシへ弟子入りすれば、より凄いトレーナーになれると考えた上で。

(やっぱり、私なんかじゃあ。立派なポケモントレーナーには慣れないのかな)

俯いて、ただそう自分に対して悪い評価をする。この行いは、日に日に彼女の習慣になろうとしていた。そんな彼女は、前へ前へと森を進んでいくのだが、途中一本道だったのだが、カーブになっているところがあった。本来の道なら左へと沿っていくのだが、右側に少しだけ細身道になっていたのだ。更に、その別れ道の中央には、看板が刺さっており、左側が(ヨヨミキシティ行き)と、(この先約2kmコテージ)と書かれ、右側は(通行注意✕)と書かれていた。この看板を見た人間なら大抵の人なら、迷わず左へ行くだろう。しかし、俯いた上、判断力が低下している彼女には、その看板の存在も、道が別れている事にも気付かないまま、右側へと足を踏み入ってしまった。本人は、自分の状況に気付かないまま、一歩一歩と足を動かし、奥へと歩いて行った。

 

 

マナオが出て行ってから、3時間程が経過した。

サトシ達は、マナオが入った森へ入り、ヒョウリのマップを頼りに、進んでいた。そして、マップ通りに森の奥にあるコテージへと無事に付いた。

「いらっしゃいませ」「いらっしゃい」

サトシ達が、コテージに入ると店員らしい男女がやってきた。

「私は、このコテージを運営しているオーナーです。こちらは、私の妻です」

「ようこう、お客様」

「お客様は、2名様でしょうか」

「えぇ」

ヒョウリは、右手で2本を立てて、そう言った。

「はい。それでは、こちらに記入をお願いします」

「はい」

ヒョウリは、オーナーに言われて、宿泊客の契約用紙へ必要事項を記入していく。

「はい、サトシ」

次に、ヒョウリはサトシにペンを渡して、交代する。

「あぁ」

サトシは、ペンを受け取り、用紙に書いていく。

「はい、サトシ様とヒョウリ様ですね。1泊の予定でお間違いないでしょうか」

「はい、そうです」

「あの」

サトシが、オーナーへ話かける。

「はい?」

「ここに、さっきパーカーを着た女の子が来てませんか?」

「パーカーを着た女の子?」

「はい、赤黒色短めの髪の毛なんですが」

「さぁ、分かりません。女性客は、本日は来ておりませんが」

「え?・・・そうですか」

「如何されましたか?」

「いえ、大丈夫です」

ヒョウリは、サトシの変わりにオーナーに答えた。

「そうですか。では、お部屋の鍵はこちらとなります」

ヒョウリは、鍵を受け取ると、二人で、部屋に向かった。部屋に入ると、そこは二段ベッドが1つある古い洋式の八畳間程の部屋だった。1つの窓があり、窓の向こうには、森や遠くの山の頂上が見えていた。二人は、荷物を降ろす。

「俺、上のベッド使うわ。あ、ちょっとトイレ」

そう言って、ヒョウリは一人トイレへと向かった。一方、サトシは下の段へ座り込む。

「・・・」

マナオの事が心配になったサトシは、窓の方を見る。まだ、日は明るいが、あと数時間もすれば、一気に外は暗くなり、気温が落ちて寒くなるのを知っている。

「あいつ、ここを過ぎて行ったのかな」

「ピィカ」

暫くして、ヒョウリが戻ってきた。

「なぁ、ヒョウリ」

「どうした?」

「本当に、マナオはここを過ぎたんだろうか」

「さぁ、どうだろうか。ここを過ぎたら、次の街や宿泊が出来る施設までは、最短でも1日半は掛かるぞ」

「1日半・・・」

「・・・なぁ、サトシ」

「ん?」

「ここへ来る途中、別れ道あったよな」

「あったけど」

「あいつ、まさかあの右側のヤバい道に行ったってことはないよな?」

「え!」

「ピカ!」

サトシとピカチュウは、その言葉を聞いて、動揺する。

「いや、飽く迄可能性の話しさ。あいつが、間違って別の道へ行ったんじゃないかなって」

「マナオが、」

「まぁ、流石に、あの看板見て右側へ行くアホは無いよな」

「そ、そうだよ」

「ピ、ピカピカ」

「けど、もしかするとわざと行ったのかもな」

「え!」

「ピカ!」

「な、なんで?わざと」

「だって、お前に破門にされたんだぜ。旅立ち初日に、彼女に取って、トレーナー人生として新しい出直しである新しい旅。だが、その1日目にして、敗北。そして、破門」

「ッ」

「余程ショックだったんだろうな」

「ウッ」

「きっと今頃、森の中で」

「えぇ」

「ピィカァ」

「・・・ハァー、可哀想に」

「やめろよ!」

「ピカピカァ!」

「悪い悪い、冗談だって」

「冗談にしては、酷いぞ!」

「ピカァ!」

「すまんすまん。ただ、あいつが、本当に危険な道へ行った可能性は0じゃないからな」

「あっ・・・」

「それと、さっきオーナーに聞いたんだが。あの道、ドンドン進むと道が無くなっていき、迷子になりやすいって。そして、崖になっているところもチラホラあるらしい。稀に、誤って怪我をした人や亡くなった人もいるとか」

「え」

「どうする?・・・お前、マナオを探しに行くか?」

「あ、あぁ」

「逆に思い過ごしだったら、探しに行った俺らが危険な目に合うが。それでもか?」

ヒョウリが軽く脅すが、サトシは迷いなく答えた。

「それでも、探しに行く」

「ピカピカ」

二人の真剣な顔を見て、ヒョウリは少し驚いた素振りで言う。

「マジか?俺は、辞めときたいんだがな。確証もなくリスクを取るのは」

「なら、俺一人でも行く」

「ピカピ」

「あぁ、そうだな。俺たち、二人でもだ!」

「ピィカ!」

そんなサトシ達を見て、ヒョウリはため息をつく。

「ハァー、そうか」

ヒョウリは、そのまま上の段のベッドへ登っていき、横たわる。それを見て、サトシはただ黙って部屋を出た。

 

 

「えぇと、こっち・・・だような。いや、こっちか」

サトシは、ピカチュウと共にコテージを出た。先程は、一本道でコテージが見えたのだが、コテージからは、道が4つになっていた。サトシ達が来た道は、東の方だと分かっていたが、東側には2つ3つの道があり、途中で枝分かれもしていた。3つの道を見て、サトシは迷っていたのだが。

「よし、こっちだ」

そう言って、サトシは1つを選び、サトシは慎重に進んでいく。

「これで、俺まで迷子になったら笑えないな」

「ピカピ」

サトシとピカチュウは、互いに不安な顔を合わせて、そう言う。

「そっちじゃない」

すると、後ろから誰かに呼び止められた。振り返ると、そこには、彼が居た。

「ヒョウリ」

「お前、やっぱりだな。普段から地図を見たり、持ち歩かないから、そういう奴だと思っていたが・・・なんだよ、気持ち悪いぞ」

ヒョウリは、サトシの顔を見てそう言った。サトシとピカチュウの顔が少しだけニヤついていた。

「いや、お前なら来てくれる気がしたんだよ。な、ピカチュウ」

「ピカ」

そう言われるとヒョウリは、少しだけ顔を赤くして。

「お前、俺を揶揄ってるなら、帰るぞ」

「あぁ、ごめん、ごめん」

「ピカ、ピカピカ」

慌ててヒョウリに謝った。

 

 

サトシ達が、マナオを探しに向かう頃。マナオは、危険な道をドンドン進んでいた。

「どうしよう。この先であってるのかな」

マナオは、間違った道を進んでいた途中で、やっと現状を理解した。自分が村とは別の道へ向かった上、ヤバイ道へ入ってしまったことに、徐々に気付き始めた彼女は、来た道へ戻ろうとした。しかし、道が整備されていない為、草木や雑草が生えて上、逆から見ると、複数の道に見えてしまい、元来た道が全然分からなくなってしまった。

「どうしよう、本当にこっちでいいのかな」

マナオは、不安になりながら、道を進んでいくと。

カサカサと傍らの林から音がした。

「ひぃぃぃ」

マナオは、驚いて尻もちをつく。そのまま、何かが潜んでいる林の方をじっと見ていると。

「キノキノ」

草むらからポケモンが姿を現した。それは、野生のキノココだった。

「なんだ、キノココか」

キノココは、マナオをチラっと見ると、そのまま無視して、反対側の草むらへと入っていった。

「けど、私・・・完全に道に迷っちゃったな」

マナオは、そう呟いて周りを見渡す。どこを見ても草木と木々だらけで、現在位置を教える看板も目印になるものも無い、勿論建物や人の影すら見当たらない。それから、彼女は考えると、何かを閃いた。

「そうだ、ポケモンなら」

彼女は、腰にあるモンスターボールを1つ取り出して、投げた。

「出てきて、カラカラ」

「カラッ、カァ」

カラカラは、ボールから出てきたのだが、すぐに前へと倒れてしまった。

「あぁ、ごめん」

マナオは、慌ててカラカラの元へより、抱き上げる。

「やっぱり、まだダメージが残ってるのね。ごめんねぇ、キズぐすり出すから」

そう言って、マナオは、自分のカバンの中を見て、手探りでキズぐすりを探すのだが。

「あ、どうしよう。私、持ってない」

(やっぱ、私駄目なトレーナーだな)

そんな事を考えていると、ポツ、ポツ、ポツポツと、突然雨が降り始めた。

「嘘」

彼女は、天を見上げて、先程までに無かったはずの空に黒い雨雲が出来ていた。

「カラカラ」

マナオは、すぐさまカラカラをモンスターボールに戻した。

「どこか雨宿りしないと」

そう言って、マナオは立ち上がり、すぐに動いた。当たりを改めて周りを見渡すが、雨宿りが出来そうな空間が無かった。

(どこか洞穴やしっかり屋根になったところでもあれば)

そう言って、すぐ奥へと進んだ。暫くすると、雨が激しく振り始め、視界も悪くなった。彼女が進む道は、次第に悪くなり、石や岩で歩き辛い上、少しだけ斜面になっていった。

「どっか良いところないかな」

マナオは、そう思いつつ、雨宿りの出来る場所を探し続けていると。

ズルッ

「?!」

濡れた地面に足を滑らしてしまい、そのまま。

「あっ」

彼女は、斜面を転げ落ちてしまった。

 

 

二人が、別れ道まで戻り、通行禁止の危険だと言う道を進んでいた。

「マナオ!いるなら返事してくれぇ!」

「ピピカ!」

サトシとピカチュウは、マナオの名前を叫び呼ぶ。

「マナオ、この道は危険だ。すぐ戻れ!」

ヒョウリもマナオに危険な道だと警告して伝える。

暫くして、ポツンポツンと雨が降り出してきた。その雨は、次第に威力と量が増してきた。

「不味いな」

ヒョウリは、見上げて雨に警戒する。

「雨が降ってきちゃったな」

「ピィカァ」

サトシとピカチュウも雨に濡れてきて、嫌な顔をする。だが、彼らはより真剣な顔をした。

「よぉし。行こう」

「待て、サトシ」

気合を入れて進もうとするサトシに、ヒョウリが呼び止める。

「!」

「さっき言ったように。この道は、整備されていない上、足場がドンドン酷くなし、崖もあると聞く。この雨じゃあ、遭難もそうだが。下手に動けば、軽い怪我じゃ済まないぞ」

「だけど、探さなきゃ」

「あぁ、分かってる。だが、サトシ。はっきり言って、彼女がここへ来た可能性は5割だぞ。もしかすると、コテージを通り過ぎた線だって、一応はあるんだ」

「そうかもしれない。けど、あいつがこの道を来ていたら!」

(・・・不味いな、こいつ)

サトシがマナオを探し始めてから、徐々に焦りが見えてきていた。そして、サトシを見るヒョウリには、冷静さを感じなくなっていっていた。

「早く、マナオを探さないと」

「誰かを助けたいなら。冷静に、賢く、最善に、考えて行動しろ!」

突然、ヒョウリが怒鳴った。

「!」

その声に、サトシは驚いて体が止まる。

「・・・」

「今のお前は、冷静さが欠けている上、賢い選択が出来ていない。もし、お前が救助隊の人間なら不合格だ。まぁ、俺も本職の人間じゃないけどな」

「・・・ごめん」

サトシは、そう謝り、徐々に気持ちを落ち着かせ、冷静になっていった。

「もし、マナオが、こっちで危ない目にあってたら。俺があいつを・・・ッ」

「・・・俺も悪い。お前だけじゃなく、俺にも責任はある。こうなったのは、俺にもあるからな」

サトシが、悲痛な顔をしているを見て、ヒョウリも少しだけ気を使い、そう告げる。

「・・・分かった。一か八かだが」

すると、ヒョウリは、何を考えついたのか。腰にあるモンスターの1つを選び、それを投げた。

「出てこい、ルカリオ」

「ファル」

ボールから出てきたのは、昨日ロケット団を相手に、サトシとタッグバトルをした時に使ったルカリオだった。

「ルカリオ?・・・そうか、波導でマナオを探すんだな」

「お、御名答だ。波導を事、知ってるのか。俺のルカリオは、波導をそれなりに使えるように修行しているし、よく波導での周囲の把握や追跡をやらせている」

ヒョウリは、出したルカリオに近づいていき、本人に説明をする。

「ルカリオ。昨日、会った女の子とカラカラを覚えているな。あいつらの波動を見つけてくれ」

「ヴァル」

指示されたルカリオは、急に静かになり、集中した。今、ルカリオは、自身の波導と周囲の波導を合わせて、読み取ろうと、マナオの捜索を始めた。

波導は、全ての物質が持つ固有の振動、俗に言う気やオーラ等のエネルギー波、を操る技術のことを言う。その波導を使いこなせるポケモンが、様々な存在が放っている近いエネルギー並を読み取る能力を持つ。ルカリオも、その一種のポケモンである。更に、ルカリオは、人語を理解する程の高い知能を持っていて、他のポケモンや人間が発する波導をキャッチ出来て、その種類や考えから動きに至るまでも、鮮明に感じ取ることができる。無論、ルカリオ、進化前のリオルというポケモンも含めて、波導を使いこなす為の修行が必要ではある。

「後は、ルカリオがそれらしいのを見つけることが出来たら、捜索を継続。ただし、見つからないなら、悪いが今日は中止、最悪引き上げだ。いいな?」

「・・・あぁ」

ヒョウリの考えに、サトシは渋々承諾した。

(頼む。ルカリオ)

サトシは、そう心から願った。そして、ルカリオは静かに、自身と周囲の自然にある波導を合わせていき、その範囲を徐々に広げていった。

 

 

「う、うぅ」

マナオは、地面にうつ伏せの状態だった。

「・・・ここは」

彼女は、目をゆっくり開けて、顔を起こすと、周囲を少し見た。先程、歩いていた道とは、全然違う風景ではあったが、同じ様に木々と草木ばかりだった。雨は、まだ強く降っていた。

「よいっ、いてっ」

マナオが、立ち上がろうと両足を動かした瞬間、左足から激しい激痛が走った。

「くっ、ッ」

左足を少し動かしただけで、痛みが走る。激痛のせいで、彼女の目から涙の粒が出てきた。

やっとの思いで、仰向けになり、自分の足を見た。だが、靴下や靴を履いている為、よく見えなかったが、少しだけ靴下を降ろしていく。

「痛」

少しでも触れると足に痛みが走るが、我慢しつつ、足首を露出させていき、それを見た。

「あ、どうしよう。足が」

足首のあたりが、青白くなり腫れていたのだ。それを見たマナオ自身、理解が出来た。足を挫いたか、骨折でもしたのだろうと。

(ヤバイな私、歩けない・・・ね)

それから、周囲と自分の惨状を見た。そして、最後の記憶を思い出していく。

「私・・・落ちちゃったんだ」

冷静になってから、そう判断して、落ちてきたと思う。斜面の上を見た。

「・・・そうだ。助けを、けど、通信用の道具とか持ってないし・・・ここ森の中だし、それに・・・雨降ってるし」

先程から悪い状況が重なっていく中、マナオの心は疲弊していった。

(私、・・・助かるかな)

ネガティブになっていたマナオに、この状況は余りにも酷い話だった。よりマナオの諦める心が強まり、助かろうという気持ちすら、薄くなっていく。

だが、彼女には、一瞬だけ。サトシが出てきた。(絶対に、諦めない)その言葉が、最後の彼女の心にあるものを突き動かした。

(誰かに助けを呼ばないと、何か、方法が)

「そうだ。カラカラを・・・駄目だ。ダメージ負って、でも・・・ごめん」

彼女は、カラカラの入ったボールを再度投げて出した。

「カラァカ~」

カラカラは、ボールから出て着地をしようとしたが、尻餅をついた。

「ごめん、カラカラ大丈夫?」

「カラ」

カラカラは、痛いのを我慢して、マナオに返事をする。カラカラは、体中に傷を負っている上、先程のピカチュウとのバトルでのダメージがまだ残っている。そして、回復させる事が出来ないが、動けるのはカラカラしか居なかった。

「お願い、誰かに、助けを求めてきて。動けないの」

「・・・カラ!」

カラカラは、元気よく返事をすると、手に持つホネこんぼうを杖代わりにして、斜面を登っていた。

 

 

ヒョウリは、左腕にしている腕輪に内蔵した時計を見た。

「もう、夕方だ」

(既に時刻は、16時過ぎ。季節的に、あと1、2時間もすれば、日は落ちて真っ暗だろう)

「どうだ、ルカリオ」

「・・・」

ルカリオは、ヒョウリの言葉に返事をしない。それだけ、今は集中をして、まだマナオ達が見つける事が出来ていないのだろう。それを隣で、見ていたサトシが心配しつつ見ていた。

「くそ、まだ見つからないか」

「仕方ない。この森は、結構広い。野生のポケモンもいるだろうし、ましてや」

そうヒョウリが話していると。

「ファ!」

突然、ルカリオが言葉を発した。

「どうだ?」

「ファル、ヴァルヴァル」

ルカリオは、何かを話すと手招きをした。そして、そのまま森の奥へと走って行った。

「行くぞ」

「あぁ。待ってろ、マナオ」

 

 

「さ、寒い」

あと、半刻もしない内に、日は落ちて完全に、森は真っ暗になるだろう。雨はまだ降っている。いや、先程より増していた。マナオは、斜面に背を倒し出来るだけ楽な姿勢を取っていた。彼女は、怪我をした左足の痛みに耐えながら、助けを待っていたのだが、雨で増す中、夕暮れも重なって、辺りの気温が一気に落ちていった。そして、それに比例するかのように彼女自身の体温も落ちていく。全身が雨で濡れている上、雨宿りも出来ない、火を焚いて暖を取ることも出来ない状況では、彼女の体温は徐々に落ちていった。このままでは、低体温症にもなりかねない。

そんな危険な彼女は、やっと助かろうとする気持ちが、また消えていっていた。

「私、このまま、・・・死んじゃうのかな」

また、彼女はネガティブに、自分の悲惨な末路を口ずさむ。だが、仕方ないかもしれない、この状況で諦めない心を持つのも、そう簡単なことではない。普通なら、死んでもおかしくない状況で、助かる望みが無いに等しいなら、尚更だ。

「・・・だ」

彼女の両目から次第に涙が溢れてきた。

「嫌だよぉ」

彼女は、自分の悲惨な末路を否定した。

「私が、今まで悪いことした罰なのかな」

彼女は、今ままでの行いを思い出してきた。両親が死んでから、他の村の子と喧嘩したことや、トレーナーになってから逃げるように村へ戻って、それからやり始めたバッチ狩り。彼女自身、それらは悪いことだと自覚はしていた。その事への報いが今来たのだと思いはじめた。

「お、おとうさん、・・・おかあさん」

彼女は、死んだ両親を呼ぶ。

「おばあちゃん・・・ごめんな、さい」

次に、まだ生きている祖母の名前を出す。

「・・・し」

そして、彼女の体力が限界に差し詰まっていた。もう声に力が入らないのか、はっきり言葉が出てこない。そして、最後の喉に力を出して、名前を呼んだ。

「サ、・・・トシ、・・・師、しょ」

サトシの名前を呼んだのを、最後に意識を失った。あと1時間もしないうちに、放置し続ければ、彼女の存命は難しいだろう。助けを呼びに行ったカラカラは戻らないまま、時間だけが過ぎて行った。

(私の旅、いや人生はここまでか)

彼女の心の中で、最後の人生について考えていた。

「ォ」

(私、なんで、こんなに駄目人間なんだろう)

「ナォ」

(ん?なんか聞こえたかな。・・・気のせいか。このまま、誰にも知られずに、この世を去っていくんだろうな)

「マ、オ」

(ん?また聞こえる、さっきより声が大きいな。もしかして、助けに?カラカラが呼びに行ったのかな。けど、もう立てないし、動けないよ)

「ナオ!」

彼女が聞こえる声が、次第に大きく聞こえてきた。

「マナオォ!」

「!」

彼女の元に、誰かが近づいて来て、大声で名前を呼んでいる。そして、その人物は、私の側にくると、体を起こして、身を寄せる。

「くそ、体が冷たい」

「俺の雨合羽を着せる、それと携帯カイロが入っているから。それで」

マナオの側で、二人組の男が会話をしている。マナオは、殆ど開かない目を開けていくと、そこにある男の顔を映った。

「し、しぉ」

「大丈夫か。マナオ」

サトシは、マナオを抱き寄せて、雨合羽を被せていく。

「よし、俺が背負うから、道は頼むぞ」

「あぁ、ルカリオ。時間がない、最短コースで頼むぞ」

「ヴァル」

そして、サトシはマナオを背負、ルカリオを先頭にして、暗い雨の降る森を走って行く。

「もう、大丈夫だからな。マナオ」

「わた、カラ、カラ」

「お前のカラカラは大丈夫だ」

「あぁ。カラカラは、俺がキズぐすりで手当して、カバンの中で眠ってる」

ヒョウリは、走りながら話して、背中のカバンに親指を向ける。

「だから、もう安心だ。あとは、コテージでお前を治療するだけだ」

サトシは、そう言って、マナオを背負いながら、必死に走る。

「し、しょ」

「ん?」

「・・・ご、めん、さぁぃ」

「・・・俺も悪かった」

 

 

あれから、マナオとカラカラを見つけたサトシ達は、ルカリオの先導のお陰で、無事にコテージに戻る事が出来た。コテージに戻ると、すぐにヒョウリがオーナーに事情を説明し、医者を呼んで貰うようにお願いをした。だが、外は雨が降っている上、既に夜だった為、医者が来るのは明日の正午だと聞かされた。そこで、ヒョウリの指示の元で、マナオの応急手当をすることにした。先に、冷え切った体を温める事が先と判断し、オーナーの奥さんにお願いをして、温い湯船で体を温めて貰った。その次に、彼女の足を、コテージやヒョウリの手持ちにある医療道具で、手当てした。そして、簡易なギブスを作り、足を固定した。

「よし、あとは動かず安静にして。医者に見て貰おう」

一方、傷を負ったカラカラには、再度キズぐすり使い、コテージにあったポケモン用の木の実(オボンのみ)を与えた。それから、カラカラは徐々に回復していき、翌朝には元気になった。それから、オーナーが呼んでくれた人間専門医者が来てくれた。早速、マナオの診察とちゃんとした手当をして貰い、無事に治療は終わった。昼の時間は過ぎて、午後となった。

「マナオ、俺達だけど入っていいか」

「は、はい、どうぞ」

サトシ達は、マナオの部屋に入る。この部屋は、オーナー夫婦がマナオの為にと、特別に用意してくれた個室だ。部屋に入ると、一段ベッドで毛布に包まれて横になったマナオと、彼女に身を寄せるカラカラがいた。

「マナオ。どうだ、調子は?」

「はい、お陰様で大丈夫です」

「そうか」

「それで、具合は?」

「お医者様は、明日には動けるだろうけど。出来るだけ無理はしないように。あと4、5日は安静にしないと」

マナオは、左太ももを摩りながらそう言う。

「良かった」

「ピカァピ」

サトシは、安堵した。すると、マナオの顔が少し暗くなり、俯いた。

「どうした?マナオ」

「あの」

「?」

「ごめんなさい。お二人には、ご迷惑をおかけしまして」

「カラカラカラ」

マナオとカラカラは、頭を下げて謝罪した。

「もう、いいよ。マナオとカラカラが無事ならそれで。助かって、本当に良かったよ」

「ピカッピカチュ」

「あぁ、よく助かったな。普通に、危なかったぞ」

「・・・はい」

彼らから、励ましを含めた言葉に少しだけ、元気になったマナオ。だが、暫くしてヒョウリから言われた言葉に、再び曇らせることになる。

「さて。マナオは、元気になったら。ちゃんと家に返った方がいいな。俺らは、次の街へいく」

「え?」

「なっ!」

「ピッカ!」

突然のヒョウリの言葉、一同は驚く反応をした。そんな事を言い出したヒョウリに、サトシは問いかける。 

「ヒョウリ、何を」

「今のマナオは、もうお前の弟子でないし、自分から出ていったなら旅仲間でもないも同然だろ。そして、彼女は、まだ安静にしないといけない状態。だが、サトシは旅を早く続けて、ジム戦に挑戦しないといけない。なら、俺らは、明日にでも出発して、マナオは完治したら、自分で村に帰って貰えばいいだろう」

サトシは、ヒョウリに

「そ、そんな言い方しなくてもいいだろう。それに、マナオは」

「あぁ、言い過ぎかもしれないが、言っていること事実だろ。現に、こいつは、破門されたら共に旅は出来ないと言って、出ていった。その上、自分のミスで、自分の命を落としかけた。そして、こうやって迷惑までかけた。例え、これをサトシが許す、許さないに限らず、こいつは反省するべきだ。今後、こいつ自身の為にも、自分一人で旅をするなら尚更だ」

「・・・」

サトシは、ヒョウリの言うことに言い返せなくなった。そして、マナオにも、理解は出来ていた。

「ヒョウリさんの言う通りです」

「え」

「私が、馬鹿な行動をした挙げ句、自分を危険に晒して、心配で助けに来たサトシ師、さん達に迷惑をかけた上、同じ危険な目に合わしかけたんです。・・・当然ですよね」

「マナオ・・・」

「危うく、この子まで失うところだった」

マナオは、カラカラの頭を撫でた。

「やはり、私」

マナオは、反省しているサトシ

「確かに、マナオ自身が招いた事かもしれない。けど、俺にも原因はあった」

「・・・」

「そして、俺やお前に助けられることになった。だけど、それが仲間って者だろ。俺は、マナオは仲間だとまだ思ってる。例え、マナオが、そう思っていても」

「・・・サトシさん」

「なぁ、マナオ」

「は、い?」

「俺たちと旅をしないか?」

「!」

「今度は、師弟でもなく、ただの旅の仲間としてさ」

「けど」

「弟子入りが目的で、一緒に旅をしてたのは、分かってる。けど、もう師弟関係なく旅をする気持ちがあるなら、一緒に行こうぜ」

「ですが、・・・また、ご迷惑を」

「今度は、気をつけるようにすればいいだろ。それに、例え何か問題が起きても、俺が助けるし、協力するさ。それが、仲間だろ。もし、俺が困っている時があったら、助けてくれマナオ」

「・・・」

「これで、文句は無いだろ。ヒョウリ」

サトシは、マナオからヒョウリへ向き直り、そう告げる。

「・・・あぁ、サトシがそう決めたなら、別にいいさ。ただ、そいつが気持ちを改めて旅が出来るならな」

ヒョウリは、そう答えると、マナオを見て、続けて言う。

「良かったな。サトシが良い奴で」

マナオは、暫く考えた。だが、答えが出せなかった。

「サトシさん」

「ん?」

「少し、返事を待ってくれますか?」

「あ、あぁ、分かったよ。まだ、時間はある」

そして、サトシ達は、部屋から出た。

 

 

夕方。

「ほら、夕飯持ってきたぞ」

ヒョウリが一人、マナオの所へ来た。部屋に入ると、彼女の夕飯を載せたプレートを机に置く。

「ありがとうございます。・・・ヒョウリさん」

マナオが礼を言うと、ヒョウリは部屋から出ようとしたが、立ち止まった。

「ん?」

「なぁ、マナオ」

「は、はい?」

「悪かったな。あんな言い方して」

「え、いや、その。・・・大丈夫ですから」

「お前、あの村に帰っても、いつかまた旅に出ようとするだろ。なら、もっと前向きに生きろ。そして、世の中をよく知れ」

「・・・は、はい」

「そして、もっと自信を持て。自信は、無くして当たり前だ。だが、ずっと無くしてたら、意味がないんだ。

「・・・」

「自信は、無くしてこそ、次の自信を強くするんだ」

「・・・強く」

「サトシは、ほんと甘ちゃんで、良い奴だよ。きっと、この1年近くの旅も、そうだったんだろな。人にも、ポケモンにも、優しかったんだろうさ」

「そうですね。サトシさんは、優しいです」

「なぁ。あいつは、お前を弟子でなく仲間として接したい理由が、何か分かるか?」

「理由、ですか?・・・分かりません」

「あいつは、上も下も作らない。仲間は、大切で対等な存在。そして、時に、助け合い、励まし合い、喧嘩もすれば、仲直りもする。それが、あいつにとっての仲間としての考えなんだよ。そう、友達と言ってもいいかもな」

「友、達」

「だから、あいつにトレーナーとして、教わりたいなら。弟子でなく、ただの仲間として、あいつに教えて貰え。そして、お前が選ぶんだ。一緒に、旅をするか、帰るかだ」

「・・・」

「どちらを選んでも、俺たちの事は気にするな。それが、お前の心からの答えなら、あいつも俺も、それを受け止めて、ちゃんと答えるさ」

最後に、そう告げると部屋を出ていった。

 

 

あれから、マナオの怪我は、2日で治った。

「良かったな。早く治って」

「はい」

「あのサトシ、さん」

「?」

「私も、一緒に旅をしていいですか?」

「・・・あぁ、勿論だ」

「本当ですか?私、貴方達に迷惑をかけたし、余り役に立たないですし」

「そんな事ない、迷惑なんて仲間として当然だろ。それに、役に立つ立たないて関係ないだろ。人には、向き不向きだから。マナオにも、きっと役に立つことはあるさ」

「そうだな。マップも読めない、冷静に考えることも出来ないサトシとは、別の特技があるさ」

「おい、ヒョウリ。やっぱ、お前、馬鹿にしてるだろ」

「そう思うなら、そうじゃないかな。フッ」

「くそ、俺にはポケモンバトルがあるんだよ。なぁ、ピカチュウ」

「ピ、・・・ピカァ、ピカァ」

「おい、お前のピカチュウ。一瞬、躊躇したぞ」

「フッ」

そんなやり取りをしていると、マナオが少しだけ笑った。

「そうですね。私にも何か役に立てるかもしれませんね」

「サトシさん、ヒョウリさん、改めてお願いします」

「あぁ」

「はいよ。今度は、勝手な行動をするなよ」

「はい。あと、サトシさんに、お願いが」

「ん?」

「私、その・・・もう弟子ではないですけど。その・・・また師匠って呼んでいいですか?」

「え?どうして」

「やはり、私は、貴方からポケモントレーナーとして、いろいろ学びたいと思ったんです。例え、正式な弟子でなくても、私にとって貴方は師匠だと思うんです。だから」

「・・・」

「そして、いつか。貴方に、改めて弟子入りをお願いします。ですから、その時、答え下さい」

「・・・分かった。どうしても、そう呼びたいなら、それでいいさ」

「はい、ありがとうございます。サトシ師匠」

「ンンン。やっぱり、恥ずかしいな。ハハハ」

「ピカピカ」

「ふぅー、一件落着ってところかな」

そうやってサトシ達は、新しくマナオを改めて仲間として向か入れた。

 

 

翌日の朝。サトシ達は、コテージを出て、次の街へ出発することにした。

「「「お世話になりました」」」「ピカピカ」

サトシ達は、コテージのオーナー夫婦に頭を下げて、お礼を言った。

「いいえ、またいらっしゃって下さい」

そう言われたサトシ達は、コテージから出た。

「よぉし。今日も、いい朝だな」

「ピカピカ」

「さぁ、ピカチュウ、ヒョウリ、マナオ。次の街へ向けて、行くぞ!」

「はい、師匠!」

「ピカァ!」

「朝から元気だな。お前ら」

「当たり前だ。早くアハラ地方へ向かって、ジム戦に挑戦しないと。さぁ、ヒョウリ。道の先導を頼むぜ」

「はいはい、了解です。サトシ隊長さん」

新しい仲間マナオとカラカラを迎い入れた彼らは、次の街へ旅を続けた。




今回は、サトシ達一行に、新しい旅仲間であり、サトシに弟子入り志望の女の子(マナオ)が加わったお話です。

話としては、この先最終話まで続ける予定ですので、ご興味がある方は、最後までお読み下さい。

追記:
現在、登場人物・ポケモン一覧を掲載しました。
登場する人物やポケモンが増えたら、更新します。また、修正も入ります。
今後、オリジナル設定関連についても、別途設定まとめを掲載を考えています。

(注意)
掲載された作品で、文章の変更や文章ミス・誤字脱字などに気付きましたら、過去のも含めて後日改めて修正する可能性もあります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。