<ポケットモンスター トライアル・パレード>   作:にじのふで

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ポケモンの二次小説です。主人公はサトシです。ご興味あれば、1話からお読み下さい。

(注意)
掲載された作品で、文章の変更や文章ミス・誤字脱字などに気付きましたら、過去のも含めて後日改めて修正する可能性もあります。


7話「トレーナー・ベストカップ 第一の試練」

ヨヨミキシティに着いたサトシ達は、そこでポケモントレーナー・ベストカップという大会の開催を知る。翌日、最初のステージとなる第一の試練が、この街で偶然開かれるので、サトシはマナオを誘い、共に挑戦する事を決めた。そして、試練に挑戦する為に、サトシとマナオは特訓を行い、マナオと彼女のポケモンであるカラカラは少しだけ成長出来た。

 

 

翌日の朝。

ポケモンセンターから出たサトシ達は、トレーナー・ベストカップの第一の試練が行われる会場へやって来た。

「ここが、会場か」

「結構でかいな」

訪れた会場は、大きな野球ドーム状の施設が複数組み合わさっていた。施設の中央に巨大なドームが1つあり、それより小さい6つあるドームが周囲を取り囲んでいる構造だった。その施設の大きさは、全長約1.3km、高さ約70mにも及んだ。

そんな巨大な施設に大勢の人が入って行った。サトシ達も、施設内に入っていくと、受付が見えたので、参加登録をすることにした。

「あの、第一の試練に、参加したいんですけど」

「はい。それでは、挑戦者の方は、こちらのスキャナーに身分証を置いて下さい」

「はい」

サトシとマナオは、自分たちの身分証明書となるポケモン図鑑を置くと、受付の人が登録作業を行った。

「それと、出場できるポケモンは、一体のみとなります。出場させるポケモンは、モンスターボールから出して、こちらの台に乗せて下さい。ご登録します」

そう言って、係の人が隣にある台を手で示した。

「それと、登録していない他のポケモンの使用や持ち込みは出来ませんので、こちらのボールロックを付けて頂くか、またはモンスターボールをこちらで責任を持って預かります。なお、身につけた空のモンスターボールも持ち込めないので、そちらもお預かりします」

係の人が、何かを取って、それを見せる。

「ボールロック?」

見られないもの、聞き慣れない言葉を聞いたサトシは、それを見て呟いた。すると、ヒョウリが隣から話しかけた。

「あぁ、モンスターボールを開かなくしたり、中からポケモンが勝手に出れなくする代物だよ。最近、作られた奴で一部のトレーナーでも人気だよ。勝手に出てくるポケモンの防止や、危険な場所や保管しているポケモンが誤って出て来ないようにも使う」

「へぇー。あ、俺はこのピカチュウで出場します。それ以外、今はポケモンを持ってません。腰のは、全部空です」

「分かりました。では、空のモンスターボールをお預かりします。それでは、サトシ様のピカチュウを、ご登録致します。こちらに乗せて下さい」

「はい。ピカチュウ」

「ピカ」

ピカチュウは、サトシの肩から降りて、台の上に移動した。

「それでは、スキャンします」

そう言って、台の上に乗るピカチュウをスキャニングした。

「これで、ご登録が完了です。次は、マナオ様」

「はい」

続いて、マナオの番となり、カラカラの入ったモンスターボールを取り出した。

「出ておいで、カラカラ」

「カラァ」

カラカラのスキャニングも済ませると、係の人からケースを渡された。

「これが、トレーナー・ベストカップの証を入れるケースとなります」

「ありがとうございます」

サトシとマナオは、係から貰ったケースを見た。一辺12cm程の正方形の形で、厚さ1cm程のコンパクトなケース。ケースの表面には、ベストカップのシンボルマークが描かれていて、ケースを開けると中に証を納めると思われる5つの凹んだ部分があった。

「あと、少しで会場に入れますので、この場でお待ち下さい。なお、挑戦者でない方は、入れませんので、こちらか外でお待ち下さい」

「はい」

ヒョウリは、そう係に返事をして、サトシ達は受付から離れた。

 

 

「ここに居る全員挑戦者か。100人はいるぞ」

ヒョウリが会場の待機場にいる大勢を見渡して、そう言う。

「多いですね。私、大丈夫かな」

マナオは、大勢の挑戦者達を見て、少し弱腰となってしまった。

「何弱気になってるんだ。マナオ。こういう時こそ、絶対勝つと思わないと」

そんなマナオを見たサトシは、彼女に一喝を入れる。

「は、はい!」

「そういうサトシは、大丈夫なのかよ」

「あぁ、当然だろ。俺は、今まで多くのジム戦やリーグ戦にも出たんだ。これ位で、ビビったりしないぜ」

「ピカァ」

サトシとピカチュウは、そう強い気で彼に答える。

「だが、サトシ。今回の試練は、普通のポケモンバトルとは違う。昨日、説明しただろ」

ヒョウリが、そう告げられて、サトシもマナオも昨日の事を思い出す。それは、昨日襲ってきたロケット団を撃退してから、ポケモンセンターにポケモン達を預けて、治療待ちをしている間、彼らが待合室でした会話だった。

「あれから、お前らが特訓中の間、俺もベストカップについて調べた」

「そうだったのか」

「トレーナー・ベストカップというのは、毎回第一の試練から第五の試練が用意されている」

「5つもあるんですか」

「あぁ。さっきも話した通り、開催される場所や試練の内容もランダム。内容は、当日に挑戦者達に発表するぶっつけ本番仕様で、関係者の中でも極一部の者しか知らないようになっている。また、挑戦するに当たり、持ち込めるポケモンは一体のみ。それ以外は、預けて持ち込み不可能となっている。まあ、ズルや違反を防止の為、だろう。過去に、同じポケモンを6体持ち込む馬鹿がいたみたいだし。隠してモンスターボールを持って入り、バレない所で、入れ替えたりと例年いるみたいだ」

「そんな奴がいるんだな」

「まぁ、普通に居て不思議じゃないだろ。世の中、全員が真面目や正直者じゃないんだからさ」

「俺は、絶対しないけど」

「私もです」

「で、話を続けるけど。その挑戦した試練を見事達成出来た者には、達成者としての証のコインが渡されるらしい。そして、次のステップとなる試練が行われる開催場所と日程を教えてくれる。それで、次の試練へ達成者達が、その日までに行くという流れだ」

「では、終わったらすぐに移動しないと行けないのでしょうか」

「おそらくな。まぁ、仮に間に合わない場合は、次のシーズンで受ける事も可能だ。実際、試練の落ちても次回受けて合格し、次の試練で落ちたら、また次のシーズンで受けられるというシステムになってる」

「俺は、今シーズンで絶対取るぜ」

「わ、私も・・・頑張ります」

「それが出来たら、お前らは優秀なトレーナーだということさ。ただ、甘くないから覚悟はしておけよ」

ヒョウリは、そうサトシとマナオに忠告をした。

「それと、結構厳しいセキュリティチェックの方、挑戦者もすぐに把握されるようになっている。もし、過去に違反行為で参加禁止を食らってたり、指名手配でもされてたら、すぐにバレて退場となる」

「わ、私、大丈夫でしょか」

突然、マナオは不安な顔をして、そう言い出した。

「え?マナオ、何かしたのか?」

「その、師匠。ほら、私、バッチ狩りしてたじゃないですか。だから」

「・・・あっ」

サトシは、マナオのとの出会った時を思い出す。だが、その事について、ヒョウリが話し始めた。

「多分、大丈夫だろうよ。お前、ジュンサ―に捕まったり、取り調べとかされなかったんだろ。それにバッチは結局取れなかったんだし。まぁ、大丈夫さ」

「なら、いいですけど」

マナオは、少しだけ安心した顔をした。

「とにかく、明日に備えて。さっさと飯食って、寝るぞ。明日、寝坊しても知らねぇぞ」

昨日は、その会話の後、ポケモン達の治療が終え、一緒に夕食を済ませてから、入浴、歯磨き、就寝した。

そうして、サトシ達が昨日の内容を振り返ったり、これからの試練を挑戦する上で、気持ちの整理をつけていると、会場へ入れる大きな扉が開き出した。

「おっ、開いたぞ」

「そろそろか」

待機していた挑戦者達は、次々と開かれる扉を見て、近づいて行く。すると、開いた扉の中から大会の関係者だと思われる係の人が数人現れて、扉の前に佇んだ。それから、会場内のスピーカーからアナウンスが鳴った。

『間もなく、第一の試練が開催されます。挑戦者の方は、係の者に従い、中にお入り下さい。また、挑戦されない方は、中には入れませんので、外でお待ち下さい。なお、出場出来ない方は、入れませんので、ご注意下さい』

そのアナウンスが終わると、佇んでいた係の一人が話始めた。

「それでは、挑戦者の皆様。自分のポケモンと並んで、列を作って下さい。一組ずつ、確認を取らせて頂き、入場させます。また、入場者には、本日使用するこの番号バッチをお渡ししますので、自分の服の胸部分に、お付けて下さい」

そう指示を聞いた挑戦者達が、次々と扉へ向かっていき、行列を作っていった。そして、扉の所に居た係の人間が、登録した者とポケモンを一組ずつ確認して、番号バッチを1つ渡して、中へ通していった。

「うわぁ、もうこんなに行列が出来ましたね」

「もう少し、減ってから行こうか」

マナオとサトシは、そう話して人が減るのを待った。そうやって、ドンドン挑戦者達が扉の中へ入っていくと、扉に佇んでいた係の一人が、突然一組の挑戦者の前に立ち塞がった。

「な、なんですか?」

「ボン?」

道を塞がれた挑戦者の男と隣に居たポケモンのニョロボンが問う。そんな彼らに立ち塞がった係員は、男に対して答えた。

「失礼。貴方を、お通しする事は出来ません」

「な、なんでだよ!」

男は、係の言葉に理解出来ずに、大声で怒鳴る。その声で、周りの気付いていない人間も注目し始めた。

「なんだ?」

サトシ達も、その方を見る。

「それは、貴方が当試練の正式な受付をされていないからですよ」

「は?いやいや、俺はちゃんと受付をしたぞ。ほら、この身分証でしっかりとな」

男は、そう言ってポケットから取り出し、身分証を見せる。それを見た係は、言葉を返す。

「えぇ、それで受付をされた事は、存じています」

「だったら」

「ただ、そちらは・・・偽造の身分証ですよね?」

「え?(ギクッ)」

その言葉を言われて、男の顔は青ざめた。

「それに、貴方は過去にベストカップ挑戦の際、他の複数の施設で違反行為を多数行っていますよね。それで、貴方はトレーナー・ベストカップへの挑戦権が永久的に剥奪となりました。ですから、貴方は偽造身分証を使って、参加しようとされた。・・・それで、お間違いありませんよね?アハラ地方のタキツボタウンのツルトコさん?」

「なっ、俺の名前まで」

「どうされますか?このまま、ジュンサーさんをお呼びしても構いませんが」

「あっ・・・し」

男は、ジュンサーという言葉を聞いて、後ろに一歩引いた。

「失礼しゃしたぁ~~~!」

「ボォ~ン!」

そして、男とニョロボンは、そう叫びながら慌てて会場から逃げ出した。

「はぁ~、噂通りのセキュリティだな」

ヒョウリは、そう言うと扉の所や会場のあちこちに、設置されたカメラを見て思った。

(最新の顔認証や過去のトレーナー経歴やらを、短時間で焙り出したか。流石、パロント財団の最新セキュリティシステム)

「あ、あぁ、いう挑戦者もいるんですね」

「そ、そうみたいだな」

マナオとサトシは、突然の事に驚きつつ、そう話した。暫くして、挑戦者達がドンドン入って行って、行列は減っていき、いよいよ最後尾が入ろうとしていた。

「そろそろ、いいか。行こうぜ」

「ピッカ!」

「はい。いくよ、カラカラ」

「カラッカ」

サトシとマナオ達は、列の最後に並んで、扉へと歩いていった。

「それじゃあ。俺は、ここで待ってるよ。頑張れよ、お二人さん」

ヒョウリは、挑戦者である二人に、手を振る。

「あぁ」

「頑張ってきます」

サトシとピカチュウ、マナオとカラカラは、会場の中へと入って行き、係によって扉は閉められた。

 

 

サトシとマナオが、扉を抜けて中に入ると、そこは広い空間だった。上には、大量の照明で照らされていて、外みたいに明るかった。そして、左右には高くて黒い壁があり、正面は広大な空間のフィールドが見えた。

「広いですね」

「あぁ」

サトシとマナオも、施設を外観で見た時に察していたが、実際の中の広さに、少し驚いた。

彼らは、他の挑戦者達につられて、徐々に辺りを見回しながら進むと、施設内の構造に見覚えが合った。

「あれ」

正面中央にある空間より向こうの上側には、大量の座席らしいものや複数の大型モニターのようなものが見えた。挑戦者達が入ってきた場所は、どうやらドームでいう観客席側ステージの一角だという事が分かった。左右にある壁は観客席デッキの端であり、その間の選手入場口となっていた。それから、挑戦者達は、中央に広い空間であるフィールドに入ろうと移動したが、大量の高い柵で通行止めとなっていて、そちら側にいけないようになっていた。

「あれ、この奥で試練するじゃないのか?」

「行けねぇぞ」

「もしかして、ここで待つのかな」

そう挑戦者達は、口々に言って待ってみた。

サトシや挑戦者達が、会場に入ってから5分が過ぎた。今だ、何の連絡も無ければ、係が誰一人と顔も見せないでいた。中に入った100人近くの挑戦者がまだかまだかと、首を長くしていた。

「くそ、まだかよ」

「おいおい、どうなってんだ」

「なんかあったのかな」

「・・・遅い」

そう不満を募られていたその時だ。ガツンと大きい音がなり、彼らの視界は闇となった。

「なっ」

「あっ」

「えっ」

突然、会場の電気が消えたのだ。会場の挑戦者達の多くが驚き、中には冷静な者も居た。

「なんでしょう」

「分からない」

サトシやマナオも急に不安な顔になっていると、彼らに向かって1つの照明が点けられた。

「うわっ」

「なんだ」

突然の照明に、驚いている挑戦者達。すると、その照明の向きが動きだし、自分たちが入ってきた出入り口側へと進み、壁を登っていく。そして、壁の上の少し高い位置に、1つのステージがあり、そこで照明は固定された。それから、照明が照らしたステージに、スーツ姿の男性が一人現れた。男は、黒髪で右頬に傷跡があり、ガタイの良い体格をした年齢は40代だと思われる。男は、片耳にマイクイヤホンのようなものをつけていて、そのマイクが彼の声を拾って、会場内のスピーカーが響かせる。

『ようこそ、挑戦者のトレーナー諸君。ここ、ベストカップ第一の試練が用意されたトライアル会場へ』

男は、下にいる挑戦者達に目降ろしながら、話し始めた。

『私は、本日ここで行われる、第一の試練の監督を務める責任者のオオバヤシだ。これより、諸君には、ベストカップの第一の試練に挑戦して頂くことになる。そして、試練に達成した者のみが、第二の試練への挑戦権を手にする事が出来る』

オオバヤシと名乗る男は、挑戦者達に自己紹介を終えると、パチンと指を鳴らした。その合図で、消された会場内の照明が、再び点灯されて、明るさを取り戻した。

『では、今回の試練が行わるフィールドを、お見せしよう』

続いて、オオバヤシは中央ステージを指差しながら、そう告げると、ガッガッ、ガァーガァー、ウォーンウォーンと、何らかの機械音や金属が擦れる音が響き始めた。

「「「!」」」

挑戦者達は、急になり響いた音の方向が、会場の中央にある広大なフィールドからだと気付き、そちらを振り向いた。サトシやマナオも、同じくして会場中央へ目線を移した。中央のフィールドの床から次々と巨大な壁がいくつも迫り上がって行き、徐々に何かを形成していく。それから、5分もかからず、駆動音が鳴り止み、フィールドの動きも止まった。

次に、機械音が再び鳴り響き、中央への侵入を拒んでいた柵が、真ん中で切り開かれ、左右へスライドされていった。挑戦者達は、黙ったまま、中央フィールドの中へ入って行き、飛び出した巨大なステージへ近づいて行った。

「なんだ。この壁」

「砦みたいだな」

「たけぇ」

「20m以上あるぞ」

間近で見た挑戦者達は、その大きなオブジェクトに息を呑んだ。

『これが、第一の試練のフィールドとなる』

再びオオバヤシの声が聞こえた。挑戦者達は、彼の方を再び見たが、先程のステージには居なく。すぐ近くの観客席側にある高台のステージに、彼は移動していた。

『その名も、迷宮発走、ラビリンス・ラン』

「迷宮?」

「ラビリンス?」

「ラン?」

彼の言った試練の名前に、挑戦者達は口ずさむ。

『それでは、時間が押しているので。これより、第一の試練について、説明を行う』

オオバヤシによる第一の試練の説明が始まった。すると、彼が立つ後方にある観客席の上にある大型モニターや周囲の他のモニターが点きはじめた。

『今回、ここでの挑戦者となる106名の諸君には、制限時間終了までに、この迷宮の中を通っていき、ゴール地点に到達して貰う。それが今回、ここで用意された第一の試練の内容だ』

そう言うと、モニターには挑戦者106名という表示と、彼の言う言葉に合わせて文字が表示され、オオバヤシによる説明が行われて行った。

『詳細だが、挑戦者が各自決められたスタート地点からゴール地点に到達して貰う。制限時間は、30分。開始から30分後までに、ゴールに到達したトレーナーとポケモンが合わせた組のみが、達成者となる。なお、ステージ内は迷宮という言葉通り、中は迷路となっていて構造は複雑。そして、迷路内には、それぞれ様々なギミックやトラップが仕掛けられている。迷路内には特別な訓練を受けた敵役、エネミーポケモンが待ち構えても居て、挑戦者である諸君達を妨害する。エネミーポケモンの種類も力量、数もランダム。故に、ポケモンを倒すか、他の道を選ぶか、他の挑戦者と協力するのも君たち次第。もし、試練中にトレーナーかポケモンがダウンした場合、本人によるリタイアや挑戦者の違反行為が発覚した場合は、その挑戦者は失格とさせて貰う』

挑戦者達は、彼の説明を真剣に聞き、モニターに表示されたルールを覚えていく。

『続けて、その違反行為についての説明だ。ここでは、他の挑戦者に対して、故意に甚大な被害を齎す妨害行為は原則禁止となる。そう判断されたトレーナーやポケモンの組は、即刻退場させる。ただし、試練の内容や説明次第での了解を得た、バトルのみは有効とする。十分注意するように。毎回、違反する者が何人かは出ているので、諸君の中にも出てくるものと考えている。我々は、容赦なく違反者は失格。場合によっては、永久追放とするので、心するように』

その言葉を聞いた挑戦者達の多くが息を呑んだ。何しろ、先程その者とその末路を見たからだ。そんな彼らの顔色を見たオオバヤシは、気にせず最後の説明を行った。

『それでは、最後に。諸君のスタート地点を発表する。スタート地点は、入場時に受け取った番号バッチと、こちらで既に決めさせて貰った番号を振った地点が同じ場所となる』

モニターには、挑戦者の番号と同じ数字がスタートゾーンにランダムで設置されていた。

『早速、挑戦者諸君には、各自が指定されたスタート地点へ移動して貰う』

そう言われ、挑戦者達は、モニターの数字と自分の番号バッチを見比べて、スタート位置を確認しはじめた。サトシやマナオも同様に、自分のバッチとモニターを見た。

「俺は、Aの88だったな。えーと、えーと、右の方か」

「私は、Aの27だから・・・ちょっと左側の方ですね」

サトシとマナオは、互いに離れたスタート地点での開始だと分かり、その場でしばしの別れ

をした。

「それじゃあ。マナオ、頑張れよ。ゴールで、会おうぜ」

サトシは、そう言って、右手の拳を彼女へ向けた。

「はい、師匠。ゴールで会いましょう」

彼女も同じくして右手の拳を、彼の拳に当てた。それから、二人はそれぞれのスタート地点へと移動した。

あれから、挑戦者達106人は、それぞれのスタート位置に着いていくと、次のアナウンスが流れた。

『間もなく開始する。各スタート地点の迷宮ゲートを開く。挑戦者達は、指示があるまで迷宮への侵入は行わないように』

彼らの目の前にある壁がそれぞれ動き出し、下へと降りていった。

今回の試練で用意されたフィールド(迷宮発走ラビリンス・ラン)は、一辺が約15mの正方形のブロック毎に別れたエリアが並んでいた。スタート地点側の横に50ブロックが、縦に80ブロック、計4000ブロックで形成された長方形の大型迷路となっている。そのブロックの周囲や内部にそり立つ壁は、高さは20mもあった。

スタート地点となる50ブロック分の前には、先程開いた通路があり、そこから挑戦者達が侵入するようになっている。今回の試練での挑戦者は106名となり、1つの侵入口から約2名が入るようになっている。その迷宮内は、複雑な迷路となっており、スタート地点とは反対側になる50ブロックのうち、20ブロックにゴール用の出口が存在する。そこに到達するまでに、様々なトラップやエネミーポケモンが配置されていて、挑戦者達の行く手を阻む。

入口が開かれてから2、3分が過ぎた。試練開始まで、その場で待つようにと言われた挑戦者達は、今か今かとトレーナーと相棒のポケモンと共に、体が疼いていた。無論、中にはトレーナーもポケモンも共に、ジッと冷静に待ち構えている者もいた。そして、サトシとマナオはというと。

「くっ、まだか」

「ピカァ、ピカピカ」

「・・・(どうしよう。怖いよ怖いよ)」

「カラァ、カラァ」

サトシとピカチュウは、揃って興奮と気合が入っており、マナオとカラカラは徐々に緊張していた。そんな挑戦者達に、待ちに待った合図が来た。会場内のスピーカーから、アナウンスが流れた。

『それでは、間もなく試練を開始します。挑戦者の方々は、スタンバイをお願い致します』

それから、ステージに佇んでいる当試練の監督であるオオバヤシが、開始の合図を送った。

『それでは諸君・・・第一の試練を開始とする!』

その言葉が会場を響いた瞬間、挑戦者達は前方の道へと駆け出して行った。

「行くぞ、ピカチュウ!」

「ピッカ!」

「い、行くよ、カラカラ!」

「カラァ!」

サトシとピカチュウ、マナオとカラカラは、それぞれの道へと突き進んで行った。

 

 

合図が鳴り、106名にもなる挑戦者達が迷宮に入って行った。全部で50箇所のスタート地点から入り組んだ迷路の中を、真っ直ぐと、右へと、左へと次々に進んでいく。挑戦者の中には、行き止まりに入り、引き返す者。途中で、スタートとゴールの方向が、分からなくなり足を止めているもの。トラップの話を聞いて、1歩1歩と慎重に進む者。そして、スムーズに進んでいる者達も居た。その内の一人に、右から5番目のブロックからスタートした青年が居た。彼は、他の挑戦者達と違い、ドンドン先へと進んでいた。だが、彼の側には相棒となるポケモンの姿がなかった。なぜなら、床でなく上に居たからだ。

「ふん、運がいいぜ。ひこうタイプのポケモンなら、すぐに道が分かる」

彼の相棒となるポケモンは、飛行能力があるオオスバメだった。

「次は、どっちだ」

「スバ!」

トレーナーである彼の問いに、オオスバメは右の方へ翼を上下させる。

「よし、右だな」

そうやって彼は、オオスバメを上空に飛ばして、ゴールまでの進路を教えさせていたのだ。

「なんだ。ちょろいぜ」

彼とオオスバメは、何の問題もなくドンドン迷路を進んでいき、着実にゴールへ1歩1歩近づいていた。だが、トレーナー・ベストカップの試練は、そう甘いものでは無いことは、彼はまだ理解していなかった。

「スバ!」

オオスバメは、何かに気付いたのか、バッと振り返った。すると、その方向から大量の電撃がオオスバメに向い、襲った。

「スバァァァ!」

「なっ!」

そして、オオスバメは真っ黒けの状態となり、そのまま落下してしまった。

「おい、オオスバメ。大丈夫か」

「ス、スバァ」

彼が駆け寄ると、オオスバメは完全に目を回してダウンしていた。

「一体、何が」

そう口ずさむと、上空に何かが居るのに気付いた。

「なっ。なぜ、あんなに・・・レアコイルが」

彼の目線の先には、10体近くのレアコイルが飛んでいた。

「くそ。まさか、こういう時のための、飛行対策か」

彼が言う通りだ。今回の試練のフィールドと内容は、時間内に迷路を進んでいってゴールすること、ならひこうタイプなどの空飛ぶポケモンには、有利となるだろう。しかし、試練の内容やフィールドは、当日まで極秘とされていて、それを前もって用意することは不可能。仮に、彼のように運良くベストなポケモンを選んでいたとしても、その事を運営は想定して

いる。挑戦者達であるトレーナー、その相棒となるポケモンには、試練を与えて、それを乗り越えた者が、次の試練へ挑む権利を有する。その考えを持つ彼らには、どんなポケモンが来てもいいように、対応策や試練を用意してあるのだ。特に、テレポートなどのこのステージで圧倒的有利になるわざやとくせいを持つポケモンにも対策が行われていた。先程から(テレポート)を使えるポケモンに挑戦者は何度も指示しているが、一向に成功しない。このフィールド内には、テレポートを阻害する特殊な妨害装置などハイテクな機器まで用意されている。

他にも、(あなをほる)を覚えているポケモンを使って、ゴールまで道を作ろうとしたが、フィールドのブロックの強度は予想以上のもので、多重構造となっていた。また、壁に登って、ブロックの壁上を走ろうとした挑戦者とポケモンが居たが、レアコイル以外にもそれを阻害するエネミーポケモンやギミックが存在した。

「くそ、本当に迷路だな」

「ピィーカ」

スタートしてからサトシは、迷路という複雑な地形に惑わされていた。先程から、何度か行き止まりにぶつかっては、引き返しゴール側へ行こうとするも、中々その道が見つからないでいた。今は、上下左右のどのみちがいいのかを迷っていた。

「よーし」

サトシは、右手の人差し指を上に立てて、周りを1周回って見渡す。それから、1つの方向に指を降ろすと。

「こっちだ」

「ピカッ」

サトシは、指差した方向へ進んで行くと、次のブロックエリアに入り、中央付近へ右足を1歩前に出した瞬間、足元の床が少し沈み、同時にカチッと音が鳴った。

「ん?」

サトシは、その音に気付き、自分の右足に目をやった。それから、スッとその足を持ち上げて見ると、踏んだ所の床が、正方形状に凹んでいた。

(なんだ?)

そう思い、首を傾げた時だ。突然、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャンとサトシの居るブロックの周囲にある4ブロックの床から巨大な壁が上がってきたのだ。

「うわぁ!」「ピカァ!」

そうして、サトシの周囲に出来て壁により、四方を囲まれてしまった。

「か、壁?・・・これが、トラップ?」

サトシ達が閉じ込められたのは、ブロック5つ分が十字状になった空間だった。

「これじゃあ、出られないぞ。どうなってるんだ」

「ピカァ、ピカァ」

サトシとピカチュウは、現れた壁の1つに寄り添って、手で触れてみて押したりするが、びくともしない。それから、壁がどの位の厚さや硬さかも、把握してみた。

「この壁、思ったより分厚そうだな。ピカチュウのアイアンテールでも厳しいそうだ」

「ピィカァ」

壁の厚さを見て、アイアンテールではそう簡単に壊せないと判断したサトシとピカチュウ。すると、サトシは調べていた壁の中央に、何かがあるのに気付いた。

「ん?なんだ?この文字」

壁に、文字が書かれていた。そこには、『挑戦者よ。彼らを倒して、ここから出るのだ』と書かれていた。

「ん?彼ら?倒せ?」

サトシは、そう呟き、何の事なのか分からないでいると、ガァーっと後ろから機械音がしてきた。サトシ達は、音に気付いて振り返ると、床の1つが開いて中から何らかの配管状のものが飛び出してきた。そして、配管からの中から、ブーンブーンと何かの羽音が聞こえてきた。

「な、なんだ?!」

「ピッカ?!」

その音は徐々に大きくなってくると、配管の中から10体のスピアーが飛び出してきた。

「スピアーだ!」

「ピカ!」

「あっ。なるほど、こいつらを全員倒せないと、出られないってことか」

サトシは、文字と目の前のスピアーから部屋の脱出方法を理解した。

「よし、時間が無い。すぐに決めるぞ、ピカチュウ!」

「ピカァ!」

ピカチュウは、スピアー達に突っ込んで行った。

 

 

サトシが、そうしている一方で、マナオとカラカラは迷宮内に入って行き、ある場所で足止めを食らっていた。彼女の後ろには、別の挑戦者達とそのポケモン達が、揃って目を回して倒れていた。そして、彼女とカラカラは、苦戦していた。彼女達の前方には、大きな砲台のようなものが現れていた。その砲台の砲身からは、20cm程のゴムボールの弾が彼女達に目掛けて高速で発射されて、ボール弾が飛んできていた。

「避けて」

「カラァ」

「また、来る。避けて」

「カラァ」

カラカラが、躱すとその方向へ砲身の向きを変え、またゴムボールのような弾を発射する。その砲台は、近づく標的を感知して弾を発射し、向きも相手に合わせて変えられる自動砲台だった。その砲台から、発射されるゴムボールは、特殊な素材で出来ており、発射速度も速い。素材は柔らかい為、人間に当たっても、それ程怪我をすることは無いだろう。だが、威力は違った。1発1発の弾の力は、通常のポケモンが使うわざ「たいあたり」に匹敵するものとなっている。マナオ達の後ろで伸びている挑戦者組は、この砲台をトレーナー諸共、食らい目を回していたのだ。

「くっ、これじゃあ。前に進めない」

「カラァ」

「カラカラ、ホネブーメラン!」

「カラ!」

カラカラは、砲台目掛けて骨を投擲した。骨は、回転しながらブーメランの如く、向かっていく。そして、砲台に直撃する瞬間。砲台の前の床から鉄の板が迫り上がり、(ホネブーメラン)を防いで、砲台を守った。

「なっ!」

「カラッ!」

その事に、驚くマナオとカラカラ。二人が、そう反応していると砲台を守った板が下がり、また砲台が攻撃を繰り出してきた。

「くっ」

「カラッ」

再び撃ってきて、ボールの弾を躱すマナオとカラカラ。次々と砲台から発射されるゴムボールの砲弾。この弾に当たれば、通常のポケモンの(たいあたり)並のダメージを受けることになる。それが、2,3秒間隔で、次々と連続発射される。カラカラから砲台の距離はおよそ30m。弾の速さも、それなりに速い。15mのある距離を2,3秒で砲台側へ近づく事に、マナオにもカラカラにも厳しかった。

「一旦、下がろう」

「カラァ」

マナオとカラカラは、後ろへと30m以上後退する。すると、砲台も動きを止めて、撃つのを止めた。

「どうすれば」

マナオは、そう呟き側の壁に目をやった。そこには、文字が書かれていた。『この砲台を止める方法と抜ける方法』と他には砲台の説明として『砲台の前方30m以内で、対象に反応して弾を発射。砲身は自動で対象を追尾して動く。砲台を止めるには、ポケモンを使っての破壊。または、砲台の後方にある赤色の丸い<STOP>と書かれたスイッチを押すこと』とあった。

(砲台をカラカラで壊すか、それともスイッチを押すか)

彼女は、昨日のサトシとの特訓を思い出す。その中で、サトシから教わった言葉の1つ1つを記憶から出して行き、1つの言葉にあたった。

(いいか、マナオ。相手ばかりじゃなくて。時には、フィールド全体も見るんだ。そして、考えろ)

マナオは、前方の砲台でなく両側にある壁に目を移す。次に、先程から何度も見ていた砲台をもう一度見た。自分が挑む前に、後ろでやられている挑戦者達への対応から、自分が挑んだ時の様子を含めて、思い出す。最後に、相棒であるカラカラを見ていると、彼女は、何かに気付いた。

「あっ」

彼女は、それからしゃがみ込んで、しばし考えた。それから、1分程考えてから、立ち上がると、カラカラに話しかけた。

「カラカラ」

「カラ?」

「・・・囮を使うよ」

「?」

彼女の言葉に、カラカラは理解出来なかった。

「いい。カラカラ、合図したら思いっきり左の壁側に沿って走って行って。私は、右の方を走るから」

「・・・カラ!」

カラカラは、どういう手でいくのかを詳しく教わらなかったが、彼女を信じて返事をする。

「行くわよ。・・・GO!」

「!」

二人は、一気に左右へ散ってから前に走って行く。そして、射程圏内である30m以内に入った。砲台は、射程圏内に入った事で動き出した。だが、砲台が先程とは違う挙動になっていた。砲台は、右にいるマナオと左にいるカラカラと砲台が、向いてはまた逆へと向き直る動作をし始めていた。突然、2つの標的が現れて、システムが追いついていないのか、狙いを定める事が出来なかった。

(よし、いけそう)

だが、砲台のシステムは、この状況も想定されていたのか、すぐにプログラムが切り替わった。砲台は、挙動を止めると、一気にカラカラの方を向いて、ボール弾を発射した。

「!」

カラカラは、飛んできた砲台が撃ってきたのに気付き、すぐさま身を翻して、弾を躱した。

「カラカラ、止めらないで!」

彼女の言葉を聞いて、カラカラは続けて前へと進む。すると、砲台が今度は、マナオへと砲身を向け、発射した。

(今度は、私か)

マナオは、弾が発射されたボールを予想して一気に前へ倒れ込んだ。向かって来た弾は、彼女の背中ギリギリを通り抜けた。

「あぶっ」

倒れ込んだ彼女は、すぐさま立ち上がろうしたが、砲台は続けてマナオを捉えて、ボール弾を発射した。

「!」

今の彼女の体勢では、躱すのは難しい状態

「きゃあ」

ボールを見事体に受けて、吹き飛ばされた。

「カラァ!」

そんな彼女の声を聞いて、立ち止まるカラカラ。

「止まらないで」

彼女は、カラカラにそう言うと、すぐさま立ち上がり、また同じ方へと走って行った。

「カラ!」

カラカラも彼女に言われて、すぐさま前を走って行き、砲台までの距離が15mを切った。すると、今度はカラカラに目掛けてボール弾を発射した。カラカラは、今度は骨を構えて(ボーンラッシュ)で受け止めた。

だが、次から次と砲台は発射し、何発もの弾がカラカラを襲う。必死にボーンラッシュで受け取るも、徐々に後方へ押されていってしまう。その隙をついて、マナオは走っていき、裏から砲台を止めようと近づいた。

だが、砲台はすぐさま反応し、カラカラへの攻撃を止め、すぐさまマナオへ向いてから、発射した。彼女は、それでも躱そうともせず前に前に走って行く。

「今よ。ホネブーメラン。ぐっ」

彼女は、自分のことよりカラカラに指示を出した。そして、彼女はボールを受けてしまう。

「カラァ!」

カラカラは、砲台目掛けて、(ホネブーメラン)を放ち、回転した骨が砲台目掛けて飛んでいく。だが、先程砲台を守った板がまた出て来て、防いでしまった。板に当たった骨は、そのままカラカラの元に戻っていく。

「続けて、ホネブーメラン」

彼女は、続けて(ホネブーメラン)を指示する。カラカラは、言う通りに受け取った瞬間、体を回転させてその勢いでまた(ホネブーメラン)を投げた。無論、再度防護用の板で阻まれるが、それが彼女の狙いだった。

(よし。やっぱり、撃ってこない)

「そのまま続けて」

「カラァ!」

彼女は、砲台が防御されている間は、こちらに向かって撃てない事に、気付いていた。先程の同時に2つの標的を攻撃が難しい事と合わせて、彼女の計算だった。砲台の様子を観察して、周囲の状況を頭に入れて、自分やカラカラが効率良く、突破する方法を、彼女は考えた。

(今が、チャンスだ)

マナオは、カラカラが援護している間に、残った距離を一気に走り抜けて、砲台の側面から後方へと回る。そして、後方にある停止ボタンを勢い良く押した。その瞬間、砲台から駆動音が完全に消えて、そのまま微塵も動かなくなった。

「ふぅー、止まった」

「カラァー」

彼女とカラカラは、互い気が抜けて、その場に座り込んでしまう。

「・・・こうしる場合じゃない」

「カァ!」

一息しているマナオは、すぐさまそう大声を上げる。その声に、カラカラも反応した。

「急いで、ゴール行かないと」

「カラァ」

二人は、また全力でゴールを目指して、迷宮の奥へと走って行った。

 

 

サトシやマナオの他の挑戦者達も、同じ様にフィールド内のトラップやエネミーポケモンに道を阻まれ苦戦し、中には既に脱落した者達も居た。ある者は、落とし穴に落ちて、泥まみれとなり。ある者は、ベトベトンにのしかかりをされ、目を回したり。ある者は、イトマルの大群に、グルグル巻きにされる等と、次々とトラップやエネミーポケモンにやられていった。それでも、挑戦者達の中には、それらを乗り越えて、ゴール地点に目掛けて進んでいく者も居た。

試練が開始してから10分程が経過して、定期連絡のアナウンスが会場内に鳴り響く。

『残り時間、20分となりました』

あれから、責任者であるオオバヤシは会場のステージからアナウンスやフィールド全体を管理している管理室に来ていた。

「どうだ?様子は」

オオバヤシは、室内で座っているスタッフへ、状況を聞いた。

「はい。開始してから10分程が経過しました。現在までにゴール到達者は、0名。27名が脱落状態となり、違反者は今のところ出ていません」

挑戦者やフィールドの状況を表示した画面を見ているスタッフが答える。

「そうか。フィールドに問題は?」

「そちらも、現在問題ありません」

今度は、フィールド内に設置された多数の監視カメラをモニタリングしている数名のスタッフの内、1人がそう答えた。オオバヤシは、彼らの後ろからモニターを覗き、挑戦者達を見ていった。

「さて。これからが、ハードだぞ」

オオバヤシは、そう言いながら、両手を叩いた。

この迷宮は、スタート地点から中間地点、中間地点からゴール地点へと、ゴール側に近づけば近づく程、トラップやエネミーポケモンのレベルが高くなるように設計・配置がされている。大抵のポケモントレーナーやポケモンであれば、中間地点に到達出来るだろうが、劣った者や油断した者には、それまでに脱落するリスクがある。そして、中間地点を超えてからが、この第一の試練である迷宮の本番となるのだ。

このトレーナー・ベストカップでは、各試練の内容や場所を、毎シーズン毎に変える事となっている。まずは、運営によって、各地方の試練の開催場所を全て決める。その後、試練の内容を施設や街、環境に合わせたテーマで、各試練の担当をする監督や運営委員が協議や各自提案によって、最終的に決める。

この施設は、元々ハルタス地方で行われていたポケモンリーグ戦用の施設だった。しかし、10年以上も前に諸事情で使用がされなくなり、閉館。その後、トレーナー・ベストカップの運営やスポンサーによって買収し、施設の増築や改造したものとなる。その他、トレーナー・ベストカップ以外でもポケモンを利用した練習場やアトラクションとしても使えるのではないかという考えから、中央フィールドに様々な仕掛けやオブジェクトが迅速に展開出来るような仕組みにし、地下に用意した多数のアトラクション用や試練用のフィールドを格納した。また、当施設には、試練用のフィールドが複数存在した。その中で、現在利用しているものを、提案したのが当試練の責任者で、監督のオオバヤシだった。故に、このフィールド内のスタート地点からゴールまでの道順から、トラップからエネミーまでに至る内容を、彼は知っていた。

あれから、サトシやマナオの二人も迷宮の中を進んで行く。だが、その道中で、遭遇し襲いかかるトラップの数々に、すぐに道を見失ってしまう迷宮と呼ばれる複雑な迷路の構造

に惑わされながらも、必死に進んで行った。

サトシとピカチュウは、今中間地点を超えて、あるギミックのクリアに挑んでいた。彼のいるブロックの壁には、先程と同様に説明書きがされていた。

『ここより先へ進むには、いずれかのボタンを2つ、同時に押して下さい』。この内容からして、凄く簡単に見えるが、実際に目で見ているものは、大きく違った。

「くそ。頑張れ、ピカチュウ」

ピカチュウは、大きな鉄の柱に必死にしがみつき、天辺を目指して登っていたのだ。そして、サトシは、ピカチュウをただ応援している様子でも無かった。彼も、また同じ様な大きさの鉄の柱に抱きついて、登っていたのだ。

サトシ達がいたのは、四方を壁で囲まれて、1辺15mのブロックが4つ合わさって、正方形状に作られた空間だった。その空間の中では、各ブロック中央から1本ずつの柱が伸びていて、計4本の柱がそり立っていた。柱の高さは、約12m、直径1mとなり、1本ずつに『ボタンは天辺』と書かれていた。

そこで、サトシはピカチュウと共に、ボタンを目指して登っていた。ただの木や電柱なら、過去に経験があるサトシでも、楽に登れただろう。ただし、その柱はただの柱ではなかった。構造的に完全な円柱であり、柱の素材のせいかそれとも表面に何かのコーティングを施しているせいなのかは不明だが、摩擦がしにくい仕様でもあった。そのせいで、サトシもピカチュウも手や足を力強く掴もうとしても、滑り落ちてしまう状況だった。例え12mが短いとしても、そこまで登るのに一苦労する。サトシは、靴や靴下を脱いで、両手両足を使って登ろうとして、今はやっと5mを切った所だった。一方で、ピカチュウは、何とか9mまで登りきっていた。このギミックが現れた時、サトシとピカチュウはアイアンテールで、柱を根本から折ろうとも考えた。だが、柱にあった説明書きの『ボタンは天辺』以外にも続きがあった。『注意:柱を壊された場合、ボタンも壊れる』。それを読んだ瞬間、わざでの破壊案は、すぐに白紙となった。このギミックは、ピカチュウのような地上ポケモンでなく、飛行可能なポケモンだったら、すぐにクリア出来ただろう。だが、それも挑戦者との偶然に組み合わせ次第となる。それも込みなのが、トレーナー・ベストカップの試練であった。

それから、5分かけたサトシは、漸く天辺に辿り着いた。一方でピカチュウは、2分前に到着して、上からサトシを応援していた。二人が、辿り着いた天辺には、赤色のボタンが1つずつ設置されていた。

「よぉし、ハァハァ。ピカチュウ、押すぞ!」

「ピカァ!」

二人は、同時にボタンを押した。

その頃、マナオも同様に、中間地点に到達していた。

「カラカラ、ホネブーメラン」

「カラァ」

だが、彼女は、中間地点にある次の相手に手こずっていた。今度の相手は、砲台のような機械でなくポケモンだった。マナオ達に立ち塞がるエネミーポケモンは、6体のワンリキーだった。一度に、ポケモン6匹を相手にするのは、少し厳しい状況であるが、昨日から急激に成長を見せたマナオとカラカラでは、通常のポケモンバトルであるなら、何とかなる可能性はあった。

だが、今回のバトルはそうでは無かった。相手であるワンリキーが通常ではなかったからだ。ワンリキー1体1体に、バトル用のプロテクターが装着されていて、防御力が上がっていた。通常のポケモンバトルであれば、ポケモンに戦闘力を上げる為やトレーニング用の道具を、装着してバトルをする事は、珍しくはない。だが、その様な状況は、一般のトレーナーでは中々出会う機械が無ければ、まだトレーナーになって3ヶ月程のマナオには、皆無だった。

「くっ。全然ダメージが入らない」

先程から、1体ずつダメージを与えていても、ダメージが余り入っていない。その上、一体を相手にしていると、別の方向から別のワンリキーによる攻撃が繰り出される。一体一体の強さも、それ程でないようだが防御力は、それ以上だった。

『残り時間、15分となりました』

アナウンスが、彼女の耳だけでなく心にまで囁いてくる。彼女の心がまた焦らせようと、弱い自分を引きずり出そうとする。だが、彼女は昨日より、この試練の中で成長していた。

「まだまだ、諦めないわよ1」

「カラァ!」

あれから、サトシやマナオ、残った挑戦者達は次々と、先へ進んではエネミーに、トラップやギミックに遭遇し、ある者は突破、ある者は引き返し、ある者は脱落していった。

 

 

『残り時間、あと5分となりました』

試練が開始して25分後、そうアナウンスが鳴った。あと、5分で制限時間が終了してしまう。それまでに、挑戦者であるトレーナーがポケモンと共にゴールした者だけが、達成となる。

(あと、5分)

「くそ、ゴールはどこだ」

サトシは、迷路のゴール近くまで進んでいたが、ゴール地点にまだ、辿り着いていなかった。

それどころか、ゴールへの道すら、中々見つける事が出来ていなかった。

「はぁ、はぁ、はぁ」

「ピィ~カァ~」

サトシもピカチュウも、進む毎に遭遇するトラップやポケモンとバトルをする事で、徐々に体力を失っていった。この25分間、走ってはバトルして、時には驚異的なトラップに立ち向かってを繰り返して来た。1年も様々な地方への冒険やジム戦リーグ戦をしてきた彼らでも、この試練は甘くは無かった。

サトシは、必死にゴール地点がある方へ向かうように迷路の中を進んでいく。すると、1枚の壁に開いた出入り口のようなものを見つけた。

「あっ。あそこっぽいな」

サトシとピカチュウは、一気に駆け出して行き、その中に入った瞬間。

「やっと来たか。待ってたよ」

その中から、何者かの声が聞こえた。

「ん?」

サトシとピカチュウが入ったその中には、一人の男とポケモンのザングースが佇んでいた。

(他の挑戦者?)

サトシは、男を見てそう思っていると。男は、サトシの顔を見てながら、ニヤついて話す。

「焦ったぜ。このまま、誰も来ないんじゃねぇかって」

「え?待ってた?」

サトシは、彼が何の事を言ってるのか、イマイチ理解出来ないでいた。それから、中へ更に1歩前へと進んだ瞬間。入ってきた後ろの出入り口がいきなり閉じたのだ。

「!」

それにサトシとピカチュウは、驚き振り向くが、既に出口は塞がれていた。そんな彼らを見て、男は再び話しかけて来た。

「どうやら、ここは他の参加者と2名が揃って、行われるトラップみたいらしいんだ」

「・・・それは、どういう」

サトシは、そう問いかけようとすると、男はゴール側の方にある壁に向かって指を差した。そこには、大きな両開きの扉があり、扉の中心に何かの説明文が書いてあるのに気付いた。サトシは、それを近づいて読む。

『壁には、2人の挑戦者よ。戦い、勝利者のみが、終点への権利を有する』

その言葉を読んで、サトシも要約理解出来た。

「これって」

「そう。挑戦者2人でポケモンバトルをして、勝った者だけが、この壁の向こうにあるゴールへ行けるということだ」

「・・・まさか、トレーナーとのバトルもあったのか」

「さて、疲れてる所悪いが、休ませる暇は与えないぜ。行け、ザングース。でんこうせっか!」

「グゥース!」

男は、そう指示をするとザングースが前に突っ込んで行った。

「悪いのは、こっちだぜ。バトルは俺の得意分野だ。行くぞ、ピカチュウ。でんこうせっか!」

「ピィィィカ!」

ピカチュウとザングースがぶつかる。

 

 

あれから、マナオは、何とか中間地点を超えて行き、ゴール地点までもう少しの所までやって来ていた。

「ハァー、ハァー、ハァー」

「カラァー、カラァー」

マナオもカラカラも息が上がっていた。彼女たちも、ここまでに様々なトラップやエネミーポケモンを相手にしながら、ゴールへと必死に走ってきていた。残り時間が10分を切ってから、凄く焦りだし、休憩も取らずに連続で走ってきたこともあり、彼女達の体力も限界に近づいていた。

『残り時間、あと5分となりました』

5分前のアナウンスが聞こえた。

(あと・・・5分)

「くっ、急がないと」

彼女は、ただひたすらと走った。ゴールの方角へ進んではいるもののゴールへの道が見えない。だが、彼女は着実にゴールへ近づいてはいた。そして、ある道を曲がった所で、その先であるものが見えた。

「あっ」

彼女が向いている先を、よく見るとそこには<GOAL>と書かれた看板があった。

「・・・ゴール。い、行くよ、カラカラ」

「カラァ」

彼女とカラカラは、一気に前へ前へと走った。100m近くある先に、ゴール地点の出口がある。彼女は、ただ何も考えずに走った。先程まで、トラップやエネミーに対して、警戒感を持ちはじめ、慎重に進もうとしていたが、今の彼女はゴールという目標にしか眼中がいっていなかった。

(あとちょっと)

彼女が、ゴールまで10mを切った瞬間だった。シュッと前の床から大きな影が現れた。

「!」

その影は、見る見る上に出てくると、ガシャンと大きな音を立てて止まった。

彼女とカラカラは、少し後退り現れた巨大なものを見渡した。それは、巨大な壁だった。

「・・・壁」

突然、現れた壁は、今までの壁とは色が違う赤色の壁だった。その壁の中央には、同じくして説明文が、記載されていた。『この扉を壊した者。終点への権利を有する』。その言葉を読んで、彼女は口ずさむ。

「この壁を、壊せば・・・ゴール!」

彼女は、ゴール目前のためか、残った気力を一気に体から出した。

「よぉし!」

彼女は、大声を上げて、最後の気合を入れた。

「カラカラ、ボーンラッシュ!」

「カラァ!」

カラカラは、指示通りに(ボーンラッシュ)で、壁に向かって殴りつけた。だが、ヒビ1つつか無いまま、弾かれてしまった。

「駄目か。続いて、ホネブーメラン」

「カラァ」

「ずつき」

「カラ」

「もう一度、ボーンラッシュ」

「カッラァ」

その後、続けてわざを繰り出していく。しかし、微々たる傷後は付ける事が出来たものの、壁を破壊するダメージには至らなかった。

「なんて硬さなの」

(こうなったら)

「カラカラ、きあいだめ」

「カラ。カ~~~ラァ」

カラカラに、(きあいだめ)を指示した。カラカラは、深く息を吸い込んだ。(きあいだめ)は、自身に気合を込めることで、その後の自分のわざ・攻撃が、より急所に当たりやすくなるという変化わざである。彼女は、壁をより破壊しやすくする為、(きあいだめ)を使って壁のウィークポイントを狙うようだ。

「よし。今度、気合を入れたボーンラッシュ」

「カラ!」

カラカラは、先程より力を入れた上、(きあいだめ)によるボーンラッシュを、壁のウィークポイントを狙って、強い一撃で放つ。

「・・・まだ駄目なの」

壁は、特に変化がないままだった。そして、会場にまたアナウンスが流れた。

『残り制限時間、3分となりました』

 

 

「ピィカァァァ」

「あ、ピカチュウ!」

ピカチュウは、大きく吹き飛ばさて床に滑っていき、倒れ込んだ。そのピカチュウへ、サトシは駆け寄る。

「大丈夫か」

「ピィ~カッ」

(もうピカチュウは、限界だ。けど)

ピカチュウは、辛うじてサトシに返事をするが、もはや返事する元気に出来ないでいた。

「ふん、どうやら。そろそろ限界間際のようだな」

サトシの前には、先程の男が笑いながら、そう話してきた。

「さて、あと3分らしいが、トドメの一撃で十分だし。ゆっくり終わらせてやろうか」

「くっ」

サトシは、悔しがりながらも、相手トレーナーでなく、そのポケモンに目をやった。この試練がどういうもので、どれ位大変なものかは身に沁みるほど理解はした。ここまで、辿り着くのに、トレーナーもポケモンも体力もダメージも受けていて、不思議ではない。なのに、男もザングースにも傷1つ、体力の消耗が見慣れなかった。

(くそ。なんであのザングース、あんなにピンピンしてるんだ)

そう考えていると、男はサトシの目線が、自分でなくザングースに向いている事に気付き、何を考えているのかを察した。

「・・・なぜ、俺のザングースが元気なのか。気になるか?」

「?」

サトシは、心の中で思っていた事を男に当てられて、反応する。

「特別だ。教えてやるよ」

そう言って、男は語りだした。

「俺は、この第一の試練に挑戦するのは、今回で4回でね。それで、対策が出来ないし、今度こそどうにか受かろうと考えた。そして、今回の迷宮とルールを見て。すぐに思いついた。他の挑戦者の後をつけようと」

「え」

「そいつを追って、先にトラップやエネミーの相手をして貰う。それで駄目になったら、他の奴について行けば良い。だが、誰にでもついて行けばいいという話ではない。すぐさまやられてダウンしても意味無いからな。だから、他の挑戦者達で、優秀な奴に目星をつけたのさ。過去に第一の試練へ挑戦した実力が高い者、ジム戦や多くの大会で名を挙げた腕のあるトレーナー。そういった奴らが、今回数名居たんだよ。君のようにね。マサラタウンのサトシ君」

「・・・俺のこと知ってたのか」

「あぁ。俺は、日頃他の地方の優秀なトレーナーの顔を、テレビや雑誌で覚えていてな。過去にあったジョウトリーグやホウエンリーグで覚えたのさ。まぁ、お前さんとはスタート地点が離れていたから、最初のターゲットから外したが、まさか最終局面で出会うとはなぁ」

「そうか。お前、他人に苦労させて楽して試練を達成したいのか」

「あぁ、そうだが」

「そんなの、何の意味も無い。ただの」

「負ける君に言われたくないな」

「なにぃ」

「え?分かってないの?もう、お前は俺に負けるだよ。それだけのダメージがあるピカチュウじゃあ。相手にもならないのさ」

「ッ。俺のピカチュウを舐めるなよ」

「ほう、まだやる気か。さっさとリタイアしたらいいのに。全く優しくないトレーナーを持っちまったな。なぁ、ピカチュウちゃん」

「ピッ!ピカァ!ピカァ!ピカチュ!」

すると、ピカチュウの彼の言葉を聞いて、目つきが変わり、立ち上がって大声を上げる。

「あ?なんだ、怒ってるのか?たく、人が優しい言葉をかけたのによぉ」

「何が優しい言葉だ。俺とピカチュウを馬鹿にしやがって。他人を利用して成り上がろうとするお前なんかに、俺たちは絶対負けねぇぜ」

「ピカァ!」

「そうか。じゃあ、トドメといくかぁ。ザングース!」

「グゥース!」

「ピカチュウ、これがラストだ。全力で行くぞ!」

「ピッカァ!」

 

 

あれから、カラカラのわざをいくつも繰り出し、(きあいだめ)による壁のウィークポイントを狙っては攻撃をしてきた。そのお陰で壁につけた傷は、徐々に大きくなっていった。これなら、いずれ壁に穴を開けられるだろう。だが、そんな余裕はない。

「きあいだめ」

「カラ」

「もう一度、きあいだめ」

「カッ」

カラカラが、わざの途中で、膝をついて倒れかけた。

「あ、カラカラ」

彼女は、カラカラに寄り体を支えた。

「カラァー、カラァー」

(もう無理みたいね)

カラカラも既に限界だったのに、更に気力も体力も底ギリギリに迫っていた。ポケモンバトルでない為、ダメージは受けないが、精神力と体力は動く度に、減っていく。

『残り時間、1分』

会場のアナウンスが鳴った。

「ッ。もう1分しかない」

アナウンスを聞いて、心臓が止まりかけた。もう後がない、どうしようと冷静さが消えて、焦りが出てきた。もういっそ、諦めた方が楽になるんじゃないかと、心の隅でそう呟く弱い文の声も聞こえた気がした。だが。

(諦めるな)

彼女の心には、そう強い言葉が出来ていた。サトシから教わり、言われた言葉。

(これが、最後のチャンスだ)

彼女は、カラカラの目を見て、聞いた。

「カラカラ」

「カッ、ラ」

「これが、最後・・・行ける?」

「・・・カラ!」

彼女の目を見て、カラカラは強い意思でそう返事をし、立ち上がった。そして、カラカラに最後の指示をはじめた。

「カラカラ・・・きあいだめ!」

「カァーラァ!」

「まだまだ、きあいだめ!」

「カァ―――ラァ!」

「もっともっと、きあいだめ!」

「カァ――――――ラァ!」

「もっともっと、もぉーーーとぉ。きあいだめ!」

「カァ―――――――――ラァ!」

「カラカラ、ボーンラッシュ!!!」

「カァラァ!!!」

マナオとカラカラは共に、全身全霊で壁へ立ち向かった。

 

 

「ザングース、ブレイククロー!」

「ピカチュウ、アイアンテール!」

空中で、ピカチュウの尻尾である(アイアンテール)とザングースの手である(ブレイククロー)が激突する。

『残り時間、1分』

会話の中で、会場のアナウンスが鳴った。

「残り、1分」

アナウンスが聞こえたサトシは、そう言葉に出す。一方で、相手の男もそれを聞こえて、急に焦りだした。

「くっ。しつけぇやつだな。さっさとやられちまえよ」

「悪いな。俺もピカチュウも諦めが悪いんだよ」

「ピカ」

「だ、だったら終わらせてやるぅ!ブレイククロー」

「グゥー――ス!」

ザングースは、ピカチュウ目掛けて、一気にケリをつけようと、最後に(ブレイククロー)を向ける。それを迎え受けるサトシとピカチュウも、最後の力で反撃に出た。

「ピカチュウ!お前の底力を見せてやるぞ」

「ピカァ!」

「10マンボルト!!!」

「ピィィィカァァァ、ヂューーー!!!」

フィールド内の1箇所で、激しい巨大な電撃の柱がそそり立ち、爆発が起きた。そして、10秒後に。

『第一の試練、終了!』

試練の終了のアナウンスが、会場中に鳴り響いた。

 

 

終了のアナウンスが鳴ってから、10分が経過した。ゴールに到達した者や出来なかった者など、挑戦者達全員がゴール付近のステージ前に集められていた。その中に、サトシとマナオも居た。他の挑戦者も含めて殆どのトレーナーもポケモンもボロボロだった。自力で立てないポケモンは、モンスターボールに戻され、まだ元気なポケモンやボールに入らないサトシのピカチュウのような場合は、外に出されていた。ピカチュウは、ダウンしてないものの立ち上がる力が無い為、サトシの胸に抱きかかえられていた。マナオは、既に限界だったが一緒に結果を見たいらしくボールに入るのを拒んでいた。そこで、カラカラも彼女に体を預けていた。そんな彼の前に、責任者であるオオバヤシが、姿を現した。

「挑戦者の諸君。第一の試練、ご苦労であった。見事な挑戦だった」

彼は、今度はマイク越しでなく自身の大きな声で、達成した挑戦者達に、激励を言う。

「それでは、今回の第一の試練、達成者を発表する」

そう言って、彼は右手で後ろにあった大型モニターに手を振りかざす。

「この者達だ」

すると、そのモニターに一気に名前が表示されて行った。そう、挑戦者達の中で、第一の試練が達成出来た者達だけの名前だ。

「今回の達成者は、106名中42名であった。各自、自分の名前を見つけよ」

そう言われて、挑戦者達は次々と自分の名前を探し始めた。

「えーと、えーと、俺の名前は」

サトシもすぐにモニターの端から端まで見て、自分の名前を探した。

「あ、あった」

「ピカピ」

サトシは、自分の

「やったな、ピカチュウ」

「チャ~」

そして、互いに強く抱きしめ、苦労して試練を達成出来た喜びを分かち合った。それから、サトシは、すぐ側に居たマナオの方を、振り向いた。

「マナオは」

そう彼女に問いかけるが、すぐに返事が返って来なかった。彼女は、顔も体も固まっていたのだ。それに、彼女の顔には、喜びが無かったことに気付き、サトシは嫌な予感がしてきた。すぐに、モニターを見てマナオの名前を見ようと思ったが、それで名前が無かったら、ますます気不味いと感じて、見るに見れなかった。そう彼女の口から聞くべきと考えた。

「し、師匠」

そう考えていると、彼女から不意に名前を呼ばれた。

「ど、どうだった?」

サトシは、恐る恐る聞いてみた。すると、彼女の目からドンドン涙を溢れてきたのだ。それを見て、サトシは一気に顔色が悪くなり、悲痛な気持ちになりそうにになった。

(嘘だろ)

「マ、マナオ」

サトシは、彼女に何か励ましの言葉を言うべきかと、思ったが特に良い言葉が思いつかず、ただ名前を呼んだ。

「・・・ました」

そうサトシの耳に言葉が微かに入った。

「?」

「私の名前が・・・ありました」

彼女からその言葉を聞いたサトシは、また喜びの顔と気持ちが溢れてきた。

「あ、あぁ。おめでとう」

「うぅぅぅ、やりましたぁーーー!」

喜びの余りに、彼女はサトシに抱きついた。

他の挑戦者達も、自分の名前を見つけていっては、喜び。見つからない者は、次こそはと心に決めて、その場を去って行った。

「それでは、達成者諸君には、これよりステージに上がって貰い、達成者の証を贈呈する」

あれから、会場には運営と第一の試練の達成者達のみが残った。これより、試練を達成した証を贈呈するのだ。

「これが、第一の試練をクリアした者に捧げる。ベストカップのファーストコインだ」

オオバヤシが、そう言って、1つのコインを上に上げて見せる。それから、達成者達が一人ずつ名前が呼ばれて行き、順番にステージへ上がった。そこで、第一の試練を達成した証、ファーストコインを受け取っていった。

「これが、ファーストコイン」

サトシは、受け取った後、そのコインをまじまじと見た。表には、<Ⅰ>の数字が、裏にはベストカップのシンボルマークが、刻まれていた。

全員にコインが配り終えたら、オオバヤシからの最後の説明が始まった。

「そのファーストコインは、次の試練となる第二の試練への挑戦権となる。決して失くすでない。また、試練は全部で5つ。コインも、同様に全部で5枚。諸君は、残り4枚のコインがある第二の試練から第五の試練へ、順に挑戦して、最後まで達成する事が出来れば。ベストトレーナーとして、名前が残ることとなる」

(全部で5つ)

(残り4つ)

サトシとマナオは、早速次の試練の事を考えていた。

「それでは、第一の試練を達成した諸君に、第二の試練の開催場所と日程を伝える。開催場所は、2箇所で開かれる。1つ目は、シントー地方にある北西にあるミノキノシティ。そして、もう1つがここより一番近い場所。南のフィオレ地方にあるフォルシティだ。このどちらか、向かった方で受けて貰う。日程は、どちらも今日より10日後の朝9時に開催する。もし、遅れたら次のシーズンの第二の試練を受けて貰うこととなるだろう。それまでに、移動するのも、挑戦者である諸君への役目でもある。それでは、諸君の健闘に期待する」

 

 

サトシとマナオは、第一の試練を終えてから、すぐさま外で待っていたヒョウリに合流し、ポケモンセンターへ向かった。

「フォルシティ?あの港町か。となれば、ここより南だな」

ヒョウリは、自分の腕輪からマップを出して、位置を確認する。

「そこまで、10日後までに着かないと行けないんです」

マナオは、期日についても言うと、ヒョウリが難しい顔をして答える。

「ここから、普通に行くと10日はギリギリ難しいぞ」

「それが、運営が言うには、次の試練に向かうのもトレーナーとポケモンの力次第という事で、想定された期日らしくて」

「噂通り、容赦ないハードな大会だな。ほんと」

そう言うと、サトシが話してくる。

「南なら、この街から向こうへ真っ直ぐ行けばいいんだよな」

「いや、この街から南へ進める道が無いんだ。だから」

そう言って、腕輪を操作していくと、モニターのマップに何かが表示された。

「最短コースで行くなら3つある。1つは、東に戻ってミョウコシティからフォルシティに行く。ただし、ここからミョウコシティまで最短でも5日は掛かる。そこからフォルシティまでおよそ4日。ほぼギリギリだ。次は、ヨヨミキシティの南西にある村から山を登って、危ない山岳を通っていく。そうすれば、7日で着く。ただし、結構危険な道だからプロじゃないと厳しい。正直、俺も通りたくないルートだ」

「じゃあ、あとの1つは?」

「この街から西へ行って、あと街を2つ行ったら、そこから南の森を通っていく。普通なら8,9日と1つ目と変わらない。だが、俺のマップデータを使って、何も無ければ余裕を持って6日、7日後には到着出来る。さぁ、どうする?」

ヒョウリは、全てルート説明を終え、二人に問う。

「よし。なら、西に行こう」

「そうですね」

サトシとマナオは、互いに最後の西方面のルートを答える。

「そうか。なら、明日の朝。早速出発だぞ」

「はい」

「OK」

そうして、彼らは次の目的地のルートが決まった。




今回は、サトシマナオが、ポケモントレーナー・ベストカップの第一の試練に挑戦する話です。

次回は、ヨヨミキシティから西へ向かいます。


話としては、この先最終話まで続ける予定ですので、ご興味がある方は、最後までお読み下さい。

追記:
現在、登場人物・ポケモン一覧を掲載しました。
登場する人物やポケモンが増えたら、更新します。また、修正も入ります。
今後、オリジナル設定関連についても、別途設定まとめを掲載を考えています。

(注意)
掲載された作品で、文章の変更や文章ミス・誤字脱字などに気付きましたら、過去のも含めて後日改めて修正する可能性もあります。
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