夏が終われば、段々と空気が冷え込んできて、そして衣替えが始まる。
私からすれば、半袖から長袖にする頃合いとして、その空気感が好きだった。長袖にしても汗をかかずに蒸れない。べっとり貼りつくこともなく、長袖を普通に着て丁度いい季節。
そもそも夏はそこまで好きでない。だって、夏は半袖にしないと暑すぎる。半袖だと、叩かれた跡の痣や傷が見えてしまう。
今となっては隠したい痣や傷はもうなくて、だからそれを気にする必要はもうないのだけれど、それでも暑さと傷跡は記憶の中で密接に結びついていて、それが故に今も夏は好きになれそうにない。
ともあれ、秋が訪れれば、外で立ち込めるのは金木犀の香り。これが香れば、もう半袖は必要がないという合図だ。
木々の葉っぱが色づいて、そして舞い散るまで。秋は全てを単色から極彩色に染め上げる。空気は冷えていても、暖色に彩られた、見た目的には暖かな世界がそこにある。モノクロの存在だった私ですら、その色に染め上げられる錯覚を覚える季節。
まぁ、いつかの思い出だけはクソくらえではあるけど。でも、あれがなければ私は今でも、いやそもそも今ここには――。
「あれ、大誠くん、急にどうしたの?」
それは、酷暑だった今年の夏がやっと終わりを告げようとして、そして金木犀が丁度昨日今日で香ってきた日のこと。
「あぁ、割と早く研修が終わってね。だから今日は珍しくこの後は予定がないんだ。どうせなら君のとこにでも顔を出すかと思ってね」
お昼を終え、さてどうしようかというタイミングで、私には勿体ない恋人が顔を出してきた。
「今日は予定あるのかい」
「特にはないかな。強いて言うなら卒論が現在進行形だから、常にやらなきゃいけないことはある、という状態」
「あぁ……常に追われてる感じか……まぁあまり好きにはなれない感覚だよね。僕も研修の予定が間断なく入ると同じ感覚になるからわかるよ」
こんな会話も、気付けば久しぶりだ。やっぱり医学部というのはとても忙しいみたいで、毎日講義だ研修だと、休む暇が殆どないようで、私と会えるのもかなり不定期になってしまっている。今日は正味一ヶ月ぶりぐらいだった。
それにしても、明確に付き合う、という状態になってからも暫くはそれとなくぎこちない会話だったことを思えば、今のような感じに話せるのは感慨深いものがある。流石に数年単位でお付き合いをしていれば当然というのはあるけど、それでも未だに私の隣に常に私の事を考えてくれる人がいるというのは、恋人だ友達だ関係なしに、いつかの私が聞けば驚くだろう。
とても長い五年間だった。周囲の助力も得て無事進学して、やりたいと思ったことを学べて、みんなと遊んで、時折どっかのクソ野郎と喧嘩して。意外と短かったかもしれないけれど、新たな発見や経験がいっぱいあったから、それまでの灰色の人生のことを考えれば、体感時間はその実長かった。
気付けば、そんな学生でいられる期間ですら終わろうとしている。就活も終え、無事に第一希望――は駄目だったけど、第二、第三辺りには希望していた企業への内々定は二ヶ月程前にもらうことも出来た。後は残り少ない学生の時間を謳歌する、ならいいんだけれど。
医学部というものは他の学部より期間が長い。だから、四年制の大学に進んだ後輩の私が、先に社会人になろうとしている。それを意識するようになったのはつい最近の事で、未だに実感は湧かないのだけれど、でも先に社会に出たみんなが、私も社会に出るのは近いのだと教えてくれている。
「さて、と。折角だしちょっと出かけようか」
「あれ、ゆっくり休まなくていいの?」
「適度に運動はしないとね。それに、今日はよく晴れてるし、少しは出かけでもしないと勿体ないかなって。君も喫緊の予定がないならね」
「でも、出かけるって……宛てはあるの?」
「いや何、丁度秋めいてきたし、暁が勧めてたとこにでも行ってみようかと」
「あのクソ野郎のか……」
「でも、暁のそういうとこの紹介は外れがないっていうのは知ってるだろ?」
「それは……そうだけど」
確かに、今から出ればおやつ時に喫茶店にでも入ってゆっくりするという手はある。おうちもいいけれど、どうせなら季節を感じながらというのは、悪くないかもしれない。喫茶店ならみさきとクレアがよく巡ってるから、そのお勧めに行けば外すことはないし。
成程、こうしてみると私もあのクソ野郎に感化されてるんだな。今度会ったら挨拶代わりに殴っておこう。ったく、こんな趣向にしやがって。みさきとクレアはいいや、すごくありがたい情報をくれるから。
「まぁいいや。それ自体はついでで、あくまで僕が気になったことがあってね」
「気になったこと?」
というより、一応お散歩デートのお誘いだということには、外に出てから気付くぐらいには、私も考えが鈍っていたらしい。いつもなら浮かれるはずなのに、それすらなかったんだから。
「なんだか、じっとしてるだけじゃ、話辛そうに見えたからね」
東山七条の方にある養源院は、確かに今の季節にはぴったりかもしれなかった。いつもは緑と茶色の風景の中に浮く、幾重にも重なる赤みがかった橙色。
「わっ、町中より香りが濃密……っ」
「成程、これは確かにすごいね」
境内を彩る金木犀は、町中に一本二本立っているのとは比べ物にならないくらいに並んでいて、だからこそ色彩も相まって絢爛な様相を示している。
「それで、これからどうするの」
「そうだね、少しそのまま歩こうか」
意識的な深呼吸をしなくても、むせるぐらいに甘い香りが漂っている。例えばあの時現実ではなく成仏を選べば、ずっとこの匂いを嗅いでいられたのかもわからない。
小さい境内は私たち以外に誰もいなくて、そして外界とは遮断されているからこそ、近くの七条通りや塩小路通りの車の喧騒も殆ど聞こえない。だから今だけは、大誠くんと二人、世界から隔絶されたような感触を覚える。香り共々、この空間だけはどこか浮世離れしていた。
不意に、大誠くんが立ち止まって、振り返り私を見る。真面目とも不真面目ともつかないその視線に、少しだけドキッとする。
「卒業論文は今どんな感じなんだい」
「うっ……」
突然振り返って何があるのかと思えば、これだ。まぁ、元々そういうことを尋ねにここまで足を伸ばしたのだから、すぐにそういう質問が来るとは思ってはいたけれど。少し感じた情緒とときめきを返して欲しい、と思うのもまだ自然で。
で、質問に答えるとするならば。
「――正直、だいぶ進みが悪い、自覚はあるかな……」
具体的には結論に至らしめる要素がどうにも薄い。持っていきたい結論があるのだけれど、先に書いた論理との食い合わせがどうにも悪いのだ。
うちの教授はよく言えば自主性を重んじる。悪く言えば奔放形式だ。最終的に完成してくれればいいとのことだけど、裏を返せば、きっちり自分で卒論進行を管理する必要があって。
そして私は、肝心のところで詰まっていた。実際問題、夏休み以来、そこがずっと詰まっていて進まない。
結果論、就活には難儀していたどっかのクソ野郎と比べたら贅沢な悩みなのかもしれないけれど――いや、完成させなければ色々なことがパァになるから、結局は贅沢でもなんでもないか。
「ま、卒論はいいや……多分僕より指導は適任な人は他にもいるだろうしね。門外漢はそこまで口を出さないでおくよ」
「え、いいの?」
「うん、本題はそっちじゃないからね。まぁ、卒論の提出そのものが危ういとかなり始めたら流石に僕だけじゃなくてみんなを呼んでどうにかするけど。でもそれは嫌だろう?」
「うっ……うん、可能な限りはない方がいいかな……」
だって、そしたら間違いなくみさきは召喚される。召喚されたら? 最後にアメはあるかもしれないけれど、それまではムチの連続だ。みさきのムチは、ないに越したことはない。いつかムチみたいなものを振り回していた私が言えた口じゃないけれど、それでも嫌なものは嫌なのだ。
「で、本題って?」
それは至極当たり前に浮かぶ疑問。卒論のことを話に、散歩がてら外に連れ出してくれたのだと思っていたから、それ以外の話の内容というのが皆目見当がつかない。
悩みは、確かにあるにはある。それは、卒論よりも頭を悩ませている問題で、そして私一人ではどうしようもなくて、相談は出来ても解決策が特別あるという話でもなかった。だから、大誠くんへの相談はお門違いかな、とは思っていたのだけれど。
「僕としては、話始めてくれるのを待っているつもりではあるかな。これは、君がどうにかしたいと思う話だろうし、とするなら僕から先に口にするのは間違っていると思うから」
その一言で、既に気持ちが丸裸にされているのだと察した。最初から大誠くんは、これをわかっていたんだ。
最近会えてなかったから、何日かに一回の電話が主だったやり取りだったけど。まさかその時の声の雰囲気だけで悩みを察してたとでもいうのだろうか。――言うだろうな、だって大誠くんは、今心療内科医も検討の一つとして、しっかり勉強してるから。
数瞬の間を置いて、やっと重かった口が開く。まるで罪人だ。誰からかは赦されて、誰からかは赦されない罪の告白。
「――就職先、本当にこれでいいのかなって思ってて」
それが、ここ最近、ずっと私が悩んでいたことだった。そして、大学の人とかには相談が出来ない内容でもある。
「いいところだと思う。文句も殆どない。世間的な評判もいいし、就活関係の評判でも上々と、私には勿体ないぐらいの会社だよ」
「つまり、その『殆どない』の外側の一つが、ずっと引っかかっているんだろう?」
「……うん」
絶対、贅沢な悩みだ。それらは全て、理解して入社する人が多いはずで、そんなことで悩んでいるなんて人に知られれば、色々な人からどやされても文句は言えないだろう。だから、他の人には中々相談が出来る内容でもなかった。
だけど、そのことは、出自的に、私が無視できない事柄だ。あいつと同じように、故郷を持たず、風が吹けば飛んで行ってしまう根無し草だからこそ、そのことが一番気になってしまう。
「でも大誠くん、わざわざこうも仕向けたってことは、見ただけで何かあるなってわかったってことだよね」
「そうだね、ある時から急に悩みを見せ始めて、珍しいなとは思ったんだけど、時折僕が声をかけても反応しないことすらあったから」
「わっ、そんなことすらあったんだ、ごめん。えっと、いつから?」
「具体的には、就活を終えてから、かな」
あぁ、大誠くん、やっぱり私のことをよく見てくれているなぁと、漫然と思った。それだけ、最近の私の雰囲気にまで現れていたということだ。
就活の末に内定を得た企業は、果たして給与体系や福利厚生など、正直私には分不相応とも言ってしまってもいいぐらいには恵まれたもので、だから一つのことに目を瞑って内々定の知らせをありがたく頂戴した。職務内容は、何をやっても楽しいとも苦しいとも思うことがあるなら、そこまで拘らなかったけど、でも総合職として働くなら、四の五の言ってはいられない。
「ねぇ、大誠くん。私、大誠くんと離れたくないよ……」
目を瞑った一つのことというのは、勤務地の事。本社は京都だけど、全国転勤が幾らでもあるところだった。そもそも、初出社する先が京都でない可能性は普通に高い。そして、勤務地が確定するのは、入社をして二週間後になって初めてわかるというものだった。
本社勤務ならまだいい。でも、そうじゃなければ大誠くんとは離れ離れだ。本社勤務だとしても、いつどこかに飛ばされるかどうかもわかったものではない。
だから、今後の私の予定が決まるのは約半年先で、そして約半年しかなかった。それまでに、離れたくないとまで思ってしまったこの地にお別れを言う勇気は出ないし、
大誠くんと、みんなと出会わなければこういう思いを抱くこともなかったのかなと、つい思ってしまう。でもそれは、あの時校舎の屋上から転落して、終ぞそのままになるだけだったのだから、それは考えても仕方ない未来だった。あの時大誠くんに助けてもらって、そしてみんなであの双六をあがって今がある。それが、私がただ一つ歩んできた未来への道。
「――ほんと、君は暁と似ているよ、どこまでも」
「あいつと……?」
「嫌そうに言うのはわかるけどさ。君と暁は本当にどこまでも似た者同士だからさ。理解はしてるとは思うけど」
まぁ、それはわかる。わかっているから、あいつのことは今でも嫌いだ。今でもあいつのことは機会があれば出し抜きたいとまで思っている。不幸になれと思わなくなっただけでも成長したんだ、私も。
「暁は就職の方に苦労したけどさ。行動原理は君と似たようなものだったよ。そして暁が出した結論は、君も知っている通りかと思う。その時の行動原理は――」
そこで不意に、大誠くんの言葉が止まった。
「あぁ、そうか……」
「一人で納得されてもわかんないよ」
「あぁごめん、ちょっと個人的に考えがまとまったことをね」
何を考えていたのかはわからないけれど、でも多分私に関することで、今どうにか出来る話ではないのだと思って、深くは突っ込まないことにした。
ここには琥珀がいて、みんながいて。まぁあのクソ野郎だけはいなくてもいいけど。でもあいつがいないならいないでストレス発散のはけ口がなくなるし、何よりいなくなった時の方がみんながショックどころじゃない影響を受けるから、結局はいてもらう必要はあるのか。けっ。
ともあれ、ここには私の全てがある。いつかの記憶以来の、いてもいい場所と認めてくれてからの私の全てがここにある。
「離れたくないなぁ……」
それは、多分私からしても初めての感情だったんだと思う。この私が、その土地を離れたくないと思うだなんて。
確かに、私の人生なんて、その時いる土地から逃げてばかりだったと思う。いじめられて、虐げられて、その環境を変えるには自分が動くしかなくて。だから故郷なんてないし、いつかは私に安住の地が見つかることなんてないとも思っていたけれど。
でも、この西院だけは別だ。みんなに出会った。大誠くんに出会った。誰しもが、私がここにいていいと言ってくれた。どう考えても、それだけのことをこんなにも多くの人が言ってくれる場所や人には、これから先他では出会えないだろう。
それがわかっていたから、本当に切実な問題だった。ただでさえ殆ど落ち着いていられる土地がない中、独り遠くへ飛ばされて、生きていけるように中々思えない。せめて、どこかでそういうことになったとしても、いつでも戻ってこれるような大義名分がほしい。でも地縁も物理的な人の縁もない今の私に、そんなものはない。
「それで、君はどうしたいんだい。就職先は決まってて、そこを変えないとするならば、どこかでということにはなるのは決まっている話だけど。決まってはいるんだろうけど、ちゃんと君の口から聞かないとわからないから」
そんなものは、決まっている。
「本当は、勇気が欲しい。私一人でいつも立ち上がれるという思い込みを、本物にしたい。だけど、それを手に入れる猶予はずっとあったのに手に入らなくて、そして猶予はもうないんだ」
本当なら、大誠くんにすら頼らなくてもいい強さが欲しい。だけど、人は一人では生きれないのだと、いつかあいつが言っていた。それに甘えて、ということはないつもりだけど、結果的に真の意味で一人では生きれない身体にされた私は、この地から引き剥がされることを強烈に拒んでいる。
「だから、何か証が欲しい。私がここにいていいんだという証明を。私がこの地で認められているとわかる何かを」
「――わかった。それが君の望みなんだね」
ふぅと、大誠くんが長い息をついた。それが失望のそれのように見えて、身震いをする。本当はそんなことはないのはわかっているのだけれど、似たような光景は昔からずっと見続けていたから。
「……ま、ちょっと早いけど丁度いいか……」
「大誠くん、なんて?」
「いや、なんでもない」
急に、金木犀の香りが猛烈に立ち込める感触を覚えた。香りを感じないぐらいには、少しの間息を止めていたことに、数瞬遅れて気付く。
体の内側からも甘い香りが漂う心地がする。あぁ、これはきっと、夢だ。今この時は、甘い夢のひと時なんじゃないかって、そんな錯覚を覚える。
だって今、とても苦しさを感じるのは、その夢から覚めようとしているからで、夢から覚めれば、またあの地獄みたいな生活に戻されるのだと、頭のどこかで継承が鳴っているようにも思えて。
「――いや、なんでもなくないな。明日時間あるから、ちょっと空けておいてもらえるかな」
だけど、大誠くんの声が、夢ではないと教えてくれて、そしてそれは養源院の門を抜けるまで続いた。
門を出れば、甘い香りが薄くなる。やっぱり、今いたことそのものが全て夢なんじゃないかって、この時は思った。
今日はまだ、金木犀の香りが町中から消えない。甘い香りが、まだ漂っている。
でも、その香りは昨日行った養源院より薄くて、だからこそ今これが夢現の中ではないのだと信じさせてくれる。
「……これを」
そして、その時の大誠くんは、珍しく顔を赤くしていた。
「えっ……えっ……!?」
そして、私も顔が赤くなる――より先に驚きと、少しの困惑があって、色々とそれどころではない。
「そんな、突然、私なんてまだまだ……っ」
「まだ、ってことはないよ。否定から入るのは君の悪い癖だね」
否定も何も、いくら何でもそれは想定をしていなかった。
だって、それは、私を文字通り縛り付けるもので、でもそれは私がいつかと望んでいたもので――。
「君がいい会社に入れそう、というのはいいことだ。だけど、そこから起因する悩みがあるのなら、何か『既成事実を作って』不動のものにしてしまえばいい。そうじゃないか?」
心の準備なんて、出来ているわけがなかった。少しだけ期待してなかったかと言えば嘘になるけど、本当にそれを仕込んでくれるだなんて思うわけもない。
これで将来は雁字搦めだ。これまでのように逃げ出したくても逃げ出せることはなく、ずっと私はその関係性に縛られることになる。
でも、それでよかった。寧ろ今が逃げ込んだ先で、そしてここから抜け出したいだなんてもう思うことはない。
周囲に漂う甘い匂い、私に向けられた甘い言葉。
「キザすぎるかなとは思ったけど、でも真っすぐにぶつけなきゃ駄目だと思ったから。特に君相手には、ね」
私がやっと手に入れた、甘い、思い出。
「もう……あのクソ野郎じゃないんだから……」
そして、そんな中に、私たちがいる。私たちが、その中心にいる。
あぁ、本当に、そういうところが不器用なんだから。それでいて、大誠くんは、ちゃんと最後には、私のほしいものをくれるんだ。
でも、それが大誠くんらしいよね。私にも、みんなにも。いつもは滑ってることがあっても、ちゃんと決めるところは決めてくれて。
やっぱり夢なのかな。甘いの香りの中、ふわふわと。夢美心地で浮足立っている私は、そのまま天まで飛んで行っちゃうのかな。
だったら、この夢だけは覚めないで欲しいな。ずっとこんなふわふわとした気持ちでいられるのなら、今度こそ他に何もいらないから。
きっと私は、この香りをずっとこの記憶と紐づけて覚えていることになるのだろう。夢のような時間と共に、夢みたいな出来事を、この温かな気持ちと共に。
ありがとう、私を見つけてくれて。私を受け止めてくれて。私の手を引いてくれて。私に世界を見せてくれて――。
「ねぇ、大誠くん」
金木犀の花言葉の通りだよ。私は……。
「私を、大誠くんのお嫁さんに、してください」
――ずっとあなたに、陶酔しています。