B.O.O.《ブラストオフ・オンライン》   作:Sence023

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Blast3-4

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 翌日の朝、体内時計に連動した激痛と共に目が覚めた隼人はブランケットを除けると胸に乗っかる様にして恋歌が眠っていた。

 

「はぁ・・・何時だよ今。九時か・・・あ、飯作らねえと・・・ん?」

 

 寝ぼけ眼の隼人は手にしたスマートフォンに一軒のメールが入っている事に気付いた。ロック解除からメールを開いた彼は父親からのものだと分かり、内容を読んだ。

 

『隼人へ。朝飯は俺が作っといたから安心しろ。後恋歌ちゃんとどこか行く時の為に5000円ダイニングテーブルに置いといたから好きに使え。親父より』

 

 メールを読み終わった隼人は父親からの気遣いに感謝しつつ恋歌を揺さぶった。

 

「おい、恋歌起きろ。もう九時だぞ」

 

「ん・・・まだ九時じゃない・・・」

 

「俺、もう降りるからな。早めに降りて来いよ?」

 

 そう言った隼人は転がす様にして恋歌を下ろすと頭を掻きながら一階に下りた。大きなあくび一つして下りた隼人はソファーに寝転がってテレビを見ている秋穂に視線を向けるとダイニングに置かれた朝食と

5000円を手に取った。

 

「兄ちゃん、今日どこか行くの?」

 

「いや、考えてない」

 

「ふうん。そう言えば朝、利兄が電話してきたよ。武兄達とゲームセンター行こうって」

 

「利也が? なるほどなぁ・・・分かった、ありがとう」

 

 ソファーの膝置きに足を置いている秋穂に微笑を返した隼人は朝食のサンドイッチを頬張るとスマートフォンの本体をスライドさせてセカンドパネルを出すとメール入力用のキーパネルが表示される。

 

 利也宛のメールを打った隼人は大きなあくびをしながらリビングに入ってきた恋歌に視線を向けると早速返って来た返信を開いて内容を確認する。そんな彼を横に置いてモグモグとサンドイッチを食べていた恋歌は

何かに当たってパンをめくった。

 

「隼人ぉ・・・何でニンジン入れるのよぉ・・・」

 

「俺が作ったんじゃないぞ? と言うか、まだニンジン駄目だったのか。と言うか何で親父はサンドイッチにニンジン入れたんだよ・・・」

 

「食べて」

 

「は?! 嫌だよ、歯形付いてるだろ?! 食いかけじゃねぇか」

 

「うぅうう~・・・でもぉ・・・」

 

「もう高校生だろ? ニンジンとか食える様になれよ・・・」

 

「野菜駄目なのよぉ・・・」

 

 ほとほと弱っている恋歌に溜め息を漏らした隼人は苦笑している秋穂に一度目を向けるとニンジンを睨む恋歌を半目で見下ろし、ニンジンを彼女の口に突っ込んだ。ビックリした影響で咀嚼した恋歌にニヤッと笑った隼人は

舌を出した彼女に大笑いしていた。

 

「大丈夫かよ、まあ何にせよ食べられたんじゃないか」

 

「強引なんだからぁ・・・ビックリしちゃったじゃないのよ」

 

「こう言うの無しで食える様になれよ? 好き嫌い減らすのも大人の器量の一つだ」

 

 言い聞かせる様な彼の言い方に頬を膨らませた恋歌は苦笑する彼を見上げながら卵サンドを食べていた。

 

「あ、そう言えば恋歌。今からゲーセン行くんだけど来るか?」

 

「ひふ」

 

「食い終わってから喋れよ」

 

「行く。行くから待ってなさいよ、着替えるから」

 

「俺も着替えるっつの。・・・って事は」

 

「ん?」

 

「・・・恋歌お前、俺の部屋で着替えろ。俺は脱衣場で着替えるから」

 

「え・・・うん、ありがとう」

 

「くれぐれも部屋の中を探るなよ」

 

 半目で言った隼人に冷や汗ダラダラの恋歌は彼から受け取った食後のコーヒー牛乳をゆっくり飲むと視線で隼人を牽制しつつ、カップを置いた。そして、開けっ放しのドアに向けて走り出した。

 

「恋歌ァ――――――――ッ!!」

 

 隼人から走って逃げる恋歌をソファーから見ていた秋穂は大太鼓を叩く様な轟音を響かせる追いかけっこに苦笑しながらスマートフォンを弄った。

 

 ドアに飛び込んだ恋歌は肩で息をつきながら施錠したドアから恐る恐る離れた。薄いドアだと破られる可能性もあったがドアの向こうにいる隼人が冷静だと言う事を信じて着替えを探り始めた。

 

「おーい、恋歌」

 

 ドアの向こうに聞こえる隼人の声が恋歌の恐怖を一層煽る。中学時代、執拗な嫌がらせをしてくるトップカーストグループにマジ切れしてスライド式の金属ドアをぶち破った前科を持つ彼が冷静でなくなれば

何を仕出かすか分からない事は身に沁みている。

 

「俺の着替えさーそっちにあるから取って良いかー?」

 

「え?! う、うん。ちょっと待って」

 

 隼人の気配を感じてドアの鍵を開けた恋歌は怯えている自身に苦笑する彼がタンスから着替えを取り出したのにホッと胸を撫で下ろし、着替えを選んでいた。

 

「あ、徒歩で行くから好きな服で良いぞ?」

 

「まさか、バイクで行く気だったの?」

 

「調子見がてら、と行きたかったんだがな。ガソリン代が嵩むからアイツの調子は帰ってから見るよ。時間があればだけどな・・・」

 

「ふぅん、何だか楽しそうねぇ・・・あんな骨董品相手に」

 

「手の掛かる奴ほど可愛く思えるものさ。最近調子持ち直してきたから結構スイスイ動いてくれるんだよ」

 

 嬉しそうな隼人の表情を見てバイク相手に思わず嫉妬してしまいそうになった恋歌は乱暴に頭を撫でた彼がそのまま立ち去っていくのに目を向けた。物静かに閉じられたドアの音に胸を撫で下ろした彼女は

もしもの時の為に持ってきていた本気デートセットを身に付けた。

 

 ふふん、と自信満々そうに胸を張った恋歌は去年隼人が誕生日プレゼントとして蓄えから購入したお洒落な手提げ鞄も一緒にして一度くるりと回った。

 

「えへへ・・・これで隼人も・・・なんちゃって」

 

 ぐふふ、と不気味な笑みを漏らす恋歌は背後からの視線に気付いて振り返ると再びドアが閉じていた。誰か見ていたな、と半目になった彼女はドアから廊下に出るとそのまま階段を降りた。

 

 隼人はまだなのか、とリビングのソファーにちょこんと座っていた恋歌は鞄からスマートフォンを出して楓宛てに居場所確認のメールを打つとすぐに返信が帰ってきた。

 

『武やトッシー達とゲーセンにいるよん』

 

 笑い声が聞こえてきそうな文面のメールを閉じた恋歌はスマートフォンの画面を覗き込む隼人に驚き、悲鳴を上げながら後ずさった。

 

「何だよその化け物見た様なリアクション」

 

「い、いたなら声かけなさいよ!」

 

「ついさっき来たばっかりなのにどうしろってんだよ」

 

 半目になる隼人から真っ赤になった顔を背けた恋歌は手を差し出された彼の手を取って立ち上がると咳払いをして済まして見せたが逆に似合わなさ過ぎて大爆笑された。

 

「何よぅ、ちょっと可愛くしてみただけでしょ?」

 

「い、いやさ。似合わないって、そう言うワザとらしいのは」

 

「だからって笑わなくたって良いでしょ?!」

 

 真っ赤になっている恋歌にニヤニヤ笑っている隼人は時計を確認すると彼女の手を取って玄関に向かう。そして、二人して靴を履くと彼は玄関のドアを開けた。

 

「んじゃ、行くか。秋穂、出かけてくるぞ!」

 

 そう言って恋歌を通し、ドアを閉めた隼人はズボンのポケットに手を突っ込んで財布とスマートフォンを入れたサイドポーチを揺らしながら歩き出した。遅れて恋歌も付いて行き、

並んで歩き出した二人は頬を高揚させお互いに顔を見合わせずに歩いていた。

 

 話す話題も無く、何時もの道を歩いていた二人は住宅地の大きな通りに出る。バス停と電灯がぽつぽつ見えるそこを歩いていた隼人は恋歌の方を見ると彷徨う左手を取った。

 

「なっ、なによっ」

 

「手、繋ぎたいんだろ?」

 

「だからっていきなり握らないでよっビックリするじゃないっ」

 

「わ、悪い・・・・」

 

「でも、ありがと・・・」

 

 赤面しつつもそう言った恋歌が恥ずかしそうに話すのを平常心を保ちながら聞いていた隼人は角度的にどうしても見えるブラジャーやらに気付いて視線をゆっくり戻した。

 

「あんた、胸見てたでしょ」

 

「うっ・・・」

 

「な、何よ。気になるの? べ、別に触っても・・・あ、いや外だからやっぱ駄目・・・」

 

「俺何も言ってないのに。見事な自己完結をしたな・・・」

 

「だ、だって外だもん」

 

 恥ずかしがる恋歌に半目を向けた隼人は溜め息をつきながら通りの少ない道路を横断し、意外と長い道のりを進む。と、ここで電話が鳴り、電話に出た隼人はゲーセンの喧騒に耳をつんざかれた。

 

『もしもーし』

 

「耳が痛いぞのこの野郎」

 

『悪ぃな婆ちゃん用に音量設定しっ放しだったわ』

 

「で、何の様だ」

 

『お前さ今どこよ』

 

「えっと、三田町だ」

 

『三田町かぁ・・・まだかかりそうだな。ま、俺らは気長に遊んどくからゆっくり来いよ』

 

 そう言って電話を切った武にため息を禁じ得ない隼人は電話をしまうと手を握っている恋歌に目を向けて歩き出した。

 

「誰からの電話?」

 

「武。今どこだって言う電話」

 

「ふうん・・・武は何て?」

 

「ゆっくり来いって。お節介だよなぁ・・・」

 

「そ、そうね」

 

 戸惑いながらそう言って思わずえへへ、と笑った恋歌は隼人を見上げた。

 

「じゃあ、近所のおもちゃ屋さん行こ?」

 

「何か買うのか?」

 

「よ、予約・・・?」

 

「何で疑問形だよ。ま、ともかくおもちゃ屋か。確か・・・ヤマモ(山本模型店)とホビーライン、おもちゃのアオヤマとかか」

 

「じゃあ、行こうよ。えっへへ~」

 

 嬉しそうな恋歌が勇み足で先行し、手を放していた隼人は慌ててそれについていく。おもちゃ屋なんて何時ぶりだろうと考えていた隼人は

総出で去年の秋に全部巡ったか、と身も蓋もない事を考えていた。

 

 恋歌は何が楽しみなんだろうと考えを変えた隼人は昨日見たアニメのCMを思い返していた。昨日見たアニメは『FiDEX』で新発売の物は144/1スケールの『HMF-Type-26H 村雲』と

フルメタルビルド『紫電・壱式甲型』だったはず。

 

 値段とマニア性のどっちを取るか、考え込んだ隼人は不思議そうに見上げてくる恋歌に気付いて飛び上がった。

 

「どうしたのよ、大丈夫?」

 

「あ、いや。何でもない。くだらない考え事してただけだから」

 

「どんな事? 教えて?」

 

「え、えっと・・・今月発売のプラモって何があったかなぁって」

 

「意外ねぇ・・・アンタがそんな事言うなんて」

 

 えへへと笑う恋歌に無理矢理な笑みを向けた隼人はテンション高いなぁ、と内心で呟きつつプラモデル作りが下手糞な事を思い出して、嫌な気持ちになった。

 

 いきなり青ざめた隼人にギョッとなった恋歌は心配になって彼の顔を覗き込んだがそれを見て空虚な笑みを浮かべだした彼にますます意味が分からなくなって泣き出しそうになった。

 

「何で泣きそうなんだよ」

 

「だってぇ・・・隼人変な事してるし・・・」

 

「テンションだだ下がりになっただけだ。だから何で泣きそうなんだよ!」

 

「私と玩具屋さん行くの嫌?」

 

「嫌じゃないって。むしろ楽しそうだから行きたいっての、だから泣くなって」

 

 慌てる隼人に涙目を向けた恋歌はしきりに頭を撫でてきた彼を見上げながら嬉しそうに目を細めて身を預けた。機嫌の直った彼女に安堵の息をついた隼人は寄り添いながら歩いているのを

周囲の人に見られている事に今更気付いて恥ずかしくなった。

 

 どうしよう、と迷っていた隼人は密着している恋歌に引き離しを諦めてそのまま歩いた。一軒目の店の前に付いた彼は店内に入ると店主の中年の元に向かい、恋歌と別れた。

 

「お、部長さんじゃねえか」

 

「お久し振りです、山本さん」

 

「武は元気か? 最近顔見せてねえけどよ」

 

「アイツなら元気ですよ。最近ゲーセン通いが祟って金が不足してるだけです」

 

「何だ、そう言う事かよ相変わらず情けねえ野郎だなぁ」

 

 ウハハ、と笑う店主に愛想笑いを浮かべた隼人は彼の隣でプラモデルを組んでいる少女に気付くと彼女の手つきを見ていた。暫くして彼の視線に気付いたらしい少女はビックリして引っ繰り返っていた。

 

「うぉおおお?! 大丈夫か?!」

 

「だ、大丈夫です・・・商品も」

 

「って、これ・・・新発売の『紫電・三式『シャドウ・グレイブ』』か」

 

 そう言って上半身が完成している黒を貴重とした人型ロボットのプラモデルを手に取った隼人はきょとんとしている少女の疑問を聞いた。

 

「何ですかそれ」

 

「今お前が組んでるプラモデルの名前だよ、知らないで組んでたのか」

 

「はい、だって私器用だからって理由でお手伝いしてるだけですし」

 

「手伝いかぁ、それにしては良い出来じゃないか。惚れ惚れするよ」

 

「そ、それは元キットの出来が良いだけですよ」

 

 モジモジと恥ずかしそうにしている少女に苦笑した隼人はマントを身に付け、月光を背にしているシャドウ・グレイブのパッケージイラストを見るとアクション性重視でプラスチックパーツに変えられている

マントを見てリアルさを重視した布製のマントへの交換を考えていた。

 

 商品棚の方を見ると新発売の『紫電・弐式『エンジェル・ハイロゥ』』を手に取っていた恋歌が目に入り、彼女の傍に寄った隼人はエンジェル・ハイロゥの隣にある『FM-22A ラプター』を手に取った。

 

「お、正規型ラプターか。航空迷彩がカッコいいな」

 

「あれ、これロールアウトカラーなの?」

 

「全身金メッキか、値段高いな」

 

「何かカッコよくないわねぇ・・・私リカラーモデルの方が好きかも」

 

「俺もだ。だけどロールアウトの方が後に出てるから稼動範囲は広いぞ。見てみろよ、後ろのユニット展開範囲とか広いじゃないか」

 

 同じパッケージを見ながら話す隼人は手にしたラプターの箱を戻して恋歌が抱えているエンジェルハイロゥのパッケージの説明を読んでいた。一応プラモデル作りの経験がある二人はそれぞれの経験から

独自の改造プランを考えていた。

 

「リペイントか?」

 

「それしかないわね、余計なものを付けると外見が崩れてしまうし」

 

「第一このキット改造しにくいもんなぁ」

 

 ロールアウトカラー版のエンジェル・ハイロゥの箱を戻した隼人は恋歌と共に別のキットを探していた。

 

「山本さん、紫電は?」

 

「あー入荷してねえな。他所を当たってくれ。まぁ、次来る頃には入荷しとくよ」

 

「分かった」

 

 そう言って恋歌を連れ、店を出た隼人は二件目の店、ホビーラインに行くと綺麗な店内に陳列されたプラモデルを二人並んで見ていく。先ほど見ていたものとは別シリーズのプラモデルコーナーに移動した二人は

新作のショーケースに置かれたプラモデルを見た。

 

「ねぇねぇ、隼人。アルスヴェルシュのリファイン版出てるわよ」

 

「ん? お、ホントだ。最新話で支援機と合体するからそれに合わせたんじゃないか?」

 

「これ、後で合体セット売る魂胆よね」

 

「まぁ、そうだろうな。追加武器含めて」

 

「え?! 何それ?!」

 

「次回予告見てないのかよ、合体した機体用に新武器出るぞ」

 

「えぇええ、見逃した・・・」

 

 落ち込む恋歌を前に苦笑した隼人は彼女を慰めているとふと後ろに気配を感じて何時もの癖で素早く振り向きつつ拳を構えるがそれが浩太郎だと分かると拳を解いた。対する浩太郎は余りの拳圧に一歩引いていた。

 

「あ、悪い。奇遇だな、浩太郎」

 

「大丈夫。模型作りって、僕らにとっては少ない娯楽だからね。うーん、アルスヴェルシュかぁ・・・デザインはアルスマルトーの方が好みかなぁ」

 

「うお、結構買ってんなぁ・・・ん? 加奈もか?」

 

 浩太郎の片手の上で山になっているプラモデルの箱越しに加奈の姿を認めた隼人は曲面デザインの多い敵量産型のプラモデルを手に取って見ている彼女に声を掛けると驚いた彼女が身を竦ませて箱を戻していた。

 

「な、何?」

 

「加奈もプラモデル買うのか?」

 

「私、このアニメ最近知ったから・・・知らないアニメの機体はちょっと」

 

「まあ、愛着持って作った方が出来も良くなるしな」

 

「主人公機ってコレ?」

 

 そう言った加奈がアニメセカンドシーズンの主人公機であるアルスヴェルシュを手に取ると隼人の脇を潜り抜けた恋歌が食いついた。

 

「そう、それよっそれともう一機、このアルスマルトーよ!」

 

「れ、恋歌・・・気に入って見てるの?」

 

「当たり前じゃないっファーストシーズンのDVDコンプしたんだから!」

 

「え、えっと・・・どっちがどっち?」

 

「アンタが持ってるのがセカンドシーズンの主人公機。私が持ってるのはファーストシーズンの機体」

 

 ドヤ顔で説明する恋歌に頬をヒクつかせながら話を聞いていた加奈は彼女越しに隼人と浩太郎を見ると二人並んでプラモデルを探っているのを見て良からぬ事を考えており、脳内メモ帳に刻み付けていた。

 

 一方の二人は童心に帰って店の棚の奥にあるコアな機種を引っ張り出しては嬉しそうに笑っていた。

 

「やべー、アーマーズバリエーション機種まで網羅か。おい、浩太郎。ここにアルスマルトーダッシュがあるぞ!」

 

「うわーカッコいいなぁ・・・あ、隼人君あっちのコーナー行ってみようよ」

 

「お? FiDEXコーナーか。あ、俺紫電探してたんだ」

 

「紫電かぁ・・・再販分無いからねぇ、今度バリエーションモデル出るんだっけ」

 

「零式か? うーん、紫電はバイザーがカッコいいからなぁ・・・俺は微妙だな」

 

 熱く語る恋歌を他所に別の場所に移動した二人は山積みのプラモデルを傍らに置いて陳列棚を物色し始めた。昼時になろうかと言うのにも拘らず。

 

「あ、隼人君見てコレ。『アルヒアン・ゲロス』」

 

「イグディエルの成型色変更版だろ?」

 

「良いじゃない、この禍々しい感じ。黒と赤の配色バランス良くて」

 

「うーん、まあ、設計変更とかで頑丈になってるもんなぁ。あ、エクシージ」

 

「わぁ初回生産版じゃないか、ストライクバスターランチャー付きなんだね」

 

 二人並んでパッケージを見ている浩太朗と隼人はやつれて合流した加奈に気付き、彼女を追って来た恋歌の目の輝きを見て苦笑した彼らは加奈を間に入れて恋歌からガードすると代理で隼人が彼女の話を聞いた。

 

「おい、恋歌見ろ、初回生産版エクシージだぞ」

 

 話し足りなさそうな恋歌の気を逸らそうとした隼人だったがそれでも彼女は加奈の方に行こうとしていた。なので隼人は浩太郎達に一言告げて興奮気味の恋歌を担ぎ、店を出た。

 

 恋歌を担ぎながら昼時である事を確認した隼人は暴れる恋歌を下ろすと容赦ない蹴りを振るう彼女に驚き、近場のコンビニに逃げる様に駆け込んだ。雑誌コーナーで飛び蹴りを食らった隼人は周囲の目に晒されて

恥ずかしそうに立ち上がって咳払いをすると雑誌を手に取った。

 

 ゲーム雑誌を閲覧していた隼人の傍らでぴょんぴょんと飛び跳ねている恋歌に周囲だけが気付いていた。肩で息をする彼女に気付いた隼人は雑誌を差し出すがムッとしていた恋歌が半ばキレ気味にローキックを叩き込む。

 

「痛ェ!」

 

「その雑誌見せなさいよっ、あと背が高過ぎるのよアンタ!」

 

「んな事言われたってよ。お前が背を伸ばさないのが悪いんだろ」

 

「アンタが高いのよっ!」

 

 蹴りこそしなかったがご立腹の恋歌に怯んだ隼人は周囲の視線が自分に向いているのを見て慌てて店を出る。その後を追ってきた恋歌を睨もうとした隼人は背後から飛び付かれた。

 

「にひひー二人とも何してるのん」

 

「何だ、楓か。驚かせるなよ。と言うか抱きつくな」

 

「んー? 良いじゃん別に~友達同士なんだし。って恋ちゃんどったのそんな顔して」

 

 隼人に飛びついたままの楓は彼の肩越しに物凄く不満そうな恋歌の表情を見ると何か心当たりのある顔をした後に邪悪な笑いを浮かべていた。

 

「ん、ふ、ふ~。もしかして恋ちゃん、嫉妬ですか嫉妬ですかぁ~?」

 

「う、五月蝿いそんなんじゃないわよっ」

 

「じゃあどんな事~? 言ってみてよ~」

 

「は、隼人が嫌がってるじゃないっ! それで十分でしょ?!」

 

「ふぅーん。だってさ、はー君。愛されてるねぇ、よっと」

 

 身軽に飛び降りた楓は真っ赤になってしゃがんでいる恋歌に苦笑すると後ろにいる武達三人に目を向け、悪戯の成功した子どもの様なあどけない笑みを浮かべた。

 

「よーお二人さん。悪いなデートの邪魔しちまってよ」

 

「別に構わねぇ。・・・お前等飯は?」

 

「まだ食ってねえよ」

 

「浩太郎待つか? そこのホビーラインでプラモ買ってるから」

 

「プラモか・・・何かあったか?」

 

「エクシージの初回生産版があった。バスターキャノン付きの」

 

「マジかよ! 行こうぜ」

 

 そう言ってダッシュした武と楓に溜め息をついた隼人は彼の後を歩いて追う利也に付いて行き、その後ろを恋歌と夏輝が付いて歩く。利也と話し合う隼人の背中を見上げる

恋歌に微笑を浮かべている夏輝は視線に気付いたらしい彼女が半目を向けてくるのに気まずくなって視線を逸らした。

 

 そんな彼女に体をくっ付けた恋歌は驚く夏輝の大きな胸を頭に乗っけて心なしか安堵を抱いた顔をしていた。探偵部所属の女子の中で唯一母性的な夏輝は案外頼りにされるのだが

それに彼女は気付いていない。

 

 自信なさげに苦笑する彼女は頭一つ分以上低い恋歌の肩に手を回し、ぎゅっと抱き寄せる。その様子を前から見ていた利也と隼人は微笑を浮かべ、姉妹の様に並ぶ二人の声を聞きながら

店先が喧しいホビーラインに向かっていく。

 

「何やってんだ、お前」

 

「いやあ、買っちまったぜ初回版」

 

「はぁ?!」

 

「たまたま持ち合わせがあってさぁ、ヤベえよ積みプラが増えちまわ」

 

「・・・そうか」

 

 本当は欲しかったエクシージ初回生産版を先に購入された隼人はなるべく感情を押し殺してそう言うと大体察した武がそれ以上の事を言わずに箱を紙袋の中にしまった。

 

「それで、どうすんだよ。飯食いにいくんだろ?」

 

「そっか・・・もうお昼なんだよね。何処行こうか」

 

「何処行くかねぇ・・・ミスターバーガーとか?」

 

「安いし、妥当なとこかな。皆それで良い?」

 

「満場一致、じゃあ早速移動するか」

 

 隼人が先行しその後ろに嬉しそうな恋歌がちょこちょこと付いていく。ジーンズのポケットに手を突っ込んで歩く彼のポロシャツの裾を掴んだ彼女は心なしか少しだけ嬉しそうな彼の顔を見上げ、

えへへと頬を綻ばせていた。

 

「えーっと、恋ちゃんはあれが素なんだよね・・・」

 

「恋歌ちゃんは恥ずかしがり屋だからね。ああ言うの、本当は出来ない筈なんだけど・・・」

 

「あ、物凄く赤くなってる。可愛い・・・。あれ、隼人君も?」

 

「あの二人の共通点ってそう言う自爆が多い事なんだ」

 

「何と無く分かる気がする・・・」

 

 二人の様子を引いて見ていた夏輝と利也は真っ赤になって視線を逸らし合う隼人と恋歌に揃ってため息をついていた。その後ろ、加奈と並んで歩く浩太郎はそんな彼らを一歩引いた視点から見ており、

楽しげな彼らに微笑みながら隣に付いてくる彼女へ視線を向ける。

 

「楽しそうだね、コウ君」

 

「うん、加奈ちゃんも楽しいでしょ?」

 

「うん・・・楽しい」

 

 あまり笑う事が得意では無い加奈は少しぎこちない笑みを浮かべてしまうがそれも個性と受け入れる浩太郎はそんな事も気にせず満面の笑みで彼女の頭を撫でていた。

 

 恥ずかしそうに顔を俯ける加奈にも構わず、頭を撫でる浩太郎は恐る恐る手を退ける彼女に小首を傾げ、真っ赤な顔の彼女が手を伸ばそうとする彼に首を横に振って手を押し退ける。

 

「どうしたの? 加奈ちゃん」

 

「え、えっと・・・その・・・は、恥ずかしいから」

 

「そうなの?」

 

「そ、そうなのって・・・恥ずかしくないの?」

 

「別に・・・恥ずかしくは無いけど」

 

 しれっとしている浩太郎に思わず半目の仏頂面を向けてしまった加奈は苦笑して反省している様子の無い浩太郎に頬を膨らませた。

 

「コウ君はスキンシップを大切にしないね」

 

「スキンシップは何時でもやる事じゃないの?」

 

 視線を浴びて顔を赤くしながらもふるふると首を横に振る加奈は小首を傾げる浩太郎を少し睨んでいると不用意に顔を近づける彼に驚いてカウンターパンチをぶち込んでしまった。

 

「あ、ゴメンコウ君」

 

「大丈夫大丈夫、綺麗に入ったから」

 

「それ、大丈夫じゃない・・・」

 

「冗談冗談。当たる瞬間に後ろに避けたから」

 

「相変わらず凄いね・・・それ言ったら隼人もだけど・・・」

 

 呆れ半分といった風の加奈は苦笑した浩太郎がまた撫でて来ようとするのに頬を膨らませ、手を押し退けた。睨む加奈の膨れた頬を指で潰した浩太郎は怒る彼女のハンマーパンチを

胸で受け苦笑していた。

 

「怒らないでよ加奈ちゃん。あはは、痛い痛い」

 

「むぅ・・・からかわないで」

 

「からかってないよ、遊んでるけど」

 

「むーっ」

 

「可愛いなぁ・・・」

 

 のん気に笑っている浩太郎と少し怒り気味の加奈のやり取りを遠目に見ていた武と楓は激甘な空間の形成に伴って二人から離れた。利也達が絡まない事もあって実質二人切りの彼らは

並んで歩きながら話題を模索していた。

 

「ねータケちゃん」

 

「外出してんだからその呼び方止めろって。んで、何だよ」

 

「さっきのゲーム凄かったね」

 

「え? ああ、『AoF』の事か。まあ、隼人達とゲーセン通ってたからな」

 

「BOOとかもその、『AoF』の経験が生かされてるの?」

 

「ハハハ。考え方は似てっけどなぁ、やっぱ動かし方が違うから生かせる訳じゃねえよ」

 

「そっかぁ・・・あ、そう言えばさゲームセンターにいた知り合いの人達、特に男子二人」

 

「・・・あ、ああ。南井達の事か、あいつ等はニシコー組で中学時代にゲーセン内で競い合った仲だ」

 

「ニシコーの人だったんだ」

 

 へぇ、と納得する楓に苦笑した武はゲーセン時代に尽くブッキングする筐体でび優先プレイ権を物理手段で奪い合った事を思い出していた。無論こんな事口に出来る訳ないので

真面目でゲーセン通いをしていなかった女子連中には黙っていた。

 

 それから暫くして目的地であるミスターバーガーに到着した彼らはそれぞれ注文して机を繋げて席に着いた。

 

「恋歌お前ビッグバーガーって大丈夫かよ」

 

「ば、馬鹿にしないでくれる?! こ、これぐらい余裕だし!」

 

「前もそう言って結局俺が食べただろ?」

 

「前残ったの、一口だけだもん! 今度はちゃんと食べれるもん!」

 

「いや、そう言われても・・・」

 

 剣幕に押された隼人を涙目で睨む恋歌は小箱の中に収められたビッグバーガーを見下ろすと唾を飲み下し、手から溢れる位の大きさのそれを掴んだ彼女は滑りそうな感触にヒヤヒヤしていた。

 

 精一杯の大口で一口を齧った彼女は思いの外小さい後に不安を募らせ始めた。

 

「は、隼人ぉ・・・」

 

「無理だったら食ってやるから、泣くな」

 

「うん・・・」

 

 涙目で頷いた恋歌にため息をついた隼人は自分のビッグバーガーを片手に取った。小動物宜しく必死に齧っている恋歌に苦笑した彼は隣のテーブルから感じる視線にそちらへ顔を向けると

テーブルに座っているらしい男子と女子二人が慌てて顔を横に向けていた。

 

(何だ・・・こいつ等・・・)

 

 奇妙な光景に言葉を失った隼人は食の進んでいない様子を恋歌に心配され、意識すまいとビッグバーガーに齧り付いた。真正面でイチャつく加奈と浩太郎を他所に半分ほど食べた所で

再び隣のテーブルが気になった隼人は視線に気付いた恋歌と共に横を向いた。

 

「げ、こっち向いたっ」

 

 聞き馴染みのある声を発した三人に首を傾げた隼人は三人を凝視する恋歌に一度視線を向け、ふむと小さく漏らすと男子の方の身体的特徴を舐める様に見て取っていく。見覚えのある特徴、

雰囲気とでも言うのか勘を刺激するに十分な要素が彼らにはあった。

 

「・・・なぁ、恋歌。あの二人、どっかで見たことないか?」

 

「・・・・言われれば確かに見覚えが。つかあのポニテどう見ても時雨じゃない?」

 

「そうだよなぁ・・・一応声かけてみるか」

 

 そう言って席を立った隼人と恋歌はぎょっとしている武達を他所に隣のテーブルに移動し、冷や汗ダラダラの男子の肩に手を掛けた。

 

「お前、俊だよな」

 

「え・・・えっと、別人では?」

 

「別人なら顔をこっちに向けろよ・・・んで、本当に俊なんだろお前」

 

「ちぃ・・・よく分かったな、さすが探偵部と言った所か」

 

「いや、あからさま過ぎんだろお前等。誰が見ても怪しいって」

 

「ぬぅ・・・駄目か。駄目だってよシグ」

 

 無邪気を纏った少年、南井俊はため息をつく隼人を他所に自身の正面に座る小柄な少女に話を振った。

 

「その呼び方止めてください。んんっ・・・久し振りですね、恋歌」

 

「久し振り時雨。あ、もしかしてシグが良かった?」

 

「その名前、小学校の頃から呼ばれてましたけど気に入ってないんですからね」

 

「良いじゃないのよ、アンタと言ったらこのあだ名なんだから」

 

「もう、そうなったのは恋歌のせいですからね! 道場でずっとシグ、シグ、と言いながら付いて回って!」

 

 ムッとしている小柄な少女、三浦時雨に誤魔化し笑いを浮かべた恋歌は時雨の隣でソワソワしている少女、根岸花代へ隼人共々目を向けると同時に向けられた視線に驚いた彼女が

逃げ場を無くしてパニックになっていた。

 

「落ち着けってネギ。こいつらは何もしねえよ」

 

「えぅ・・・ホント?」

 

「ホントホント。口は悪いけど良い奴らだから」

 

「でも・・・中学校の時、修平君達と殴りあった人だよね?」

 

「大丈夫大丈夫、あん時みたいにはなんねえから」

 

 陽気に笑う俊に心配そうな目線を向けた花代は半目になる隼人に怯えていたがトレーを持ってきたメガネの少年に気付くと佇まいを直した。花代の目の前にトレーを置いた少年は

隼人の姿に気付くと目を見開いた。

 

「久し振りだな」

 

「ああ、全くだ。何時振りだ? 俺の記憶だと、三が日明け以来か」

 

「そうだな。何にせよお前等ゲーム部が相変わらずで安心した。和馬達は?」

 

「カズ達は昼ごろにここで合流の予定だ。お前は?」

 

「武達といる。お前らのテーブルの隣だ、ほら」

 

 そう言って肩越しに隣のテーブルを見た少年、浦上脩平は視線に気付いたらしい浩太郎に片手を上げ、驚く彼に苦笑しながら視線を戻した。嬉しそうな表情を浮かべながらダブルチーズバーガーを食べる浩太郎に

含み笑いを浮かべた隼人は恋歌と共に席に戻った。

 

 そして、浩太郎とアイコンタクトを取って机を動かし、俊達のテーブルの横に付けて話を続けた。

 

「よっす、久し振りだなコウ」

 

「久し振り。元気だった?」

 

「応よ、カズ達も相変わらず! 逆に元気有り余ってる感じだぜ」

 

「へぇ・・・あ、秋菜さん達は? この時期なら受験勉強してるよね?」

 

「いんや、部室に篭ってモンポリーしてる。モンポリー必勝法の研究だってさ」

 

「受験の必勝法研究した方が良いんじゃないのかな・・・」

 

「全くだぜ」

 

 並んで文句を言う俊と浩太郎を正面から見ていた隼人はローテンションでジュースを飲む自身の隣、嫌がる時雨にくっ付く恋歌を流し見ていると何時の間にか机ごと来ていた武達に驚愕し、同じ様な事していた加奈共々

口に含んでいたジュースを噴霧した。

 

『うわぁあああ!』

 

 余りの勢いに周囲にいた面々が一目散に逃げ、中心になった隼人が口元を拭ったのを合図に全員が戻る。しれっとしている全員の中でいまいち付いていけていない時雨、花代と夏輝は周囲の状況が読めずにきょとんとしていた。

 

「んでよ、これからどうすんのお前等」

 

「そりゃカズ達と合流した後にゼガワールドでゲームスコアの更新をするに決まってんだろ」

 

「相変わらずだな・・・ご足労なこった。あーあ、俺らはどうするかね。このまま帰るのもなんかつまんねぇよなぁ」

 

「じゃあ俺らと一緒にゲーセン行くか?」

 

「いや、止めとく。隣にいる奴が暴走するって分かってるからな・・・」

 

 そう言って隼人の方を見た武はムッとする彼から逃げる様に視線を逸らし、陽気に笑っている俊と顔を見合わせた。それからして色々と喋っていた彼らは遅れて合流してきた四人の男女へ

手招きした。

 

「何だよ、大所帯の連中がいると思ったらお前等か」

 

「うっせ、兎に角こっち来い」

 

「はいはい、第二班合流っと。だけどまさか隼人達に会うなんてなぁ、久し振りに楽しい話が出来そうだぜ」

 

 そう言ってのん気に席についてジュースを飲む大柄な男子、カズこと佐本和馬は向かいに座っている目元を前髪で少し隠したメガネの男子、田辺日向の表情が若干曇っているのに気づいた。

 

「如何したんだよヒナタ。テンション低いな、不味い事でもあんのか?」

 

「・・・・いや、無い。ただ・・・な」

 

「ただ、何だよ」

 

「あ、いや・・・すまない、何でも無い」

 

「・・・取り敢えずこれ以上突っ込むとヤベェのは分かった」

 

 大体を察した和馬は元々表情豊かな性質では無い日向の話を掘るのを止めたのを見た隼人は和馬の隣に座る長身の女子に目を向けると椅子の隣にある紙袋に目を向けた。

 

「なあ、ミィの隣にある紙袋。それって何だ?」

 

「あ、これ? 機材よ」

 

「機材・・・? 何用の機材だ?」

 

「漫画」

 

「お、お前漫画描いてるのか」

 

「そうだよ」

 

「どんな漫画描いてんだ?」

 

 邪気の無い物言いで問うた隼人は一瞬で凍りついた日向に驚愕してしまったが小首を傾げる長身の女子、大宮美月から話が聞けなくなると思って表情を抑えた。

 

「えーっとね・・・秘密かな」

 

「何だよそりゃ。あ、もしかして一般には見せられん物か?」

 

 顔青くし、冷や汗をダラダラ流す美月に何かを悟った隼人は硬直し、ぎこちない動きで日向の方を向く。大体が伝わったらしい彼が頷くのにどん引きした隼人は意味が分かっていない恋歌と

時雨の視線にどうしようか悩んだ。

 

「どうしたの?」

 

「え、あ・・・いや。知ってはいけない心理を知ったっていうか、その」

 

「意味分かんない・・・つまりはどう言う事なのよ」

 

「いや、お前が知るのには早すぎる」

 

「へ?」

 

 眼を点にする恋歌の純粋な視線に気圧された隼人は訳の分からない武達の問いを首を振って拒絶すると頬を赤くして俯く美月に一度視線を向けてから俊に視線を変え、話題も変えた。

 

 談笑する彼らをジュース片手に傍観していた脩平はうんうん唸っている花代に気付いた。

 

「どうした?」

 

「さっき五十嵐君が言ってた事ってどう言う意味?」

 

「・・・その通りじゃないか?」

 

「うーん、何を感じ取ったんだろ」

 

「あいつが言及しない程のものだから知った所でろくな事にならんだろう」

 

 脩平の指摘は正に正解だった。先ほど、隼人が言及を避けたジャンルとは所謂同性愛を扱った漫画の事である。男女は問わない。実は妹の秋保が行為が柔らかい方のジャンルを平然と読んでいたが為に

美月の描いている漫画のジャンルを特定できた彼は公衆の面前で言うべきではないと勘で察して言及を避けた。因みに彼の知らない裏話を言えば恋歌もそう言った世界に片足を突っ込んでいる。

 

 色々と話が反れた気がするが、脩平の指摘は実に的を射ていた。だが、ゲーム部部員でありながら世間で言うとこのオタク文化に縁の薄い花代は日向からの警告で既にジャンルを知っている脩平の指摘を

よく理解できていなかった。もやもやした物を抱える結果となった彼女は美月と仲の良い小柄な少女、水島美羽に話を聞こうと思い至ったが実際美羽も片足どころか全身浸った筋金入りである。

 

「ねぇ、ミュウちゃん」

 

「何?」

 

「ミィちゃんの描いてる漫画ってどんなの?」

 

「知りたい?」

 

「うん」

 

「じゃあ、今日見せて上げる。私も手伝ってるから」

 

「ホント? わぁ・・・ありがとう! ミュウちゃん!」

 

 満面の笑みで喜ぶ花代を見ていた美羽は内心で邪悪な笑みを浮かべていた。これで仲間が出来る、と。

 

「なーんか、嬉しそうですねぇネギは」

 

「ね、ネギって言わないでよっ」

 

「それで、何か嬉しい事あったんでしょう?」

 

「うんっあのね、ミュウちゃんがミィちゃんの漫画読ませてくれるって!」

 

「え、ホントですか? わぁ、良いなぁ・・・ミィの絵は凄く上手いですからね。私も読んでみたいです」

 

 無邪気に喜ぶ時雨と花代の会話を盗み聞いていた脩平はストローからジュースを噴き出し、盛大に咳き込んだ。

 

「お、おい大丈夫かよ」

 

「大丈夫だ・・・ゴホッ、スマン」

 

「大丈夫なら良いけどよぉ・・・どうしたんだよ」

 

「いや、一滴気管に入ってな。むせた」

 

「何だよ、ビックリしたじゃねえか」

 

 ハハハ、と笑う俊に愛想笑いを浮かべた脩平は花代に何か言おうとしたが純真そのものを笑顔にした彼女に逆に何も言えなくなって黙り込む結果になった。

 

 段々と被害に遭う人物が増えて来た所で一旦解散になった彼等はそれぞれ行きたい所に行く事になった。

 

「んで、夏輝だけが行きたいとこあるのか」

 

「えへへ・・・すいません」

 

「いや、別に良いけどよ。何で『フェリックス(裁縫用具店。布も扱う)』なんだ?」

 

「え、えーっと・・・それは、秘密です」

 

「そうか、まあ色々あるよな・・・」

 

 先の事があるので容易に首が突っ込めない隼人はぎこちない喋り方で夏輝に返したが当の本人は女子を引き連れ、何時もとは違う感じで店内に突貫して行った。

 

 その様子に一瞬固まった隼人と利也はニヤニヤしている武と苦笑している浩太郎に信じられない物を見る目を向けた。立っていても仕方ないので店内に入った男子は

店内にいる女性客から奇怪な目で見られた。

 

 刺繍を趣味とするご老人から可愛らしい姿格好の少女まで幅広い年齢層の客がいたが店内にいるのは女性客ばかり、早い所合流したいと思って早足になる隼人達は

足を止めた浩太郎に揃って足を止め、裁縫道具を物色している彼の元に駆け寄った。

 

「おい、コウ! 何してんだ!」

 

「え? 修繕とかに使う糸見てるんだけど」

 

「修繕用なのに何でピンク色なんだよ。無難な白にしろよ。雑巾にピンク使ったら凄い事になるぞ」

 

「んー・・・まあそうだね、白にしようかな」

 

「そうしとけ。よし、籠に入れて早く合流するぞ!」

 

 買い物籠に糸を突っ込んだ隼人は苦笑する浩太郎を連れて早足で売り場を進んでいく。だが、何処にも女子の姿が無い。と言うかそもそも売り場の状況を理解できていないから

自分達がどこにいるかすらも分かっていない。

 

「手分けして探すか?」

 

「いやいやいや、俺とか初めて来たのに手分けして探してみろよ迷子になっちまう」

 

「くっそぉ・・・如何する?」

 

「もうさ、素直にコウの買い物を会計して近くの店で時間潰しておこうぜ」

 

「・・・そうするか。じゃあ連絡して、と。よし移動するぞ」

 

 そう言って移動した男子達から三ブロックほど離れたコスプレ作成用の布などを扱う売り場に女子はいた。突然鳴った恋歌のスマートフォンに全員が驚かされたものの男子が来ない事に安堵した。

 

 各々頭に浮かんでいるコスチューム案に怪しい笑いを浮かべる女子連中は周囲で買い物をしているオタク女子からどん引きされていた。その中心人物とも言える夏輝は脳内プランにある男装用の衣装に

使う布を選んでいた。

 

 そう、夏輝にはコスプレ癖に加えて男装癖があるのだ。武経由で貰ったコスプレ雑誌を発端にしているコスプレ癖はその後女子連中に伝播。更に探偵部の裏仕事として演劇部の衣装デザイン及び

製作のアドバイザーとして参加している有様である。

 

「ねえねえ、なっちゃんどんな衣装作るの?」

 

「うーん、『ラブミッシング』の深桜高校男子制服かなぁ・・・男装用の服」

 

「うっひょー、じゃあじゃあ私の分も作ってくれない?」

 

「良いけど・・・どうするの?」

 

「女の子指導の時に見せよっかなぁって。『ラブミッシング』の制服って軍服っぽいからカッコいいんだよねぇ」

 

 えへへーと笑う楓に笑い返した夏輝は羨ましそうな恋歌に苦笑を向ける。本物に近い男装するにはある程度身長がいるので大きくても中一レベルの身長しかない恋歌に男子制服は少々無理がある。

 

 正直小道具も欲しいが工作が苦手な夏輝はどうも小道具作りが下手なのである。探偵部で一番小道具作りが得意なのは利也だが彼は察しが良い為、頼めば黙ってやってくれるだろうが間違い無くバレる。

 

 どうしようか考え始めた夏輝はラブミッシングの男子達が所有している物を脳内に浮かべた。ラブミッシングは男性ボディガードを育成する専門高校に男の子に変装した女の子が父親との約束を果たす為に性別を偽って入学し、

色んな男子と仲を深めていく作品だから小道具としての武器の携行は必須だ。

 

「ねえねえ、恋ちゃん」

 

「何?」

 

「何か武器のレプリカ持ってない?」

 

「んー・・・隼人から貰ったモデルガンと警棒かなぁ・・・ラブミッシングコスの小道具に使うんでしょ?」

 

「うん、貸してくれるだけで良いからね」

 

 何か言われる前に釘を刺した夏輝は少し怒り気味に恋歌を見ると視線を逸らした彼女は音の無い口笛を吹いて誤魔化した。脳内でのイメージが完成していく夏輝は材料を籠に入れていく。

 

 この為に両親から貰ったお小遣いを貯めていたのだ。そしてコスを完成させて近所の産業会館でのコミケに参加、裏で結託している漫画研究部の売り子を手伝う算段である。

 

「フフフ・・・」

 

 身内や男子、特に利也にさえバレなければこの趣味はとても楽しいものだ。憧れのキャラクターになり切る事が出来るし何より裁縫好きの自分の技能が生かせる事が何よりも嬉しい事だ。

 

「えへへ・・・」

 

 因みにこの数日後、部屋でコスプレを着て姿見を見て悦に浸っていた中学三年生の妹を目撃、その時に既にバレている事、そして妹が隠れオタクである事が判明する事になる。

 

「カッコよく作らなくちゃね」

 

 そう言って四人でレジに向かった夏輝の表情は何時に無く楽しそうだった。

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