B.O.O.《ブラストオフ・オンライン》   作:Sence023

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お待たせしました、第四話です。
季節は秋になり夏の暑さが抜けて朝、夜はすっかり肌寒くなってきましたね。
皆さんも健康には気をつけてください。


Blast4-1

Blast4『Before you point your fingers, make sure your hands are clean.《指をさして人を非難する前に、君のその手がよごれていないか確かめてくれ。》』

 

 

 翌日の昼休憩、人の少ない生徒会室にいた隼人は生徒会長一人の部屋で彼女の話を聞く事になっていた。

 

「どう言う呼び出しだ、生徒会長」

 

「酷く、他人行儀ね。まあいいわ、その言い方だと呼び出された用事が分かっていると思うから」

 

「PKの実行犯についてだろ? 知り合いに戦闘ログのネームプロテクトの解除を頼んでる」

 

「プロテクトを掛けるなんて、随分と用意周到な相手ね・・・それは何時終わるの?」

 

「楽な仕事だから今日中には済むと言われてる。放課後だろうな」

 

「そう、分かったわ。こっちも照合の準備はしておくから終わったら持って来て頂戴」

 

「了解だ」

 

 短いやり取りを終えた隼人は生徒手帳を掲げて見せた生徒会長に頷くと、生徒会室を後にした。そして、教室へと戻る道すがらに遭遇した妙に大きい話し声に気付いた彼は

念の為に足音を殺して話し声のする方へ移動すると人通りの少ない校舎裏にたどり着いた。

 

 そこには女子一人と男子二人が一人の女子を囲む様にしていた。

 

「アンタ、ちゃんと迷惑料の三万円は持ってきたんでしょうね」

 

「え、あ・・・む、無理だって」

 

「あ? 持ってこなかったら何するって言ったか覚えて無い訳? タダじゃすまないって言ったっしょ?」

 

 男子を連れた女子がそう言うと囲みの中心にいる女子は体を萎縮させる。その様子を見ていた隼人は恐喝と判断して何とかしようと思い立ち、手近にあった掃除用のバケツを手に取って

男子の一人に向けて投げ飛ばした。

 

 寸分違わず直撃したバケツはガシャン、と物音を立てて落下し、頭を抑えた男子は低空姿勢で目の前に迫っていた隼人に驚愕した後に全力の右ストレートを腹に食らい、コンクリート製の壁に叩きつけられた。

 

 叫びながら手にしたパイプでもう一人の男子が殴り掛かろうとするがその前に右肘の一撃を鳩尾に受け、体を折り掌底でパイプを弾き飛ばされてその場に崩れ落ちる。へこんだバケツがむなしい音を立て男二人が

薙ぎ倒された凄絶な現場に哀愁を残した。

 

 怯える恐喝犯の女子を睨みながらストンプで鉄パイプを変形させた隼人はそれを彼方まで蹴り飛ばすと女子を見下ろした。

 

「さーてと、生徒指導室まで行ってもらうかねぇ。おら、立てよ」

 

 そう言って男子二人を担ぎ、女子を連行した隼人は時折逃げようとする女子に追いついて目前に蹴りを叩き込んで連れていた。そして、護送が終わって教室に戻った隼人は既に授業が始まっている教室に入り、

教員に事情を伝えてから席に着いた。

 

 教科書を出して授業を受けようとした隼人は隣の席になっている浩太郎に腕を叩かれ、別名"浩太郎メール"と称される独特の形に折られたルーズリーフを投げ渡された。

 

(コウ)『何かあった?』

 

(ハヤト)『恐喝犯とっちめた』

 

(コウ)『あ、その護送で遅くなったんだ。てっきりどっかで時間潰してるんだと思ってたよ』

 

(ハヤト)『俺はそんな不良じゃないぞ』

 

(コウ)『知ってる。でも、その不良よりも強いって知られてるんだから性質が悪いんじゃない?』

 

 心配する様なイントネーションが浮かび上がるその文を読んで苦笑する浩太郎に目を向けた隼人はペンを走らせ、汚い字で書き殴ると浩太郎に投げ渡した。

 

(ハヤト)『性質が悪いってどう言う意味だ、確かに強いっちゃ強いがSATには負けるぞ』

 

(コウ)『何で比較基準がSATなのさ?』

 

(ハヤト)『いや、並の警官なら倒した事あるからさ・・・道場で』

 

(コウ)『ああ・・・前言ってたね、親御さんに付いて行った時に警官数名薙ぎ倒したって・・・』

 

(ハヤト)『薙ぎ倒したとは何だ、ちゃんと一対一でだな―――』

 

 書いている途中で奪われた隼人は浩太郎の隣に座る夏輝を経由して縦列でルーズリーフに書き込みを開始したのに青くなった。探偵部メンバーを一巡して帰ってきたルーズリーフは思い思いの感想が書かれていた。

 

(レンカ)『アンタどんどん人外的な強さになっていくわね・・・』

 

(カエデ)『と言うかはー君が言ったのって複合試合じゃ無いっけ。剣道とか薙刀術とか色々な型がいっぺんに戦う奴』

 

(タケシ)『おいおい、もしそうだとすればやばいぞそりゃ』

 

(トシヤ)『と言うかもう既に市内最強じゃないかな・・・』

 

(ナツキ)『あ、私インターネットで調べた事があるんですけど得物を持ってる人に素手の方が渡り合うには得物を持ってる方の三倍の実力が必要になるそうです』

 

(カナ)『知ってる、三倍段の事でしょ』

 

(トシヤ)『カナちゃん詳しいね。ざっとこんな感じだよ、隼人君」

 

 羅列された文章を読んで微妙なテンションになった隼人はニコニコ笑っている浩太郎を睨むと文章を書いて彼に渡した。そして数分後、返事が返ってきた。

 

(ハヤト)『つまり戦闘能力バカ高いキチガイだって言う意味か? それは』

 

(レンカ)『ストレートに言えばそうよ』

 

(カエデ)『そこは否定しようよ恋ちゃん!』

 

(タケシ)『はなっからそういう風に書いてたから否定しようがねえんだよなぁ』

 

(トシヤ)『キチガイじゃないけど戦闘力バカ高いとは思うよ? うん』

 

(ナツキ)『隼人君大抵戦う人より実力上ですもんね・・・』

 

(カナ)『と言うより何をやったらそんなに強くなるのか知りたい』

 

(コウ)『あはは、気になるね』

 

 回ってきた文章を読んだ隼人は主題が自分の戦闘力である事にあまり良い気持ちになれなかった。高校生で大人を倒すのは確かに異常だとは思うがそれを言うなら自分を持ち上げる姉や

凶器を恐れず逮捕する父親の方が凄いのではないのか。

 

 そう疑問に思った隼人だったがそれよりも彼らの疑問に答えるべきだと思い、答えを書いて回した。

 

(ハヤト)『飯食ってトレーニングして寝るをしたらこうなった』

 

(レンカ)『え、それ本気?』

 

(カエデ)『・・・はー君って、たまに区別の付け難い事言うよね』

 

(タケシ)『つーか、トレーニングって大体何してんだよ』

 

(トシヤ)『と言うか筋肉の量が桁違いだよね、それに加えて豊富な経験かぁ・・・』

 

(ナツキ)『隼人君って格闘技する為に生まれてきた様なものですね』

 

(カナ)『ほう・・・恵まれた体格に格闘技への天賦の才が組み合わさる事で最強になる、と』

 

(コウ)『アスキーアートでそんなのあったよね、確か』

 

 意外とコアなネタ知ってるよな加奈は、と内心で思った隼人は続きを書こうとして教員から睨まれているのに気付いて止めた。気まずい雰囲気になる中、浩太郎の方を見た隼人は

あっさりと女子から手紙を受け取った彼に冷や汗をかいた。

 

 嬉しそうな彼の背後、異様な殺気を持って手紙を渡した女子を睨む加奈に気づいた隼人はフォローに入ろうとしている夏輝にも気づいた。

 

(一応止めようとはしてくれてるみたいだな・・・弱腰だから効果は無いが)

 

 ため息をついた隼人はあまり面白くない授業を受け、退屈な時間が終わるのを待った。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 放課後、要件を済ませる為にある場所に向かっていた隼人は通学に使っている赤と黒の登山用リュックサックを半分肩掛けして、理系棟と呼ばれる理系科教室が密集する棟の

廊下を歩いていた。

 

 薄暗い噂しか聞かない理系棟でも放課後になれば部活動に参加しようとする生徒で賑わいを見せる。双葉高校には把握できるだけでも30近い部活動が存在しており、部室割りでのトラブルや

部費の割り当てなどでしょっちゅう小競り合いがあった。

 

 探偵部でもそれらが円滑に行われる様、交渉の代行や提出された証拠の信用度を上げる為の内部調査などを行ったりしていた。それらは生徒会からの依頼で行っていたが元々不透明な活動内容だった事に加えて

本来なら委員会業務に当たるらしいそれを報酬のある依頼と言う形で執行した為に文化委員会に睨まれたらしく、現在の彼らとは折り合いが悪い。

 

 それに加えて隼人は個人的に文化委員会が気に入らない。それは過去の因縁が絡んでいるのだが、それはまた別の話である。

 

「さーて・・・おい、佐々山。依頼の物出来てるのか? 受け取りに来たぞ」

 

「受け取る前に渡す物有るんじゃない? それからそれから」

 

「チッ、ほらよSNLウェブマネーカード1500円分」

 

「おうおう、上等上等。1500円とは羽振りが良いねぇ探偵部も」

 

「渡す物は渡したんだからとっとと寄越せ」

 

 強気の隼人に肩を竦めながらパソコンに繋がれたタブレットのパネルを操作した少女、佐々山は隼人が持っているデバイス宛にプロテクトを外したログデータを送信した。受信側に設定されていたスマートフォンの

バイブレーションが振動し、彼が取り出したタイミングでデータが開かれる。

 

 PDFデータで表示されたそれは隼人と『伯爵』が交戦した時の記録を時間毎の箇条書きで表示されており、『???』だった『伯爵』の所がプレイヤーネームであるらしい『デューク』に変わっていた。

 

「・・・よし、依頼は終わりだ」

 

「はいはーい、毎度~」

 

 立ち去る隼人の背中に飄々とした佐々山の言葉が掛けられ、理系棟を後にした隼人は生徒会へデータを提出すると部室に向かった。照合には時間がかかるがゲームキャラをキルするには必要の無い事だった。

 

 部室に到着した隼人は各々の事をしている各人にため息を漏らし、部長の字も眩しい立て札が飾られた事務机に向かうとカバンを下ろして長机二つ置いた会議スペースに移動、簡易ホロ装置にUSB接続で

スマートフォンを繋げた。

 

「おい、会議するぞ」

 

 若干不機嫌そうな隼人の声でものんびりしている全員は普段通りの速度で会議スペースに移動した。

 

「んで? 何話すんだよ」

 

「『伯爵』のプレイヤーキャラが分かった」

 

「あー、例のプロテクトの奴か。外してもらったんだな、それで、名前は?」

 

「『デューク』、俺が調査しようと思った最後の一人だ。経歴は二ヶ月前までグローブスティンガー所属、その後はアイランを拠点にフリーランサーとして活動していた。クラスはインファントリー、

使用回数から見るにライフルやグレネード(爆破物)の類は殆ど使用していない」

 

「なるほど・・・しかし、プロテクト無しでこれだけ情報が漏れるのか。末恐ろしいぜ」

 

 身震いする武に頷いた隼人はプロテクト解除のついでにと頼んでおいたライブラリーサイトの情報抜き出しで表示されている情報量に圧倒されると同時に寒気を感じていた。VRMMOであるBOOの戦闘において

最も重要なのはプレイヤーの情報だ。弱点や癖、攻撃傾向などあらゆる情報は精査すれば強力な武器になる。

 

「何にせよ、得物を丸裸にしたんだ。どう攻めるかを考えるぞ」

 

「セオリー通りなら不意打ちだけど・・・」

 

「相手はどこにいるかも分からない奴だ、不意打ちできるとは思えない」

 

「・・・だとすれば、どうするの?」

 

「狙撃が出来る環境に持ち込めればいいんだが・・・武、マップデータあるか?」

 

 隼人の問いに利也の隣に座っている武が共用コンピューターに保存していたマップデータを呼び出し、プロジェクターに出力する。表示されたマップデータにはアイラン周辺地域のマップが表示されていた。

 

 表示されたマップを見ていた隼人はアイランの西側にある遺跡エリアを凝視してポインターを手に取った。

 

「狙撃ポイントとしてはこの遺跡エリアだが・・・拡大できるか?」

 

「あいよ」

 

「ふむ・・・運営提供の立体マップによれば一番高い建物で200m相当、狙撃をするには十分な高さだ」

 

 ポインターで円を描いた隼人に武が頷くが、当の狙撃手である利也はポイントされた高層ビルを見て考え込んでいた。そんな彼を見ながら共有設定にされているマップデータを手元に置いているタブレットに表示させ、

同じ様に考え込んでいる夏輝を見た隼人はどうしたのだろうかと思った。

 

「どうした?」

 

「いや、この地形だと遠距離からの狙撃の方が有利だと思ってさ・・・ほら、エリアから離れた荒野の方が良いと思うんだけど」

 

「何でだ?」

 

「理由としては、距離的優位が確保しやすい事と成功率の上昇かな。正直この高さから撃つなら遠距離の方が当たり易いんだ、遺跡で戦闘をするならほぼ真下に銃口を向けなきゃいけなくなるからね」

 

「なるほどな」

 

 納得する隼人に頷いた利也に続く様に手を上げた夏輝はタブレットに書き込んでいた情報を武に頼んで同期してもらい、しっかりと書き込まれた図面がプロジェクターに出力される。

 

「夏輝、これは?」

 

「え、えっと利也君の狙撃能力を図面化した物です・・・バレットの有効射程および利也君の狙撃スキルから計算すると半径約1.5kmほどです」

 

「1.5km、荒野には十分に届くな・・・よし、利也の狙撃を含めて作戦を考える。第一案だが先ず俺に関する噂話を流してグループごと誘い出す」

 

「噂話で誘い出せるもの? 相手はネット掲示板を使っている様な人達なのに・・・」

 

「まあ、そこはほぼ推論だ。人の集まる所で情報収集しているのかも、と言う博打でな」

 

「はぁ、五十嵐君って意外と博打打ちですよね・・・。それで、第一案が成功した場合、どの様に立ち回るのですか?」

 

「この破片集中地域を中心に円形状に迫撃砲を設置、一斉射で数を減らす。ここで夏輝、お前は迫撃砲と武たち前衛メンバーを広範囲アクティブステルス術式で隠すんだ。砲撃後、爆煙に紛れ込ませながら

武達は突撃、この地域は風がよく吹くから爆煙が晴れるのは早いから利也の狙撃も早いタイミングで行われるだろう。頭数を更に削った後、乱戦に持ち込む手筈だ」

 

 隼人の立てた作戦プランを見て呆れている夏輝は同じ様に押し黙っている周囲を見るとタブレットに表示されたマップにそれらを書き込み始めた。

 

「つまり・・・1.噂話で誘い出す。2.予定ポイントで迫撃砲の砲撃。3.晴れた煙から見える敵の狙撃。4.残存戦力への強襲と、言う具合に進めるの?」

 

「そう言う事だ。迫撃砲はサクヤから既に借りる許可を貰っている。計七基、武と楓で四基を運び、残り三基を恋歌、コウ、加奈で運搬。設置して回ってくれ」

 

「ポイントをココとするならば・・・こう、かな。ここに設置して遠隔発砲装置を取り付ければ良い筈です。発砲権は?」

 

「夏輝に任せる。あと、装填弾種はエアバースト、低空炸裂に設定しておいてくれ。じゃあ、今夜。決行と行こうか、解散」

 

 そう問いかけた夏輝は無言で頷いた隼人に小さく頷き返し、タブレットのデータを武に送った。受け取った武は鼻歌交じりにBOO外部アクセス用のSNLラインで転送し、ケリュケイオン共用データフォルダに収めた。

 

 軽快な電子音と共に収められたデータに上機嫌の武がコンピューターを閉じる。それを合図に解散の号令を出した隼人はわらわらと帰り支度を始めた彼らに混じってカバンを取りに行った。

 

「はーやとっ、一緒に帰ろ?」

 

「ああ、帰るか。っと、家に電話しないと」

 

「BOOの事?」

 

「ああ。一応言ってからやらないと家族に怒られる」

 

「面倒ねぇ・・・じゃあ、尚更早く帰らなきゃね」

 

 えへへ、と笑う恋歌に顔を赤くして応じた隼人は武たちに退出を促すと部室の鍵を手に取った。全員の退出を確認した隼人はドアを施錠すると職員室に移動する。

 

 鍵に通されたボールチェーンに指を通して回す彼の隣をちょこちょこと歩く恋歌はその背後を付いてくる武達の方を見るとニヤニヤと笑う武と楓を睨みつけた。

 

「・・・何してんだお前」

 

「にゃあっ?!」

 

「武と楓は無視しろ・・いない者として考えるんだ」

 

 白けた目をしている隼人に頷いた恋歌は地獄耳の二人の突撃を受けて悲鳴を上げそうになったが突撃を看破していた隼人の手に引かれて難なく回避し、勢いそのままに飛んでいく二人を流した。

 

 無言のままその場に置かれた恋歌は武と楓の方に移動した隼人が彼らにチョップを叩き込んでいる様を見て怒っているのか、と内心ヒヤヒヤしていたが彼らがヘラヘラ笑っているのに

怒っていないと判断して隼人の傍に近づいた。

 

 そんな彼らのやり取りを遠巻きに見ていた利也はため息一つを落とすと隼人から鍵を受け取り、先に職員室に向かって鍵を返却しに行った。要件を済ませて帰って来た彼は窓から隼人の妹が入ってくるのを

目撃して何かを噴出していた。

 

「何してんの?!」

 

「あ、利兄。何って普通に兄ちゃんと話してんだけど」

 

「はぁ・・・これでも普通なのかい?」

 

 溜め息をつき、落ち着きを取り戻した利也はいたずらが成功した子供の様な目をしている秋穂が校舎の屋根に足を掛けたのに疑問を浮かべるがその直後に彼女は木の上に飛び乗り、器用に降りていく様を見て

胸を撫で下ろすと手を振って友人らしい少女と共に帰っていく彼女を窓越しに見送った。

 

「秋穂ちゃん流石だね・・・」

 

 ダンスやってる以上の運動神経を見せる秋穂に呆れ半分の呟きを漏らす利也は負けず劣らずの身体能力を持つ隼人や浩太郎に視線を向けた。

 

「アイツ、建造物の上り方はコウから教わったって言ってたな・・・どうなんだ、コウ」

 

「まあ、基本を教えたのは確かだけどあくまでも公園を縦横無尽に駆け回るだけの技術だから」

 

「基本でも教えた時点でアウトだと思うぞ、俺は」

 

「それは、お兄ちゃんとしての意見?」

 

「まあ、そうだな・・・」

 

 そう思うと恥ずかしさが込み上げてくる隼人にニヤニヤと笑う浩太郎は一連の会話を疑う武達に見せ付ける様にして階段の踊り場から身を回しながら跳躍して一階に降りて見せた。戦闘用途に限らなければ

身体能力随一の利也はカバンを投げると身軽な動きでバク転、着地と同時にカバンをキャッチした。

 

「どう?」

 

「どうって言われても見慣れてるからよ・・・」

 

「あはは。ま、そうだよね」

 

「見慣れてるついでで聞くがそのアクロバット、どうやったら出来るんだよ」

 

「こればっかりはもう馴れって言うしかないかなぁ・・・」

 

 あはは、と笑う浩太郎に苦笑を返した隼人はあんなアクロバットが出来るのは恋歌や秋穂ぐらいだろうと思いながら下駄箱で靴を履き替えた。隼人は元々器械体操が苦手でアクロバットは無論出来ない。

 

 相談してみれば筋肉の作りが違いすぎると道場に通っていた頃、道場に勤務しているスポーツトレーナーに笑われた。恋歌や秋穂、浩太郎は柔軟な筋肉を持っているが自分はがっしりとした筋肉を持っており、

対衝撃性が強いので格闘技やぶつかり合いをしても耐えられるがその代わりに柔軟性に欠ける。

 

 体に掛かる負荷のステータスが無いBOOではそれらの違いがゲームとして現れる訳ではないが現実での身体感覚が引き継がれるそれではどうしても普段している体の使い方が現れてしまう。

 

 何かしらの事柄が現実で出来なければBOOでも出来ない。これはゲームでの常識であり、一般的な常識である。逆を言えばBOOで出来る事は現実でも出来ると言う事だ。

 

(そう・・・人を殺す事もな)

 

 心の中でそう呟いた彼は数ヶ月前に経験したある事柄を思い出していた。居合わせた場所が血に塗れた瞬間、自分はゲームの世界にいるのではないのかと錯覚し自分もその一人となりかけていた。

 

 執拗なPKが引き起こした事件、不幸な事件とも防げた事件とも言えないそれは敢え無く闇の中に葬り去られた。そう、自分が犯人を半殺しにした事実ですら。

 

「おい、隼人?」

 

「ん?」

 

「何ボーっとしてんだよ、早く帰ろうぜ」

 

「ああ、そうだな」

 

「ようし、そうと決まりゃさっさと帰るぞ!」

 

 全力疾走の武に呆れ半分の隼人は走り去る彼に追従した楓の背を見ながら赤と黒のツートンで彩られたリュックサックを背負って残る六人と一緒に帰った。

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