B.O.O.《ブラストオフ・オンライン》   作:Sence023

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Blast4-2

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 午後八時―――BOO:双葉高校サーバー:アイラン郊外・廃ビル密集区域

 

 攻撃作戦の第一段階として隼人のいる荒野エリアに敵が到着したのをはるか遠くから見ていた一組の男女がいた。廃棄された事務机に設置した観測用スコープを構える観測手とその隣、会議用の長机の上でバイポットを立てた対物狙撃銃、バレット・M107A1を匍匐姿勢で構える狙撃手は夏輝と利也で、彼女らは今遠くからの観察で攻撃タイミングを計っていた。

 

 半円を描く様に設置された迫撃砲のコントローラーを手にスコープを覗き込む夏輝は隼人との距離を徐々に詰めていく敵を見ていた。短機関銃の有効射程距離に入る前に一斉砲撃させる様に言われていた彼女は個別砲撃を指示するタブレット型の端末を操作しつつ、隼人以外の前線組にかけたステルス術式の維持時間を見ていた。

 

(残り67秒・・・)

 

 長くは持たない時間だが文句を言っていられない。ステルス術式の射程距離は使用者の認識可能な範囲に準拠している。今、対象者達は幾多にも設置された岩に隠れてその姿を晦ませている。

 

 相手に居場所を悟らせない為でもあるがそのせいで彼女もその姿を認識する事が出来ずにいた。故に術の重ねがけが出来ず切れたらそこで御終いだ。その前に、発砲させる。

 

「ナツキ、ブラスト」

 

 砲撃を意味する符号呼称と同時に1番と6番を先に発砲させ、その砲弾が気を引いた瞬間に残る砲筒から砲弾を放つ。爆発のエフェクトと共に数名がログアウトしたのを確認、タイマーが術の解除を知らせ、同時、IFFで識別された味方の反応が爆心地へと移動し始める。

 

 煙が晴れる予想時間は炸裂から30秒後、体内感覚で三十秒を数えた彼女は観測用スコープを覗き込んで優先的な射撃点をスポット、連動してファンシアと呼ばれるゲーム内の端末が表示する生体連動式擬似HMDにスポットされた敵に向けての射線が夏輝の視界に映る。

 

 無論相手にそれは見えていない。見えるのは味方として登録している夏輝達だけで、プレイヤーの任意でこの機能のオンオフは出来る。この機能はコミュニケーションを取れない特殊環境のプレイヤー同士での誤射防止及び連携精度の向上を目的とした物で、有効範囲は無制限だ。

 

「距離、1.5キロ。無風状態」

 

 観測したデータを報告する夏輝は射線が少しずつ動いていくのを確認、煙が晴れると同時腹に響く様な銃声を発したバレットが12.7mmのライフル弾を射出する。スコープの中で頭部を爆ぜさせたそれを見届けた彼女は

命中と、機械的に呟いてスコープの中に映る雑兵をスポットした。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 夏輝達から約1.5キロの地点、煙が晴れた瞬間の狙撃で大慌ての相手に向けて突撃した隼人達は続々と打ち抜かれるハンターナイトの傍を抜けながら後ろで待機していた攻撃職達の方に突貫していく。防御力が高く強固なハンターナイトを壁役に自分達の攻撃を凌ごうとしていたのだろう彼らが慌てる様にニヤリと笑った。

 

 盾役のハンターナイトが持つシールドは確かに強力だがそれ一つでどうにかなるかと言われればそうではない。防御ステータスの高いシールドでも貫通力の高い攻撃は防げない。利也が使っている対物狙撃銃や対戦車ロケット砲がそうだ。

 

 あらかじめ壁役が来る事は読めていたのでバレットの使用を求めた隼人は接近する女人狼武者の攻撃をアッパープレートで受け流すと右のジャブで顎を穿ち、脳震盪を起こした武者の体が揺らめく。腹を蹴り上げた隼人は倒れ込んだ武者の胸にストンプを落とし、退場させた。

 

 直後、背後から組み付かれた彼は顔の横に現れた銃口に反応して拳銃を握る腕を引っ張って前に向けさせる。そして、地面に投げ飛ばした彼は倒れた先で拳銃を構えていたデュークに目を見開き、連射された拳銃を回避した。

 

 咄嗟の回避でバランスを崩し、倒れた彼へいつの間にか接近していた男エルフのフォーサーがショットガンタイプのガンブレードを構えていた。やられる。そう思った直後、フォーサーの胸部に恋歌の飛び蹴りが突き刺さり、薙ぎ倒された彼の体が引き摺られた様に地面を滑っていく。

 

 その反動で跳躍した彼女は起き上がったデュークにHK45拳銃を構えて発砲する。ワンアクション遅れた動作に反応が間に合ったデュークは難なくそれを回避して拳銃を構える。だが、それよりも早く起き上がった隼人がタックルでそれを阻止。

 

 向けられた拳銃を裏拳で弾き飛ばし、拳を振り下ろした彼は打ち下ろしのストレートを回避され、背後にいた人狼族のインファイターにマウントから剥がされて投げられる。

 

 地面を転がった隼人は接近するインファイターに反応しようとした恋歌が、別で接近した女人狼タオシーの華麗な槍捌きによって追い散らされる。

 

 その奥で逃走するデュークの姿があった。拳を下ろそうとしたインファイターを蹴り飛ばした隼人は起き上がって追おうとするも炎属性の気孔術で牽制したタオシーによって阻まれ、種族特性でブーストされた速度で接近するインファイターに捕捉され、デュークの追撃を諦めた。

 

 叩き付けられた拳を捌き、カウンターを入れた隼人はカバーに入ってきたタオシーの槍を回避すると柄を掴み、振り回そうとするが人狼の筋力によってそれを阻まれてしまい逆に引き摺られていた。

 

 介入しようとした恋歌は気孔術で牽制され、その間に挟撃しに来たインファントリーが隼人の背後から拳を振りかざしてくる。

 

 後頭部狙いの一撃。不味いと思った隼人だったが槍を放す訳にも行かなかった。拳が直撃する瞬間インファントリーの体が真横に吹っ飛び、追撃のショットガンが倒れた体を滅多打ちにする。

 

 それを確認するより早く、槍を動かしてタオシーへの射線を確保した隼人はショットガンを下ろした武のライフルタイプガンブレードの発砲音を聞いた。

 

 だが、そう簡単にやられる訳が無く、槍を手放したタオシーは隼人に足払いを掛けて槍を奪うと鋭い突きで武のショットガンを弾いた。あらぬ方向へ飛んでいくそれも見ずに、ガンブレードを縦に振るった武は受け流された刃を切り返そうとしたが穂先で押さえ込まれた。

 

 その背後から飛び出した恋歌は素早い動きで回避したタオシーに目を見開き、飛び膝蹴りの体勢のまま武とかち合った。

 

 自滅した二人を他所にタオシーに飛び掛った隼人は着地と同時に打ち込まれたライフル弾にバックステップし、視線を横に向けるとM4カービンを構えたインファントリがいた。

 

 ライフル弾の射撃を受けて物陰に隠れた隼人は夏輝と通信を繋げた。

 

「ナツキ! 敵の数を教えろ! 大体で良い!」

 

『約二十人前後、リーヤ君の狙撃でだいぶ数は減らしてるけど・・・』

 

「くそ、そんな数だったのか・・・!」

 

 切り抜けて追おうにも追いかけられる距離では無かった。秘策も用意していたと言うのに二十人近いプレイヤーがいるとなれば必ずどこかで包囲されるのがオチだ。

 

 だったらここで戦力を削るのがベターだと断じた彼は、チャットに指示を書き込むとインファントリに向けて石を投げつけた。

 

 目前に現れた石に驚愕しているらしいインファントリの動きを見ていた隼人は真横から現れた男半猫の忍者に驚愕し、飛び蹴りで阻まれた。転がった彼は眼前に向けられた拳銃を回避して蹴りを放つ。

 

「ショートカット『ストライクキック』!!」

 

 振り上げられた足にスキルの強化効果が纏われるが直前で跳躍回避され、空振りに終わった。その隙を狙ってインファントリが銃を構え、ガンブレードを構えた武がライフルを連射してそれを阻む。ライフルに追い散らされたインファントリは合流しに来た楓の一閃を背後に受け、始末された。

 

 隼人と合流し、片手に構えた刀を回転させた楓は回転した刀に触れた女リッパーの剣をそれで弾くと一瞬フリーになった刀の柄を掴んで回転斬りを放った。剣の軌道から逃れた彼女は背後からの一刺しで即死させられた。

 

 消滅した死体から現れたのは大振りのコンバットナイフを手にした浩太郎でその傍らには加奈の姿もあった。図らずも戦況の悪化により全員が一箇所に集まる状況になってしまい、囲まれた彼らは背中合わせで集結しつつ、それぞれの得物を構えた。

 

「おいおい、どうすんだよリーダー」

 

「決まっているだろう、殲滅だ」

 

「よく言うぜ、二桁は確実なのによ!!」

 

「いつも通りだ、やって見せろ」

 

「はいよ、リーダー!!」

 

 武と隼人の軽口を合図に飛び出した彼らは一方向に雪崩れ込み、その方向にいるプレイヤーを薙ぎ倒すと追ってくるプレイヤーを相手取った。飛び蹴りで距離を詰めた隼人は着地と同時に正面にいるインファントリを殴り飛ばし、挑みかかって来たハンターナイトの一閃を受け止める。

 

 大振りの大剣を白羽取りで受け止めた隼人はそれを真横に投げるとフックで顔面を殴り、前ロールで切り返しを防ぐとそのまま半回転をかけながらのバックステップで彼に背を向けて他のプレイヤーに挑みかかった。

 

「舐めやがって!!」

 

 大剣を構え直し、隼人の方に走り出したハンターナイトは風切り音を背後に聞いた。何の音だ、と振り返った彼の目に飛び込んだのは踵部分にパイルバンカーが備えられた鉄製のブーツだった。

 

「ッ?!」

 

 発砲音と同時、突き抜ける様な衝撃を体に受け、吹っ飛んだハンターナイトは背後で待機していた仲間を巻き込んでそのまま消滅した。空中で姿勢を制御して着地した恋歌は次々に撃ち込まれる拳銃弾をバク転で回避すると通常の剣とガンブレードの二刀流で立ち回る武にその場を任せた。

 

 短機関銃で弾幕を張るインファントリをガンブレードで牽制した武は接近する忍者二人からの一撃離脱斬戟を右手に構えた片手剣で防ぐ。押し込みに掛かった忍者からの刃をガンブレードで受け止める。その間にフリーになった片手剣にスキル効果を纏わせて横薙ぎに振り抜く。

 

「邪魔だオラァ!!」

 

 片手剣の初級スキル『アバランストブレイク』を纏わせた刃で忍者を薙ぎ払った武はガンブレードに炎を纏わせ、接近してきたファイターを切り裂くと強化スキル『バレットエンチャント』を発動させてファイターを滅多撃ちにした。

 

「一丁上がりッと! 危ねえな」

 

 背後から接近するファイターの一閃を剣で受けた武は反転しながら二刀で斬ると背後をカバーした楓に視線を向けた。一刀でファイターの剣を弾いた楓は斬り返すとゆっくりと構えを直し、ファイターに歩み寄る。時代劇によくある残心の動き、熱しやすい彼女が使っているのは珍しい事だった。

 

 ファイターの刃を受けながら楓の方を見た武は楓の手元に浮かぶウィンドウに気が付いていた。なるほどな、と笑った彼は押さえ込んでいた刃を放してかち上げるとファイターを滅多切りにして蹴り飛ばした。

 

 そして、楓の方を振り返ってウィンドウ操作で武装を転送させていく。マジックバックの容量を圧迫してしまえば武器を収める事は出来なくは無いのでおそらくそこから取り出しているのだろう。ボックスからの転送だと余計な金が掛かる。

 

 転送され、次第に腰へ現れる刀。ワイヤーフレームから実物と変わらぬ姿に変わるそれは豪奢な飾り紐に彩られながらも艶やかな漆塗りの鞘から立ち上るワインレッドのオーラが非常の物であると指し示していた。現出と同時現れたウィンドウには禍々しい得物の銘が記されていた。

 

「妖刀『威綱』・・・だと?!」

 

 ケリュケイオンが保有する唯一の魔剣クラス武装。去年暇つぶしに行った大規模クエストで最後に止めを刺した隼人がドロップしたものだ。拳以外の武装を扱う意味が無かった彼がいらないと言って楓に譲った代物で、付加されている特殊効果に防御貫通があり、シールドでの防御をすり抜け尚且つ防具の防御能力を無視してダメージを算出するという、いわば防御殺し(ディフェンスキラー)の武器だった。

 

 無論そう言った能力に圧迫されて『威綱』その物にはそれ以上の追加効果は無いが、予め持っていた刀『ムラサメマル』には所有者の攻撃力強化があり、それと合わせて装備する事によって強化された攻撃を防御無視で叩き込める様になっている。それも、二刀流でだ。

 

「に、二刀流・・・?!」

 

 両手に構えられた刀の煌きを恐れる様に呟いた女ファイターはゆらりと刀を揺らした楓に剣を向ける。対する彼女は横にした刀をそれぞれ上下に構え、下になったムラサメマルの切っ先をファイターに向ける。深呼吸した彼女の動きを緩やかでその目は確実に彼女の体を捉えていた。

 

 攻防一体の構え方、まともな剣道経験者ならほぼやらないであろう二刀流の構え方は元は演舞用のものだ。全てを攻撃に転用できる訳ではないが構えがあるのは楓にとってはありがたい事だった。構えを中心に攻撃を行うのが楓の基本スタンスであり、それが無いとなれば攻撃を組み立てる事が難しくなってしまう。

 

 それはさて置き、ファイターとの距離を徐々に詰める楓は攻めかかったファイターの剣を左の威綱で受け流すと懐に潜り込ませた右のムラサメマルで腹を切り裂く。痛みに反応して後退したファイターに向けて左の刀でスキルを発動させた楓は刀系スキル『斬捨』のエフェクトを纏った一撃を食らわせた。

 

 防御貫通の効果もあいまって一撃必殺となったそれは容易くファイターの豊富なHPを刈り取っていた。ニヤリと笑った楓は両腕を翼の様に広げて両側から攻めてきた刀を受け止めるとそれを弾き飛ばし、両の刀から炎属性の回転切りを放つ。

 

「独流剣技『焔旋風』!!」

 

 その名の通りに旋風を巻き起こした焔に切り裂かれたハンターナイトに驚愕した武は中に散る火の粉の中に立つ楓に目を奪われた。直後、迫り来る炎属性の単体攻撃魔法『フレイム』を切り裂いた彼女は至近で炸裂した切断体に驚いていた。

 

「ぬわあああ、ビックリしたぁ! 何で爆発するのぉ!?」

 

『炎系なんだから当たり前です!!』

 

「って、アレ? もしかして今魔法ぶった切っちゃった?」

 

『自覚無しですか!?』

 

「だーって、身の危険感じたらつい手が出たんだもん」

 

 えへへーと笑う楓にため息を返した夏輝の通信帯から電子音声が響き、直後に対物用ライフル弾が詠唱段階に入っていたウィザードを撃ち抜く。ライフル弾が伴わせた衝撃波で周囲で待機していたインファントリもまとめて吹き飛ばされる。

 

 まぐれだと判断し、魔法の切断をさせまいと遠距離職を優先的にスポットした夏輝は割り込んできた通信を開くと個別で受けた。

 

「はい、ケリュケイオンのナツキです」

 

『お、繋がったか。こちら、アイラン首都警備隊だ。お前さん方が探してる奴がこっちに来そうになったから門閉めて牽制射撃中、奴さん移動の足は無いみたいだから今走ってくれば間に合うぞ』

 

「本当ですか!? 分かりました、向かわせます!」

 

『おいおい、それは良いが戦闘中だろう。大丈夫か? 二名でも良いぞ、そっちの・・・リーダーとその彼女で』

 

「分かりました。じゃあ二人を向かわせますね」

 

 そう言って通信を切った夏輝は通信を切り替えてケリュケイオン全員と繋ぐと先ほどの事を伝え、隼人に作戦プランの変更を進言した。

 

『了解よ、ハヤト。さっさとぶちのめすわよ!』

 

『ま、待てレンレン。俺達が抜けると前衛四人で戦わなきゃいけないんだぞ』

 

『任せろって、幸い数が少なくなってるし後は俺達だけでも何とかなるよ』

 

『だから早く行くんだ。その分僕等も早く動ける』

 

『分かった、頼んだぞ』

 

 そう言って通信を切った隼人と恋歌のシグナルが離れていくのを確認した夏輝は残る面々に指示を出し始める。指揮官である夏輝は取り出したファンシアのディスプレイに表示されているマップを見て作戦を考案、

その間にも戦闘は続いており、傍らで匍匐姿勢で狙撃を続ける利也が並べたマガジンから通算10個目を手に取った。

 

「開けたエリアだと、こっちは不利・・・狙撃で数は減らしているけれど、全てを補えるわけじゃない・・・」

 

 精神力を使う狙撃は一撃で仕留めるのが普通であり、何度も撃っていると精神疲労が重なってしまう。利也の狙撃は有用だが頼りっきりに出来る訳ではない。だとすれば、前衛の運用法を変えて使うしかない。

 

「前衛は楓ちゃんを攻撃の中心に。アサシン二人は隙有らば暗殺で頭数を引いてください。武君はガンブレードとサブマシンガンを装備して皆の援護を。後で全員にオフェンシブアッパーを掛けますね」

 

『了解!』

 

 全員の返答を合図に作戦が変わった。すかさず通信を切って射撃を続ける利也の肩にタップサインを送ると一気に息を吐いた彼を休憩させ、精神的な疲労を抜いている彼を前に作戦の変更を通達した。

 

 ファンシアのディスプレイに表示させたマップを操作しながら説明する彼女は敢えて直撃させずに遠距離職がいる地点を集中砲火させる作戦を考案、バレットが持つ凄まじい衝撃波で吹き飛ばして打撃を与える魂胆だ。

 

「何なら、スキル使おうか。アレなら確実性が増すと思うし」

 

「『フェンリルキャノン』ですか・・・?」

 

「そ。本当は『伯爵』を前衛が倒せなかった時の奥の手だったんだけど。ほら、ハヤト君達が追っちゃったからさ、もういっそここで使おうかと思って」

 

「了解、でもそうなったら六倍足す六倍足す三倍でとんでもない数値を叩き出しちゃうね」

 

「そうだね」

 

 そう言って笑っている利也は一度深呼吸してから匍匐姿勢になるとバレットのスコープを覗き込んだ。スコープに写り込むウィザードやマジックサポーター、ランチャーを携えたインファントリにマークスマンライフルを装備したスナイパーを見回した彼はもう一度深呼吸するとカッと目を見開いた。

 

「ショートカット『フェンリルキャノン』!」

 

 殺那、紫色のエフェクトがバレットを包み込み、それが獣の姿を取ったのも一瞬の事ですかさず引き金を引いた彼はスコープに写る遠距離職の間を射撃した。

 

 唸る風を伴って直進した弾丸は視線を巡らせたプレイヤーのボディを無惨に引き裂き、ポリゴンフレームに分解して消滅させた。強化系アクティブスキル『フェンリルキャノン』、射撃した弾丸の威力を6倍し即死効果を付与するそれを使った射撃で次々に葬っていく利也は前衛の最前列を張る楓を視界に入れて射撃の手を止めた。

 

 対物狙撃銃は誤射が怖い。今の状況では掠っただけでも即死する。スコープに写る楓は二刀を振り回しての大立ち回りを演じていた。その楓は一度に三人を相手に取り、同時に攻めかかる二人の忍者の一撃を弾くと

正面から斬りかかって来たリッパーの双大剣を刀で流し、蹴りで吹っ飛ばす。

 

 アサシンから発展したリッパーは両手武器を二刀流で扱う事が出来、その一撃は必殺を誇るがその分攻撃の隙は大きい。質量の大きい大剣を刀で受けると薄く細い刀は細枝の如くへし折れてしまうが楓は持ち前のセンスで持ってやすやすとそれを捌いて見せた。

 

 双の刀を並列にしてリッパーを切り裂いた楓は、側面にいた忍者が作動音と共に引き抜いたM92FS拳銃を至近で回避。左腕を巻き付ける様な体制でタックルを叩き込む。首筋に当てられそうになっていた厚刃の短刀を柄で弾いた彼女は背後を武に任せると忍者にスキルを叩き込んだ。

 

「ショートカット『天斬』ッ!!」

 

 交差させる様に繰り出した一撃に引き寄せられる様にして切り裂かれた忍者の消滅を壁にして突撃した楓は待ち構えていたインファントリの一閃を回避するとすれ違いざまに斬撃する。素の攻撃力ですら驚異的な楓は、当然マークされるがそれをさせまいと武がMP7サブマシンガンとガンブレードで牽制する。

 

 武は自分が選択した種族である龍人族の行動速度ステータス成長値の低さ故、移動速度が遅く楓に付いて行くので精一杯だった。対し、素早さと攻撃力に特化した人狼族特有のステータスを持つ楓は突風を伴うほどの速度で駆け抜けてはすれ違う者を切り裂いていた。

 

 超高速通り魔となっていた楓だったがそれにも限度があった。激しく動く彼女のステータスを開いた武はズラリと羅列されたパラメーターの中で見る見るうちに減っていく数値の項目を見た武は自身の目前で足を縺れさせ、倒れた彼女を遮蔽物に押しやるとMP7で牽制しながらマジックバックから取り出した携帯食料を楓に渡した。

 

「おー、さんきゅー・・・タケちゃん」

 

「バカ野郎、行動資源値くらい確認しとけ!」

 

「えへへーゴメンゴメン」

 

「お前、枯渇寸前だからあんまり動けないんだろ。後は任せろ」

 

「うん、お願い」

 

 荒く息をつく楓の言葉に頷いた武は残弾数一桁のMP7のマガジンを排出して新たなマガジンを装填する。同じく残り少ないライフルタイプのガンブレードを腰のマウントラッチに装着させた武はMP7のグリップとストックを引き出すと周囲を警戒した後、楓を抱えて移動を始めた。

 

「コウ、カナ! 相手はどの位いる!?」

 

『多くても10人くらい、カエデは?』

 

「行動資源値低下でダウンだ」

 

『前衛は三人に・・・不味いね、狙撃支援があるとは言えど流石にこの人数じゃ・・・』

 

「それでもやるぞ、俺はMP7とガンブレードがある。俺がカエデを守りつつ囮になるからお前らはそいつ等を背後から叩け」

 

 了解、と帰ってきた通信を切った武はMP7を構えて遮蔽物に張り付き、楓の様子を見ながら向こう側を覗き込んだ。夏輝のスポットデータと浩太郎たちの偵察データを同期したファンシアが遮蔽物の向こうに隠れているらしい敵をシルエットとして捕捉する。

 

 だが、貫通力に乏しいMP7では厚いコンクリートを撃ち抜く事は出来ない。射撃するとすれば利也の対物ライフルだが夏輝から転送されたインフォメーション通りなら残弾数が少ない為、撃つ事は出来ても多くを狙えない。

 

 その事を頭に入れつつ、通信を開いた彼は発砲してきた相手側に舌打ちしつつ繋がった利也にスポット番号を用いて発砲指示を出した。直後、音速で飛んできた銃弾によってチャンスを得た武は大量の4.6mm弾をばら撒くと予め取り出していたコンカッショングレネードとフラッシュグレネードを投擲した。

 

「ゴー・アサルトッ!!」

 

 独自の突撃符号を叫んだ武に呼応してコンカッション、フラッシュによって一時的な行動不能状態に陥ったプレイヤー達に向け突撃した浩太郎と加奈は同士討ちリスクそっちのけで連射するインファントリの射撃を掻い潜りつつ、M249軽機関銃を暴れさせるインファントリの喉元にダガーナイフを投擲した。

 

 急所を突かれて一撃死したインファントリの消滅を確認する間も無くクリス・ヴェクターサブマシンガンを構えた加奈と入れ替わった浩太郎は次に見定めたプレイヤーへ飛び掛る。

 

 シールドを持っていない前衛攻撃型ハンターナイトの上方を取った浩太郎はその手にプッシュダガーナイフを引き抜くと喉元へ突き刺し、払い切る。

 

 飛び散ったデジタルの血液がプッシュダガーに血の色を付け、血払いの動きと共に刃を指で挟んだ彼は復帰が早かった女半狐族のマジックサポーター目掛けてそれを投擲、突き刺さった痛覚で行動が出来ない彼女へ加奈が追撃を掛ける。

 

 ここまでで三人、続くインファントリ二人はコンカッションの爆圧こそ食らっていてもフラッシュを食らうまいと直前にガードしていた為、失明効果が無かった。二人の内、一人はSCAR-L突撃銃を構えて加奈を射撃しようとしており、もう一人もスコーピオンEVO3短機関銃を加奈に向けていた。

 

 集中砲火で仕留める手筈なのだろう彼らだったが直前に飛び込んできた12.7mmの対物弾に脳漿を吹き飛ばされた事で瞬く間にキルされた。壁を足場に跳躍した浩太郎は射撃支援を行った利也に感謝しつつ、ジグザグに敵の間を進む。

 

 前方は武が詰めている。バックアップは利也と夏輝、逃げようとすればMP7の餌食、立ち止まれば対物弾の的。そして後方へ進めば暗殺者達が待っている。程度良く袋の鼠となったPKグループ達は側面の狙撃と浩太郎達の暗殺によって瞬く間にその数を減らしていく。

 

「くそ、攻撃だ! 敵の頭数を減らせ! サブマシンガンを持ったアサシンを狙うんだ!!」

 

 そう叫んだハンターナイトは大剣を振りかざして加奈を狙おうとするが大剣を狙った狙撃で剣の腹をぶち抜かれ、得物を吹っ飛ばされる。

 

 それにチャンスを掴んだ加奈が至近距離でヴェクターの全弾を叩き込むが、それでもHPの半分しか削れず、苦い表情を浮かべた彼女はまだ息のある相手が動き出す前に残弾の無いヴェクターを右に持ち替え、空いた左に逆手でダガーを引き抜くと振り払いの動きでハンターナイトの腕を刺す。

 

 だが、体力、防御力に優れるハンターナイトが致命箇所ではない腕を刺された位でやられる訳が無く、痛覚を感じつつもそのまま行動を続けようとしたハンターナイトは、攻撃力の低さからノーマークだった浩太郎が腰から苦内を引き抜いているのに気付き、頭上を飛び越えながら投擲姿勢に入った彼を目で追った直後、即死効果のある毒が塗られたそれが額に突き立てられた。

 

 新たな苦内を抜いた浩太郎は、サバイバルナイフに近い苦内を手馴れた動きで構えると物陰に隠れて携行性重視のマット加工がなされたウェストバック型マジックバックからサプレッサーを取り出した。奇襲性を増させる為、銃口に装着した彼は高レベルのスキルを用いて光学迷彩を展開、壁と一体化して加奈狙いのプレイヤーを素通りさせた。

 

 かなりレベルの高いスキャニングスキルを持っていないと探知されない高レベルの光学迷彩で隠された浩太郎の傍を通り過ぎたフォーサーとインファントリは歩調を速めてヴェクターをリロードしている加奈を追いかけている。

 

 インファントリは主兵装にM249軽機関銃を装備しており、防御力の低い加奈が正面から立ち向かうとアサルトライフル並みの攻撃力と100発と言う射撃継続能力をもって、いとも容易くキルされてしまう。だからと言ってフォーサーも放置しておくと素早い連撃を叩き込まれて厄介だ。

 

「女アサシン優先で見つけ次第即射撃だ」

 

 加奈を狙うつもりらしい彼らは物陰に隠れながらそう言ったが浩太郎からしてみれば自分に背を向けている間抜けな光景でしかなかった。拳銃を構えた彼は第一目標に設定したインファントリの頭を撃ち抜き、動揺したフォーサーに近付いて口を押さえつつ、苦内を喉に突き刺した。

 

 くぐもった断末魔を上げたフォーサーの姿がエフェクトと共に消え、一息ついた浩太郎は周囲の敵の数をスキャンスキルで計って味方以外いないと知るやサプレッサーを外したMk23自動拳銃をホルスターに収めた。

 

「クリア」

 

 そう呟いた浩太郎に呼応して全員から安堵の息が漏れていた。後は、とアイランの城壁へ目を向けた彼は装備の確認を済ませるとその付近で繰り広げられている激闘の様子を見に向かった。

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