B.O.O.《ブラストオフ・オンライン》 作:Sence023
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16:30/双葉市南区団地
住宅街の中でも一等地と呼ばれるこの地域の片隅に目を引くほどに立派な一軒家があった。白い壁も眩しいその家の二階、個室としてはかなりの広さを誇る薄暗い部屋に一人の少年が引きこもっていた。
床に散乱したゴミがモニターの光を反射して不気味さを増していた。そして、モニターの明かりが少年のシルエットを浮かび上がらせ、薄気味の悪い笑みを浮かべる彼の表情を照らしていた。
「幸ちゃん、お友達よー」
「え?」
ドアを挟んで聞こえる母親の声に少年の顔から笑みが消えた。自分に友達などいない、なのに何でそう言う事を言うのだろうか。三カ月立ってもなおその事を理解しようとしない馬鹿な親に閉口しながらも
愛想を繕って何とか返した少年、山岸幸助は母親を騙したらしい卑劣漢がドアの前に立ったのを感じ取った。
「誰だ、君は」
そう問いかける。また何時もの通り、無理やり連れ戻すような事でも言われるのだろうと思っていた彼は次の瞬間、全身を凍りつかせた。
「お前が、デュークだな」
「え・・・?」
「お前をデジタル運用マナー法に基づいて拘束する」
「お前、高校生だろ?! そんな権限無いはずだ!」
「お前を拘束したら後は警察がくるんだよ馬鹿が。クソ、カギを掛けるな!」
そう言って開かないドアを揺さぶった隼人に焦った幸助は通販で購入したコンバットナイフとガスを充填した『M1911』モデルのガスガンを手に取ると破壊しようにも破壊できない隼人に呼びかけた。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
「早くしろ!」
臨戦態勢にあるとは知らず幸助に催促の声を上げながら、ドアから離れた隼人は勢い良く開いたドアに殴られよろけた刹那に彼の射撃を受けた。腹部に三発受けた隼人は殴られるより酷い痛みに苦悶の声を上げたが
それでナイフを受ける力が弱まった訳ではなかった。
ナイフを持つ手を掴んだ隼人はそのまま壁に叩き付けようとしたがその前に向けられた銃口に反応して幸助を真横に向けて殴り飛ばした。その勢いで螺旋型の階段を転がり落ちた彼は追ってくる隼人から逃げると
曲がり角に隠れ、追ってきた隼人の足に五発打ち込んでバランスを崩させた。
「クソッ!」
毒突きながら倒れた隼人に乗っかった幸助はナイフで刺し殺そうとして母親に見つかった。信じられない光景を見たかのような表情に苛立った彼はその一瞬に体勢を立て直した隼人のアッパーで脳を揺らされ、
倒れながらも銃を照準した。
「いい加減にしやがれッ!!」
銃の側面を蹴り、彼方へ飛ばした隼人は返すナイフを叩き落として武装を解除させた。だが、幸助にはまだ武器があった。生身に攻撃してこない隼人を他所にリビングに走った彼はガンロッカーから『M870』ショットガンと
スラッグリムを取り出し、装填して構えた。
そのタイミングでリビングに入った隼人はいきなり放たれたスラッグを滑り込みで回避して、ソファーに隠れると悲鳴を上げる幸助の母親を他所に投げれる物を周囲に探した。手頃な野球ボールを手に取った隼人は
倒れこむ様な投球フォームでボールを投げるが直前の射撃で手元が狂い、ボールは彼方へ飛んで行った。
「ハハハッ。お前が、お前達が俺に何しようと無駄だ! もう計画は動いている! 楽園が成就され、貴様らクズが俺達に淘汰される日は近いんだからな!! 今更・・・何したって無駄なんだよ!!」
嘲笑を含んだ言葉。それを聞いた瞬間、何かが切れた隼人は壁にしていたソファーの下に手を突っ込んで投げ飛ばし、ショットガンの連射が貫通する中回転するソファーの真下を潜り抜けた隼人は背凭れを掴んで幸助にぶつけようとしたが
ショットガンの発砲がそれを砕いて阻害する。
だが、それでも隼人は止まらず一気に距離を詰めた彼は幸助の顔面に向けて打ち下ろしの軌道に乗せたフックをぶち込んだ。
「い、いやああああああ!!」
絹を裂く様な母親の悲鳴が響き渡り、バウンドした幸助の体から力が抜けて手放されたショットガンが床を滑る。拳から血を滴らせた隼人は鼻血で顔面を汚した幸助を見下ろすとこみ上げて来た吐き気に膝を突いた。自分の拳が人を傷つけた事実に
動悸が止まらない隼人はショットガンを拾い上げた幸助の母親に目を見開き、銃口が向けてきたのに目を閉じた。
「隼人ッ!!」
誰かの叫びと同時、銃声が響き渡る。撃たれたのか、と言う思いを浮かばせた隼人は何の痛みも無い体に疑問を抱きながら目を開けると目の前にショットガンが落ちていた。バレルに刻まれた円形の歪な打刻を見た彼は慌ててそれを窓ガラスに向けて投げると
立ち上がって声がした方へ向いた。
「姉ちゃん・・・・」
「隼人、アンタ大丈夫?! 怪我とかは・・・?!」
「無いよ。それより、何したのさ今の一瞬」
「隆宏が狙撃したのよ、そこのご夫人が持ってたショットガンをね」
「そっか。宮坂さんありがとう」
そう言った隼人は自身の拳を手に取った姉に嫌気を感じて思わず手を引っ込めていた。その瞬間走った痛みに表情を歪めた彼は引っ込めようとした手を止めてしまい、その隙に無理矢理に掴まれた。
「隼人、帰りに病院行きなさい。多分、拳にヒビが入ってるわ」
「・・・分かった」
「大丈夫? 顔色悪いわよ?」
「大丈夫だって。心配しなくても、病院いくからさ」
「そ、じゃあ気をつけて帰りなさい。後は私達がやるから」
そう言った姉に頷いた隼人は交番から来たらしい警官が守っている玄関から外に出ると拳を振るう直前に言われた言葉を思い出していた。俺達が淘汰される、その根拠を見つけられずずっと歩いていた彼はこれまでの事を繋げ始めていた。
PKから端を発した今回の事件、奴が口にした計画と『楽園』と言う単語。それがもし全て繋がっているとすれば、自分達が解決に動いた今回の事件は始まりでしかないのではないか。そう考えた隼人は携帯を取り出し、探偵部のグループ通話に
パネルを設定するが通話パネルをタップするだけの勇気は無かった。
今まで自分のわがままに付き合ってくれていた彼らに負担を強いる訳にはいかない。そう思って画面を消し、病院へと向かっていった。
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翌日の放課後、探偵部の部室でお茶を飲んでいた隼人は、突然鳴った電話に驚き着メロから姉からの物だと判断して廊下に出て行き、電話に出た。
『もしもし隼人?』
「何だよ姉ちゃん、まだ学校だって」
『そんな事言ってる場合じゃないっての、アンタが昨日捕まえた子。あの子が妙な事話したのよ』
「妙な事? 何だよそれ」
『アンタが言ってたBOOでの目的よ。何でPKしたか分かったわ。混乱させるつもりだったみたいよ、まあただの愉快犯だったって訳ね』
ただの愉快犯。そう聴いた瞬間、隼人の脳裏に『楽園』と言う単語が過ぎる。あの時、アイツを追い詰めた自分へ嘲笑と共に放たれたそれが意味を持っていない筈が無くそしてそれを放った奴もただ単に混乱させようとした訳ではない筈だ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ姉ちゃん。そいつから『楽園』と言う単語について何か聞いていないか?」
『『楽園』? 聞いてないわね・・・って何か関係あるかしらそれ。聞く限りじゃなさそうだけど』
「え、あ・・・いや、聞いてないならそれで良いんだ。俺個人として気になっただけだから」
『ふぅん・・・まあこっちでも調べてみるわ。じゃ、そう言うことだから』
「ああ、ありがとう姉ちゃん」
何も聞いていない、その響きが隼人の足元を不安定にさせる。『楽園』という単語が一体何を意味するのか、それを知る事がこの事件の鍵を握る事になると判断した彼はちょうど良く来た秋穂と香美に気付き、彼女らの手に短冊状の紙が
握られているのにも気付いた。
まさか、と思った彼はその表情から考えを察した妹が恥ずかしそうに笑うのに苦笑交じりのため息を浮かべ、部室のドアを開けた。
「ほらよ、新入り。先輩達に挨拶しろよ」
そう言った彼は先の思考を保留し、今は新しい部員を迎える事を優先して遠慮しがちに入った妹達と共に半ば倉庫に近い探偵部の部室へと戻った。
さて、これにてブラストオフ・オンライン第一章は決着です。
感想・質問があればどんどんください。特にキャラクターのバランスやらは強過ぎないかどうか気になっているのでぜひ教えてください。
自分は個人の強さに頼る話は書きたくないので・・・そう言う部分は修正できる限り修正していきたいです。
さて、第二章からはゲーム内にて領地を奪い合う攻略グループ同士の大規模な戦闘が始まり、探偵部にも二名の新入部員が入ってケリュケイオンの戦力も増して取れる戦術も多くなっていきます。
ですが、戦いの場は何もゲームの中だけではありません。一体どんな展開があるのか次回をお楽しみに。