B.O.O.《ブラストオフ・オンライン》 作:Sence023
第二章から本格的に話が始まると言った感じです。
Blast5-1
Blast5『Love the life you live. Live the life you love.《自分の生きる人生を愛せ。自分の愛する人生を生きろ。》』
五月、新入部員として入った秋穂と香美は入部から二週間経過したこの日の放課後、二年生全員が集められた部室に召集されまるで公判を待つ被疑者の様な心持でパイプ椅子に座っていた。
緊張している彼女達二人の真正面、部長とマジックで書き殴られた名札を置いた机に同じ字体で副部長と書かれた名札を置いて座っている武は部長の肩書きを持つ隼人の隣で彼女達の表情を伺いつつ、
二人が夏輝より手渡されたお茶を飲んで一息ついたのを見ると隣にいる彼に合図を出した。
「よし。落ち着いたな、二人とも」
「ん、まあ・・・つうかそう言う風な空間作ったの兄ちゃんじゃん」
「ぐっ・・・うるさい。じゃあ、会議を始めるぞ」
「え、会議?」
「議題は『一年生のケリュケイオン加入』についてだ」
真面目な雰囲気を醸し出す隼人の切り出しを聞いた秋穂は香美と顔を見合わせて首を傾げた。聞き慣れないケリュケイオンと言う言葉は理解できないがそれに加入すると言う事から何かしらの組織なのだろうと
理解した秋穂は兄に質問した。
「兄ちゃん、いきなりで悪いんだけどさ。その、ケリュケイオンって何?」
「あ・・・えーっと・・・お前ら、BOOって知ってるか?」
「知ってるも何も、兄ちゃんがやってるゲームじゃん。それが何?」
「そのケリュケイオンって言うのはBOOで俺が作った探偵部のグループの名前でな。探偵部にいる以上、このグループに入ってもらおうと思ってな」
「つまる所、兄ちゃん等もやってるそのゲームをあたし等にもやってくれって事?」
半目の秋穂の返しに頷いた隼人は元々そう言ったゲームに興味関心があるらしくやる気を見せている香美の隣で唸り声を上げる彼女を見ながら半ば諦めていた。
秋穂は興味の薄い事にはとことん関心が無い。ゲームの類も五十嵐家がゲームとの縁が無い事もあってあまり関心を示してこなかったしBOO自体もネットでの購入が必要になるタイプのゲームだから敷居が高い。
「いいよ、やる」
諦めていた分、あっさりと承諾した事に驚いた隼人は香美と秋穂がゲームのプレイを承諾した事で話が進む事に安堵した。
「じゃあ、話を戻すぞ。ゲームをプレイするに当たって、お前ら二人にはケリュケイオンと言うグループに入ってもらう事になる。それで、加入に当たって三つほど制約がある」
「え、ゲームなのに何かあんの?」
「ある。と言うか守ってもらわなきゃ困る事だ。まず一つ目、BOOをしていることは話して良いがケリュケイオンに入っている事やケリュケイオンでやっている事については話さない事」
「何で?」
「訳は次の制約とまとめて話す。二つ目、ケリュケイオンとして動く際の行動について一切文句を言わないこと。理由は俺達がやる事はまず人に恨まれてもおかしくないような事だからだ」
真剣みを持った面持ちの隼人を他所に秋穂と香美の表情は呆れ模様だった。何故そこまでする必要があるのか、彼らがやっている事を知らない彼女達には凡そ考えつかなかった。
「それで、三つ目はなるべく平穏に過ごす事。他のプレイヤーに迷惑をかけないようにする事だ。これらを守ってもらう事になる」
そう言い切った隼人に疑問を浮かべた秋穂だったが周囲で見守っている面々が何も言わない事から先に言われた事柄の全てがここではおかしい事ではないと判断し、追求せず香美に質問を委ねた。
無言で質問権を譲られた香美だったが、興奮冷めやらぬ彼女は質問の一切をせずに隼人に続きを促した。二人がケリュケイオンの加入を承諾したと判断した隼人は全員を見回して理解を得ると肩の力を抜いて武を中心にしてBOOでのプレイについての話を始めた。
「じゃー、BOOについて説明すっかねー。二人ともウェブマネーとか扱った事ある?」
「通販に使った位で・・・」
「あー、じゃあBOOの購入方法について説明しようか、BOOはSNLサービスの回線を利用したVRMMORPGでゲーム自体はソフトをSNLストアのゲームカテゴリで購入すれば良い様になってる。月額制じゃないから安心して大丈夫だ」
「なるほど・・・それで購入して起動させるにはどうすれば良いのですか?」
「購入はMRデバイスのディスプレイモードでもできるがVRゲームだから起動にはダイブモードにする必要がある。さて、ここからはゲームをプレイするまでだ。起動したら種族選択とそれに合わせたアバター生成があるからそれが終わったら今度はクラス選択だ。ここまでで質問は?」
そう問うた武に目を白黒させる二人は起動の手順が分かってもゲームの知識、先に言われた種族とクラスについてあまり理解できていない様子だった。その様子を見ていた利也が苦笑交じりに手を上げた。
「武君、二人ともBOOの事に疎いんだから説明してあげなよ」
「んー、そうするか? ここら辺公式サイト見れば分かるんだけどなぁ」
「僕ら経験者なんだから教えてあげても良いと思うよ?」
「じゃあ、そうするか・・・で、どこから言えば良い?」
「先に出したんだから種族の事について教えてあげれば?」
秋穂達を見ながらの利也の助言に頷いた武は小型のプロジェクターとラップトップを持ってくると兼ねてより作成していた資料を表示させ、BOOにおいて存在している種族の表をファイルから出した。
「じゃー説明するぞ」
「はーい。と言うかタケ兄、こんなもの作れるんだ・・・」
「作れるんだ、って俺探偵部関連のデジタル書類ほとんど作ってんだけど」
「いやいや、そう言う事利兄のイメージしかないからさ」
「ぐぬぬ・・・話戻すぞ!」
悔しそうな表情から一変しようとする武を小馬鹿にしている秋穂はいまいちノリに付いて行けない香美の呆け顔に気付いて佇まいを直し、彼の説明を聞き始めた。
「じゃあ種族の説明な。BOOには七つの種族がある、人間、エルフ、リザード、堕天使、人狼、半猫、半狐。それぞれに伸び易いパラメーター、伸び難いパラメーターが設定されていて一度決めると基本的に変更する事は出来ない。
それらは当然得意となる攻撃にも影響してくるし、どんな事が出来るかにも大きく影響してしまう」
「ほー、つまりBOOは最初の種族選びが一番大事なの?」
「そうだな、本気でやる奴はそう言う傾向が強いがお気楽な奴は種族の外見で決めちまうもんだ。可愛いやカッコいいで決めて、クラスや腕でそれを補う。ここで言うと隼人や恋歌がそうだぜ」
「え、兄ちゃんと恋姐が?」
「そうだ、こいつ等は俺らがステータスとかあるから慎重になって言ったのに外見で決めやがった。けど、その後自分が持っている技能で全部カバーして今じゃトッププレイヤーの一人だぜ? まあ、そう言うケースもあるから、選び方は千差万別ってとこだな。お前らの好きに決めれば良い」
やたらと饒舌な武の言葉にニヤニヤと笑っている秋穂は送信されてきた各種族の外見サンプルを見ながら、自分がプレイする上での分身を考えていた。
因みに性別選択に付いてはVRゲームが発達する様になって以来、いわゆるネカマの精神的影響が危惧された為に性別は脳波解析で自動選別される様になっている。
そう言った閑話はさて置き、ステータスなどそっちのけで種族選択を外見で決める事にした秋穂に対して気に入った種族のステータスにある程度着目している香美は苦笑している武に手を上げて質問した。
「副部長、堕天使と言う種族はどんな事が得意なんですか?」
「ん? えっとな、主に銃撃戦や情報戦だな。堕天使は命中率高いだろ? 命中率のパラメーターは主に銃と有効視認距離に影響するから遠距離や偵察で活躍するタイプだ。まあ、偵察自体が珍しいんだけどな」
「銃撃戦と情報戦、ですか。何か楽しそう」
「・・・えっと、香美ちゃんだっけ。地味なの好きか?」
「地味な事と言うより、そう言う裏方仕事に興味があるので・・・」
そう言う香美に感心した様な頷きを送る武は先を促す隼人に不満そうな表情を見せながらも今度は初期クラスに付いての大まかな説明を始めた。
「んで、種族を決めたら今度はクラスを選択する事になる」
「クラスって?」
「まあ簡単に言ったら自分が作ったキャラクターで出来る事だ。剣を振る、銃を撃つ、魔法を放ったりして敵と戦う事や物を作ったり領地の管理などの政治もその気になれば行える。でも、俺らは戦闘が中心だからな。
ドンパチできるクラスの方が楽だぜ?」
「つまり、戦闘クラスが良いと・・・。うーん・・・どれが良いかなぁ」
「さっき言ってた索敵をするんならフィールドワーカーがおすすめだけど射撃出来るか?」
そう問いかけた武に小首を傾げた香美は返答にため息を返した彼を他所に隣でバードのクラスに注目している秋穂に目を向けた。現役ダンサーの彼女にとって踊りは大事な物なのだろう。
秋穂にそのクラスにするのかどうかを聞こうとして下校時刻のチャイムが鳴った。興味が尽きない香美は今日BOOのインストールとキャラメイクをすることを探偵部員に伝え、秋穂にはやるかどうかを問いかけた。
「んー、お金ないんだよねぇ」
「そっかー・・・」
「ん? 何、兄ちゃん」
帰り支度を済ませた秋穂の隣に歩み寄った隼人は小首を傾げる香美を他所に無言で秋穂の手に封筒を持たせるとそのまま自分の鞄の方に移動して行った。心配する香美を他所に封筒を開けた秋穂はちょうどBOOのソフトウェアが買えるだけのウェブマネーカードに気付いてクスクス笑っていた。
「秋ちゃんのお兄さんって変わってるねぇ」
「えへへー。でも自慢の兄ちゃんだよ、優しいし。恥ずかしがり屋のツンデレだけど」
「そ、そうなんだ。良いお兄さんだね・・・」
ツンデレって変わった人だなぁ、と思った香美は嬉しそうな秋穂の向こう帰り支度をしている隼人が武や楓からからかいを受けて恥ずかしそうにしているのを見て秋穂の元を本当だと信じた。